接触の時間
----???----
……痛い。苦しい…。僕の身体の中を何かが這いずり回っている…。少しでも気を緩めれば自分が自分じゃなくなってしまう。
なんで僕がこんな目に遭わなければならないのだろう。自分の運命を呪いながら、日が暮れかけた街の中を一人で歩いている。目的もなくふらふらと…
先程、僕と同じくらいの年齢の人達とすれ違った。友達同士で楽しそうに今日の学校の出来事について話していたのだろう。彼らは自分たちが恵まれているということにすら気づいていないんだろう。何も考えないで気楽な日々を送っているんだ。それに比べて僕は…
「これなら、研究所の暮らしのほうがよかったかも…」
つい、そんな言葉を口に出してしまった。研究所の暮らしは実験台として様々な実験に付き合わされる苦痛の日々だったがそれでも食事は出た。まぁ、まともな食事ではなかったけれども…。
(人体実験に使われるのも嫌だけど、痛みに慣れちゃえばそうでもないんだよね…)
常人なら発狂するほどの苦痛も、触手の影響によってか耐えらえることができ傷を負ってもある程度再生することもできる。
「あ、触手を使ってお店から食べ物とか盗めばいいじゃん」
また独り言を口に出してしまった。そして僕は自分の身体の中に住み着いている触手に意識を向ける。こいつは望んで僕の身体に入れたわけじゃないが、慣れるとけっこう便利だ。
「例えば…」
そう呟くと僕の手には少し膨らんだ財布が握られている。さっきすれ違った学生がカバンに入れていたものだ。最初からこうやってお金を稼げばよかったんだ。そうすれば生ごみなんか漁る必要もなかったのに。そんなことを考えながら触手をしまう。そして今までのことを僕は振り返る。
僕の名前は…そうだ、渚にしよう。今思いついた。こんな見た目だし名前も中性的にしちゃえ。その方がいろいろ便利かもしれない…今後生きていくためには女装することだってあるかもしれないしね?……ないと願いたいけど。名字はどうしようか、後で考えておくことにしよう。今すぐ必要になるなんてことないだろうしね。名字はてきとうに、多い名字ランキングTOP20から選ぼうかな。見慣れた名字のほうが溶け込みやすいと思うんだ。
少し話がそれてしまった。僕は渚。元々は捨て子だった…そのため幼少期を孤児院で過ごしていたんだ。孤児院での生活は…あまり良いものではなかったよ。でも人生で一番平和だったかもしれない。孤児院での詳しい話は機会があれば話すことにするよ。
そんな孤児院での生活も数年がたったある日、終わり迎えることになる。僕は売られたんだ。僕だけじゃない、何人もの子供が研究施設に買われていった。僕が売られた理由なんてたいしたことないんだと思う。そして、それが公になることもなく誰も騒がないってことは国がらみなのかと考えてしまう。
連れてこられた研究所では「触手」の研究が行われていた。最初は信じられなかったが、研究所で過ごしているうちに信じるしかなくなった。何人もの研究員が日々「触手」の研究を行っていたんだ。この触手が人の身体に入って適合すれば何やらすごいエネルギーが得られるとか言ってたっけ。僕には、ただの生物兵器を作っているようにしか見えなかったけどね。
でも簡単にエネルギーを得られるわけがない。そもそも人の身体を使っている時点で問題だ。触手と適合できる人間は1%前後らしい。適合できなかった人間は…
僕は適合することができた。触手を体内に入れられるときは恐怖だった。必死に暴れて逃げようとしても簡単に取り押さえられて無理やり口から…。思い出しただけでも吐き気がしてくる。
でも適合してからが苦痛の日々の始まりだったんだ。どんどん触手が自分の身体を蝕んでいくのがわかる。自分の身体なのに自由がきかなくなることもあった。定期的に激痛に襲われて寝ることもできない。もしこの激痛を味わって真顔で…ましてや笑顔なんかで過ごせる…そんな演技力を持っている人間がいたら僕は尊敬する。今は痛みに慣れてしまったから、のたうちまわるなんてことはないけれども、それでも辛いものは辛い。一時期は触手と適合なんかしないで楽になれたらよかったのにと思ったことさえある。
そんな人体実験の日々も、ある日終わりを告げることになる。柳沢はよっぽどお気に入りの実験台を手に入れたのだろう。嬉しそうにしながら他の実験台達を処分するように言ったんだ。僕たちは怒り殺意さえ覚えた。お前たちの都合で苦痛を覚えさせられていたのに、そのうえ不要になれば処分する?ふざけるなと…!
っと…落ち着くんだ渚。過ぎたことじゃないか。僕は運がよかった。日に日に処分されていく被検体。僕が最後の一人だった。何度も抜け出そうとしたが研究所のセキュリティーは強固で本気で触手の力を引き出さないと抜け出せないとわかったとき、研究所が爆発したんだ。どうやら本命の実験台、死神…とか言ったっけ?が暴れだしたらしい。その隙を突いて触手の力を利用して研究所から抜け出した。
本当はあのむかつく柳沢とか他の研究員たちを始末しておきたかった。あ、でも優しくしてくれた女性の研究員…えーっと…あっ、あぐりさんは例外かな。あの人は本心では研究を嫌がっていたのが波長からわかったんだ。ご飯おまけしてくれたこともあったしね。二度と会うこと無いだろうけどお礼が言いたいな…。研究所の人達があの爆発から助かったのかどうか知る由もないけど。
そんなわけで今の僕は逃亡生活をしている。とくに誰かが追いかけているわけでは無いと思うから僕が勝手に、そう思い込んでいるだけなんだけどね?研究所が爆発して、それどころじゃなくなったんだろうけど…本来僕が脱走したら追手が来るはずだからね…
というわけで、今は自由な身の僕。何もかも自由というわけではないけれども。研究所に買われた時点で行方不明扱いか事故死扱いだろう…それが今更生きてましたなんてことになったら大事になってしまう。それがきっかけで足がついて研究所関係者に見つかるのもごめんだ。僕の当面の目標は誰にも干渉されず、静かに平和に生きていくことだ。
ドン…おっと、過去を振り返ることに集中していたら誰かにぶつかっちゃった。謝らないと…
「ごめんなさい…よそみし」
よそ見していた…言い終わる前に手に持っていた財布が奪われた。まぁ、もともとは僕が奪ったんだけども…
「子供が盗みに手を出すとは感心しないな。探したぞ…」
僕を睨みつけるような鋭い目で、ぶつかった男の人は言った。
「お兄さん誰…?それは僕の財布だよ。盗みなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。それに探したって、なんのことですか?」
僕を探していた。目の前の男はそう言った。
即座に僕の身体は警戒態勢に入り、周囲の状態を確認する。こいつは只者ではない、ただ立っているように見えるがいつでも動ける態勢をとっている。そもそも僕が財布を盗み取ったことを知っているということは、触手を使っていたのが見えていたということだ。普通の人間には見えない速度で盗んだはずなのに。男の人の口ぶりから察するに僕の身体の秘密を知っている可能性もあるな…。
万が一、触手を使っても誰にも見られる心配はないか。ここは住宅街だ。家の窓から誰か見ているかもしれない。男の次の言動次第では戦闘になる。
そんな思考を張り巡らせていると男は次の言葉を放った。
「私は防衛省の烏間 惟臣というものだ。君と話がしたい…いや、交渉させてほしい」
僕の当面の目標は一瞬にして崩れ去った。
とりあえず1話目投稿完了。
投稿ペースはどうなるのだろう…
何もかも勉強の一作品目です。誤字脱字などがあればご指摘お願いいたします。
Q&Aのコーナー
Q渚の名字は?
A適当にくじ引きで決めます。