星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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会議パート(舌戦パート)です。
エボルトの会話パート書くのめっちゃ楽しいんですよ……福音戦はガッツリバトル出来ると思うんでちょっと待ってください……(土下座)

評価感想お気に入りありがとうございます。ビックリするくらい励みになります。
それと誤字報告をしてくれる皆さま、本当にごくろうさまです。スゲーイ助かっております。


兎と蛇のネゴシエーション

「――――何故ここに居る、石動。お前には、生徒達の面倒を見るように言ったはずだが」

「いやいや~そんな堅い事言わずに~……何も知らないままじゃ、俺だって心配で生徒達の事なんて見てられません。話くらい聞く権利はあるはずです」

「…………良いだろう。だが、この作戦に関する情報は関係国の最重要軍事機密に当たるものだ。もし情報が漏洩でもすれば、後ろ盾のないお前は実験材料として研究所送りになりかねん案件だぞ」

「怖いなぁ……。けど、仮にも俺だって教師ですから……」

「分かった、それ以上言うな。私も教師だ、それ程察しは悪くない」

 

 花月荘の最も奥に設けられた大座敷に急遽設置された作戦会議室に、今回の臨海学校に参加していた専用機持ち達と教師陣の殆どが集められていた。臨海学校と言う一大行事の中で、それを中断してまでこの様な会合が行われたのは、ひとえにそうせざるを得ないほどの緊急事態が発生したからだ。

 

「……では、ミッションの概要を説明する。依頼主はIS学園上層部……だが、某国からの要請を受けてのことだろう。目的は暴走した最新の軍事用第三世代IS、<銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)>の鎮圧だ」

 

 織斑千冬の言葉と共に、薄暗い室内に幾枚もの空間投影ディスプレイが浮かび上がる。そこには銀色の装甲に包まれた荘厳と言った趣のISと、暴走直後と思わしき、真っ赤に染まった機体が飛行する姿が映し出されていた。

 

「約二時間前、ハワイ沖で試験稼働を行っていた<銀の福音>が突如として暴走を初め、試験空域から離脱。搭乗者のナターシャ・ファイルスとも通信が途絶え、強制停止命令も受け付けないそうだ。その後、衛星からの追跡の結果、<銀の福音>は不規則なルートで移動を続けたが、約三時間前に突如日本近海を通過するルートをとり始め、約一時間後にここから約二キロの地点の海上を通過すると試算された。そして、最速で事の収拾にあたるため、我々が<銀の福音>の相手をする事になった、と言う訳だ」

 

 言う織斑千冬の顔は真剣そのもので、これが訓練やスポーツなどではない、実戦と言う事を否応なく理解させる説得力がある。だが、その声色にはこのような事態そのものに対する怒りがうっすらとにじみ出ているのが感じ取れた。当たり前か。本来こんなのは、文字通りの軍の仕事だ。幾ら戦力があるとは言え、少年少女達をこんな事に巻き込むのは本意じゃあ無いだろう。

 

「山田先生を中心とした教員達が訓練機を用い空域を封鎖、地上に残る者は万一の避難誘導等を。<銀の福音>に対しては専用機搭乗者各自で事に当たってもらう事になる。それでは、これより作戦会議を執り行うが、何か質問がある者は居るか?」

 

 そこで一度言葉を切って、生徒達の顔に視線を巡らせる織斑千冬。ボーデヴィッヒは軍属故かこの事態の重大さを痛感しているようで、鋭い眼差しでディスプレイを見つめており、デュノアも顔を強張らせ、冷や汗を垂らしている。だが、それよりも深刻な顔をしているのが一夏、篠ノ之、オルコット、(ファン)。奴らは真っ赤に染まった<福音>の姿を睨みつけるように凝視している。その異様な雰囲気の中で、デュノアがおずおずと手を挙げた。

 

「……すみません、僕からいいですか? <銀の福音>についての、現状解っている限りのスペックデータを頂きたいのですが……」

「その前に一ついいっすか?」

 

 至極当然の要求をしたデュノアの言葉を、壁に寄り掛かった俺が遮る。先ほどの説明には、<銀の福音>の現状について最も重大な事が抜け落ちていた。だが、それは織斑千冬も重々承知していた様で、俺を一瞥してから、諦めたかのように口を開いた。

 

「石動…………大体言いたい事は分かる。『銀の』福音が『赤い』理由だろう?」

「はい。この件に関しては、デュノアやボーデヴィッヒにもついて説明せざるを得ないと思うんですよ。この場限りって事で、<例の事件>の箝口令(かんこうれい)、解除する事って出来ないんですかね?」

 

 織斑千冬はその言葉にほんの一瞬だけ、思案するように目を閉じたが、すぐさま決断的に眼を開き俺の要求に即断した。

 

「そうだな、良かろう。いや、誰も言い出さなければ私から言っていたが……安心しろ、それに関しては私が全面的に責任を取る。だが、その前に当人たちの意見を聞かせてくれ。織斑、(ファン)、オルコット、そして篠ノ之。例の件について、皆に話しておくべきだと思うか?」

「そうですね、アタシは話しておくべき……じゃなくて、話しとかなきゃマズイと思います」

 

 その問いに最も早く凰が反応する。あの時の俺と一番間近でやり合ったのは奴だからな、そして何より決断力はこのメンツの中でも一番だ。こう言う奴は戦闘能力以上にその姿勢が全体の趨勢を決める原動力となるから面白い。ここぞという時の本能的な勘と戦術眼を併せ持ち、肉体面、精神面共に鍛え上げられたタフさを持つこの女は……ライダー達で言えば猿渡(さわたり)のようなタイプだな。奴には追いつめられた時の万丈(ばんじょう)ばりの爆発力と冷静さまでもがあったが、こいつはどうか……機会が巡ってくれば試してみるとするか。

 

「俺も鈴と同意見。悔しいけど、アイツの事知らないで挑んだら、多分、いや絶対失敗する」

(わたくし)もです。デュノアさんやボーデヴィッヒさんの命に関わりますわ」

 

 いち早く賛同を示した凰に、一夏とオルコットが追従する。そんな中で、篠ノ之だけは僅かに震える体を抑えながら、振り絞るように声を出した。

 

「…………私も、機密の開示に賛成です。奴は……<ブラッド>は恐ろしい相手です。無知につけ込んでくる可能性だって、ありえます」

 

 苦々しく呟くその様をじっと見て、織斑千冬は難しい顔で頷く。

 

「分かった。山田先生、頼んでおいた報告書を皆に」

「は、はい!」

 

 既にこの展開を予期していたか、山田ちゃんが予め用意していた<ブラッド>の資料を配って回った。俺もにこやかにそれを受け取ってさっと目を通す。そこには<クラス代表対抗戦>に突如現れた無人ISに関するデータと、一夏達からの証言に基づいた<ブラッド>のデータが事細かに記されていた。

 

「無人ISの襲撃……第三者によるISのコントロール奪取!? 馬鹿な、このような事件が……!?」

「<ブラッド>って、一夏が前<スターク>を見た時に言ってた奴の事だよね? この赤く染まった装甲って、これ……!」

「デュノアの考えた通りだ。恐らく、この<銀の福音>の暴走には<ブラッド>が関わっていると見るのが自然だろう」

 

 驚愕する二人に織斑千冬が首肯する。その考えは理路整然としていて、平時の俺なら思わず拍手でもして褒めちぎりたくなる素晴らしい議論の形だ。意外と真っ当な『議論』ができる人間ってのは少ないからなあ、立派なもんだよ…………でも残念、今回俺は関わってねえんだよなあ。

 

「一夏、このブラッドって奴、操縦技術はどれくらいなの? 僕達でもやり合える?」

「正直、怪しい。……いや、俺らもあの頃より全然強くなってんだけど、アイツ初めて使った筈のISで、しかも遠隔操作で俺達ボコボコにしてたからな……鈴かセシリアのどっちかでもいなかったら、俺はあそこで死んでたと思う。……多分、弱く見積もっても箒やラウラと同格、むしろそれ以上のはずだぜ」

「あの<スターク>よりはマシだと思うが、な……」

 

 一夏と篠ノ之が何処か悔しそうな顔でデュノアの問いに答えた。当然か。一夏にとってブラッドは自分のみならず、二人の幼馴染を享楽的に傷つけた強者。篠ノ之にとっては一度殺されかけ、自身の心底を直視させられた事件の元凶だからな。本来思い出すのも業腹(ごうはら)だろう。その様を見て俺は心の中でにんまりと笑う。一夏の奴はともかく、篠ノ之が奴と戦うときに冷静さを保てるかどうか……これはますます目撃したくなったぜ。

 

 そんな心中などおくびにも出さず、俺は軽く手を叩いて皆の顔を上げさせる。そろそろ話を進めねえと、時間が来ちまうからな。

 

「さて、時間も無え事だし、ブラッドについてはこれくらいで良いだろ! 織斑先生、デュノアの質問に戻りましょう。<福音(ゴスペル)>の詳細スペック、お願いできますか?」

「ああ。榊原(さかきばら)先生、書類の回収と破棄をお願いします。では出すぞ」

 

 榊原先生が皆に渡った<ブラッド>の書類を回収するのを横目にしつつ、織斑千冬は<福音>のデータをディスプレイに映し出した。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型ですか……ビットは無いようですが、わたくしの<ブルー・ティアーズ>と同様オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

「攻撃力と機動力が飛びぬけてる……厄介だわ。幾らコンセプトが違うとは言え、あたしの<甲龍(シェンロン)>じゃ一対一は厳しそうね」

「この特殊兵装、強力極まりないね。丁度リヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、それでも長時間は持たなそうだ」

「まだ試験前だったのか、格闘能力についての記載が無いのが気になるな。それにどのような攻撃能力なのか、具体的な部分がはっきりしていない」

「試験の映像データとかあればいいんだけどな。流石にそこまでは貰えねえか……」

 

 そのデータを見て皆が自分なりにそれを解釈し、一つ一つ重要と思った点を上げてゆく。俺もそれに倣って、そのデータに目を通した。

 

「オイオイオイオイ、こいつはとんでもねえぞ。正に次世代の戦略兵器だな」

「どう言う事です、石動先生?」

 

 思わずつぶやいた俺に、篠ノ之が怪訝そうに問いかけて来た。ふむ。このスペックを見て自身のISとの比較くらいは出来るようだが、まだ皆その裏にある設計思想やらを理解しようって視点には立ってねえか。ちょっくらInstruction(教え)をくれてやるかね。

 

「いいか篠ノ之。端的に言ってこいつは、メチャクチャ頭のいい『ミサイル』なんだよ」

「ミサイル?」

「ああ。普通のミサイルならISでも落とせる……むしろそのせいでミサイルの価値はちょっと落ちたのは一般常識として知ってるな? ま、ISの数自体が少ないからミサイル自体はまだまだ現役だけど」

「はい。<白騎士事件>はそもそも日本へ飛来したミサイルを白騎士が迎撃した事件でしたから」

 

 篠ノ之の言葉に一瞬顔を歪める織斑千冬の顔を横目に見て記憶してから、俺はその意見を肯定する。まあ、実際その頃俺はこっちの世界に居なかったから、実感としては全然ないんだけどな。

 

「そうだな。ただコイツは人間が直接操縦する機体だ、普通のミサイルとは訳が違う。超音速で自由に空を飛び回り、あらゆる妨害を自己判断で退けて目的地まで到達し、かつ目標のみを徹底的に殲滅しそれ以外に不要な被害を出さない。それが完璧なレベルで可能な性能を持った、ミサイルの後継兵器って言ってもいい存在だと思うぜ」

「待ってくださいよ、じゃあもし、そんなミサイルの進化形みたいな奴が日本に上陸でもしたら……」

「碌な事にならないのは間違いないだろうな」

 

 危惧するように声を上げた一夏の言葉を、織斑千冬が肯定した。確かにそいつはご勘弁願いたいね。折角平和な世界なのに、俺より先にぶち壊しにされでもしたら本気で地球を滅亡させかねんぞ。それに、俺はまだまだ『人間の強さ』に興味がある。折角それをじっくり学べる機会を得たんだ。人間関係くらいはともかく、世界情勢が変わっちまうようなトラブルは勘弁してほしいぜ。

 

 俺は難しい顔で溜息をつく。それをよそに、ボーデヴィッヒがビシリと手を挙げ立ち上がった。

 

「教官。偵察などを行ってさらに詳細なデータを入手することは?」

「無理だな。<福音>は現在も超音速航行中、更に何時軌道を変えるかも分からん暴走状態だ。コンタクトを取れるのは一度きりが限度だろうな。それと織斑先生と呼べ」

「…………一度きりのチャンス、って事は…………」

 

 凰がそういう言い終わるのが早いか、俺を含め、その場に居る全員の視線が一夏へと向いた。

 

「えっ俺?」

 

 当の一夏がそんな事など露程も思っていなかった、とでも言いたげに自分を指差す。その様を見て、その場の女性陣があからさまに溜息を吐いた。

 

「アンタねえ。たまにそうやって自分の持ってる力に無自覚になるのやめなさいよ。アンタの<零落白夜(れいらくびゃくや)>は対ISに置ける最強の剣なのよ?」

「そうですわ。もう少し自覚してくださいまし。この作戦では、間違いなく一夏さんが要になるのですから」

「一夏はそう言う所感覚が鈍いって言うか、無頓着って言うか……」

「シャルル、言っても無駄だ。一夏は出会った時からこう言う奴だ。今更矯正など、土台無理な話だろう」

「だがそういう所、嫌いじゃないぞ。……嫌いじゃないぞ?」

「何で俺こんな言われてんの……?」

 

 そう言う所だよ。俺はそれを声に出さずに、奴らの様を眺めた。一夏を睨む面々の顔も面白いが、何より渾身のアプローチをスルーされたボーデヴィッヒががっくり肩を落として、それをデュノアが慰めているのには笑うしかない。こいつらも仲良くなったもんだなあ、などと場違いな感想を抱かざるを得ないな。

 

 そこで、俺と同じようにその様子を眺めていた織斑千冬が、一夏を見据えて重苦しく口を開く。

 

「織斑。解っているかもしれんが、一応聞いておく。これは訓練などではない。命のかかった実戦だ。もしもここで席を立っても――――」

「いや、やります。俺の力が、誰かを守る役に立つのなら」

 

 織斑千冬の問いを途中で遮って、一夏は確固たる意志を込めた顔で笑った。その顔を見て、織斑千冬も、篠ノ之達も満足そうに口角を上げる。

 

「よし、ならば作戦の詳細を詰めるとしよう。現在ここに居る専用機持ちの中で最高の速度が出せるのは誰だ?」

「であれば、恐らく(わたくし)かと。丁度本国から強襲用高機動換装装備(パッケージ)<ストライク・ガンナー>が送られてきていますわ。超高感度ハイパーセンサーも使用可能です」

「オルコット。超音速下での総戦闘訓練時間は?」

「二十時間です」

「ふむ。他に居なければ決まりだな。他に超音速下での戦闘行動が可能な者は?」

「はぁーい☆」

 

 トントン拍子で進んでいた会議を、突如底抜けに明るい声が遮った。

 

 突如として頭上から響いた声に皆が視線を上げれば、天井板の一枚がずれ、そこから「とうっ!」などと言う掛け声と共に先刻砂浜で見た型破りその物の女が飛び降りてきた。

 

 篠ノ之束。何しに来たんだこの女は。

 

 俺が顔面を大層歪めて見せても、あの女はまるでそれに気づかず、無邪気に織斑千冬の元へと歩み寄った。

 

「ちーちゃんちーちゃん。私のトップギアに回転した脳細胞がもっといい作戦を思いついたんだ! だから聞いて聞いて!」

「出て行け。いや、山田先生、放り出してください」

「あ、はい!」

 

 うんざりとばかりに苦々しく言った織斑千冬の言葉も意に介さず、背後から拘束しようと掴みかかった山田ちゃんの胸を思いっきり揉みしだいて無力化した奴は、その場でくるりと回って部屋中の皆に向け、まるで名探偵がするが如く人差し指を向けた。

 

「ここはね、断然断然紅椿(あかつばき)の出番なんだよっ!!!」

「何だと?」

「紅椿のスペックを見ればわかるよ! なんたって換装やらインストールやらも不要で超高速機動が出来るんだよ!! ほら、みんな見てみて!」

 

 束博士が言うと、織斑千冬の周りに数枚、そしてその場に居る全員の前に一枚ずつの空間投影ディスプレイが出現する。

 

「紅椿をちょろっと調整して~ほほいのほい! なんと言う事でしょう……全身の展開装甲が稼働して、その<なんちゃら福音(ゴスペル)>を超えるスピードが手に入りました! あ、無知な有象無象たちにも特別に説明してあげましょ~。展開装甲ってのはね、この天才科学者束さんが作った第四世代型の装備なんだよん♪」

 

 その言葉に、部屋の多くの者達がざわつく。

 

 ――――第四世代。『ISの完成を目的とした』第一世代、『後付け装備による多様化』を目指した第二世代。『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵器の実装』を旨とした第三世代。その先にある『そもそも換装を必要としない万能機』と言う机上の空論に昇り始めたばかりの物だ。

 

「あ、流石に第四世代くらい知ってたかな? いっくんや箒ちゃんは優秀だね~」

「えっ、いや、俺達が使ってるのって第三世代型の試験段階機ですよね? そこで第四なんて……」

「ちっちっ、束さんを舐めすぎだぞーいっくん。このくらい、束さんによっては余裕のよっちゃんよろぴくねーって感じで楽ショーなのさ! あ、テストもちゃんとしてるから問題なし! いっくんの<雪片弐型>には展開装甲の技術が突っ込んであるからね♪」

 

 成程な。零落白夜の発動時に解放される機構の事は気になっていたが、あれは展開装甲の試験用装備だったと言う訳だ。それじゃあ、展開装甲が部分的に使用された<白式(びゃくしき)>は実質的な3.5世代機ってとこか。科学者ってのはどいつもこいつも突拍子の無い事を考えるもんだよ。

 

「それでうまく行ったんで紅椿は全身のアーマーを展開装甲プット☆オン! システム最大稼働時には更なるオーバースペックを発動しちゃうのだ!」

「ちょ、ちょっと待ってください……全身……全身が第四世代のテクノロジーを使われているって、そんなのって……」

「うん。ぶっちぎりに強いよ。ハッキリ言って最強だね」

 

 ようやく我を取り戻した山田ちゃんが震えながら言うと、それを事も無げに篠ノ之束は肯定して見せた。その言葉には皆が驚愕している。例外は織斑千冬と俺くらいだ。

 

「ちなみに紅椿の展開装甲は更に発展させたタイプだから、攻撃防御機動と用途に応じて切替できるスーパーなシステムだよ♪ まさに第四世代が目指す『即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)』って奴だね。にひひ、皆すっとろいから、私もう作っちゃった。いぇいいぇーい」

 

 興味深く聞いていた俺と憮然としたままの織斑千冬を除き、それ以外の皆はしんと静まり返って言葉も無い。

 

「はにゃ? ありゃりゃりゃ? どしたの皆、お通夜みたいな顔して。誰か死んだ? 変なの」

 

 まぁ、その反応もむべなるかなって奴だ。世界中の国が血相変えて競っている第三世代型ISを『時代遅れ』と言わんばかりにこの女は見下していたのだから。蒸気船でも作って喜んでる奴に飛行機乗って遅いって言うようなもんか。そりゃあさぞ楽しいんだろうなあ……。

 

「束。やりすぎるなとあれ程言っておいたろうが」

「ごめんごめ~ん。でもでも、かわいい妹が使うISにくらい本気出したっていいでしょ? ちーちゃんだって姉なんだから解るよね~。それにほら、紅椿はまだ完全体じゃないし、いっくんもそんな落ち込まなくたっていいんだよ~」

 

 言って一夏の顔を覗きこんで笑う篠ノ之束。だが一夏を初め、皆のテンションはガタ落ちだ。確かに興味深い話だったが、長ったらしい講釈も聞き飽きた。そろそろ続きを始めるとするか。

 

「まーあれだね、今のは紅椿のスペックをフルに引き出した時の話だから! それでもあんな真っ赤野郎をぶちのめすのは余裕――――」

「そんで? どうするんです織斑先生? 紅椿も出すんですか?」

 

 俺はまた自慢話を垂れ流そうとする篠ノ之束の言葉を遮って、織斑千冬に問いかける。すると案の定というか、篠ノ之束が俺に食って掛かって来た。

 

「ちょっと、なにお前私の話遮ってる訳? 身の程を弁えて――――」

「束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」

「えっ? あ、うん。七分くらいあれば完璧に仕上げられるよ」

 

 織斑千冬に言われ、慌てて言い繕う束博士。それを聞いて、織斑千冬は次にオルコットに質問の矛先を向けた。

 

「ではオルコット。高機動パッケージの量子変換(インストール)にはどのくらいかかる?」

「あ、えっと……三十分程かと」

「……ならば、選択の余地はないな」

 

 オルコットの提示した時間に、決まりとばかりに頷く織斑千冬。その姿に、しめたと言わんばかりに篠ノ之束が飛びつく。本当に現金な上解りやすい奴だな、もう少し腹芸とか覚えた方がいいぜ。

 

「じゃあじゃあ、箒ちゃんの紅椿といっくんの白式の二機でこの作戦はやる事になるね!」

「異議あーり!」

「は?」

 

 だが、その喜びは再び会話を遮った俺の手でぶち壊される事になった。

 

「なにお前また私の話をあぎゃっ!」

「構わん。言ってみろ石動」

 

 織斑千冬によって篠ノ之束が黙らされる。普段自分がやられてる制裁を他人がやられてるのを見るってのは中々に乙なもんだぜ。ひとしきり笑った俺は、寄りかかっていた壁から背を離し、身振り手振りを交えて織斑千冬の説得を開始した。

 

「や、流石にこんだけの戦力が居るのに二人しか使わんのは文字通りの宝の持ち腐れでしょう。俺は全員参加の作戦を支持します」

「ふむ。だがオルコットのパッケージは量子変換だけで三十分かかる。そこはどう考えているんだ?」

「ならギリギリまで待てばいい。二人を矢面(やおもて)に出して危険に晒すよりも間違いねえと思いますよ」

 

 言って、俺は手を広げて周囲の奴らを見渡した。皆、固唾を飲みこんで俺の話の続きを待ちわびている。やはりこういうのは気分がいいな、場を掌握してる感じがして。俺はその視線を満喫すると、束博士が立ち上がる前に矢継ぎ早に自身の作戦内容の説明を始めた。

 

「俺は、一夏と篠ノ之の二人が先行し<福音>を足止め、その間に高速機動戦の経験のあるオルコットを中核に据えた第二陣が合流して、最終的にはボーデヴィッヒのAICによる拘束からの零落白夜の直撃を狙う……これがベストな作戦なんじゃないかって思います。逐次にはなっちまいますが、全戦力投入です。……なあオルコットぉ、<福音>の接近は大体あと五十分くらいになるが、それまでに量子変換から戦闘準備まで、全部間に合わせる事は出来そうかい?」

「ええと……一時間……いえ、五十分あれば、キッチリ間に合わせて見せますわ」

Good(グッド)。つーわけで、俺の意見もご一考ください織斑先生、いかがです?」

 

 俺の言葉に、織斑千冬は顎に手をやり、考えるような仕草を示す。だが少しして、試すように俺を見据えた。

 

「なるほどな。だが、全戦力を投入して、それでもなお失敗したら、お前はどうする、石動」

「そう言うときは『たった一つの賢いやり方』です」

「それは?」

 

「――――諦める!!!」

 

 その俺の言葉に、その場に居た全員が派手にすっ転んで、織斑千冬がものすごい剣幕で俺の胸倉を掴み上げた。

 

「石動ィ! 貴様なんだその言い草は!?」

「いやだって、全戦力で叩き潰すってのが通じないんじゃ、俺たちには最初(ハナ)っから無理だったって事でしょうよ~! 時間的に用意できる策にだって限りがあるこの現状じゃ猶更ですし……ってか服が皺になるんですけど」

「…………フン。確かにそれは事実なんだがな。お前はもう少し言い方という奴を考えてみたらどうだ……?」

 

 苦笑いしながらの俺の弁明を聞いて早々にクールダウンしたか、織斑千冬はその場に俺を放り出した。俺は勢い良く床に尻餅を搗く。もっと優しくしてくれ。中身はともかく体は中年真っ盛りのオッサンなんだからよ。

 

「いたたた……ともかく、全員でやるのがベターですよ。二人に任せて他のは待機なんて、戦力的にも心情的にもやるべき事じゃあない」

「ちょっと!? そんなの絶対おかしいよ! ちんたらしててブラッドの奴に逃げられでもしたらどうすんの!? そしたらお前、どうやって責任とってくれるって言うのさ!?」

 

 口をとがらせて喚く篠ノ之束に、俺は半ば呆れたような視線を向けた。ったく、本当に何考えてやがるのか……幾らなんでも今日手に入れたばかりのISで妹を死地に送り出すなんざ正気の沙汰じゃない。俺は視線の高さを合わせて窘めるように言う。

 

「っていうかよぉ、天才科学者様? アンタがセシリアのパッケージのインストール手伝ってくれりゃ、ふっつーに最初からみんな一緒に出撃できるんじゃないですかね?」

「は? 何で束さんが無能共の作った時代遅れのISなんて弄んなきゃいけないのさ。それよりちーちゃん、これくらいいっくんと箒ちゃんだけで十分だって! ね? ね?」

 

 そう篠ノ之束は織斑千冬にまとわりつくが、奴は取りつく島もない様子で思案を続けている。あと一押しってとこか。なら、やっぱり本人の意見を聞いてみるのがベストかね。

 

「じゃあ、一夏に一ついいか?」

「えっと……なんです?」

 

 俺が意地の悪い笑みを浮かべると、一夏は引きつった顔で、困ったように言った。これからされる質問の不穏さを本能的に感じ取ったか。流石に織斑千冬の弟って所だな。

 

「よし、ぶっちゃけて聞くぜ? 一夏お前、クラス代表戦の時より数段性能が上のISを使うブラッドに、一度のチャンスで零落白夜当てられる自信、あるか?」

「…………無いっす。て言うか、アイツならどこまでやっても躱しかねない。俺、アイツには零落白夜ガッツリ見せちゃってますし」

 

 言いながら、悔しそうに拳を握りしめる一夏の姿に、皆更に気を引き締めるのが伝わって来た。そう言ってくれると俺は信じてたぜ一夏ァ。

 

 そして案の定その意見が決め手になったようで、織斑千冬は思案するのをやめて力強く頷いた。

 

「……そうか。ならば、決まりだな」

「決まりっすね」

「えっ、えっ? ちょっと待ってちーちゃん、もしかして、こんなオッサンの意見を――――」

 

「よし。それでは本作戦は織斑、篠ノ之両名、およびオルコット、凰、デュノア、ボーデヴィッヒ四名による二部隊によって執り行う! 目標は暴走IS<銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)>の追跡及び撃墜、操縦者の保護! 織斑班は四十分後に砂浜より出撃、オルコット班は準備が出来次第織斑達と合流、総力をもって作戦を遂行しろ! 教員達は封鎖班は山田先生の指示に従い訓練機の用意、その他はオルコット機の量子変換を初めとしたサポートを。石動、榊原先生はそれぞれ生徒達の監督をお願いします」

「「「「はい!」」」」

「では、各自行動に移れ。解散!」

 

 その一声で、皆が一気に動き出す。ただ、思案を続ける織斑千冬とそれに食って掛かる篠ノ之束だけは違ったようだ。

 

「ねーねー! やっぱこんな戦力必要無いって! 白式と紅椿があれば十分だって! ね? ね?」

「いいからお前も紅椿の調整に取りかかれ。七分で終わるんだろう? 無駄な時間を取らせるなよ」

「う~~……はーい、わかったよも~……」

 

 一蹴され、渋々妹の元に向かう篠ノ之束。その姿に俺は、愉快さと、呆れと、僅かな苛立ちの混じった感情を抱いて、溜息をつきながら生徒達が待機する宿泊エリアへと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

「うし、集まったな。今回はお前らに頼みがあってな。悪いが少し仕事してもらうぜ」

 

 そう重苦しい雰囲気で言う俺の前には、一年一組(我がクラス)の中でも特に俺と親交の深い生徒――――鷹月(たかつき)(かがみ)岸原(きしはら)が呼び出されていた。

 

「しつもーん。一体何があったんですか? 何であたし達集められたんですか~?」

 

 手を挙げて(かがみ)が俺に問う。だがしかし、今回の案件を部外者に説明する事は出来ない。よって俺は、後者の質問にのみ答える事にした。

 

「前者には答えられん。機密事項だ。呼び出した理由なんだが、俺はこれから少し忙しくなりそうでな。代わりに幾つかの仕事を頼もうと思ってよ」

「え~~~?」

 

 俺の言葉に本気で嫌そうな顔をする鏡。しかし、こっちにも余裕がない。俺がやるべき事は今本当に多いのだ。

 

「まずお前達には部屋の外を出歩く許可を貰ってきた。ちと怒られはしたが、俺と榊原先生だけで四組分の生徒の面倒は見切れねぇからな……まず鷹月」

「はい」

「これから一組、二組の生徒達の名簿を渡すから、皆が部屋に居るかと、健康状態の確認を。もし体調が悪い奴がいるようなら医務室に移動させてやってくれ。やれるか?」

「大丈夫です、任せてください」

 

 言って力強く頷く鷹月に俺は目を細める。流石はクラス一のしっかり者と言われるだけはある。こいつには安心して任せられるだろう。問題は後の二人だが……。

 

「次に鏡。お前は鷹月に先んじて生徒達の部屋を回って、貴重品を何時でも持ち出せるように纏めさせろ」

「えっつまり旅館の中走って良いんですか!? やったー!!」

「お前なあ……」

 

 そう呆れて見せるが、内心は意外な好感触にこれはしたりとほくそ笑む。しかし、幾ら走るのが咎められているからって、いざ走れそうとなってそこまで喜ぶのか……? 陸上部にはこんな奴ばかりじゃあないと願いたいね。

 

「わーった。全部屋回りきるまでは走っていいぞ。あと岸原」

「はいはい」

「お前は榊原先生に着いて、三組四組の監督業務を手伝ってやってくれ」

「何でそれ私なのさぁ……」

「三組四組にもバッチリ顔が知れてるのはお前くらいのもんだ。ウザキャラの面目躍如だな~リコリンよ」

「石動先生にその名前で呼ばれるのめっっっっちゃ違和感ありまくりなんでやめてほしいんですけど」

 

 口をとがらせて俺を睨みつける岸原の頭に手をやってくしゃくしゃと撫で回すと、奴は不本意そうに身を引いた。良く分からんが、一応やってはくれそうだな。

 

「そんじゃま、頼むわ。俺はこれからめっちゃ忙しくなる。作業が終わり次第自室待機な。もし何かあったら榊原先生に聞いてくれよ。あ、俺がこれから何するかは聞くなよ? 俺、お前らに朝挨拶できなくなるとウルっと来ちまうから」

「はいはい、わっかりましたよ」

「頑張れよ、頼むぜ」

 

 部屋を出て行く三人。これで俺はフリーだな。<福音(ゴスペル)>もここが危険になる

程に接近はしてこねえだろうし、俺がそうはさせねえ。

 

 ――――ま、代わりにここに居ない奴らはちょっと痛い目見るかもしれないけどな。

 

「さて、と。俺も準備と行きますか……」

 

【ロック!】

 

 部屋の鍵を<ロックフルボトル>で施錠すると、俺は早速憑依した体と分離し、その抜け殻を敷いてあった布団に横たえる。そして懐から<トランスチームガン>を抜いて、<コブラロストフルボトル>をフルボトルスロットへと迷わず装填した。

 

【コブラ……!】

「<蒸血>……」

 

 電子音声を聞き届けてから引き金を引けば、トランスチームガンから変身用特殊蒸気<トランジェルスチーム>が噴射され、俺の体を包みこんだ。本来<ブラッドスターク>への変身プロセスはこれでほぼ完了だが、この世界に来てからのそれには新たな段階が追加されている。

 

【インフィニット・ストラトス!】

「――――<凝血>!」

【ミストマッチ……!】

 

 間髪入れず装填された<ISフルボトル>の成分を更に噴出させ、それが形成され始めていたブラッドスタークのスーツの表面を覆い、より強固な装甲を形成してゆく。と、同時にこのスーツの中枢である<スチームジェネレーター>から各部に蒸気を送るスチーム供給管の形状を変化させ、いくつものスラスターを形作った。

 

【コッ・コブラ……コブラ……ファイヤー!】

 

 火花を散らし、黒煙の中から俺は歩み出る。これがこの世界に対応した<ブラッドスターク>。<トランスチームシステム>自体は<ライダーシステム>に比べれば拡張性も低く成長能力も無いが、その堅牢さと基本スペックは十二分に高い。更にインフィニット・ストラトスのテクノロジーを融合させることによって、そのスペックは今や<スクラッシュシステム>に迫るほどだ。

 

 ――――そして何より、この俺(エボルト)のエネルギーを使って強化すれば、その性能は後継である<カイザーシステム>の改良品、<ヘルブロス>さえも上回る。

 

『さあて……楽しいショーの始まりだァ……!』

 

 俺は呟き、トランスチームガンの煙に巻かれてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 雲が成長の兆しを見せ始めた、紺碧の空の元。束は、出撃してゆく妹とその好意を寄せる相手のISの軌跡を、波打ち際から見上げていた。しかしその顔は澄み切った空とは違い、稚気じみた苛立ちに満ち満ちていた。

 

「ちきしょ~あの怪人あしながおじさんめ~! せっっっかく束さんが組んだプランに余計な口出ししやがって~~~~!!」

 

 言いながら地団太を踏んで、砂を思いっきり蹴り上げる。その様は<天才科学者>の有りように相応しいとは言えない――――だが、<天災>篠ノ之束らしい様であった。

 

「まったくもー……! 暴走する謎の軍用IS、強敵を前に、二人の距離は急接近……ラブ・パワーで敵を倒して、好感度だってウナギ・ライジング(鰻登り)! そしてお互いの大切さに気づいた二人は、夜の波打ち際で愛を誓い合って…………キャ――――ッ!」

「……やはりお前か」

 

 先程までの苛立ち一転、妄想に耽って喚き立てる束の元に、私は歩み寄って行った。思わず、己の拳を強く握りしめながら。

 

「あ、ちーちゃん早かったね~。もう気づいちゃったかぁ~」

「お前が積極的に首を突っ込んできたから怪しいとは思っていたが、また皆を危険に晒すとは何を考えてる……! 返答次第では海に沈めるぞ……!」

「あー、ごめんごめん。やっぱちーちゃんには話しとくべきだったね、今回の事」

 

 私の威圧に、束は珍しく、素直に両手を合わせ苦笑いしながら頭を下げた。その様に少なからず面食らう。普段の束ならばこういうときは喚くか、私の言い分を聞こえないふりをするかのどちらかだ。しかし、今日の束は何やら普段とは違う、どこか思い詰めたような雰囲気を纏っているのが気になった。

 

「質問に答えろ。何故こんな事をした? 真っ当な理由でもあると言うのか?」

「……今回はあるよ、合理的な奴」

 

 滅多に見せぬ、重苦しい顔をして束が私の問いに答える。だが私は、何度もそんな奴の演技を見せられた身だ、その程度で絆される事は無い。私は鼻を鳴らして、有無を言わせぬ声色で奴を問い詰めた。

 

「また一夏や篠ノ之に活躍の機会を、などと言い出せば本気で海の藻屑にするぞ?」

「それもあったけどねー。この銀の福音の暴走は、全部<ブラッド>の奴をおびき出すための挑発だよ」

「おい待て、ブラッドへの挑発だと!? 奴はお前のISを一方的に乗っ取って、一夏達を攻撃した相手だぞ!?」

 

 束に詰め寄りながら私は叫んだ。あの<ブラッド>は束の無人IS<ゴーレム>のプロテクトさえも破った恐るべき相手だ。それに、操縦技術も一般のIS操縦者を遥かに超える物を持っている。遠隔操作である以上、行動に多少のラグは出るはずだが……一夏と篠ノ之だけでは危険だ!

 

「幾ら最新型とは言え、暴走したISなど奴にとってはいいカモだ! もし本当に奴が<福音(ゴスペル)>を乗っ取りでもしたら、底知れない被害が出る可能性もある! そうなったらお前はどう責任をとるつもりだ!?」

「だいじょぶだって! もし奴にコントロールを奪われた場合、強制的に<福音>はシャットダウンされて、束さんが夜なべして作った最新の追跡プログラムが奴の居場所を逆探知! そんで居場所が分かったら私直々にぎったんぎったんのズタボロにしてやるつもり! それに、奴が現れなくたって<福音>はいっくん達には勝てないようにしてあるし、安全については保証しちゃうよ!」

 

 満面の笑みを浮かべて笑う束に、私はどうしようも無く疲れて額を押さえた。

 

「…………つまりお前はブラッドをおびき出すためにこの狂言を仕組んだと言う訳か? 確かに奴を野放しにしておく危険性は私も承知しているつもりだが、もっと他にやり方があるだろう…………」

「いやいや~。アイツ、私の事散々コケにしてくれたからね。こっちもコケにし返してやんなきゃ気が済まないよ。それに、ブラッドは今仕留めといた方がいいのは分かるでしょ?  アイツの持ってるような技術が知れ渡ったらそれこそ大変な事になる。世界中でISが乗っ取られ放題かも。束さん的にはそんなの絶対許せないんだよね。……さあて、ブラッドの奴、来たらもう明日の朝日は拝ましてやんないんだから――――」

『<ブラッド>なら来ないぜ?』

 

 後ろから聞こえてきた声に、私は弾かれたように振り向いた。

 

 そこに居たのはどこか気だるげに岩場に座って、足をブラブラと揺らす赤い全身装甲のパワードスーツ。どことなく宇宙飛行士の様なシルエットに、所々にパイプをあしらったデザインと、首をもたげるコブラを象った、エメラルドカラーの胸部装甲とバイザーが目を引く。その容姿は一夏達の証言にあった、もう一人の乱入者。学年別タッグマッチに現れた<怪人>――――

 

「<スターク>……!」

『よっ、織斑千冬(ブリュンヒルデ)! 前の学年別タッグマッチではお前の生徒に世話になったな! こうして顔を合わせるのは初めてか?』

「貴様、何をしに現れた!?」

 

 まるで良く見知った相手にする様に馴れ馴れしく手を振る<スターク>に私は身構えて叫ぶ。しかしスタークはリラックスした様子で、何故そこまで警戒されるのかが良く分からないとでも言った様子で首を傾げるだけだ。

 

『んん……? 随分物騒な顔してやがるなあ。そんな怖い顔しなくてもいいじゃねえか、眉間に皺が出来ちまうぞ』

「黙れ、質問に答えろ。そもそもここに貴様が居る事自体が十分拘束の理由になる」

 

 そう言って睨みつける私に、スタークは思いっきり溜息を吐いて肩を落とした。その余りに人間味溢れる仕草は、ますます私の苛立ちを助長してゆく。

 

『お前はそう言うがね、それだったら俺よりも先に拘束するべき人間が一人いると思うが。アンタもそう思わんか篠ノ之束』

「は? 何いきなり話しかけて来てるわけ? お前みたいな何処の馬の骨とも知れない奴と話してる暇なんてないんだよね。束さん忙しいから。あっち行けシッシッ」

『…………お前、それでいいのか? おい織斑千冬。この女、何時もこうなのか? こいつと友人を続けるなんて、正直心から同情するぜ』

 

 うんざりとしたようにスタークは首を傾け、束を指差した。普段であれば同調しない事も無い内容であったが、今の私に対しては火に油を注ぐことになる。

 

「貴様、私の友人を侮辱するというなら、その代償を命でもって支払う事になるぞ」

『おおー怖ぇ怖ぇ。悪かったよ。謝るからそう殺気立つなって。俺はここに、お前らと殺し合いしに来た訳じゃあねぇ。取引をしに来たんだよ』

 

 諸手を広げて肩を竦めるスタークは、まるで聞かん坊の子供でも相手にするような態度で、更に私の機嫌を逆撫でしてくる。だが今はそれよりも、奴の言った言葉の方が気になった。

 

「取引、だと……? 何を望んでいる、貴様」

『お前じゃあないぜ織斑千冬。そこの、人の話も聞かずにずっとディスプレイを弄ってる女とだよ』

 

 言って、スタークは顎で束を指し示す。束とこのような怪人の取引……そこに、良い事など何一つあろう筈も無い。私は奴の話を聞かぬよう束に声をかけようとしたが、それよりも早く束はうんざりとした顔で口を開いた。

 

「……あのさあ。お前如きと話してる暇無いってさっき言ったよね。大体誰を相手にしてるか分かってる? 人類最高の天才科学者篠ノ之束さんだよ? お前みたいなへんちくりんな奴が軽々しく話しかけていい相手じゃ無いわけ。せめて敬語使うとか土下座するとか、それなりの態度があるんじゃないの?」

『俺は<ブラッド>の居場所を知ってるぜ』

 

 その言葉に、指を下に向け土下座を要求していた束の表情が傍目にもわかる程に強張る。自身が大芝居を打ってまで用意したこの事件が、徒労に終わりそうなのが(かん)に障ったか、あるいは自身も知ることの出来なかった情報を目の前の怪人が知っている事に苛立ったか。その両方か。

 

『さて、それじゃあ本題に入ろう。俺の要求は一つ。<銀の福音>のあらゆる詳細なデータだ。……あんたが入手できる最大限のな』

 

 それはつまり、<福音>の全てのデータを要求していると言う事に他ならない。確かに、束ならば軍のデータベースにクラッキングをかけてそのデータを入手するのも可能だろう。だが、それを奴はどうするつもりなのか。そんな物、碌な事で無いに決まっている!

 

『俺から提示するものは二つ。一つは、この事件の真実を俺からは絶対に口にしないと約束する事』

「……信用すると思ってるの?」

『好きにしろ。別に信用しなくても構わねえぜ? その時は妹に嫌われかねんが、それでもいいと言うならそうするといい』

「んー? 君、頭悪いのかなぁ? 箒ちゃんが束さんの事嫌いになるワケ無いじゃん」

『なるさ。愛する一夏の身を危険に晒したのが姉だと知れれば。寧ろ嫌いにならない方がおかしいと俺は思うがどうかね、Ms. Disaster(天災殿)? ハッハッハッハ……!』

「……殺すよ? その方がお前を消せて、口も塞げるし一石二鳥だと思うけど」

 

 束が異常なまでの殺意を滾らせ、その殺気を無遠慮にスタークにぶつける。だがスタークはまるでそれを気にも留めずに、癇癪を起こした子供に呆れるかのように束の顔を何度か指差した。

 

『話は最後まで聞けよ。……もう一つの条件だが、お前の知りたい事を――――ブラッドの居場所を教えてやろう。こんなマッチポンプを起こしたのは妹と織斑一夏を活躍させたかったのもあるんだろうが、本当の目的はそれだけじゃあるまい?』

「…………お前、どこまで知ってんのさ」

『さあてな。少なくとも、お前が知りたい事は知ってるぜ…………?』

 

 言って笑うスタークに、束がこれ以上ない怒りの形相を見せる。だが奴はそれを咄嗟に抑え込んで、ぶっきらぼうながら、先程よりも殺気を鎮めて口を開いた。

 

「じゃあさ、今ブラッドがどこにいるか早く教えてよ。それさえ解ればこんなとこに居る理由なんてないんだから」

『おっと! 教えられるのは何処の国、何処の組織に居るか位さ。奴は臆病者で、故に用心深い。だからアンタだって見つけられなかった。そうだろ? ……だが、何処の国に居るか分かればアンタの力なら見つけるのはそう難しい事じゃあ無えと思うぜ? 天災(てぇんさい)科学者、篠ノ之束殿?』

「……人を舐めた態度もほどほどにした方がいいよ。じゃないと、私もお前とお話する気なくなっちゃうかも」

 

 鋭い目つきで束がスタークを睨みつけると、奴は申し訳なさそうに顔の前で手を合わせた。その仕草があまりにも芝居がかっていて、剣があれば私は迷わず奴に斬りかかっていただろう。

 

『悪い悪い……それじゃまず、データを貰おうか。喋った途端逃げられちゃあたまらんからな』

「はいはい」

 

 肩を竦めるスタークに束はあっさりと小さなUSBメモリを投げ渡した。私がそれを止める暇もないほどに気軽な仕草。それはあれほどのISも、束にとっては些末な物でしかないという証明だった。

 

Good Job(グッジョブ)! 流石は篠ノ之束、データは回収済みとは手際がいい!』

「別に、あんなポンコツのデータなんてどうでもいいもん。それより、褒めてないでさっさとしてよ。ブラッドはどこに居るのさ」

『いいだろう……まず奴の現在位置だが、奴はこの日本に居る』

「あ、やっぱ?」

 

 気軽に交わされる会話。しかしそこに含まれた情報は重大極まりない物だった。あれほどの危険人物がこの国に潜伏しているだと? それは私にとっても聞き捨てならない事だ。だが次に明かされた事実はその情報を吹き飛ばすほどのものであった。

 

『ついでに言えば、奴の正体は男だ』

「――何だと?!」

『奴は本来、男性がISを操縦するにはどうするか、と言った研究をしていた技術者だ。つまりは遠隔操作の技術だな。その技術が実用化されたらたまらんって事で、奴は女によって真っ当な研究の道を断たれちまった』

 

 可哀想だよなあ? とバイザーを右手で擦って泣いた真似をするスターク。だがその姿からは憐憫の情など一切伝わっては来ず、唯々、ひたすらに不愉快なだけであった。

 

『そして奴は今、<亡国機業(ファントム・タスク)>に籍を置いている。至極当然だな、ISを遠隔で乗っ取れる技術を、奴らが欲しがらない訳が無い』

 

 それが、ブラッドによるISの『乗っ取り』の正体か。だが、代表候補生たちを圧倒する奴の戦闘力、それには他にも秘密があるはずだ。しかしスタークはそれについては触れずに話を続ける。

 

『正確な場所までは分からんが、今の奴は亡国機業の拠点に身をやつしていると見ていいだろう。案外、すぐ近くに居るかもしれないぜ?』

「なるほどね。情報提供感謝~。じゃ、束さんは早速この辺にある奴らの拠点を全部叩き潰してくるから」

『<福音>については俺がフォローしてやろう。実際の戦闘データも欲しいからな』

「好きにすれば? どーせアイツはいっくん達には勝てないようにしてあるし。じゃ~ね~」

 

 興味を失ったように束が言ってひらひらと手を振った瞬間、突如突風が吹き、砂を撒き上げ私たちの視界を奪う。そしてそれが晴れた時には、既に束の姿は消え失せていた。

 

『『風と共に去りぬ(Gone With the Wind)』ってか。嵐のように気まぐれな女だが、風情という奴は案外わかってるのかもな……。さて、俺も行くとするかね』

「何処へ行くつもりだ?」

 

 束を見送って、踵を返そうとしたスタークの前に私は立ち塞がる。こいつを野放しにする理由は私には無い。この場で拘束し、後顧(こうこ)(うれ)いを断つが上策……! だがスタークはそんな鬼気迫る私の顔を眺めて、心の底から面白そうな仕草をした。

 

『ハハハハ……俺を止めるのか? 止めとけよ。ISを纏うなり、武器を持ってるならともかく、今のお前は丸腰だろう? 俺だって意味なく人を傷つけたくはないんだ』

「……丸腰の私に何が出来るか、試してみるか?」

『ハァ…………好きにしろ』

 

 呆れたように奴が言い終えるが早いが、私は疾駆し奴の懐へ一瞬で潜り込み低い姿勢から奴の胸目掛け拳を振り上げた。奴はそれを上体を逸らして回避し、そのままバック転して距離を取る。しかし私はその隙を逃さず再び距離を詰め、着地した瞬間の奴の胸へと強烈な蹴りを放った。

 

 それを見て、奴は握り込んでいた片手を鋭くスナップさせる。そこから私の顔目掛け砂がぶちまけられた。今のバック転の際に握り込んでいたか……! 咄嗟に目を片腕で遮ってそれを凌ぐが、代償として視界がゼロになる。

 

 咄嗟に私は蹴りを中断して後ろに跳ね飛んだ。と同時に腹に重い衝撃。予想通り、奴は視界を奪われた私に意趣返しとばかりに槍を突きだすが如きサイドキックを叩き込んで来ていた。だが、後ろへと逃げを打ったことで直撃は回避できた。しかしそれでも勢いまでは殺せない。

 

「くっ……!」

『流石に織斑千冬だ! 生身でもこれほどやるとは!』

 

 砂浜に跡を残して衝撃を殺す私を見て、奴は純粋に称賛するように手を鳴らした。何という奴だ。例え生身とISの差があるとは言え、私の動きに着いてくるとは……!

 

『ま、暴れるのはこのへんにしとけ。幾らアンタでも丸腰なら今の俺でもやり合える。そして、俺を無理に止めようとするならお前が不利益を被る事になるぜ?』

「……何だと?」

『そうだな、例えば…………弟や生徒達に知られたくない事があるだろう? アンタが<世界最初のIS操縦者(白騎士)>だとかな』

「貴様、どこまで知っている……!?」

 

 思わず問いただす私に、奴は腹を抱えて笑って見せる。だがそれだけで、奴は何の答えも返さない。その姿に私は怒りに震え、割れんばかりに歯を食いしばった。

 

『ま、俺にはその事を話すつもりだってないさ。アンタが邪魔をしなければな……さて、俺はここらでお暇させてもらおう。篠ノ之束の言が真実なら、<福音>との戦いはイージーモードになっちまいそうだからな。俺が行く前に終わられちゃ興ざめさ』

「貴様、待……!?」

 

 言い終えるよりも早く、私の体に痺れが走り、思わず膝を突いてしまう。

 

『まったく、随分と効きが悪いな。流石と言うべきか、最早その頑丈さに呆れるべきか……』

 

 先ほどの蹴りに何か仕込みがあったのか……!? 痺れる四肢に鞭打ち立ち上がるが、力が入り切らない。このままではまずい……! 私はその痺れを振り払う様に、手足にさらに力を込めて構えを取る。だが奴はその様をひとしきり眺めた後、興味を失ったように空を見上げて、全身のスラスターを起動させ宙に舞い上がった。

 

『今日はここまでだ。お前との戦いは然るべき時にしよう。……じゃあな。また会う事もあるだろうぜ』

 

 言って、奴は凄まじい速度で空の彼方へと消えて行った。<福音>と一夏達の戦いに割り込もうというのか。そのような事を許す私ではない……が、体の痺れが抜けぬ今、私に出来るのはそれを見送る事だけだ。

 

「…………おのれ……」

 

 一夏達や真耶、石動に連絡を取ろうにも、指先が痺れ通信を行うことも出来ず再びその場で膝を突く。視界までもが歪んできた。

 

「おのれ……!」

 

 この私が、完全に後れを取った。確かに、奴はISで私は生身。ハンデと言うには十分すぎる。だが結局、戦いでは勝った者こそが勝者なのだ。スポーツでも無いのにフェアプレーを求めるなど、虫がいいにも程がある。

 

 そして何よりも、奴の強さは本物だった。あれほどの格闘技能、間違いなく<モンド・グロッソ>の出場者と比べても遜色無いレベルの実力だ。それも、未だに余力を残していたように見える。そんな奴が一夏達の元に向かうのを、私はみすみす見逃すというのか……!?

 

 早く、皆に知らせねば。その思いとは裏腹に、麻痺はゆっくりと進行していった。自由にならぬ四肢、成すべき事を成せぬ苛立ちが、私に怒りの声を上げさせる。

 

「スタァァァァァァァ――――ク!!!!」

 

 しかし、私の声を聞き届けるものはおらず。その叫びも、無人の砂浜に打ち寄せる波の音の中に吸いこまれて、虚しく消えて行った。

 

 




仮面ライダービルド最終回、素晴らしいものを見せてもらいました。
見る前は喪失感に襲われるのかと震えていましたが、見終えて見れば素晴らしい満足感で、とても良かったです。

特に剣崎やアンク、紘太さんなど、ライダーの最終話ではもう会えなくなってしまう人も多いなか、万丈とまた出会った時の戦兎の顔と言ったら……!
あのラストも『仮面ライダービルド』と言うフィクションにとってあれ以上綺麗な閉め方は無かったと思います。

喋り始めると止まらなくなるのでこの程度に。

それと、そろそろ原作とはだいぶ性格とかムーブが変わってるキャラ(箒)が出始めてるので、『キャラ改変』のタグが必要かどうか、ちょっと活動報告の方でお聞かせいただければと思います。
よろしければご協力お願いします。
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