博麗捕物帖   作:虹ウォズ

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終 七つまでは神の内

 

 

「わかったって、それは本当か」

 

 博麗の告げた「謎が解けた」という言葉に鳥里が早速噛み付いた。今まで難航していた謎が急に解けたというのだから驚くのも当然で、博麗に詰め寄った。その博麗はソレに対して手で鳥里を落ち着かせるような仕草をし、鳥里は渋々といった様子で僅かに乗り出していた身を引く。

 東風谷がそんな鳥里の代わりに冷静に博麗に改めて尋ねた。

 

「霊夢さん、アナタ今謎は全て解けたと云いましたね。教えてもらえませんか? 犯人とその犯人がどうやって神社から小銭を盗み出したのかについて」

 

 東風谷の真剣みを帯びた視線を前に、博麗は同じように視線を東風谷へ送り答えた。

 

「勿論。でも、そうね。一方的に私が話すだけでは君の蛙程度の頭では足りないだろうから一緒に順を追って答えを出してみよう。問題になる問題は5つ。『なぜ犯人はお金を少量盗んだか?』『犯人がなぜ条件に拘らなかったか?』『犯人はどうやって出入りしたか?』『犯人はその際、どこにお金を隠し持っていたか?』が解ければ下手人はほぼ絞り込める。

 ではまず、『犯人はなぜ小銭を一部しか持って行かなかったか?』という疑問からこの謎を切り崩していこうか。わかるかしら?」

 

「ソレについてはさっき霊夢さんがおっしゃった通り、犯人が小銭を持ち出した時に余りにも多いと他の一緒に作業する人間にバレてしまう可能性があったためです。またソレには、犯人は作業中の人間ですから、動いた時に小銭同士が当たった時の金属の音を無くす理由があった」

 

 東風谷は自身の胸元で右手の親指の腹と人差し指の第一関節と第二関節の間の側面を擦りながら返答した。

 東風谷の回答に博麗はウンウンとわざとらしく満足そうに頷いてみせた。どうやら、さっきの前提は間違いではないようだ。

 

「では次の質問ね。『犯人はなぜそんな条件の悪いときにでも犯行を決行したのだろうか? つまり、犯行に際して自身に都合の善し悪しを度外視した理由はなんだろうか?』と聞くわ」

 

「行き当たりばったりで、衝動的な、その日に考え出された犯行計画に則っていたからではないでしょうか?」

 

 東風谷の言葉に博麗は「さっきまでの話ではね」と答え続けた。

 

「事情が変わった。これらの仮定には重大な間違いがあった。と云うかほとんど間違いだったのよ。

 まず、最初の疑問である『なぜ犯人は小銭を一部しか持って行かなかったか?』について。コレの理由は、他の人間に小銭の存在を悟らせないようにするためという部分は合っていた。しかし、作業中の人間にではなく神社内にいる人間が真の対象だったのよ。

 扨、次に『なぜ犯人が条件に拘らず犯行を犯したのか?』という点。コレは、下手人が元からそれだけしか狙っていなかったからという理由と、下手人がほぼ無人の神社内という絶好の空き巣行動が出来る場所に出入りすることが今回くらいしかなかったとしたらという理由がある。つまり、条件が悪いの基準が私たちと下手人では違っていたのよ」

 

 コレで犯人が『なぜ一部しか小銭を持って行かなかったのか?』『そしてその悪条件を承知で犯行を犯したのか?』が一応の説明が再び定義された。

 これで残りの問題になるのは、博麗の小銭を少ししか盗まなかった理由における『その犯行を悟らせないための対象について』と『犯人がどうやって侵入したのか』『どうやって神社から盗み出した小銭共々消えたのか他肝心の犯行方法(東風谷に尋ねた忘れ物のこと)』『そして犯人のこと』だ。

 

「夢、たしか君は今しがた東風谷さんに神社にある忘れ物について云っていたね。アレは一体どういう意味があったんだ?」

 

「その前にまず、『犯行を悟らせないようにする対象』についてよ。アレにはある前提が必要になる。これは三つ目の問題である『どうやって犯人は神社に侵入したのか?』にもそのまゝ繋がる。ソレの答えはズバリ、下手人は侵入したのではなく初めから神社の中にいたんだ。そして、同時にソレは下手人が小銭を盗んだ後に神社の外に出ていないことを示している」

 

「神社に最初から居た人物? あゝ、そういえば東風谷さんがさっき何人か準備中に居たと云っていたな」

 

 その中の人数で考えるなら、常時在中の人間は外に比べれば圧倒的に少ない。かなり容疑者が絞れたなと鳥里が考えたのも束の間。博麗は鳥里の考えをバッサリと切り捨てた。

 

「いゝや、その人たちではないわ。いゝ?小銭を盗んだ下手人は神社の中に預けられていた子供たちの内の誰かよ。東風谷の話では確か準備期間中にずっと預けられていたという子供もいるらしいね。と云うことは、その子供たちが、大人たちが目を離した時にその小銭の包がある場所を探し当てた。そして、大人たちがその包がある部屋から退出し人目が無くなる時間帯を考慮していたとしたら、子供下手人説に辻褄が合う」

 

 博麗の犯人の特定の方向性に鳥里も東風谷も絶句するしかなかった。確かに子供が犯人だとすれば、外から入るとき、外に出るときに工夫を凝らす必要が無くなる。そして、小銭だけで盗む量が事足りる点、犯人がなかなか空き巣で考えるところの条件に見合っていない神社という場所を選んだ理由も、子供ならばで考えるなら問題の解答にピッタリ重なる。

 東風谷がおそるおそる尋ねた。

 

「じゃあ、忘れ物が小さな小銭入れ用の財布だったのも、その犯人が子供であるところに関係しているのですか?」

 

「その問の正確な議題は「犯行を悟らせないようにする対象」と「犯人はどうやってお金を持ち出したか?」とで直結する。あの財布は早苗、アナタを騙すための小細工なの。真に騙す対象がそのこと。下手人はそんな計画に乗っ取ってその財布に小銭を移したのよ。つまりソコこそが盗まれた小銭の隠し場所になる。なぜなら、普通他人の財布なんて開けて覗かないし、たとえ覗いたとしてもその中の小銭が真逆盗まれた小銭だとは考えつかないでしょう? 財布に小銭が入っていてもおかしくないし、その財布に入ったお金をその財布の持ち主のモノだと考えるのは当然。つまりはその心理を利用した犯行だったと云うだけのことよ。なんだっけ、稗田の小説で読んだ…心理トリック?だったかな?」

 

 博麗が正直どうでもいゝことで首を捻っている間に、東風谷は彼女の説明もとい推理を聞いて脱力したように宙を仰いだ。「やられた」と云う彼女の心情を表すには十分な動作だ。

 東風谷は自身の髪をくしゃりと手でかくとつぶやくように話しだした。

 

「…だから、家中を探しても小銭が出てこないわけだわ。でも、なんで犯人はその財布を神社に落としたのかしら? だって財布に入っちゃえば関係ないのだから、そのまゝ懐にしまってお母さんと一緒に帰ればいゝのに」

 

「家で留守番ではなく預けられる程の年齢の子供が祭りの準備で連れられて来ただけで、買い物でも無いのに、なぜ財布を持ち歩く必要があるの? 確かにその財布は母親のモノとも考えられる。祭りの準備が終わった後に買い物に行くとかあるわ。だけれど、そんな小さな子供に大切なお金を渡すかしら? 渡さないでしょう。つまりね、財布を落としたのは犯人が家に帰った時母親に財布を持っていった理由を咎められ、ソコから犯行が露天するコトを回避しようとしたから。するとこの小銭の盗難に第三者、親の関与は認められない。これに関しては運が良かった。これのおかげで安楽椅子推理が出来た」

 

「あの時の「お母さんの財布なんですが、どこかで拾いませんでしたか?」と云うあの子の問にはそんな裏があったのね」

 

 東風谷は手を額に当てゝ目を閉じた。まるで飛車角落ちの将棋で想定外にも敗退したような表情だった。

 扨、こうして博麗によって今回の事件の謎がひとまず暴かれた。しかし、忘れていることがある。博麗の推理は辻褄が合う。しかし、ソレだけで肝心のその子供がやったという証拠にはならないし、もしかしたら別の解が存在する可能性だってあるのだ。鳥里にはソレが気がかりだった。

 

「なぁ、夢。確かに君の推理は真実を云い当てゝいる可能性が高いのはわかったよ。だけれど、大したコトをしていない僕が云うのもなんだが、君の推理は結局仮説止まりだし、財布だって状況証拠みたいなモノじゃないか。コレで本人に今の推理を伝えたってはぐらかされるに決まってる。どうやって下手人に犯行を認めさせるんだ?」

 

 鳥里の言葉に博麗は、意地の悪そうな笑みを浮かべて返した。そう、いつもの人を心底莫迦にしている憎たらしい顔だ。

 

「大丈夫、ソレについてはピッタリのヤツがいる。心底ウザったいヤツだが単純で使える」

 

「云っちゃあ悪いけど、そんな都合のいゝ人いるのか?」

 

 博麗は愚問と云わんばかりな笑みを浮かべ、立ち上がりつゝ答える。

 

「いるさ、とびっきりおっかない石頭がね。さ、アンタたちも支度なさい。行き先は地獄の入口だ」

 

 

         *

 

 

 博麗たちがやってきたのは三途の川の此岸側だった。辺は霧に覆われ、地面は恰度手に収まる大きさの小石数多が敷き詰められるようにと云うより、無造作に散らばって埋め尽くされている。

 そんなある種不気味な空間で、博麗は迷わず川の水がすぐ目の前にあるほど近づいて、ソレに沿ってしばらく歩く。やがて博麗たちの耳に水流とは別の音が入る。女性の歌声だった。

 博麗は右手を頬に当てゝ辺りを見渡しながら声を上げた。

 

「やい、死神歌人。私が来てやったぞ。辞世の句の新作の調子はどうだい?」

 

「和歌集に名を乗せた覚えはないよ。混同しないでちょうだい」

 

 博麗の言葉の返答は思いの他すぐ来た。霧の向こう側から反響して耳に届いた。それと同時にその本人の姿が博麗たちの目にハッキリと入るほど接近してきた。

 持ち主よりも大きな鎌を持ち、着物にスカートを合体させたようなゆったりした服装をしている。そして彼岸花と同じ色をした、髪を頭部の両側面で括って垂らしている髪型が特徴的な少女だった。小野塚小町、ソレが死神の一人である彼女の固有名詞だ。

 彼女の表情を見れば苦笑いを浮かべており、博麗の到来を迷惑がっているコトが直ぐにわかる。博麗はそんな死神の言葉を無視していつものように一方的に話を進めだした。やはり鳥里も東風谷も完全に置いていかれてしまう。

 

「小野塚、至急あのクソ生意気な閻魔サマを呼んでほしい」

 

「私にそんな権限があると思う? あの上司を顎で使えるなら今頃私はこんなところで船頭なんてやっちゃいないね」

 

「船の舵はきれるでしょう? 難儀で堅物な上司の舵取りも仕事の内よ。早くしなさい、二度目はないわ」

 

「‥私は関係ないからね」

 

「わかったって。ちゃんと後で口添えしてあげるからさ」

 

 小野塚は渋渋嫌嫌明後日の方向を向くと頭を指の腹で優しく掻いた。そして振り返って顔を自身を真剣に見つめる博麗に向けて承諾の返事をした。それには、これ以上やゝこしい事態になってしまう前に博麗の云うコトを聞いておいたほうがいゝと判断したのだろう。

 扨、あれから小野塚の尽力のおかげで閻魔サマとやらが博麗たちの前に姿を現した。

 彼女は蓮の葉のような色の髪を肩のあたりで切り揃えている。頭には冠をかぶり、両手でシャクを持っている。まさに、我々が閻魔と聞いて想像するような装飾を身につけていた。

 四季映姫と云うその少女は、眉間にシワを寄せてさっそく博麗と小野塚を睨みつけていた。ソレに対する反応はそれぞれで、小野塚は申し訳なさそうに四季からやはり顔を背け、博麗は逆に真正面から四季に向けてとびっきりの笑顔を向けた。

 

「私をわざわざ呼び出して何の用……?」

 

「いやね、君に仕事を頼みたいの。裁判官だか裁判長だったか、まぁ、審判らしい立派な仕事よ。お駄賃はコンニャクでよかったかな?」

 

「アナタが以前、閻魔帳のアナタのページを破り捨てたコトを私はまだ忘れていませんよ。ソレでよく私に顔をだせました。たいへん結構。帰れ。二度と地獄に、いやあの世に来るな」

 

 四季はどうも博麗を嫌っているらしい。博麗はいつの間にか地獄でもやんちゃしていたのかと鳥里は本来の目的も忘れて戦慄した。

 博麗は閻魔の表情をした四季に手で払われるが、彼女は相変わらずの態度で四季を煽るように何か云い出した。

 

「真逆あの! 閻魔様が他人を個人的感情で人を毛嫌いするなんてことがあるなんてショックだわ。それに、あの! 閻魔様が罪を犯してしまった子供を無視して、「私、職務を遂行しています」みたいな顔を平気でしてるなんて、あの世も末ね」

 

「あゝもう、わかったわ、わかったわよ。早く話して。と云うかそういうコトは先に話してちょうだい」

 

 そうして、会ってから終始不機嫌な四季に事件の概要と博麗の推理を話し、同時に犯人を指し示す確定的な証拠がないことを述べた。

 四季は博麗の言葉にある犯人が子供と云う単語を聞いて、少し思うところがあったのか最終的にも仕事の承諾をしてくれた。

 

 

         *

 

 

 そうして一行は東風谷の案内でその犯人と思わしき子供の住む家へと向った。

 東風谷が今回は先行して家の人の反応を伺う。中から子供の母親と思わしき女性の返事が聞こえ、戸が開けられた。現れたのはまだ若い女性で、訪問者の顔ぶれをみて驚いているようだ。

 博麗が話辛そうな東風谷をやんわりと押しのけて云う。

 

「すみません。ちょっとお宅のお子さんに用がありましてね。今は在宅ですか?」

 

「は、はい。……あの、ウチの息子に何の御用で?」

 

「あゝ、ソレは1度家の中で息子さんもまじえてお話させていただきたい内容なのですが構いませんか?」

 

 母親はオドオドとしてコチラを疑うような視線を送っていたが、それも一瞬で博麗の提案に承諾した。

 そして、部屋に通され、卓越しに親子と東風谷と四季が並んで座り、後ろに博麗と鳥里が座った。

 嫌な沈黙の中、口火を切ったのは東風谷だった。東風谷は今回の事件のコト、博麗の推理のコトを話した。当然、東風谷の話を聞いた母親は激昂し、ヒステリックに東風谷たちを非難する。

 

「ウチの息子がそんな物盗りのような汚いコトはしません!! 大体、何の証拠があって息子が犯人だなんておっしゃるんですか!?」

 

「ソレを得るためにココへ来たんですよ」

 

 母親の態度に焦ってオドオドしている今の東風谷ではダメだと思った博麗は、家に入ってから初めて口を開いた。そして、博麗の言葉を不可解だと表す表情をした母親をよそに、そのまゝ立ち上がると四季の隣に立ち、彼女を軽く指差して口を開いた。

 

「こちらのお嬢さんは閻魔でしてね、人の嘘を見抜く力がありまして、彼女にお宅のお子さんが果たして黒か白か判断してもらおうというのです。あゝ、怯えなくても良いです。彼女は以前から人里に来ているのと同じように今回の仕事を受けてくれました。粗相をした程度でアナタの死後の処遇が変化するコトはありません。───ただ、息子さんはどうでしょうか?」

 

 眼前の少女が閻魔であると云う事実に母親は、肩を揺らして四季を恐ろしそうに見る。しかし、母親としての矜持と云うべきか、彼女は自身の息子を抱き寄せると上から包み込むように四季たちからまるで守るような姿勢をとった。そして、彼女は博麗になけなしの精一杯の敵意を込める。これではどちらが悪者かわからないなと鳥里は心の中で思った。

 

「‥‥どういう意味ですか?」

 

「物盗りは重罪です。もしお子さんが犯人の場合、このま現世で罪を償わなければ死後、地獄でも数段階ひどい地獄に落とされるでしょう。そうよね、四季?」

 

「えゝ。生前の行いはしっかりと全てわかります。物取りの場合は確実に地獄行きですね。現世で償いや罰を果たせなかった分を地獄で償ってもらいます(実際にそんな決まりはあるか調べていないので、信用しないように)」

 

 2人は息を吐くように嘘を並べている。ちなみに閻魔が嘘を云うことに果たして問題はないのかはこの際考えないようにしよう。

 鳥里が母親に包まれた子供を見れば、震えており自身の母親に身体を一生懸命ひっついている。対して母親はその博麗たちの嘘を信じたのか揺れ動いていた。

 四季がもうひと押しと続ける。その言葉は完全に脅しだった。

 

「息子さんの未来を考えるとしたのならば、果たしてどちらが懸命な判断か考えて見てください」

 

 四季の見るものを凍傷にしそうな目線と共に吐かれた脅し、ではなく説得に母親は目を伏せ、しばらく考えた後に承諾した。

 母親は子供の抱擁を解いて、四季の正面になるように再度座らせる。子供は相変わらず俯いて四季とは顔を合わせようとしない。四季は小さくため息をついて子供へ尋問を開始した。と云っても一言二言程度だ。ただ「犯行を行ったか行っていないか」と云う問いだけで彼女は、子供を査定した。心理検査法みたいだなと鳥里はどうでもいゝことを思い始めた。

 四季は目を細めると、博麗を手を招き猫の手のようにするコトで彼女を呼んで結果を伝えた。

 博麗はソレを聞くと直ぐに得意げな嬉しそうな表情になって東風谷、鳥里を順に見た。どうやらアタリを引いたらしい。次に博麗は翻って母親を同じ表情で見た。母親は博麗の表情で全てを悟ったのか絶望しきった顔をしている。

 

「どうやらアナタのお子さんは盗みを働いたようです」

 

「ほ、本当なの!?」

 

 母親は自身の息子の両肩を掴んで激しく揺さぶった。子供はこの味方のいなくなった状況で、もはや観念したように初めて口を開いて犯行の事情を話しだした。

 

「……僕がやった。だってお母さん、いつも大変そうだったから何かあげたくて……。でも、お金、足りなくて……だから」

 

 小さかった声は言葉が続くほどか細くなっていく。終いには泣きながら自身の罪を告白する子供に、博麗は冷淡に子供の言葉に自身の言葉を被せた。

 

「親孝行は素敵なことね。けどそれが人に迷惑かけたものだとしたら、素直に褒められないわ。感謝を渡すなら最初から最後まで自分で正当に得た物でないとね」

 

「ごめんなさい」

 

「謝る相手は私じゃないよ」

 

 再度子供は、改めて東風谷に頭を下げて同時に謝罪の言葉を並べた。東風谷はコレに対して注意を軽く述べたあとに、その子供を許した。博麗と四季と比べて彼女は性格がよかった。

 博麗たちは何度も母親に謝られながら、彼女らの家をあとにした。

 辺はすっかり夕焼けの影響で淡く輝いている。四季は博麗一行と直ぐに別れ姿を消した。博麗と東風谷、鳥里の三人が横並びで途中まで背を日に照らされながら人里の大通りを進む。東風谷が返してもらったお金を入れた財布入れを大切そうに手で抑えながら云った。

 

「今日はありがとうございました。おかげで思っていたより早く問題は解決するコトができてよかった」

 

「大いに感謝なさい。約束通り美味しい食事をご馳走なさいな。期日は今月中だからね。また連絡する」

 

「はい、わかりました。では、本当にありがとうございました」

 

 東風谷はそう云うと浮遊し、空の色を背景に一枚の絵のようになる。そして、こちらに顔を向けて叫んだ。

 

「でも、感謝はしていますけれど、あの手法は正直云って引きましたよ。ドン引きだわ」

 

 そう最後に云い残して東風谷はまるでステップを踏むかのように浮遊して帰っていった。

 残りは必然的に博麗と鳥里だけになり、そのまゝ雑談をしながら歩き、やがていつもの見慣れた博麗神社への階段を登っていく。

 鳥里は話の流れで、ちょっと博麗をからかうつもりで今日の事件になぜ乗り気だったのか尋ねてみることにした。

 

「夢が東風谷さんに協力的だったのには一体どんな思惑があったんだ?」

 

「思惑? 別に、早苗には最近ちょっかい出されてウンザリしていたの。それに実はね、今日予定してたどうしても食べたかった夕飯の材料が買えなくて献立を変えざるを得なかったから、早苗にはそれを作ってもらいましょうってね」

 

「なるほど。でも見返りが1度っきりの食事で本当によかったの?」

 

「折角送りつけた塩だ。上手く使ってもらわないとね」

 

「上手いこと言ったつもりか」

 

「アッハハ」

 

 

〈了〉




《あとがき》
三作目。
短編の中の短編。
この話の笑いどころは、探偵役が「小さな子供に金は持たせない」と言っているのに、犯人たる子供が歳不相応に知恵を働かせている点。

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