もう二度目になる。鳥里は再び葬儀式場へとやって着ていた。今日が三人の内の最後の故人を見送る日である。
あれから鳥里は霧雨のヒントを元に、色々と思考を巡らせてみたが結局犯人も犯行方法も分からなかった。博麗にソレについて謝ると、「気にしなくていゝ」と返された。鳥里は博麗と霧雨に申し訳ない気持ちになったが、それをいつまでも引き攣る暇はない。
受付を済ませた鳥里は式場へと他の参列者に続いて入場した。時間も葬儀開始時刻に近いので多くの参列者がすでに待機している。
部屋は、前回と同様の風景ではなく幾ばくか異なっていた。暗幕によって祭壇のある式場は暗がりになり、部屋は白熱灯ではなく蝋燭数多によって照らされている。そして、何より今は夜なのである。
鳥里は祭壇に対して垂直状にして並ぶ、全五、六列の真ん中の列の一番最後尾に座った。周りの人間を見れば、皆一様にして黙って座って顔を俯かせて式が始まるのを静かに待っている。ソレは葬式では当たり前の光景ではあるが、鳥里にはなんだか違和感を覚えた。
「思った以上に暗いわね」
背後から独り言のように小さな声が聞こえた。稗田の声だ。振り返ってみればすぐ背後に稗田は立って鳥里を見下ろしていた。
稗田は普段の綺麗な和服ではなく黒一色の喪服であり、髪飾りも外していた。
稗田は鳥里の空いた隣に座した。
「君も来たのか」
「ええ。ほら、あそこにいる巫女に呼ばれたのですよ」
そう云って稗田は祭壇側の部屋の端を指差した。そこには思案している様子の博麗の姿がある。
博麗はこんな時でも、いつもの巫女装束で腕を組んでおり、いつになく厳格な表情で部屋の端の壁に背を預けて沈黙している。彼女の一張羅であろう紅緋色の衣装は蝋燭の灯りに照らされてより一層鮮やかに見えた。
扨、そろそろ葬儀が始まるといったところで、件の異音が部屋に響いた。遺族の話で聞いたガタガタと云う音だ。鳥里は早速発信地を探ろうとしたが結局正確な位置は掴めなかった。鳥里が今座しているのは部屋の奥。周りがよく見えないのも道理だ。
しかし見渡してみて気づいたことが一つ、参列者は誰1人その音を気にした様子が見えなかったことだ。隣の稗田も気にした様子はない。
続いて、ガラリと古い木が擦れる音がして式場の1つの扉が開き、暗闇から僧侶、聖が姿を現した。通常ならこれから僧侶が祭壇の前で経を唱えるのであるが、聖はそのまま祭壇へ向かうことはせず部屋に入った位置で立ち止まっている。すると、先程まで壁にもたれていた博麗が、聖の代わりにズンズンと迷いなく、それでいて慎重に祭壇の方へ歩いていく。聖はその様子をただ眺めているだけで別段、博麗を咎めるような様子もない。
博麗は棺の前に止まり一言、大きな声で叫んだ。
「そこだ!!」
それと同時に博麗は床を一度踏み鳴らすように床を一回踏んだ。瞬間、床が破壊される音とともに、蝋燭の火の灯りが床を構成する数枚の木板が垂直に持ち上がった様子を一瞬だけ照らした。辺りに強風が吹き荒れ、蝋燭の火を一つ残らずかき消し、最後に起こったのは建物全体が激しく軋む音だった。
鳥里は顔を両腕で庇う。強風は直ぐに止んだが、余韻はまだ残留しており、その凄まじさが見てとれる。
すぐさま、鳥里は隣にいるであろう稗田に声をかける。
「怪我はないか?」
「無事です。貴方は?」
「僕も別に。それにしても真っ暗で何も見えやしない。夢の奴やり過ぎだ」
暗闇に慣れない目で鳥里は辺りを見回した。他の参列者の数人が呻いている声はちらほらとあるが怪我をしたという気配はしなかった。博麗のサジ加減がよくわからない。
完全な暗闇の中で博麗の声が部屋に木霊する。
「えー、皆さま。ここに入り込んだ妖怪をとッ捕まえることに成功しました。危ないので避難してください。勿論こちらを見ずにね」
聖はいつ移動したのか祭壇の対の位置、鳥里と稗田の背後にて一本の蝋燭を灯すと人々を先導し、外へ出て行った。
そうしてこの場には四人の人間が残された。
ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ*
「では真相を話しましょうか」
そう云って博麗は部屋にある白熱電球を灯した。部屋が一瞬にして眩い光に覆われ、鳥里は暫く目が慣れるまで時間がかかった。明るさに慣れた鳥里が目にしたものは、四十路くらいの男性の首根っこを掴んで得意げに笑みを浮かべる博麗の姿だ。
「起きなさい」
博麗は依然として首根っこを掴んだまゝでいる男性に声をかけた。
男は呻くと意識を取り戻したようで、辺りを2度程見回して最後に博麗を見た。いや、睨んだ。
「離せ!」
「できませんね」
「畜生ッ!」
「もう、諦めの悪いヤツ」
博麗はそう諌めたが、男はそれに聞く耳を持たない。鬼の表情で博麗を殺さんと手や足でなんとか博麗の拘束から逃れようとするが、ちっとも効果は現れない。
男は力による手段を諦めたのか、今度は博麗に怒鳴り散らし始めた。
「お前の所為で、失敗したんだ!」
「ハハァ。アナタはどうも今のご自身の事がわかっていらっしゃらないようだ」
博麗は余裕の面持ちでそう云って地面にめり込ませる勢いで男の肩をつかんで押さえつけると男の背中に無理やり座った。男は潰れたカエルみたいな声を出した後に弱々しくブツブツと何かを云っている。聞き取れないがきっと博麗に恨み言でも云っているのだろう。
「なぁ、夢、一体何がどうなってるんだ?」
鳥里はしばらくその一幕を眼前に放心していたが、男を引き攣って元の位置に戻ってきた博麗の目を見て、やっと言葉を発することが出来た。
「ごめんね。下手人がなかなか云うことを聞かないからさ」
「あ、あゝ。いや、それは見ればわかる。僕が知りたいのは事の仔細で‥」
「わかってるよ。今からちゃんとしっかり説明するから」
博麗は男を蹴り倒すと床に蹲らせて、その丸めた背中に腰掛けた。宛らソレは昔絵本で見たような、退治した鬼の上に立ち勝利宣言を行う主人公のようだ。翻って、博麗は座っているのだが。
博麗は脚を伸ばしてゆったりとした姿勢になると、鳥里と稗田を見据えてから口を開いた。
「何から聞きたい?」
「この人は、妖怪…なのか?」
「違うわ。見ての通り人間よ人間」
「そうか。じゃあ、何故妖怪ではないと云えるんだ?」
博麗は目線だけを一瞬、現時点で彼女の椅子になっている男に向けてから話し出した。
「もう、段取りもメンドウね。キッパリ犯人を云うことにした。
犯人は木工屋の主人よ。
理由を順に話すわ。まず、妖怪か人間かどちらかを見極めるために着目したのは犯行の不可能性の具合ね。一件目、二件目の犯行ともに、チャンスと云う点では妖怪であれ人間であれ死体を盗むことが可能だったということだ。
そこで二件目の犯行を注目してみよう。アレは式が始まる前に死体は盗まれたね。これはまるで私たちが調査でやってくることを心得て、ソレに対策したかのような行動だった。つまり、妖怪にしては死体三体を盗むのに計画性をもって知恵を無駄に働かせていると云うことがわかるわね。だとしたら、妖怪が態々そんなコトをするとも考えにくいことから、人間の仕業の可能が高くなってくる。また、一件目と二件目の犯行では、犯行場所が決まって式場内だったことからも、犯行は式場内でなければならないかのような行動であるから、十中八九犯人は人間で間違いないだろうと考えた。妖怪なら場所や時間なんかにこだわったりはしないからね。
じゃあ、犯人前提を人間として、犯人の立場から今までの行動を考えてみよう。犯人は犯行を妖怪の仕業に見立てゝいるのだから、こうして死体がある以上、“火車は死体を盗むものである”と云う妖怪の性質に縛られる。すると犯行の指向性はある程度定まる。要するに、犯行を妖怪の仕業に見立てたと仮定した上での、犯人が自身に課すことになってしまった制限だ。まず犯人である人間には、どうしても妖怪の仕業にしなければならない理由があった。その理由とは犯人が誰であるかは勿論の事、犯人の正体が人間であると気づかれてはならないと云うことはわかるね。それを踏まえて今迄の犯行を見てみると犯人のボロが出る。一件目は勿論、妖怪に見立てるという怪奇性を含ませた犯行だ。注目すべきはやはり二件目の犯行。皆の見ている前ではなく、誰も見ていない時間での犯行だったから、少し怪奇不足不可能性不足だった。その理由は先に述べた私を警戒したもの。そこで、これら一連の事件を検討して見ると、犯行の不可能性が可能性に移り変わっていることで、犯人像が妖怪から人間へ近づいていっているとわかるね。勿論、これは犯人にとっては容疑者に人間が浮上するという拙い状況だった。しかし、この行動意図は先に云った通り、私の行動を予測した、計画された認識外の行動であることはわかる。
では次に、犯行可能のタイミングを制限された行動内から突き止めてみましょう。最初に、怪奇性を含むことが条件である一件目の犯行。例えば棺運搬中や火葬場では、多数の人間が死体の側にいるため死体を盗むのはまず不可能だ。次に通夜の後は遺族が死体を一晩中見張っているから、これも不可能。犯人が遺族の中に居ると考えても、僧侶が葬儀中に棺の中の死体の顔を見ていることから、ソレは考えにくい。つまり、犯行可能時刻は、葬儀中から出棺までの間であると考えられる。
そうすると犯行方法は?。一件目と今回三件目の犯行方法について説明する。これはただ棺を置くところの床を数枚簡単に外れるようにしておき、また、棺自体にも床が抜けるよう細工していた。いや、設計したって云ったほうが正しいかな。そして犯行時に、式場の床下に侵入して死体を床下に落とし、後から回収すると云うわけ。棺を置く場所は印で指定されているから大幅に棺の位置がズレるなんてことは無い。するとほら、あの奥さんが聞いたガタガタと云う異音は、妖怪が侵入した音ではなく、床板を外す音だった。そして最初の犯行の時は、より怪奇的にするために、おそらく暫くの間、首だけを下から手で支えて時間の許す限り死体の存在をアピールすることで犯行不可能性と可能性の間の間隔をできるだけ無くそうとしていた。真逆、床下が外れるようになっていて棺自体にも仕掛けがあるとは誰も考えないからね。床はまず調べられる事は無いし、仕掛けのある棺は火葬によって完全に燃えてしまうから証拠は残らない。
次に二件目の犯行方法について。アレは先述の犯行方法とは違って、ただ床下に遺体を落として後から回収した。コレの推理には私達が調べたあの棺には仕掛けなんてなかったことからわかる。また、のちにこれこそが犯人を特定せしめるキッカケになる。
二件目の事件発生時、私があの手伝いの男に「三つ全て揃えて納品されているか」と訊き、その返答が「急な事だから木工屋の主人が今作っている」と云っていた。ここで私は棺は実際には三つ既に完成した状態で存在していて、犯人は敢えて一つずつ納品していたと考えた。そしてその理由を考えると、棺が比べて仕掛けの設計上で生じた大きさの差異や、二件目の犯行時に私に仕掛けそのものを看破されることを防ぐためだとすると腑に落ちた。故に、手の込んでいて見破れやすい方法、つまり棺の仕掛けは使わず、皆が目を離した時間を狙って床下に死体を隠したと推察する。
さて、この仕掛けは棺製作者にしか行えないことは明白。つまり、犯行は木工屋の主人にしか行える人間がいない。
以上、これまでの犯人と犯行の全容ね」
博麗はそこまで云って一息ついた。
「なるほど。犯人が人間であること、犯人の正体、そして犯行方法はわかった。でもなんでこの人は犯行を妖怪の仕業にしようとこだわったりしたんだ?」
普通、容疑者を人間の中から探させないと云うのではなく、周りの人間も巻き込んでしまえば、容疑者は増加して犯人特定に困難になるのだと思うのだが。
博麗はその鳥里の質問を聞いて少し惚けた後に、笑いだした。腹を抱えてという程ではないが、心底おかしそうに笑ったのだ。鳥里はそんな博麗の様子に不審がって、眉をひそめながら彼女に再び問う。
「なんだ?何がおかしい?」
「ごめんごめん。鳥、君の馬鹿さ加減は相変わらずね。君はなに、刹那的に人生を生きているの?」
頭にハテナを浮かべる鳥里を置いて、博麗は「あゝ、おかしい」と云ってから呼吸を整えると、今度は出来の悪い生徒に教えて差し上げる教師のような表情で云う。
「それはね、鳥。村八分にされるのが怖かったのさ。あのね、幻想郷には人が固まって住む地はここしかない。従って、ココから追い出されたり近所付き合いが不仲になったら生きていけないのよ。よく覚えておきなさい」
「あゝ、確かに」
普通の人間は人里で固まって暮らす。人里は唯一の普通の人間の安心できる居場所だ。しかし、それを外されればその後の生活はかなり困難になるだろう。従って、なんとしても妖怪の仕業に見立てて、『人間』という容疑者を完全に排除させなければならなかったのか。
こゝで今まで黙っていた稗田が機を見計らったのか手を挙げて口を挟んだ。
「そんなことは既に知れたこと、もう良いのです。私が呼ばれた理由は?」
「稗田、コイツが火車を知った理由がアナタのその疑問の答えよ」
博麗は顎で男を指してそう云った。
「火車を知った理由?そんなの文献を読んだのでしょう。それこそ、幻想郷縁起を読めば」
と云ったところで稗田はアッと声をあげた。
「気づいたね。そう、コイツは『幻想郷縁起』を読んで今回の事を思いつくに至った」
「それは‥」
稗田は、そう一言呟いて黙ってしまった。
眉間に皺が寄ってどこか男を睨んでいるように見える。あくまでも見えるだけで事実は彼女にしかわからない。しかし、自身が人間のために書いたものが、その人間に悪用されたと云うのは嫌な気分になるのは想像に難くない。
博麗は稗田を気にせず続けた。
「稗田覚えておきなさい。こういうことを考えるヤツもいるってね」
「不愉快だわ。本当に」
稗田が発したのはただ一言だけだった。その一言にどれほどの感情が含まれているのかは、鳥里らには測り知ることは出来ないだろう。
博麗は稗田から視線を外して男にその視線を向けた。
「おい、お前。とんでもないことしてくれたってわかってる?」
男は博麗の言う事に要領を得ないのか、惚けた顔で博麗の方に首を可動範囲限界まで曲げて彼女を見ている。
そんな男に博麗は、子供に説教するような語り口で話出した。
「アナタがやったのは危ないことなのです。本当に火車に地獄へ連れていかれてしまう可能性があります。これは子供に言い聞かせる脅し話ではありません。アナタには今更云うまでもありませんでしょうが、火車は姿が化け猫に限った話ではない。文字通り火の車、又は松明を持った男性たちと姿が1つではない。彼らはただ無作為に死体を盗むのではなく、それらは生きた人間も地獄へ連れて行く。対象となるのは、生者だろうと死体だろうと決まって『悪人』だ。貴方も、死にたくなかったら今後気を附けなさい。私の言葉だ。真逆信じられないわけではないでしょう?」
男が息を飲むのが聞こえた。男はさっきまでのように云い返すのでもなくただ黙って、脂汗を流している。
「なぁ、夢。最後の質問なんだけど、犯人がどうして今回も同じ方法でくると確信できたんだ?」
鳥里の捲し立てるような問いに、博麗はため息をついて口を開いた。
「確信は持てゝいなかったわ。
じゃあ、まず今回のあらましを話そうか。最初に犯行手口を先程の様に推理した私は今回納品された棺を調べました。勿論、私の推理は当たっていた。次に、聖に連絡して葬儀を午前に行い、密葬した。そして、里の人々には事情が有るとして葬儀を夜に行うと云う情報を公開した。犯人はある理由からノコノコと最初の犯行手口で死体を盗みに来る。犯人が床下に入ったら、私の仲間が出口を固める。扨、犯人は一向に始まらない読経を疑問に思いながら機会を待つ。そこで私が先刻の通り犯人を捕まえると云う筋書きでした。
ではある理由とは?コレはさっきも説明した火車に見立てる上での行動制限よ。二件目で落ちた不可能性の回復、そして犯行方法の信頼性に、遺体が二体だけでは足りなかったといろいろ考えられるけど、一番は、後に引けなかったからじゃないかしら。
もっとも、これでこの男が今回の罠に掛からずとも推理は出来ているわけだから、そこに無残に転がっている棺を本人に見せれば、犯行を認めざるを得ないでしょうね。
つまり、今回のこの一幕は現行犯逮捕を行うために、所在証明によって確固たる証拠を突きつける為なのでした」
犯人はもう何も云い返えさなかった。捕まった時点で自白のようなものであるし、博麗の云うように、そもそもが現行犯だ。今更、惚けても意味がない。
「火車は今宵退治されました」
博麗は最後にそう締め括った。
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犯人の動機は髪だったそうだ。なんでも年々毛根が薄くなって行くのが耐えられなかったらしく、かと言って恥ずかしくて人に相談できるはずもなかったそうな。従って、死体の髪からカツラを作ろうとした。それで機を伺っていたらこの事故である。運が味方したと犯行に及んだのそうだ。なんとも阿呆らしい動機故に犯人は博麗に後に三発殴られていた。
盗んだ死体は、店の地下に安置されていて、腐敗が幾ばくか進んでおり直に火葬となった。
事件の顛末として、犯人である店主に化けた妖怪の仕業で、本物の店主は店の地下に捕らえられていたという筋立てとなった。店主も心を入れ替えたようで、よっぽど博麗の脅しが効いたのだろうか。それは兎も角、死体を盗まれた各々の喪主たちは博麗の活躍劇を聞いて胸を撫で下ろしたようだった。勿論、あの奥さんやその家族もその中の一人だ。
ところで、あの時というか終始姿を見せなかった火焔猫と云えば、彼女は自身に身に覚えの無い死体消失事件で真っ先に疑われては敵わないと、事が収まるまで隠れていたのだそうだ。
事件から数週間後、鳥里は火車の絵を描いた。稗田もこの事件を元に、更に話に捻りを効かせた小説を書いていた。曰く「詭計が簡単過ぎる」とのこと。現実は小説より奇なりと誰かが云ったが、幻想郷ではそれは例外らしい。
そうして、そんな珍事件から数週間後、鳥里は人里の酒場で絵師仲間と事件の話を多少誤魔化して話して聞かせて盛り上がっていた。ソレは夜通し交わされ、彼らが別れたのは空が薄く明るくなって来た頃だった。鳥里は博麗神社へフラフラとした足取りで帰り道を歩く。
鳥里はあの事件を話したからか、今一度、あの時の記憶が想起された。思い返して見れば、鳥里にはなんだか今一つ気持ちの良い終わり方ではなかった。それは、矢張彼が徹底して傍観者に徹した為だろう。従って、浮世離れしたような、そう、それこそ小説を読み終わったかのような感覚だった。
そんなことを考えていると、博麗神社へと続く長い階段の前へと辿り着いた。頂上には赤い鳥居が見える。階段を登ってしばらくすると景色が明るくなって、鳥里は背中に暖かい感覚を感じて振り返ってみれば、そこには太陽が山々の間から顔を覗かせている。
日の出だ。
〈了〉
《あとがき》
ㅤ一作目。バカミス。
〈参考文献〉
画図百鬼夜行全画集
鬼の研究
江戸怪談集
〈以下補足〉
火車は、悪人を地獄へ運ぶとされる。従って火車が現れた家は恥ずかしい思いをすることになるのですが、今回はあくまでも人間によるものであり、そこを入れてしまうと話が重くなる為そういった事情は除外しました。