始 神の目の届かぬ内に
紅葉が色づき始めた、ある昼過ぎのことであったと思う。
博麗神社に、別神社所属の東風谷早苗が空から、まるで風のような速さで訪ねてきた。
東風谷はこちらに姿を現した時から、見るからに急用であるという有様で、博麗の所在を知りたそうにしていたが、現在、神社にただ独り在中していた鳥里が、博麗が帰ってくるまでと、彼女の話を聞くことになった。二度手間と思うかもしれないが、情報を整理するという意味では、無駄でもないかもしれない。ちなみに博麗他は各各が何らかの用事で少し遠出している。
いつもの居間にて、鳥里が卓に東風谷を促して自身も彼女と向き合うように座った。
東風谷は用事の内容を話そうと口を開いて少し固まった後、急にアタフタと視線を泳がせ、ジェスチャアのつもりなのか彼女の両手が不格好に動かし始めた。推察するに急ぎすぎて話の順序立てを考えていなかったのか、パニックで話をする精神状態ではないのか。
鳥里は彼女に仕切り直させるつもりで、少し大きな声量で東風谷に語りかけた。
「まずはなんの用で来たんだ?細かい説明は後でいいからさ、ソレを教えて」
「盗まれたのよ…!!」
「盗まれた?何が?」
かなりの苦々しさを込めて呟いた東風谷の言葉を、鳥里は対照的に気の抜けたような声でオウム返しに云う。
「盗まれたのはお金…。お金なんだけど、そのお金は賽銭箱から回収したお金なの」
「盗まれたのは賽銭…。でも、君のところにはおっかない神様が2柱もいるじゃないか。そんな罰当たりなことを堂々と出来る奴がいるのか?」
鳥里はそう云って、東風谷が属している神社に在中している神々を思い浮かべる。
神典に記されるほどの武神と強大な信仰を得ていた祟り神。それは既に人々の間では周知されたことであり、大半の人間なら間違ってもそんな神様がいる神社から盗みを働こうなどとは思わない。しかし、もし犯人がいるのだとしたら、なんて恐れ知らずな犯人なのだろう。
「うん。でもね、私も部屋を探したりしたんだけど、駄目だった。どこにも見つからない。そもそも、私はしっかり集めた賽銭はまとめて包に入れて保管していたの。これで、自然に賽銭が無くなるわけがないわ。それで、多分盗まれた時二人はいなかったし、賽銭がないことに気づいた後も、お二方の気性と云うか神様の性質がアレだから云い出せなくて、まだこのことを知らないのよ、両方とも。…ねぇ、鳥君、どうしたらいゝと思う!?」
東風谷はそう云って鳥里の両肩を掴んで何度も揺らした。目を見開いて必死の形相であり、まるで親が留守の時に悪さをしてしまった子供が必死に証拠隠滅を図るような様子だ。いや、この現状は、ある意味ではそうかもしれない。
「わかった、わかったから、まずは手を離して。なんだか気持ち悪くなってきた」
「あ、ごめん」
鳥里の懇願に東風谷はハッとした後、鳥里の肩からすんなり手を離した。
鳥里は一度、調子を整えてから口を開く。
「とりあえず盗まれた時の状況を聞こう」
扨、東風谷がソレに答えようと口を開いたところで博麗が帰ってきたようで、その証拠に木製の床の軋む音が、博麗の歩調に合わせて一定間隔で響く。
これに鳥里は少し安堵したような顔を、東風谷はほんの少しの喜びと緊張を顔に描いた。
居間の襖は開いているから2人の姿は居間に直接つながる廊下から普通に見える。そのため、博麗は直ぐに2人の姿を確認することが出来た。買い物袋を肩から下げた博麗は東風谷の姿を視界に捉えたところで、東風谷が反応するよりも早く、瞬時に残像が見えるほどの速さで東風谷を指差した。
「鳥、塩。塩をこのクソガエルに叩きつけろ。コイツ、多分ウチの社内秘密でも盗もうって魂胆だわ」
「いや、今日は別に何かしに来たわけじゃないんですよぉ…」
「あぁ!?じゃあ、何?」
「えぇっと、それはですね…」
「あ、待ってその話長い?だったらやっぱいゝや。どうぞ!お帰りください」
東風谷は博麗の一方的会話術に完全に呑まれて、小指をタンスにぶつけたことに気づいた直後のような顔をした。
鳥里は東風谷の代わりに博麗に話をしてやった。すると博麗は眉をひそめて、せっかく並べたドミノ倒しを完成まじかで全部崩壊させてしまった後のような顔をしている東風谷に目を向けた。
「ふぅん、つまり空き巣にあったってわけね。東風谷枝豆」
「枝豆じゃなくて早苗です」
「はいはい」
博麗はテキトウな返事をした後、鳥里の隣に座った。しかし、東風谷の方には向かずに。
東風谷は不機嫌な表情をしている博麗の横顔に、さっきよりも強い意志を込めて話しかけた。
「霊夢さん、これはただの空き巣ではないんです。所謂ちょっとしたミステリーですよ。どうです?少し頭を働かせるつもりで、私の話を聞いてくれませんか?」
「妖怪とか絡んでないでしょ、それ。なら私の出番じゃないわ。他を当たって砕けてちょうだい」
博麗は手を扇ぐように左右に振った。
「いやいや、わかりませんよ。もしかしたら百々目鬼の仕業かもしれません。他には金霊とかかも」
「百々目鬼は空き巣なんかしないし、金霊は逆に入ってくるのよ。要勉強ね」
博麗の拒否の姿勢に今度は東風谷までもがムッとした顔した。空気がこれ以上悪くなるのはごめんなので、鳥里は東風谷に助け舟を出すことにした。もっともすぐに轟沈するだろうことはなんとなく予想できたがモノは試しだ。
「なぁ、夢。これ以上は東風谷さんが可哀想だよ。話だけでも聞いたっていゝんじゃないか?」
「嫌っつってんでしょ。それにね、私は慈善事業してるわけじゃないの。まずはコレが必要」
博麗は左手の平を地面と平行の位置になるように、自身の顔の近くまで持ってくると人差し指と親指で輪を作った。
その意味を察した東風谷は泣きそうな顔をして声を荒らげた。
「お金を取り戻すためにお金払うんですかぁ!?」
「そんなの当たり前でしょ。皆一緒よ」
「もっとなんとかなりませんか?お金以外で…」
「わらしべ長者なんて今時やってられるわけないわよ。あ、頼んでもないのに機を織ってきましたとかもやめてね。んー…でもそうね、お金以外でなら食べ物がいゝかな」
「え?」
博麗は何故か帰宅したときに持っていた手提げ袋に一瞬だけ視線を向けてからそう今思い付きましたと云わんばかりに条件を提示した。
それは光明が東風谷を照らした瞬間だった。なんと今まで樹齢何百年の大木の根のように堅かったかのように見えていた博麗が突然意見を変えたのだ。
「いやもう、それなら全然、全く大丈夫無問題ですから、お願いしますよぅ」
「よし、じゃあ、約束ね。破ったらぶっ飛ばすから」
博麗は綺麗に笑った。きっと東風谷には博麗が眩しく映るだろう。先の光明は博麗の後光の漏れだったのかもしれない。しかしながら、その光明は巧妙に張られた博麗の罠だと云うのはこの際、置いておいた方がよいのだろう。
扨、このやけに長ったらしい博麗の説得が完了して、東風谷は目尻に少し溜まっていた涙を丁寧に拭うと話を始めた。
「この前、私のところで祭りがあったのは覚えてますか?それで、勿論、準備をしなければ祭りなんてできないではないですか。ですから、準備を祭りを行う数週前から準備をしていたんです。それで、おそらくその時点より、準備期間前に賽銭箱から回収して保存しておいた賽銭が数枚、無くなっていたんですよ」
これを聞いた博麗は目を細めた。これに東風谷はなぜかバツが悪そうに伺うような眼差しで博麗を見る。彼女の心情としては、博麗が目を細めた理由を「くだらなさすぎる」とでも思われていると考えてのことであろう。
しかし、意外にも博麗は協力的な姿勢を見せた。
「質問だけど、なぜその時点まで賽銭はあったとわかるの?」
「回収したのが祭りの準備期間中です。それで賽銭は小銭ばかりですから、そのまゝでは保管しづらい。だから私は両替屋に準備が一段落したら持っていこうと思っていましてね。あ、勿論保管してから私はおろか神奈子様や諏訪子様だってその場所には触れてません。えっと、それで、準備が一段落着いたので、その後日。…丁度昼くらいだったかしら?賽銭は数個の包にして箪笥にしまってあるのですが、その箪笥の引き出しを開いて、その中の1つの包を持ち上げたら、「おや、なんだか膨らみ具合が稍稍萎んでいるぞ?」と思って包を開きました。そして、回収した時の控えを見ながら1枚ずつ全て数えてみると、回収した時よりも小銭の数が少なかったのですね」
以上が事件の概要だ。
確かに、神社へ出向くなんて大抵の人はなかなか無いだろう。参拝かお祭り、神事の時など訪れる回数も理由も少ない。その中で犯人は多くの人が居て、且つ自由に神社内に侵入が行える時期を狙ったと考えることは容易だ。
「東風谷さん、君はその賽銭とは関係ない金銭、つまり生活費とかまだ使い切ってない両替済みのお金とかも同じ場所に保管していたの?」
「いゝえ。それはほかの場所にあるわ。新しく回収した小銭の包みはある部屋にある箪笥の引き出しにしまっておいて、前のモノはまた別に、貯金分の生活費とかは…、こゝだけの話、天井裏にあるの。ちなみにそれはいつも同じよ。幻想郷に来てからもそれは変わらないわ」
「それで、君は探して見たけれど、小銭は無かった。そして、いまゝで触っていない包のなかの小銭が勝手に無くなるわけはない。だとしたら、考えられるのは誰かが盗んだ。そして、その賽銭を盗んだ下手人は準備期間中に盗んだというわけだね」
よくある物盗りの話だ。
然し、盗まれた時間がわかっていると云うホワイダニットの部分が大まかにでもわかっていると云うのが救いではある。後はハウダニットとフーダニットの問題だ。だが、フーダニットが一番取っ掛かりやすい。盗むだけなら手口も何も無いだろう。だとしたら、「誰が神社に入っていたか」と云う目撃証言があれば、ツテになる。
「目撃証言を探せばいゝんじゃないか?社の中に入っていく人間を探せば、容疑者は絞られる」
「難しいわ。なぜなら、多くの人が出入りしているから、一体何人いることやら」
神社を拠点として展開されるのであれば、本部であるところの社の内は協力者がスムーズに作業ができるように戸締りはしていないだろう。これは確かに難しい問題かもしれない。多くの人々が出入りし、そして皆は各各の作業に集中しているからか、そもそも目撃者自体が少なく、その中で果たして犯人がいるのかと云う問題がある。
「…もしかしたら犯人は、それを目的としてその時間帯に盗んだのかもしれないな」
「だとしら、アリバイ崩しも不可能に近い…か。やっぱり、犯人を見つけるのは無理なのかしら」
2人で八方塞がりと云わんばかりに、腕を組んで悩んでいるが、この時、博麗が一石を投じるかのように質問を投げかけた。
「あゝ、ちょっといゝ?早苗貴方、準備中に盗まれたって前提で話を進めてるけれど、準備に来ていた人間だけが容疑者となるかどうかは限らないのではないかしら。参拝客とかあるでしょ、ウチよりも」
「それも考えにくいかと思いますよ」
「え、あっと、守矢神社の祭りって、普段どうやって運営してるの?ほら、僕らはその、君らのところの祭りには行ったことがないからさ」
この鳥里の言葉を一応説明しておくと、これは単純に守矢神社を一方的に敵視している博麗が行きたがらないと云う事情がある。
鳥里はそう云った事情からか博麗の様子を確認しながら訊いたが、博麗は素知らぬ顔で別の方向を向いていた。
「祭りと云ってもいろいろ種類があるけれど、今回行ったってのは、守矢の神事とは直接的な関係はなくただ場所を提供しただけと云った趣が強い祭りかな。だから、お神輿とかは無かったわ」
「‥そういえばさっき、準備と云ってたわね。それでは何を?」
「別に特別なことは無いですよ。マァ、「さてやるぞ」ってノリでできるものではないですから、何度もやっているとは云え。それで、ウチの神社で何度か打ち合わせがあって、部屋に皆で集まって進行なり色々決め事をおこなって、本格的な準備期間になると屋台や機材やらの用意に追われます」
「打ち合わせは、大人数?」
「えゝ、まあ。担当役員では子連れの奥様方も多くて、別室でそれぞれのお子さん同士で集まって遊ばせています。それは大体いつものことで、準備期間中皆勤賞の子もいますよ。あれは役員をローテーションしているのかしら。毎度人は何人かが変わりますけど、見るからに大変そうです。この打ち合わせが終わったら家事があるといった方が大半でして、なんだか申し訳なくなります。乳母を雇うお金が無いのでしょうから仕方ないのでしょうがね」
「はいはい、教えてくれてありがとね。遠まわしな自慢はもういゝって」
博麗がこう云うにはコチラの神社とアチラの神社の違いに要因がある。実は以前、守矢神社が無かったときは、博麗神社がその祭りの場所を提供していたのだ。しかし、博麗神社はいつまでたっても交通が悪く、打ち合わせも博麗や鳥里が人里の集会所に赴いていたのだ。しかし、元から古かった集会所の老築化が進行し、ココよりも大きな守矢神社が現れたことによって博麗神社は見事お役御免となった。そう云った背景事情があるからか、博麗は東風谷には風当たりが強い。
鳥里はため息をついて、外れた話の路線を戻そうと口を挟んだ。
「なるほどわかったよ。じゃあ、そろそろ下手人のことを考えてみようか。問題は、「いつ賽銭は盗まれたか?」と「どうやって犯人は出入りしたか?」「どのように盗んだか?」「そして犯人は誰か?」ということだろうね」
鳥里の仕切り直しを察してか、博麗は不機嫌さを四散させ、真剣味を帯びた表情を作る。
「最初に「いつ盗まれたか?」を考えてみましょう。まず、打ち合わせから本格的な準備にまでかなりの期間がある。しかし、アリバイを上手く切り崩させないためには、犯行は皆が本格的な準備をしていた期間だろうね。そこなら、誰が神社内に入ったとしても怪しまれないし、1人くらいその場から離れたとしてもバレない可能性が高まるからまず間違い無いだろう」
「あ、いやもう1つ疑問なのは「なぜ犯人は賽銭を全て持って行かなかったのか?」と云うことだよ。お金を持って行くなら、いくつ持っていこうと同じでしょ?そこで良心を期待するというのも、盗みをしているという点で考えるなら、行動と踏みとどまる場面での心情が矛盾してる」
「理由は簡単よ。持って行かなかったんじゃなくて、持って行けなかったのよ。いゝ?まず、犯人は準備を行う人間なのよ。だとしたら、お金なんて普通作業の邪魔になるし、服装が軽装だから持ってないでしょう。もし、そんな中お金を持っていたら、動くとお金の音はするし、それより服の膨らみに違和感があるでしょう。下手人としてはそんな不審なコトは避けたいはずだから、違和感の出ない範囲の金を持っていったと考えられる。またこれは犯人が多くの人々の目に付き、動く作業の役割を持った人物であると云うことの根拠を強めている。しかし、「なぜ下手人はそんな少しの金を盗んだのか?」が気になる。計画的犯行なのだとしたら、計画段階で普通ソレには気づくはずだし、ソレに気づいた時点と云うか、そもそも犯行対象を神社に定めることは、合理性を欠く。するとつまり、下手人は少しの金が欲しかったのかと考えられるわね。つまり、今回の下手人は、行き当たりばったり、突如思いついた犯行による行動だと推測する」
「なるほど。では次に「どうやって犯人は出入りしたのか?」だね。然し侵入していた手口はもうわかってるしな。…いや待て、犯人はどうやってその賽銭がある場所を見つけることが出来たんだ?あゝ、なるほど、そうか犯人は予め場所を知っていた人物か。つまり、何度も神社を訪ねている人物と云うことになる」
「鳥にしてはなかなか良い着眼点ね。これで同時にどのように盗んだかと云う部分にも繋がるわ。まとめると、犯人は何度も守矢神社に来た人物であるから、社の構造を知っておりスムーズに盗むことが出来た。また、目撃証言が当てにならない時間と云う工夫が帰って犯行時間を裏付けしている。そして、犯人は賽銭を全て持ち出していない点から考えるに、盗み出した賽銭で服を膨らませたら他の人間に気づかれやすく、作業に不釣合いな金を持っている事実をできるだけ隠すために、賽銭の一部しか持って行かなかった。そして、手に何か大きな物、包を持っている人物ではない。これが、犯人が外で主に活動し、肉体労働を行なっていた人物であると考えられる。
然し、こゝで問題がある。「犯人は盗み出した賽銭をどこに隠し持っていたか?」そして「犯人はどうやって怪しまれずお金を持ち出したか?」と云う点よ。動きやすい服装の犯人なら当然、軽装のはずだ。だとしたら、服下に忍ばせた袋か?然しそれではわざわざ包から金を移した理由が説明出来なくなる。仮令、手に引っさげていたとしても、犯人が犯行を行ったのは作業中であるから、そんなものは他の仲間に気づかれてしまう可能性があるため、これも却下だ。そもそも気づかれないと云う問題をクリアしたとして、持ち出した金をどのように処理したかが問題になる。社から出たらそこは多くの人がいる。その中で場違いな行動は避けたいはずだからね」
「…うぅむ、誰にも気づかれずに外に出て、お金を持ち出すか。あ、複数犯はどうだろうか?例えば、神社内で作業を行う人物に、盗んだ賽銭を渡したんだ。すると、盗み出すまでの過程の問題が解決できる」
「確かに複数犯ならお金を持ち出せなくもない。然し、それは犯人の利益的に考えるのだとしたら、ありえない。盗んでいるのは小銭よ。ただでさえ少ないお金を更に山分けになんてしたら、利益なんてあったものでもないでしょう。盗まれた賽銭の価値を考えるに、これは個人的事情が絡んでいると思うわ。…また、賽銭なら名前もないし、誰のかわからない。よって無関係の人間を無意識的に犯人に仕立て上げると云う方法もある。けれど、作業中にいきなり、お金渡すなんて不審過ぎるでしょう?私が下手人ならこんなことはしないわ」
2人の推理はこゝで行き詰まってしまった。しばらくの間沈黙が流れる。
それは、2人はともかく東風谷にはなんだか耐え難い沈黙であり、彼女は顔をしかめている。然し、やがて耐え切れなくなったのかおそるおそると云った様子で2人に声をかけた。これに反応したのは鳥里だけだ。
「あの、やっぱり無理そうですか?」
「うゝむ、あと少し。あと少しなんだ。どうか待ってくれないか?」
「…マァ、うん。私も今日は時間に余裕が無いわけでもないから、大丈夫だけど…」
鳥里が横目で博麗を見れば、博麗も珍しく悩んでいるのか、首をひねっり俯いて難しい顔をしている。その後、鳥里は再び目線を東風谷に向けて懇願するように頼む。これには東風谷も仕方がないと云った返答をし、現時点では博麗の推理待ちという結論に落ち着いた。
鳥里は自身を情けなく思う。相談を引き受けはしても、今回のような妖怪が絡んでいないような事件に、本来畑違いな博麗に最終的には世話になってしまっていると云うこともそうだが、東風谷や博麗の力になれないと云うことこそが情けなく思う要因の大幅を占めていた。
ソレは、体感でどのくらいか。鳥里には実際の時間より、何倍も長かったかもしれない。鳥里や東風谷が無言でいる中、博麗が小さく呟いた。その呟きを隣で聞いた鳥里は、その言葉の内容に、博麗の顔を思わず見る。
博麗の顔には、やはり迷いが晴れたような清々しいモノであった。
博麗は顔を上げて、東風谷を見る。
「そうか、なるほどなるほど。…ねぇ早苗、ちょっと聞きたいんだけどいゝかしら?」
「ハァ、なんですか?」
「準備が終わった後、誰か訪ねてこなかった?」
「え!?よくわかりましたね。実は‥」
東風谷が博麗の言葉に驚いた後、気を取り直して話始めようとしたところで、博麗が彼女の言葉を遮る。
「あゝ、説明は不要よ。今の言葉で全部わかったから」