星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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コミュ回です。エボルトの恋愛ってなんだよ(哲学)。
そんな哲学的思考に陥っていたせいで2万文字位です。

感想お気に入り誤字報告いつもありがとうございます。
お陰様で評価が9.13を越えてました。度重なる高評価誠に恐縮です。
たっくんと草加のジオウ登場を目の前にしたこのタイミングでこれだけの評価に到達した事をとても嬉しく思います。
よろしければこれからもこの小説をよろしくお願いします。

あそれと投稿する段になって総合評価4000いってるの気付きました皆様のお陰です本当に応援ありがとうございます。



インベーダーの夏休み

「――――教官、お願いがあります」

「織斑先生だ。何度も言わせるな……で、何だ? お願いとは」

「もう一度、私を鍛え直しては頂けないでしょうか。先の<福音>……いえ、<スターク>との戦いで私は自身の未熟さを痛感しました。このままでは一夏も箒も守れない……彼らの為にも、今一度私に道を示して頂きたいのです」

 

「ふむ……その気概は認めよう。だが私も常にお前を鍛えてやれるほど暇ではない。特に今は不穏な時期だ。私自身にもやるべき課題は山積しているからな」

「では……」

「だが安心しろ。丁度、他人を鍛える事にかけてはそこそこの奴がこの学園には居る。この夏休み、随分と暇を持て余していたようだしな……話を付けてやるから昼食後に私の部屋に来い」

「……織斑先生。心遣い感謝します」

「何、私も確かめたい事があったからな…………ではまた昼過ぎに。約束はすっぽかすなよ?」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 朝六時過ぎ。既に昇った太陽の光がこの俺の部屋にも射し込んでくる。今は8月中旬。IS学園が少々遅い夏休みに入って二週間ほどが過ぎた。この夏休みというのが、俺にとっては退屈極まりない期間である。何せ生徒達が居ない。実質全寮制であるこのIS学園の生徒達は、全世界から集められたエリートたちだ。約一か月の間授業が無いという事で、半数以上の生徒が国や実家へと帰省してしまいどうにもやる事が無い。

 

 いや、教師としてやる事は有るけどな。だが俺がしたいのは生徒達とのコミュニケーションだ。断じて教員室で時間を潰したり、草刈りしたり、書類を整理したりという事ではない。一応半分近い生徒は残っているからアリーナでの模擬戦を監督したりとかそう言う業務もあるんだが……そういうのは専ら織斑千冬と山田ちゃんの仕事になっていた。まあそりゃ、何処の馬の骨とも知れぬオッサンよりも十二分な実績を持つ人間に見てほしいのは分かるけどな。

 

 そんな中で、俺の数少ない楽しみの一つがフルボトルの生成だ。抱え込むようにした<パンドラボックス>に両手を突っ込んで、生成する星のエレメントを強くイメージする。ビルドの世界では石動の記憶を使っていたのでここまで集中する必要は無かったのだが、この世界に来てからは俺一人のイメージで作り出しているからな。前と違って一本作るのに一週間近くかかるし、集中力も使う。だが今更ベストマッチの組み合わせを変えようなんて考えは全く無い。石動の生み出したボトルは俺にとって大事な思い出だからな。

 

 ビルドの世界で過ごした十年間は、俺にとってかけがえの無い時間だ。地球に降り立ち、スカイウォールを生み出して国を三分し、<ファウスト>の創立にも関わって、桐生戦兎(きりゅうせんと)万丈龍我(ばんじょうりゅうが)を育て上げた。そうだな、一番楽しかったのはあいつらと家族ごっこをしていた時か。今でも、冷蔵庫の扉をくぐった先にある地下秘密基地が恋しくなることがある。これが郷愁(きょうしゅう)の念って奴か。何とも風情ある心地だ。

 

 そんな事を考えていれば、手の内にボトルの感触。さて、<ダイヤモンドフルボトル>の完成だな。防御、攻撃反射に拡散物理攻撃の行える優秀な戦闘向けボトルだ。その性能は嘗ての戦兎(せんと)幻徳(げんとく)が証明済み。これで更に俺の戦闘力は盤石になるな……ん?

 

 ひんやりとした感触に訝しんで目を向ければ、手にした白いボトルに描かれているのはダイヤモンドでは無く冷蔵庫のアイコンだった。

 

 やっちまった。途中で余計な事を考え過ぎたか。ボトル一本作るのに数日かかるってのに! しかも<アイススチーム>がある以上、今の俺にとってあまり有用なボトルではない。いくら俺自身に睡眠は必要なく、夜は体と分離してボトル作りに集中できるとは言え……まあ、出来ちまった物はしょうがない。俺は<冷蔵庫フルボトル>を一度宙に放ってキャッチすると、壁に立てかけてある<パンドラパネル>の一枚にボトルをセットする。

 

 これで全体の三分の一って所か。そこそこ揃ってきたな……60本のボトルが揃えば<エボルトリガー>の生成が可能になるのだが、当のエボルトリガーは既に俺の手の内にあるのでそこまで急く必要はない。石化を解く方法も一応考えてはいるし……今夜からはまた<ダイヤモンドフルボトル>の生成に取り組むかね。

 

 俺は顔を上げ、ちらと時計を見る。六時半か……そろそろ本格的に起きて飯でも食いに行くか。俺はともかく、人間の体には栄養補給は必須だからな。俺は石動惣一に擬態していた体を液化させ、布団で眠る肉体に憑依。起き上がって顔を洗い、髭を剃り、扉の横に備え付けられたポストから新聞をもぎ取る。

 

 新聞の購読は俺がIS学園に『就職』する際に俺からの要望として提案した条件の一つだ。世界情勢を知るための諜報能力が欠けている俺にとって、どのような形であれ情報が手に入るのはあり難い。さて、今日は何か面白い記事はあるかね……。

 

 なになに? 『女子ソフトボール日本代表、世界一に王手』、話の種にはなるか。『カナダのアイドルユニット<コメット・シスターズ>世界ツアー開始』……興味無えな。『篠ノ之束博士からの新技術供与』……ほう。『篠ノ之博士は今回、新たな技術として【ISスーツへの防毒機能の付与理論】を各開発メーカーに対し無償で供与する事を』…………。

 

 ――――(スターク)対策じゃねえか。

 

 心の中で突っ込みながら俺は新聞をくしゃっと握りしめた。……いかん。思わず感情のままに行動しちまった。感情ってのは素晴らしいもんなんだが、こういう時抑えが効かないのはちと困る。俺は深呼吸一つでクールダウンして、改めてその記事を確認した。

 

 ……ふむ。どうやら現行のISスーツの機能はそのままに防毒機能を備えた新型スーツが今後世界中で使用される事になるようだ。やってくれたな篠ノ之束……! 恐らく織斑千冬の経験が奴にフィードバックされた結果だろう。奴らに繋がりがあるなんてのは百も承知だったが……やっぱあの時麻痺毒を使ったのは失敗だったかねえ。

 

 まあしかし、毒でさっと殺しちまうなんてのはどうでもいい奴に対するやり方だ。そもそも織斑千冬を初めとした面白そうな奴らに対してはそんな事するつもりは無かったが……それに、必要な時には直接注入してやればいい話だしな。幾らなんでも、ISスーツで防げるほど俺の攻撃は安くない。これも気に留めておく程度の話題だな。

 

 よし、対して面白いもんも無かったしそろそろ行くか。俺は服を着替え、パンドラボックスやパンドラパネルを金庫に放り込んで<ロックフルボトル>で施錠し、必要最低限の道具と<トランスチームガン>、幾つかのボトルを持って部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 IS学園の誇る食堂。平時であれば朝7時と言う時間には多くの生徒が顔を出し始めるこの場所も、夏休み真っただ中ともなれば人も(まば)らだ。当然だな。人も居なければ、授業も無い。皆朝に飯を食べにくる必要性も少ないのだ。つまりこの時間に来る奴って言うのはこの夏休みの中でも朝食を食べる生活習慣を維持しているものか、或いは――――

 

「よお岸原、鏡ィ! お前ら朝からラーメンかよ! 腹壊すぜ~?」

「いやもう二人でランニングしてたらビックリするくらいお腹減っちゃって! 飯! 食わずにはいられない! って感じ!」

「ナギちゃん酷いんですよー、速度差考えずガンガン先行っちゃうんですから」

「はっはっは、どっちも程々にな」

 

 ――――学生最大の自由時間である夏休みにも自己研鑽を怠らない、意欲ある生徒達くらいのもんだ。

 

 もちろん、ここに居る者全員がそうでは無いだろうし、逆にまだ練習に精を出している者や、たまたま寝坊している奴だって居るだろう。それでも、俺は今この場に居る面々に対して純粋に好感を抱く事を禁じえなかった。

 

 俺は鏡と岸原を見送ってから、朝食を手にするためごく短い列に並ぶ。普段この食堂ではそりゃ豪勢な食事が出るもんだが、夏休みともなれば縮小経営中、メニューにも普段程の華は無い。俺はコーヒー(インスタントだ)とパンとスクランブルエッグにウインナー、サラダとヨーグルトを持って所々に居る生徒達の顔を見回した。

 

 ふむ、どこかに面白い奴は居ないものか……。どうせなら、俺は可能な限り楽しい時間を過ごしたいと思っている。それは食事の時間も同じだ。戦兎や万丈、美空(みそら)との食事のような和気藹々とした時間。その素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。人間の生み出した文化の中でもなかなか上位に入る愉快さだと俺は思っている。

 

 だからこそ、俺は共に食事をするに相応しい人間を探す。楽しげに食事をする者。普段と違う様子を見せる者。どこか表情に影のある者。そんな奴がいないか、俺は目敏くその視線を走らせる。

 

「んん?」

 

 そんな中で、俺は一人の女子生徒に視線を定めた。普段、必ず特定の生徒と食事を共にしている人間。そんな奴が憮然とした顔でパンをかじっているのを見て、俺は直感的にその生徒を標的に定めた。

 

「よっ! 前いいか?」

「ん、アンタは……」

 

 満面の笑みで俺が話しかけると、そいつは訝しげな眼で顔を上げた。跳ねるような金髪に抜群のプロポーションを窮屈そうに制服の中に収めているそいつは、不機嫌そうにエメラルドのような瞳を俺に向けて、どこか心非ずと言った様子で口を開いた。

 

「イスルギ先生か……何か用か?」

「おう、何か浮かない顔をしてたからな。ほっとけなくて。それに、前から一度こうして直接話がしたいと思ってたんだ。アメリカ代表候補生<ダリル・ケイシー>さんよ」

 

 椅子に座った俺に両手の人差し指を向けられたケイシーは、一瞬難しい顔をしたがすぐに気を取り直して、取り繕ったような笑顔を見せる。

 

「いや、心配ないぜ……っす。別にそこまで何か嫌な事があったっつー訳でも……」

「嫌なことあったのか? 話だけでも聞かせてくれよ」

 

 にやりと笑って言う俺に奴はしまったという顔で赤くなった。意外と解りやすい奴だな。そしてその反応からも、原因には大体の予想がついた。

 

「そういやケイシー、サファイアの奴はどうしたんだ? お前ら、何時も一緒に居るだろ。さてはケンカか? お前らがねぇ……」

 

 そうにやにやと笑って言う俺に、ケイシーは諦めたように肩を落とし溜息をつく。

 

「ダリルで良いよ。ったく、石動先生には敵わねえ……っすね」

「そっちこそサファイアみたいな口調だな……別にいいぜ普段通り喋っても。ぶっちゃけその方がお前、ラクだろ?」

「まあ、そうだけどさあ……まあいいや、お言葉に甘えるぜ」

 

 安心したように言って頬杖を突くダリルを見て一息ついた俺は、皿に乗せたパンとスクランブルエッグを口いっぱいに頬張った。濃い卵の味と柔らかいパンの食感が人間の脳を通して俺を楽しませる。俺はそれをコーヒーの苦味で押し流して、またダリルに視線を向けた。

 

「で、どうしたんだよ。ホントにケンカか?」

「それがさあ、聞いて下さいよ。アイツ、今日も一緒に飯食おうって約束したのに全ッ然起きてこねえんだよ! なぁにが『低血圧ッス~』だ! 早寝しろ!」

「そいつぁ……もうちょっと生活習慣どうにかしろってとこだな。あとレバー食えレバー。血が出来るぜ」

「低血圧ってレバー食ってどうにかなるもんなのか……?」

「元カフェ経営者なめるなよ。一応調理師ばりの知識は持ってるんだぜ」

「なるほど。とりあえずアンタが調理師の資格持ってないのは分かった」

「真実を指摘されると俺泣いちゃうぜ」

 

 変な所で妙に冷静なダリルの物言いに俺はサングラスを外して泣き真似をする。しかし、奴はそんな俺にとても微妙な眼差しを向けるばかりだ。それを横目にちらと確認すると、俺は同情を得られぬと諦めて溜息を吐いた。

 

「まあ、なんだ? あんまり二人一緒に居ても、って事もあるだろうからな。たまには朝飯くらい別々にとってもいいんじゃねえか~?」

「ああ……何するにも一緒だったからな……メシも、訓練も、寝るのだって……学年違うから授業中はどうしても離れ離れになっちまうんだけど、昼休みとかはいつもオレの事迎えに来てくれるし……ちょっと一緒に居なかっただけなのに一刻も早くオレに会いたいって感じでよ……そこがまた可愛いんだけど……」

「あー今日のコーヒーは甘ぇなぁ!」

 

 言って俺は残りのコーヒーを一気に飲み干した。ったく、ラブラブなのか倦怠期なのかハッキリしてくれよ。これだから人間って奴は困ったもんだぜ。ここまで感情に振り回されるとは。俺も人の事は言えんのかもしれんが……。面白い。篠ノ之を含め、恋愛感情と言うものは人間を動かす大きな原動力となる場合がある。こいつもその一例って事かね。

 

「あっそうだ、いい事思いついた!」

「んん?」

 

 頭の上に電球でも浮かべるように閃きを得たダリルが机を立ち、俺の横に回って肩を組んできた。なんだ? 首でも絞める気かよ。と言うかあまり密着するな鬱陶しい。

 

「笑ってくれよ? イェーイ!」

「イエーイ?」

 

 訝しんだ俺の返答を待たずに、奴は手にした携帯のカメラのシャッターを切った。咄嗟に笑顔になる俺。カメラのフラッシュが瞬き、携帯の画面には満面の笑みを浮かべるダリルと中途半端な笑みを浮かべる俺が映し出されていた。

 

「よし! 悪くねえ写り……でもねえな。石動先生、笑顔が堅いぜ?」

 

 その写真を見て至極真っ当に微妙な評価を付けるダリルに、俺は首を傾げながら疑問を呈した。

 

「写真なんて撮ってどうすんだ? しかも俺みたいなオッサンのよ」

「フォルテの奴に送ってやるのさ……アイツが起きた時にびっくりするように。メールを見た時の驚きようが目に浮かぶぜ……!」

「面白いこと考えるねえ。後で結果、聞かせてくれよ」

「オッケー!」

 

 笑って言う俺にダリルもまた笑い、そして元気よくサムズアップしてそれを承諾した。

 

「じゃ、オレはここらで退散するぜ。サンキューな、石動先生。大分気が楽になった」

「気にすんなって。そんじゃ、Ciao(チャオ)~。さっさと仲直りしろよ~」

 

 既に空になっていた朝食の皿を持って席を立つダリルに手を振ると、奴も笑顔で小さく手を振り返してきた。ダリル・ケイシーか……中々に面白い女だ。三年生の中では希少――いや、唯一の専用機持ち。競争率の高いであろうアメリカの代表候補生に数えられることからもその実力が惜し計れる。奴の事もそれとなく視野に入れておくかね……俺は酷薄な笑みを浮かべた。それにありゃあ、ただの生徒じゃあねえ。俺にはわかる。何せ、奴は他の生徒と違ってどこか()()()()のだ。

 

 大国アメリカの代表候補生……流石にそいつは一筋縄じゃ行かねえって事か? あるいは何か別の理由があるのか……ともかく、何かあるのは間違いないだろう。俺はまた一つの発見を得て、パンを頬張りながら心からの笑みを浮かべた。その時だ。

 

「石動先生!」

「んん?」

 

 俺を呼ぶ声に振り向いた瞬間、俺の眼をカメラのフラッシュと思しき閃光が潰す。……まあ、俺自身は眩しさに眼が眩むなんて事は無いから下手人の顔も見えてはいた。しかしフラッシュを眩しがらないなんてのは不自然な行動、何処からボロが出るか分からない以上、完璧に人間を演じる必要がある。そう思って、咄嗟に眩しがるふりをした。

 

「うおっまぶしっ! ったくこんな事をしやがるのは……(まゆずみ)ィ! お前だな!?」

「おおっ、流石石動先生! 今の一撃で私の正体を見破るとは……」

 

 その言葉とは裏腹にまったく驚きを見せぬ黛。本当にお前俺に何の恨みがあるんだ……!?

 

「テメェまたまたやってくれたなぁ……? 今度こそ敗者に相応しいエンディングを見せてやろうか……」

「えっ? まだ何もしてませんよ。まあこれから帰って『教師石動惣一、アメリカ代表候補生のプロポーションに夢中か!?』って記事書くつもりですけど」

「そうかよし。その記事は絶版だ」

「どっこいそうは……あっ織斑先生おはようございます!」

「何!?」

 

 俺の背後に向けて頭を下げる黛を見て、また気配を消して近づいてきたのかと咄嗟に背後を振り返る。しかしそこには誰も居ない。気づいた時には既に黛は食堂の出口に向けて全力疾走していた。

 

「引っかかりましたね! それじゃ記事をお楽しみに! Ciao(チャオ)~!」

「あっ待てこのやろ――」

「石動惣一ィ!」

 

 黛を追おうとした俺を叫び声が引き留める。今度は誰だよ! うんざりとした俺が振り返れば先程ダリルが去ったのとは別の出入り口から一直線に迫るフォルテ・サファイア。その表情は正に鬼気迫ると言った具合だが、俺には理由が分からん。

 

「よおフォルテ。悪いが今忙しくてな、それにダリルならもう……」

 

 俺がダリルの去った出入口を指差すよりも早く、フォルテは俺の胸倉を掴み持ち上げようとする。いや、織斑千冬じゃあるまいし持ち上がりはしないんだが。証拠に奴の腕はプルプルと震えている。可愛いもんだ……いや待て朝っぱらから俺の服を皺にするんじゃあねえ!

 

「何故アンタがセンパイと一緒に食事をしているのか、何故密着して写真を取っているのか、何故センパイがそれをわざわざ私に送ってきたのかァ!」

「やめろ! それ以上襟引っ張るなー!」

「その答えはただ一つ……!」

「やめろっつってんだろ!」

 

 俺は勢い良く奴の手を振りほどく。フォルテは何歩かたたらを踏み、しかし泣きそうな目で顔を上げてこちらを睨みつけた。いやだから俺には理由が分からねえ。人間の感情……激情という奴か。ったく、溜息をつきたくなるぜ。しかしそんな俺の内心など露知らず、フォルテは俺をキッと睨んで指差して叫んだ。

 

「石動惣一ィ! アンタが私のダリルセンパイを奪い取ろうとしてるからッス!!!」

 

 言って懐から取り出した携帯を操作したフォルテは俺にその画面を見せつける。そこには本文無しのメール画面と先ほど撮影した俺とダリルの写真が映し出されていた。ただし、跳ねるような文字で『結婚します』と付け足されている。オイ待て……本当にやってくれたなあ……! 俺は去り際のダリルの笑みを思い浮かべちょっとげんなりとした。

 

「それは嘘だ。お前を騙そうとしてる」

「ダリルセンパイが私に嘘をついたとでも言うんスか!?」

 

 真っ赤になって地団駄を踏むフォルテ。その姿に周囲の生徒達がこちらに訝し気な目を向け、ひそひそと何やら話し始めている。だが、そんな視線に晒されながらも俺は先ほどとは打って変わって内心大笑いしていた。これこそ人間の感情の発露だ! 認める事を拒否する反応がこのような行動を引き起こす…………実に興味深い! 普段どちらかと言えばダウナーな人間であるフォルテがこれほど取り乱すとは……。

 

 こりゃ、俺も篠ノ之を初め一夏に対する生徒達への対応をもう一度考えるべきだな……上手い事煽ってやれば、奴らの戦力アップに繋がりそうだぜ……。そんな事を考えながら、俺はダリルのIS、<ヘル・ハウンド>のお株を奪うような燃え上がりっぷりを見せるフォルテを鎮火するべく語り掛けた。

 

「なあ、まずそのメールはダリルの端末から送られてきたんだろ? その時点でなんかおかしくねえか」

「アンタがダリルセンパイの携帯を借りてやったんじゃあないスか!?」

「説明してやるからちょっと落ち着いてくれよ……」

 

 苦笑いしながら、俺は諸手を上げて反抗の意思が無い事をアピールする。するとフォルテは肩で息をしながらも黙って俺を睨みつけるだけ。早く説明しろとその眼が俺に急かしている。ふむ……こういう時は下手(したて)に出るのが上策か。成程な。一つ学べた気がするぜ……。俺はうんうん頷いて、黙ってフォルテが落ち付くのを待つ。しばらくしてテンションの落ちてきたフォルテに対して、俺は事のあらましをかいつまんで説明した。

 

 

 

「…………そんじゃあなんスか、ダリルセンパイ、起きてこない私に怒って一人でご飯しにきて……」

「そんで俺と話しただけだよ。さっきの画像はお前への悪戯のつもりだろうなぁ。見事にしてやられた気分はどうだ?」

「死ぬほど恥ずかしいっス…………」

 

 耳まで真っ赤にして机に突っ伏すフォルテ。その様はより俺を愉しませる。今日の朝食は夏休みに入って最高の朝食だ。俺はにやにやとフォルテの頭を眺めて上から声をかける。

 

「何か俺に言う事無いか?」

「早とちりして申し訳ありませんでしたっス……」

 

 机に突っ伏したままのフォルテの頭に一度軽く手を乗せると俺はさっさと席を立つ。もう黛の奴は捕まえられねえだろうし、時間は既に七時半を回っちまってる。そろそろ教員室に出勤しに行かねえとだな……。

 

「フォルテ。お前はそこでちっと頭冷やしとけ……メシ食って、さっさとダリルに謝って来い。俺からはそんだけだぜ、さらばだ。Ciao(チャオ)~」

「すんませんした~……」

 

 いや、構わんさ。お陰でまた一つ俺は人間の感情を学んだ。確か嘗て<グリス>の変身者である猿渡(さわたり)も『激情!』だ何だと叫んでいたな。奴の強さの源はそこにあったのか……? 空いた時間にかつての戦いを一度整理してみるのもいいかもしれん。感情を知らなかった俺が見落としている『人間の強さ』。それが今の俺なら何か掴めるかも知れないからな。

 

 そのためにも、今日の事務は頑張って終わらせるとしますかね……。俺はそんな事を考えながら、教員室に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

「あ、石動先生。おはようございます!」

「おっはよーございます……あら、榊原(さかきばら)先生だけっすか?」

「あ、はい……皆さん今日はまだのようで」

「ふぅん……」

 

 教員室に着いた俺は先に居た榊原先生に挨拶すると部屋の中を見回した。夏休みなど当直の教師を除いて他の教師もまた帰省していたり、事務以外の作業をやっている事もしばしばだ。とりあえずコーヒー飲むか。俺は全自動コーヒーメーカーの前に立ち豆を投入。後は待つだけ、簡単だ。

 

 しかし、全自動と言うのがどうにも納得いかん。やはりコーヒーは回してこそだろう! 山田ちゃんが大枚はたいてこの全自動コーヒーメーカーを購入してくれたとは聞いたが、なぜ手動のコーヒーメーカーの使用が禁止にされてしまったのか。しかも俺と織斑千冬だけ。これが差別って奴か……俺のコーヒーを飲んでくれる奴も教員室にはいないし……。理由は嫌と言うほどわかってるんだがなあ。

 

 俺はちょっぴり沈んだ気持ちで出来立てのコーヒーの立てる湯気を眺める。美味そうだ……だが黒さが足りない。やはりあの暗黒領域めいた黒さ、あれがあってこそのコーヒーだと思うがね。しんみりとしながら俺は自身の席に腰を落ち着けて、コーヒーを一口。

 

 美味い。だが物足りないな……明日は自前のコーヒーメーカーを持ってくるとしよう。確かに備え付けのを使用してはいけないとはされているが、新しいのを用意してはいけないとも言われてないし、コーヒー作り自体を禁止されても無い。それに、俺個人が飲む分には文句も言われねえだろうしな……。

 

 よし、やるか! コーヒーを一気に飲み切って、俺は今日処理すべき書類を眺める。この量なら午後からは篠ノ之に訓練を付けてやれるかね。伸びを一つして気合を入れた俺はまず飲み終えたコーヒーを片付けようと席を立った。すると、榊原先生がどこか意を決したような顔で俺の元へと歩み寄って来る。

 

「あの、石動先生……」

「はいはい、何ですか~?」

「これなんですけど……」

「んん?」

 

 そう言って彼女が差し出したのは手の平に乗るほどの大きさの可愛らしい包みだ。それをつまみ上げるとかさりと中の物が音を立てる。そう重くはない……金属じゃあ無いみたいだな。

 

「こいつは何です? どっかのお土産? 旅行でも行ったんですかい?」

「あ、いえ。クッキーです。昨日ちょっと焼いたんですが食べきれなくて……コーヒーと合うので、良ければ是非……」

「おおっ、そりゃどうも!」

 

 俺は大喜びでその包みのリボンを解く。中には素朴なクッキーが5枚ほど。甘い香りが立ち上り俺の鼻を擽る。成程……コーヒーと別の食べ物を組み合わせるという発想は俺にはなかった。よくよく考えれば、戦兎も二つの成分を組み合わせたベストマッチによって一つの成分では実現できない強さを生み出して見せていた。こりゃ一本取られたな……人間からまた一つ学ばされたぜ……。

 

「こいつは美味そうだ! っと、コーヒー飲み切っちまったな……もう一杯煎れて来るんで少々お待ちを」

「あ、私が煎れて来ますよ。ちょっと待っててくださいね」

 

 一旦席を離れる榊原先生。俺はそれを見送るとクッキーに視線を移す。いやまさか俺が人間からの施しを受けるとはな……だが悪い気はしない。むしろ、俺が今までこの学園で培ってきた信頼の表れと言うべきか。実際、俺の事を警戒してる教員なんて織斑千冬と轡木(くつわぎ)の爺さん位だ。

 

 あの爺さんは何やら偉い立場に居るからなんだろうが……織斑千冬の警戒っぷりはちぐはぐでよく分からん。俺をひどく警戒している時もあれば俺の提案をすんなりと飲むこともある。だが、発信機を装着し続ける指示を継続していることからも俺の事を完全に信頼していないのは明らかだろう。お陰様で俺はこの夏休みに気軽に外出することもできん。全く、出来ればこの周辺の地理も頭に叩き込んでおきたいんだがな……。

 

「お待たせしました石動先生。どうぞ」

「どーもどーも! それじゃ、いただきます……!」

 

 コーヒーを受け取り、俺はクッキーを前に手を合わせた。そのままクッキーをつまみ上げ、一口。さくさくとした食感に、強い甘みが口の中に広がった。これだけでも十分に美味い。さて、コーヒーとの組み合わせは……? 俺はカップを持ってそれを煽り、次の瞬間目を見開いた。

 

「……どうですか、石動先生?」

「…………コーヒー、クッキー、ベストマーッチ……!」

 

 榊原先生の心配そうな声を他所に俺は驚愕しながら顔を上げた。クッキーの甘みとコーヒーの苦味が互いに作用し合い、凄まじい満足感を生んでいやがる! まさか特定の食べ物との組み合わせでコーヒーの美味さがここまで跳ね上がるとは……! これは早急に自分のコーヒーでも試してみる必要がある!

 

「いや、いや、本当に美味い……!」

 

 思わずつぶやいたその言葉に榊原先生はぱぁっと明るい顔を見せる。うむ、そりゃ人間褒められて悪い気がする状況はそう多くはない。予想通りの反応だ。このまま褒め殺して行くとするか。

 

「まさか榊原先生がこれほどのクッキー作りの名人とは……御見それしました! どうです? もし揃って学園をクビになったら一緒にカフェを開くってのは……」

「い、一緒にですか!? そんな……!」

「あ、こりゃ失礼! セクハラ認定は勘弁してください。そうだ、榊原先生もクッキーどうぞ!」

 

 俺は榊原先生の眼前につまんだクッキーを差し出した。すると彼女はこれ以上無く真っ赤になり口をパクパクとさせるばかり。ふむ、この反応は素直に予想外だな。そこは大人しくクッキーを受け取って食うべき所だろう。何かがこの女の感情に強い影響を与えたのか? 良く分からん。

 

 だが、それはそれで悪く無い。分からないという事が『解る』と言うのは、つまり課題の発見だ。この行動を生み出した感情を理解すれば俺は更に人間を理解できるかもしれん! 俺はそのまま今は理解できぬ行動をとる彼女を見据え続ける。そうして長そうで短い時間が経った後、彼女は覚悟を決めた様に俺の差し出すクッキーに顔を寄せた。

 

「あ、あーん……」

「あん?」

 

 榊原先生は何を思ったか目を閉じ、そのまま口を開けて俺の持つクッキーの前で動きを止めた。隙だらけだ。いや、あえて隙を見せる事で親愛を表す人間のコミュニケーション手段か……しかし少なくとも石動や今使っている肉体の記憶にこの行動についての情報は無かったはず……。俺のリサーチ不足か? ビルド世界では俺以外にも<ブラッド>の三人が細かい情報収集や情勢操作をしていてくれたので、意外と俺は広いコミュニティを知らない。しかしそれでも人間のコミュニケーション手段の大半をマスターしたとは思っていた。

 

 だが、ここに来て新たなコミュニケーション手段と対面するとは……やはり人間は面白い! 俺はにやりと笑って、この眼前の人間にどう対応するかを思案した。まず考えられるのはこの口の中にクッキーを突っ込む事だ。かつて石動が幼少期の美空とそんなワニを象ったおもちゃで遊んでいる記憶を見た覚えがある。恐らくはクッキーだけを残して口から手を引き抜き、自身の指は齧られぬようにする……そんな所だろう。ゲーム感覚でなかなか面白い!

 

 ……だがしかしそれにしては緊張感が無い。この案は却下だな。さて、次の案だ。一体どうするか……。

 

 そう俺が思案していると誰かが音もたてずに戸を開き、そっと教員室に入ってくる。織斑千冬だ。奴め、普段から気配を消す訓練でもしてるのか……? クッキーを差し出した姿勢のまま俺が訝しんだ目を向けると、持っていた書類に目を向けていた奴が顔を上げる。瞬間、織斑千冬は突如硬直した。どうした? 挨拶も無しか? 俺が白い目を向けても普段のようにそれに対抗する事もなく、奴は俺と榊原先生を何度か見比べ、しまったという顔で後ずさって細心の注意を払いながら廊下へと出て行ってしまった。

 

 何だったんだ……? 俺はまたその行動を理解できずにいると指先からさくり、と言う振動。見れば榊原先生がどこか憮然とした顔で俺の持っていたクッキーの半分を咀嚼していた。しまった、制限時間があったとは……! 俺は己の不覚を自覚して一瞬顔を歪ませるが、気を取り直して彼女に話しかける。

 

「ど、どうっすか? ってまあ自分の作ったもんですし、味は知ってますよね?」

「……いえ、別に。ありがとうございました。それでは」

 

 急につっけんどんになる榊原先生。……これはアレだな? 人間の女心と言う最も理解が難しいと言われる領域に踏み込んでいるな? 全く、人間でも未だ解明できていない領域らしいからな、今の俺では力不足か……。俺は半分だけ残ったクッキーを口の中に放り込んでざくざくと咀嚼する。すると、こちらの様子を伺っていた榊原先生が先ほどの織斑千冬のように硬直し、赤くなった顔を伏せて外へと走り去ってしまった。

 

 ――――本当にわからん! 人間という奴は愛すべき生命体ではあるが、ここまで難解とは思っても見なかった! 戦兎よぉ、お前ならこういう時どうする……? 奴の天才的頭脳であっても女心は理解できないものなのかという興味が俺の中に湧いた。しかしそれを問う手段も無いし、聞いた所で答えてくれるとも思えん。

 

 結局自分で理解するしかないという事か……俺は目の前に立ちはだかる長い道のりに溜息をつく。幾らお前に貰った『人間の感情』があるとしてもそれだけでどうにかなるか分からんな……まったく、本当に人間は俺を飽きさせない玩具だよ。

 

 ひとまず眼前の書類を消化するとしよう。早めに事務を終わらせて午後一で鍛錬を開始する。篠ノ之でもいろいろ試してみたいからな。そう思って俺は書類をめくってペンを取るのだった。

 

 

 

 

 

 

「では石動先生、今日もよろしくお願いします!」

「おう、よろしく頼むぜ~」

 

 修練場で俺と篠ノ之は向かい合った。今日は互いに道着を着ている。何せ今回は生身での戦闘訓練だからな……何故そんな事をしているかと聞かれれば、単純に今日はアリーナが満員御礼だからだ。そう言う日はたまにある。幾ら専用機を持っているからって滑り込む隙間が無ければ問題外だ。それに今は一夏も家に戻ってるし、ここは体を動かして上手い事ストレス発散してもらう為にこの訓練を組んでいる。

 

 それに篠ノ之もまだまだ成長期だしな。時折生身の体を動かしておかないと何があるか分からん。その為、俺はちょくちょくトレーニングに生身での戦闘訓練を導入していた。

 

 元来、俺達<仮面ライダー>の戦闘におけるメインは肉弾戦だ。故に俺にも多少の体術の心得はあった。ライダー達の戦い方なんてそれぞれの我流に等しい以上技術的な事を教えてやる事は出来ないが、少なくとも実戦練習にはなる。

 

 ま、本気を出すような大人げない事は俺はしない。それはそれでボロが出るかもしれんからな。織斑千冬ほどでは無いとは言え、篠ノ之もそれなりの手練れとなってきている。スタークとの戦闘経験も一夏やデュノアと同じく一番多いし、女の勘という奴は馬鹿にならんらしいからな。

 

 そんな事を考えていれば、正面に立つ篠ノ之が構える。確か<篠ノ之流>、だったか? 何度か拳を交えてみてわかったが中々に実戦的な流派と言える。それにこの世界の人間はビルドの世界の一般的な人間より訓練次第で高い身体能力を発揮するようだしな。篠ノ之もその例に漏れず、<ガーディアン>程度となら余裕で渡り合えるであろう強さには到達していた。

 

 <ネビュラガス>の注入無しでそれ程の強さを身に付けるというのは中々に興味深い物だ。どんなに似ていてもここは別世界、そもそもの人間の能力基準が違うのかもしれんな……。と、言っても万丈並のふざけた身体能力を持っているのは織斑千冬や篠ノ之束くらいの物だろう。<ドラゴンフルボトル>の助けがあったとは言え、アイツはネビュラガス注入からそう経たないうちに<ビルド>用の装備である<ドリルクラッシャー>をスマッシュに突き刺さるほどの勢いで投げつけていたからな。流石は俺の半身だぜ。

 

「失礼する」

 

 その言葉と共に修練場の扉が開いた。織斑千冬。その後ろにはボーデヴィッヒ。揃って何をしに来た? 二人は靴を脱いで畳の上に上がると俺の前に立つ。だが、織斑千冬の動きが何やら怪しい。俺と視線が合うとそれとなく憮然とした顔を強めるのだ。

 

 どうした? いつものこの女なら俺が何かを言う前に苛立つなんてことはないと思うんだが。そんな様子がらしく無くてむず痒さを感じる。そんな事を考えていると、織斑千冬は複雑な顔をして口を開いた。

 

「石動……ごほん! 実は朝に言おうと思っていたのだが、お前と榊原先生の邪魔をしては悪いと思っていたらこの時間まで話が出来なかった。すまない」

「いや何の話か見えてこねえんですけど。順序立てて話してくださいよ」

「うむ……実は、ラウラの奴に少し鍛錬を付けてもらいたくてな。本来は私がやるべきとは思うのだが最近はひどく忙しい。ゆえに、お前に頼もうと思い立ってここに来た訳だ」

「何で朝言ってくれなかったんすか? そうすりゃ準備しといたんすけど」

「あの状況で言えるか!」

 

 声を荒げて言い放つ織斑千冬に、俺はひどい違和感を感じた。そのまま訝しんでいると篠ノ之がそっと近寄って俺に耳打ちしてくる。

 

「石動先生、『あの状況』とは?」

「別に何も無いぜ~ただ一緒にコーヒー飲んでただけさ」

「はぁ……良く分からないですね」

「だろ?」

 

 俺達二人でひそひそと話をしていると腕を組んだ織斑千冬が段々と苛立ってくるのが分かって、それに気づいた俺はあっさりとその提案を了承した。

 

「大体分かった。ボーデヴィッヒ。お前が俺の訓練を受けたいってのなら構わない。ビシバシ行くから覚悟しとけよ」

「……ありがとうございます」

 

 俺の言葉にボーデヴィッヒは大人しく頭を下げた。どう言う心境の変化だ? 臨海学校での篠ノ之との会話で何かあったのか? 流石に俺もそれを聞くほど篠ノ之の個人的な事情に踏みこんではいないし……まあ、俺にとって損はない提案だからな。大人しく請けさせてもらうとしよう。

 

「とりあえず篠ノ之。道着の予備があったな? 今日だけボーデヴィッヒに貸してやってくれねえか? 頼む」

「はい、分かりました。少し袖が長いかもしれませんが……」

「その辺は仕方ないさ、次までにどうにかすればいい。よし、ボーデヴィッヒ、お前道着に着替えて来い! 案内頼むぜ、篠ノ之」

「はい!」

「私も同行しよう」

 

 織斑千冬がそう言ってボーデヴィッヒの横に立つ。いやお前、忙しくて俺に任せるつもりなんじゃなかったのか? ……別に織斑千冬の細かい予定まで把握出来てない以上、言っても野暮だとは思うがね。

 

「へいへい、とりあえず時間は待ってくれないんだ。さっさと着替えて来な」

「はい。行くぞボーデヴィッヒ」

「い、いいのか? その、我々は夫婦関係にあるのに服を共用するなど……」

「夫婦関係ではないので問題ない」

 

 言い合いながら修練場を後にする彼女らに視線を向けながら、俺は腹の中で笑った。Good job(グッジョブ)だぜ織斑千冬! これで自然にボーデヴィッヒの戦闘データを収集できる! しかし、二人分見なきゃって事は更に余暇の時間は短くなりそうだが……ま、背に腹は代えられんからな。ボトル制作が多少遅れようとボーデヴィッヒの戦闘能力の調査、そして奴自身のレベルアップは重要だ。たまには一夏やオルコット、(ファン)やデュノアの様子も見に行きたいんだが……それはそれか。後々うまく調整していけばいい。

 

 俺は水筒の水を口に含んで、畳に腰を下ろし胡坐をかいた。とりあえず、早く戻ってきてくれ。さっきも言ったが今日の時間も限られてるんだからな……。

 

 

 

 

 

 

 十分ほどして戻ってきた篠ノ之とボーデヴィッヒを並ばせ、俺は今日の鍛錬の説明を始める。

 

「よし。篠ノ之には説明したが、今日は体術の鍛錬をするぜ。篠ノ之の腕は大体分かってるが……ボーデヴィッヒ、お前格闘技の経験は?」

「……ドイツの軍隊式格闘技を修めています」

「おう。俺を投げ飛ばした時の動きはまだ覚えてるぜ~。ありゃあ、正直痛かった……」

「あの時は申し訳ありませんでした」

 

 そう頭を下げるボーデヴィッヒ。しかし何となくだが、その行動は本心からではない気がする。いや、訓練にかける熱意はしっかり感じるのだが、俺が教官であるという事に不満があるように見えるのだ。まあ分からんでもない。ボーデヴィッヒは一度俺を軽々放り投げてるんだ。あの時無抵抗だったおかげで、俺の能力に疑念を持っている……そんな所だろう。当然の事ながら、自分より弱い人間に教えを乞うなんてのは下の下だ。しかし、今回俺を選んだのは織斑千冬だろう。そりゃアイツは逆らえない。嫌々ながら自分より弱い相手に教えを乞う……不本意だろうな。

 

「着替えてもらって何だが、今日はほとんど見学だ。とりあえず篠ノ之と俺がどういう訓練してるか、ちょっとばかし見ててもらうとするぜ」

「了解です。楽しみにしています」

 

 ……ほう。言って笑うボーデヴィッヒに、俺は少し心が躍った。俺が自分の能力をアピールするつもりだったのと同様、向こうも俺を試す気満々らしい。面白い! ならお前の師に俺が相応しいかどうか、その眼で確と見てもらおうじゃねえか。

 

「で、問題は――――」

 

 しかし俺は、そこで彼女らの横に立つ()()()に目を向けた。そいつは自前の道着を着て、何時でもいいぞと言いたげに臨戦態勢に入っている。

 

「何で織斑先生まで道着に着替えちゃってるんですかね?」

 

 白けたように言う俺に対して、織斑千冬は鼻を一度鳴らして言った。

 

「その答えはただ一つ……私もお前の訓練とやらを体験してみたいからだ」

「ちょっとぉ!? なんすかそれ!?」

「何だと言われてもな……嘗ての部下を任せるんだ。ちゃんとした訓練が行われているのか私にはチェックする義務がある。それに最近体が鈍っていたからな……丁度いい機会だし、ついでに私も少し鍛え直そうと思って」

「いやいやいやいや! 織斑先生今更鍛え直す必要無いくらい強いじゃないですか! これ以上鍛えて世界征服でもするつもりですか!?」

 

 勘弁してくれ! お前は今俺が一番警戒している相手だぞ! 確かにお前の情報を手に出来るチャンスではあるが、生身、更に<エボルト>としての力を使う訳にもいかぬとあればこの女の実力を引き出すのは無理だろう。しかもヘタすれば動きの癖からスタークとしての俺の素性を見抜かれる可能性もある。正直荒唐無稽(こうとうむけい)な話だが、この女ならやりかねん。そう思うほどには、俺は織斑千冬を警戒していた。

 

「何だ石動。お前、私に鍛え直されると何か困る事でもあるのか?」

「あー…………これ以上強くなられると出席簿で殺されかねないかなー、なんて」

「今張り倒してやってもいいんだぞ」

 

 先ほどとは違って調子を取り戻したか、にやりと笑う織斑千冬に俺は観念したように肩を落とした。余りに拒絶し続ければ不自然だ。ここは大人しくこの女も訓練に参加させるより無いだろう…………おそらく、奴がこういう行動を取った原因は俺がスタークとして勝利してしまった事だ。しかし、まさか織斑千冬自身が鍛錬を始めるとは思ってなかった。大方剣を携帯するようになったり俺と戦う時はISに乗ってくるとかだとタカを括ってたぜ……。

 

 クソッ、まあしかしやるしかない。時間も無いし、ボーデヴィッヒにも認めてもらわなきゃならんし。それに幾ら強くなったとは言え、篠ノ之はまだまだ俺には遥かに及ばん。とりあえず二人には見ているように促して、修練場の中心に立って俺達は向かい合った。

 

「うし、とりあえず構えろ篠ノ之。観客が居るが……そろそろ見られる練習もしといた方がいいと思ってたからな。丁度いい」

「はい……よろしくお願いします」

 

 礼をしていた頭を上げ、篠ノ之が構える。それに対する俺は首を傾けあくまで自然体だ。織斑千冬の眉がぴくりと動く。

 

「いつも通り、負けたと思ったら感想戦でよろしいですか?」

「そうだな……今日は観客もいるしなあ……それに加えて、とりあえず3分でやろう。それでいいか?」

「了解です」

 

 俺達は時計に目を向ける。丁度時計は13:29を指していた。俺と篠ノ之は目線を交わし合い、どちらともなく13:30から戦いを始める事を理解する。さて、どれだけ腕を上げたか……そして、ボーデヴィッヒと織斑千冬という我がクラスの実力者を前にどれだけの力を発揮できるのか……見せてもらおうか、篠ノ之!

 

「行きます!」

 

 言うが早いが篠ノ之が畳を蹴る。速い! 畳の長辺二枚分の距離を一瞬にして詰め、俺の胸に向け鋭い突きを繰り出してきた。俺は一歩身を引きその拳を空振らせる。しかしそれによって更に勢いを付けた篠ノ之が二発、三発と突き出し、徐々に肉薄してくる。一瞬口元を緩める篠ノ之。それを見て俺は小さく溜息を吐いた。四発目の突きを俺の右手が正面から受け止めそのまま()()。驚愕する篠ノ之に対応さえ許さずそのままに握った拳を引っ張り、前進していた勢いを利用され体勢を崩した篠ノ之のがら空きの脇腹を軽く手で叩いた。

 

「一回だな」

「くっ……!」

 

 俺とすれ違う様に畳を転がった篠ノ之はすぐさま立ち上がり構えを取り直す。俺は相変わらず首を傾けた自然体。丁度その距離は畳二枚の長辺分。場所は変わったが、間合いは修練の始まる前……文字通りの振出しに戻っていた。

 

「篠ノ之ォ、今のはどうだ?」

「はい、完璧に釣られました。一瞬突きで行けると思ったのですが」

「思わせたんだぜ~。ああいう時は拳に拘らず素直に蹴りを使うといい。一つの技に拘るのはお前の悪癖だぜ」

「はい……! もう一度お願いします!」

「よし、次はこっちから行こうか」

 

 そこで、俺が初めて構えた。一度右手を左手に打ち付け、右拳を引き左手を前に出す。その構えは万丈と同じもの。この世界の人間には知る(よし)も無いが、俺が奴を吸収した際にその戦闘経験もほぼコピーしている。そうで無きゃ奴から生み出した<エボルドラゴン>を扱いきれなかったからな。それに万丈の動きなら織斑千冬にスタークとの共通点を見出される事もない。ゆえに、今扱うには最善の動きと言えた。

 

「ま、悪いが……『今の俺は、負ける気がしない』ぜ?」

「生身では、未だに片手で数える程度しか勝てた事はありませんがね……!」

 

 俺の挑発に篠ノ之は挑戦的な笑みを浮かべる。いい向上心だ、素晴らしいぜ本当に! 俺は笑って篠ノ之の懐で構えた。そのまま奴の反応を待たず鳩尾(みぞおち)、あるいは水月に触れようとして、顎へ向け迫る右膝を前に咄嗟に飛び退き再び構え直した。そこに篠ノ之が反撃とばかりに左右の突きのコンビネーションを打つ。

 

「コンパクトかつクリティカル! 今の膝は良い反撃だったぜ!」

「ハアッ!」

 

 その連続攻撃を捌きつつ褒める俺の言葉を無視して篠ノ之は槍じみたサイドキックを繰り出す、だが俺は体を逸らしてそれを脇腹で抱え込み、関節の極まる方向へと回転し奴を滑稽に跳ね回らせて転倒させ、転がる篠ノ之に飛びかかりその顔に拳を突きつけた。

 

「……これで二度目だな。今のは何かあるか?」

「勝負を急ぎました……大技はもっと相手の態勢を崩してから打つべきだったかと」

Good(グッド)。その通りだ。膝は?」

「大丈夫です、続きをお願いします」

「いや、ダメだ」

 

 その言葉に、肩で息をしていた篠ノ之が目を丸くする。俺は笑って時計を指差した。そこでようやく篠ノ之も既に三分間が経過している事に気づき、姿勢を正して礼をする。俺はそれに小さく応え、自身の頬を伝う汗を拭った。

 

 流石に、織斑千冬に見られているという緊張感は半端じゃあ無いな……! 俺も少々力んでいたかもしれん。そこで一度深呼吸をして壁際まで行き、俺は水筒の水を一口飲みこんだ。ふと見学者の方を見れば、ボーデヴィッヒはその眼を見開き、今すぐにでも俺と戦いたいと訴える獰猛な視線をぶつけてきている。どうやら多少は認めてもらえたようで何よりだ。

 

 さて、織斑千冬は、と……しかし俺がそちらに視線を向けても、正座していたはずの奴はどこにもいない。お手洗いか? と思ったその時。

 

「お、織斑先生?」

 

 篠ノ之の声に反応して修練場の方を向けば、その中心で織斑千冬が仁王立ちしていた。

 

 その闘気……殺気? は俺の皮膚に鋭く突き刺さり、人間の体が生存本能に打ち震える。いや待て、お前見学者だろう。何やる気満々でそこに立ってやがるんだ!

 

「……あの? 織斑先生? 今日は見学のはずじゃ?」

 

 言いにくそうに俺は奴に声をかける。しかし奴はそれに首を鳴らして朗らかに答えた。

 

「最初はそのつもりだったのだがな……あのような物を見せられて滾らぬ武人は居ない。石動惣一。私とも手合わせ願おうか」

 

 言って奴は右手を伸ばしくいくいと手招きをしてくる。やばいな。ありゃ完全に本気だ。どうするか……流石にこの体の性能だけで奴に勝つのは不可能だ。と言うか、ブラッドスタークとほぼ互角な相手に生身で挑むなんて自殺行為そのもの。それに俺にメリットが一切ない! ……仕方あるまい。正直無様にも程があるが……ここは何とか誤魔化すしかねえだろう! 言い訳など、後で幾らでも出来るのだ。生きてさえいればな!

 

「グワーッ膵臓(すいぞう)!」

 

 俺は叫び、丸太めいて修練場の床を転がった。篠ノ之、それにボーデヴィッヒがきょとんとしてその俺の様子を見ている。

 

「急に膵臓が! 痛たたた……! こ、これは今日の訓練は中止するしかない……! すみません織斑先生、その話は後日と言う事で――――」

「ハアッ!!」

 

 瞬間、瓦を割るが如く真上から叩きつけられた拳を俺は跳ね飛び躱していた。そのまま踊りでも踊るように回転し、織斑千冬と相対する。

 

「……石動。私はおふざけが嫌いだ。それに戦いの場から背を向けて逃げ出すような者も嫌いだ。分かるな、石動?」

 

 残心したまま顔を上げる織斑千冬。その眼から放たれる殺気に俺の全身に鳥肌が立った。逃がしちゃくれそうに無えな……。俺は溜息をつき、諦めて奴の前に立った。

 

「やる前に一ついいすか?」

「何だ? 言ってみろ」

 

 尊大に言う織斑千冬。しかし、奴の纏う雰囲気がそれへの異論を許さない。これが世界最強(ブリュンヒルデ)か。いつの間にか篠ノ之とボーデヴィッヒは並んで正座し、だらだらと冷や汗を流している。だがそれにも無頓着な俺は織斑千冬の目を見てうんざりとしたように言った。

 

「戦うのはいいんですけど……俺にメリットが少なすぎるんすよね。織斑先生のわがままに付き合うんだから、俺にもなんか利が無いと……そうは思いませんか?」

「ふむ」

 

 俺の言葉に奴は思案するように顎に手をやり、肌を刺すようだった殺気が目に見えて薄まる。篠ノ之とボーデヴィッヒの二人は相当辛そうだが本当に大丈夫か?

 

「そうだな。今度飯にでも連れてってやる。当然、私の奢りでな。それでどうだ?」

「安いっすね」

 

 その瞬間織斑千冬の殺気が一気に高まりボーデヴィッヒが失神した。あーあ、可哀想に……ドイツ時代も相当しごかれてきたんだろうなァ……。そんな場違いな感想を抱いた俺に、最早容赦のひとかけらも見えぬ顔で織斑千冬は拳を鳴らした。

 

「いいだろう。そんな口の利けぬ程の店を紹介してやる。それと……この後もしばらく口が利けなくなるくらいは覚悟しておけ」

Oh my(マジかよ)……。分かりました。始めましょう……あんま、期待し過ぎないで下さいよ?」

 

 俺は半ばやけっぱちになって拳を構えた。織斑千冬も先ほどの篠ノ之と良く似た――――いや、同じ流派と思しき構えを取る。そのまま俺達は睨み合った。動けぬ俺に、動かぬ織斑千冬。そして、正座したまま硬直する篠ノ之。その顎から汗が一粒道着の上に、ぽとり。

 

 その音を合図に、俺と織斑千冬は激突した。

 

 

 

 

 

 

「ひーっ、痛え……」

 

 放課後。俺はふらふらと自室に向かって歩みを進めていた。今日はえらい目に遭ったぜ……織斑千冬め。もっと加減しろってんだ。ハザードレベルは……4.9。下がってなくて安心した。不幸中の幸いか。

 

 しかし今日はもうダメだな。こういう日はさっさと飯食って風呂入って寝るに限る。ボトル作りも休止だ。俺自身に睡眠は必要ないが、出来ないわけでもない。人間の体の中で自身を休める事で単純に体力を回復できる。今まではそれが必要になるほど追いつめられることが殆ど無かったと言うだけだ。まあ、必要になったのはどれも織斑千冬による渾身の一撃によってなのだが……。

 

 一歩進むたびに全身が悲鳴を上げた。まあしかし、これで奴も俺に安心してボーデヴィッヒを任せてくれるだろう。篠ノ之という育成実績もあるし、俺自身の実力も奴ら認めてくれたようだしな…………。と言うか、そうでもなけりゃあ割に合わん。あんなヤバイ女は火星に居た<ベルナージュ>以来だぜ……。

 

 ――――そう言えば、この世界での火星はどうなっているのか。文明があるという風には言われていないが、万が一と言う事もある。<完全体>の力を取り戻したら真っ先に様子を見に行かねえとだな……。

 

 思案しながら、俺は這う這うの体で自室へと辿り付いた。<ロックフルボトル>を使い扉を開け、疲れ切った俺は後ろ手にドアを閉める。

 

「あ痛っ!」

「……んん?」

 

 その声に振り返れば、ドアと壁の隙間に爪先が差しこまれ、完全にドアが閉じるのを防いでいた。

 

「誰だ? 勘弁してくれ……今日俺はもう過労死一歩手前なんだよ……」

「石動先生、少しお話がありまして。ちょーっとだけ、お時間よろしいかしら?」

「悪いけど今日の俺はもう閉店さあ……またのお越しをお待ちしております……」

 

 俺は半ば怒りに任せ無理矢理ドアを閉めようとする。しかし思った以上に織斑千冬に受けたダメージが大きかったか、あるいはこの生徒の力が俺の想像を上回っていたか。一気に開いたドアによって俺は室内に転がされ敷いてあった布団の上に大の字になって沈黙した。

 

「あらあら、ごめんあそばせ……って、本当に大丈夫ですか?」

「お嬢様、やはり今日は出なおすべきでは……」

「やーよ! 『石動惣一の部屋』と言えば誰も中を知らないという<IS学園七不思議>の一つ! 秘密は甘いもの、暴きたくなるのは自明の理だからね」

 

 先ほど俺と話していた声の持ち主とは別に、もう一人の女子が一旦引くことを提案する。だが当の『お嬢様』はそれをあっさりと拒否して、不可侵領域を今まで維持してきた俺の城への初の侵入者となった。

 

 俺は上体だけを起き上がらせその女を睨みつける。水色の髪に自信に満ち溢れた笑顔。タイの色は二年生か。ベスト風に改造された上着の制服に、これでもかと丈を詰められたスカートと赤紫がかったストッキング。一目見ればすぐには忘れないほどの容姿の持ち主だ。しかし、俺の記憶にこのような生徒の姿は無い。転入生……にしては<学園七不思議>だの随分とこの学園に詳しそうだ。休学者とかか? 俺は一瞬思案して、しかし疲れからか考えるのも億劫になって、悲痛な面持ちで頭を抱えた。

 

「なあ……もう今日は仕事は終わりっつったろ……何の用だよ勘弁してくれよ~……」

「そのお話の前に、まずは自己紹介を」

 

 俺の前に歩み出た生徒は底の見えない微笑みを見せて優雅にスカートの端を摘み(それやるならもっと丈長くした方がいいと思うぞ)、一礼すると手に持っていた扇子を鋭い動作で開く。そこには筆による物と思しき『相見(しょうけん)』の文字が描かれていた。

 

「私は、このIS学園の生徒会会長……<更識 楯無(さらしきたてなし)>。以後お見知りおきを、石動先生♪」

 

 




『仮面ライダービルド 最終回・後夜祭 第二弾~マックスハザードオン!~』行ってきました。
オフレコ案件が多すぎてすごかったし、映画Be The Oneで三回も涙汁を出した。
とりあえずカミホリ監督はネコ派、それだけは真実を伝えるしかない。

恋愛……エボルトに恋愛は必要なのか……?

最近ゾンズとウルトラマンネクサスまた見てたので連続ドラマ的な切りがやってみたかった。
会長もかなり書くのに労力要るキャラですねこれ……扇子が天敵過ぎる……。
後コメット姉妹は名前だけの出演で本編に出る予定はないです(アーキタイプブレイカー触ってないし)

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