ワールドカップ見ている場合じゃない…!
----渚----
「思ったより広いなー。家電とか家具もほとんど全部揃ってるし。これって僕が烏丸さんの提案を受け入れることを前提で用意してたのかな。」
僕は国が用意してくれたマンションの一室にいた。これから1年間、僕が生活することになる部屋だ。この部屋は僕が暗殺に協力するかわりに国が用意してくれたもので、中学生が一人暮らしするには広すぎる部屋だ。
おまけに家具や家電も最低限揃っているしスマホなんかも支給された。まぁ、使い方よくわかんないんだけど…最低限電話はできるようにしないとね…友達作りたいし。
僕はクラスメイトの暗殺には積極的に参加するつもりはないが、ちゃんと交友関係は築きたいと思っている。独りぼっちはいやだもん、寂しいもん。
「お、ベッドだ!ふかふかのベッド…!」
寝室の扉を開けるとベッドが置いてあった。研究所では硬い床に毛布で寝てたし、脱走した後は路上でホームレスみたいに生活していたから正直に嬉しい。
ベッドにダイブして布団の感触を楽しんでいると意識が遠のいていく…。
「おっと、危ない。シャワーも浴びなきゃ。いっつも公園の水道とか川で洗ってたし、ちゃんと身体を奇麗にしないとね。」
暖かいシャワーで身体を洗いたい。最低限の衣類なども用意されているため、それらを取り出して脱衣所へと向かう。服を脱いで久しぶりの暖かいシャワーで身体を洗い湯船に浸かって自分の身体を見て今日のやりとりを思い出す。
烏丸さんに、戸籍を新しく用意するから名前や生年月日など希望があれば言ってくれと言われた。その際
「ところで…性別は男でいいのか?」
と真顔で言われた。
(複雑だ…。たしかに身体は小さいし髪は長いけどさぁ…面と向かって言われると、けっこうショックなんだよな…)
名字は松本になった。理由は特になく、なんとなくで決めた。誕生日は5月24日、これもてきとうにサイコロを振って決めた。そもそも6面ダイスの時点でやる気がない…。
お風呂から出て身体を拭く。明日から学校だし今日は早く寝ようかなと考えていると本棚に教科書やら参考書がたくさん入っていることに気づいてしまった。
(うっ…、成績が悪かったら国からの支援も減らすって烏丸さんが言ってたな…)
聞いた話によると椚ヶ丘中学校は、この辺では有名な進学校らしい。そんなところに暗殺のために転校したとしても最低限の学力は無いとまずい。今までまともに勉強してこなかった僕が進学校の皆についていけるわけがない。中学1,2年の勉強もしてないのに、いきなり進学校の3年生だからね。そのことを烏丸さんに聞いてみたら
「もちろんわかっている。渚君には申し訳ないが、頑張ってもらうぞ。E組に馴染んでもらうためにも、ある程度の学力は身に着けてもらいたい。もし成績が悪ければ…そうだな、最初の中間テストで1教科どれでもいいから学年で1桁順位をとってもらおう。もし無理なら国から毎月支給するお金を減らすことにする。」
なんて言われた。なかなか鬼畜なこと言ってるよ烏丸さん!お金が減らされたら美味しいものが食べられなくなってしまうじゃないか!ため息をつきながら、てきとうに数学の教科書を開いてみる。
「うわぁ…頭が痛くなってくるなこれ。今日は徹夜で勉強してみるかな…」
ふかふかベッドが遠ざかっていく。
1時間くらい必死に基礎から勉強して小休止を挟む。明日からどうやって過ごそうかなぁ。
(触手を使った暗殺は1年間で1回だけ、最後の最後まで隠しておく奥の手だ。確実にやるためには情報収集が必要だな。避ける癖や弱点なんかを見つけないとね…。明日は手始めにナイフで斬りかかってみるか。あとは特攻か自爆覚悟の攻撃でもしてみるかな、そのときの反応も気になるし。どうやら奴は生徒が最優先らしいからね。あと気を付けなきゃいけないのは僕が触手持ちってことがバレないようにしないとね…。)
そんなことを考えながら烏丸さんに支給されたもの一つであるナイフを手に持つ。
(対触手用ナイフに対触手用BB弾ねぇ…。マッハ20で移動する相手に当たるのかな。そもそも、これって僕の触手にも効くわけだよねぇ。E組の生徒や暗殺者が対触手用の罠や作戦をたてれば僕も行動しにくくなるわけで…やりづらいなぁ。)
対触手用物質は普段僕の肌に触れる分には問題ない。ただ触手に触れてしまうと触手細胞が破壊されてしまう。僕の触手は死神同様再生することができるが、再生速度はそんなに早くないし数回再生したら体力的に限界が来てしまうから要注意だ。
他の弱点としては水かな。触手が水に触れると水分を吸って肥大化してしまう。だから雨の日とかは元気が無くなってしまうんだ…シャワーは別だけどね!
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「はっ……!もう朝か…って、こんな時間!やばい初日から遅刻はやばいって。変に目立って警戒とかされたくないし急いで行かないと!」
あのまま勉強をしていたら寝落ちしていたようだ。教科書に涎を垂らしながら寝ていた。用意された制服を着て教科書を鞄に詰めると、駆け足で学校へと向かう。
(なんか女子生徒用の制服も入っていた気がするんだけど…性別の判断つかないからって両方用意したな烏丸さん…!)
住宅街を通り抜けて学校に向けて移動する。次第に建物は消えていき山の中へと入る。
(本当に山の上にあるんだ。E組は他のクラスと待遇に明らかな差をつけて差別の対象にしているって言ってたけど、これはなかなかひどい…)
森を抜けると開けた場所に出る。そこにはボロボロのひと昔使われていたような建物が現れる。これが校舎か、不便そうだな。入り口を目指して歩いていると急に背後から
「ぬるふふふ…君が今日からE組に転校してくる松本渚さんですね?先生、楽しみに待ってましたよ!」
(っ…!さっきまで周囲に気配なんて感じなかったのに、化け物め…!)
声が聞こえた瞬間僕はとっさに距離をとって、腰に隠してあるナイフに手を伸ばす。警戒心を露わにしながら、いつでも動ける態勢をとっていると
「良い反応ですねぇ~、ただの生徒では無いようですが…。ですが安心してください、先生は生徒には手を出しませんから。それにしても…」
たしかにそうだ。契約では死神は生徒に一切手を出せないことになっているらしい。それを思い出してから構えを解き改めて相手の全体を見る。
(うん、完全に黄色いタコだな。触手の本数も多いな、僕なんて2本…頑張っても4本までしか触手を出せない。マッハ20というのも嘘じゃなさそうだなぁ。というか、とっさに飛び跳ねちゃったよ…)
ファーストコンタクトとしては最悪だ。とっさに飛び跳ねて構えてしまったことで、素人ではないことがばれてしまった。普通の生徒なら振り向きざまに武器に手を伸ばすことなんてできないだろう。
こいつは危険だ、最低限の警戒をしつつも相手の言葉の続きを待つ。
「それにしても、烏間さんからは女子生徒が来ると聞いてましたが松本さんはスカートじゃないんですね?」
僕は盛大にこけた。
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(どこだ…!どこに烏丸さんはいるんだ!)
僕は校内を早歩きで移動し、烏間さんを探す。
「絶対問い詰めてやる…!」
「落ち着いてください松本さん。あ、ちなみに烏丸さんは職員室にいますよぉ~」
後ろから黄色いタコが焦りながら僕の後を追いかけてくる。さらっと烏丸さんの場所を吐きつつ、職員室の場所まで教えてくれる。
(うざいけど、ありがたいなぁ)
何とも言えない気持ちを抱きタコを無視しながら職員室まで歩いていく。そして力強く職員室の扉を開くと烏丸さんと目があった。そしてすぐに状況を理解したのか
「すまないな松本君。手違いで女子生徒になってしまった。あとで変更の手続きをしておく。」
「手違い!そんな手違い聞いたことありません!」
そんな理由で女にされるなんてたまったもんじゃない。僕は即座につっこみをいれてしまう。ため息をつき、視線を動かすとあぐりさん、いや雪村先生が目に入り
「おはよう、渚君。新学期がはじまってから数日過ぎちゃったけど渚君ならすぐに馴染めると思うわ。皆元気で優しくて真面目で、いい子たちなのよ?」
笑顔で挨拶してくれた。あの純粋な笑顔は癒されるなぁ、生徒の自慢が始まると人が変わることを覗けばいいんだけどね。
「それでは松本君、先生についてきてください。クラスのみなさんに紹介しますので。」
すっかり烏丸さんの件を忘れて僕は死神の後に続いて教室へと向かっていく。
「ぬるふふふ…緊張しなくてもいいんですよ、渚君。それでは先生が先に入りますから呼んだら入ってきてくださいね?自己紹介してもらいますからねぇ」
そう言いながらタコ先生は教室へと入っていった。
烏丸さんはわざとやっているのかもしれない…
あと渚君の身体能力はだいぶチート