白き鋼 ー Fog Fleet YAMATO ー 作:Arcelf
―――執務室―――
―カチャッ
ノックされる事なく執務室の扉が静かに開かれた。
扉が開く音と共にヤマトが何事もなく普通に入ってきた。乱暴に開けず静かに扉を開閉して。
「戻ったわ!」
「お帰り?」
清霜だけが返事をした、若干の疑問形を含みながら。
残りの二人は執務室である場所でお帰りと言うべきか悩んでいる。
入ってきたヤマトが執務室を見渡すと皆ソファーの方に移動して寛いでいた。
横長ソファーには3人が詰めて座りテーブルを挟んだ正面のソファーに大淀が一人で寝ている。
「金剛、入っていらっしゃい」
「失礼するデスヨー?」
執務室の扉の前で入るべきか悩んでいた金剛に声を掛けた。
「ああ、気にしなくて良いぞ。ヤマトがアレだからな・・」
金剛の背後から提督の声が掛かった。
「Oh,来たのデスネ?
移動中の金剛はヤマトを質問攻めにしていた為、ついてきた提督に全く気づいて居なかった。
「来なきゃいけない気がしたんだ・・・」
「What?」
「来なくて良いのに・・」
そんなヤマトの呟きは全員聞き取る事が出来たが誰も反応を示さない。
「それより紹介するわっ、金剛よ!」
「Yes! 金剛型一番艦、金剛デース! どーぞヨロシクオネガイシマース!」
「こんご―うっ!」
執務室に入るなりジッと金剛の顔を伺っていた清霜は自己紹介を聞くと同時に飛び出して抱き付いた。
先程の改大和と同様に胸に顔を埋めてスリスリとしている。
その様子に確信した。
戦艦なら誰にでも抱き着くと。
「Wow!清霜・・デスカ?」
「んふふーっ」
そんな清霜に対して困惑した表情を見せる金剛だがヤマトは忙しい。
清霜と金剛の絡みを記録するために。少しでも長く拝むために犠牲になってもらう。
「落ち着くまでそのままにしておくと良いわ」
そんな会話の中、この泊地の提督は執務室に入ってからずっと大和を見ていた。
「君が・・大和なのか?」
過去に会った事のある大和と姿の違いに違和感を持っていたから。
知っている大和は肩を露出させたシャツと丈の異様に短いスカートで非常に個性的な見た目だった。
しかし目の前に存在している大和は金の装飾が散りばめられた白いコートと赤い縁取りのされた白い提督服をのような物を身に纏っており、全体的に白尽くめな印象を受ける。
もし彼女が別の艦娘だと言えば納得してしまう程に記憶にある大和と雰囲気が隔絶していた。
「はい、改大和型戦艦一番艦、大和です」
「ああ、よろし・・く?・・・改大和型??大和型と違うのか・・?」
「あら、知らないの?」
不意に背後から声を掛けられ恐々と振り向き、問い返した。つい先程金剛で痛い目を見たばかりで“霧”に対して若干のトラウマとなりつつあるが、艦娘において“最強”の名を持つ大和型の前では知りたいという気持ちが勝った。
「・・・彼女も霧なのか?」
「さあ?艦娘なのは確かよ?」
「艦娘?・・いや、前に会った事のある大和とは・・・全く別の方に見えるが・・まさか、金剛と同じ霧と艦娘のハーフだったり・・」
「純粋な艦娘じゃないかしら?」
「純粋な・・まさか、ヤマトも知らないのか?」
「そうね」
「・・・」
要領を得ない返事であっけからんとするヤマトに、どう反応して良いか分からなかった。
大和型なら兎も角、改大和型など聞いたことがないしヤマトが知らない艦娘など更にぶっ飛んだ子じゃないだろうな、と。
無意識の内に警戒を強めていた。
「で、そちら子が清霜・・・」
金剛に張り付いたままの清霜を見据え、確認しようとした所で言い淀んでしまった。
今の執務室には艦娘や霧、艦娘と霧のハーフや艦娘だかよく分からない艦娘と多種多様に入り乱れていて、普通に対応して良いのかと。
「うん!」
胸に埋もれてご機嫌の清霜は初対面の提督に対して礼儀もクソも無かった。
只々あるのはその豊満な胸の感触と心地良さだけ。
ヤマトはその様子をただジッと見ている。霧と艦娘のハーフでも艦娘と認識される事に、羨ましいと。何時しか艦娘になりたいと思うほどに目の前の光景が羨ましかった。
(確か、清霜は戦艦に対して強い憧れを抱いている子・・艦娘でもハーフでも戦艦が同様に見えているなら・・なら私は?私に対しては・・霧、戦艦よりも提督として認識している様子・・・そうよ!私を戦艦だと認識させれば良いのよ!戦艦と認識されたら・・ふふっ・・・ふふふっ)
「よ、よろしく頼むよ・・・」
妄想に浸るヤマトとは裏腹に提督は頭を悩ませていた。
一度の出撃で艦娘っぽい子を二人も拾って来る事対してどう対応したものかと。
中でも改大和が凄く気になって仕方がない。白いコートと提督服を纏い、凛とした雰囲気と相まって“なんか凄く強そう”と。
「さて、自己紹介も済んだわねっ!大鯨を紹介するわ!」
まだ自己紹介も何も顔を合わせただけだよ!とヤマトと寝ている大淀を除いて皆の心が一つになった。
「ところで大鯨は何処に居るの?」
皆の注目がヤマトへ向いている中、当人は提督に振り向きながら聞いた。
「大淀が把握していると思うが、何故寝ているんだ・・?」
何故か寝ている大淀に話を振ってみるも反応は無い。普段の執務では一度たりと居眠りを見せなかった事から気になった。しかもソファーを一つ独占して寝ている姿は想像も付かない。
尚、一部始終を見ていた3人はヤマトが原因だと思ったが誰も口を開かなかった。
「・・仕方ないわね」
―――休憩室―――
「よーし。使い方は大体オッケーだね〜」
ふい~、と鈴谷が無い汗を拭き取るような仕草を見せた所で、目覚ましのような音が『ピピッピピッ』と規則的に鳴り響いた。
「わっわわ!?・・・うん?」
音源は大鯨の手元にある霧式スマホ。
「おぉ?着信だねぇ、ってヤマトじゃん!」
「えっ、と?・・確か着信の場合は・・緑のボタンですよね?」
「そーだよっ!」
緑のアイコンをタップした大鯨は画面の変化に気づきはしたが何をどうして良いのか分からず首をかしげた。
画面の中央には通話中と表示され通話時間を示す数値がカウントされていく。
「これで電話出来ているのでしょうか?」
《問題ないわ》
「わわっ!?」
突然聞こえてきた声に驚き手元から落としてしまった。
テーブルに落下した霧式スマホを二人して覗き込んだが相変わらず首をかしげる大鯨。
「これで良いのでしょうか?」
「おっけ~だよぉ~」
《大丈夫よ、通話できているわ》
「わぁ~本当に電話出来てます~」
「・・・やっぱりどう見てもガラスだよね?」
《あら、他の子と一緒なのかしら?》
「鈴谷さんにスマホ?の使い方教わっていました〜」
《そう、鈴谷さんにねぇ?ところで紹介したい子が居るの。執務室まで来てくれるかしら?》
「は〜い〜」
《鈴谷も一緒に来てくれると嬉しいわ》
「え、マジで!イイの?!」
《ええ、鈴谷にも馴染みのある子だろうしね・・》
そう、ヤマトの記録が正しければ過去にミッドウェー開戦時に大和と一緒に編成されていた。という記録が残っており、改大和型らしき大和と会わせて反応を伺いたかったのである。
大鯨と一緒に居たのは偶然であり非常に都合が良かった。
「うぉしぃ、ラッキーッ」
《?・・まぁ良いわ、執務室で待っているからきて頂戴》
―――執務室―――
――コンコンと執務室の扉をノックする音が響き渡る。
「入っていらっしゃい」
ヤマトの声が静かな廊下に木霊した。
「ねぇ・・・今、扉から声が聞こえなかった・・・?」
「は〜い」
扉からである。扉の奥から響いて来た声では無く目の前の扉から直接聞こえてくる様な声だった。
その違和感の中、大鯨は気にする素振りを見せず扉に手を掛けて開け放った。
「いらっしゃい」
執務室へ入るなり真っ先に声を掛けたのはヤマトだった。通常は部屋の主人か秘書が掛けるべきだがヤマトには関係ない。
「失礼しますね〜」
「ちーっす・・・って、お?大和?・・大和だよね?」
執務室に「やまと」と呼ばれるのは二人居るが鈴谷の反応からして指しているのは艦娘の大和の事だろう。しかし、同じくして入ってきた大鯨は全く違った反応を見せた。
「え・・・大和さん・・ですか?」
「はい、大和ですが・・えーっと・・」
少々自信なさ気な二人。
改大和と名乗っている時点で普通の大和と違うことはハッキリしているが、鈴谷の疑心暗鬼な発言と大鯨の不信感を顕にした反応で確信に至った。
現に霧のヤマトと艦娘の改大和、そして霧と艦娘のハーフであろう金剛が居る時点で記憶上の常識や知識は投げ捨てた方が良い。
「うーん・・やっぱ大和だよね?なんか変わってない?あ、服変えたの?めっちゃイケてるじゃん。メイクもしてるの?・・てか成長してない?」
鈴谷の疑問が尽きなかった。
「あの・・えぇっと・-・」
「彼女は改大和よ。おそらく鈴谷の知っている子とは別の子ね。あと、大鯨は吟味しているのかしら?そんなに見られたら大和も困るわよ?」
「別?改大和??何それ、なにそれ!?」
「え? あっ!近っ、すみません!」
鈴谷は何事か理解していない様子で大鯨に至っては間近でまじまじと見入っていた。
恐らく大鯨の記憶にある大和と目の前の改大和が結びつかなかったのだろう。
「そうね、立ち話も退屈でしょうから二人とも座ると良いわ」
改めてソファーに目を向ければ皆窮屈そうに座っていた。
まず目に付くのは横長のソファーに座る全身真っ白な改大和と大淀を膝枕しているヤマトの二人。
改大和の膝には清霜が、左右には金剛と明石が挟むように座っており。テーブルを挟んだ正面には寝ている大淀を膝枕しながら頭を撫でているヤマト。
そして何方でもない離れた位置にある一人掛けのソファーに提督が一人。
呼び出された二人は座れる場所が無いことに困惑していると、ヤマトは何を思ったのか寝ている大淀を抱き上げ膝の上に座らせた。左右に倒れない様に両腕で支えている。
何処と無く手付きがイヤらしく見えるのは恐らく気の所為だろう。
その様子を更に困惑した目で見ていたらソファーの空いたスペースを手でポンポン叩いた。
ここに座れと言う意味合いだろう。
「あの・・」
大鯨は大淀の首が痛そうだと言いたかった。
「いえ、失礼します・・」
しかし誰も気にした素振りを見せないことから空気に流されてしまう。
そして鈴谷も同じくヤマトを挟んだ反対側に鈴谷も座った。
「さて、紹介するわ!潜水母艦、大鯨よ!仲良くする様に!」
「潜水母艦大鯨です、よろしくお願い致します」
「清霜だよ、よろしくっ!ねぇ?ねぇねぇ、大鯨は戦艦なの?戦艦なの?」
「ねぇ・・・やっぱり大和だよね?」
三者三様の反応を示している。鈴谷は過去に会ったことがあるためか薄々と何かを感じている様子。清霜は幾度も金剛と大鯨の衣服を見比べ、大鯨はやはり改大和の顔をまじまじと見ていた。
「そうね、私も気になっていたの。教えてくれるかしら?」
「あの・・えっと・・?」
「あら、ごめんなさい?言葉足らずだったわ。そうね・・・まず、改・・改大和と呼ぶからには改装か改造されたのよね?」
「はい、改造ですね。元は大和型一番艦、大和でした。事の発端は坊ノ岬沖での戦いで対空防衛の薄さからまともに戦闘することなく大破してしまい撤退を余儀なくされた事から、マル七計画で予定されていた改大和型戦艦の仕様を元に改修改造され、新たに改大和型一番艦大和となりました」
執務室に静寂が広がった。微かに息を飲む音が聞こえる程に。
「マル七計画ねぇ?記録共に無いわね・・幾つか聞きたいことがあるのだけど、マル七計画改大和型級のデータ、教えてくれるかしら?」
「データ・・内容ですか?詳しく分かりませんが・・技術者たちの話では主砲の低い火力と命中率の改善及び対空砲化。対して当たらない対空機銃の撤去及び新型対空火器への換装。更なる超巨体化に対応する新型主機関及び推進器の換装。水流制御機構及び防御機構の新設。水鏡型電算機の搭載及び各兵装の電算制御化・・・以上かと」
「水鏡式電算機?それに、兵装の電算制御化って自動化?・・そうね、とりあえず改造後の大まかな変更点で良いから教えて頂戴」
「はい。全長三五五メートル・全幅四四メートル・喫水一三メートル・排水量十万トン。機関ディーゼル・エレクトリック式、三七万五千馬力。速力五五ノット・最大航続距離7万海里。兵装は主砲、六十口径五一サンチ三連高角砲三基・六五口径二百五ミリ連装広角砲四基・六五口径十サンチ高角砲二十基・噴進弾垂直発射機三二門。防御兵装は対魚雷防御用爆雷投射砲二十基、電波欺瞞金属片発射機四基、熱線放射欺瞞弾発射機四基。水上偵察機一七機ですね」
一通り説明し終わった大和は一言も噛まずに話せたことに安心して大きく息を吐いた。
「あの…これで宜しいでしょうか…?」
「・・・貴方大和よね?」
その発言に皆衝撃を受けた。
非常識の化身であり多少の事なら何でも受け入れてしまいそうなヤマトが、まだ常識の範疇と言えそうな改大和を疑った事に。
「え?・・えっと、改大和ですけど・・」
「そう大和・・改・・大和、改大和型・・・全長に排水量増えすぎよ・・別の戦艦と言われたほうが納得出来るわね。それに五一センチ高角砲って何よ・・・爆風で艦橋弾け飛ばないの?何撃ち落とすのよ・・それに噴進弾の垂直発射なんてミサイルじゃないの・・」
若干の本音が漏れた独り言を呟いてから目を閉じて十数秒、間を置き言葉を紡ぐ。
「・・・貴方が改造されたのは何年かしら?」
「えぇっと、改造は一九四二年に開始して、翌年の一九四三年に完了しました」
「もう一つ、戦争はどうなったの?」
確信に至る質問をした。
ヤマトの記憶と記録では大和型戦艦をより巨大な戦艦に
また、同時に大和型についての情報を同時に収集し照らし合わせていたが、改大和と一切合わない大和の情報のみで。更には、この世界の同年代の技術水準と比べた場合、数十年以上先の技術を取り入れていることになる。
その事から改大和はこの世界ではなく、パラレル的な世界から来たと仮説が立てられる。
現に自身、霧のヤマトが存在して艦娘が存在する、更には霧と艦娘のハーフである金剛まで居ることに記憶・記録上の常識を当てにしてはいけない。
「戦争ですか・・?勝利を納めましたが・・」
今の妙な間は、何当たり前な常識を質問しているの?といった意味合いだろうか、改大和に若干困惑を含んだ目を向けられた。
「なんだと・・・?」
「やはりねぇ?提督は黙っていなさい」
「・・・」
「あの・・?」
「大和・・貴女は、並行世界の存在とか信じているかしら?」
「並行世界とは・・何でしょうか?」
「並行世界・・言ってしまえば別の世界ね。並行世界は幾万とありその一つ一つが別々の歴史を辿っているの。
「・・・」
ヤマトの説明に誰も反応を示さない。恐らくは耳を傾けている、続けてくれといった雰囲気だ。
「つまり大和はこの世界ではなく別世界の大和ね」
「別世界・・並行世界の大和・・」
「別に世界が違うからって気にする必要無いわ・・私が原因だろうし・・」
「え?」
話の内容が全く理解できていない改大和の返事。
「恐らく、大和が生まれる直前に多次元へ干渉してしまった事が原因かしらね?」
理解の範疇を大きく逸脱した回答が返ってきた。
「多次元に干渉・・?」
「そうね、大和と合う少し前の事なのだけど…力加減を間違えて地上にマイクロブラックホールを形成しちゃったの、本物ではなく疑似的によ?次元因果律の演算も行わずに出来てしまったものだから余剰次元だけでなく高異次元にまで次元の歪み発生したの。恐らくその歪み・・と言うよりは穴ね、穴に落ちて此方に来たのが貴女、改大和よ」
「次元が・・え?・・えっと?つまりヤマトさんが次元に穴?を開けたから・・私がここに?」
ヤマトから理解の範疇を超えた話が色々と飛び出して中々理解が追いつかない。
ただ分かることは、ヤマトが此処に連れてきた事だけ。
「そうよ」
妙にドヤ顔のヤマト。
「そ、そうですか・・あの、私はどうしたら?」
「元の世界に戻るにしても偶然出来てしまったものだから次元座標は分からないし、戻ったとしても向こうに艦娘が生まれているかも分からない・・仮に艦娘が居ない世界で戻ったとしたら・・良くて神と崇められるか、悪くて検体・・実験体・・ヤマト、落ち着くのよヤマト、考えてはダメよ・・」
途中から声が妙に小さくなりブツブツと何かを話しているようだが全く聞こえない。
「そうね、既に・・いえ、大和は私が責任を持って面倒を見るわ!」
「それは・・」
提督は困る、と言いたかった。
現在、艦娘の中で最も強いとされている大和型の艦娘など知られたら誰も放って置かない事は考えずとも分かる。
それだけでなく、現在確認されている情報として艦娘は世界大戦時代の艦艇の能力を受け継いでいると言われている。なら先程語った改大和の能力は、この世界の現代と同等の技術力に戦闘能力を持っている事になる。
そして艦娘となった彼女、改大和はその小さな身体に現代兵器と同等の能力を内包している事になる。
つまり数十年先の戦闘能力を持った艦娘。
もし、そんな力を持った艦娘の存在を大本営が知ったなら、力づくでも手に入れようとするだろう。深海棲艦の驚異に晒されている今、人類には別世界の艦娘だろうが化け物だろうが利用できるものは何でも利用する。
そんな時代に深海棲艦を容易く打倒出来る可能性があるなら、手に入れる為に形振り構わない事は想像に難くない。
その艦娘が大本営の制御下にないヤマトの元にあるなら、まず交渉してから圧力を、それでも駄目なら武力で支配しようとする。更にはヤマト自身の力も欲するだろう。
そんな事態になってしまったなら最後、大本営、いや国が滅ぶかもしれない。
「あら、何?文句あるのかしら?・・人間には渡さないわよ?」
提督の思考を詠んだのか、雰囲気がガラリと変わった。
「そうそう、色々と調べたわ?この国・・いえ世界での艦娘の立ち位置を。艦娘が人ではなく兵器として扱われている事を、兵器として扱われるからには杜撰な扱いをしようと裁かれることは無く裁く法律もないと・・・やりたい放題ね?」
何時の間に調べたのかと思ったが、今朝大鯨が持っていたスマホを思い出して考えをやめた。
それよりも今の状況が非常に不味い。
「ねぇ、考えたこと無いかしら?艦娘の元となった艦艇が・・戦争の道具として作られて、戦って、沈んで・・新たに艦娘として生を受け、人間と同じ感情を持ったのに・・また兵器として扱われ、戦わなければいけないのか?」
皆も話が変わり過ぎだと思わなかった。
無言で聞き入れてしまった。
提督を除いて此処に居るのは艦娘だから。自分達のこれからに関わる話かもしれないから。どの様な立場で、どの様に扱われるのか、気にならない者など居ない。
其れが命懸けの戦場だから尚更。
「ねぇ、生まれ変わって心、感情、自由に動ける身体を持ったなら・・それは人間と一緒ではなくて?人間よりも遥かに超えた力を持っているから兵器なの?兵器だから人に管理されなければいけないの?・・・そんなの、おかしいと思わないかしら?」
皆の顔を一人ひとり、ゆっくりと確認しながら。
「それに艦娘が居なければ今頃人類は滅んでいても不思議ではなかったのよ?人間の作る兵器は深海棲艦に対して効果を発揮しない事に。長距離誘導兵器の一切は目標へ到達する直前に何故か操作不能となる、ならと艦艇を出して直接攻撃したところで一切の打撃が認められず一方的に狩られるだけだった。唯一効果が認められた兵器は核、核による爆発を直撃させた場合のみ対象の消滅を確認した。しかし核の使用は周辺に深刻な汚染を広げてしまう。そんな物を世界中で出現する深海棲艦に使おうものなら地球が汚染され自滅を導いてしまう」
最後に提督の顔をジッと見据えて。
「ねぇ、提督?貴方は・・どの様に考えているの?」
十数秒の沈黙。
緊張が張り詰めた空気により体感時間が普段よりも遥かに永く感じられた。
「兵器は・・・使われる為にある。だが、艦娘は・・艦娘は人だ。幾ら人ならざる力を持っていようと、彼女達は笑って泣いて、感情を共有する。例えそれが、人の姿で無くても・・・感情を持つ者は杜撰に扱ってはいけない・・ッ!」
ピリピリとした雰囲気のヤマトを刺激しない様に一言、一言と言葉を慎重に選びながら紡ぎ絞り出す。
「そう・・」
その一言に警戒していたが既に遅かった。
ヤマトは戦艦に乗らずとも圧倒的な力を駆使する事が出来ると理解させられた。
「良かったわ?提督、貴方が艦娘を兵器だと認めていたら・・今この場で・・・分かるわね?」
軽いとも受け取れるヤマトの言葉には、逃さないという意思が込めれている事を理解した。
周囲の床、テーブル、ソファー、天井とあらゆる物という物から白銀の刃が突き生え、
その切先の全ては艦娘を避け提督へと向けられていたから。
微かにでも動けば皮膚を切り裂くだろう程に薄く太く長く。
そう、ヤマトは執務室の天井壁床と全体にナノマテリアルを薄く散布して完全な檻へと作り変えていた。
もし、艦娘を兵器だと言い切ったのなら突き進めていただろう。
「ふふふっ、艦娘に手を出したら・・ダメよ?」
「艦娘は人類と同等に扱わなければならない、と・・・反対されたら・・・その国を更地にしようかしら?ふふふっ。そうそう、今だから一つ伝えておくけど・・私一人でこの星の文明を破壊し尽くす事が出来るの。 だから、 あまり、 怒らせるような真似は・・しないでね?」
ヤマトの続け様にして発する言葉に誰も口を挟めなかった。
余りにも恐ろしかったから。
今の彼女に口出ししてはならないと。
そして、言葉を繋ぐ彼女の内には一つの回答が生まれかけていた。
「艦娘への愛情を持つ一つの魂」と「大切なものを失う悲しみを知った魂」の二つが一つとなりつつある今、ヤマトにとって艦娘は何よりもかけがえのない存在へ変わろうとしていた。
そのヤマトの表情は普段の性格から全く予想の出来ないもの。
とても哀しそうな、触れて仕舞えば容易く崩れ落ちてしまいそうだった。
ただ、そんな表情も大淀のうめき声で台無しにされていた。
一体どれ程の力で抱きしめられているのか、衣服に喰い込む腕に、苦しそうな表情を。
それでも起きない大淀。
そして時を巻き戻すかの如くして白銀の刃が引いて行く。後に残るものは何も無く、元に戻ったソファーやテーブルだけ。
「所で提督?艦娘は心と自由に動かせる体を持ち得た所謂人間と一緒なの。艦娘となる前は人間同士の争いの為に作られた兵器・・・ねぇ、何時から艦娘が味方で深海棲艦は敵だと認識していたのかしら?言葉が通じるから?友好的だから?攻撃してこないから?」
「は?・・・いや、まさか・・・」
「ふふふっ、艦娘だって人と同じく心を持つのよ?幾ら我慢強くても限度があるのではなくて?私が手を下す前に、怒りを買わないようにしなさい?」
「ヤマトは何故・・・艦娘にそこまで・・」
"詳しい"と聞けなかった。
気づいてしまった。
出会ってから所々辻褄の合わないヤマトの話に。気づいたら海上に居たと話していたが、艦娘に対する並々ならない知識に平行世界に干渉する力。
ただそんな思考も阻害される。淡く光輝き始める清霜。
「は・・?」
目を擦り改めて見たが変わらず光輝いている。
今朝の妖精と同じような既視感だが、今度は艦娘である。
対面に座っているヤマトなら直ぐに気づくかと思ったが何やら大淀に夢中で気づいていない。背後から抱きしめて寝顔を見つめている。
一体何をしているのか気になるが、それより艦娘の清霜が光っている異常。膝に座らせている改大和も困惑の表情を見せている。
「あの、提督?」
「何かしら?」
改大和に呼ばれて顔を上げたことで気づく。
「・・あら?あらあら・・些か早いわね?」
じっくり眺めること十数秒。
生まれて間もない清霜が何故改造可能なのか気付いた。途中で拾った清霜を連れたままチョーク諸島へ向かい、島を占領していた深海棲艦を島諸共一掃したこと。それから記憶より艦娘の成長方法を当て嵌めた結果、経験が流れ込んだ、ただの成長だと理解した。
確定ではないが、現在納得出来る唯一の解答。
「やはり、改造ね。提督は・・当てにならないとして、明石は今の清霜と同じ状態の子、見たことあるかしら?」
「えっ、私ですか?」
唐突に話を振られた明石。よく分からず提督に助けの視線を送ったが反応は無い。
「えー・・いえ、光るなんて話は聞いたことないですね。お役に立てずすみません・・」
「そう、別に気にする必要ないわ?そうね、提督、用事が出来たわ。また後でね?」
「ああ・・また後で・・・?」
「さて、清霜?エラーちゃんを探して改造するわよ」
「改造?」
「そう、改造。艤装が強くなったり、身体能力が上がったりね?心配する事無いわ。私とエラーちゃんで直々に改造してあげるから戦艦並みの火力を約束してあげるわ!」
「戦艦!?ほんとに?ほんとに!?」
「ええ、一先ずエラーちゃんの協力も必要だから、探しに行くわよ?」
「うん!はやくっ!はやくっ!!」
「ふふふっ、行きましょうか」
予定は決まったとばかりに立ち上がるヤマトに酷く安心してソファーに深く座り込んだ。
次から次へと浮上してくる問題に気苦労は断えない。
ヤマトへの対応と大本営への対応、今後の方針を如何したら良いのかと。元としてヤマトへの対応が最優先なのは変わらない。変わらないというよりは優先せざる得ない。大本営へ下手に報告してヤマトに手出ししようものなら壊滅するのは目に見えているから。
ふと、後ろ姿が目に留まった。
大淀を抱き上げてそのまま連れて行こうとするヤマトの後ろ姿を。
所謂姫様抱っこと呼ばれる抱き方だろうか、抱っこしたまま執務室を出ていこうとしていた。
連れて行くつもりだ。
「・・・大淀は勝手に連れて行かないでくれ」
「・・・仕方ないわね」
提督の言葉に少しの間を開けたヤマト。一体何を考えていたのか、提督の知る所ではない。
そして霧式スマホをせがむ算段で来た鈴谷は切り出すことが出来ず取り残された。
とある
「畜生め!畜生め!!何が艦爆だ!!!何が三式弾だ!当たらねぇじゃないか!!!チクショウメェエエ!!」
「大体何が機銃で撃ち落とせるだッ、取り付かれても全然落ちねぇじゃねぇかあああ!!」
阿鼻叫喚の広がる室内で一人の技術者に天啓が降りた。
「散弾銃・・散弾銃だ!!三式弾じゃない・・砲撃した直後に広がる散弾があれば全部落ちるじゃないか・・鳥撃ちだってライフルが当たらないから散弾が開発されたじゃないか・・!!主砲真上に向けて放てば・・っ!!」
「「ソレだ!!!」」
この時味方にも甚大な被害が出ることを予期していなかった。
~~~
「主砲真上に向けたら爆風で艦橋が・・」
「爆風でも割れない程厚くするしか・・」
~~
「散弾範囲が広がり・・」
「主砲伸ばすしか・・」
~~
「散弾数増やし・・」
「より大口径に・・」
~~
「砲弾重すぎて・・」
「自動装填・・」
~~~~~~~~~~~~~~~
ててててってて~
「
技術者の執念と猛烈な殺意と脳筋理論が生み出した