「これだけか…」
「はい、我々が回収できたのはこれだけです」
無事に千葉の埠頭から空のタンカーを買い取り、脱出した薫たちは船内にて一息ついていた仲間たちを見る。その中にライやカレンの姿はなく気落ちする。
「ツァーリが元々、ヨーロッパ行きのタンカーを買い取りましたので予定航路を辿っています。臨検されることはないでしょう」
「よくやってくれた」
「向こうの言い値で買ったのでプールしておいた資金の5分の1を使ってしまいました。申し訳ありません」
「気にするな、これだけの人数を逃がせたんだ。むしろ幸運と言えるだろう」
回収されたナイトメアは合計10機とかなりの数だ。しかしほとんどの機体は損傷し、白夜叉に至っては中破状態だ。
「医療機器や薬品などは可能な限り回収かいたしましたが。残念ながら武装などは満足にありません。まともに戦闘が出来るのは一度でしょう」
「あの状況でこれだけの手際。流石は白蛇の部下たちだ」
「桐原公…」
タンカーには桐原も乗り込んでおり、命を長らえていた。キョウトとは連絡が取れないのを見るとキョウトは陥落したと見ていいだろう。
「ジェシカ、これからの予定だけどよ。パナマを通って約1ヶ月ってところか」
「ご苦労、バレット。しかしユーロピアがこちらを受け入れてくれるのか?」
「それは私たちに任せなさい」
自信満々に言ったのはクリミア。そういえば、彼女はスマイラス将軍直下の開発部隊所属だったはずだ。
「交渉ごとはワシに任せろ。せっかく拾った命だ」
それと桐原公、二人が居れば問題ないだろう。それにすぐ着くわけでもない。
「ま、俺は安静だからゆっくりさせてもらうか」
ーー
「おぇ…」
ナイトオブラウンズに用の施設、その洗面所でシュンは胃の内容物を吐き散らかしていた。
「……分かっていたんだ。でもどうしようもないじゃないか」
あの惨劇を知ってもなにもしないと言う選択を選んだ少年。シュン・ヴィヨネット否、剣崎駿は鏡に映る自分を睨み付ける。
「誰も止められなかったんだ…仕方のない事だった……」
ユーフェミアの行政特区日本構想の失敗。それは彼には分かっていた。佐脇薫と同じ転生者である駿には。だがどうやって止める?
ジェレミアのようなギアスキャンセラーを望むのは博打すぎる。ギアスはその人の真の欲望を形にする力。仮に与えて貰ったとしてもどんな力が発現するか分からない。
ギアスはギアスでしか止められない、それが彼の結論だった。その原因であるゼロを殺すのも論外だ。彼がいなくなれば合衆国日本は成立しない。
「無力なんだよな…」
一介のブリタニア人として生まれた彼には必死に成り上がることしか出来なかったのだ。ナイトオブラウンズという特権を手にしても彼には何も出来なかったのである。
「シュン、大丈夫なの?」
「問題ない、メンタルの問題だ…何用だ?」
姿を表したのは金髪の美しい女性、モニカ。
「皇帝陛下からの視察命よ。私と二人で」
「どこ?」
「ユーロブリタニア…」
ユーロブリタニア。皇族の管理下にない上にナイトオブラウンズと同格の実力を誇る四大騎士団に加え、単純な軍事力の面でも本国に匹敵している。あそこはブリタニアというくくりなのだが向こうはそれをよしと思っていない。つまりブリタニアが最も警戒している国と言える。
「ユーロの貴族たちに俺たちと戦争する度胸はないと思うがな」
「それを知るために行くんでしょ?」
「分かった。いつだ?」
「二ヶ月後よ」
「分かったよ」
ーー
日本某所。そこには逃げ遅れた黒の騎士団メンバーたちが命からがら逃げ出し、潜んでいた。
「紅蓮の右腕は月下の輻射波動を移すとして…いいのかライ?」
「えぇ、僕は刀だけでもやれますけど。流石に紅蓮に輻射波動なしは…」
「そうだな…後はアイツが立ち直れば…」
「そうですね」
日本潜伏班の指揮を執っているのは卜部とライ。本当はカレンも加わる予定なのだが。彼女はゼロを捜索した後、すっかり塞ぎ込んでしまいろくに話も聞けない状況であった。
「ゼロ……ルルー……」
ーー
ブラックリベリオンから数日後。ユーロピア連合、EU軍の将軍。スマイラスは一人の少女を呼び出していた。
「お呼びでしょうか。スマイラス将軍」
「わざわざ来てもらってすまないね。レイラ、実は一つ頼みたいことがあってね」
「はい?」
ーーーー
これはゼロを失った激動の一年間を見つめる物語。
「ほう、赤い月下とマスクをしたランスロットとはな…」
「白いナイトメア…」
「………」
亡国のアキト、双璧のオズ。二つの物語に蛇が姿を表す。
「では契約といこう、我々はこれで共犯関係」
「契約を果たせば…貴様の望むものを与えよう」
「結ぼう、その契約を!」