評価とか感想とかお気に入りとかめっちゃ貰えてたのと
ビルド最新話のお陰で投稿までこぎつけました。
幻徳のあの格好は普通の服着せるとかっこよくなりすぎるから仕方ないと思うんですよね。
空に揺蕩う雲一つ無い、素晴らしき青空の日。
織斑一夏とセシリア・オルコットによって行われる決戦の当日は、これ以上無いコンディションに恵まれることとなった。
放課後のIS学園第三アリーナAピットには、忙しなく動くスタッフ、あるいは整備部の人間とこの俺石動惣一、そして一年一組担任、織斑千冬の姿があった。
今日の俺は、嘗てビルドの世界で
どうやら俺が篠ノ之箒に一夏の補習を丸投げした事が耳に入っちまったらしく、それが奴の怒りに触れ、派手にたんこぶをこさえる事になっちまったって訳だ。しかも痛い目を見たのは俺だけで、当時一緒に居た山田ちゃんはノーダメージ。これも女尊男卑の一側面か。
しかし、俺と山田ちゃんが揃って正座させられ、腕組みした織斑千冬に怒鳴られている姿はさぞ愉快だったに違いない。俺たちを遠巻きに見ていた何人かの生徒の顔は…………青ざめてたな。何せ相手は世界最強のIS乗りだ。自分があんな目に遭ったらどうなるか、そんな想像をせずには居られなかったのだろう。
今、山田ちゃんは今更搬入されてきたと言う一夏の専用機を受領しにこの場を離れている。こんなギリギリのタイミングまでずれ込んだのは、どうやら開発を担当していた
そのせいで織斑千冬の機嫌は最悪だ。普段通りの奴なら俺の頭のたんこぶの数は一つで済んだだろう。今回は三つだ、冗談じゃねえ。
恨みがましくそんな事を考えていると、ピットにセシリア・オルコットが現れる。その顔は精悍に引き絞められ、正に、イギリスと言う故郷の未来を背負う代表候補生に相応しい風格だ。
本来、試合におけるISの出撃は互いに別のピットから行われる事になっている。ただ今回に限っては他のピットでの技術的なトラブルにより、織斑、オルコット両者が同じAピットから出撃する事となっていた。
「ごきげんよう、皆様方」
オルコットは挨拶そこそこ、何人かの整備員と共に自身のISの武装データ、メンテナンスの状況、身体コンディションの確認に向かう。どうやら一夏を侮ってはいる物の、やるべき事はきっちりやるつもりのようだ。
幾ら一夏が最強のIS乗りの弟と言えど、一度も乗った事の無い専用機で、稼働時間が300時間を越えるエリート中のエリートに勝利するのは不可能って話だ。俺は既に、結果の見えたこの勝負に時間を割く事に対して少々飽き始めていた。
「どちらが勝つと思う、石動」
「ん~?」
織斑千冬が俺に対して訪ねて来た。この二人のどちらが勝つかなんて火を見るよりも明らかだろう。
「ま、順当に言って勝つのはオルコットでしょ。織斑の奴、今の今まで自分の機体に
「なるほど、当然の答えだな――――どうだ、賭けないか?」
その言葉にはっとして顔を上げて見れば、織斑千冬がどこか性悪な笑顔を浮かべていた。
こいつ、こんな風に笑うんだな。IS学園に来て初めて見たその笑顔に俺はちょっとばかし驚いて、それ以上に織斑千冬が俺に勝負を仕掛けてきていると言う状況に、ビルドの世界で培った遊び心が、ふつふつと沸いて来るのを感じていた。
「
「そうだな……こんな事で大それた賭けをしていては生徒に面目が付かん。軽い物がいいが」
「じゃ、缶コーヒー一本。それでどうです?」
「ああ、それくらいが丁度いいだろう」
そう言って、俺と織斑千冬は互いに意地の悪い笑みを浮かべた。こいつは面白くなってきた! すっくと立ち上がった俺は、ピットの奥に向かって歩き出す。
「何処へ行く?」
「オルコットに粉かけに。一夏の方は織斑先生がするんでしょ? どうせなら公平に行きましょうぜ」
「終わったら戻ってこい。間違ってもピットから出るなよ」
「へーい」
後ろ手に手を振って、俺は試合の準備を進めるオルコットの元へと歩み寄って行った。
「おーい、オルコット、調子はどうだ?」
「あら石動先生、ご機嫌麗しゅう」
ヒステリックに喚いてさえいなければ、代表候補生っぽい立ち振る舞いなんだがなあ。
オルコットの元にたどり着いた俺は、真っ先にそんな感想を抱いた。既に武装やIS本体の確認は終えた様で、念入りに柔軟体操を繰り返して自身の闘志を練り上げている。
「今回はどうだ、一夏には勝てそうか?」
「そんなモノ、語るまでもありませんわ」
言外に負ける訳が無いと言い切るオルコットだが、その顔には隠しきれない油断と慢心がにじみ出ていた。実際油断も慢心もするだけの力量差はあると思うのだが、織斑千冬に負けるとなると腹が立つ。そこで俺は、オルコットに塩を送ってやる事にした。
「……一つだけアドバイスだ。一夏の奴、この一週間みっちりと剣術の修練を積んできてやがる。もしも奴が近接ブレードを使ってくるようだったら、ちょっと気をつけた方がいいぜ」
「そんな情報不要ですわ。わたくしは粛々と、当然の勝利を掴み取るまで。貴方は自身と同じ、男のIS乗りが敗れる様をピットから眺めていればよろしくてよ」
しかし俺の厚意は無下にあしらわれてしまった。どうにも男と言う奴に対して、一定の侮蔑心があるらしい。俺は困ったように腕を組んだ苦笑いすると、腕や首を回しているオルコットにまた話しかけた。
「俺、別に織斑の味方って訳でもねえんだけどな」
「あら、そうなんですの?」
「まあな。さっきのアドバイスだって、お前の戦闘データは幾つか公開されてるが、あいつのそれは実際ゼロってのがどうも気になってよ。情報面のハンデを取り払ってやろうと思ったまでだ。癇に障ったなら謝るぜ」
「余計なお世話ですわ! これは元々わたくしの勝ちが決まった勝負。余計な口出しは無用と心得なさい!」
「はいはい、悪かったな。それじゃ、俺はここらで下がらせてもらいますかね」
どうやら俺のアドバイスはお嬢様の怒りの琴線に触れてしまったらしい。今にも詰め寄らんばかりの剣幕で喚くオルコットに、俺は肩を竦めてすごすごと退散する。
しくじったか? オルコットの奴、頭に血が昇ったまま試合に臨んだりしないだろうな。
振り返れば、オルコットが自身のIS<ブルー・ティアーズ>を展開しアリーナへと出撃して行く所だった。その顔は先ほどの癇癪を起こした少女のそれでは無く、既にイギリスの旗を背負う代表候補生の精悍な顔に戻っている。
ああ、ISの身体最適化機能ね。どうやら心配は居らなそうだな。
そう納得した俺は、少し騒がしくなってきた一夏側のピットに向けて、足早に退散するのだった。
「――眼をそらすな!」
こっち側の騒がしさの原因はアレか。見れば、一夏が篠ノ之に対して凄い剣幕で詰め寄っていた。目を凝らして見てみると、篠ノ之の頭には小さなこぶが一つ。
ははーん、大体分かった。アイツ、一夏に対してISに関する知識をちゃんと教えてやらなかったな? 大方、暇な時間をすべて剣道の稽古に
その二人の微笑ましさにくっくっと喉を鳴らすと、後ろでその様子を眺めていた織斑千冬がこちらを鋭く睨みつけてくる。俺は未だに痛む頭の事を想起して、さっと目を逸らした。
すると丁度視線を向けたピットの搬入口から、山田ちゃんが息を切らせて駆け込んで来る。
「い、一夏くーん! どうもお待たせしましたーっ!」
息も絶え絶え、足もフラフラ、まるでゴール間際のマラソンランナーと言った体で駆けこんできた山田ちゃん。何だか危なかっかしいなあと思っていれば、案の定、俺の脇をすり抜けようとしたところで足がもつれて派手にすっ転んだ。
「おいおい山田ちゃん!? 大丈夫か?」
俺が何時だか織斑千冬にやられた時のようにその体を揺すると、山田ちゃんはすぐに気を取り直して立ち上がり、眼鏡を直して興奮気味に話し出した。
「だっ、大丈夫ですっ! それよりも、ようやく到着しましたよ、一夏くんの専用機!」
山田ちゃんの言葉に俺達だけではなく、待ちぼうけを食っていた整備員達までが声を上げた。だがその中にあっても織斑千冬は冷静さを保ったまま、一夏に次の指示を飛ばす。
「織斑、すぐに準備しろ。アリーナの使用時間には限りがあるし、オルコットも待たせているからな」
聞き捨てならぬその言葉に、一夏はえっ、いきなり!? と言う驚きを隠せない表情で俺に救いを求める視線を向けて来た。本当に面白い奴だな。
「ぶっつけ本番か、運が無えなあ一夏。ま、為せば成るってやつかね。とりあえず頑張ってこいよ~」
「この程度の不運、お前なら乗り越えられるはずだ、一夏!」
そんな姿にちょっと笑いながら肩を竦めた俺からの心よりのエールに、一夏が困惑したような表情を見せれば、篠ノ之が続いて奴を激励した。
「さっさとしろ!」
しまいには織斑千冬に促され、一夏は慌てて搬入口のIS用ゲートに近づく。
すると、分厚い防壁が斜めに口を開いて、その中で待っていた『織斑一夏の専用機』がついにその姿を現した。
「おー、あれが一夏の」
「はい! 一夏くんの専用IS<
その姿は正に純白。無機質であるが、故に一点の曇りもない装甲色は主に忠誠を誓う騎士を思わせる。一方シルエットは機械然としていて、それがどこか不自然な威圧感を感じさせた。
これが織斑の専用機か。俺が資料で見たどの機種よりもシンプルな姿をしているように見える。そんな風に思っていれば、一夏はまるで誘われるかのようにその装甲に手を振れ、僅かの間感慨深そうに眼を細めていた。
「おい、さっさとしろと言ったろう。ISに腰を掛けるイメージで入り込め。いいぞ、後はシステムに任せておけばいい」
織斑千冬の声によって現実に引き戻され慌てて一夏はISに搭乗する。するとISが一夏の体を包みこむように装着され、その機能を起動させた。
「ハイパーセンサーはちゃんと動いてるみたいだな。俺と織斑先生を同時に見ることだってできるだろ?」
「気持ち悪くなってないですか? 大丈夫?」
俺と山田ちゃんが、慣れぬであろうハイパーセンサーの視野の調子を尋ねてみれば、織斑は少し言葉に詰まった後、不器用にサムズアップして見せる。
「……大丈夫、これなら行けそうです」
奴は最初こそ調子を図るように手を握りしめてみたり、首を回してみたりしていたようだが、今や十分にISを動かす感覚に慣れた様で、出撃ゲートの前まで危なげなく歩を進めてゆく。
さあ、出撃の時か。そう思って俺がその瞬間を楽しみにしていると、一夏はわざわざ俺たち――いや、篠ノ之と織斑千冬か――の方に体ごと振り返って、白い歯を見せて笑いかけた。
「箒、千冬姉。行ってくる!」
それだけ言い残して、アリーナに向き直った一夏は一度小さく屈むと、スラスターを起動させて俺達の前から戦場の空へと飛び出していくのだった。
◆
そう言って空へと飛び立つ一夏の顔には憂いは無く、既にその意識は戦場へと向けられて居るようだった。その姿を、私はただ見送る事しかできない。
「勝って来い、一夏……」
祈りながら呟くも、その言葉がもう聞こえてはいない事は分かり切っている。
この一週間、私は一夏と一緒に居たいが為に稽古の名目で振りまわし、挙句には石動先生から託された補習の勉強すら碌に教えてやる事をしなかった。結果、千冬さんに叱咤され、頭にこぶを一つ作る事になった。自業自得だ。
私が自身の私欲に走らずしっかりとしていれば、一夏はもっと万全の状態でこの戦いに臨む事が出来たのでは無いだろうか。欝々とした気持ちが内から湧いてきて、私の心を沈めてゆく。そんな事を考えていたら後ろから肩を叩かれて、はっとして振り向いた。
「篠ノ之ぉ、ここからじゃあよく見えねえし、向こうまで移動しようぜ」
「あっ、はい!」
相変わらずにこやかな石動先生に促され、既に動いていた皆と並んで宙を見上げた。先程飛び立った一夏は、既に上空で待機していたオルコットと同じ高度で静止している。
既に試合開始のブザーは鳴り終えている。もう何時戦闘が始まってもおかしく無い。二人は何事か話しているようで、すぐには動こうとはしなかった。だが次の瞬間オルコットが構えたエネルギーライフルから閃光が放たれ、一夏は何かに殴られたように吹き飛ばされかける。
「一夏っ!」
「慌てるな、掠めただけだ」
千冬さんはそう言うが、ダメージがあった事は確かだ。エネルギーも今の一撃で一割近くが持ってかれている。直撃しなかっただけマシなのか? そんな事を考えている合間に、オルコットによる連続射撃が一夏に容赦なく襲い掛かった。
「えっぐいな~。オルコットの奴、このまま終わらせる気満々じゃねえかよ」
「オルコットさんの<ブルー・ティアーズ>に装備された<スターライトmk-Ⅲ>はイギリスの最新エネルギーライフル。取り回しに難はありますが、威力、弾速、射程、連射力……全てにおいて水準以上の強力な武器です」
暴風雨の如きエネルギー弾の嵐に翻弄される一夏を見て軽く笑った石動先生に、私はあれの何処が面白いのかと睨みつけるも、間に山田先生が入ってきて私の凝視は遮られた。
「そんなもん相手に織斑の奴、武器も出さずにどうしたんだ? これじゃ、ちっとも盛り上がりゃしねえぜ」
そう言った石動先生は、なぜか千冬さんに対して挑発的な視線を向ける。この試合に、クラス代表を決める以外の何かが関係あるのだろうか。そんな疑問をよそに、千冬さんは変わらず落ち着いた様子で頭上で行われる激戦を眺めている。
「そう急くな石動先生。見ろ、織斑の奴、どうやらここからが本番らしい」
一夏はエネルギーライフルの弾道をすり抜けながら、
距離を詰めようとする一夏と。そうはさせまいとするオルコットの、一進一退の攻防が始まろうとしていた。
戦闘開始から既に三十分近くが経過しようとしていた。既に一夏の白式は満身創痍、一方のオルコット、ブルー・ティアーズはほぼ無傷だ。その差を生み出したのは、セシリアの周囲に侍る、四機の新型浮遊兵器。
<ブルー・ティアーズ>。彼女のISと同じ名前を持つその四機のビット兵器は一夏の周囲を旋回するような機動を取りながら、オルコットのエネルギー射撃と連携してレーザーを放ち、疑似的な多対一の状況を生みだしている。
「一夏、このままでは……!」
私は目を逸らしたくなる気持ちを何とか抑え込むも、一夏の上下に陣取ったビットからレーザーが放たれ、それを何とか回避した一夏をオルコットのエネルギーライフルが掠めるたび、どんどん一夏の敗北が近づいてくる。それを凝視して動けぬ私が手すりを強く握りしめていると、石動先生がにこやかな顔で話しかけて来た。
「そんな顔するなよ篠ノ之。まだ勝敗が決まった訳じゃねえ。一夏の奴が気付きさえすれば、逆転の目はまだあるぜ」
「気付きって、一体何に?」
「包囲連続攻撃の起点になってるオルコットのビット兵器、あれの弱点さ」
「なっ、そんな物が!?」
驚く私に、石動先生は落ち付けよと言わんばかりにジェスチャーをして、隣に立っていた織斑先生に話を振る。
「織斑先生もわかってるでしょ?」
「ああ。しかし石動先生、お前こそ本当にわかっているのか?」
「自分で説明しろってことね」
石動先生は諦めたように肩を竦めて、空中で競り合う二機に目を向け自分の考えを語り始めた。
「あのブルー……ビットでいいか、紛らわしい。あのビットは行動する際に、必ずオルコットによる指示を必要とする。イメージ・なんちゃらを搭載した兵器にとってそれは本来欠点じゃあ無いんだが、今のオルコットにとってはそうじゃない。だろ、山田先生」
「えっ、あ、はい! えっと、イメージ・インターフェイスを搭載した兵器の利点は自身の思考に反応させて動かす事が出来ると言う点です。ただそれには高度な集中力と高い適性、更には特殊な訓練が必要なんです。オルコットさんのIS稼働時間は確かに長いですが、まだブルー・ティアーズ自体にはそう長く乗っていないのかもしれません。もしオルコットさんがブルー・ティアーズの使用にもっと習熟していれば、今よりも遥かに高度な連携で攻めて来ていたと思いますよ」
「
山田先生が授業でもまだ行っていない、第三世代ISに搭載された装備についての説明を終えた。それに石動先生は感嘆の声を上げたが、山田先生の呼び方を間違えたせいで千冬さんに一撃を見舞われる。それを見ると私の頭のこぶもズキリと傷んだ。
「山田先生だと言ってるだろうが。それに説明を丸投げするな」
「すんません……」
石動先生が帽子ごと頭を押さえて座り込み、その様子にわたわたと慌てる山田先生。その二人を一瞥した後、また空の一夏に視線を戻す千冬さん。そんなどこかコミカルで微笑ましい先生方の様子に、私は思わず小さく笑った。
「あっ、一夏くん!!」
その上空から眼を離していたわずかな瞬間に、試合が大きく動こうとしていた。
一夏がオルコットの包囲攻撃の弱点に気づいたか、ビットの攻撃後の隙を突いて、一気にオルコットに肉薄した。目の前に迫った一夏にライフルの銃口を跳ね上げられピンチに陥るオルコット。たまらずビットを呼び戻して一夏を撃ち抜こうとするが、一夏の真の狙いはどうやらビットだったらしく、逆に接近しすぎたビットは一機、また一機と一夏の刀によって切り捨てられる。
それを見ていた先生方だけでは無く。観戦していた皆からも小さく無い歓声が上がった。その歓声に答えるかのように、一夏は自身の死角に迫っていたビットにいち早く反応して刀を突き立てて撃破、そのまま返す刀で再びオルコットに肉薄して仕留めに行く。
「ハイパーセンサーの使い方に慣れて来やがったな!」
そんな石動先生の声がしたが、私はそれに応える所では無い。
一夏とオルコットの間に割り込んだ最後のビットも渾身の回し蹴りで跳ね飛ばされ、残るは取りまわしの効かぬエネルギーライフルを持っただけのオルコットだけが残った。行け、一夏! と心の中で叫ぶ。その瞬間、オルコットがにやりと笑い、腰の装甲だと思っていたユニットが動き、一夏に向けてその砲口を開いた。
瞬間、上空に赤と白の閃光が花開き、強い衝撃がシールド越しのピットにまで到達する。
「一夏ーッ!」
爆炎の中に消えた一夏に向かって、思わず私は叫んだ。先程まで騒いでいた石動先生、山田先生も真剣な面持ちでもうもうと上がる黒煙を見つめている。
「あー、流石にこりゃあ決まったでしょ、織斑先生」
「――――ふん」
石動先生が言うが、千冬さんは意に介さない。鼻を一つ鳴らして、仏頂面のまま空を見上げるばかりだ。そうしている内に黒煙が晴れ始めると、その中にかすかに白い装甲板が見え隠れする。それを目にして、ようやく千冬さんがどこか安堵したかのように言った。
「機体に救われたか、馬鹿者め」
その瞬間、薄くなり始めていた煙が一気に吹き飛ばされ、そこから純白のISが姿を現した。どこか機械然として角ばっていたそのシルエットはより洗練され、流麗な騎士の如く滑らかな曲線とシャープなラインで形作られている。
何よりも、手にしていた刀はより大型の太刀を思わせる形状に変化しており、内部から強力なエネルギーを発して、その輪郭を光らせていた。
「あれは、織斑先生の――」
そう山田先生が呟いたと思えば、一夏は今までを遥かに超える速度でオルコットへと突撃した。オルコットはそれに素早く反応し、エネルギーライフルから光芒を弾けさせる。
だが、一夏の白式はまるで稲妻にでもなった様にスラスターを輝かせ、無茶にしか見えない鋭角機動でエネルギー弾を回避、そのまま一気に接近すると、防御に回った残り二つのビットを一瞬で切り飛ばして、オルコットへの懐へ飛び込んだ。
反応出来ぬままにビットをやられたオルコットは一瞬間違いなく動揺したが、握りしめていたエネルギーライフルを放り捨て待機状態にあったと思わしき近接ブレードを手元に呼び出す。
今までどのタイミングでも使っていなかった武器を咄嗟に呼び出すとは、それだけ高い判断力を備えていたのか、あるいは、一夏が剣術の修練をしていることを事前に知っていたのか。オルコットは強く握りしめた近接ブレードを、大上段に振りかぶった一夏の剣の軌道を
防がれる――――そう思った瞬間、振り下ろされていた剣がかき消えるかの様にぶれ、一瞬でがら空きの胴を狙う軌道へと変化。そのまま一夏の剣は、オルコットの胴体めがけ吸いこまれるように滑り込む。私はそれに一夏の勝利を確信し――――
『試合終了! 勝者、セシリア・オルコット!』
――――その瞬間、試合終了のブザーがアリーナに鳴り響いた。
◆
「あっぶね~……」
試合の顛末を見て、俺は思わずそう呟いた。最後の攻防、あれは完全に一夏に軍配が上がっていた。それだけだったら一夏の勝ちだったんだろうが、アイツがエネルギー弾を回避する際スラスターの出力を
あれが無きゃオルコットは一撃を貰って、完璧に撃墜されてたはずだ。お互いに初見殺しにやられた、と言うべきか。
そんな感じに一人溜息を吐いていると、一夏とオルコットがゆっくりとピットへと接近しつつあった。
「織斑先生」
「なんだ?」
「俺、オルコットを慰めて来るんで。一夏の方のアフターケアはお願いしていい?」
「……まあ、よかろう」
「どもども、んじゃ!」
返事だけ聞いて、俺は足早にオルコットが降りてくるピットの方へと足を向けた。
ピットの奥側へと戻ってきたオルコットは、傍から見ても意気消沈とした様子で、俺はまず何て声を掛けようかと言う所から悩む事となった。
あー、あんまり気さくすぎんのもアレだな。傷口に塩を塗り込む事になりかねねえ。優しーく行ってみるか? それもなんか違うよなあ……戦い終えて戻ってきた奴に言う言葉は、結局あれしかねえか。
「オルコット、おかえり。心配したぜ、大丈夫か?」
「……………………」
……ダメか。そりゃあそうだよなあ。見下しきってた相手といい勝負してたと思ったらそいつはまだスタートラインにも立ってない状態で、相手が実力を発揮し出した瞬間に圧倒されたのに、最後は相手が勝手にダウンして勝利だもんな。そんなの、プライドの高いオルコットが納得出来るわけがねえ。もう少しこいつとの付き合いが長ければ、慰め方もわかるんだろうが……。
「――石動先生」
「んおっ?」
気づけば少し思いつめたような顔をしたオルコットが、いつの間にか俺の元まで歩み寄ってきていた。
「この度は数々の無礼、申し訳ありませんでしたわ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
怪訝そうに尋ねれば、オルコットは気まずそうに視線を逸らす。
「わたくしはこの度、貴方から多くのアドバイスを頂いていましたわ。それなのに、貴方や織斑さんの事を男だと見下し、結果あの体たらく。全てはわたくしの油断と慢心が生みだした事――――改めて、申し訳ありませんでした」
姿勢を正して頭を下げるオルコットを見る。彼女は頭を下げたままに微動だにしない。
俺はどうしたもんかと唸って、一度溜息をついて、結局、率直な物言いをする事にした。オルコットのような根が真面目で真摯なタイプにはそういうのが一番響く。それを今までの経験からよーく俺は知っていた。
「オルコット、顔を上げろ。俺に謝るよりも、一夏の奴に頭を下げてやれ。今回、クラス代表決定戦なんて内々の行事に互いのプライドまで持ち込む事になったのは、結局、お前が無為な挑発をしたのが原因だってのはわかってるはずだ」
俺の言葉を、顔を上げたオルコットは慎ましやかに目を閉じて聞いている。
「……俺としても、お前らみたいな優秀な生徒が高め合ってくれればクラスの未来に間違いなくプラスになる。だからよ、男が嫌いなのは分からんでもないが」
そこで俺も一度真剣になって帽子を脱ぎ、オルコットが先程までしていたように丁寧に頭を下げた。
「頼む。仲良くなれとは言わない。だが、アイツが困っていたらでいい、同じクラスの仲間、何よりIS乗りの先輩として、手を貸してやってくれないか?」
「……分かりました」
俺の頼みを聞いたオルコットは一度神妙な顔で頷くと、気を取り直したように、いつもの誇り高いセシリア・オルコットに戻って胸を張った。
「目上の者に頭を下げさせながらその言葉に応えぬなど、我ら英国貴族の名折れ。このセシリア・オルコット、織斑さんに対しても、これからは心を入れ替えて接する事を誓いますわ」
「そっか、頼むぜ」
それを聞いた俺は安心して、オルコットの肩を軽く叩く。これで一夏の奴も授業に十分着いて来れるようになるだろう。それに、もう一つ大事な事がある。
――――ハザードレベル1.8か。オルコットもなかなか悪くない。
一夏がまさかあれ程の強さを見せつけてくれるとは思っていなかった。これからオルコットと奴が互いに研鑽していけば、間違いなく強く強く成長する。
自然回復のみでハザードレベルを5.0、そして俺本来の状態に戻すには、一体どれだけの時間がかかるのか不明瞭だ。正直構わないと言いたい所ではあるが、万が一の非常時の為、すぐさま回復できる手段は用意しておくべき。その点、奴らは織斑千冬ほどではないが高い
奴らの強さを底上げしておく事で、万一この立場をかなぐり捨ててでもエボルの力を取り戻さねばならぬ時に役に立つ。ま、俺としてはそんな事無いのが一番なんだけどな。
そんな事を考えながら、俺は織斑千冬たちの所へ戻ろうとオルコットに背を向ける。だがそこで一つ、面白い悪戯を思いついた。
「オルコット!」
「なんですの?」
不思議そうにこちらを見つめるオルコット。俺は彼女の元へと駆け寄って、周囲で撤収を続ける整備員ら他の者たちに聞こえないよう、小さく耳打ちする。
「最後に一つ…………アイツな、名字で呼ぶより、名前で呼んでやった方が喜ぶぞ」
それを聞いた瞬間、オルコットの白い頬にさっと朱が差す。それが面白くて、俺はにっこりと歯を見せて笑った。
「ハッハッハ……ま、今日はキッチリ休め。
そう言って俺はオルコットに手を振り、なにやらまた騒がしさを増し始めている織斑千冬たちの方が一体どうなっているのかに期待しつつ、そちらへのんびりと歩き始めた。
翌日、朝のSHRで一夏がクラス代表となる事が正式に発表され、クラスは大盛り上がりとなった。
最後まで一夏は抵抗したものの、経過はともあれ勝者であるオルコットが辞退したため一夏に拒否権が無かった事が決め手となり、奴は渋々クラス代表の座に着く事になる。
その後オルコットと篠ノ之がどちらが一夏の師としてふさわしいかなんて言い争いを始めたもんだから、俺が笑って椅子から落ちたり、織斑千冬による喧嘩両成敗のあまりの手際に唸ってみたり(本当に痛そうだと思った)なんて事もあったが、その日は他に何事も無く、春らしいのんびりとした一日が過ぎて行った。
石動先生が他人にボディタッチしてる時は
まず間違いなくハザードレベルの測定が行われています。
これからもお楽しみいただければ幸いです。