「レイラ・ブライスガウが死んだ…」
ユーロピア臨時政府の代表。スマイラスの放ったこの言葉はユーロピアを震撼させた。
「レイラ・ブライスガウの居た。ヴァイスボルフ城基地がユーロ・ブリタニアの奇襲を受けて全滅したことが確認された。ヴァイスボルフ城はユーロ・ブリタニアとの国境から1000㎞離れた場所に存在したが敵は国境線を越えて襲ってきた。私はレイラ・ブライスガウの意思を引き継ぐ」
「どうだ?」
「ありました。足跡くっきり!」
突然の放送を聞きながら作業を進めている薫はいつの間にか白蛇の格好に戻っていた。
「ユーロ・ブリタニアって言ってもまだまだですね。これならディートハルトさんの方が優秀ですよ」
「ディートハルトは優秀だからな。なに考えてるか分からんけど」
「全ての放送は無理ですけど半分以上はジャックできます!」
「よし、なら蜂の巣をつついてみるか。バレット、弥生…準備は良いか?」
「大丈夫ですよ!」
「はい…」
行政府に潜入したバレットと弥生に連絡を取るとやや緊張した面持ちで後ろを振り返る。
「君たちは安心しろ。我々が占拠したのだ、いくらでも言い訳は効く」
「は、はい。しかし本当に何をされるのですか?」
「ちょっと真実をね…」
薫たちが占拠したのはユーロピアのテレビ局。そこからユーロ・ブリタニアが使ったハッキングラインを見つけ出して再利用するためだった。
「エスト、任せたよ」
「了解です!まさか徴用した日本人をもう使うなんて思いませんでしたよ」
「悪い、世話をかける」
「いえ!」
テレビ局を占領しているのは日本人の隔離地区から引っ張ってきた雑兵ばかり。ヴァイスボルフの戦力を動かせない故の判断だったがなんとかなったようだ。
「よし、テレビ局の諸君。君たちはユーロピアの英雄になるかも知れないぞ?」
「え?」
「回線繋げろ。各班、抜かるなよ」
ーーーー
「ユーロピアはスマイラス将軍の軍事政権が完全に掌握したそうです。スマイラス将軍はアンタをブリタニアに売ったんだよ」
「証拠があるんですか?」
「俺がここの情報をブリタニアに売った。将軍が本当に司令のことを考えていたんなら俺みたいなのを副司令にしないでしょうよ」
ヴァイスボルフ城では完全に籠城状態となり。身動きの取れない所でのスマイラスの裏切り。そして副司令のクラウスはスパイ行為を自白した。それでやっと確信したレイラは口を紡ぐ。
「お嬢さんの医療費の為ですね。全て、聞いていましたよ。スマイラス将軍の動きは薫の部下が襲われた時点で疑っていました。」
「そこまで知っててあんな演説をしたっていうのか!」
「えぇ、どちらにせよ。ユーロピアの混乱は納めなければなりませんでした」
「利用されるのを分かって演説までして俺を泳がしていたのかよ…」
薫はレイラにできる限りの情報を与えていた。クラウスの事もスマイラスの事も全て…。それを知っていた上でレイラはユーロピアの混乱を抑えるために言葉を放ったのだ。
「この城も秘密兵器も全部渡しちまいな。それがユーロ・ブリタニアの望みだ。」
「超長距離輸送機をユーロ・ブリタニアが手にすれば世界が戦火に包まれてしまいます」
「アンタがそんなに頑張っても変わらないよ。世界はそんなに優しくない」
すでに世界中は戦火の火の海だ。超長距離輸送機が加わったぐらいでは大した差にはならないだろう。だがレイラはそれを許せるほど大人ではなかった。
「私は戦う、自由のために!」
「あぁやって焚き付ける奴は絶対に死なない。足元に屍を築き高き所の果実を掴み取る。確かに白蛇隊は強い、上手く使えば勝つ見込みもある。だがアイツらを上手く使える指揮官はここにはいない…」
白蛇隊はあくまでも白蛇の部下だ。この城だけに命を賭けてくれるなんて思えない。彼女たちはあくまでも日本解放が目的なのだから。
「市民たちよ立ち上がれ!ブライスガウの護ろうとした明日のために戦え!」
「将軍はユーロピアの皇帝になろうとしてるんだよ。アンタは利用されたんだ…」
「……」
クラウスの言葉に思わず涙を流すレイラ。
「泣くなレイラ…君に涙は似合わない…」
「え?」
すると突然。見ていたテレビ画面が切り替わると仮面の女性が姿を表す。それはユーロピア全土においても同じであり、テレビを見ていた者たちは戸惑う。
「ユーロピアの諸君、お初にお目にかかる。俺は白蛇…真実をもたらす者である!」
「薫…」
「我々の英雄《レイラ・ブライスガウ》は生きている!」
白蛇の言葉に思わずざわめく観衆。信用できないと言う声も上がるが本当なのかと信じたいと叫ぶ者たちもいた。
「現在、彼女はヴァイスボルフ城基地にてユーロ・ブリタニアと交戦。籠城戦にて必死の抵抗を見せている。だがスマイラスはこの事を隠そうとした。なぜか?それはスマイラスは彼女をジャンヌ・ダルクに仕立てようとしたからだ!」
「どこからの通信だ!どうなっている!」
「申し訳ありません、現在逆探知で追っています!」
「くそっ!」
白蛇の演説に慌てるスマイラス。行政府は混乱しており彼は白蛇の演説を睨み付けることしかできない。
「救国の英雄を見捨て実権を握る。それがスマイラスの目的だ!騙されるな諸君、彼はブラドー・フォン・ブライスガウとクラウディア・ブライスガウ暗殺の首謀者だ!」
「なっ!」
その内容に思わずレイラは言葉を失う。自身の両親を奪ったのがスマイラスだったとは思いもしなかった。
「騙されてはならない!確かに歴史とは英雄から始まるものだ。だがそれを紡ぎ、築き上げてきたのは我々のような民である!周囲との調和、共和。個ではなく郡としての力、歴史を積み上げてきたのは英雄ではない!英雄だけでは時代は作れない!踊らされるな!」
あくまでも立派に話を進める白蛇の姿は多少なりともユーロピアの民に刺さる。それにわずかでも疑念が生まれれば独裁国家は誕生しない。
「為政者たちの言葉に騙され、踊らされてはならない!真の悪人はお前たちの目の前にいるのだ!スマイラスを許すな!」
スマイラスの演説の時とは違い。静まり返る場、だがそれでいい。これでスマイラスの計画は潰れる。
「くそっ!奴等を見つけ出して始末しろ!」
「スマイラス将軍!」
「なんだ!」
「それが…」
「ジーン・スマイラス。監察官のバレットだ、40人委員会がお前を指名でお呼びだ。来てもらおう」
特務の制服を羽織った軍団がスマイラスを取り囲む。先頭に立つ若い女性特務を睨み付けるが押さえ付けられ身動きが取れない。
「くっ…もう人質の必要はない!」
「はっ!」
スマイラスはそう叫ぶと特務に連行されていく。それと同時に彼の副官がその場から立ち去るのだった。
ーーーー
「了解、では始末する…」
スマイラスの邸宅。豪邸の中の警備室にいた将校はヴァイスボルフ城襲撃の指揮官だった男だった。彼はその知らせを受けると部下に命じて人質である純白の抹殺に向かわせる。
「純白!」
「あぅ!」
それと同時に薫もスマイラスの豪邸の中にいた純白の所まで辿り着いていた。薫の姿を見つけた純白は嬉しそうに声をあげると彼女も純白をしっかりと抱き締める。
「もう安心だからな!」
「きさっ!」
抱き締めていると後ろからスマイラスの私兵が現れる…が影に潜んでいた弥生が喉を切り裂き絶命させる。
「て、敵…」
「おっと!」
その後ろにいた私兵は零子が拳銃で黙らせると一息つく。
「おい、まだ純白にヘッドホンつけてないから気を付けろ」
「あ、すいません!」
「よしよし、ちょっとこれで音楽聞いててねぇ」
ここから先は銃撃戦になる。耳栓がわりにヘッドホンを着けると音量を最大にする。
「大丈夫?」
「あう!」
大丈夫そうなのでそのまま脱出する。
「三人、別れて行こう。一気に殺到されると動けなくなる」
「「分かりました」」
「では無事でな」
豪邸の中でもルートは大きく分けて三つのルートがあるそこに一人ずつ対処していかねば要所を固められて動けなくなってしまう。三人はそれぞれのルートを突き進むのだった。
ーー
左手に取手のついたチャイルドシートにしっかりと純白を乗せると拳銃を右手に進む薫。ある程度進むと慌ただしく足音が聞こえ始める。確実にこっちに詰めてきていた。
「行くぞ。純白…」
ドアが開け放たれた瞬間。拳銃のストックで相手のでこを何度も殴り倒すとすぐ後ろに居た兵を拘束して盾にしながら物陰に隠れる。すでに二人は痛みで動けなくなった。更に後ろに居た兵たちに牽制射を浴びせると向こうも慌てて隠れる。
「大丈夫?」
「あう?」
「よし」
うずくまる二人に止めを刺すとさらに二人が詰めてくる。薄い壁越しに銃撃を浴びせるとそのまま飛び出して相手の顎に蹴りを入れると窓を破壊しながら兵が落ちていく。
「ここ四階だぞ…」
向こうもしっかりと防弾装備を整えてきているのでなかなか倒せない。広い食堂にたどり着くと高そうな椅子を蹴り飛ばし一人を椅子の足を使って動けなくさせると出口からくる兵に撃ちまくる。
「弾切れ!?」
「今だ、行け!!」
一気に来る兵たち、すると腰に吊るしてあるリボルバーを抜くと純白を机の下に隠すと撃ちまくる。リボルバーには弾芯の鉄を使ったフルメタルジャケット弾を装填してあるのでその弾丸は防弾装備を貫く。
「がぁ!!」
どちらも弾切れを起こすとリボルバーをしまい。拳銃の銃身を持つとそれを使って殴り合う。灰皿や皿などを使って襲ってきた敵を黙らせる。
「はぁ…なんとか…」
正直、クタクタな薫は静かになった食堂を見渡すとゆっくりと机の下からチャイルドシートを取り出す。
「しねぇぇぇ!」
「っ!?」
拳銃の弾を装填した瞬間、背後から奇襲を受けて銃撃を浴びる薫。純白を守るために身を挺して背中に無数の弾丸を受ける。コートが防弾仕様とはいえ着弾の衝撃により激痛が背中に走る。12発の弾丸を耐えしのぐと敵の足に2発撃ちこみ、黙らせる。
「なんでお前たちは平気で子供に銃口を向けられるんだ…」
「ぐ、ぐぅ…」
ブリタニアもユーロピアも変わらない。
「人間のクズめ…」
そうすると薫は純白から見えない位置でその兵士を殴り殺すのだった。
ーー
「くそ、たった三人に制圧されるとは!」
「無様だな」
「お前は!」
警備室から慌てて逃げ出そうとする青年将校の前に現れたのは零子。彼女は青年将校に撃たれた借りを返しに来たのだった。
「死んだh……」
「いい顔だが性格はいまいちだな」
青年将校の脳天をぶち抜いた零子は静かにつぶやくとその場を後にするのだった。
「残念だが時間がない。すぐにヴァイスボルフ城に飛ぶぞ」
「「了解!」」