星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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明日投稿も執筆も一切出来ない事が判明したので
怒りの六話投稿です。

一万UA、感想お気に入り評価、どれもありがとうございます。


帰ってきたドラゴン

 クラス代表が俺に決定してから数日。それまで俺に対して行われてきた箒の『稽古』は、以前よりも更に過酷な物となった。ある日は寮に戻るまではひたすら剣道、寮に戻ればひたすら筋トレ。繰り返される剣道の反復練習と基礎体力トレーニングに、俺の体は早々に悲鳴を上げ始めていた。

 

 いくら剣を三日サボったら倍くらい無駄になるとかだからって、毎日その二つを両立しようってのは無理じゃあねえのかなあ。しかし、そんなこと箒に言っても聞く耳なんか持っちゃくれない。なまじ先日のセシリアとの代表決定戦で剣道の稽古が役に立っちまったから俺だって何も言えない。

 このまま俺の未来がIS操縦者ではなく、剣道有段者へと摩り替ってしまうのではないかと危惧していた時、救世主がやって来た。しかも三人。

 

 ある日ヘトヘトになった俺の元へ、石動先生と山田先生、そしてセシリアがやって来て、箒の考えた剣道一辺倒な訓練スケジュールを、よりバランスの取れたものに組み直してくれたのだ。

 最初、俺は石動先生(と山田先生)が以前箒に補習を丸投げした前科を思い出してムッとしたけど、今回はあの時のお詫びも兼ね、代表候補生であるセシリアに頭を下げてきてくれたらしい。……まあ、辞退して俺にクラス代表をパスしたんだから、セシリアだって協力してくれるのは当たり前な気もするけどな。

 

 それに反発したのは箒だ。話を聞いた途端、俺の面倒は稽古から勉強まで私が見る! と言い張り始めた。お前は俺の嫁か何かか。その言い方にはセシリアもカチンと来たらしく箒と一瞬言い合いになりそうになったが、石動先生が箒を暫く借りて、何やら説得してくれた。

 

 あの人ああ言うの上手いんだよなあ。何と言うか、前も箒に仕事を丸投げした時もそうだけど、相手の損得や弱みを突いて丸め込むのに滅茶苦茶手慣れているのだ。

 

 結局、週の半分はセシリアと補習や予習、また半分は箒によるスパルタトレーニング、日曜には俺の裁量での自主練。その他にもアリーナを借りれる時間には、セシリア相手のIS操縦訓練を組みこんでくれた(ただアリーナでの訓練には箒も何故か着いてくるらしい。そうでも言わないとこの条件を飲ませられなかったと石動先生が言っていた)。持つべきものは頼れる指導者だなあ。

 

 しかし、訓練内容を聞かされた時に石動先生がこっそりと「一発でめっちゃ強くなれる裏技があるんだが、どうだ?」と聞いてきたが、あからさまに怪しいので断った。俺はあの人の事は割と好きだし信頼はしてるが、信用はちょっとしていない。

 

 そんな感じで、しばらくは訓練と補習漬けの毎日だった。だがお陰で授業にも何とかついていけるようになったし、白式も大分体に馴染んできた。

 これなら何とか代表戦までにはクラス代表に相応しい操縦技能を身に付けられるかな。そんな事を思い、俺は今日も授業を必死にこなして行く。

 

 

 

 一時間目が終わった最初の休み時間。俺達の話題はクラス対抗戦で持ちきりだった。

 

 優勝すれば学食デザートのフリーパスがもらえるだとかで、クラスの皆の熱気はかなりの物がある。箒やセシリアの熱意は先生に頼まれたからだけでなく、そういう理由もあったんだなと一人納得していると、一人の女子が俺に話しかけてきた。

 

「昨日三組の子に聞いたんだけどさ。今の所、専用機持ちのクラス代表者ってウチの一夏くんと四組の子だけらしいよ」

 

 へえ、四組だけは専用機って事は、二組と三組の代表は訓練機に乗ってくるって事か。だったら先生に相談して誰か相手を立ててもらえば、仮想クラス代表として実戦練習をさせてもらう事も出来るかも。我ながら良いアイデアだな、うむ。

 

「へーっ、そうなんだ! だったらさ、実際ウチと四組との試合が決勝戦みたいなもんじゃないの?」

 

 そんな声を聞いて、確かに俺以外のもう一人の専用機持ち、と言うのがどうにも気になる。……一体どんな奴で、どんな機体に乗ってるんだろう。普通に気になるぜ。今度先生方に聞いてみたり、四組にちょっと顔出してみるかなあ。

 

「その情報、古いよ!」

 

 そんな事を思っていると、教室の入り口からなんだかすげえ聞き覚えのある、いや懐かしいような声が聞こえて来た。

 

「残念だけど、二組も専用機持ち――つまり、このあたしが代表になった以上優勝は頂くわ。精々油断しない事ね」

 

 そこには、どこか見覚えのある小柄で髪型をツインテールにした勝気そうな奴が、ドアに(もた)れて佇んでいた。

 

(りん)……? お前鈴だよな!? こんなとこで何してんだ!?」

 

 そんな俺の言葉に、鈴は無い胸を張って誇らし気に答える。

 

「久しぶりね、一夏。あたしは中国の代表候補生としてこのIS学園にやって来たの。代表候補生よ? それで久しぶりの挨拶と、二組クラス代表として宣戦布告の為に顔を出したって訳」

「ふぅん。いや、格好つけてる所悪いが、お前その余裕たっぷりなポーズ全然似合ってねえぞ」

「何ですって!?」

 

 俺に痛い所を突かれて大声で喚く鈴。久しぶりの再会でも、全然変わってねえんだなあ。そう思ってちょっと安心していると、鈴の後ろに、長身の影がぬうっと現れる。

 

「なあおい、そこの入り口塞いでるお嬢ちゃん。こんなとこで何してんだ? 迷子か何かかい?」

「誰が迷子よ!」

 

 見れば入口に陣取った鈴のせいで、石動先生が足止めを食らっていた。長身の石動先生と鈴が並ぶとすげー身長差だな……そう思っていれば、鈴がそんな俺の考えを察知したのか、こちらをキッと睨んでくる。

 そんな事してないで、さっさと退いた方がいいぜ、鈴。俺のそんな忠告の視線は鈴の心には届かなかったようで、ますます顔を赤くして俺への睨みを強くしてきた。

 

「……なあ、お嬢ちゃん。俺、クラスに入りたいんだが、君押しのけるわけにもいかないし、ちょっとそこ退()いてもらえねえかな?」

「ハァ!? なによおっさんうるさいわね! 言ってないで後ろのドアに回ればいいんじゃないの!?」

「ほう、教師に対して随分剛毅(ごうき)な態度を取るのだな。それは祖国での教育の賜物か?」

 

 その声を聞いた瞬間鈴はあまりの恐怖にネコめいて毛を逆立たせ、教室の皆があーあ、という空気に包まれた。

 

「ちっ、千冬さ」

 

 パァン! と言う小気味いい音によって鈴と千冬姉の感動の再会は中断された。いろいろな意味でかわいそうに。

 

「織斑先生と呼べ。本来なら説教もしてやりたい所だが時間が無い。石動先生に頭を下げたらさっさと戻れ。いいな」

「はい……すみませんでした」

「ハハ、次は気をつけろよ」

 

 石動先生に謝って、すごすごと退散していく鈴。石動先生はにこやかに応対したが、鈴が外に出た途端さっさとドアを閉めちまった。ありゃ怒ってるわ。

 

 しっかし、アイツまでIS操縦者になってるとはなあ……俺の知り合いがここ(IS学園)に集まってくるのに、何かこう、運命的な引力を感じる。そんな事を思っていると、クラスメイト達の視線が一気にこちらを向いた。

 

「……一夏、今のは誰だ? 随分と親しかったようだが、知り合いか?」

「一夏さん! 彼女とは一体どういう関係ですの!?」

 

 箒やセシリアだけじゃない。周りのクラスメイト達が矢継ぎ早に質問攻めを繰りだしてくる。俺は答えない。ここで騒いだものの末路がどうなるか身を持って知っているからだ。

 連続した打撃音が響いて、クラスが一気に静かになった。箒やセシリア含め、特にうるさかった何人かが千冬姉の制裁を受け机に突っ伏し、その姿を見ていた石動先生がくっくっと、堪えるように笑っている。あ、出席簿食らった。今回は軽いな。

 

 不用意な事をして千冬姉に引っぱたかれる石動先生と、それに慌てふためく山田先生という構図は、既にこのクラスの名物と化している。見る人が見ればちょっとバイオレンスなこの日常もどこか緩く受け入れられているのは、各々の先生の人徳というか、そういう人を引き付ける魅力によるものなんだろう。

 絶対的なカリスマである千冬姉、それとは対照的な癒し系の山田先生。その二人とも違う、まるで父親のように気安い石動先生。その三人のバランスが、このクラスに絶妙な和を生んでいるんだと思う。

 

 そんな風に思っていれば、珍しく石動先生が教壇に立って号令をかけた。石動先生がメインの授業は初めてだ。さあてどうなるか、お手並み拝見だな。そう思いながらノートを開き、俺は今日の授業に臨んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

「おー、一夏やっと来たか。待ちくたびれたぜ」

「石動先生。私たちも今来たばっかりですよね?」

 

 真実を暴露する山田ちゃんを尻目に、俺は飲み終えたコーヒーの缶(織斑千冬からせしめた物だ)をゴミ箱目掛けて放り込む。

 

Bullseye(ブルズアイ)!」

 

 ゴミ箱をビシッと両手で指差してから、ピットに入ってきた一夏、オルコット、ついでに篠ノ之を手招きしてこちらに呼び寄せた。

 

「珍しいっすね、石動先生がピットに居るなんて」

「ああ、今日は俺が相手してやろうと思ってな」

 

 その言葉に、三人が揃って素っ頓狂な声を上げる。お前ら、俺が一応IS適性の持ち主だってのを忘れてたんじゃ無かろうな。

 

「しっ、しかし石動先生! IS訓練の対戦相手は私と言う事だったのでは!?」

「そりゃあオルコットお前、対戦相手が専用機だけじゃ頭が固くなっちまうだろ。それに訓練機乗りの仮想敵を一夏も欲しがってたしなあ。ま、今日は長く時間取ってあるから、お前の出番がないわけじゃねえ。そこは安心しろよ」

「ですが何故石動先生なのです? 山田先生がお相手でもよろしかったのでは……?」

 

 そんなに俺が相手するのが変に見えるのか? 怪訝そうに聞くオルコットの肩を叩くと後ろに控えていた山田先生を肩越しに一瞥して、俺はその事情を説明してやる。

 

「いやあ、織斑先生はともかく、山田先生に相手を頼もうにも如何せん強すぎるからなあ。そこで俺が相手してやるって話だよ」

「山田先生ってそんな強いんすか?」

 

 あからさまに訝しんだ眼をする一夏。お前幾ら試験の時目の前で自爆されたからって、本来の実力まで怪しむってのは褒められたもんじゃないぞ。最近は真面目に勉強してると思ってたが、日本のIS搭乗者とかはさっぱり調べてないのな。ちょっとばかり俺は呆れた。

 

「お前なあ。山田先生は昔――」

「あのう、昔の話はちょっと……」

 

 説明しようとした俺を、申し訳なさげな山田ちゃんが遮る。どうやら昔の事は知られたく無いらしい。あれだけの逸話があるのにねえ、もったいない。アレが知られればもうナメられるなんて事は無いだろうにな。

 

「へいへい。とりあえず一夏、俺は訓練機(打鉄)乗ってくるから、専用機の出し入れの練習でもしとけよ。前もそれで織斑先生に言われてたろ?」

 

 言うと一夏は痛いところを突かれた顔をしてう゛っ、と呻く。まあ織斑千冬の求めたハードルが高いってのはあるが、ああ言うのは練習しとくに越したことは無いからな。

 

 それだけ言い残して、俺はピットの隅に設置してある訓練機の元に足を向けた。今日の訓練、建前上は一夏に対訓練機の経験を積ませる事だが、本来の目的は俺自身のIS操縦経験を底上げする事だ。一応授業の制動訓練とかでは幾度か動かしたものの、実戦訓練にはまだ参加していない。

 

 そんな事を思いながら、俺は大型の肩部シールドを装着した第二世代型IS<打鉄(うちがね)>を身に付ける。こいつは傑作として評価の高い純国産の量産機だ。安定した性能と扱いやすさ、そして高い防御力を誇り、世界的なシェアを獲得している。そう教本には記されていたな。

 

 俺はIS用アサルトライフルと短めの近接用ブレードを手に取って、一夏に出撃するように通信を送った。するとピットの向こう側から慌てて出撃してくる白式の姿が見える。また余計な事でも言って言い争いでもしてたのか? 俺はまた少し呆れて、一夏が到達した高度目指して打鉄を出撃させた。

 

 

 

 

 

 

 口を滑らせてセシリアと箒に詰め寄られていた俺は、石動先生からの出撃命令にこれ幸いと二人をはぐらかして修羅場から脱出する事に成功した。セシリアは追って来れただろうが、流石に先生との模擬戦にまで首を突っ込むなんて事はして来ない。助かったぜ。

 

 下を見れば、ゆっくりと石動先生の打鉄が高度を上げてきていた。……なんか動きが怪しいな。まるで子供が手を離しちまった風船みたいにフラフラしている。

 本当に大丈夫かよ、と思っていれば少しして、石動先生は俺と同じ高度に到達して静止した。

 

「よぉ~、待たせたな一夏」

 

 言って右手のアサルトライフルで肩をトントンと叩く石動先生。その調子はいつも通りにどこか気楽な雰囲気のままで、戦闘に来たとは思えない緩さだ。それに左手には既に近接用ブレードを握っていて、俺は少し訝しんだ。

 

 何で拡張領域(バススロット)に装備を収納してないんだろう? そう思って見ていると石動先生は肩を竦めて、俺に個人間通信(プライベートチャネル)による通信を飛ばしてきた。

 

「それじゃあ一夏、ちょっとあのブレード……雪片弐型(ゆきひらにがた)出して見せてくれよ」

「あ、はい」

 

 石動先生の指示に従って俺は右腕を突き出し、その二の腕を左手で握った。

 

 ――集中。雪片弐型のシルエットと、それを握った俺の姿を脳裏に思い描く。すると掌から光が溢れ出し、それが形となって、俺の手に雪片弐型が握られた。

 

 それを見て石動先生が武器を持ったままの手で拍手をする。

 

「0.9秒、随分早くなったじゃねえか」

 

 その言葉に俺はちょっと嬉しくなった。千冬姉がこういう風に褒めてくれる事なんか滅多に無いからなあ。

 

「ま、その速度でも織斑先生には怒られちまうだろうな。0.5秒てのは中々高いハードルだぜ」

 

 うっ。千冬姉の叱咤を思い出して、俺はちょっとブルーになった。あと半分近く短縮しなけりゃなんねえのか……しかしそれは、千冬姉の求めるレベルに到達してしまえば、その技術は世界レベルの相手にも通用する事を意味している。そう考えると俺の中から少しやる気が湧いてくるのを感じた。

 

 そんな風に考えていると試合開始のブザーが鳴る。すると石動先生は肩に掛けていたアサルトライフルを下ろして、普段通りの気軽な口調でこちらに通信を送って来た。

 

「そういえば一夏ぁ、俺ってIS操縦者適性がぶっちぎりで低くてさあ。教員どころか、クラスの生徒達と比べても低レベルなんだぜ?」

「えっ」

 

 マジすか、と俺は二の句を告げようとして、出来なかった。俺が反応した瞬間目にも止まらぬ速度で構えられたアサルトライフルの銃弾が俺の全身に直撃したからだ。想定外のダメージに俺は衝撃を殺しきれず、十メートル近く後方へと吹き飛ばされるように後退する。

 

【バリア被貫通、ダメージ102】

 

 今まで黙っていた白式が俺に被害情報を伝えて来た。セシリアと戦った時にはロック警告とかがあったのに何で――! そう思って俺は一つの可能性に思い当たった。

 

 石動先生はISの補助無しで、マニュアル操作で俺を狙ってきている――――!

 

 そのアサルトライフルの銃口が吹き飛んだ俺に向けられるも、白式が一切の警告を発しない事に気づいた俺はその場から慌てて飛びのく。だが石動先生はそんな安易な逃げを見て、実に楽しそうに話しかけて来た。

 

「どうした一夏、逃げてるだけじゃ始まらないぜ。特にお前は!」

「くっそ……! いきなり不意打ちなんて卑怯でしょ!」

「試合開始後にそれを言われてもなあ」

 

 ハッハッハ、と笑いながら弾倉を交換し、高速機動中の俺に対して再びアサルトライフルで銃弾を命中させて来る石動先生。シールドエネルギーは試合開始からの僅かな間ですでに五分の一が削り取られてしまっている。

 

 クソッ、やべえ――! このままじゃジリ貧だ……! 

 

 必死に鋭角機動を繰り返して銃弾を回避するも、どうしても全てを躱し切る事が出来ない。ISの補助無しでここまで正確な射撃が出来るなんて、こんなの適正詐欺だ! 滅茶苦茶強えじゃねえかよこの人! その瞬間銃撃が一瞬途絶え、ハイパーセンサーによる全周囲視界の端に、弾倉を交換する石動先生が見えた。

 

 ここだ――! 俺は白式の向きを変え、スラスターの出力最大で石動先生に向けてかっ飛ぶ。一気に石動先生の目前にまで接近、右脇に雪片弐型を構え横薙ぎの斬撃を繰り出した。

 

【バリア被貫通、ダメージ248】

 

 右脇腹に衝撃。まるで寝そべる様な態勢になった石動先生が、そのまま迫る俺の雪片弐型を掻い潜り、置き土産と言わんばかりにブレードで俺の装甲が無い脇腹を斬りつけて行ったのだ。装甲の無い箇所への攻撃は絶対防御を誘発させ、俺の残りシールドエネルギーを半分以下まで持っていく。

 

 何も出来ないままやられてたまるか――――!!

 

 焦りが俺を支配し、後ろへとすり抜けて行った石動先生を正面に捉えようとした。しかしそこには石動先生の姿は無く。何処へ行った? ハイパーセンサーで確認。俺の顔に影が落ちる。上!

 

 咄嗟に振り上げた雪片弐型が石動先生のブレードを受け止め、エネルギー同士が火花を散らす。俺はISのパワーアシストを用いて全力で力を込める。不安定な態勢からの攻撃だった石動先生のブレードを俺の雪片弐型が弾いた。俺はそのまま返す刀で石動先生を斬りつけようとして、急接近した打鉄の肩部シールドが俺の顔面に激突し、一気に地上まで叩き落された。

 

 前の授業みたいな事にはなるまいと、俺は必死で姿勢を制御し、墜落しそうになっていた態勢をなんとか着地へと修正。その瞬間俺と地面の距離はゼロになり、全身を貫くような衝撃が走る。

 

「グッ……!」

 

 歯を食いしばりそれに耐える。ハイパーセンサーがブレードを構えて上空から肉薄してくる打鉄の姿を捉えた。どうする!? この状況から、どうすれば石動先生に勝てる!? あのブレードが直撃すれば俺のシールドは間違いなくゼロ。負けだ!

 

 ――肉を切らせて骨を断つしかねえ!

 

 眼前に迫り来るブレードを、短い刀身のそれを、俺は左手で掴み取った。シールドが一気に減衰する感覚。だが俺はそれをものともせず、右手の雪片弐型を握りしめる。その瞬間刀身にエネルギーが集中し、その刀身を輝かせた!

 

「織斑一夏ァ!」

「うおおおおっ!」

 

 突き出されるアサルトライフル。振るわれる雪片弐型。閃光が放たれ、俺の視界を奪う。

 

 ――――一瞬して静寂が訪れる。一体、俺はどうなった?

 

 うっすらと眼を開くと。俺の眼前にアサルトライフルの銃口。一方雪片弐型は、石動先生の脇腹に撃ち込まれている。絶体絶命か、ギリギリの勝利か。見れば、雪片から放たれていた光は既に消えている。あ、負けたかなこれ。

 

 そう思った瞬間、備え付けられたスピーカーから勝敗を決するアナウンスが発せられた。

 

【試合終了! 両者エネルギーゼロにより引き分け!!】

 

「はぁーっ……」

 

 それを聞いて俺は全身の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。

 

「ハハハハ! 何だ一夏、お前なかなかやるじゃあねえか!」

「石動先生こそ、メッチャクチャ強いじゃないすか……」

「相討ちにまで持ち込まれちまったけどなあ~」

 

 いつもより大きく笑った石動先生が、座り込んだ俺に手を差し伸べてくれる。俺はその手を取って、痛みを訴える体に鞭打ちどうにかして立ち上がった。

 

「一夏さん!」

 

 白式を解除しながら声に視線を向けて見れば、ISを展開したオルコットがこちらに向かって飛んでくる。その向こうからは箒と山田先生がアリーナへと降りて駆け寄って来ていた。

 

「一夏さん、大丈夫ですの!?」

「まあ、なんとか……」

 

 オルコットが俺の手を取って、心底心配そうな顔で詰め寄ってくる。近い。すごい圧力だ。そんな事を思っているとオルコットは何かを思い出したように石動先生に詰め寄って行った。

 

「石動先生! 一夏さんに対して、ちょっと大人げないんじゃありませんの!?」

「悪い悪い、俺も途中から楽しくなっちまってな。ま、一夏の実力の証明だよ」

 

 そう言われるとオルコットは悪い気はしなかったようで、石動先生の前から一歩引いて、安心したかのように溜息をついた。その横を、駆け寄って来た箒がすり抜けて、俺に抱きついて……えっ!?

 

「一夏、無事か! 心配したぞ馬鹿者!」

「箒!? 大げさだ! ちょっ、おま、離せって! おい!」

 

 俺は抱き着いていた箒を無理やりもぎ離すと、落ち付くよう何度も諭す。すると箒は自分が何をしてたか気づいた様で、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 ったく、これは模擬戦だっての……確かにこっぴどくやられたから、気持ちは分かんないでもないけどさ……。そう(ひと)()ちていれば、山田先生が追いついて来て俺の体の調子を聞いてきた。

 

「一夏くん、ケガとかありませんか? 痛いところとかは?」

「いや……ちょっと体の節々が痛いすけど……まだやれます。大丈夫です」

「そうですかあ、よかった……」

 

 山田先生が安心したように一息つくと、その肩を石動先生がポンポンと軽く叩いた。落ち付いてるなあ。まあ、相討ちに終わったけど、実際石動先生が勝ったようなもんだしな……速度自体は俺の方が上だったのに、近距離戦でもあんな翻弄されちまうなんて。

 

 しかし、石動先生も戦闘経験なんか全然ないはずなのに、やたら戦い慣れてたなあ……もしかしてこっそり特訓とか積んでたのかな? それにあの接近戦のキレ、特に動きの柔軟さは多分、千冬姉にだって無い技術だ。今度時間がある時話を聞いてみるか。

 

「そんじゃ、ちょっと休憩な。さっきの戦闘のデータでも見とくといい。山田先生、これで皆に飲み物でも買ってあげてください。俺はトイレ行ってきま~す!」

 

 石動先生はそう言って山田先生に一枚紙幣を手渡すと、ひらひらと手を振ってから、小走りでトイレに引っ込んでしまった。うーん、こう言う所でビシッと締めてもらえば俺も素直に尊敬できるんだけど……。

 

 そんな事を思いながら、俺は皆と一緒にピット脇に備え付けられた自動販売機に並ぶ。本当はコーラが飲みたかったけど、これから続く訓練のことを考えて、俺はおとなしくスポーツドリンクを購入。そしてモニターを皆で囲んで先ほどの戦闘データを確認し始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 トイレから帰ってきた俺はコーヒーを一本買って、それを飲みながら皆と先ほどの戦闘のデータを確認した。どうにも一夏の奴は戦う気概がまだまだ足りていない。だが、いざと言う時の爆発力はかつて戦った仮面ライダーの一人である万丈(ばんじょう)の事を思い出させる。

 

 ――――俺のブレードを掴んで止めたあの瞬間、奴のハザードレベルは間違いなく2.0を越えていた。

 

 このまま鍛えていけば、奴のハザードレベルはさらなる強化が望めるだろう。それを考えると楽しみで楽しみで仕方が無い。

 その後はにやにやと釣り上がりそうになる口角を意志の力で何とか抑え込んで、データを見ながらああだこうだと意見を出し合った。

 

 オルコットが何故初撃を躱せなかったかと聞けば、一夏はロックオン警告が無かったと話し、俺はマニュアルでアサルトライフルを使っていた事を明かす。

 それを聞いてやっぱりと納得する一夏。既にアタリを付けてたとは、本当に将来有望だな。一方それに驚くオルコットと篠ノ之には、山田ちゃんがマニュアル射撃の利点と欠点を分かりやすく説明していく。

 

 それは実に和気藹々とした時間で、俺達の絆を深める実にいい機会だった。オルコットや山田先生だけでなく篠ノ之までも意見を出し合い、一夏を強くするために建設的な議論をしていった。この様子なら、クラス対抗戦でも一夏はいい所まで行くだろうな。

 

 そんなこんなで少し長引いた休憩を終え、操縦訓練を再開する。まずは一夏とオルコットによる再度の模擬戦――――になると思ったが、どこか不満そうにしていた篠ノ之に俺が使っていた打鉄を譲った事で、オルコットとコンビを組んでの二対一に発展。

 俺とやり合っていた時以上の地獄を一夏は見る事になった。お前らの方がよっぽど大人げねえよ。

 

 そんなこんなをしている内に放課後も終わり、その後も連日一夏はクラス対抗戦に向け訓練を重ねて行った。

 

 楽しみだぜ。一夏だけじゃない、他のクラスの代表者達、奴らがどれだけの実力を持っているのか。どのような動機で戦いに身を投じてくるのか。強い感情――――歓びも含めて、それがハザードレベルの上昇の鍵になる。

 

 それは俺だって例外じゃあない。

 

 奴らが強くなり、俺を楽しませる事が最高の娯楽だ。それと同時に俺のハザードレベルまで回復していくのだろうという事を考えると、何よりも何よりも喜ばしい。ビルドの世界で感じたような人を愛する喜び。きっと奴らが強くなり争って行く先に、再びそれを見る事が出来るはずだ。

 

 そんな夢を想いながら、織斑千冬や山田ちゃんと共に俺は一夏を初めとしたクラスの生徒達にISの技術を教え、鍛え上げる毎日を楽しんでいった。

 

 

 

 

 

 そして、時は経ち。

 

 クラス代表対抗戦の前日。俺を含めた教師達に配られた資料の第一試合の欄には、織斑一夏と、二組クラス代表、凰鈴音(ファンリンイン)の名が記されていた。

 

 




ようやくエボルトの初戦闘が書けました(ISでだけど)
動きにスタークっぽさを出したかったけど、
うまく行ったかどうか……。

スタークやエボルとしての戦闘はまだまだ先になっちゃいそうです。
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