星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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初見切り発車です。まだ後半部分書き切れてないんですがどう考えても2万字超えるのと明日は忙しくなりそうなので今の内投稿です。

ずっと思ってたんですけど「しののの」って打ってると「の」の数が安定しなくて「篠ノ之の」になったり「篠の」になったりしません?

感想評価お気に入り誤字報告、いつもありがとうございます。


1+1のリザルト

 六月、最後の週始まりの月曜日の学年別タッグマッチトーナメント初日。その日は、長らく空を覆っていた(とばり)から久々に太陽が顔を覗かせ、先日からの湿気も相まって汗ばむような陽気となった。

 

 学園の生徒達はそれぞれ昨日(さくじつ)発表された組み合わせ表を胸に、慌ただしく構内を行き交う。この大規模トーナメントの注目度は正に世界規模。何せ各国における最先端IS及び次代のIS操縦者、そのお披露目の場であるからだ。

 そこには各国のIS関連企業や研究者だけではなく、政府の関係者までもがやってくる。そういった『お偉方』に対応しながらこの規模の行事を運営するなど、教員達だけで出来る事ではない。故に、当日試合の無い生徒のほぼ全員が先生達、あるいは生徒会の指示の下、雑務処理や会場準備、来賓の誘導にと追われる事になるのだ。

 

 そして私は、今頃振り分けられた仕事に追われて居るであろう他の生徒達とは違い、第一アリーナの更衣室で自身の気迫を練り上げていた。

 

 ――――まさかよりにもよって開幕初日の第一試合、第一アリーナで一夏と当たる事になるとはな。

 

 一が並んだこの現状に何か運命的なものを感じて、私はふふ、と小さく笑う。しかしタッグマッチか。思えばこの形式に代わったのも随分と急な事だったな。

 

 私は目を閉じ、当日の事を記憶から思い起こす。石動先生が気だるそうに告げたタッグマッチへの変更。そしてそれに伴うペア作成の手順を聞いて、クラス中の視線と殺気が一夏とデュノアさんに向いた瞬間の事は今でも鮮明に覚えている。そして当然ながら、皆の狙いはあの二人に集中した。

 

 正直言えば私も皆を押しのけ一夏と組みたい気持ちはあったのだが、件の約束の存在もあって、そこに首を突っ込む気にはなれなかった。その間にあれよあれよと一夏はデュノアさんと組む旨を叫び、織斑先生の一声で事態は収束してしまう。その放課後、鈴やセシリアにも聞いてみたが、二人ともボーデヴィッヒとの一悶着で負ったISのダメージのせいでトーナメントには参加できないと至極残念そうにしていた。

 

 その時はまたしてもボーデヴィッヒか、と腹を立てたものだ。今の私があそこにいたらすぐにルームメイトの鷹月(たかつき)さんにでも頼め! と歯ぎしりしていただろう。

 

 何せ、結局ペアとなる相手を見つける事の出来なかった私は、抽選で同様に相手を決めていなかった(誰でも良かったのだろうが)唯一の一年生であるボーデヴィッヒと組む事になってしまったのだから。

 

 その時、先程から緊張気味に話し込んでいた他の生徒達がしん、と一斉に押し黙った。所謂「天使が通る(Un ange passe.)」と言う奴かと一瞬思ったが、過密気味のはずの皆がさっと脇に退けると、件のボーデヴィッヒが歩いて来たのを見て得心(とくしん)が行った。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒか。石動先生に例の鈴やセシリアとの『一悶着』の映像を見せていただいたが、凄まじき業前(わざまえ)だった。間違いなく1年生の中でも抜きんでた実力の持ち主だろう。しかし、タッグマッチともなれば話は別だ。どう考えても彼女が協調を是とする性質(たち)には思えない。だが、優勝という至上目標のためならば私は過去の恨み辛みは捨て、プライドだってかなぐり捨てる腹積もりだった。

 

 故に彼女ともコミュニケーションを取ろうと何度か接触を試みたのだが……彼女はアリーナでの『一悶着』が祟って再び謹慎と言う事になってしまい、結局一度も言葉を交わす事も出来なかった。

 

 ――――謹慎自体は先週中ごろには解けていたらしいが、その後は体調不良で授業そのものを欠席している。もしも病み上がりなんかであればこの先それが大きな瑕疵(かし)となるやも知れん。

 

 私がそんな事を考えていると、ボーデヴィッヒは生徒達をかき分けこちらへと向かって来た。当然か。今日の更衣室のロッカーはトーナメントのペアで隣同士になる様に指定されている。だがこの女の隣で着替えると言うのは些か複雑な気分だ――ん?

 

 物思いに耽っていた私か再び顔を向けた時、ボーデヴィッヒの銀髪が既に目の前に迫っていた。慌てて私は飛び退く。すると何故かボーデヴィッヒは私の前を通り過ぎ、そのまま自分が使うはずのロッカーと正面衝突して尻餅を搗いてしまった。

 

 その様子を更衣室の皆が唖然として見ている。当然私もだ。開いた口が塞がらないと言うのはこう言う事を言うのだろう。しかし、最もショックを受けていたのは他でもない、尻餅を搗いたままのボーデヴィッヒ本人だった。

 

「――――気絶していたのか、私は?」

 

 愕然とした顔で呟くボーデヴィッヒ。そのまま、自身が今何処に居るのかを確かめるように周囲を見回す。遠巻きに眺めていた生徒達も、その視線が自分の方に向けられると慌てて背を向け、各々の準備へと戻ってゆく。

 

「……大丈夫か、ボーデヴィッヒ。立てるか?」

 

 見かねた私は彼女に手を貸そうとするが、それはすげなく振り払われ、彼女はなんとか自力で立ち上がった。そこでようやく、眼前に立つ私の顔をはっきり認識したように彼女は私の名前を口にする。

 

「篠ノ之……。篠ノ之箒か」

「ああ、今日はよろしく頼む。……体調が優れないようだがどうした? 何か悪い物でも口にしたのか?」

「悪い物……うッ!!」

 

 何か思い当たるモノでもあったか、顔を青褪めさせ口元を押さえつけるボーデヴィッヒ。私がそれとなく洗面所の位置を指差すと彼女はそちらへ脱兎の如く駆け出し、しばらくして、フラフラとあからさまに調子が悪そうな足取りで戻ってきた。

 

「本当に大丈夫なのか、ボーデヴィッヒ。もし体調が悪いようなら棄権も……」

「それには及ばん……ISの生体調節機能で何とかなる……。それに、織斑一夏を前にして、尻尾を撒いて逃げ出す事など、あって良い訳が無い……! 貴様は私の……うっ。…………邪魔を、しない事だけ考えていろ……」

 

 そう言って気丈に私を睨み上げるボーデヴィッヒだが、実際息も絶え絶え、と言った感じだ。そうして何秒間か睨まれていたか。奴は諦めたように視線を逸らすとロッカーに手をかけ、恨み骨髄と言った様子で小さく呟く。

 

「石動惣一め……絶対に許さんぞ……!」

 

 その言葉に、私は眉を(ひそ)めた。

 

「何があったと言うんだ? 石動先生が貴様に何かしたとでも?」

「ああそうだ! 奴は応接室で反省文を書いている時、私にコーヒーを差し出してきた……それも何度もだ! 今でも鮮明に思い出せる。私の口の中で炸裂した、あの(おぞ)ましき黒き恐怖! 奴によってコーヒー豆が消費されるなど世界の、いや宇宙全体の損失だ! 許される事では無い!」

 

 まるで地獄を見て来たような剣幕で叫ぶボーデヴィッヒに、更衣室中の視線が再び集中する。中にはその話を聞いて戦慄するものも居た。今悲しそうな、あるいは思い出すのを拒むような表情で目を伏せた彼女らは『経験者』だな。同時に、私は彼女が戦う前からなぜこれほど消耗しているのか、その答えを得て何とも言えないやるせない気持ちになるのだった。

 

「…………大体分かった。だがそれは、お前が懲罰を受けるような真似に出たのが原因なんだろう? 逆恨みもいい所じゃないか」

「黙れ……!」

 

 自分でも不覚を取ったと言う意識があるのか、青ざめながら頭に血を登らせると言う器用な事をやってのけるボーデヴィッヒ。彼女はそのまま早々に着替えを終えると、ピットへ向かう出口へ足早に去って行った。

 

 ――――此度の戦、勝てるだろうか。ここしばらく自身の訓練に注力していたせいで、一夏がどれほど腕を上げているかは定かでは無い。それに一夏と組むデュノアさんも専用機の持ち主、つまりはかなりの実力者であるはずだ。そして何よりボーデヴィッヒの不安要素。例えISの生体維持、調整機能をもってしても十全の状態になるとは思えない。大丈夫なのだろうか……。

 

 一瞬、私はどうしようもない不安感に襲われる。だが、石動先生の言葉を思い出し、弱気な自分を振り払うかのように頭を振った。

 

 ……何を馬鹿な。他人の事は二の次、まずは自身の実力を発揮しきる事を考えろ。私が石動先生に付けてもらった稽古を無駄にする訳にはいかない。余裕を持て。そして耐え忍ぶ心を忘れるな。

 

「よし!」

 

 自分の両頬を張って鏡を見る。そこには笑顔の自分が映っていた。そうだ、まずは目の前に戦いに全力で挑む事。あくまで勝利はその結果に過ぎない。そんな風に思うと悪い気分が綺麗さっぱり消え、高揚感が沸き上がってくる。心の中に火が点ったような感覚だ。悪くない。

 

 待っていろ一夏。今の私の力で、お前の度肝を抜いてやる。心の中で驚く一夏の顔を想像してさらに気合を入れた私も、更衣室を後にしてボーデヴィッヒの後を追うのだった。

 

 

 

 

 

 

「……いきなりラウラが相手、それに箒も居るなんて、開幕でラスボスと戦わされる気分だぜ」

「篠ノ之さんがボーデヴィッヒさんと組む事になったのは知ってたけど、まさか初戦だなんて僕もビックリだよ」

 

 着替えを終えた俺達は、備え付けの椅子に座り、向かいあってこの後訪れるであろう戦いに思いを馳せていた。現地点での紛れもない一年生最強であるラウラに、俺を上回る剣の使い手である箒。どちらも生半可な相手じゃない。鈴とセシリアを一蹴したラウラの強さは、夢に見るほど瞼に焼きついている。

 

 けど、どちらかと言えば怖いのは箒の方かもな。一度だけ見たアイツの訓練風景。その凄まじい熱量は、俺の心に火を付けたままだ。アイツの剣にかける情熱を考えると、この期間にどれだけ腕を上げているのやら。

 

「とりあえず『プランA』、先に篠ノ之さんを落とすつもりで行くんだよね?」

「ああ。……悔しいけど、タイマンでラウラに勝てるとは思えねえからな」

 

 だがそれでも勝つために、俺達は箒の撃破を優先する。今も言ったが理由は単純、一対一でラウラに勝てるとは思えない。奴の持つAIC――<アクティブ・イナーシャル・キャンセラー>――が余りにも致命的過ぎるからだ。アレに捕まれば一人では敗北は必至。しかも実弾兵器を防ぐ盾にもなると言う。エネルギー兵器ならすり抜ける事も出来るらしいが、あいにくシャルルはその類の装備は所持していない。

 

 ……俺達の『プランA』は単純だ。基本的にコンビネーションを軸に戦い、シャルルが箒を相手にして、その間俺がラウラを足止めする。そして箒をシャルルに倒してもらって、二対一でラウラを追い詰めるというものだ。

 

「箒が俺の知ってる箒のままなら、シャルルは割と相手しやすいはずだ。ラウラは俺が何とか足止めするんで、その間にアイツをどうにかしてくれよ」

「うん、分かってる。でも気をつけてね一夏。ボーデヴィッヒさんは二人でかかってもそう簡単に倒せる相手じゃない。僕も篠ノ之さんを倒すのに無傷とは行かないだろうし、一夏が零落白夜(れいらくびゃくや)を使えるだけの余力を残すのが最低限の条件なんだからね」

「そこなんだよな……」

 

 俺はその最低条件の厳しさに頭を抱えた。ラウラのISの強みはAICだけじゃない。遠距離ではセシリアを落とした大口径のリボルバーカノン、中近距離では変幻自在のワイヤーブレード、それを掻い潜った所で至近距離戦用のプラズマ手刀が待ち構えている。それを攻めに使えばどれほどの力を発揮するかは、先の『一悶着』で証明済みだ。

 

 確かに、俺も今日まで訓練を積んできた。半端な事はしてないつもりだ。けど、ラウラとやり合えるくらいになったかと言うと不安が残る。

 

 俺のそんな不安そうな様子を見かねたか、シャルルが立ち上がり、俺の顔を覗き込んで笑って見せた。

 

「大丈夫だよ! 僕らだってその為の訓練を積んできたんだ。それに一夏の『切り札』もあるし、クヨクヨしてても始まらないよ!」

「…………ああ、そうだな。ありがとよシャルル、気合入ったぜ」

「どういたしまして」

 

 ――――ったく、何をやってんだ俺は。微笑みかけてくれるシャルルを見て、俺は改めて奮起した。信頼してくれる仲間がいる。俺はこの信頼に応えたい。それに、箒との約束。詳しい事は結局わからなかったが、アイツは気の抜けた俺に勝ったって喜びはしないだろう。

むしろ怒鳴られるまである。負けるつもりなんて毛頭ないが、不甲斐ない戦いを見せる訳には行かねえな!

 

「……そろそろ時間だね。行こ、一夏」

「ああ。今の俺たちは、負ける気がしねえ!」

 

 笑いながら言って、二人並んで更衣室を出る。隣には信頼出来る友。努力に悔いは無い、心の馬力も十分だ。そんな最高のコンディションで、俺達二人は強敵との戦いに望むのだった。

 

 

 

 

 

 

 燦々(さんさん)と照り付ける日差し、そして生徒や観客からの歓声の元で、僕たちとボーデヴィッヒさん、篠ノ之さんのコンビは対峙した。

 

 地上に降りて、目の前に並び立つシュヴァルツェア・レーゲンと打鉄。両者共に凄まじい威圧感を放っているのは共通だが、操縦者の表情は対照的だ。

 どこか晴れやかな顔で私たちを見据える篠ノ之さん。一方のボーデヴィッヒさんは何かに苛まれるような表情で一夏を睨みつけている。どうやら彼女は本調子と言う訳じゃあないらしい。一夏には悪いけど、これなら多少楽になるだろう。

 

「一戦目で私と当たるとは、実力だけではなく、運も伴ってないらしい……やはり貴様に教官が教えを与える価値は無い。早々にここで消えてもらおう」

「へっ、言ってろ。……お前とこんな早くと当たるなんて、思ってなかったぜ、箒」

「私もだ。本来ならお前との闘いは最後に取って置きたかった。……だが、互いに手の内を知らぬまま戦えるんだ。むしろお前を驚かせるには好都合だな」

「言うじゃねえか。そっちこそ、今までの俺と同じと思うなよ?」

 

 正面に立つボーデヴィッヒさんとの会話を早々に切り上げ、一夏と篠ノ之さんが獰猛な視線を交わし合う。無視される形になったボーデヴィッヒさんの顔が更なる敵意に歪んだ。一応これも作戦の内だ。彼女みたいな自身の強さに絶対の自信を持つタイプは、過小評価されるのを何より嫌う。一夏もなかなかどうして、良い演技をしてくれる。

 

「おっと。僕もいるんだから、一夏だけが相手だと思わないでね?」

「当然だ。胸を借りるつもりで行かせてもらう、よろしく頼むぞ」

 

 会話に割り込んだ僕に対しての篠ノ之さんの物言いは、中々どうして気持ちのいいものだ。この人とは良い戦いが出来そうだ。僕は自分の中の国家代表候補生のプライドが首をもたげるのを感じた。やっぱり負けたく無いな。こうして僕のためにペアを組んでくれた、一夏のためにも。

 

 『10』。アリーナに設置された大型モニターに、試合開始までのカウントダウンが表示される。さて、上手く行ってくれるかな……。

 

『5、4、3、2、1、試合開始!』

 

 その放送直後。ボーデヴィッヒさんが右手を掲げAICを起動するのと僕が対IS用グレネードを放り投げるのはほぼ同時だった。放られたグレネードが丁度僕らの中間でピタリと動きを止め、その瞬間起爆。爆炎と黒煙が僕たちを隔てる事になった。一夏が動く。白式の持つ機動力を生かして煙の横から躍り出た一夏が、僕の渡した五五口径アサルトライフル<ヴェント>を予定通り彼女たちの間に撃ち込んだ。

 

 まずは分断。流石にこの奇襲は予想していなかったか、狙い通りに篠ノ之さんがこちら側に飛び出す。ボーデヴィッヒさんはまだ黒煙の向こう側だ。下がって避けたか、AICで止めたか。恐らく後者だろう。なら問題ない、まずは目の前の相手を――――

 

『シャルル、避けろ!』

 

 一夏からの通信に僕は慌てて地を蹴る。次の瞬間黒煙を突き破った砲弾が、先程まで僕の居た所を貫くのが見えた。シュヴァルツェア・レーゲンの大口径リボルバーカノン! もしあのままあそこに留まっていたら……そう思った僕の頬に一筋汗が垂れる。

 

『サンキュ、一夏。助かったよ!』

『ああ! 箒は頼むぜ!』

 

 それだけ言い残して、ボーデヴィッヒさんの足止めに向かう一夏。それを見送って、僕は改めて目の前の相手と対峙する。箒さんの打鉄は、既に近接ブレード<(あおい)>を構え、こちらの出方を伺っていた。

 

「……相手が一夏じゃなくて、ごめんね、篠ノ之さん」

「構わないさ、倒す順番はさほど重要じゃない」

 

 一夏の前情報と違って、篠ノ之さんは僕の挑発に全く動じる事は無い。それ所か、さらに挑発で返してくるような有り様だ。もしかしたら、一夏のくれた情報はあんまり役に立たないかも。

 

「――――行くぞ!」

 

 その一声と共に、打鉄が飛び出す。特別な工夫の無い直線的な動き。僕はその速度と同じ速度で後退して距離を保ちながら、先程一夏に渡したのと同じ<ヴェント>を呼び出(コール)し迎撃。対する篠ノ之さんは実体シールドを呼び出し、それを構えて無理やり距離を詰めようとする。だがいい的だよ。

 

 咄嗟に呼び出した対ISグレネードを上に放り投げ、その着弾点に篠ノ之さんが踏み入った瞬間六二口径ショットガン<レイン・オブ・サタディ>二丁を手にし速射。こちらに押し出されていた実体シールドの表面を強かに撃ち付けその衝撃で足を止めさせる。

 

 僕の持つ技能<高速切替(ラピッド・スイッチ)>は<ラファール・リヴァイヴ・カスタムII>に備えられた大容量拡張領域(バススロット)を生かした、装備の高速呼び出し・交換技能だ。近接、射撃を問わず常にもっとも状況に即した装備を入れ替えながら戦う。それと前進後退による距離調整を合わせた戦術である<砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)>は特定の距離に特化した相手に対して非常に相性がいい。

 

 篠ノ之さんに向けて落下していた対ISグレネードが大爆発を起こし、打鉄を頭上からの爆炎が包み込んだ。

 

 ――――これで、大分削れたと思うんだけど。

 

 その時、黒煙の中から何かが飛び出す。爆炎で黒く汚れひしゃげた実体シールド。もはや盾としては役立たずのそれを投げ飛ばしたのか! 瞬時に近接ブレード<ブレッド・スライサー>を呼び出した僕は眼前に迫った盾を力任せに思いっきり弾き飛ばした。

 

 瞬間、僕の顔に影が落ちる。僕はハイパーセンサーで確認する手間も惜しんでその場から飛び退き、落下してきたほぼ無傷の(・・・・・)打鉄が振るったブレードの餌食になる事を何とか免れた。着地した打鉄はすぐさま姿勢を立て直すと飛び出し追撃に移る。その姿を狙って六一口径アサルトカノン<ガルム>を撃ち放つが、彼女はそれを読み切っていたかのように跳躍、そのままスラスターを全開にして再び僕の上方を取った。

 

 マズい。前後の動きを主とする<砂漠の逃げ水>にとって上を取られるのは致命的だ。地面と言う()が後退での距離調整を許さない。だがそれならとガルムで空中の篠ノ之さんを撃墜しようと連射するが、彼女はまた実体シールドを呼び出し、弾道に対して角度をつけたそれで的確にガルムの弾丸を逸らし、完全直撃を防いでくる。

 

「――――はあっ!」

「あっぶねえ!」

 

 目前まで迫った篠ノ之さんが近接ブレードを一閃しようとした瞬間、どこからともなく飛びだして来た一夏がそこに割って入った。剣と剣がぶつかりあう音が間近に聞こえる。

 

「一夏!?」

「シャルル俺を掴んで右ィ!」

 

 一夏の言葉に僕は咄嗟に白式のスラスターを掴んで飛び離れる。そこを切り裂く六本のワイヤーブレード。その場に残っていた篠ノ之さんも、あわや直撃と言う所で実体シールドを犠牲にして斬撃の嵐から逃れる事に成功していた。

 

「ごめん一夏、また――」

(わり)ぃ後でぇーッ!!」

 

 叫んだ一夏は再び瞬時加速ばりの速度で突撃、ボーデヴィッヒさんの元へと突っ込んでいく。

 

「よそ見をするなッ!」

 

 その姿に一瞬気を取られた僕にまた別のシールドを前面に押し出した篠ノ之さんが急接近、しかし僕はレイン・オブ・サタディを速射してシールドを破壊、再びガルムの砲口を彼女に向けその胴体を狙う。

 

「私は、お前のように両手の指に余るほどの装備をとっかえひっかえする事は出来ないが――」

 

 だが、瞬時に新たなシールドを呼び出した篠ノ之さんはその直撃を防ぎ、再び盾を前に突撃してくる。

 

「――両手二本程度の数なら、何とかなる……!」

「くっ……!」

 

 幾ら一枚一枚の容量が小さいとはいえ、一体、何枚のシールドを拡張領域に入れて来てるんだ!? まさかここまで割り切って戦いに望んでくるなんて! さっきのグレネードを防いだ時も前面の防御に使っていたのとは別にもう一枚シールドを呼び出して防いでいたって訳か。聞いていた彼女とはあまりにも実力に隔たりが有りすぎる……!

 

 そんな思考の一瞬の間隙。そこを突いた篠ノ之さんが眼前に迫り、ブレードを振り抜く。レイン・オブ・サタディの迎撃は間に合わず、その銃身が中ほどで断ち切られた。

 

 返す刀の追撃。装甲に守られていない首を狙う一閃を咄嗟に飛び退いて何とか躱した僕はもう一丁のレイン・オブ・サタディとガルムを構え、右手にブレード、左手にシールドを構えて残心する篠ノ之さんの姿を視界に捉える。

 

 その姿は戦功を求めて突き進む武者と言うより、目の前の相手を如何に斬るかのみに注力する剣豪のそれだ。相手が使っているのは訓練機、戦術的にも有利なはずなのにも関わらず、実際に追いつめられているのは僕の方だ。胸中で悔しさがこみ上げる。

 

「……どうしたの、攻めてこないのかな?」

「…………倒す順番は重要ではないと言ったな。あれは嘘じゃない」

 

 僕の苦し紛れの挑発に、ギリギリと引き絞られた弓のような緊張を見せるその剣とは裏腹、どこか諦めたように篠ノ之さんが笑う。

 

「不本意ではあるが、私はこのまま一夏が倒れるまでつき合っていてもいいんだが」

「……それはこっちから御免被(ごめんこうむ)りたいね……!」

 

 なんて事だ。足止めしてるつもりが、真実足止めされてたのは私って訳か……!

 

『……ごめん一夏! 篠ノ之さんはプランAを見抜いてる!』

『マジかよ!? じゃあプランBか!』

『いや、プランC()で行こう。この人達の強さは予想以上だ。出来る事全部やるしかない』

『初戦から使いたくなかったけど、出し惜しみ出来る相手じゃあねえよなやっぱァ!』

 

 その通信を合図に、遠方で戦っていた一夏がボーデヴィッヒさんと剣と手刀を交えながらこちらへ突き進む。僕は篠ノ之さんがそちらに視線を向けた一瞬にレイン・オブ・サタディを撃ち込むとガルムを迫るボーデヴィッヒさんに向けて連射し、防御の姿勢を取っていた篠ノ之さんを尻目に一夏とボーデヴィッヒさんとの剣戟に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「いきなり、凄い戦いになってきましたね」

 

 そう言う真耶の瞳は、眼下の彼女らの戦いに釘付けになっていた。無理もない。これまで専用機持ち三機が一堂に会する試合など殆ど無かったし、残る一機の訓練機も相当な腕前を見せ専用機持ちに有利に立ち回っているのだ、今頃観客も大盛り上がりだろう。

 

「流石にどんな形であれ、実戦を経験した奴らは違うって事っすなあ」

 

 石動はそう朗らかに笑って、自前のコーヒーメーカーを準備し始めた。私は飲まんぞ、と鋭く一瞥を飛ばすと、奴は分かっているとでも言いたげに頷いて見せる。

 思えば、普段に比べてラウラが僅かながら動きに精彩を欠いているのも、この男のコーヒーをアレだけ飲まされたのが原因なのでは? 私は訝しんだが、下手に奴を刺激してラウラの様な目に遭うのも御免だ。

 

 考えを心の中に仕舞い込み、私も今行われている戦いに目を向ける。先程まで別々に戦っていた一夏とデュノアが合流し、箒とラウラに対して乱戦を仕掛け始めた。あのまま一対一を続けてしまってはジリ貧と判断したのだろう。

 

 だが、その状況に陥っていたのは一夏ではなく、むしろデュノアだ。一夏と同様に近接以外の装備をそもそも持ち込まず、代わりに大量の実体シールドを拡張領域に詰め込んできた箒に銃器メインのデュノアは上手く時間を稼がれてしまう事になってしまった。

 

「まさか篠ノ之がああ言った判断をした上であの場に立つとはな。一体何を教えた、石動先生」

「俺はちょっといろんなやり方を教示しただけですよ。例えば、『仲間に任せる』とか」

 

 そう言って石動は手引きのコーヒーミルに豆を入れ、楽しそうにそのレバーを回し始めた。石動のコーヒー作りはどちらかと言えばかなり凝ったものだが、奴自身の技術の殆どは稚拙なものだ。

 ただこの豆を挽く作業に関しては傍目にも滑らかで力強く、カフェのマスターと言う自称にも納得行くほど(さま)になっている。ここまで綺麗に豆を挽いているのにあの味になるのは全く不思議な事だと私は思っていた。

 

「うーんいい香りだ…………ほら、ボーデヴィッヒの奴が強いのは周知の事実じゃないですか。だからアイツなりに、それを最大限『利用』しようと頭使ったんでしょう。俺としては手放しで褒めてやりたい所ですね」

「何か悪意ある言い方だな。個人的に言えば、あの様な消極的なやり方は好みじゃあない」

「でも攻めてたって勝てそうな勢いでしたけどね、アイツ」

「デュノア君が得意とする<砂漠の逃げ水>を地面を利用して封じた所、あそこ凄かったですよね! 私だったらつい真正面から撃ち合いに行っちゃいそうですよ!」

 

 興奮気味に(まく)し立てる真耶を鋭い一瞥で黙らせて、私はアリーナに視線を戻した。交錯した一夏とデュノアが空中で手を取り合い、そのままラウラの砲撃を回避しつつ戦闘相手を綺麗にスイッチする。

 

「一夏の奴も相当腕を上げたようだな。ラウラが本調子では無いとは言え、ここまで喰らいついて行くとは」

零落白夜(れいらくびゃくや)をボーデヴィッヒさんが警戒しているのもあるんでしょうが、ワイヤーブレードも的確に回避しています。相当訓練を積んだんでしょうね……」

「俺に隠れて稽古でもつけてあげてたんじゃないすか~織斑先生」

「貴様と一緒にするな」

 

 咎めるように言って睨みつける私に石動は怖気づくように目を逸らした。だが、その口元は笑ったままだ。

 

「ずっと言おうと思っていたが、余り一人の生徒に注力しすぎるのは教師として正しい行いとは思えん。何故そこまで篠ノ之に協力する?」

「俺に『強くしてくれ』って言ってきたのがアイツだけだからですよ」

 

 肩を竦めて言いながら石動はカップにフィルターを乗せて挽いた豆を乗せ、そこに円を描くように湯を注ぐ。

 

「でもまあ、他の生徒に同じ事言われて同じだけ熱を入れてやるか、ってなると違うと思うんすよね」

「どういう事だ?」

「それだけアイツの熱意が凄かったって事ですよ……うし出来た!」

 

 作り終えたコーヒーを満面の笑みで見つめる石動。会心の出来と言った表情だが、カップに揺れるコーヒーは光を反射しない暗黒の湖面を晒している。それを見た真耶がそっと三歩後ずさった。しかし当の石動はそれにも気づかずにカップを持ち上げ、その香りを一度楽しむと躊躇なくそれに口をつけた。

 

「まっず! 何で? 何がいけないんだ……あ痛ァ!」

「石動先生、少しは真面目に話を聞け」

「聞いてますって! ったく、すぐ実力行使に移るのは織斑先生のいや今のやっぱ無……う゛っ」

 

 何やら言いかけた所、再び書類のファイルに手を掛けた私を見て慌てて距離を取った石動は急に苦しそうな表情を浮かべる。先程まで健康的だった顔が急に土気色になり、冷や汗をだらだら流し始めた。

 

「どうしました、石動先生?」

「いや、なんか腹の調子が……」

「ええっ!? 大丈夫ですか!?」

 

 苦悶の顔で呻く石動と大げさに慌て始める真耶に、私は思わず呆れて溜息をついた。こんなやり取りももう何度目か。

 

「……ちょっとお手洗い行ってきます。いやあ、アリーナは男子用トイレがちゃんとあって助かる。いやホント」

「早く戻ってこい。間違えても外に出るなよ」

 

 一応釘を刺すと、石動は観念したように諸手を挙げ、手首に付けられたブレスレット状の発信機を指で指し示した。

 

「了解。正直そろそろ発信機外してほしいんすけど」

「さっさと行け!」

「あーい」

 

 先程までの苦悶の表情はどこへやら。笑って気だるげに言うと、石動は足早に管制室を後にする。その足取りは確かなもので、どうにも腹痛を起こしているとは思えん。だが、引き留めるわけにもいかん。

 

「まったく……」

 

 奴と話していると疲れる。どうにも緊張が抜けないのだ。普段は気楽そうな教師として振る舞っている奴だが、時折、初めて会った時の底知れ無さを未だに感じる事がある。先日のラウラの一件と言い、奴が教師として尽力している姿を何度も目にしたにも関わらず、私の本能が奴への警戒を解かぬよう叫んでいるのだ。束も奴への警戒を怠らぬように言っていたのも一因だろう。

 

 そんな事を深刻ぶって考えていると、後ろで様子を眺めていた真耶が私を見てくすくすと楽し気に笑っていた。

 

「どうした、山田先生? 私の顔に何かついているか?」

「いえ、だって織斑先生と石動先生のやり取りって、『ダメな父親を嗜める娘さん』みたいで面白くて……」

「……………………」

 

 私は普段の咎める様なそれとは違う、白い目で真耶を見た。それに真耶は不思議そうな顔で小首を傾げる。さて、余り触れて欲しく無い所に触れられた礼はどうするか。

 

「…………真耶、後日道場に来い。久々に組手でもしようじゃないか」

「えっ」

「私が家族に関する事で弄られるのが大嫌いなのは昔言った筈だが」

「あっ」

 

 言われて思い出したのか、真耶の顔からさっと血の気が引く。そこからの真耶は早かった。腰を90度の角度に曲げ謝罪の言葉を叫ぶ。

 

「すみません許してください私が悪かったです!」

「フン、それについては後だ。今は試合に集中するぞ」

「はい…………あっ! 織斑先生!」

 

 とぼとぼとモニターに視線を戻した真耶だったが、その事態に慌ててこちらを振り向いた。乱戦の中、一夏が今まで温存していた零落白夜をついに起動したのだ。

 

「遂に仕掛けるか……!」

 

 誰ともなく呟いた私は無意識に身を乗り出し、その顛末を記憶に刻むべく戦いの趨勢を見据える事に注力し始めるのだった。

 

 




ちょっと中途半端な切り方な感じがするけど戦闘シーン難しいし許してください! 何でもしますから!
明日はエボルトとのケッチャコ……(本当かな?)
もあるのに生で見れないし……俺の不運に自分が泣きそうです……!
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