星狩りのコンティニュー   作:いくらう

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ようやくクラス対抗戦にまでこぎつけました。
この話と次の話は事実上の前後編となります。
書いてたら後半部分が楽しくて2万字越えてしまったので二つに分けました。
感想でも長めという意見もありましたし。

感想評価お気に入り、誤字報告ありがとうございます。


ブラッドの逆鱗

 

 五月も既に半ばとなったこの日、ついにIS学園のクラス対抗戦の開幕の時が来た。

 

 先月末から織斑千冬や轡木氏に駄々をこねにこね、どうにかこの日限定での単独行動の権利を手にする事が出来た俺は、ウキウキ気分で第二アリーナの観客席を絶賛徘徊中だ。

 

 見渡す限りの大観衆。何時だかの満員電車の人口密度とは比べ物にならないが、それでもこれだけの人間が集まってこれからの戦いを楽しみにしている。

 やっぱどの世界でも人間は争いが好きなんだな。と俺が共感めいた感動を覚えてちょっと感慨に耽っていれば、俺に気づいたクラスの生徒が手を振ってきて、俺は晴れやかな笑みでそれに応えた。

 

 今頃、普段俺と行動している織斑千冬に山田ちゃん、ついでに代表候補生のオルコットなんかはピットの管制室で特等席に座って居るはずだ。ちなみに篠ノ之もそこに居る。俺は気楽に観客席で代表戦の様子を眺めたかったので、アイツに特等席を代わってやったんだ。その時の篠ノ之ったら、これ以上無いくらい泣いて喜んでたっけなあ。教え子の喜ぶ顔を見せて貰えるなんて、正しく教師冥利に尽きるね。

 

 まあ、そうしてこんな自由な単独行動を満喫させて貰う条件として、発信機は身に付けたままだし、呼び出し用の通信機まで持たされちまった。だが、この自由は何物にも代えがたい!

 

 そうしてひとしきり喜び終えた俺は、観客席の隅の、最も外縁にある隅の席へと腰掛けた。

 俺は空いている隣の席に持参したアタッシュケースを置いて、その中から初任給で購入したポータブルコーヒーメーカーを取り出す。いやあ、真っ当に仕事をして給料を貰うなんて、ビルドの世界じゃ考えられなかった事だ。

 

 あっちの世界で手に入れた金の大半は、ファウスト(悪の組織)関連やらで手に入れた真っ当とは世辞にも言えぬ金で、おまけにその殆どをカフェの運営資金や食費光熱費水道代に()ぎ込んじまってたからなあ……。あ、ウルっと来た。俺も本当に変わったもんだなあ。

 

 そんな事を考えながら、俺はこの世界での初コーヒー作りに成功した。嫋やかな香りが俺の鼻を擽る。底の見えぬどろりとした黒い湖面は、まるでパンドラタワーの頂に鎮座する暗黒領域のようで、俺の心を癒してくれる。一度息を吹きかけてそこに浮かぶ泡が作り出す模様を楽しんでから、俺は一息にそれを口にした。

 

「ウェッ! ペッペッ! ()ッッッ()!」

 

 俺はそのあまりに強い苦味とエグ味に、思わずえづいて手持ちのハンカチに唾を噴き、舌を突き出して風のひやりとした感触と清涼さを味わいそのダメージを誤魔化そうとする。

 

 普段ならば絶対に取らないような行動だが、生憎それを見咎める奴はいない。

 

 幾らアリーナが過密状態とは言え、こんな最果ての地に好んで居る人間はそう多く無い。何故かって? 折角のクラス代表戦がてんで見えないこんな所、本気で楽しみにしてた奴なら死んでも来たがらないからな。

 

 何せこっから見るISの戦闘なんか米粒同士の戦いを眺めるようなもんだ。遠すぎるし、遮蔽もあるし、風だって強いし。俺の様にやたらと目のいい人間か、環境の悪さ以上に衆人の喧騒を嫌う人間。そんな奴しか来たがらない。

 

 ほれ見ろ。あそこの奴なんか双眼鏡まで準備して、まるでバードウォッチャーだ。

 

 その姿を目にした俺は、いつだか万丈龍我(ばんじょうりゅうが)に用意してやった変装服のことを思い出して、人目を気にも留めずにけらけらと笑った。

 

【それでは両者、既定の位置まで移動してください】

 

 アナウンスが鳴り響くと共に、双方のピットからそれぞれのクラス代表機が出撃してきた。流麗な一夏の白式に対するのは、二組クラス代表にして中国国家代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。彼女が纏うのは、竜の頭を思わせる一対の大型非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が特徴的な第三世代IS甲龍(シェンロン)。あのやたらと目立つ肩部ユニットは、確か名前は龍咆(りゅうほう)と言ったか。この時の楽しみの為に詳細は調べちゃあいないが、随分珍しい兵器だって話を聞かせてもらった。

 

 はてさて、一体どんな兵器を披露してくれる事やら。ギュインギュインのズドドドドドドなんてワケ解んないもんじゃない事を祈るぜ。

 

【それでは両者、試合を開始してください】

 

 ビーッ、とブザー音が鳴った瞬間、先手を取ったのは(ファン)。突撃しながら呼び出(コール)した偃月刀を切り詰めたような形状の武装で一夏に斬りかかる。だが瞬時に展開された雪片弐型がそれを防ぐ。呼び出し(コール)が早い。一夏の奴、また腕を上げたな。

 

 しかし凰の攻勢は止まらない。まるで前世紀のアクションスターが得意としたヌンチャク捌きめいて、凄まじい勢いで振り回される大得物に一夏は防戦一方となる。

 何らかの功夫(カンフー)の応用か? 傍から見てもあれはかなりの凄腕だ。一つ一つの動き自体のキレもそうだが、その間にまったくと言っていいほど隙が無い。俺が辞典の編纂(へんさん)者なら、『流れるよう』と言う言葉の項目に奴の名前を加えてやってもいいくらいだぜ。

 

 その余りの攻撃密度に、たまらず一夏が距離を取ろうとスラスターに火を灯した。しかしそれは凰が龍の(あぎと)を開いた事で無駄な足掻きとなる。

 

 バガァン! と言う重い衝突音と共に吹き飛ばされる白式。後方へ離脱しようとしていた事で大ダメージは免れたが、大きく姿勢を崩して吹っ飛んでゆく。更に凰はその隙に一夏の上に陣取って再び奴に龍の咆哮を浴びせかけた。

 

 ありゃあ、衝撃砲か? 俺もエボルとしてたまに似たような技を使っていたから分かる。

 

 恐らくあの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)に仕込まれている機構が空間自体に強烈な圧力をかけ、そのエネルギーに指向性を持たせて打ち出しているのだろう。

 厄介だな。何せあの攻撃は肉眼では捉えられない。ハイパーセンサーの検知機能なら空間の歪みや気流から攻撃を読み取る事は出来るだろうが、それに必要な集中力を戦闘中に要求されるのは堪ったもんじゃあ無いはずだ。

 

 頭上から衝撃砲を受けた一夏が墜落し掛け、途中で何とか体勢を立て直して着地する。俺の時の焼き直しだ。一つ違うのは、次に迫り来る攻撃が止めようのあるブレード突撃じゃ無く、目に見えず実体も無い衝撃砲ってとこだ。

 

 一夏は一気に加速、地上を全速力で駆け抜ける。その後を追うように土が吹き飛び、あるいはクレーターじみた傷跡を晒した。蛇行して狙いを定めさせないような機動を繰り返してはいるものの、凰の狙いはかなり正確で、命中するのも時間の問題だろう。

 

 しかし、思案していたような一夏の表情が、覚悟を決めたそれに変わるのが見えた。何をやらかしてくれる? 俺が思わず身を乗り出すと、その瞬間一夏はスライディングするような姿勢になり凰の居る上空に向き直った。あれは俺が前に一度だけ見せた、ブラッドスタークの這いずり機動だ。体の面積を広く晒せば間違いなく被弾率は上がる。だが、何故あえてそれをした?

 

 その瞬間、織斑の頭頂部をかすめるように衝撃砲が着弾する。だが奴はそれを待っていたかのように、雪片弐型を振り被って凰目掛けて()()()()()

 

「馬鹿な!?」

 

 勝負を捨てたか!? いや、奴の目は死んじゃいない!

 

 凰は突然の奇襲に一瞬面食らうが、両方の衝撃砲を起動して、迫り来る雪片を弾き飛ばしながら一夏を撃ち抜ける軌道を狙い定める。

 

 ――――次瞬、地上ギリギリを滑っていた一夏が爆発的な加速で雪片に追いつき、そのまま凰の眼前で雪片を逆袈裟に振りかざした。

 

瞬 時 加 速(イグニッション・ブースト)か!」

 

 直線限定ではあるが、凄まじい速度で移動する事の出来るIS操縦技術。奴は俺の機動を使う事で凰を正面に捉え、かつ雪片弐型を放り投げる事で瞬時加速と言う選択肢から眼を逸らさせたのだ!

 

 しかし凰もさる者、その電撃的突撃に手に持っていた大得物で的確に反応し、金属と金属のぶつかり合う凄まじい激突音がアリーナに響き渡った。その一連の攻防に俺の血は沸き立ち、心が躍る!

 

「いいぞ……そのままもっと上へ来い、一夏ァ!」

 

 

 

 ――――そう俺が叫んだ瞬間、アリーナ上空から放たれた一撃が、その高揚の全てを滅茶苦茶にした。

 

 

 

「……あぁ?」

 

 俺は茫然として、間抜けにも程がある声を上げる。同時に砕かれた遮断シールドの上部から、一機のISが飛び込んできた。

 

 その姿は正に異形。一部のスマッシュにも似た長い長い腕に、首と呼べる部分が無く、肩と頭部が一体化したような造形。更には、一般的なISにはまず見られない全身一部の隙も無い全身装甲(フル・スキン)の体を深い灰色で染め抜いている。

 頭部も有機的で、不規則に並べられたむき出しのセンサーレンズに、全身にも過剰なまでにスラスターが備え付けられていた。

 

「なんだ、あの野郎……」

『石動、聞こえるか! 返事をしろ!』

 

 驚愕していれば、通信機からは織斑千冬の声。

 

「……織斑先生」

『無事なようだな……悪いが、観客席はどうなっている?』

「……パニックですよ、ええ。ひどいもんだ」

 

 俺は他人事のように、周囲の状況を連絡した。既に観客たちは驚き、叫び、逃げ惑って出入口に殺到している。

 

『石動。生徒達を誘導して、今すぐアリーナから離脱しろ。安全確認ができ次第学園のIS部隊が鎮圧に向かう』

「…………」

 

 その指示を聞いても俺はあまりの現状に、返事する事も忘れて悠々と静止する異形ISを見つめていた。

 

『石動、聞いているのか』

「……ああ、いえ、了解です」

 

 僅かばかりに焦りの見えた織斑千冬に了解の言葉を伝えると、俺は階段を数段飛ばしながら出入口へと向かう。駆けている間に試合中断のアナウンスが流れ、観客達へと避難命令を放つ。上空では、謎のISに対して一夏と凰が挑みかかり、新たな戦闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「さあお前ら! 急げ、だが慌てるな! 忘れ物だ何だは俺達が責任持って回収してやる! 今は一つだけの命を取り落とさないことだけ考えろ!」

 

 そう叫べば、先程まではパニックだった生徒たちも大人しく外へと向かう道へと行進していった。どうやら、ハッキングによってゲートがロックされ外へ出ることは叶わないらしい。

 だが、それでも戦場となっているアリーナから遠ざかるには越したことないはずだ。

 

 瞬間、再び振動が起きる。戦いはまだ続いているようで、時折轟音と振動が離れたここまで伝わって来た。剣しか持たない一夏はともかく、凰のISにもこれほどの衝撃をもたらす兵器は搭載されていなかったはずだ。それほどまでに敵のISは強大って事か。

 

榊原(さかきばら)先生。俺、観客席に取り残されてる奴が居ないか見て来ますんで、ここはお願いできますか?」

「ええ、分かったわ。気をつけてね、石動先生」

 

 共に避難誘導をしていた教師に一声かけて、俺は再びアリーナへと走る。脳裏に浮かぶのは、今日までの放課後や空き時間を費やした一夏への訓練の日々。それら全ては、このクラス対抗戦で最高の戦いを目にするためだったと言うのに!

 

 気に入らねえ。俺が今日この日を、どれだけ楽しみにしてたと思ってやがるんだ。

 

 心を滾らせた俺は歯ぎしりしながらアリーナへと駆け出した。避難者が落としたと思しき手荷物や、欠けたコンクリートの欠片を避けて進んでいく。すると、十字路で俺は思わぬ人物と遭遇した。

 

「篠ノ之!? こんなとこで何してる!」

「石動先生!?」

 

 息を切らせているのは管制室で戦いを見守っているはずの篠ノ之箒。

 

「今、一夏が謎のISと戦っているんですよね!?」

「バカ野郎! そんな事はいいから黙って帰ってろ!」

「嫌です! それにあのISは未確認機……そんな奴と一夏が戦ってるなんて……私に見過ごす事は出来ません!」

「未確認ISだと……?」

 

 それを聞いた瞬間、俺の脳裏に余りにも邪悪な計画が過ぎった。アドリブが過ぎるが、成功すれば手に入る物は大きい。何よりも――――

 

 ――――俺の楽しみを邪魔してくれた奴に、痛い目見せてやる事が出来る。

 

 腹の中でそんな事を考えながら、顔は裏腹に必死で篠ノ之を逃げるように諭す。

 

「悪いが、俺はお前を力づくで引きずってく訳にはいかない。これから逃げ遅れた奴が居ないか見て来ないとだからな」

 

 そう言って、俺は有無を言わさぬ圧力で篠ノ之の顔を睨みつけた。

 

「子供は黙って守られてろ。俺たちはその為に、ここで教師をしてるんだから」

「…………分かりました」

「よし。すぐ北側――あっちの道を真っ直ぐ行け。そうすれば第三ゲートに着くはずだ。途中で左の通路には入るなよ。『すぐにアリーナから目立つ放送室にたどり着いちまうからな』」

 

 念押しして、篠ノ之と別れて再び走り出す。

 

 ――――奴の性格から考えて、どうあっても一夏の奴の様子を見に行くことだろう。うまく行けばいい観客になるはずだ。

 俺はこの状況でも利己的に動く篠ノ之に、いつか内海(うつみ)に見た窮地での狂気に似たそれを見出して、奴への評価を大きく向上させた。

 

 

 

 観客席に戻ってみれば既に皆逃げ終えた様で、生徒を含め観客の姿は一人も無い。

 

 俺は手早く落ちていた拳大のコンクリート片を手に取るとそれで自分の額を殴り付け、手近な場所へ転がした。切れた額から怪我の程度に比べても大げさに血が流れる。

 見れば不明ISと二人のクラス代表の戦いは地上付近へと高度を下げ、しかしその激しさは勢いを増して続いていた。

 

 俺はそれを嘲笑って全身の力を抜いた。その瞬間俺の体がぶっ倒れ、それを見下ろす俺が居る。不思議な事は何もない。端に俺が憑依した体から分離して、俺単体で石動惣一の姿に擬態しているだけだ。

 

 偽装は完了。もし俺が戻るまでに体が発見されても、生徒の安否を確認しに来たが被害を受けてその場で気を失ってしまった教師――――アフターケアを間違えなければ、美談としてそんな話に仕上げる事が出来るだろう。

 

 吊り上がる口角も抑えずにそんな事を思いながら、俺は懐からトランスチームガンを取り出した。

 

【コブラ!】

 

「蒸血」

【ミストマッチ!】

 

【コッ・コブラ……コブラ……】

 

【ファイヤー!】

 

 火花が散り、俺を包んでいた黒煙が晴れた瞬間。そこに立っていたのはISとは異なる、全身を包んだ戦闘用装甲服。赤い全身に胸にはコブラを象った緑色の装甲。それと同色のバイザーからは、青い瞳が透けて見える。

 <トランスチームシステム>が一つである、<ブラッドスターク>。それがこの体の持つ名前だ。俺本来の姿である<仮面ライダーエボル>に比べれば劣る戦力であるが、これから俺が実行する作戦にはこの姿で十分だ。

 

 俺は懐から三本のボトルを取り出し、その内の一つをトランスチームガンへ装填する。

 

【消しゴム!】

 

 トリガーを引けば、トランスチームガンの銃口から煙が噴出し、それを浴びた俺の姿が透明化する。間髪入れずに俺は次のボトルを装填。

 

【ローズ!】

 

 銃口をアリーナ上部にあるアンテナに向け、トランスチームガンからツタを射出する。ジェットやロケットフルボトルと違って派手な物音を立てずに行動出来るのは代え難い利点だ。

 そのまま勢いを付けて一気にアリーナ上空へと跳ね飛ぶ。そのまま修復され始めていた遮断シールド最上部に開けられた穴へと飛び込み、不明IS目掛けて落下してゆく。

 

【マグネット!】

 

 再びトランスチームガンから吹き出した蒸気を潜り抜ければ俺の体は特殊な吸着効果を発揮して、激しく動き回る不明ISに目掛けて勢いを増し、奴の上に『着地』する事に成功した。

 

『!?』

 

 突然、検知できない物体が衝突して混乱した様を見せる不明IS。一夏達もその様子を見て何事かと訝しんでいる。スラスターを輝かせ、腕部内蔵のエネルギー砲を姿見えぬ俺に向ける不明IS。だが遅い。俺に密着された瞬間に、こいつの運命は決まっていた。

 

 ――――貰うぜ、その体!

 

 嘗て俺がビルドの世界の戦闘用メカ、<ガーディアン>の集合体と融合した際に使ったブラッドスタークの拡張機能。そして、精神生命体としての俺が持つ憑依能力。

 その二つを活用して、肉体はこのISという機械を、魂はISコアが持つ意識を奪い取る。

 

 不明ISが痙攣し、元来与えられていた命令が俺に反発する。だがそれも一瞬の事で、俺はこいつの抵抗を容易く踏み躙った挙句暴力的にその精神を刻んで全ての情報を引きずり出し、ISと言う肉体を完全に支配下に置く事に成功した。

 

 

 

 

 

 

「――何だ、今の……」

 

 俺は目の前で突然痙攣しだした不明ISの様子を見て、思わずそんな声を漏らした。

 

 現行の量産機を遥かに超える強大な武装を誇っていた敵機体。しかもあからさまに人間には不可能な動きをしたり、一切言葉を話さず、逆にこちらの会話を逐一観察している不気味さに、俺は奴が無人機ではないかとアタリを付けていた。

 

 だがそんな敵に何かがぶつかったような音がしたと思えば、突然赤い光を放ちながら激しく痙攣しだし、その濃い灰色に塗られた装甲は多くの部分が血の色に良く似た赤色に変化してしまった。

 

 暫くして痙攣の止まった不明ISは、自身の調子を確かめるように肩を回してみたり、手を握ったり開いたりしている。先程までの無機質さとはかけ離れた、人間味のある動きだ。そう思って見ていると、鈴が俺の横にやってきて話かけてくる。

 

「何? アイツ一体どうしたのよ。突然色が変わったりして……」

「さあな、さっぱり分からねえ……ロクでもない事だってのは分かるけど」

「一夏、気をつけて。もしかしたらアイツ、一次移行(ファースト・シフト)か何かを起こしたのかもしれない」

 

 マジかよ……と零して、再び目の前の敵の姿を見定めようとすると、そいつはまるで気安い友人に挨拶するかのようにこちらに手を振って来た。

 

『よぉ……初めましてだな、イチカ・オリムラ。それと中国代表候補生、ファン・リンイン』

 

 渋さを感じさせる、壮年の男の声だった。驚く俺達に、そいつは朗らかに話しかけてくる。だがその声には隠しきれない悪意が滲み出ていて、俺達は体を強張らせた。

 

『そう怖い顔をするなよ……。俺はこの木偶人形を止めてやったんだ、話くらい聞いたらどうだ?』

 

 そいつはやれやれ、と言った具合に肩を――正直首と一体化していてよく分からないが――竦めて、呆れたように溜息をつく。敵意は感じない。だが俺の体は確かな恐怖を感じている。それが、雪片を握る力を一層強くした。

 

「何者よ、アンタ」

『俺か? そうだな…………<ブラッド>、とでも名乗っておくか』

 

 鈴が聞いてみると、そのISを操作している奴はあからさまな偽名を名乗って来た。<ブラッド>。血。正に目の前のISが纏っているカラーリングそのままだ。明かされたことは何もない。だが、今のやり取りで一つだけ分かった事がある。

 

 ――――目の前の存在は、根本的に信用には値しない。

 

「お前、その声……男なのか?」

『おいおい冗談だろ? 今の時代、声を変えるのがどれだけ容易い事だと思ってる? 顔も見えない、そもそも目の前にもいないって言うのに、相手の素性がどんなもんか、考えるだけ無駄だと思うがね』

 

 俺が一つ質問して見れば、目の前の相手は再び呆れて、その疑問の愚かさを指摘してくる。だが俺が本当に知りたかったのはそこじゃない。奴の語り口から、俺の考えていた可能性が正しいかどうか、それがハッキリと確定した。

 

「やっぱり無人機なんだな、そいつは」

『ほう?』

 

 俺の発言に、やや驚いたように身じろぎする眼前のIS。少し考えるような仕草をした後、奴は異形の手の平同士を打ち鳴らし、不格好な拍手をして見せた。

 

『良く分かったな。それともカマを掛けたか? やるじゃねえの! ISは無人では動かせないってのが常識なのに』

「生身の人間とはよくやり合っててね、何となくそういうのは分かるんだよ」

 

 その俺の言葉に心底納得したように目の前の奴が頷く。そして、絶え間なく手足をブラブラと動かしていたのを止めて、改めてこちらに向き直った。

 

『ま、この機体がどういう理屈で動いてるのかは俺も知らん。それはこいつを送り込んで、このクラス対抗戦を滅茶苦茶にした首謀者にでも聞くんだな』

「アンタがこの襲撃を考えたんじゃないの!?」

『俺はただの便乗犯さ。この機体を奪い取ってやったのは、そいつへの当てつけも含まれてる。世界に類を見ない無人ISを開発できる奴なんて、そういないと思うけどな』

 

 鈴の言葉に、言外にこの騒動の首謀者の情報を示唆(しさ)した奴が、ゆっくりと、見せつけるように両手を俺達に向けて掲げてゆく。

 

『ま、これ以上語る必要はないな。始めようぜ。…………何をかって? 俺はこいつを送りつけてきた奴とは別口だが、何をしに来たかは大して変わらん……本当は、このクラス対抗戦を眺めてるだけでよかったんだが……こいつの送り主を恨めよ。それじゃ』

 

 奴の全身のスラスターに光が点る。ロック警告。俺達はそれぞれの近接武器を握りしめて身構える。

 

『死にたくなければ、死ぬ気で頑張って見せる事だな!』

 

 言って奴は、両手のビーム砲を無造作に俺達へと撃ち放った。

 

 





あのガーディアンとの融合、
割と好きなのに一回しか使われなかったんですよね。
詳しい設定が知りたい……。

ゴーレム無人機でよかった。
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