Caligula Acquired immunity   作:灰色平行線

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【1】The end of epilogue

「みんな……ゴメン……‼」

 絞り出すようなアリアの声がメタバーセスに響く。

「悔しい……なんで、なんでアタシはアンタなんかに……」

 憎悪と絶望と悲しみの混じった瞳がこちらを見つめている。

 地面とも床とも水面とも言い難い、言葉にするのも難しいその場所にLucidは立っていた。立って、仰向けに倒れている彼女を見下ろしていた。

 もう彼女は何も言わない。バーチャドール、アリアは壊れて、死んでしまった。

「やった……やったぞ!」

 側では、ソーンが歓喜の言葉を発していた。

 

 

 ◇◇◇

 

「お、おい……これ、どうなってるんだよ。峯沢! おい峯沢‼」

「ひ、ひまわりちゃん? 嘘でしょ?」

「な、なんで……なんであの子まで……」

「う、嘘だろ? ちょっと覗いてない内に……」

 アリアを始末した後、グランギニョールの最奥に戻って来たLucidとソーンを待っていたのは、青ざめた顔の楽師達だった。

「お、おい! Lucid! どうなってんだよこれは‼ なんでお前がソーンと一緒にいるんだよ‼」

 楽師の1人、イケPが叫ぶ。

「……」

 だが、イケPの言葉にLucidは何も答えない。代わりに、楽師達に向かって自らのカタルシス・エフェクトである二丁拳銃を構える。

「そうだな。後始末もしっかりしないと。……やれ、Lucid」

 そんなLucidの後ろで、ソーンはくすりと微笑んだ。

 

 ◇◇◇

 

 μの力によってインターネットから世界中に向けて発された誤情報の嵐は現実を驚くべきスピードで蝕んでいった。

 嘘の情報や機械の誤作動や停止などによって巻き起こった混乱は、その規模をどんどん大きくしていく。そして、壊れていく世界に絶望した人々は、次々にメビウスへと招かれていった。

 メビウスの人口も大幅に増えたが、それは最初の内だけだった。現実での体が死ねばメビウスでも死んでしまう。現実での死者の増加に伴って、メビウスでの人口も少しずつ減っていった。

 ウィキッドは早い段階でメビウスから消えてしまった。突然倒れたかと思うと、息苦しそうにもがき始めた。

「は……? ふざけん……なよ。まだ、世界の終わりを見て……な……」

 あれだけ「やっと終われる」と言っていた彼女の表情には、喜びも安堵もなかった。

 ミレイは執事の歳三が死んでから姿を見せなくなった。最後に見た彼女はひどく冷たい目をして、何も信じられないといった顔をしていた。

 梔子は全てを諦めてしまった。今までのようにNPCの家族と過ごすこともなく、何もせずにぼーっとすることが多くなった。

「もう……いいんだ。私には、もう、何も無いから。ありがとう……」

 最後にそう言って、彼女は静かに消えた。

 他の楽師や元帰宅部がどうしているのか、いつ消えたのかは分からない。マインドホンによって洗脳を施された彼らに会おうとは思えなかった。

 そして、メビウスにももう数える程しか人がいなくなった頃、ソーンは未完成のランドマークタワーから飛び降りて死んだ。果たして彼は答えを得ることはできたのだろうか。彼女の言う「一凛が何を思って飛び降りたのか」を彼は知ることができたのだろうか。

 Lucidは奇跡的にも楽師達の中でも元帰宅部の中でも最後まで生き残った。だが、メビウスに残る道を選んだはずの彼の顔に浮かんでいたのは……。

 

 ◇◇◇

 

「どうして、みんないなくなっちゃうんだろう……」

 誰もいない駅前の広場を見つめながら、悲しそうにμは呟く。μの後ろからLucidは呼びかける。振り向いたμはLucidの姿を見て絶望したように顔を歪ませた。

「あなたまで行っちゃうの⁉ わたし、あなたを幸せにできなかったの⁉」

 今にも涙を流しそうな顔で悲痛な叫び声をあげる少女に彼は……。

 

「―――」

「ああ……‼」

 

 意識が遠のく。その瞬間、現実も、メビウスも、完全に終わってしまった……はずだった。

 

 ◇◇◇

 

「おい、起きろー。入学式始まるぞー」

 その言葉がLucidを終わりかけていた夢から別の夢へと引き戻す。

 

 気がつけば、そこは見慣れた教室だった。生徒たちが椅子を持って廊下に並び始めている。

 周りに流されるままに椅子を持って廊下に出ると、2年2組のプレートが見えた。

「今日の入学式、お前在校生の挨拶だろ? やっぱデキるヤツは違うなー」

 クラスメートが話しかけてくる。

 2年生、入学式、在校生代表。これではまるで、あの日のままではないか。……何がどうなっている?

 ただ1つ分かるのは、Lucidは謎の楽士ではなく、ただの一般生徒としてそこに存在しているということだった。

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