コードギアス 白蛇は勘違い   作:砂岩改(やや復活)

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血染めの式典

「やめるんだ、ユフィぃぃぃ!」

 

 ユーフェミアを追って外に出たルルーシュ。だがその目に映ったのは血まみれの親友、薫の無惨な姿。

 

「薫!」

 

「お前はあの女をなんとかしろ!こっちはやっておく!」

 

「あ…う……あぁ!」

 

 手早く薫の処置をしていたC.Cを見たルルーシュはぎこちなくだが会場に向けて走る。ルルーシュ用の為に持ってきた応急キットが役に立つとは。

 

「脳には達していないようだな…だが目が…」

 

 薫が銃弾を受けたのは右目。威力の弱いニードルガンのお陰で弾は目で止まっているが…。

 

「止血は終わったか」

 

「おい、まだ動くな!」

 

「そんなこと言ってる場合か!」

 

 意識を失ったのはほんの数分、だが状況は理解していた。かなりヤバイ状況だって事ぐらい。

 

「一人でも多く…くっ!」

 

「血が!」

 

 止血した右目から血が染み出てくるがそんなことを気にしている場合ではない。

 

「俺は中に行く。早くルルーシュを拾って撤退するんだろう!?」

 

 視界が片目だけなのはキツいが中に入れば右目の事などどうでもよくなる光景が広がっていた。

 

「嘘だろ…」

 

 死屍累々、阿鼻叫喚。日本人の死体と血まみれになった会場に呆然とする。

 

「えーん!」

 

「赤ん坊まで!」

 

 赤ちゃんを守るように覆い被さった両親らしき遺体。まだ小さな血まみれの赤ん坊を抱えると握っていた銃を握りしめる。

 

「なんで…なんで……なんでこんな事ができるんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ーー

 

「かお…白蛇。来ておったのか!」

 

「桐原公!すいませんが…」

 

「うむ、まさかこれまでするとはな…」

 

 片眼でありながらブリタニア軍の歩兵を数人始末していると自然と生き残りが集まってくる。来てくれたのは桐原を含めて10人ほどのか弱い一般市民たちだ。桐原に赤ん坊を預けてライフルを手に取る。

 

「お主、目が……」

 

「あのお飾りにやられたんですよ。完全に油断していた」

 

 部屋の鍵を壊して部屋の中に入る。窓もない倉庫、ここなら見つからなければなんとかなるはずだ。

 

「大丈夫ですか?」

 

「大丈夫ですよ。ちょっと意識が飛びそうですが…」

 

「ここに医療道具がありました!」

 

「よし、薫。横になれ」

 

「え?」

 

 外を警戒していると桐原と数人の大人たちがやって来る。

 

「面を見せよ」

 

「うっ…」

 

 C.Cに絞めてもらった包帯を改めて縛られる。現在はアドレナリンのおかげで意識を保っているが一瞬でも気を抜けばあっという間にブラックアウトするだろう。

 

「ありがとうございます。もうすぐ、黒の騎士団が来ます。それまで持ちこたえてください。俺はまだやることが…」

 

 赤ん坊だけはこちらで引き取る。この子だけはほっておけなかったのだ。

 

「気を付けよ」

 

「ありがとうございます。桐原公…」

 

 桐原に見送られ、薫は外に出るのだった。

 

ーー

 

「私は救世主じゃ…メシアなんかじゃないんだ…俺に背負いこめと…」

 

「ルルーシュ、お前!」

 

「薫……」

 

 すがり付く老婆の遺体の前に呆然とするルルーシュを捕まえて胸ぐらをつかむ。こんな惨状を作り上げたのは間違いなくルルーシュだ。その怒りを薫は抑えれなかった。

 

「なんて事を…なんて事をしたんだお前は!」

 

「違うんだ…俺はこんなこと望んで…」

 

「ふざけるな!お前…の……」

 

「薫!」

 

 血を出しすぎて再び、気を失う薫。それを慌てて支えると彼女の腕の中に赤ん坊がいるのが見えた。それを見てルルーシュは逃げたい衝動に駆られるが薫を抱き抱えてガウェインの所へと向かうのだった。

 

ーーーー

 

「あ、うぅ…」

 

「薫!」

 

「くそ、気絶しておきたいが目が痛くて覚めちまう」

 

「安心しろ。もうガウェインの中だ」

 

 ルルーシュの膝の上で眠っていた薫は残った左目でガウェインのモニターを見つめる。すると黒の騎士団のナイトメアが式典会場に突入しブリタニア軍を蹂躙しているさまが見られた。

 

「よくも白蛇さまを!」

 

 白蛇の負傷を知った特務隊は怒りのまま進撃。ジェシカも無頼改を操ってすれ違いざまにサザーランドを切断する。

 

「絶対に許さない!」

 

「こいつらぁ!」

 

 伊丹もライも次々とブリタニア機を破壊していく。

 

「すまん、もう少し寝る…」

 

「あぁ、ゆっくり眠れ…」

 

ーーーー

 

 次に薫が目覚めたのは用意された医務室のベッドであった。

 

「白蛇さま…よくぞご無事で…」

 

「白蛇!」

 

「白蛇さまぁ!」

 

 医療班の必死の処置のお陰で右目から銃弾を摘出。完全に止血を終えて安静状態まで落ち着いたのだった。

 ジェシカやライたちは涙を浮かべて薫の生還を喜んだが、同時に怒りを露にする。

 

「右目は駄目です。もう、使い物にならないと…」

 

「そうか…」

 

「銃弾は脳には達していないから障害とかは大丈夫らしいけど」

 

 白蛇グループの主要なメンバーが一同に会して彼女を心配している。それを見て、薫は少し嬉しくなると上体を上げてみんなを見つめる。

 

「俺の事は気にするな。状況は?」

 

「ゼロが合衆国日本を立ち上げてトウキョウに向けての奪還作戦が始動。日本中が決起し現在、我々も出撃準備に入っています。白蛇さまはこのままG-1にて安静に…」

 

「俺の白夜叉は?」

 

「いけませんよ!白蛇さま!」

 

 出撃しようとする薫を必死に止める伊丹。すると薫は違和感に気づく。そういえば、仮面がない。

 

「俺の仮面は?」

 

「申し訳ありません。治療のために外させていただきました、半分ほど砕けてしまいましたが」

 

 ジェシカから差し出されたのは左側だけ残った仮面。顔の右側は包帯に覆われ、実に無惨な姿だが仕方がない。

 

「ジェシカ、キツく絞めろ。緩まないようにな」

 

「しかし…」

 

「ここで戦わずして、いつ戦うか!」

 

「っ!……はい!」

 

 薫の怒号にジェシカは少し怯えながらも薫の包帯を絞め直す。するとバレットが赤ん坊を抱えてやって来る。

 

「白蛇さまが助けた赤ん坊です。恐らく、二、三ヶ月あたりかと」

 

「よーし、いい子だなおめぇは。白蛇さまだぞぉ」

 

「あーう!」

 

 機嫌がなおったようで笑みを見せる赤ん坊。それを見て薫は涙が溢れる。

 

「白蛇さま…」

 

「良かった。この子だけでも助けられて…」

 

 改めて受けとると小さな、とても小さな命だ。こんなに暖かいものだとは思わなかった。

 

「はい、白蛇さまがお救いした命です…」

 

「マニィ、この子を頼む」

 

「承知しました」

 

 助けた赤ん坊を侍女に預け、改めて決心する。

 

「ブリタニアを倒す、それしか俺たちには道がない。勝つぞ、この戦いを!」

 

「「「承知!!」」」

 

ーーーー

 

「白蛇!」

 

「カレンか…」

 

「やっぱり、その傷…」

 

 白夜叉の出撃準備を進めているとカレンが心配そうに駆けつけてくる。白蛇が右目をユーフェミアに撃ち抜かれたことは黒の騎士団内部ですでに共有されている事実であった。

 

「でも驚いたわ。貴方が薫だったなんて…」

 

「…見たのか?」

 

「見るつもりは無かったわ。でも見ちゃった…」

 

 薫の素顔はかなりの人数に知れ渡っていた。日本人らしい顔立ちの少女が血まみれで運ばれていく様子は見ているだけで心を痛めただろう。

 

「貴方が素顔を隠している理由が分かったしね」

 

「悪かった。騙すような事をしてしまって…」

 

「いいのよ。生徒会のメンバーには迷惑かけたくなかったんでしょ?」

 

「あぁ…」

 

「でも私にぐらい教えてくれても良いんじゃなかったのぉ?」

 

「そうだな。すまない」

 

「ま、これから改めてよろしくね」

 

「あぁ」

 

 カレンと改めて握手を交わすと薫はゼロの居場所を聞くのだった。

 

ーー

 

「薫…」

 

「ルルーシュ、説明しろ。あの惨状のな…」

 

 ゼロを見つけた薫は個室に連れ込むとあらためてあの事件の事を問いただす。いったい何がどうなればあんなことになるのか。ルルーシュは仮面を外す気配がなく、被り続けている。

 

「ちょっとした冗談だったんだ」

 

「……」

 

「……ギアスが、暴走して」

 

 なるほど、だからルルーシュは仮面を脱がないのか。

 

「日本人をみなごろしにしろと?」

 

「あぁ…」

 

「なんで…こんなタイミングで…」

 

 マオとか言う変態ストーカーのザマを見ればわかる。ギアスは暴走してしまうものなのだと。

 

「すまない、全部。俺のせいなんだ!」

 

「そうだな、お前のせいだ。だが全部じゃない…」

 

「え…おい!」

 

 ルルーシュの仮面を外して向き合う。俺にはギアスは効かないからだ。

 

「きっかけはルルーシュが作った。だが実行したのはブリタニア軍だ。ユーフェミアは皇帝なんかじゃない。お飾りなんて言われてた女だぞ。ユーフェミアに絶対の権限があったわけじゃないんだよ」

 

 あの場にいたブリタニア軍は日本人を人として見てなかったのだ。だからあんなことが平然とできる。ユーフェミアがギアスにかからなくてもいつかはやって来たかもしれない未来なのだ。

 

「俺の事は気にするなよ。お互いに片眼を失った…これでおあいこだ」

 

「あぁ、俺はお前の右目になる。だからお前は俺の左目になってくれ」

 

「……そう言うのは他の女に言うなよ。俺でなかったら惚れてたぞ」

 

「ん?」

 

「無自覚か…たち悪いな……」

 

 薫は静かに笑うと残った左目で彼を見る。

 

「日本を取り戻すぞ」

 

「あぁ!」

 

 こうして後の世の《ブラックリベリオン》が幕を開けるのだった。

 

 


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