Caligula Acquired immunity   作:灰色平行線

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【3】どっちつかずの僕に

「ゆ、You……! それって!」

「これは……」

 カタルシス・エフェクトを構える奏、いや、Lucidに、アリアは目を丸くする。だが、驚いたのはLucidも同じだった。

 Lucidが構えた二挺拳銃は、見慣れたいつものデザインではなく、随分と刺々しい見た目をしていた。それはデジヘッドが使っている武器によく似ている。

 だが、ここで悩んだところでデジヘッド達は待ってくれない。襲いかかる3人のデジヘッドに、Lucidはいつもと違うカタルシス・エフェクトで挑む。

 

 アリアの目から見て、その戦いは一方的だった。

 向かってくる3人のデジヘッド相手に目の前の男は慣れた様子で拳銃を撃つ。拳銃とはいっても、カタルシス・エフェクトだ。出るのは実弾ではなくゲームなんかで見かけるエネルギー弾のようなものだ。

 前方からのデジヘッドが二挺拳銃の連射によって倒れる。

 その隙に、左右から向かってくるデジヘッドが距離をつめてくるが、男は右側のデジヘッドに向かっていくと、拳銃でデジヘッドの頭を殴りつけた。頭を殴られ動きの止まったデジヘッドの背後に回り、背中を蹴ってもう片方のデジヘッドの方へと押し出してやる。

 ぶつかるデジヘッド同士。その2人に向かって、拳銃からレーザーを撃ちこむと、1本の光が2人のデジヘッドをまとめて貫いき、デジヘッド達はその場に倒れる。

 

 地に伏した3人のデジヘッドは、元の生徒の姿へと戻る。カタルシス・エフェクトと解除すると、奏もLucidの姿から元の姿へと戻った。

 

「お、おい、お前、今の……!」

 戦闘が終わるのを待っていたかのように声が聞こえた。同時に、物陰から1人の生徒が姿を現す。

 片目を隠した前髪に、どことなく気だるさを感じさせる雰囲気。その人物を奏は知っている。

「あー、まずは自己紹介が先か? 俺は佐竹笙悟。3年生だ」

 佐竹笙悟。そういえば前回も彼とはこの駅前広場で出会ったのだった。あの時も突然アリアが現れ、デジヘッドに襲われ、笙悟に出会った。細かな違いはあれど、状況はよく似ていた。

「譜城奏。2年生だ」

「ああ、知ってる。入学式を飛び出した奴だろ? 始めはこの世界に気付いたせいかと思ったが、どうやら違うらしい。あの化け物と戦ってたってことは、お前も帰りたい側の人間なんだろ?」

 そう言ってこちらを見つめてくる笙悟。その目には期待の感情が色濃く映っている。

 

 ちくりと針が刺さるように胸が痛んだ。

 思い出すのはグランギニョールでの彼の表情と言葉。

 

『……俺は、お前のおかげで、現実(じごく)で生きていく覚悟決めたってのによ……』

 

「お、おい? どうした?」

「……いや、何でもない」

 自分は今どんな表情をしていたのだろう。突然黙った奏に問いかける笙悟に、奏は首を振る。

「奴ら、デジヘッドが襲ってくるってことは、きっと僕も帰りたいと思っているんだろう」

「デジヘッド……? それがあの化け物の名前か?」

 化け物という笙悟の言葉に引っかかりを覚えるが、そういえば……

「そうだよ。あいつらはデジヘッド。黒いドロドロした心が体の内側から溢れだして異形を為したモノ」

 そうだ。前もここでアリアからデジヘッドについて教えてもらったのだった。

「そうだ! You! さっきデジヘッドと戦ってた時に使ってた力! あの力はダメだよ!」

 突然、思い出したかのようにアリアは奏に向き直る。

「あの力……さっき、コイツの姿が変わったヤツか?」

 笙悟の言葉にアリアは頷く。

「そう! あれはデジヘッドと同じ力! あんな力を使い続けてたら負の感情に飲み込まれてYouまでデジヘッドになっちゃうよ! だからアタシが調律したげる! そうすれば安定して力が使えるようになるよ! アタシは『カタルシス・エフェクト』って呼んでるんだけどね」

 アリアの言葉で奏は気付く。今の自分にはアリアやμのサポートがない状態なのだ。黒い感情を安定化させる術もないままに力を使おうとした結果が、Lucidの姿と形の変わったカタルシス・エフェクトなのだろう。

「もう1度、カタルシス・エフェクトを使おうとしてみて。今度はアタシも手伝うから」

 言われるがままに、奏はカタルシス・エフェクトを発動させる。姿は相変わらずLucidへと変わってしまう。だが、カタルシス・エフェクトは、見慣れた拳銃の形をしていた……片方だけ。もう片方の拳銃は刺々しいままだ。

「なんか、中途半端だな」

「うーん、アタシに対する拒絶の感情でもあるのかなー?」

 中途半端、拒絶。笙悟とアリアの言葉が奏の胸に刺さる。

 奏がアリアに対して持っている感情。それはきっと、拒絶ではなく罪悪感だ。殺してしまったことへの、壊してしまったことへの罪の意識。Lucidだって人間だ。メビウスに誘われてしまうような、弱々しい1人の人間なのだ。周りからどれだけ身勝手で最悪な人間だと思われようと、傷つき、悲しみ、苦しみ、後悔だってするのだ。

 アリアのことは信用している。だが、1度アリアを壊してしまった自分に、アリアの手を借りる資格などあるのだろうか。それが彼女に対する拒絶となって現れたのだろう。

「さっきよりはマシになってると思うけど、完全に調律できてないからデジヘッドになっちゃう可能性がゼロになった訳じゃないよ? デジヘッドと戦うならカタルシス・エフェクトを使うなとは言えないけど、使う時は自分がデジヘッドにならないように注意してね?」

 アリアの言葉に奏は頷き、改めて自分の持つ二挺拳銃を見る。いつもの拳銃は帰宅部にいた頃の自分を、もう片方の拳銃は楽士であった頃の自分を、透明人間(ルシード)の姿は自分でも分からない正体を表している。二挺拳銃なんて武器になったのも、どっちつかずで中途半端な自分の性格を表しているのだろう。カタルシス・エフェクトを発動した自分の姿に、奏はそう感じた。

 

「まだ聞きたいことはあるが、ここじゃまたデジヘッドに襲われる心配がある。場所を変えよう」

 奏がカタルシス・エフェクトを解除し、姿が元に戻ったところで、笙悟が提案をする。

「アリアもそれでいいか?」

「うん! とりあえずアテもないし、Youたちについていくことにするよ!」

「場所を変えるって、どこへ?」

 場所は知っている。だけど、話を円滑に進めるためにも聞かない訳にはいかなかった。ここでは初対面なのだから。

「安全な場所が学校にあるんだよ、灯台下暗しだろ? そこで俺の仲間と合流しよう」

 そう言って歩き出す笙悟。後を追いかけるアリア。

 

 行き先は分かっている。音楽準備室、帰宅部の部室だ。

 だが、本当に自分が行ってもいいのだろうか? 皆を裏切った自分が、また皆に会ってもいいのだろうか?

「You?」

 アリアが不思議そうにこちらを見ている。

「今、行くよ」

 そうして、奏も歩き出す。

 覚悟を、決めなければならない。もう1度、皆と関わる覚悟を。

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