星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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エボルト頭いいし、コミュ力高いし、教師としての素質は十分あると思う。
評価やお気に入り、感想ありがとうございました。


遠くの星から来たティーチャー

 春。新年度の開幕に伴って、日本中で変革が起きる季節。それはIS学園も例外ではなく、新たにその敷居を跨いだ新入生たちによって、良くも悪くもまた変革が起こるのだろう。

 新年度初の顔合わせを終えた教師たちは期待半分、不安半分と言った顔でそれぞれの教室に向かって行く。

 

 だが俺は期待100%の顔で、前を行く織斑千冬の先導に従い、着々と自身が赴任する教室へと向かっていた。

 

 先日、ISの起動試験を突破してIS学園の教師――副担任補佐なんて言う、あからさまに即席で作った役職を手に入れた俺は、予想通り織斑千冬ら教師陣の監視下に置かれ、その責務を果たすべくスパルタで教師としての能力を研鑽させられる事になった。

 

 中々にキッツイ準備期間だったぜ。ISの知識に関しては問題ないと山田ちゃんの太鼓判ももらったが、逆に教師としての知識を身に付けるのは中々に億劫だった。

 

 人間、興味があるものと無いものには熱の入り方に差が出るのは当然の事。地球外生命体である俺も、その例には漏れなかったって事だ。

 

 更にもう一つ言えば、俺には発信機の携帯が義務付けられた。結局俺は明確な経歴をIS学園側に説明することが出来なかったんで、それに対する措置なんだろうな。鬱陶しい。

 ま、しばらくはおとなしく指示通りに教師としての仕事を全うするつもりだし、いざとなれば憑依した体を置いて本体だけで活動する事も出来るから、何て事は無いんだがな。

 

「石動先生」

「へい」

 

 そんな事や、どんな生徒たちが待っているのかと期待に心を膨らませていた俺の気の緩みを感じ取ったか、織斑千冬が顔だけを此方に向けて戒めるような視線を送ってくる。

 

「随分と楽しそうな顔をしているが、生徒たちはお前が考えているほど大人しい生物ではない。それにお前は男なんだ。ある程度のやっかみなどもあるだろう。あまり早く折れられては困るからな、肝に銘じておけよ」

「解ってますよぉそれくらい。しかしこの歳になって新しい職につくとなると、やっぱ心が躍るってもんです」

 

 そう呑気に返す俺に、織斑千冬の視線はますます冷たく、鋭いものとなる。だが俺にとってはそんなのどこ吹く風、それよりも気になる生徒達の事を頭の中で反芻していた。

 

「貴方の弟を始め、国家代表候補生、更にはあの<篠ノ之>の人間……それ以外にも、狭い門を勝ち上がってきた国を背負うエリート揃いだ。そんな皆にコーヒー作りくらいしか取り柄の無い俺が何かを教える事が出来るってのは、実に光栄なことじゃあないですか」

 

 そう言って笑うと、織斑千冬はちょっと呆れたように溜息をついて、手に持っていた出席簿で俺の肩をペチリと叩く。

 

「その気概は買うが、お前はあくまで副担任の補佐。それに教師としての経験は全くのゼロだ。これからいろいろ教えては行くが、私や山田先生の指示にはしっかりと従うように」

「そういや、山田ちゃんはもう教室に入ってるんでしたっけ? 大丈夫かな?」

 

 言いつつ、今頃山田ちゃん大分慌てふためいてたりするんじゃあねえかなあと思っていると、俺の頭部に目にも止まらぬ速さで振るわれた出席簿が振り下ろされた。

 

「ぁ痛ァ!」

 

 なんて攻撃速度だ、見てから躱せなかったぞ!?

 

 あまりに強烈な攻撃を受け頭を抱えたまま蹲る俺を見下ろしながら、戒める様な視線を織斑千冬は向けてくる。いい歳してるんだからもう少ししっかりしろ、とでも言いたげだ。

 

「山田先生、だ。少なくとも、生徒たちの前でそんな気安い呼び方をするな。いくら年が離れているとはいえ、教師としての経験は彼女の方が遥かに上なのだからな」

「善処しま~す……」

 

 本当に鬼みたいな奴だな……。そう心の中で思うと、織斑千冬は俺に向けている視線を更に鋭いものにする。この女は人の心でも読めるのか? もしそうだとしたら、俺の悠々自適なセカンドライフが滅茶苦茶だぞ……?

 

 しかしそんな俺の内心など素知らぬという風に、織斑千冬は改めて教室へと向かって歩き出す。俺もその後に続きながら、こぶでも出来ちゃいないかと頭頂部をさすりさすり。一瞬ハゲと言う単語が頭を過ぎるが、意識的にそれを心の底に押し込め、早々に自身の教室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 ――――俺、織斑一夏の高校生活の開幕はハッキリ言って散々なものになっていた。

 

 当たり前だろ! いきなり男には起動できないはずのISを起動させちまって、半ば拉致同然でIS学園に放り込まれて、男が俺しかいない環境でこれからの三年間を過ごしていかなきゃならないなんて!

 更に自己紹介に失敗したと思ったら、何してるんだか定かじゃ無かった姉が実は教師で、しかもこのクラスの担任と来た。久々の再会を喜ぶべきなのかもしれないけど、いきなり出席簿で頭を引っぱたかれちまっちゃ、感動の涙も引っ込んじまう。

 その挙句、千冬姉が凄まじいまでの人気を誇っている事を生徒たちの嬌声で身を以って教えられた上に姉弟関係が他の生徒達にも露見した今、俺はもうここでの学園生活に、暗雲しか見出すことが出来なかった。

 

 箒の奴も助けてくれよな、この状況……。久方ぶりに再会した幼馴染に恨みの視線を送ると、箒はそれに気づいたのか、一度だけ目を合わせた後はそっぽを向いて無視を決め込んでいる。はあ、せめてもう一人、男の仲間が欲しいもんだぜ。

 

「まったく……さて、SHRは終わり、と言いたい所だが……もう一人紹介する者が残っている。石動先生、入ってきてくれ!」

 

 その声に反応してか、ガラッと小気味よい音を立ててドアが開き、長身の壮年男性が教室へと入ってきた。白い生地の柄入りシャツの上に紺色のジャケットを羽織って、洒脱な雰囲気を身に纏っている。だが、何よりも皆の目を引いたのはその抜群のスタイルだろう。

 

 脚長っ。

 

 そんな声を拾って周りを見れば、女子生徒達もそのダンディズム溢れる立ち振る舞いにぐうの音も出ていない。先程の千冬姉に見せた反応とはまた違う、見惚れる、と言う言葉がまさにしっくりくるような状況だった。

 

「こちら、今年よりIS学園に赴任してきた石動先生だ。では石動先生、自己紹介を」

「りょーかい」

 

 石動先生と呼ばれたその人は、教壇の前に立つとチョークで黒板に自身の名前を書き、それが終わるとこちらに向き直った。

 

Bonjour(ボンジュール)、生徒諸君! ご紹介に預かった石動惣一だ。これから一年間、クラス担当の補助として皆と一緒に学園生活を送らせてもらう。まだ教師としての経験は浅いんだが、何分よろしく頼むぜ」

 

 そう言って彼が皆に向かって指を向けると、それだけでクラス全体がざわついたのが解った。あれが大人の魅力ってやつか……。ただその顔はフレンドリーに微笑んでいて、この学園で初めて見た同性と言う事もあり俺は好意的な感情を彼に向けていた。

 

「いっ石動先生、ご質問いいですか!?」

「OK! 一体何だ?」

「あの、IS学園の教員は、基本的に女性のはずです! 事務や用務員さんとかならともかく、石動先生は何故クラス担当に……?」

「それには私から答えよう……と言っても、既に察しているものも何人か居るようだな」

 

 生徒の一人からの質問を遮って前に出た千冬姉が、クラスの面々の中の幾人かの顔を眺め、納得したかのような顔をした。そしてこちらに一度目を向けると、未だに良く分かっていない俺に呆れた目をして、説明の続きを始めるのだった。

 

「石動先生は織斑同様、ISの操縦者適性が確認された貴重な人材だ。こうしてIS学園に居るのも、身柄の保護を目的とした側面もある」

「ま、そう言う事だ。実際教育実習生みたいなもんだから、気軽に話しかけてくれよな。他に何か質問があれば答えるぜ?」

 

 千冬姉の言葉にまたしても俺は仰天した。俺以外にいないと思っていた男性IS操縦者。それがこうもあっさり目の前に現れ、しかも教師だって? すごいな……この女性まみれの生活に現れた一つの光明とも言うべきか。俺も何とかこの学園でやってける気がしてきたぜ。

 しかし当の石動先生は俺のそんな希望に満ちた視線に気付かず、女子たちから矢継ぎ早に投げられる質問を軽妙に捌いていた。

 

「出身は何処ですか!?」

「宇宙! ……冗談だよ。ま、海沿いって事にでもしといてくれ」

「好きな音楽とかはありますか?」

「ベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章! 最近のならPANDORAのBe The One! 小林太郎もいいな」

「好きな女性のタイプは!?」

「そりゃ難しい質問だな~。俺は外見より、中身の方を重視するタイプでね……少なくとも織斑先生はタイプじゃグワーッ!?」

 

 うわっすげえ! 振り抜かれた出席簿を食らった石動先生が扇風機みたいに横回転したぞ!? まあ千冬姉に対してセクハラかませばああもなるよな……床に転がったままの石動先生を、山田先生が必死に揺り動かしている。そこだけ見ればちょっとうらやましい。

 

「フン……さあ、今度こそSHRは終わりだ。これからお前たちをみっちり鍛え上げて、長くとも一か月でISの基礎操縦訓練を終了してもらうからな。全員覚悟を決めておくように。以上だ」

 

 まるで『またつまらぬ物を斬ってしまった』とでも言いたげに鼻を鳴らすと、今まで石動先生が立っていた教壇に堂々と立って、千冬姉は教室内の全生徒に言い放つ。その声を聞いて、俺はまるで刀を喉元に突きつけられたかのような緊張感と、本当に千冬姉の元で勉強についていけるのかどうかを危惧して沸き起こる不安感、その二つの感情を同時に味わうのだった。

 

 

 

 

「いや~、山田先生、ホンット助かりますわ……」

「いえいえ。石動先生こそ、本当に大丈夫なんですか? 大事を取って保健室で休んでいた方がいいんじゃ……?」

 

 一時間目が終わった後の休み時間。先の授業の間教室の隅で完全にダウンしていた俺を山田ちゃんが手当てしてくれた。まったく、誰もが皆彼女のように協力的ならやりやすいんだけどな。織斑千冬にも少しは見習ってほしい……と言いたい所だが、奴も何だかんだで負い目を感じていたのか、二時間目の準備を自ら引き受け足早に職員室に戻って行った。

 あのスパルタと言うにも生ぬるい鬼教官じみた教師としての態度は、奴の持つ責任感の強さの表れかも知れん。それでも弟とは言え生徒にまでビシバシ手を上げるのはどうかと思うがなあ。

 

 そんな思いで教室を眺めれば、廊下まで続く人だかりだ。彼女達の目当ては一つ。ズバリ織斑一夏だ。だが彼女らも互いに牽制しあって攻めあぐねているのか、直接的に織斑に話しかけに行くものは一人もいない。

 

 しかし、この世界の人間は髪の毛の色がカラフルでなかなか興味深いな。

 

 ビルドの世界の人間達とは大違いだ。あの世界で見ていたのが殆ど日本人だったから余計そう感じるのかも知れないが、目の前にいる山田ちゃんだって若草色のなかなか良い色の髪の毛をしている。先日聞いてみた所によれば正真正銘の地毛との事だった。

 こうも色とりどりだと、前の世界でよく目にしたフルボトルを思い出すぜ。

 

 今俺はコブラ以外のフルボトルを所持していない。元来あれは憑依した生物の記憶からその星に関わるエレメントを抽出し、パンドラボックスを介して物体化させたものだ。一応この世界も同じ地球と言う星である以上、ビルドの世界と同様のフルボトルが用意できるだろう。

 

 ただ、あれは一本作るにも意外と時間がかかるもので、すぐに揃えられる物じゃない。ビルドの世界では火星からの帰還中にじっくりと60本のフルボトルを揃えられたが、教師をやりながらとなれば、暇を見て能力的に応用が効くボトルから作って行くしかないだろう。

 

 まずは消しゴム、フェニックス、ダイヤモンド、ロケットあたりかねえ……教師業が終わってもあんまり自由時間は無さそうだな。

 

「はい、終わりましたよ……まったく。これからは女性に対してあまりデリカシーの無い発言は控えるようにして下さいね!」

「気をつけまーす」

 

 ぷりぷりと怒る山田ちゃんに俺は気のない返事を返す。こっちだって毎回あんな攻撃を食らってちゃ回復するハザードレベルも回復しやしないし、割と真面目に気をつけねえとなあ……そんな事を思ってから俺は立ちあがって、織斑一夏の現状を覗いてやろうとした。

 

「ありゃ?」

 

 見れば、織斑一夏の席はもぬけの殻だった。女子生徒たちもまるで何か聖人が通った後かのように人が通れるスペースを開けて立ち往生している。俺が見てない間にトイレにでも行っちまったのかなあ。そんな事を思っていると、段々と女子たちの視線がこちらに集中して来た。

 

「俺の顔に何かついてるか? いや、手当ての跡はあるだろうけどさあ」

 

 そんな軽口を叩いても、生徒たちの視線は俺を捉えたままだ。何人かがひそひそと会話を続けている。こりゃあ、アレか。織斑が居なくなったせいで今度は標的が俺に移ったって訳か。

 ま、確かにこの学園で男に出会うなんてのは珍しいだろう。だが、俺くらいの歳の男なら父親が居るだろうに。それともこの女尊男卑の時代、夫婦、父娘関係も拗れ易かったりするのか?

 そう思いながら時計を見れば、もう二時間目の始まる寸前であった。

 

「おーい、そろそろ次が始まるぞー。他クラスの奴らはさっさと自分のクラスに戻れー!」

 

 そう俺が呼びかけると同時に、二時間目の開始を告げるベルが鳴った。それと同時に波が引くように他クラスの生徒達は帰ってゆく。その中で流れに逆らって戻ってくるのは、織斑一夏と、彼と古い付き合いだと言う篠ノ之箒。

 篠ノ之は自身の席をキッチリ覚えていたようでさっと自身の席に戻ったが、どこか上の空の織斑は少し気が抜けたように自身の席を探して、ドアから入ってきた織斑千冬に見事な一撃を叩きこまれる。それを見て俺は腹の内でちょっと笑って、織斑千冬に一睨みされるのだった。

 

 

 

 

 織斑姉弟による一方的などつき漫才も終わり、俺にとって初めて(二度目だが)の授業が始まった。山田ちゃんの授業は要点を丁寧に抑え、それを段階的に知識を教えていく形式のもので、その手腕は確かにIS学園で何年も教鞭を執ってきただけの事はある。

 初日の授業と言う事もあって、それはISに詳しく無い者でもある程度の知識があれば何とかついていけるレベルのものだ。

 

 しかしそのクオリティはもし彼女がISに関わらない人生を送っていたとしても講師としてうまくやって行けるはずだと俺に思わせるには十分なものだった。実際、俺の隣でそれを監督する織斑千冬もその様子には満足そうだ。

 

 だが、このクラスに一人だけ、そんな授業のありがたみをまったくと言っていいほど噛みしめてない者が居た。それを見つけた俺は、織斑千冬にアレはいいのか?と目配せをする。

 俺の視線にすぐさま織斑千冬は気付くが、小さく首を横に振った後、また授業を静聴する姿勢へと戻る。彼女自身もその生徒には気がついていたようだが、そこまで積極的に山田ちゃんの授業に割り込むつもりは無いらしい。

 

 しかし山田ちゃんもさる者。俺達が直接指摘する前にその生徒の様子に気づいて、自ら現状を聞きに行った。

 

 織斑一夏。奴はさっきから周囲をきょろきょろしてみたり、教科書のさわりだけを閉じたり開いたりを繰り返している。山田ちゃんはそんな彼にも好意100%で、分からない所があったら聞くように促した。それに織斑は吹っ切れたかのようにうなずき、そして言った。

 

「先生!」

「はい織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません」

 

 それを聞いて俺は盛大に笑いそうになって天を仰ぐ。流石に生徒の不出来を大笑いするのはまずい。だがそうやって笑いをこらえていると、隣の織斑千冬から強烈な肘を食らって椅子から盛大に転げ落ちる事になった。

 

「石動先生!?」

 

 びっくりして椅子から転げ落ちたとでも思ったのか、山田ちゃんが俺の元に駆け寄り、小柄な体で頑張って俺を引きずり起こしてくれる。それを尻目に、俺に会心の一発を食らわせた織斑千冬は弟の元へと歩み寄り、有無を言わせぬ声色で聞いた。

 

「織斑。お前、入学前に渡された参考書は読んでないのか?」

「古い電話帳と間違えて捨てました」

 

 言い終わるが早いか、織斑千冬の持つ出席簿の一撃が一夏の頭に直撃。あまりのダメージに頭を抱える織斑を見届けた俺はその席まで歩み寄って、織斑千冬の横に並んだ。

 

「おいおい織斑、流石にそれはまずいだろ~」

 

 俺は姿勢を落として織斑に視線を合わせ、困ったように言った。

 

「あの目立つ資料を電話帳と間違えちまうなんて、もしかして、最初から読む気がなかったんじゃあないのか~? それじゃ資料集がかわいそうだぜ」

 

 俺がそう語り掛けると、織斑は困ったような、バツの悪そうな顔で何か言おうとする。しかし隣に立っていた織斑千冬が織斑の反論を許さない。

 

「貴様、自分が望んでここに居る訳ではないからと言って、気を抜いていたんじゃあるまいな?」

 

 それを言われると織斑は図星だったようで、相当マズイと言った顔で黙り込む。その様子を見た織斑千冬は一つ溜息をついて、織斑に無慈悲な宣告を下した。

 

「資料集は放課後には間に合うよう手配してやる。少なくとも一週間以内には内容を記憶するように、いいな?」

「一週間!?」

 

 あの分厚さを一週間となればその反応も頷ける。まあ、流石にそんな苦行を無理やりやらせるのは気が引ける。俺もフォローを入れてやるとするか。

 

「そう暗い顔をするなよ織斑。お前さえ良ければ、俺と山田先生が放課後に時間をとってやるさ。ねえ山田先生?」

「あっは、はい! えっと、もし分からない所があっても単語くらいは書き留めておいた方がいいと思うよ? 放課後になったら石動先生とそこを重点的に、教えてあげますから!」

 

 ね? と織斑に微笑む山田ちゃんの顔を見て、織斑の眼に生気が宿るのが見えた。あと一押しでもすれば、しっかりとやる気をもって学業にも励んでくれるだろう。

 俺は織斑に更に近づいて奴にだけ聞こえるように、小さく声を掛けた。

 

「お前は目立つんだ。織斑先生の顔に泥を塗るような真似だけはしないでくれよ?」

「!」

 

 その言葉はどうやら織斑にとって痛烈なものだったらしい。その様子を見て小さく笑った俺はその肩を一度軽く叩いて教室の端に用意された席、織斑千冬の座る席の隣の椅子に腰をかける。

 見れば何やら山田ちゃんが顔を赤らめて体をくねらせているが、織斑千冬の咳払いを受けて、慌てて授業を再開した。

 

「織斑に何を言った?」

「姉さんに恥をかかせんな、それだけですよ」

 

 それだけ聞いた織斑千冬はそうか、とだけ零して山田ちゃんの授業へと向き直る。出席簿が飛んでくるような事は無い。それに俺は少し安心して、しかし放課後の時間を織斑の授業の遅れに奪われてしまう事にちょっと沈んだ気分になる。

 

 フルボトルの制作は後回しにしなきゃかねえ。

 

 教師という職業の難しさを身に染みて俺は実感して、今後こう言った事が起きないようにこのクラスの学力を十分に向上させてやる事を心に決めるのだった。

 




消しゴムボトルの能力は単純に透明化とかかな……。
カシラがやってた撤退はトランスチームシステムで間に合いますし。
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