カオル・ヴィヨネットこと佐脇薫は不思議な人物だ。数年ぶりの再会を経てルルーシュがたどり着いた答えがそれだった。
現在彼は薫のことについて三ヶ月で得たデータを頭でまとめ、これからの彼女に対する態度を考えていた。
想像を絶する過去を歩んできた彼女はやはり、どこかしら臆病で警戒心が強い印象を受ける。そうやって生きなければならない世界を歩んできたのだから当然だろう。
(…やはり似ているな)
無性に感じる親近感は他人を考えずに心から信用ならないと言う警戒心を持っているからだろう、自分と同じだ。
そして彼女もまたたゆまぬ努力で研鑽を重ねてきたと言うのも知った。
気まぐれで誘ったチェス、彼女はお世辞抜きに強かった。シュナイゼル程ではないがチェスではいつもヒヤリとさせられる。なんとかこちらは凌いでいるがいつやられるか分かったもんじゃない。
特にクイーンの使い方が絶妙だ、いつの間にかクイーンの配置に追い込まれてしまう。
(あいつは現状に満足しているとは思えないな)
アイツは最近、いろんな場所に足を伸ばしている。特に名誉ブリタニア人との交流が激しい。振る舞いの割には行動が大胆で一種の不安定さを感じさせる。
性格は相変わらず温厚な性格で生徒会との交流にも特に目立った物はない。反ブリタニア思想はあるはずだがそれを一切表に出さないのを見る限り、こちらに対しても完全に心を開いていないことが分かる。
(この6年と言う隙間はかなり広いな。ナナリーのお陰で笑ってはいるが基本的に能面のような顔だからな)
彼女と出会い、共に行動したのはスザクと比べてもかなり少ない。出会い自体が事故のようなものだったしなんとも言えない。危険人物ではないのは確かだが彼女は不安定に見える、こちらが見ていなければな。
まるで妹が二人出来たような感覚。もちろんナナリーの方が断然に大切だが気を配る程度のことはしてやろうと思うルルーシュだった。
ーー
カオル・ヴィヨネット。彼女はカレン・シュタットフェルトこと紅月カレンから見た第一印象はいけすかない奴だった。
彼女を見たのは扇さんたちから勧められてはいったアッシュフォード学園の入学式。自分より一回り身長の大きい彼女はその容姿を含めて注目されていた。それを知らないふりして偉そうにしていると言うのが彼女の印象だった。
「え、嘘。なんでこんなところに?」
それ以降、アッシュフォードには通学していないカレンにとってはもう会わないであろう人物であったのだが三ヶ月後、シンジュクゲットーでその姿を見かけた。サングラスとか色々としているが雰囲気が彼女だ。恐らく、間違いない。
ブリタニアの学生が面白半分でゲットーに来ては冷やかしに来るがその類いだろうか。だが彼女は何も言わず、微動だにせずゲットーを見つめる。その姿はまるで過去を懐かしんでいるようだった。
そう思った瞬間。カレンは動く、勝手に体が動いたと言ってもいい。
「ちょっとアンタ」
「はい!」
背後に回ったのは警戒していたから。だがあとから考えればこの行為事態がうかつではあった。ナイフを取り出して脅してみると強烈な殺気に襲われる。それに反応したカレンは勢いよく後方に飛び退く。
「俺の後ろに音もたてずに立つようなまねをするな…」
「っ!」
濃い殺気と低い声。およそ想像していなかった反応に思わず逃げてしまった。
「カレン…」
「貴方、やっぱりあの時クラスに居た」
やはり彼女はカオル・ヴィヨネット。彼女はあくまでも冷静にこちらを見つめる。
「どういうこと、まさか貴方も私と同じ…」
全力で頷く。先程の懐かしむような様子を考えてもしやと思ったがやはりそうだった。彼女も日本とブリタニアのハーフなのだ。
「そうだったんだ!いきなり見つかって動揺しちゃって…」
日本とブリタニアのハーフ。自らの出自を明かせばそのどちらからも距離をおかれバカにされる。そんな境遇の同士がいたことにカレンは心から喜んだ。
「そうだ、どうせならどこかで話さない?同じ境遇の人なんて中々会えないから」
この格好だと不味い。すぐに着替えると言ってアジトに戻ろう、すぐにあるのが制服だけであったがそれでも構わない彼女を待たせないようにすぐに向かわなければ。
「ちょっと待っててすぐ着替えてくるから」
素早く着替えを済ませるとそこには待ってくれていたカオルの姿があった。
「おまたせ、じゃあ。いきましょうか」
「あぁ…」
ーー
学園の淑女モードは疲れるが見た目だけ。話し方もすべて素で話している。日本からもブリタニアからも鼻つまみものとして扱われてきた私たちは私たちにしか分からない思いがあるのだ。
「やっぱりゲットーの風景は懐かしい?」
「そうだな、あそこに住んでいたのはよく覚えてる…」
思いの他、彼女は男口調。今思い出したが彼女は学校でも男子制服を着ていた。普通ならそんなことをしない、彼女も触れられたくない過去があるのだろう。
「貴方はどこに住んでたの?」
「山梨…」
「へぇ、富士山のある県よね」
「そうだな、俺も富士山を見ながら育ったから」
「そうね、辛いわよね」
「そうだな」
富士山を昔から眺めていた彼女はさぞ心を痛めただろう。今や、その山の半分が削り取られ機械と化している。まさに日本の今の姿を体現していると言っても過言ではない。
「でも意外ね、貴方も私と一緒なんて。でもよく考えれば名前がカオルだったし、男口調なのは驚いたけど」
しまった、思わず聞いてしまった。少しは頭で行動するようにしないと…。
「まぁ、色々あってな」
当然のごとく会話を濁される。むしろ嫌な顔をせずに…というか無表情で分からない。だがこちらをやけに見てくる気がする。
「どうしたの?」
「いや、俺は幸せ者だなってな」
「変なの」
「そうかい」
ふっと彼女が笑った気がした。変なのと言ってしまったが私も同じ思いだ。彼女もやはり寂しかったのだろう。
(貴方のためにもブリタニアを倒して見せるわ)
この日、紅月カレンは唯一無二の親友を得たと喜んだのだった。