歪んだ愛   作:とうしついのち

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1話

 私は走る

 

 乱れる呼吸も

 

 纏わり着く髪の毛も

 

 顎を伝って落ちる汗も

 

 何も気に止めない

 

 

 私は一心不乱にヨークシンの街を駆け抜ける。大通りなため車の交通量は勿論、街行く人々も多いが、そんなものは知ったこっちゃない。

 

 大勢の人達を避けながらも右手に着けている腕時計で時刻を確認すると、短針は1を指し、長針は6の前まできていた。

 

 

 これは不味い。

 これは不味いぞ。

 

 

 大事な事すぎて二回も言っちゃったよ。

 だって完全に遅刻だもん。

 えっ?なに??遅刻した理由??

 そんなのただ一つ。

 

 

 

 寝坊したから。

 

 

 

 いや、違うの。

 お願い、弁解、いや、言い訳させて。

 今日が楽しみだったの。

 楽しみすぎて眠れなかったの。

  

 

 いや、幼稚園児か私!

 

 

 ねぇ待ってお願い私をそんな目で見ないでぇ……

 っていうか取り合えず速く着かないと!!

 

 

 問答無用で指詰められた後に高額な医療費をぶん取られて物乞い生活を送る事になる!!!そんな事させるかぁ!!私の甘~~~い生活は誰にも邪魔させぬぅぁい!!!

 

 

 私は更に足の回転を速め、腕も素早く振る事でスピードを上げる。周りの人々はあまりのスピードに驚いて目を向くか、風圧で舞い上がるスカートを悲鳴をあげながら手で押さえるしかない。やばい。興奮してきた。

 

 

 落ち着け私。

 

 

 ごめんなさい街行くスカートの女性たち。

 そして良かったな、街行く男性たちよ。

 私に感謝したまえ。

 

 

 なんてどうでも良いことを思いながらも足は止まらない。頭の中で地図を広げ、目的地までの最短ルートを作り上げながらそれに沿って走り続ける。

 

 

 目の前の信号を右に曲がり、三個目の十字路を左に、そして四個目の曲がり角を曲がれば────

 

 

 

 

「マチー!!!!」

 

 

 

 

 仲間が待っている

 

 

「大声で人の名前呼ばないでよ」

 

 

 でへへ、怒られちゃった☆

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 時刻は14時5分。

 私の隣を歩くピンク色の髪で鋭い目付きの女性──

 マチからの『有り難いお話』と指を詰められかけた後に、今回の目的であるお洋服ショッピングをする為のショッピングモールへと向かう。

 

 

「ていうか、なんで私な訳?

 買い物だったらパクやシズクでも良いんじゃない?」

 

 

 その道中にマチが此方をチラリと見ながら、何処か不服そうに言った。

 

 

「あー、確かにそうなんだけどさ……。パクは身長が大きくてモデル体型だから参考に出来ないし、シズクはお洒落に無頓着とまではいかないけど、あんまり興味無いからさー。」

 

 

 そう、あの二人相手では私がしたいようなお洒落とはベクトルや考え方が違うのだ。

 

 

 パクは182cmという高身長に細いウエスト、そして出るべき場所はしっかりと出ているという、その恵まれた体型を意識した着こなし、そして大人っぽい雰囲気の服を好む。

 

 

 ファッションに対する知識もかなり豊富でお洒落番長──もとい、お洒落スケバン(本人の前では絶対に言えない)なのだ。

 

 

 しかしそんな彼女のファッションを私が真似すればどうなるだろうか?

 

 

 身長もあまり高くなく、童顔な私がパクのような格好をしてもそれは『大人になろうと背伸びしている子供』になってしまうのだ。

 

 

 パクの知識量なら私に似合う服を選んでくれるだろうが、それでも人には趣味嗜好というものがある。

 

 

 現に昔、パクに買い物についてきて貰い、服を選んで貰った事があるが、どれも普段私が着ないような服、そして着ても違和感を抱いてしまうよなものばかりだった。

 

 

 可愛い系よりも落ち着いた美人系。

 明るい色合いよりもモノトーン。

 ストリートのダボダボよりもスマートに。

 

 

 うーん……ごめんよ、パク。

 貴女の服装は私には到底着こなす事のできない遠く及ばない次元なんだ………トホホ……。

 

 

 そしてもう一人、シズク。

 彼女は基本ジーンズに黒のロンTを着ていて、あまりお洒落に興味はない。唯一興味を持つのは指輪やイヤリングといった装飾品だろうか?生憎だが私は装飾品には興味がない。あっても腕時計くらいだが、もう持っているので必要ない。

 

 

 そしてパクと同様に彼女も両胸に爆弾を所持している。向こうが核爆弾だとしたら此方は爆竹程度だろう。

 

 

 くぅぅ、悔しいです。

 

 

 まぁね、わたすは胸は大きさよりも形が大事だと思うんですよ。

 

 

 でもシズクの胸って凄いよ。

 形もすごく綺麗。

 あれはね、勝てない。

  

 

 今度絶対揉みしごいたる!

 

 

 いや一体、何の話だよ。

 思いっきり話それちゃったよ。

 

 

 とにかく!

 シズクともあんまり趣味嗜好が合わない!

 ごめんね、シズク。

 

 

「なるほどね。それで私って訳だ」

 

 

 そう。

 そういうことなのですよマチ先生。

 

 

 彼女と私は体型が同じくらいだし、マチのセンスは良い。

 

 服装の趣味嗜好も似ていて、『仕事』以外のプライベートではストリート系の着こなしを彼女はしている。

きっと良い感じに私に似合いそうな服を身繕ってくれると思い、私は彼女に今回のショッピングの話をメールで持ち掛けたのだ。

 

 

 そして二つ返事で答えてくれたマチはやはり優しい。

 何故かメールの返信が4日後にきたけど。

 

 

 行くかいかないかを迷ってたとかじゃないよね??

 まぁ、それでも結果来てくれたんだから良いけどさ。

 

 

 そんな彼女は鋭い目付きや物騒な言動から怖い人という印象が強いが、身内には優しいし歳も近くて相談もしやすい頼れる女性だ。

 

 勘も良く当たるし。

 

 それは関係ないか!ぶわははは!

 いや~~兎に角、ほんとに良い人なんだよ~~!

 

 

「買い物は良いけどさ、あんまり私に近づかないでよ。

 間違って縫っても責任取らないから」

 

 

 前言撤回

 めっちゃくちゃ怖いですこの人。

 いやいやいや、

 いやいやいやいやいや、何言ってるんですか?

 物騒すぎですよマチ先生。

 貴女先生は先生でも、元不良の先生ですか?

 

 恩師と出会い、ぶつかり、そして救われて『今度は私が救う番だ!』っつって悪いことから足洗って先生になることを目指したパターンのやつですか??

 

 

「あ、あの……ひとつ伺いたいことがあるのですが……?」

 

「なに?」

 

「……一体それはどういう事でしょうか?」

 

「言った通りの意味だけど?自分の身は自分で守らないとね」

 

「……ま、ますます言っている事が分かりません」

 

「……どうせあたしに際どい下着や水着を着させようとしてたんだろう?」

 

「……オ、オホ、オホホホ、嫌ですわぁマチさんったら。私がそのような事をするわけないじゃないですか」

「こっち見て言いな」

 

 バ、バレてるぅぅぅ!!!

 厭らしく艶かしい際どいところを攻めたあれやこれやを着させようとしてたのが、バレてるぅぅぅ!!!

 

 な、なんで!?

 バレないように心音を出来る限りでコントロールしたり表情筋や動作にまで気を使ってたのにぃぃ!!!

 

 

「はぁ……。普段通りを意識しすぎて逆にぎこちなくなってる」

「……うぐっ!」

 

「目も血走ってるし」

「……ふぬぅっ!」

 

「頬赤いし」

「……あべしっ!」

 

「どうせあたしに際どい下着を~~らへんから鼻血出てた」

「……ひでぶっ!」

 

「指詰めるよ?」

「誠に申し訳ございませんでした。」

 

 だってマチに着てみて欲しかったんだもん。

 際どい下着や水着。

 

 あ~~あ、超ミニスカート、ホットパンツ、ガーターベルト、マイクロビキニ、その他もろとも遠退いた~!

 

 

「ユリってほんとにその名の通りだね。ジャポンじゃ女性の同性愛の事を百合って呼ぶらしいよ」

 

「へぇ~、そうなんだ。じゃあ私は私の名に誇りを持たなくっちゃね!」

 

 

 ちょっとマチ

 ため息つきながら額を右手で覆わないでよ。いや、ちょっと、なんで項を垂れてるの?

 

 一緒に楽しい百合ライフを送ろうよ!

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 時刻は18時30分

 

 

 マチに買い物を手伝って貰い、黒と白を基調とした革のハイカットのスニーカーに、黒地で横に白のラインが入ったジャージ、上は白のロング丈のカットソーでマチは私をコーディネートしてくれた。

 

 

 因みにお値段はかなり高額である。

 

 

 靴が高すぎて笑えないよ。

 何故高い良い靴を買ったのか、それはお洒落は足元からという考え方を私とマチがしているから。

 

 確かに安くてもデザイン性に富んだ良い靴もあるが、高くて良い靴を買えば靴が良い場所へと履いてる人を運んで行ってくれるのだ。

 

 

 そしてこの靴はマチが選んだ訳ではなく、私の一目惚れ。無理を言ってマチにこの靴に合いそうな服を選んで貰った。 

 

 

 いや~、にしても完璧。

 靴を最初に買い、そこから全体をコーディネートをしていくのは其なりに大変だと思う。

 

 それに自分では無く他人をコーディネートするのだ。

難易度は高い。

 

 それなのに私が満足いくようなコーディネートをしてのけたマチには尊敬の念を抱くと共に、頭が上がらない。

 

 靴を買った事を後悔はしていないけど……暫くはひもじい生活になりそうだなぁ。

 

 

 

 そう思いながらも目の前でフォークをクルクルと回転させてパスタを巻き付け、それを口へと運ぶマチを見つめる。

 

 

 う~ん……上品だねぇ。

 ただ食事してるだけなのに華やかで、

 そしてどこか色気のようなものを感じるねぇ。

 

 

 良い、良いよぉ、マチちゃん。

 もっとおじさんに全部をさらけ出しちゃおう。

 

 にしても、マチの食事風景をいつまでも見ていたいし、そのプリッとした唇に貪りつきたいよ。それかその綺麗な顎を触ったり、食べ物で少しだけ膨れた頬っぺたをプニプニしたい。

 

 

 ……いや、落ち着こう。

 

 

 唇に貪りつきたいは、はしたないよね。

 そうじゃなくて……もっとこう……上品にだね……

 チュッと触れて唇の感触を楽しむような……

 

 

「ねぇ、食べづらいしさっきから声に出てるんだけど」

 

 

 ハッと思考の海から意識を現実世界に浮上させると、そこには鬼の形相を浮かべながらフォークと私のステーキ用に置いてあるナイフを此方に向けているマチが居た。

 

 

 殺気が痛いです。

 気絶しそう。

 もしかしてオーラも飛ばしてる?

 

 なんか皮膚がピリピリするし、テーブルに置いてある私のグラスが割れたんですけど?

 

 グラスの中身だったオレンジジュースがテーブルに染みを作っちゃってるんですけど??

 

 

「ご、ごめんなさい」

 

 

 冷や汗を垂らしながら頭を下げ、精一杯の謝罪をする。ひぃ……久しぶりにマジな方で怒ってるよぉ……

 

 

「……次は無いよ」

「は、はいっ!!」

 

 

 助かったー!!!

 お慈悲をかけてくださった!!

 ふうぇ……ありがたやぁ……。

 涙が止まらないよぉ……。

 もうこれからは声に出ないように気を使わねばならぬな!

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

 ユリ=ユカミ

 

 

 最初見たときは生気が感じられない子だった。

 感情表現が乏しく、何かする訳でもなくいつも何処かをボーッと眺めていた。

 

 

 一応呼び掛けには反応していたが、呼びかけなければいつまでも同じ場所で虚空を眺めていそうだった。

 

 

 それでも私たちが『幻影旅団』として活動を始めた時は、珍しく興味を示した。

 

 そう仕向けたのは恐らく、パクと団長の仕業だ。

 理由なんか無い、ただの勘だけど。

 

 

 まぁここで大切なのは、ユリが『幻影旅団』の正規メンバーでは無いということ。ユリは非正規メンバーとして私たちをバックアップするような形でサポートに徹してくれている。

 

 

 良い奴だとは思うよ。

 現在では良く笑うようになったし、明るい女の子に成長した。まぁ……どこで同性愛者になったのかは分からないけどね。

 

 

 それはそうと私はユリに聞きたい事がある。

 今回、二人で買い物にいこうと誘われた時は正直乗り気じゃなかった。仮に襲われても撃退できる自信はある。

 

 まぁそんな事、ユリはしないだろう。

 

 

 それでも厭らしい目で見られたり、際どい服を着させられるのはたまったものじゃない。着る気は毛頭ないけどさ。

 

 

 とにかく。

 あたしがユリに視姦されるリスクを背負ってでもここに来たのは───

 

 

「あんた……『系統』が変わったらしいね」

 

 

 これを聞きたかったから。

 

 もし、仮に系統が変わったのだとしたら 

 彼女に何らかの影響があるのではないかと私は思う。

 

 その影響がどんなものかをこの目で見て、

 感じて、

 見極めたかった。

 

 だから私は今日ここまで来た。

 

 もうあの日のようなユリを私は見たくない。

 

 

 ユリはステーキを食べていた手を止め、フォークを置くと私を真っ直ぐに見据える。数度咀嚼し、口の中のステーキを飲み込むと、ウェイターが新しく持ってきたオレンジジュースを一口含み、飲み込んで喉を潤す。

 

 

「まぁね。新しく『誓約』を足したんだ。そしたら出来ることが増えてさ~、水見式してみたら葉が枯れて『特質系』になってた」

 

「へぇ……実際にあるんだ。系統が変わる事って」

 

「うん。激レアパターンだけどね。考え方とかも変わってきたよ。前までは理論的───というよりは屁理屈だけど、今は考えるのが面倒に感じるし、マイペースだったのが最近は他人に合わすようになったかな」

 

「ふぅん……。ねぇ、ユリ……別にそこまでしなくても良いんじゃない?」

 

 

 そこまで言って私はユリから視線を外した。

 今はユリをどうしても正面から見ていられなかった。

 今の彼女には目を当てられない。

 そんな顔しないでよ。

 折角笑えるようになったんだ。

 あんたには笑顔が似合ってる。

 

 さっきみたいな『無理矢理笑う』なんてこと

 しないでよ。

 

 

「確かにあんたと私たちの間には『正規』と『非正規』の壁があるかもしれない。けど、あたし達は仲間だし、皆あんたの事を───」

 

 

「マチ」

 

 

 ユリが私の名を呼ぶ。

 それは私の口を止める程の大きな声ではなく、寧ろ小さくてそこらの雑踏でかき消されてしまう程の声量だった。しかし、そこには有無を言わさぬ何かがあることを私は感じとる。  

 

 私は口をつぐんだ。

 

「……マチはやっぱり優しいね。私の事を心配してくれてる」

 

「……別にそんなんじゃないよ。ただ、あんたに死なれたら夢見が悪いだけだ」

 

「それでも、だよ」

 

「あんたのそういうとこ、大嫌い」

 

「知ってる。何年一緒に過ごしてきたと思ってるの?」

 

 そう言いながらも微笑むユリ

 その微笑みは十数年経って初めて私に魅せるような笑顔だった。それはとても可愛らしく、どこか儚くて消えてしまいそうで思わず見惚れてしまうような───

 

 

「あれ?マチ、ちょっと顔赤いよ?」

「…………うっさい」

「あれ!?あれれれれ!?もしかしてこの私の可憐な笑顔に見惚れちゃったのかなぁ~???」

「うっさい!!!!」

「はひぃっ!ごめんなさい!!」

 

 

 クソ!

 やっぱり来なければ良かった!!

 

 

 苛立ちから私はテーブルに置いてある残り僅かだった水を飲み干した後に、ユリのオレンジジュースに手を伸ばし、中身を一気に飲み干してやった。

 

 

「あぁー!!私のオレンジジュースがあああああ!!!」

 

「あの……お客様、誠に申し訳ございませんが……大きな声でのお話は他のお客様のご迷惑になりますので、ご遠慮ください」

 

「あっ、は、はい。ごめんなさい……。もう!マチのせいで怒られちゃったじゃん」  

 

 

 そう言いながらユリがプリプリ怒りながらも此方を睨み付けているが、知ったこっちゃないね。ざまあみろ

 

 

 

 




靴と上のカットソーのイメージは、
Ri○k Owe○sです。
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