星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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おまたせしました。後半部分22000字です。書いてる途中に新しい展開思いついて書きなおしたりして突貫なので、誤字が多かったら本当に申し訳ないです。

久々の投稿だと言うに感想お気に入り評価誤字報告してくれる皆さまには頭の上がらぬ思いです。
良ければ今話もお楽しみいただけると幸いです。


トゥモローへの闘争

 訓練。訓練か。

 

 生徒会長に呼び出され、訓練場へと向かう道中で、俺は思う。生徒会長、奴の腕はどの程度の物なのか。その知性の高さはこれまでのやり取りで把握しているが、実力に関しては相当なものであるという事しかわかっていない。

 

 ……丁度いい機会だな。ここで奴の実力の片鱗を垣間見させてもらうとするか。それに訓練場を使ってるんだ。他にも誰かいるのだろう。多分一夏だな。俺も篠ノ之とボーデヴィッヒの相手ばっかで他の奴らには手を出せてなかったし、そっちの力も見せてもらうとしましょうかね。

 

「邪魔するぜ~」

 

 呑気な声と共に俺は訓練場の戸を(くぐ)った。そこには道着姿の生徒会長と、案の定それに向かい合う一夏が居る。その瞬間、突然の俺の入室に気を取られた一夏。直後その懐に生徒会長が滑り込んだと思えば、かち上げからの連撃を以って一夏を吹っ飛ばし、あっけなく戦いを終わらせてしまった。

 

 ――――おっと、少し遅かったか。畳に叩きつけられる一夏を見て俺は笑った。ったく、集中が足りねえなあ。いや、周囲の状況を把握しておくのは戦闘に必要な技能なんだが、それで眼前の相手への集中が切れちまっちゃあ意味が無い。その辺含め、こいつはまだまだだな。

 

「おっとォ、一夏~? いきなり偉い目に合ってんなあお前もな~」

「石動先生……いきなり入ってこないで下さいよ……」

 

 畳に突っ伏す一夏を見下して俺はまたまた笑った。意外と元気そうで安心したぜ。こんなので気絶でもしてるようじゃあ、篠ノ之と並ぶレベルになるのは夢のまた夢だからよ。

 

 そう、俺としては篠ノ之のライバルとして、一夏にもそれ相応の実力を身に付けてもらうつもりだ。何せ数少ない篠ノ之束謹製(きんせい)のIS所持者だからな。ISの特性的に見ても、この二人に余り大きすぎる実力差があるのは好ましいとは言えねえ。

 

 何より、篠ノ之がこいつを強く意識しているのは傍目(はため)にも明らかだからな。奴の強化のためにはお前が必要なんだ。頑張れよぉ、一夏ァ。

 

 そう暖かい視線を一夏に対して送っていると、パンパンと道着の埃を手で払い、少し息を整えた更識楯無が俺に話しかけてきた。

 

「いらっしゃいませ、石動先生。お待ちしてましたよ」

「おう。待たせちまったか? 布仏の奴、随分探してたみたいだからな」

「いえいえ、そんな事はないです。むしろ、丁度よかったって所ですかね」

 

 にこやかに応対する俺と生徒会長。だがその間には、探り合いとも言うべき小さな警戒が行き交っている。そんな俺達を見て最初に口を開いたのは、ようやく座り込むほどに回復した一夏だった。

 

「……あの、楯無先輩と石動先生って、仲悪いんすか?」

「「えっ?」」

 

 その言葉に、思わず一夏の顔を見てから顔を見合わせる俺と生徒会長。

 

「いや、なんかすげえ睨み合ってるから、仲良くないのかなあって……」

「そんな事無いぜ!? 無いっすよねえ生徒会長?!」

「ええ、私たち、ナカヨシ! ナカヨシ!」

「なー!? はっはっはっは!」

「あはははは!!」

 

 鋭い一夏の物言いに慌てて俺と生徒会長は肩を組んで仲の良さをアピールする。だが、一夏の目はそんな俺達を白々しく見つめていて、それに俺達は揃って引きつった笑みを浮かべるのだった。

 

絶対(ぜってぇ)嘘だ……」

「ま、まあそれは置いとこうぜ! それより生徒会長、俺を呼んだ訳を教えてくれ。多分例の話についてなんだろうが……」

「例の話?」

「そうそう! 一夏くん、私に負けたら鍛えられてくれるって言ったでしょ?」

「まぁ、そう言う話でしたけど……」

「それでね、アドバイザーとして石動先生にもあなたの訓練を見てもらおうと思ってお呼びしたの」

「マジですか!?」

 

 憮然とした表情で受け答えをしていた一夏は、俺の参戦を聞いた途端驚きと喜びが入り混じった顔になって立ち上がった。

 

「それなら早く言ってくださいよ……そうと知ってたら意地なんか張らないで、喜んで訓練付けてもらったのに!」

「……なんかそれ、私の方が軽んじられてる気がして、ちょっと傷つくね……」

「まあそう言うなって、お前と一夏は付き合い短いんだ。信頼ってのは、これから培ってきゃあいいだろう?」

 

 言いながら生徒会長の肩を自然に叩こうとするが、一歩身を離した奴に回避されてしまう。チッ。さっきの誤魔化しの時は計り損ねちまって、改めてハザードレベルを計っておこうと思ったんだがなァ。流石にそう容易くは無え――――いや、俺のミスだな。人間の『焦り』と言う奴を味わう機会はそうなかったが、アレがそうなんだろう……。ま、でもこうしてこの女の不機嫌そうな表情が見れたんだ。そこは一夏に感謝しねえとな。

 

 それに何より、俺の指導者としての腕をこいつが信頼しているのが分かったのはデカい。つっても篠ノ之をあれだけ鍛え上げたんだから、それも当然だろう。俺の努力が実を結んでる、と言った所か……嬉しいねェ。

 

「あはは……とりあえず、生身の腕は見せてもらったし次はISの方を見せてもらおうかな。石動先生もご一緒に」

「もちろん! 何の為に来たのか分からなくなっちまうからな。とりあえず外に居ますわ。……一夏ァ、生徒会長の着替えとか覗くんじゃあねえぜ?」

「覗かねえっす!」

 

 更識楯無に適当な受け答えをした後、ここぞとばかりに弄ってきた俺に顔を真っ赤にして答える一夏。その様が面白くて喉を鳴らして笑っていれば、更識楯無が一夏の前で姿勢をかがめ、下から覗きこむようにして言った。

 

「あら、覗いてくれないの? お姉さん、自信なくしちゃうわぁ」

「っ~! 覗きません! やっぱ先生と楯無先輩仲良いんじゃないですか!?」

「だってよ、どうだ?」

「さあ? まだ付き合い短いですし、これから仲良くなれたらとは思いますけど」

「おっと、俺も同意見だぜ。はっはっは」

「うふふ、これからよろしくお願いしますね」

「なんか……この二人の相手するのめっちゃ疲れる……」

 

 肩を落として疲れ果てた様子の一夏の肩をポンと叩いてから、俺は部屋の外に出て廊下の壁に寄り掛かる。さぁてこっからだ。折角来たんだし、一夏の力、そして国家代表操縦者の力、とくと俺に見せてもらおうじゃあねえか。

 

 そんな考えを巡らせながら、俺は先ほど生徒達を切り抜けるのに使った<消しゴムボトル>と試す機会を失った<ケーキボトル>を体内へと仕舞い込んで、二人が顔を出すのをのんびりと待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 その後、俺達が更識楯無に連れられ向かったのは人も(まば)らな第三アリーナ。普段であれば訓練を行う生徒でにぎわうそこは、珍しく閑散としていて、それに俺はほんの少し驚いた。

 

 ふむ。流石に新学期の初めともなれば忙しい奴が多いって事か……? いや、違うな。大方、更識楯無による今日の発表、その影響で皆訓練どころじゃあねえってトコかも知れん。俺は二階のピットからアリーナを見渡して、傍に立つ更識楯無にお伺いを立てる。

 

「ふむ。何をするんだか知らねえが、事実上の貸し切り状態とは丁度いいな……生徒会長、すぐに訓練始めるのかい?」

「いえ、ちょっとまだ揃ってないようなので。すぐに集まると思うんですけどね」

「揃ってない……って、俺達以外にも誰か来るんですか?」

 

 腕を組んで問いかける俺に未だ準備が出来ていない旨を更識楯無が答えると、不思議そうな顔で一夏が首を傾げていた。だが俺はその言葉の正確な意図を読み取り、出入り口の方へと視線を向ける。それに釣られて一夏もそちらに視線を向ければ、丁度そこから幾人かの生徒――――篠ノ之、オルコット、ボーデヴィッヒ、デュノア、そして(ファン)が入ってくる所だった。

 

「あら……一夏さん? それに石動先生? 貴方がたも呼び出されたのでして?」

 

 入ってくるなり俺達を見つけて、不思議そうに声をかけてくるオルコット。その後ろからひょっこり顔を出した凰が、丁度俺達で陰になっていた更識楯無に気づいて、あーっ!? と大きな声を上げた。

 

「あ、アンタはいきなり変なお触れを出してくれちゃった生徒会長!? ちょっと一体何考えて……ってかなんでソイツと一緒に居るのよ一夏ぁ!?」

「えっ!? いや……あー、俺に聞かれてもな……」

 

 ズンズンと近づいてくる凰に恐れを成して、俺の体を盾にしながら弁明する一夏。おいおい、お前その言い方は不正解だろ。凰の性格からして、そういうハッキリしない言い方は感情を逆撫でするだけ……。そう呆れた視線を一夏に向けようとした瞬間、スッと更識楯無が凰の前に立ちはだかり、満面の笑みを浮かべて言った。

 

「まあまあ。そう怖い顔をしちゃ、折角の美人が台無しよ? ……あ、私は更識楯無。これから一夏くんの専属コーチをする事になったから、これからよろしく頼むわね」

「は?」

 

 その余計としか言いようのない一言に俺は冷や汗を垂らし、相対する凰の顔は余りにも純粋な敵意に研ぎ澄まされた。何言っちゃってくれやがるこの女!? いや、俺と最初会った時もそうだったが、初対面の相手をつい挑発する癖でもあるのかよ!?

 

「せ、専属コーチ?」

「あの、一夏さん、どういうことですの……?」

「おい嫁、説明を要求する」

「えっ、い、いやその……助けてくれ箒!」

 

 そんな俺の横で、一夏はデュノア、オルコット、そしてボーデヴィッヒに詰め寄られてたじたじとなっていた。お前、本当にそういう時の対応は下手だな。よりにもよって、篠ノ之に助けを求めるとは――――。呆れる俺を他所に当の篠ノ之はその顔に薄い笑みを張りつけ、一夏に対して凄まじい視線を送っている。

 

「一夏……今の私、怒っているように見えないか?」

「ごめんなさい。……つーか、これはその、勝負に負けた結果なんだよ! 俺は何もしてねぇ!!」

 

 一旦縮こまるように謝って、しかし言い訳めいた言葉を叫ぶ一夏に俺はもはや目頭を掌で覆い天を仰いだ。言ってる事は間違ってないし真実被害者なんだが、早くなんとかしてやらねェと話がいつまで経っても進まねえ……。俺は一方的に更識楯無を睨む凰の視線を遮る位置に滑り込んで、仕切り直すべく手をパンと鳴らした。

 

「おい、お前ら! ……あんまり俺を無視すんなよ~。意外と小心者な俺はスルーされるとすーぐウルっと来ちまうんだ! とりあえず、俺の話を聞いてくれ。一夏は後で好きにしていいからよ」

「ウェッ!?」

 

 驚愕する一夏を他所に、ようやく皆俺に顔を向けて話が通じる状態になってくれた。ったく、この調子で大丈夫なのかねェ……。

 

「とりあえずだ。生徒会長は一夏の専属なんて言ったが、本当の所、お前ら皆の事をコーチングしてくれるって事らしい。その挨拶も兼ねて、今日は皆をこの場に呼び出したんだ。……だよな? 生徒会長」

 

 まるで不安であるかの様に問いかける俺の言葉に、当の生徒会長殿はくすりと微笑んだ。

 

「端的なご説明、ありがとうございます。そこからは私が引き継ぎますね」

 

 そう返して、更識楯無は皆の前に一歩歩み出る。

 

「皆、忙しい所、今日はこうして集まってくれてありがとう。私は更識楯無――――って、皆今日の集会には出ていたよね? だったら挨拶は必要ないか…………石動先生が説明してくれたけど、私は学園の生徒会長として、貴方たち一年生の専用機持ちの実力向上のためコーチとして訓練を見させてもらう事になったわ。あ、先生方に許可は取ってあるから安心して。とにかく、これからしばらくはガッツリ鍛えさせてもらうから。皆よろしくね」

 

 言い切った更識は微笑み、その口元を扇子を開いて隠す。そこには『師範』と書かれた文字。それを見て皆は訝し気に眉を顰める。……当然だな。突然学園に騒動を撒き起こした張本人が直後に自分達の師匠に名乗りを上げるなんて、信用しろと言って出来る話じゃあないだろう。フォローのしどころと見た。俺は更識の前に立つ彼女達の後ろに回って、後ろから覗きこむよう視点の高さを合わせた。

 

「……ま、お前らの気持ちも分からんでもないぜ。だが、こいつの腕はこの学園でも間違いなく最強クラス……いや、事実上の最強と言っても過言じゃあねえだろうな。それは俺が保障するぜ」

 

 その言葉に皆――――特に、篠ノ之とボーデヴィッヒが目の色を変えて俺の顔を見る。そうだよなァ。石動惣一の実力を知るお前達としては、俺から『学園最強』なんて仰々しい太鼓判を押された奴の底知れ無さを警戒するよなァ? 同時に、そんな女が俺からの信頼を得ているのを見て、少しは試してみる価値有りだとは思ってくれるはずだ。

 

 ――――ま、俺はコイツの強さを実際目にしたことなんか無ェんだけど……構わんだろう。本人もそう言っているしな。俺はそう心底笑って、彼女らの間をかき分け今度は更識楯無の横に立つ。

 

「それにだ、俺もお前らの訓練に付き合うように言われててな……これからは生徒会長のサポートとして、俺もお前らにアドバイスしてく。ま、篠ノ之とボーデヴィッヒはこれからも変わらず、他の皆は改めてよろしく頼むぜ!」

 

 言い切った俺は親指を立て、白い歯を見せて笑って見せた。それに対して、一夏達はそれぞれの反応を見せる。まず最初に動いたのはオルコット。奴は心底喜ばしいと言った様子で俺に話しかけてきた。

 

「それって、石動先生が私達にアドバイスをして下さるという事でよろしいですの?」

「ああ。つっても、メインは生徒会長の方になるけどな。俺はあくまでサポートだよ」

「いえ……それでもとても心強いですわ。更識さん、石動先生、これからご教授よろしくお願いいたします」

「ふふっ、ありがとねセシリアちゃん」

「セ、セシリアちゃん……」

 

 更識楯無によるその呼び名はオルコットをちょっと唖然とさせた様で、気の抜けた顔になった奴はほんの少し肩を落とす。だがそこに、気遣いの出来るデュノアが歩み寄って、困ったような笑みを浮かべながら奴を励ました。

 

「だ、大丈夫だよセシリア。それより、石動先生と生徒会長が直々に訓練してくれるって言うんだし、そんな出鼻をくじかれたような顔しないで、ね?」

「ああ、デュノアさんの優しさが心に滲みますわ……」

 

 涙ぐみながら答えるオルコットにちょっと身を引くデュノア。その姿を楽しみながら、俺は他の奴らの会話へと耳を向ける。まず俺に聞こえてきたのは、篠ノ之とボーデヴィッヒの会話だった。

 

「……なるほど、石動先生が近頃私たちへの訓練を早めに切り上げていたのは、この下準備の為だったのか」

「納得だな。だが……石動先生がああまで高く評価する生徒会長の実力……お前はどう思う、嫁?」

「恐らくだが、何らかの武道は修めている筈だ……体幹がかなり鍛えられている。生身の実力だけなら、私やお前以上かもしれん」

「ほう……嫁がそこまで言うとは、あながち最強と言うのも嘘ではないらしい。手合わせするのが楽しみだ……!」

 

 ほう、どうやら奴らも更識楯無の実力を何となく嗅ぎ取ったらしい。流石に俺の弟子だ! 特に篠ノ之、奴は俺の動きから<スターク>との関連を疑っただけあってかなりの眼力を身に付けているらしい。これから生徒会長の目にも気を付けなきゃあいけねえが、奴への警戒も怠るわけにもいかねえな……!

 

 俺がそう笑っている一方、先程まで怒り心頭だった凰は少し不機嫌そうだったが、不思議と沈黙してアリーナの方へと目をやっている。

 

「どうした? 何だか思う所があるみたいだが?」

「……石動先生」

 

 俺が話しかけると視線を此方に向ける凰。だが俺の方を向くのは視線だけで、体はアリーナに向けたままだ。何か考えてるのか……ぜひ知っておきてえな。凰の身体能力……特にハザードレベルの高さは特筆に値する。今後何らかの使い道があるかもしれねえし信頼を築いておいて損は無い。クラスが違うお陰であまり関わる事も無かったからな。

 

「俺で良ければ相談に乗るぜ? 何せ、そう言う事の為にここに来てんだからな」

「……別に、それ程の事は。でもまあ、あれ程箒ちゃんの育成に集中してた先生が、こうして皆の事まで教えてくれるなんてどうしてかと思って」

「んー? そうだなぁ……」

 

 動機か……どのあたりの事を教えてやるかね……。少し悩んでから、俺は口を開いた。

 

「前、壮大な計画があるって言ったの覚えてるか?」

「忘れてませんよ。あの時の千冬さん、まだたまに夢に出るんですから」

「ハッハッハ。すげー勢いだったもんなあ、アレ」

「笑い事じゃあ無かったんですけど……」

 

 何時だかの織斑千冬による追跡劇を思い出して思わず笑う俺に、凰が嫌な事を思い出したように――――いや、文字通りトラウマを抉っちまったんだろうな――――更に苦い顔をする。俺はそれをまた小さく笑ってから、そんな凰を連れ少し騒がしさを増し始めた皆から離れ少しだけ真剣な声色で話し始めた。

 

「…………これ、他の奴には秘密にしといて欲しい話なんだが……俺、今ここに居るのは完全な偶然の産物でよ」

「……石動先生、自分からIS学園に保護されたんじゃあ無かったでしたっけ?」

「それ以前の話さ」

 

 俺はアリーナの手すりに寄りかかって、ポケットから取り出したマトリョーシカを弄りまわしながら空を見上げる。

 

「実はな……俺はIS学園に来る前はカフェのマスターをやってたんだが、その更に前は宇宙に関わる仕事をしてたんだよ」

「…………それ、ホントなんですか? いや、初めて知ったとかじゃ無くて真偽の事なんですけど」

「何で皆信じてくれねえのかねえ……」

 

 顔を下ろして苦笑いした俺はそこでサングラスの位置を直し、再び空へと視線を戻す。初秋(しょしゅう)の空に帯じみた雲が流れているが、俺の視線はその向こう、いずこかにある我が故郷へと向けられていた。

 

「ま、今はいい…………その時の俺はな、宇宙と言う無限(Infinite)のフロンティアを夢見てた――――<白騎士事件>が起きるまでは」

「…………あの事件の後、ウチの国もそうだったけど、各国の宇宙開発競争は急速に縮小していきました」

「ああ、『宇宙の話なんてしてる場合じゃあねえ!』ってな…………皮肉なもんだよ。宇宙に行くための翼が、この星の(そら)を覆って閉ざしちまったんだから」

「…………でも、それと私達を強くするのって関係なくないですか?」

 

 マトリョーシカを軽くお手玉めいて放り投げながら言う俺に、疑問を呈して凰が身を乗り出す。だがそれに俺はあくまで軽薄な装いのまま、マトリョーシカをキャッチしながら答えた。

 

「オイオイ、話は最後まで聞けって……いいか? 今の時代、ISは最強ではあるが、所詮数ある兵器の一つだ。本来あるべき姿には程遠い。当の開発者までもがISに強さを求めちまってる今、誰かがその悪い流れを断ち切らなきゃあならん。それに必要なのも、皮肉な事に強さって訳」

 

 俺はそこで一旦言葉を切り、凰が何か言ってこないかを待つ。だが奴は、俺の言葉に聞き入りその内容について少し考え込むような仕草を見せた。それを見て俺は(わら)った。

 

「それでだ! 俺が鍛え、強くなったお前らが『もう何作ってもこいつらには勝てねえ』ってくらいの力を示して、そう遠く無い未来にISの兵器としての競争を終わらせる。そうしたら、俺はお前らに頭を下げて、その力で宇宙への道を切り開いてもらうつもりだ。それには<最強の一人(ブリュンヒルデ)>だけじゃあどう考えても足りねえ。…………必要なのは一つの目的を共にする、固い絆で結ばれた強者たち。そうだな……ククッ、例えるならば――――『ベストマッチな奴ら』なのさ」

 

 俺はその余りにも思い入れのある言葉を、身振り手振りを交え大袈裟に、けれど大真面目に言い切った。その姿を見届けた凰はそこに込められた想いの重みにただ圧倒され、呆けたような、あるいは底知れ無い何かを直視してしまったかの如く、僅かな震えを必死に抑え込む。

 

「ま、難しい事を言ったが単純な話、俺はまた人類に宇宙を目指して欲しいだけなのさ。どうだ? 壮大だろ?」

「――――流石に、壮大過ぎませんか……?」

「そんな事は解ってるよ」

 

 引きつったような笑みにほんの一滴の汗を流しながら言う凰に、俺はダメ押しとばかりに即答した。

 

「だが、それでもお前らならやってくれそうな気がするんだ。この足踏みの時代を終わらせて明日の地球の為に<新世界>を作り出す。その為の道を生み出す可能性を、お前達に感じちまってるんだよ……」

 

 そこまで言い終えた俺は、またサングラスを少し下ろして直接凰の瞳を見つめた。その揺れる瞳は、その精神状態をまさしく示すようで、見ていて実に面白い。だが奴は次の瞬間、両の手で自身の頬を挟みこむように張って盛大に音を響かせた。そして次に奴が顔を上げた時瞳の揺らぎは影も形も無く、何時もの確固たる意志を持った凰鈴音(ファン・リンイン)がそこには居た。

 

「なんて言うかさ……あたし、くっだらねー事で悩んでたなぁ! って感じ!」

 

 驚く俺の前で肩をほぐすように回して。奴は神妙な顔で語り始める。

 

「そこまで言われちゃ、やる気だして成果見せてやるのが<(じん)>ってもんでしょ。……周りと同じ事してて目標に追いつけるか不安でさ。この訓練、あんまり乗り気じゃあ無かったんだけど……あんな事言われちゃあね。やってやろうじゃない……!」

 

 言い切って、自身に言い聞かせるように奮起する凰。それを見て俺は大いにほくそ笑んだ。そうだ、それでいい。お前達がそうやって強くなることこそが、俺にとって重要な事なのだから。

 

「ところで石動先生……石動先生は、誰が最強の一人(ブリュンヒルデ)になると思う?」

「さあな。流石の俺も、未来までは分からねえよ……」

 

 そう答えて笑った俺は、ひときわ高くマトリョーシカを放り投げた。その時。

 

「石動先生、キャッチ!」

「えっ?」

 

 横合いから呼びかけられた声に反応して振り向くとそこには眼前まで迫り来る飲料缶。俺は咄嗟にそれを叩き落とすかのように掴み取って、その痛みに顔を顰める。

 

「あっ」

「チッ……何だこりゃあ。オイ! 何処のどいつだこんな事しやがるのは!」

 

 凰が何か言っているのも無視して、俺は投げられた飲料の銘柄を確認しそれが炭酸飲料である事に舌打ち一つ。これじゃあ怖くて開けられやしねえ。それより突然何なんだ!? 怒りを込めて顔を上げると、歩いて近づいてくる二人の影が目に入った。

 

「よー石動先生。探したぜ」

「お世話になってまッス」

 

 そこに居たのは獰猛な笑顔のダリル・ケイシー。そして申し訳なさそうなフォルテ・サファイア。俺に何か用があるらしい。だが、俺は突然飲料缶を投げつけられた事にとても憤慨していた。

 

「ダリル……何の用だ? お前、今の俺がキャッチし損ねてたら顔面行ってたぞお前顔面だぞ!?」

「まぁまぁ、たらればの話は無しにしようぜ……んで、何の用かって? その問いに対して、オレの答えは一つ……!」

 

 人差し指を立てたダリルは、その獰猛な笑顔を一層強くして、俺に向けてその人差し指を突きつけた。

 

「勝負だ先生!! オレが勝ったら、<キャノンボール・ファスト>同好会の設立に協力――――」

「あ、悪い。俺もう部活決まったんで。その話時代遅れな」

「んなっ!?」

 

 勇ましく言い放った言葉をあっさりと拒否され、驚愕と共にひっくり返りそうになったダリルがあまりの衝撃に膝を突く。それを見て、傍らのフォルテが意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「ダリルセンパイ~だから先生にケンカ吹っ掛けるなんてやめましょうって言ったじゃないッスか~。もう今日は諦めて、さっさと帰りましょうよ~」

「嘘だろ……オレの計画が……オレの世界最速の女への第一歩が……」

「うわ、なんか変な事言い出した……センパ~イ? ちょっと~? 生きてまス~?」

「ククッ、ハハハハ……! 何だあいつら、面白いな……」

 

 その姿に腹を抱えて俺は笑う。ざまあみろ! 礼儀って奴を知らねェからこうなるんだぜ? これに懲りたら、どいつもこいつも俺の事をもっと信頼してだな……。そう年寄りじみた思考を巡らせていた俺に、申し訳なさそうに凰が話しかけて来た。

 

「……あの、石動先生? 笑ってるところ一ついい?」

「どした凰? なんか複雑な顔して……」

「マトリョーシカ、下に落ちたんだけど」

「……えっ」

 

 言われて、俺は慌てて手すりから下を見下ろす。眼下には、見事に砕け散ったマトリョーシカの残骸が無惨にその(むくろ)を晒しているのだった。

 

「あっ……」

「うわ……ダメみたいね……完全に粉々じゃない……」

 

 愕然とする俺の横に身を乗り出して、凰も呆れたように呟いた。マズイ。何が不味いって、この後の展開だ。あのマトリョーシカの戦術的価値は、盗聴器の寿命――――後で詳しく確認するつもりだったが――――によってゼロとなったに等しかった。だがここでマトリョーシカを壊したのはまずい。そうなった時、更識楯無の取る次の手は容易に想像がついている! だから破壊って手を取らなかったってのに! 仕方ねえ、今の内に下に行って上手い事隠して――――

 

「石動先生♪」

「はいッ!?」

 

 焦りの余り冷や汗を垂らしながら俺は背後に迫っていた生徒会長に振り向いた。奴はただニコニコと笑顔を浮かべ、その感情を読む事は出来ない。俺はそれにただしまったと歯噛みしながら、何とかこの場を切り抜けるための方便を模索した。

 

「せ、生徒会長……。これは全てダリルの奴の仕業でだな……」

「あら、怒ってなんかいませんよ? ほら、これをどうぞ」

 

 そう言ってにこやかに奴が俺に手渡したのは、先ほどご臨終を迎えたそれとほぼ同じ細工のマトリョーシカだった。

 

「あの、生徒会長、こいつは……」

「いえ、石動先生が私の贈り物を幸運の女神なんて呼んでくれてると聞いて感動してしまいまして……もし壊れてしまった時のためにもう一つ用意しておいたんですよ♪ よろしければどうぞ」

「あっはい……受け取らせていただきます……」

 

 ――――やってくれたなァ!? 俺は手にしたマトリョーシカを割れんばかりに握りしめる。予想通りだ。こうして盗聴器の補充をされるのが明白だったから穏便な方法で破棄しようと思ってたのによォ!

 

 俺は怒りを込めた視線をダリルに向ける。だが、先程まで頭を垂れて打ちひしがれていたダリルは今や頭の後ろで手を組んで誤魔化すように口笛を吹いていた。いつか覚えてろよ……!

 

 俺はそう暫く思っていたが、ふと自身が凰に対して言葉を選ぶのに夢中過ぎたことが原因だという事に気づき、その時初めて駆け抜けた悔しさや無力感と言った人間の感情の直撃を受け、思わずその場に崩れ落ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

 マトリョーシカを受け取って感動のあまり崩れ落ちる石動先生を見て、私は大笑いしたい衝動を堪えるのが精いっぱいだった。

 

 もう電池も切れてしまっていたようだったし、今度はセオリー通り電源の取れる家電かコンセントにでも仕込もうと思っていたのだけれど、まさかこんな形で時間が稼げるなんて! 今渡したマトリョーシカ(盗聴器)ちゃんの電池が切れる前に、早く次の手を打たなくっちゃね。

 

 とりあえず、それは後にして訓練の方を始めようかしら。私は先ほどの石動先生がやったようにぱんぱんと手を叩いて、皆の注目を集めた。

 

「はいはい、それじゃあ皆、そろそろ訓練を始めましょうか。と、言ってもまずは私に皆の実力を見せてもらいたいの。と、言う訳でまずはテストから始めましょうか」

 

 それを聞いて皆はテスト? とでも言いたげに首を傾げる。私はアリーナの端末に向かい、皆の前に空中投影ディスプレイを映し出した。

 

「やってもらうのはお馴染み<バルーン・ハント>! 一定時間内にアリーナに出現するバルーンを撃墜して、その個数を記録するやつ。やったことのある人は?」

 

 私が皆に視線を向ければ、シャルロットちゃんとセシリアちゃん、射撃をメインに戦う二人が手を上げた。やっぱりね。私はうんうんと頷いて二人に笑いかける。

 

「やっぱり射撃メインの人は経験あるみたいね。参考程度に、結果を聞いてもいいかしら?」

「狙撃コース、Bランクで全撃墜(フルスコア)、Aランクで撃墜率82%ですわ」

「最後にやったのは半年くらい前だけど……中距離コースで、Bランク全撃墜です」

「へえ、1年生とは思えないスコアね。流石は専用機持ちって所かしら!」

 

 私は彼女らの腕に表裏の無い賛辞を送った。実際彼女達のスコアは例年の代表候補生たちと比べても遥かに高い。それは確固たる事実だ。故に、私の言葉にも真実の重みが籠り、彼女達は照れくさそうに視線を逸らす。

 

 一方、他の皆は彼女らの得点を聞いて感嘆する人と対抗心を燃やす人に分かれた。悪くない。これはかなり期待できそうね……。

 

「じゃあ、これから皆に好きな距離のAランクを触ってもらおうと思うんだけど……未経験の子もいるみたいだし、お手本として石動先生! 中距離コースのAランク、ちょっとやって見せて貰えませんか?」

「……………………俺ェ? ナンデ? なんで俺……」

 

 私の呼びかけを受けた石動先生。しかし彼は意気消沈して、気の抜けたような返事を返すばかりだ。まったく、これじゃあ何のために呼んだのかわからないじゃない! 仕方ない、こう言う手段は本意じゃないんだけど……。私は彼の横にそっと近づいて、小さく耳打ちした。

 

「石動先生……ここで頑張ってくれたら、さっき私のお土産を壊しちゃったのを(まゆずみ)ちゃんには秘密にしといてあげますから……お願いします」

「…………頑張らなかったら?」

「悲しいですけど、明日には石動先生が生徒からのプレゼントを破壊する邪悪教師だと言う新聞が学園中にばらまかれてしまうかもしれません……」

「謹んでやらせていただきます」

 

 石動先生はすっくと立ちあがって、ISを装着するために奥の部屋へと消えて行った。話が早くて助かる。さて、彼の準備が終わる前に皆に聞くべき事を聞いておこうかな。

 

「さて、それじゃあ石動先生が出てくる前に皆に質問! ISの操縦を、マニュアルにしてる人はどれくらい居る?」

 

 この質問に、一夏くんと箒ちゃん以外の全員が手を上げた。一夏くんはともかく、箒ちゃんは意外だね。伝え聞く腕前から、とっくにマニュアルにしてると思ってたのに。私はその点を少し疑問に思いながら、まず一夏くんに話しかけた。

 

「一夏くん、君はオート操縦なんだ?」

「ええ、まぁ……<白式(びゃくしき)>には射撃兵装は無いし、斬る相手に集中するにはオートの方が楽なんすよね……」

「なるほど。それじゃあ箒ちゃんは?」

「私も機体の事情です。元来<紅椿(あかつばき)>に搭載されている<展開装甲>はオートでの稼働を前提にしています。そのあたりのシステムが操縦システムと結びついているようで、完全にオートを切る事が出来ないんです。ただ、私は<打鉄(うちがね)>で長らくマニュアル操縦をしてきたので…………一応、その点を改良してくれるよう製作者に相談しては居ます」

「なるほどねぇ……」

 

 ――――本来、ISの機体操縦に必須のPIC、その操作はオートでの制御となっている。しかしそうなると一定のパターンに沿った動作が組みこまれてしまい、完全に自身の思い通りの操作をする事は不可能だ。それは、ISの操縦における中級者と上級者の明確な壁の一つとされている。なにせ、PICをマニュアルにした上での操作には、攻撃と移動の両方により細やかな意識を向ける事が必要となってくるのだ。ISの操縦を経験したものならば、軽々しく言うことも出来ぬ程高度な技術。

 

 だが、それは上を目指す内必ず必要になる技術だ。特に、強敵と――――あの、<スターク>の様な恐るべき相手と――――やり合う時は絶対に。私はまず、それを皆に叩き込むつもりだ。一夏くんには、特にみっちりと。既に習得している皆には、より高いレベルを。箒ちゃんには……まずはISの改良が終わるまでは、余りオートの癖が付かないように軽いメニューで行かせてもらおうかな。

 

 今後の訓練方針についてそんな風に思案していると、アリーナにISのスラスター音が響く。その音の出所に目を向ければ、石動先生の打鉄がアリーナの中心にフラフラと憶測ない機動で向かって行くのが目に入った。

 

「……さて、じゃあ皆に次の質問。石動先生って、どれくらい操縦上手いのかしら? 私見た事無いのだけれど……誰か教えてくれる?」

 

 言って私は小首を傾げた。……正直、石動先生の操縦の評判は聞き及んでいる。基本的に皆『ホントに適正あるのか怪しい』とか『フラフラしている』との評価が殆どだったが、実際手合わせした生徒からは『適正詐欺』だとか『容赦無し男』と言う辛辣な、しかし高い評価を付けられていた。その裏付けを、これからの実際の機動と皆の意見から取るつもりだ。

 

 そして、その質問にまず手を上げたのは私が一番目を付けていた箒ちゃんだった。

 

「よろしいですか?」

「ええ、一番弟子の貴方に聞けて光栄よ。で、どうなのかな?」

「……一言で言えば、良く分かりません」

「ええ……?」

 

 その回答に私は思わず困惑する。だがその反応を見て慌てた様子で箒ちゃんは声を上げた。

 

「あ、申し訳ありません! そのような……混乱させるような意図ではなく、単純に『石動先生の本気は底が知れない』と言う事をお伝えしたかったんです」

「……つまり?」

「ええと、今現在私が模擬戦……シールドエネルギーが半分になった方が負けの<ハーフ>のルールで、あの人に対して4:6の成績を付けています」

「えっ? 箒は紅椿に乗ってて、石動先生打鉄だろ? 負け越してるのか?」

「余りハッキリと言うな! 私だって悔しいんだ! ……ともかく、あの人と戦っていると幾度と無く『死角』に回り込まれる。きっと、相手がどこを見ているかを判断するのが驚くほど上手いんだ。当然、操縦は完全にマニュアルをモノにしてるだろう」

「ちょっと待ってくださいまし、ISのハイパーセンサーに『死角』は存在しないはずですわ。それなのに死角とは一体……?」

「それはね、ISじゃなくて人間に死角が存在するからなんだよ。……当たり前の事だけどね」

 

 箒ちゃんの言葉に疑問を呈したセシリアちゃんに、私は当たり前だけど忘れがちな事をおだやかに伝える。

 

「確かにISのハイパーセンサーは全方位360度の視界を確保しているけれど、乗り手の人間は360度全部を見れる様には出来てない。人間の視野は左右で言うと約200度あるけれど、実際集中して見えているのは中心の僅かな範囲だとされているわ。だから、ハイパーセンサーを使う際にもどうしてもハッキリと見ていない場所が出来てしまう、って訳。とくに、近接戦をやる人はその実感――――相手を見失ってしまう事が少なからずあるはずよ。逆に遠距離戦タイプのセシリアちゃんはそう言う感覚が薄いかもしれないけどね」

 

 私の指摘に、皆顔を見合わせそれぞれの意見を出し合い始めた。特にハッキリと指摘されたセシリアちゃんは顎に手をやり深く考え込んでいる。……悪く無い。こうして忌憚(きたん)なく意見を出し合える関係って言うのはとてもとても重要だわ。その内、簪ちゃんもこの輪の中に入れてあげたいのだけれど……。

 

「成程……皆さんはそう言う経験ありますの?」

「ある。石動先生にやられた。いつだったか、足元すり抜けたと思ったらいつの間にか頭の上に居たんだよ。あれ、めっちゃ悔しかったな……」

「ふふ、理解してくれたようで何より。まあ、世界は広くて、その視野の問題を克服してる人も居るんだけどね。例えば織斑先生とか、イタリアの――――」

『おおい、もう準備出来たぜ~。そろそろ始めてもらっていいか~?』

「おっと。ふふ、この話はまた後でね」

 

 私はコンソールの前に立ち石動先生に目をやる。既にアサルトライフル<焔備(ほむらび)>を構え、準備万端と言った状態だ。さあて、お手並み拝見と行きますか!

 

「それじゃあ石動先生。あと1分後にスタートします。期待してますね♪」

『勘弁してくれよ~……俺はしがない一般的教師なんだから――――』

「321ゼロ! ポチっとな」

『ちょっ』

 

 石動先生が油断した隙を突いてボタンが押されると同時に、周囲にバルーンが出現。だがそれは打鉄がその場で一回転すると共に一気に9割が弾け飛んだ。

 

「あら」

「スゲェ!」

 

 驚く私や一夏くん達を他所に、その後も石動先生は淡々とバルーンを撃ち落として行く。最初の一回を除いて速さは無い。いや、無駄な動作が無さ過ぎて緩やかな動作に見えるだけだ。狙いを付ける際、腕の動きだけではなくそもそもの体の方向をスラスターで微調整する事で、必要最低限の動きで済むように常に調節を行っている。

 

 その上、後方の射撃不能角度のバルーンは判定が消える寸前になってから向き直って打ち抜いていた。それが一度なら消える前に何とか撃ち抜いたとも見て取れるが、それが幾度も、纏めてとなれば偶然ではない。明らかに、後方のバルーンが溜まるのを待っている。時折幾つかバルーンを見逃しはするが、それが逆に信じられないほどの視野の広さと精密さだ。初見であるはずなのに、スコアを調節している意図を感じてしまう。

 

 ――――これは、とんでもない相手かもしれないな。

 

 私が戦慄と共にその姿を見上げていれば、テストはあっという間に終了した。結果は撃破率89%。一見それは充分すぎるスコアだが、私からすればあえてその数字に留めたようにしか思えない。もし私の感じている通りの相手だとすれば、織斑先生を除いて、教師陣で渡り合えるのは山田先生くらいの物じゃあ無かろうか。少しプランの修正が要るかもね……。

 

 そんな私の思案を他所に石動先生はゆっくりと、あの気の抜けたフラフラとした機動でカタパルトへと戻って行った。……ひとまず、ここは皆の意見を聞いてみましょう。観察力を計るのも、石動先生に先に行かせた理由だからね。

 

「……さて、石動先生の動きを見て何か気づいた人は?」

「はい」

「ラウラちゃん、どうぞ!」

 

 最初に手を上げたラウラちゃんを私は扇子で指し示す。それに彼女は少し困惑しているような顔をちょっとだけ見せた。

 

「ラウラちゃ……ええと、今のテスト、石動先生はバルーンの位置を常に把握していました。とにかく、反応速度の高さは特筆すべきかと。それにバルーンの消滅タイミングを早くに把握していて、常に破壊順を考える余裕も持っていました。こればかりは、石動先生の経験の賜物だと思うのですが」

「実は内緒で訓練してるんじゃないの? あの人意外とそういう事やってたりして」

「あ、それ僕も思った。石動先生、ISの稼働時間に比べてすごい動きが堂に入ってるんだよね。秘密特訓とかしてるのかな……」

「はい、今はラウラちゃんの答える時間だからお静かにね~」

 

 そこで一度脇に逸れ始めた話を軌道修正して、私は彼女の意見をまとめてうんうんと頷いた。

 

「確かに反応速度の高さ、視野の広さ、とてもすごい物だったね。でももう一つ凄かった事があるよ。箒ちゃん、何か解るかな?」

「……えっと……無駄の無さ、でしょうか?」

「そう、何よりも動きの無駄の無さだね。石動先生の動きは一つ一つのアクションにかかる時間が短い。だから自然と余裕が生まれてくる。その余裕が無駄な気負いを無くして、さらに精密な射撃を生む。素晴らしい好循環を体現してるよ」

 

 言いながら、私は万一に石動惣一と相対した時どうやって打ち倒すか、その想定をせずにはいられなかった。あれで本気でないとなれば、一体どれほどの地力があるというのか。

 

 ――――面白い。その時私は相対するべき敵として以上に、一人の戦士として石動先生と戦ってみたいと考えていた。思いが逸り、乾いた唇をぺろりと舐めて湿らせる。その瞬間、ピットに石動先生が帰ってきた。私はすぐさま、緊張した顔を営業スマイルへと切り替える。

 

「おかえりなさい、先生、気分はどう?」

「………………疲れた!!」

 

 両手を広げ大げさに表現する石動先生に、皆がくすくすと笑いを零す。その間を縫う様に私の元へと歩み寄った石動先生は、皆に聞こえぬ様に小声で問いかけて来た。

 

「……これで、黛の奴には黙っといてくれるな? いや、他の奴にも伝えんでくれ。俺の生活の平穏にかかわる」

「ええ、素晴らしい成果でしたから……今回は合格ですよ♪」

「よかったァーッ……!」

 

 気の抜けたように言った石動先生は近くのベンチにどっかと座り、そこに置いてあった飲料缶を躊躇せず空ける。次の瞬間、炭酸の抜ける音と共に盛大に中身が零れだし、石動先生の上着に見事なシミを作った。

 

「……………………」

「「「……………………」」」

 

 その絶望した顔があまりにも不憫(ふびん)で、皆が一様に黙りこくった。流石に私も心が痛い。しばらくその場に炭酸飲料の(したた)る音だけが響き、重苦しい沈黙に皆が支配されていたが、その当事者である石動先生が瞳を潤ませながら立ち上がった事でその沈黙は破られた。

 

「スマン、帰る」

「「「ええっ!?」」」

 

 その宣言に皆が驚愕する。当然だ、中には石動先生のアドバイスを目的にここに居たものも居る。その人が悲しみを背負って帰ってしまうというのだから、それは困惑するだろう。その中でも、特に先生のアドバイスがもらえる事を喜んでいたセシリアちゃんが慌てて声を上げた。

 

「石動先生、お待ちください! アドバイスをくれるという約束では!?」

「済まねえオルコット。今俺はそう言う事言ってられる余裕がねえ。洗濯……まずは洗濯しなくちゃ…………」

「ですが石動先生! 訓練を途中で投げ出すなど――――」

「篠ノ之ォ!! Instruction Five(インストラクション・ファイブ)!!! 『ダメな時は何をやってもダメ』!!!! Repeat after me(復唱)!!!!!」

「だっ、『ダメな時は何をやってもダメ』!!」

「よぉし。……次からは真面目にやるから今日だけはマジで帰してくれ。恨みは、次回聴くよ…………」

 

 それだけ言い残して、石動先生はとぼとぼとアリーナを後にしてしまった。視界の隅で腹を抱えて笑うダリルさんとそれに白い目を向けるフォルテちゃんが映るも、とりあえず今はこの空気を何とかするのが先決だ。

 

「………………ま、まあこういう日もあるよね……とりあえず皆、テストの続きといこっか……?」

 

 恐る恐る伺うように尋ねる私に、皆、無言で首を縦に振るのだった。

 

 

 

 ――――その後、テストはつつがなく進行し、やはりと言うか何と言うか、他の皆がそれぞれのコースで十二分に高得点と言える数字を叩き出したのに対して、一夏くんだけは撃破率が50%を割っていた。やはりオート操縦では無理があるという事を本人も実感したらしく、早速マニュアル操縦の訓練を開始した。しかし、流石にまだまだぎこちない。

 

 ……ちょっと悪戯しすぎたかな? セシリアちゃんとシャルロットちゃんの<円形制御飛翔(サークル・ロンド)>を見学している時にくっついてみたりしたら、随分驚かれた上、周りにも怒られてしまった。次は二人きりの時にしよう。でも、物分かりは悪く無く素直で言う事を聞きやる気もある。これなら、学園祭辺りには多少物に出来るかもしれない。

 

 ひとまず、今日はその後皆に一人一人アドバイスをして解散の流れとなった。石動先生の不幸以外は、まあ悪く無い内容だったかな。

 

 遠距離戦に抜群の適性を見せるセシリアちゃん、器用さが群を抜くシャルロットちゃん。総合的に完成された実力を持ちながらまだ改善が出来そうなラウラちゃんに、抜群のフィジカルを持つ(リン)ちゃん。そして何より、オート操縦の枷がありながら他の皆と変わらないキレを見せる箒ちゃんに、未知数の成長性を持つ一夏くん。こりゃ、私もちょっと鍛え直しておくか……。

 

 とりあえず、もう少し一夏くんとの距離を縮めておこうかな。そう言えば、一夏くんは今一人部屋だったわね……決ーめた! ちょっとお部屋にお邪魔して、しっぽりと仲を深めさせていただくとしましょうか!

 

 ふふっと、どこかあくどい笑みを零しながら私は帰路に就く。学園祭までに、皆がどれほどの腕を身に付けるか。そして、一夏くんのどぎまぎする姿がどれほど見れるか。その両方を楽しみに、私は思いを馳せるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………そう、ご苦労様。お陰で十分情報は集まったわ。訓練とは言え彼の戦闘データまで用意するなんてね。…………ええ、皆で行くわ。出し物、楽しみにしておくわね。それじゃあ、また」

 

 宝石の如き夜景を見下ろす、高級マンションの最上階。上等なバスローブに身を包んだ女性は、それとは裏腹に飾りっ気の無い携帯端末を耳から離して通話を切断した。そのまま彼女は端末をソファに放ると、何やら考え事をする様に腕を組んで、極上の夜景を眺め始める。

 

 しばらく彼女がそうしていると、無造作に部屋のドアが開け放たれ、一人の女性が部屋へと上がり込んで来た。

 

「戻ったぜ、<スコール>」

「おかえりなさい、<オータム>。首尾はどう?」

「とりあえずは、ってトコだな。確認するか?」

 

 言って、オータムと呼ばれた何処か気の短そうな女は近くの机の上に幾枚かの封筒を並べた。スコールはそれに歩み寄って手に取ると、その中身を一つずつ改めてゆく。封筒の中にはIS学園の学園祭――――その招待チケットが一枚ずつ詰められていた。

 

「ええ、間違いないわね。これなら私たちだけじゃなく、他にも人手が用意できそうだわ。素晴らしい仕事よ、ありがとうオータム」

「……っ、止せよ、照れるじゃねえか」

「ふふ、そういう隠さないところ、好きよ」

 

 赤面するオータムに、美しい金髪を揺らしながら柔らかい笑みを向けるスコール。その姿に、オータムはますます気恥ずかし気に目を逸らす。その様に、スコールは変わらぬ楽し気な笑顔を浮かべていた。

 

 それから少しして、その雰囲気を楽しみ終えたスコールは三人分の紅茶を用意し、それをソファに囲まれた机の上に並べ、目を見張るような優雅な動作で腰を下ろした。対照的にどっかと粗暴な動作でオータムがソファに身を沈めるが、スコールがそれを咎める事は無い。そして互いに少し紅茶に口を付けた後、スコールは話を切り出した。

 

「さて……それじゃあ始めましょうか。今後の、我々の計画についての話し合いを」

「……おい、待てよスコール。<エム>はどうした? 今回の作戦、アイツも出るんなら話し合いにくらい――――」

「私はここだが?」

 

 疑問を呈したオータムの背後から、抜き身の刃物じみた鋭い声が発せられた。慌てて彼女が振り返ると、そこには一人の少女の姿。黒い長髪に、不機嫌な美貌を持つその顔は、織斑千冬――――<世界最強(ブリュンヒルデ)>と呼ばれた女の十年ほど前の姿と、不自然なまでに酷似していた。

 

「テメェ、いつから……!」

 

 粗暴さを隠そうともせず、エムに掴みかかろうとするオータム。だがスコールが視線だけでそれを咎めるとオータムはぴたりとその動きを止め、大人しくまたソファへと腰を下ろす。エムはその様を眺めて見下すように鼻を鳴らしてから、他の者達と同じようにソファへと座り込んだ。

 

「……これで揃ったわね。それじゃ、改めて始めましょうか。まずは――――」

「その前に一つ聞かせろ。私はアメリカへと飛び、<銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)>に関するデータ、及び機体の強奪に向かう予定ではなかったのか? 下らない事で予定が変わるなら私は受け入れんぞ」

 

 そう、睨みつけながらもはや脅迫じみた声色で詰問(きつもん)するエム。だが、当のスコールはそれに対して顔色一つ変える事は無い。それどころか、心底疲れたように、同情を乞う様な声色で答えるのだった。

 

「そうね……束博士が随分と暴れてくれたから、かしらね……。お陰様で人手が足りなくって。嫌になっちゃうわ、まったく」

「下らん。そんな事で私は呼び戻されたのか?」

「あら、下らないかしら? IS学園にちょっかいをかけるのだから、むしろ貴方は呼んで然るべきだと思ったのだけれど……」

「…………」

 

 不機嫌さを隠さないエムに対して、スコールはこれ以上無く平然と、逆にエムに気を遣うような様さえ見せて返す。その言葉は彼女の目論見通りエムにとって痛いものだったか、それきりエムは黙り込み、そっぽを向いてしまうのだった。

 

「けっ、ざまあみろ…………それでスコール、どうすんだ? 予定通り、織斑一夏の<白式(びゃくしき)>を強奪する計画なんだろ? 何の変更があるんだ?」

 

 不機嫌さを増したエムを一度嗤ってから、オータムは話を軌道に戻してスコールに問いかけた。

 

「ええ、それは変わらないけれど……もう一つ、今回は同時にもう一つお仕事に励もうかと思って」

「ああ、それでこいつを呼んだのか。で、何すんだ?」

 

 納得したようにエムに目を向けてから、スコールにさらに問いを続けるオータム。その問いに彼女は少し子供っぽい笑みを見せてから、その反応を楽しみにしているようにもったいぶって言った。

 

「あの、IS学園に居る、もう一人のイレギュラー…………石動惣一。彼の身柄を預からせてもらおうと思って」

 

「……ああ、あの胡散くせえ、『もう一人の男性操縦者』か」

「ええ。その『胡散臭いおじさま』よ。話は単純。エムにはチケットを使ってIS学園に入ってもらって、石動惣一を拉致してもらう……まあ、方法は任せるわ。お膳立ては<レイン>がやるから、連絡だけちゃんと取れるようにしといてくれれば問題ないはずよ。入場の時怪しまれないよう、家族役として部下を何人かつけるわ。貴方の裁量で使ってちょうだい…………エム、聞いてる?」

「聞いている」

「ならいいわ」

 

 一通り説明を終えて確認を取るスコールに、エムはそっぽを向いたまま答えた。その姿を文字通り、聞き分けの無い子供を見るような瞳で笑うスコール。そんな彼女達の話が終わったと見て、待ちかねたかのようにオータムは身を乗り出した。

 

「そんでスコール、私はどうすんだ? 予定通りか?」

「ええ。貴方は私と一緒に来賓としてIS学園に……他の車で来る来賓と同様、資材搬送用のトンネルを使ってIS学園に向かうわ」

「警備とかは大丈夫なのか? そこ、普段は使われてないんだろ?」

「心配しないで。あのトンネルの警備員はほとんどが私たちの息が掛かった者達よ。ああ、逃げる時もそこを使うわ。狭い通路なら貴方の<アラクネ>の独壇場でしょ?」

「ああ、追っかけて来るような奴がいれば、私の糸で雁字搦(がんじがら)めにしてやるぜ」

「ふふ、頼もしいわね」

 

 勇ましく言うオータムに、優しく微笑みかけるスコール。しかしエムはその二人を見て下らないとばかりに鼻を鳴らして、紅茶を一息に飲み干すとすぐさま席を立ち、部屋を後にしようとした。

 

「あら、何処へ行くの、エム。話はまだ終わって無いのだけれど」

「……あの機体の調整だ。IS学園での戦いとなればそれなりの準備が居る。それに何より――――」

「織斑千冬との接触は禁止よ」

「何だと?」

 

 自身を呼び止めた上、その意見を真っ向から否定したスコールを、驚愕したように、怒りを堪えるように睨みつけるエム。だがその視線をそよ風程にも感じぬように受け流したスコールは紅茶に一度口を付け、ゆっくりと焦らすような動作でカップを戻した後。困ったように頬に手を添えながらに言った。

 

「変な事を言うのね。私たちの戦力じゃ、織斑千冬とやり合うのはまだ時期尚早よ。幾ら貴方が強くても、まだまだ彼女とやるには早い…………私たちが戦力の増強を続けているのは、最終的に彼女も打ち倒すためなのよ? それなのに、唯でさえ人が足りない今、貴方にまで居なくなられたら首が回らなくなっちゃうわ」

「……お前達の計画など知るか。織斑千冬は私が仕留める」

「そう、それじゃあ貴方が言う事を聞いてくれるまでしつこく『お願い』する事になるけれど……それは私も本意じゃないわ。ねえ、『お願い』。私がそう言っている間に、首を縦に振ってくれないかしら……? 他人を無理やり従えるのって、実は趣味じゃないのよね」

「…………白々しい事を………………!」

 

 もはや不機嫌を通り越して、スコールにあからさまな殺意を向けるエム。しかし、まさしく織斑千冬のそれにそっくりな威圧を受けてなお、彼女の美貌が揺らぐことは(つい)ぞなかった。その姿にエムは結局目を背け悔しそうに歯噛みし、怒りに身を震わせながら部屋を後にして行った。

 

「……いいのかよ、あのままほっといて。絶対トレーニング場で暴れるぞ、アイツ」

「……彼女は自分勝手で聞く耳持たずだけれど、その頑固さとは裏腹に馬鹿じゃあないわ。もっと自分を強くしてから挑むべきなのは分かっているだろうし、自身の命を握られている以上、最後はこっちの提案に折れるしかない。まあでも、しばらく彼女には近づかないように部下には伝えといた方が良さそうね……」

 

 困ったように首を傾げるスコール。その姿は彼女らの実際の関係とは裏腹に、まるで反抗期の娘への対応を決めかねた母親の様な、実に家族めいたものだった。それに肩を竦めたオータムは、自身の分の紅茶の残りを飲み干してから伸びをして立ち上がった。

 

「よいしょっと……じゃ、私も行くぜ。変装の最終確認をしとかねえとだからな……ったく、ガラじゃねえ役柄は何度やっても慣れねえよ」

「ふふ、でも貴方なら完璧にやってくれるんでしょ? 期待してるからね」

「へへ、任せといてくれよ。それじゃあ――」

「あ、オータム、ちょっといい?」

「ん……むっ!?」

 

 振り向いたオータムの唇に、スコールは流れるように自身のそれを重ねた。驚愕するオータムをスコールの腕が優しく、しかししっかりと抱き止める。そうして、しばらく二人の間から漏れる水音と息遣いだけが部屋に響いた後、スコールの方から身をもぎ離して、人差し指でキスの感触を確かめるように唇の唾液を拭った。その姿を、オータムは真っ赤な顔で見つめるばかり。

 

「ふふ……おやすみ、オータム。また明日」

「あ、ああ……また明日…………」

 

 艶然と微笑むスコールに対し、魂を抜かれたよう表情のオータムは部屋から出て行こうとしてテーブルに腰をぶつけ、割と痛がる姿を見せてからそそくさと部屋を後にした。その後姿をくすくすと笑って見送ってから、スコールは改めて窓際へと歩み寄り外の景色を眺める。そして、しばらくしてテーブルにある一枚の写真を手に取り、照明に透かすように掲げて、そこに写っている人物を眺めた。

 

「石動、惣一ね…………」

 

 呟いて、スコールはくすりと笑い、くしゃりと写真を握りつぶした。瞬間、瞬時にその腕にISの腕部が部分展開され紙屑となった写真を灰へと焼却し、そのまま彼女は手に残った燃え殻をゴミ箱へと放り込んだ。

 

「……さて、と。まずはエムに表に出しても恥ずかしくない服を買ってあげなくちゃ。楽しみだわ、ふふっ」

 

 誰にともなく小さく呟いて、スコールは――――世界の裏側に蠢く恐るべき<亡国機業(ファントム・タスク)>、その実働部隊<モノクローム・アバター>の頂点に立つ彼女は――――今後が楽しみで仕方ない、そういった風に笑って、上機嫌でその場を後にして行った。

 

 




エムって書いたところ全部一度永夢って変換してからエムに直してました。後日修正するところもあるかもしれません。

ここから訓練開始です。楯無とエボルトの手によって皆の戦闘力はアップする筈……一方亡国機業は、地球外生命体の魔の手から逃れる事は出来るのでしょうか……。

次回からは学園祭。いろいろなキャラが出て話を動かせそうです(新キャラが増えると一人一人のキャラが安定しなくなるんですけど……)。大筋は考えてあるけど細かいとこが割とポヤポヤなので、気長にお持ちください……。
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