鳥里と博麗は神社に戻り居間にて湯呑の底ぶちを転がしている最中だ。
帰り道に会話はなかった。鳥里が何を聞いても博麗はだんまりをして、いつもの無茶苦茶な言動もそれに伴って鳴りを潜めていたのだ。鳥里はそんな奇妙などこか居心地の悪い空気に遂に耐えられなくなって博麗に再び声をかける。
「なぁ、夢。そろそろ無視はつらいぞ」
鳥里は少し困ったように博麗に抗議をした。鳥里の言葉が博麗にしっかり届いたのか博麗は自身の世界を抜け出したような合図を眼球を動かすことで示した様に見えた。
「無視?なにを云っているの、鳥。私、ただ考えごとをしていただけよ」
ようやく博麗は小難しい顔を改め、柔らかい表情を鳥里へ向けた。それに鳥里は内心安堵して続きをいつもの調子で話し出す。
「で、その、考えて何かわかったのか?」
「問題は果たして妖怪なのか人間の仕業なのか?ソレを考えていた」
博麗は彼方の方向を見ながらボーッとした様子で呟いた。昔から何も考えていないようで結局事件を解決して来たから、今回の件ももう検討どころか全容が見えているものかと考えたのだが、どうやらその考えは外れたようだ。
鳥里がそんな事を考えている中、博麗が鳥里に再び顔を向けた。
「鳥は?なにかないの?私に聞いてばかりいないで意見を聞かせてほしい」
「そうだなぁ。第一何が分からないんだ?犯人は火車なんだろう?」
「違うわ。素直に稗田の云う通り犯人は火車だと考えた場合、オカシな点が出てくる。つまり、『家を鳴らす』意味がわからないと云っているの」
家を鳴らす。確かに奥方は葬儀の始まりの辺りにガタガタと音がしたと云っていた。だが、それの何に悩む必要があるのかわからない。普通に考えるなら、火車が侵入した音であるだろうに。
そんな鳥里の疑問に答えるかのように、博麗が云う。
「鳴屋は死体なんか盗まない。亦、他のあり得る理由を除外しても火車が家を鳴らす理由がない。稗田の戯言を信じてもそんな事書いた本なんてなかった。今、鳥は火車が侵入した音だなんて考えているだろうけどね、態態犯人が部屋に響いて、奥さんの記憶に残る程の音を立てるだろうか?更に云うなら、火車は気づかない内に死体を盗むのだから、宣言と云う意味で音を響かせると云う意味合いで異音を解釈することはおかしいと云える」
つまり今迄伝えられて来た妖怪というのは今回のような変則的な行動を起こしていなかった。しかし今そこで差異が生まれている。そして、その行動が別の妖怪と合致していた場合、そちらについても考慮する必要がある訳だから、犯人像は段々と不明瞭になってくると云うわけであった。
「じゃあ、どうする?対策が取れなきゃ、また盗られるかもしれない」
連続犯行かどうかは定かではないが、可能性がないとは云えない。盗まれてしまう可能性が、低いか高いかで云えば、高い。
博麗は鳥里の問いに悩むようなしぐさをしてから、おもむろに顔を上げた。
「鳥。明日は普通に葬儀に出席しましょう」
「え、それはどういう?」
云いかけて彼女の言葉の意味がわかった。情報不足のため、犯行サンプルを得に行くと云うことだろう。それは理解できる。ただ気になることは、犯行を見逃すということか。それは、なんだか違和感がある。
「もしかして犯行を黙って見てろってこと?」
「そう。今のままでは解決迄行けない。なら今回でより多くの情報を集めるしかない。…なぁに、後で全部取り返せばいゝのよ」
博麗はそう少し罪悪感を持つ表情で云い終わるとさっさと居間を後にした。鳥里は不安そうに、ただ博麗の出て行った襖を見つめるしかなかった。
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翌日、博麗と鳥里は二人目の葬儀に出席する為に式場へと足を運んだ。
式場となる建物は木造で、床下が存在するため、建物内の地面の位置が地表より高い。
葬儀会場には、この人物が生前から近所づき合いや横の関係がそれなりに広く深いこと(後で聞いた)も相まって多くの人が出席していた。
博麗は葬式にも関わらず、いつも白と紅を基調とした巫女服に身を包んでいる。対して鳥里はしっかり喪服を着ているが、どことなく似合ってない。
博麗と鳥里は受け付けを済ませると早速、式会場内に入っていき、鳥里に顔を向けることなく告げた。
「鳥、離れないで。ついてなさい」
博麗はそう云って迷わず建物内を進むと、壇のある会場ではなく別の方角へ向かって行き、とある部屋の襖の前で立ち止まった。
「聖、私よ。開けるぞ」
博麗は返答も待たずに襖を勢いよく開けた。木の擦れる音が一帯に響き、部屋の内部が露わになる。部屋は控え室そのまゝで全体的に狭い印象を与える和室だ。中には法衣を纏った長髪の端正な顔立ちの少女が正座で沈黙していた。今は博麗を忌々しそうに目だけで睨んでいる。
「返事を言う前に開けては駄目でしょう」
「私は他人を待たすことは好きだけど、自分が待つのは大嫌いなのよ。私が今開けると決めたのだから今開けるの」
そう云ってから博麗はズカズカと部屋に入って僧侶の正面に座した。鳥里は頭を一度下げて入室し、襖を閉めて博麗の斜め後ろに座った。
博麗と鳥里が座ることを確認してから、少女が博麗に話しかける。
「せっかちですね。事を性急に運ぼうとすると失敗することは世の常ですよ。貴女は大体、それ以前に傍若無人がすぎます」
「説教は聞き飽きた。巫女に説法だ。意味がない」
「私もそう感じてます。まさに巫女の耳に念仏ですよ。それに、猫に小判、豚に真珠。他にも云い方はありますが、なんと全部アナタにピッタリの言葉になる」
僧侶は淡々と博麗に嫌味を言う。真顔でそれを云うものだから、なんだか威圧感というか、本気で云っているのだろうことが伺える。いや、鳥里の見立てでは本気で嫌味を云っているのだと感じる。
「私は猫でも豚でもないわ」
「‥それで?礼儀もロクに知らない餓鬼が何のようですか?」
少女は博麗にこの手の嫌味が通じない事は承知しているようで、博麗の冗談を無視して事の仔細を尋ねた。博麗と少女は旧知の仲とかそう云った関係なのだろうか。
「猫よ。猫の妖怪がでたの。手癖の悪い奴で、かつ逃げ足の速い。他の者では対処しきれないと云うことで私が出張ってきた」
法衣に身を包んだ少女は博麗を目にチカラを入れた状態で見た後、鳥里を見ると再び博麗に視線を戻して口を開いた。
「そちらの方は?」
「コレ?コレはね、鳥里と云う私の助手よ。職業は絵師。それはそれは絵が上手くて私の部屋にも一枚飾ってある。断っておくけど仏画とか曼荼羅は描かないから。期待しても描かせてやらない」
少女は博麗を無視して「はじめまして、聖白蓮です」などと形式的に云って鳥里に向かって会釈した。鳥里も彼女に習って会釈する。
鳥里はこゝで昨日あの奥方が『聖様』と云っていたことを思い出した。聖と云う僧侶とはこの少女のことだったかと合点。
そうしている内に聖は博麗に投げやりに言葉を放っていた。
「それで、猫の妖怪ですか。お前が云うにはそれがココに現れると云うことですが」
「そうよ。死体を掻っ攫う化け猫。聖も一度は会ったことがない?ほら、Montgomeryの小説に出てくるAnneみたいな見た目の女」
「あぁ、あの娘…火車ね。で、私に何をしてほしいのかしら?」
聖は何とさっさと博麗の言葉内から今問題になっている妖怪をピタリと云い当てた。これに鳥里は僧侶は妖怪に詳しいのかと驚いた。もしかしたら博麗と同じ様に妖怪退治も可能なのかもしれない。
「いや、ただ今回は挨拶に来ただけ。突然私が現れてうろちょろしてるとイライラするでしょう?」
「貴様にそんな気遣いができるとは、見直しましたよ」
「あゝ、そう。じゃあ、そろそろ行こうかな」
博麗は肩をすくめると立ち上がり、襖を開けようとして立ち止まると、振り返って聖に視線を向けて口を開いた。
「そうだ。やっぱさっきのなし。聖、アンタには少し頼みがある」
「…一応伺います」
「そう。じゃあ棺をずっと見ていて」
「無理ですよ」
聖はその頼みに直ぐに拒否を示した。普通に考えるなら仕事で来ている彼女の立場からしたら、仕事に集中したいのだろうから、当然の回答だとも云える。しかし、そこで引き下がる博麗ではない。
「なんで?」
「私は仕事でこゝに来ている訳ですし、アナタに通す義理はないのですから」
「アンタはコトの重大さがわかっていないんだ。死体が盗まれる以上に大切なことがある?私には思いつかない。大体アンタは死体のない棺に向かって経を唱えるの?あまりにも間抜けすぎる。こゝに漫才でもやりに来たの?陰摩羅鬼も困惑するわ」
「仕方がないでしょう。火車が死体を盗みに来るかもしれないからなんて、事の発生としては可能性の話にすぎません。可能性ではなく確実性での話ならまだ考えてあげなくもないですが。それに私は読経を怠けるわけにはいかないのですよ。それこそ、私にも貴様にも迷惑でしかない」
博麗が僧侶との問答にいゝ加減嫌気が差したのか、身体をワザとらしく小刻みに震えさせる。そして、小莫迦にするように聖を揖斐り始めた。
「1つ云えば文句ばかり垂れる口ね。化石になってる間に脳機能に異常でも出たんじゃないの?漫才会場の前に医者を紹介しようか?」
「しつこい。大体、アナタが見てればいゝでしょう?それこそ専門の本職なんですから」
云い合いは続く。先ほどからの会話から喧嘩するほどなんとやらの仲かと思ったが、本当に相性が悪いみたいだ。聖も額に青筋を立てゝいる。
普通、こゝまで断られたのなら諦めるものだと鳥里は思うが、博麗は全く諦める素振りがない。
「巫女が経を唱える坊主の横に突っ立ってるって云うの?宛然、日本の宗教観の縮図みたいな葬儀ね。滑稽にも程があるっての」
こゝで聖に変化が現れた。恐らく博麗の今云った葬儀の様子を想像した影響か、苦い顔を一瞬した。
「もう‥わかりました。可能な限り努力します。ただし、こちらの仕事が優先ですからね。成果はあまり期待しないでください」
聖が遂に折れ、こうして協力者を無理やり獲得した。
彼女に対しては失礼な話しだが、思えば今この場において彼女ほど見張り役として適任な人いないだろう。なぜなら、誰よりも遺体の直ぐ側にいるのだから。
扨、博麗は遂に目的を達成したからか満足気な顔を見せた。
「恩に着るよ」
「歯に衣を着せてくださいよ」
博麗は聖の思わぬ返しに一瞬、固まったが直ぐに笑みを浮かべた。
「言葉を撤回するわ。芸人には絶望的に向いていないようだから、どうかずっとそのまゝのアンタでいて欲しいものね」
「云われずとも、職を変える気は毛頭ありません」
二人は静かになった。話は区切りがついたようで、口喧嘩に鳥里は稍稍ウンザリしていたが、やっとその憂鬱な空気から解放されると少し背筋を伸ばした。
そんな時、部屋の外から床を激しく叩くような音が近づいてきて、襖の向こう側から男の声が聞こえてきた。男の声は動揺しており只事ではないのは明白だ。
「あ、あの!今宜しいでしょうか!?」
「なんです?何か問題がありましたか?」
聖も不穏な空気を感じてか、眉を寄せて男の返事を待つ。男は少し間を開けてから、息を切らせつゝこう叫んだ。
「それが遺体が‥遺体が消えてしまったんです!!」
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今回の葬儀における遺体が消えたという知らせを聞いた三人は、あれから男と供に急ぎ足で祭壇のある部屋に入室した。
大きな祭壇の元には木製の簡素な棺があり、死体が寝かされた際、顔部分にあたる位置に恰度一致するようにある、小さい蓋が開けられていた。一見異常のない状況だ。とくに場が荒れているわけでもない。また、博麗らが棺に近づいた際に、棺の置いてある場所に恐らく棺の置く位置指定の印が棺の角に合わせて計4つ、黄色の線で描かれていた。
博麗、聖、鳥里の三人は博麗を中心に棺を囲む。博麗が蹲んで、まず棺にある小さな蓋から中を覗き込んだ。
「確かに無くなってる」
鳥里と聖も顔を棺の中に向ける。博麗の云うように死人の顔はなかった。棺の底にひかれた、僅かにシワの付いた布が見えるだけだ。
「とりあえず開けてみましょう」
博麗が云った。
棺全体の蓋を博麗と鳥里とで開いて棺の全体的な内部が明らかになる。中に死体はない。
三人で棺の中の入れ物を除いて、内部を博麗が棺内に頭を突っ込む勢いで細く見る。鳥里は俯瞰で見ていたが、特に異常という異常は見当たらなかった。無難な木材で組み上げられた棺だ。汚れらしい汚れも見当たらない。ただ少しほこり臭い、古臭いように感じる。
博麗は棺の中から顔を上げて首を横に振った。そして振り返って鳥里と聖の後ろに立って位置する先程の男に声をかける。
「君、この棺から目を離したりは?」
博麗が一際大きな声で尋ねた。男は突然矛先が向いて身体を一度大きく揺らした。
「は、はい。その、祭壇に棺を他に二名と、こゝへ運びました。それでぇ、皆揃って他の支度に行きました。まだその時、皆様のこの部屋への入場はしていませんでしたから、我々と他の臨時の手伝いだけです。それで流石に無人なのはマズイと思い、矢張、こゝには現在、多くの方がいらっしゃいますから。今回は特に。で、それに急いでいたものですから、そこに一人で居た手伝いの人に頼みました」
「不用心ね。まぁ、田舎なら仕方ないことだけど。で、そいつは、誰?」
「さぁ、そこまでは。なにせ臨時ですから顔合わせは一度のみですし、臨時を雇うほど忙しいですから、よく顔を見ていなかったものでして」
「‥性別、身なり、推定年齢、特徴。思いだせるだけ全て云いなさい」
「性別は男。身なりは他と変わりない喪服。年齢は40代でしょうか。顔はマスクをしていたのでわかりません。特徴は特に思いつきません」
「そいつは、今はもういないか」
博麗は苦々しく云った。
死体が無くなったことは既に周知されてしまっており、他の人々は既に返ってしまった。下手人ももちろん姿を消している可能性が高い。しかし、対象が必ずしも手伝いの一人とは限らない。もしかしたら早く受付をした第三者の可能性もある。
「顔が分からないとなれば、それは手伝いではない誰かでも可能性としてはあるんじゃないか?葬儀に出席する人は名簿に名前を書く。つまり名簿の初期に書かれた人名を見れば」
「それはつまり人が犯人の場合ね。けれど駄目ね。全員が全員、名簿に名前を記載しているとは限らないし、40代で男なら虱潰しに調べる事で特定することはできても証拠がない。疑わしきは罰するよろしく、疑わしきは強制捜査でもする?」
博麗は鳥里の考えを即座に突き返した。反論しようがなく鳥里は黙った。博麗は次に男に視線を向けると質問を続ける。
「そう云えば棺は三つとも既にこの会場に納品されているの?」
「いゝえ。矢張り突然の事でしたから、棺は1つしか出来ていなくて、他2つの内の一つは作りかけで、なんとか間に合ったようです。今、木工屋の主人が徹夜して最後の一つを作っているようです。なんとか形にはなっていますが、しかし、三人目は期日が遅れそうですかね」
「そう、ありがとう。もう職務に戻ってくれて構わないよ」
博麗がそう云うと男は去っていった。残された三人は未だに空っぽの棺を囲んで突っ立たまゝになっている。
博麗が腕を組んで唸るように呟いた。
「扨、これからどうするか」
「そんなコトは明白です。とりあえず式の今後について考えましょう」
「それもそうね」
聖の一言で、調査は一度打ち切られる運びとなり、結果として葬儀は延期になった。それに伴い、一時的な片付けを皆で手分けして行い、鳥里と博麗は聖と別れて帰路に着いた。
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「夢、何かわかったか?」
博麗神社に帰宅した二人は居間でそれぞれが推理を巡らしていたが、鳥里はどうも頭が混乱していた。そこで情けない話、博麗にこうして泣きついている。
「どうかな」
「そっか」
博麗のはぐらかすような云い方に鳥里は頭を掻いた。
「そんなに悩む必要ない。仕方ないから教えてあげる。…犯人はもうわかったよ」
博麗は驚いた顔をして口をパクパクしている鳥里を見つめる。
「マァ、待ちなさい。三人目の葬式時に全部話してあげるから心配しないの。実は先刻聖と別れるとき、数日中に葬儀を執り行うように関係者全員に急かして焚き付けろと云っておいた」
「…遺族のことを考えると「はい、やります」とは言わないと思うが?」
「やるよ。いや、必ずやってもらう。猫の尻尾を掴んだんだ。後はコチラに引っ張り出して檻に入れるだけ」
博麗はきっぱりと断言した。
鳥里にしてみれば、そんな連続的に死体を盗む妖怪なり人がいたのなら、葬儀を渋るのは無理のない考えだ。もはや「もし」などという話ではなく、盗られてしまうと、返ってくる保証はないのだから。
「どうして?やっぱり早く供養してあげたいからか?」
「それもある。だけど一番は早くしないと遺体の腐敗が進むから。死体は腐れば異臭を放つ。だからまだ葬儀を通常通り行える段階でやるのよ。それになにより、そうじゃなきゃ火車は現れてくれないから」
この幻想郷には、死体を長期にわたって保存するようなものは開発が進んでいない。蝋化という手段もあるにはあるのだが、これは特殊な条件下でしか発生しないし意図的にソレを作ることは大変だ。
「じゃあ、そこで下手人を捕らえるでいゝんだな」
「そうよ。まぁ、どっしり構えて私の手腕をよく見てなさい。‥しかし、そうだな。何も知らないのは可哀想。少しヒントをあげよう。
私の考えでは犯人は人間だ。その前提で考えるならば、犯人を死体を盗む理由は、死体が必要だからだ。それも三つもだ。勿論、それは食べる為じゃない。肉の量が多過ぎるからだ。では、犯人は一体死体で何をしたいのか?ココで犯行方法を見直して。犯行からは犯人の臆病さと隠蔽にかける情熱が見え隠れしてる。つまり、死体を欲したのは死体を使って何かを隠蔽したいからなんだろうね。だって臆病だから」
「犯人の心理か。驚いたな。君は心理学も勉強していたのか?」
「心理学?あんな阿呆ばかりが集う学問なんて興味ないわよ。ま、今はこのヒントを元に犯人を当ててみなさいな」
そう云って博麗は退出していった。
博麗が部屋を出て行った事により、今部屋には鳥里1人だけだ。恰度よく思考時間が出来たので鳥里は博麗のヒントをもとに事件をまとめてにもう一度検討してみるとしようとして、背後から声がかけられた。
「何考えこんでるんだ?」
「なんだ、霧雨じゃないか」
振り返って見れば、背後の声の主は霧雨魔理沙という少女だった。
鳥里の丁度背後は縁側があり、今、障子が開けられている。今彼女は縁側にいつの間にか腰掛けていた。
霧雨はここから少し距離のある森に住まいを構えていて、よくこの神社に来る。だから、鳥里ともそれなりに付き合いがあった。
鳥里が驚いた顔をすると、霧雨は悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべて再び、鳥里に疑問を投げかけた。
「そうだ、私だ。で、何悩んでんの?」
「いやな、最近、葬儀中に遺体が盗まれるって事件が発生してて」
「へぇ、そう。私知らなかった」
霧雨は興味有りげに呟く。
「え?知らない?霧雨にしては遅耳だな」
「別に情報通ってわけじゃないわ。ねね、じゃあさ、ソレ教えてよ」
霧雨はいち早くとは云えるかは知らないが、かなり早い内から異変などの異常事態に気づく事が多い。そんな彼女が、知らないとは珍しい。
鳥里は霧雨に事の全てを話した。話し終わると霧雨はウンウンと、ワザとらしく腕を組み頷いた。考える仕草のようだ。
「なるほど。にしても霊夢も意地が悪い。世に聞く探偵役とやらを気取って天狗になっているわけだな、あいつ。まぁ、その鼻の高さがピノキオにならないことを一応祈っといてやろう」
などと云って霧雨は心底おかしそうに笑った。その霧雨の余裕な様子が博麗の姿と重なった鳥里は、もしかしてと鳥里は考えて霧雨に先刻博麗に訊いたことと同じことを尋ねる。
「霧雨にも分かるのか?犯人と手口が?」
「分かるよ。簡単簡単。よし!じゃあ、私の推理を前提としたヒントをあげよう」
霧雨は自信満々にそう云って右の人差し指をピシッと鳥里に指して続けた。
「重要なのはな、犯人がどこに隠れてるか、だよ」
「隠れてる。それは、そうだろう」
「それはハウダニットの話だ。私が今云っているのは、フーダニットの話さ」
「フーダニット?なんだ、君も犯人は人間だって云うのか?」
「うん。マァ、厳密には人間かも知れないと云う話。例えば、随筆『耳袋』には、魍魎が人に化けて死体を取るなんて話があるからその限りではないでしょ?」
だとしたら、木は森の中に隠せの如く、参列者の中に居たのか。しかし、それでは範囲が広すぎるし、どのような芸当によって参列席から死体を盗むなんてことができたのか。
「莫迦な。葬式に一体何人来てると思ってるんだ。三、四人が容疑者なんてレベルの話じゃない」
「視野が狭いって云ってるんだよ。確かに容疑者は絞る必要がある。けど、その容疑者を抽出する元が最初から不十分であれば、当然犯人を特定などできようもない。そして、鳥の考え方にも問題がある。つまり、推理する側が勝手に事実を斜めに構えて捉えてしまっているということ。はい、今のがヒント。じゃあ、鳥里君には頑張って真相に辿り着いて早くスッキリしてもらいたいね。今日はもう帰るよ」
霧雨はそれから手を振って去って行った。
鳥里は霧雨が去ってから、再び彼女たちのヒントを元に思考に埋没して行くのだった。