刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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タイトルから明るい話だと思った?
残念、色々ぶっ飛んだ回です。


第8話 笑顔

昔から嘘をつくのは得意だった。自然と、気がついたときには出来ていた。

 

両親と名乗る男女から頬を叩かれ、足で顔を踏まれ、拳で腹を殴られていた。

 

大体三日に一回程度の間隔で、多いときには一日に二回来るときもあった。

わざわざ地下室まで足を運び、他に何をするでもなくただ私をいたぶりにやって来る。

 

世間一般の夫婦は自分たちの息子に対して『こういうこと』をするのが普通なのだろうか。そう疑問に思った私は暴行をしている最中に尋ねてみた。答えはすぐに返ってきた。

家族のため、正義のためにやっていると答えられた。やけに嬉しそうで、目を輝かせていたのは今でも印象に残っている。

 

部屋に入ってきたときは苛立ちと憎しみに満ちていた彼らの表情も、終わって帰るときは結構穏やかになっている。それもこれも、私が演技をしていることが手助けとなっているのだろう。

 

彼らに優越感を味あわせるため、自分が正しく、上に立つ存在であると思わせるためには、自分が弱者であることを相手にアピールすればいい。

 

孤独で、無力な、怯えている少年になった。そうすれば、比較的早く暴行は終わる上に相手の満足度も大きい。私も勉強と鍛練の時間を削られずに済む。

温度や地形に適応するために生物の形状や性質が変化するようなものだ。この環境に適応するために、私が身につけた技術の一つ。

 

――そうだ。私に必要な感情は一つでいい。それ以外の感情は勝手に操れるようにしておこう。

 

私も今年で十三歳。あと四、五年しかないのだ。もっと体力と技術を磨かなくては。

余計な感情にも、希望にも、早く見切りをつけてしまおう。

 

 

※※※※※

 

 

「先程渋谷区に出現した荒魂を、衛藤可奈美、十条姫和の両名と共に討伐。しかし、あと一歩のところで取り逃がしました。報告は以上です」

 

「……時間の無駄でしたわね」

 

可奈美と姫和を見送ったあと、舞衣と明良は刀剣類管理局の捜査本部に戻り、今回の件の報告をしていた。

無論、本当のことを話すわけにはいかない。荒魂の討伐に向かい、確保しようとしたが逃げられたという筋書きにしておいた。報告を受けた親衛隊の此花寿々花は残念そうにため息をつく。

 

「居場所を特定できただけでも十分よ。二人とも休んでいて」

 

同じく、捜査本部のモニター席に座っていた美濃関の羽島学長からは労いの言葉を貰ったが、親衛隊の二人、真希と寿々花の顔は苦々しい。ようやく掴んだ二人の手がかりが、またなくなったのだ。手で叩いて殺したと思ったはずの蚊にまんまと逃げおおせられたような気分だろう。

 

「では、私たちは失礼します」

 

明良と舞衣は一礼して部屋を後にしようとする。が、向かおうとした出口のドアがノックもなしに乱暴に開けられ、思わず足が止まる。

 

「何をやっている、親衛隊!!」

 

一人の女性が声を荒げながら入室する。黒髪に赤いスーツ、ヒールを履いているせいか結構な長身に見える。年齢は三十代半ばといったところか。

そして、何よりその高圧的な態度と口調だ。部屋中のほとんどの人間の表情が一気に嫌悪感を含んだものに変わる。

 

「高津学長、いらしていたんですか」

 

真希がその女性の名前を呼ぶ。高津学長という名前から推察するに、彼女は鎌府女学院の高津(たかつ)雪那(ゆきな)だと明良にはわかった。

 

――この態度と学長という立場……本部の協力は鎌府、彼女が現場指揮官ですか。

 

高津学長は舞衣を一瞥すると、早足で詰め寄り問い質す。

 

「貴様が報告にあった刀使だな!? なぜすぐに応援の要請をしなかった!」

 

舞衣は責めるような高津学長に気圧されてしまうが、咄嗟にそれらしい理由を述べた。

 

「それは……ノロの回収を優先すべきだと判断したので」

 

「ノロなど放置しろ!」

 

「………」

 

明良は横でそれを聞いていたが、流石に黙って聞いているわけではない。

 

「あろうことか、荒魂の鎮圧に協力するなど……まさか、逃亡を幇助(ほうじょ)したのではあるまいな!?」

 

「いえ……そんなことは……」

 

高津学長は舞衣の眼前でギラギラした目つきと罵声で彼女を威圧する。舞衣もまだ中学生の少女だ。大人から暴力的な姿勢で怒鳴られれば萎縮してしまう。

 

――いい加減にこの女をどうにかしましょうか。

 

明良は二人の間に立ち、話を中断させた。

 

「高津学長……と仰いましたか。その辺りで、抑えていただけませんか?」

 

「何だ、貴様は?」

 

高津学長は突然の乱入者に驚き、明良にも睨みを利かせる。だが、そんなもの明良にとっては些事でしかない。逆に明るく微笑んだ。

 

「柳瀬家の執事の黒木明良と申します。この度は、逃亡者二名の捜索に舞衣様と協力して取りかからせておりまして」

 

「……ふん。それで、何か言い訳でもするつもりか? 逆賊をみすみす逃した貴様の主とやらの」

 

一瞬、明良の場違いな笑顔に顔を歪めるが、高津学長はすぐに尊大な態度に戻る。

 

――プライドだけは一丁前ですか、小心者さん。

 

「あまり舞衣様を責めないでください。舞衣様は市民の方々の安全と荒魂の再出現の危険性を踏まえた上での行動を取られたまでです。刀使としては正しい行動では?」

 

「正しいだと? 刀使として本当に正しい行動というのはな、紫様のために動くことだ! 貴様たちの今回の失態は明らかだろう!」

 

「ですから、それは私一人の責任なのですよ」

 

「……! 明良くん!?」

 

隣の舞衣が割って入ろうとするが、明良は優しくそれを制し、話を続ける。

 

「舞衣様がノロの回収班の要請をしている間、私が両名を捕まえる手筈だったのですが。相手は私に増援を呼ぶ暇を与えなかったので」

 

「それでも、隙をついて連絡する程度は――」

 

「それも、不可能でしたよ? 私は所詮ただの執事、人間です。刀使二人を相手に一瞬でも隙を見せれば命の危険すらありました。なにしろ、彼女たちは親衛隊のお歴々を退け、逃げおおせるほどの手練れですからね」

 

チラッと真希と寿々花の方に視線を向ける。二人とも素知らぬ顔をしているが、僅かに眉間に皺が寄る。

 

「嫌味のつもりか? 黒木明良」

 

「まさか。ですが、そう聞こえてしまったのでしたら、謝罪いたします」

 

真希が低い声色で聞いてくるが、すかさず受け流す。改めて、高津学長に向き直り、詰め寄り、彼女の瞳を笑顔で覗き込む。

 

「高津学長、私が申し上げることではないと思いますが、今すべきことは御当主のために逃亡者の行方を突き止めることではないですか? 何でしたら、舞衣様の分の叱責も私が全て受け止める所存ですが……いかがなさいます?」

 

「……! も、もういい、貴様たち二人は宿舎で待機していろ! 話は終わりだ!」

 

高津学長は明良と距離を離すように急いで後ずさり、出口を指差す。

 

「そうですか、ご親切に感謝いたします」

 

明良は笑顔で一礼。何やら高津学長の顔がひきつって小刻みに震えている。冷え性か何かだろうか。

 

「では舞衣様、参りましょうか」

 

「う、うん……」

 

明良の誠意を持った説明によって、事なきを得た二人は退室し、宿舎へと向かった。その途中、舞衣が話しかけてきた。

 

「ねぇ、明良くん」

 

「何でしょう?」

 

「さっきのこと……何であんな風に高津学長に反抗してたの? 私は別に……」

 

申し訳なさそうに舞衣は口ごもる。

 

「高津学長に(なじ)られていればよかった、ですか? それは執事として容認しかねます」

 

明良は努めて冷静に、きっぱりと告げる。

 

「貴女が謂れのない暴言に晒されている光景など、私には耐えられません。それに――」

 

そこまで言って、明良は言葉を止めた。そして、危うく口にしてしまいそうになった言葉を喉に流し込む。

 

「それに、何?」

 

「いえ、何でもありません。それよりも、お疲れでしょう? お部屋までお送りします」

 

そうして、やや早足で移動していく二人。明良が珍しくほんの少しだが動揺している姿があった。

 

――重なって見えたから、だなんて……言えるはずがないでしょう。

 

 

※※※※※

 

 

「……ん」

 

昨日、一昨日と可奈美と姫和のために奔走していたせいで、かなり疲労が溜まっていたようだ。舞衣は何の夢を見ることもなく、深い眠りから覚めた。部屋の壁掛け時計の示す時刻は午前八時。

 

「可奈美ちゃん……」

 

鎌倉を訪れた最初の夜は、隣の布団に可奈美が横たわり、朝は彼女の寝顔を眺めていたのに。今となっては折神家から用意された個室で一人夜を明かしたのだ。

舞衣にはまだ、多少の後悔が残っていた。理由があったとはいえ、親友を重罪人として逃亡させたこと。

 

「明良くん……私、心配だよ」

 

寝返りを打ちながら、隣の部屋の執事に届くはずのない声を漏らす。心配ない、何とかすると自分を励ましてくれた彼に弱音を吐いてしまっている。

普段ならば誰かに表立って頼ることはない舞衣だが、独り言で勝手にそういう気持ちを抱くことは許されるだろう。明良の耳に届きでもしたら、余計な心配で彼の手を煩わせることは間違いない。

 

「よしっ!」

 

もう悲しんではいられない。姫和に可奈美を任せると決め、恩田累の住所の書かれたメモを渡したのだ。もう、後戻りはできない。今やるべきことは皆で無事に帰ることだ。そのために出来ることをやろう。

決意を胸に、舞衣は勢いよく状態を起こして飛び起きる。

 

「……ん?」

 

そのはずだったのだが、飛び起きた彼女の視界の右側に映った物体が十秒ほど思考力を失わせた。

 

「おはようございます、舞衣様。朝食の準備ができていますよ」

 

「……!?」

 

何かの見間違いかと思った。寝惚けているのか、幻覚でも見ているのか、あまりの寂しさからエア明良でも出現させてしまったのか。何故かはわからないが、これは現実だ。

いつもの黒スーツと黒ネクタイ姿の明良が鍵のかかった舞衣の部屋の、寝床の隣に正座して待ち構えていたのだ。しかも、満面の笑みで。怖い。

 

「あ………あ……きら、くん!? 何で、何でここに!?」

 

「舞衣様が危険に晒されているのではないかと気が気でなくて、合鍵をご用意させていただきました」

 

明良はポケットからキャンディでも出すかのように、しれっとこの部屋の鍵の複製品を取り出す。本当にいつの間にやったのかと疑問だったが、それよりもやるべきことがある。

 

「てぇい!!」

 

「あっ……」

 

舞衣は忍者のような素早さで明良の手に握られた合鍵を奪う。明良は残念そうに舞衣に取られた鍵を見つめる。

 

「舞衣様……そんな……」

 

「そんな、じゃありません!」

 

舞衣は顔を赤くしながら鍵を胸元に掻き抱く。明良のおもちゃを取られた子供のような表情に若干の罪悪感を抱かないでもなかったが、それでも返すわけにはいかない。

 

「お、女の子の部屋に忍び込んで寝顔を覗くなんて変態さんみたいだよ、もう!」

 

「とんでもない……私が変態だなんて。私はただ、いついかなる場合であろうと、舞衣様のお側で危険からお守りしようとしているだけです!」

 

「今のところ一番の危険は明良くんだよね!?」

 

今まで彼からは『こういう』片鱗が見えていたが、今回のことで浮き彫りになったような気がする。

 

「それに、私が真に寝顔を拝見させていただきたいと思っているのは舞衣様だけです。普段とは違う、無防備で無邪気な舞衣様の就寝中のお顔に心を奪われ、そして、心の栄養として脳内に保存することが咎められることなのでしょうか!」

 

「それ開き直ってるよね!? 論点が何だか違う!」

 

埒が明かない。というか、何故朝から自分の執事――もとい、変態に片足を踏み込みかけている人物とこんな争いを繰り広げているのだろう。

一旦終わりにして制服を着よう。そう思ってハンガーに掛けておいた制服を探す。

 

「制服でしたら、昨日の内に洗濯、乾燥、アイロンまで済ませております。どうぞ、こちらに」

 

察した明良が側に置いていた彼の鞄から舞衣の制服を取り出す。

 

「お召し物はこちらでお預かりいたしますので。では舞衣様、私がお着替えを手伝わせていただき――」

 

力ずくで追い出した。




イケメンでも許されないことってあるんですね(断言)
十三歳の女の子の部屋に忍び込む男、という犯罪の臭いしかしない内容ですよ、ヤベー( ´∀`)

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