刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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やっと主人公の戦闘シーンが書けた。やりたかったことの一つですよハハハ( ´∀`)


第6話 拘束の魔手

台東区の近辺。小規模な宿泊施設に狙いを定めて地図の検索にかける。

 

「……かかった」

 

商店街の中に備えられた格安のホテル、条件に一致するのはその一つだけだった。決勝戦の時間から可奈美の電話までの時間から考えれば車であっても、移動できる距離はある程度短くなる。制服や御刀を隠すための偽装のことも考えるとさらに短いだろう。深夜に出歩いて警察の世話になるような危険を犯すとも思えない。

 

明良は適当にレンタルしておいた車に乗り、位置情報を見ながら発車する。数十分ほど走らせると、目的地の数十メートル近くのところに到着した。接近を察知されてはならないと、見えにくい位置に駐車し、ホテルまで徒歩で移動する。

 

「ただの徒労に終わらなければいいんですがね……」

 

このホテルが全くの的外れという可能性もある。だが、さっき電話で放送の声が聞こえてきたということはあの時台東区近くにいたことは確かだ。可奈美が舞衣を騙すために偽装工作を行ったという線は否定していい。

ホテルに入ると、フロントに座っている四、五十代の女性に声をかけた。

 

「失礼します、少しお尋ねしたいことが」

 

「は、はい」

 

明良の冷たい雰囲気に少々の怯えを見せている女性。だが、そんなことは些細な問題だ。早く聞きたいことを聞かなければ。

 

「こちらに、この写真に写っている中学生くらいの少女二人が宿泊していませんか?」

 

「えっ? ええと……」

 

明良は操作資料にあった可奈美と姫和の顔写真を見せながら尋ねる。

女性は慣れない質問に答えあぐねていたが、すぐに表情を切り替えてマニュアル通りの返答をする。

 

「失礼ですが、どちら様ですか? お客様の個人情報はお教えできないんですが……」

 

やはり無理だ。そもそも、見ず知らずの人間に客のことを簡単に話す方が非常識か。

明良は懐に隠していた一枚の紙を突きつける。

 

「美濃関学院の刑事部代理の者です。改めて、先程の事――こちらの容疑者二名についてお伺いします」

 

刀剣類管理局に足を運んでいた美濃関学院の学長に事情を説明し、捜索許可を貰っておいたのだ。

女性は厄介事絡みと理解したのか、あっさりと口を割ってくれた。ここに宿泊していると。

 

受け取ったマスターキーで二人の宿泊しているという部屋を解錠した。大きな音をたてないようゆっくりとドアを開け、部屋に踏み入る。

 

 

※※※※※

 

 

結果だけ言えば、もぬけの殻だった。

ホテルへの踏み込みから一夜開けた朝、明良は公園のベンチで次の計画を練っていた。あの部屋にあったのは、使用済みで片付けられていない布団が二組に、ゴミ箱に捨てられたコンビニ弁当二つ。

追っ手を警戒していて慌てて逃げたのか、それとも最初から長居するつもりはなかったのか。だが、少し前まであの部屋にいたことは確かなのだ。

 

「紛れるとすれば、夜の闇か……人混みか」

 

昨日明良がホテルを訪れた時間から考えると、睡眠時間は三時間もない。十分な休息をとるためにも別の宿を探すはずだ。そして、日中での移動ならば紛れるのは人混みの方だ。

 

「あとは、この人物像」

 

昨日のホテルのフロントの女性から聞いた二人の服装と持ち物から、住民に聞き込みをするのも居場所の特定に繋がる。かなりアナログな方法だが、今はこれが近道だろう。

 

「……!?」

 

鼻を刺され、曲げられるような匂い。例えるなら塩素と硫化水素が混ざったような匂いだ。『あれ』が近くに出てきた証拠だ。

 

「小さい……が、近い」

 

何度も嗅いでいて嫌悪感を覚えるが、今回は都合がいい。

 

――利用させてもらいますよ、荒魂さん。

 

 

※※※※※

 

 

「特別祭祀機動隊です! 早く避難してください!」

 

蠅のような羽と体躯、全長3メートルはあろう荒魂が町の神社の境内に出現していた。

可奈美と姫和は羽織っていた黒いパーカーを脱ぎ捨て、御刀を仕舞っていたギターケースを放り出し、抜刀、写シを張る。

昨晩、宿を特定された二人は人の多い原宿まで移動し、時間を潰しながら今後の作戦を立てていた。そんな折、姫和のスペクトラム計がこの荒魂を感知したのだ。

 

「可奈美は奴を牽制しろ。私が止めを刺す!」

 

「わかった! てぇぇやぁっ!!」

 

可奈美は荒魂に突進し、御刀で斬りかかる。荒魂はその動きを察知し、羽を振動させて空中に舞い上がる。

 

「はぁっ!」

 

その隙に荒魂の背後に回っていた姫和が胴体に刃を突き立て、その身を引き裂く。

荒魂の身体に一筋の切れ目が入り、姫和は両足から綺麗に地面に着地した。

 

「やったの!?」

 

「いや、浅い」

 

傷こそ負わせたが、薄皮一枚切った程度だ。まだ荒魂は空中から攻撃の隙をうかがっている。普段ならこの程度の荒魂は一太刀で祓えるというのに、折神紫に放った『一つの太刀』のせいで体力も精神力も消耗している。十分な力を発揮できない。

 

「まずいよ、逃げられ――」

 

可奈美が自分たちに背を向けて飛び去ろうとする荒魂を追いかけようとするが、ある違和感に気づいた。

 

「な……誰、だ?」

 

隣の姫和も唖然としている。荒魂に対してではない。

 

荒魂の上に乗っている黒いスーツを着た銀髪の青年に、だ。

 

「ご苦労様でした」

 

青年は曇りのない労いの言葉と同時に荒魂の背中に左手を叩きつける。鈍い音と甲高い断末魔が周囲に響き渡り、荒魂の身体は飛行能力を失って落下。

上に乗ったいた青年は落下の衝撃を少なからず受けたにも関わらず、そんなことは歯牙にもかけていない。痛みなど微塵も感じさせないほど涼しい顔で二人の前に立ち塞がった。

 

「いらっしゃいませ、お二方」

 

荒魂を突き落とした青年――明良は左手をハンカチで拭う。さっきの攻撃で手に付着した汚れを取っていただけなのだが、目の前の可奈美と姫和はそんな動作さえ不気味そうに見ている。

 

「あ、明良さん……? 何でここに?」

 

ようやく可奈美が口を開き、乱入してきた人物の名前を呟く。姫和もその言葉に反応し、弛緩していた身体が解けたようだ。

 

「知り合いか、可奈美」

 

「う、うん。私の親友の家の執事さんなんだけど……何でここがわかったの?」

 

「荒魂がここに現れたのを嗅ぎつけまして。お二人なら、ここに荒魂を倒しに来ると思ったのですが……狙いが外れていなかったようで安心しました」

 

明良の爽やかな笑顔も可奈美と姫和には『怪しさ』が顔を出しているように見えた。

 

「初めまして、十条姫和さん。黒木明良と申します。以後お見知りおきを」

 

明良はいつも通り、礼儀正しく挨拶する。だが、姫和の剣呑な視線は一層強まった。

 

「親友の執事……ということは、お前は美濃関の追っ手か? いらっしゃいませ、とは随分な皮肉だな」

 

「訂正が二つあります。第一に、これは美濃関学院ではなく私のご主人様のご意向です。第二に、我々はこの荒魂に初対面の招かれた客人同士。ぜひともご親睦を深めさせて頂きたいのです」

 

姫和はいつの間にか下ろしていた御刀の剣尖を上げ、正眼に構える。敵と認識した証だ。

 

「私を斬る前に聞かせて頂けませんか? 昨日の貴女の行動の理由と、その目的について」

 

「……答える義理があるのか」

 

「義理はありません。しかし、知ってほしいのではないですか? 貴女が斬ろうとしたのが何なのか」

 

「……!? お前が、なぜ……どこまで知っている!?」

 

「それこそ答える義理はありません。今の私の目的は貴女の目的を知り、可奈美さんの減刑に尽くすことです。お二人とも、投降して頂けませんか?」

 

姫和は御刀を強く握り締め、刺突の構えに移る。完全に攻撃の体勢に入っている。

 

「なぜ私たちがここに来ると知っていた? 私たちが逃走中だということくらい知っているだろう」

 

「逃走中だろうと、ですよ。十条さんが御当主を狙った理由から考えれば、荒魂をみすみす逃すはずがないとわかります。あくまで私の推測ですが」

 

姫和の手が僅かにぶれる。明良の言葉が姫和の真意をほとんど見透かした上でのものだと、彼女自身察しているからだ。だが、そうだとしても明良が敵対していることは事実だ。

 

「悪いが、無駄話に付き合っている暇はない。痛い目に遭いたくないならそこをどけ。私とて、人間を斬りたくはない」

 

「お断りします」

 

「待って、姫和ちゃんも明良さんも!」

 

可奈美が二人の間に散る火花を感じ取り、割って入る。

 

「来るな、可奈美!」

 

「っ! 姫和……ちゃん」

 

大声で制止させられ、可奈美は一瞬たじろぐ。姫和は改めて御刀を鋭く構え直した。

 

「この男のさっきの動き、どう考えてもただの人間じゃない。可奈美、お前は知らないのか?」

 

「ううん、知らないけど……明良さん、さっきのって」

 

「申し訳ありませんが、お答えできません。このことは舞衣様にも秘密にしていますから」

 

明良は人差し指を口の前で垂直に立てて、返答を拒否する。姫和からの視線にさらなる敵意が乗せられた。

 

「私からも質問だ」

 

「何でしょう?」

 

「お前は何者だ? なぜ荒魂を倒すことができた? お前も……刀使なのか?」

 

明良は姫和からの質問に何度か瞬きをして黙ったままだったが、やがて小さくため息をついた。

 

「刀使? いいえ、違います」

 

明良は先程使った左手――荒魂を一撃のもとに沈めた手を姫和に向けて伸ばし、掌を見せる。

そして、今までとは一転。少なくとも外見は爽やかで清潔感のあった笑顔は、妖しく、強かなものへと変わっていた。

 

「まさか、荒魂を倒すことが出来るのが刀使だけだとでも?」

 

「……!!」

 

一陣の風が吹いた。姫和が彼への敵意を爆発させたのだ。

逃走のためというのもあるが、何よりも本能が告げていた。『この男は危険だ』と。

今できる最高速の迅移で突進する。刀身ではなく、柄頭の部分での突き。刀使でも荒魂でもないただの人間ならばこれで沈む。そのはずだった。

 

「なん……だと……!?」

 

姫和の御刀の柄は、明良の鳩尾に届く寸前で完全に停止していた。明良はまるで悪戯をあしらうかのような所作で姫和の手を左手で掴み、攻撃を受け止めていたのだ。

 

「これが痛い目、ですか。お優しいんですね」

 

「っ!!」

 

姫和は力ずくで明良の手を振りほどき、後方に跳んで体勢を建て直そうとする。だが、すぐにその行動が悪手だと気づかされた。

明良は左手を背中側に引き絞り、姫和に向けて突き出した。それだけならば問題ない。すでに明良と姫和の間には三メートル以上の距離が開いている。既に彼の手が届くような距離ではない。普通の人間の腕ならば、だが。

 

「捕らえろ」

 

低く呟く明良。それに呼応して、彼の左の掌から赤黒い粘液が流れ出る。粘液は彼の肘までを籠手のように覆い、指を鉤爪状に変形させる。

それに伴って左腕の肘から先はみるみる肥大化し、姫和の胴体を腕ごと掴んで拘束した。

 

「がっ……!!」

 

「どうやら、あのときの一撃で相当消耗しているようですね。以前より遅い」

 

目の前の青年の力はどう考えても人間のものではない。荒魂を一撃で屠る筋力、鉤爪状の巨大な腕。怪異や妖怪の類、まるで――

 

「さあ、手短に済ませましょう。舞衣様に知られる前に」




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