とまあ小話はともかく、オリジナルの考えやら何やらが出てきます。おかしいとこもあるかもしれませんが多少はご容赦を。明らかに矛盾してるとこあったら指摘してくださってもOKです!
「あれ? 姫和ちゃん、何か鳴ってない?」
「そういえば……」
舞衣と明良の二人と一悶着あった後、可奈美と姫和は元美濃関学院出身の女性、
というのも、可奈美が舞衣から受け取ったクッキーの包み袋の中に入っていたメモが原因だ。そのメモに記されていた電話番号に連絡したところ、その累という女性に繋がり、匿ってもらえることになったのだ。
それから一夜明け、仕事に向かった累の代わりに二人で部屋の掃除をしようということになった。その最中に部屋に響いた電子音に一旦手を止めた。
「! これは……」
音の出所は姫和のポケット。そして電子音と共に感じる振動。ここまでくればわかる。携帯電話だ。
「姫和ちゃんの?」
「いや、違う。私のものは破棄したし、見たことのない機種だ」
黒いハードカバーの付けられたやや小さい携帯端末。刀剣類管理局から支給されている携帯端末は足がつくと考えて破棄しておいたのだ。当然、可奈美も持っていない。
「えっ、明良さん……!?」
可奈美が携帯端末の画面を覗き込み、電話の発信者の名前を目にして動揺する。発信者には『黒木明良』という表示。姫和にとってはどちらかと言えば敵に近い相手だが、今更彼が敵対してくるとは思えない。むしろ、無視すれば何をしてくるかわからない相手だ。何より、何故こんなことをしてくるのか詳しい話を聞きたい。
警戒しながら姫和は応答のアイコンをタップし、携帯端末を耳に当てる。
『こんにちは、壮健そうで何よりです』
爽やかな、軽やかな風のような声。しかし、昨日のやりとりを考えるとその中に得体の知れない感情が混在しているような気がしてならない。
『電話に出る余裕があるということは、恩田累さんとは接触できたようですね。良かったです』
「お前……これはどういうことだ? そもそも、一体いつこの携帯を渡した?」
『昨日、貴女の身体を掴んでしまったでしょう? その際に服に忍ばせておきました』
姫和が明良の赤黒い異形の腕に掴まれて身動きがとれなくなっていたときだ。あの時は彼の異様な姿ばかりに注意を割いていたせいで自分の懐の中など気にしていなかった。
『目的があったとはいえ、女性の服をまさぐってしまったことについては謝罪しましょう。後日改めて、ですが』
「そんなことはどうでもいい。何のためにこんなことをしている?」
圧を込めて電話口の向こうにいる青年に問い質す。事と次第によっては彼が未だに二人を追っている可能性も低くないのだ。
『ご安心ください。私はもう貴女方を捕らえるつもりはありません。むしろその逆です』
「逆……?」
『とりあえず、その話をする前に、聞いておかなければならないことがあります。その場に誰かいますか?』
隣には可奈美。累は仕事で留守にしている。当然、他には誰もいない。一応ベランダや玄関の外も確認したが人の気配はない。
「可奈美だけだ、周りには他に誰もいない」
『そうですか。ではスピーカーにしてください。可奈美さんとも話がしたいので』
一旦耳から携帯端末を離し、スピーカーを入れる。これで隣の可奈美とも話せるようになった。
『切り替わりましたか?』
「替わってるよ。それで明良さん、どうしたの?」
『はい、実は貴女方に協力しようと考えているのです』
思いもよらぬ提案に姫和は怪訝そうな表情で返答する。
「どういうつもりだ」
『ですから、私が貴女方の逃亡の手助けをするということです』
「それって、明良さんと合流するってこと?」
続けて可奈美も聞いてくる。電話口から帰ってきたのはどこか残念そうな雰囲気を含んだ声だった。
『いえ、残念ですが合流はできません。今はあまり長い間舞衣様の近くを離れるわけにはいけないので。代わりに、情報を送ります』
「情報だと?」
『はい。刀剣類管理局の捜査の進行状況――追っ手の規模、貴女方の居場所の掴み具合、協力機関に至るまで可能な限り』
「本当に!? ありがと、明良さん!」
可奈美はやけに喜んでいるが、姫和は逆に明良に対する不信感が強まっただけだ。彼の提案の聞こえが良いからこそ、尚更に。
「納得できないな。何故私たちに協力する? お前は昨日の私たちの話を鵜呑みにしたのか? 嘘をついているわけではないが、簡単に信じられるような内容じゃない」
彼は昨日、自分の主人の命令だったとはいえ姫和に攻撃をしてきた。つまり、あの時点では二人を捕らえるために動いていたはずなのだ。
それなのに、昨日の今日で『折神紫が大荒魂である』という話を信じたというのか。この話には現時点では物証などない。主人の親友である可奈美の言葉だから信じたと考えられなくもないが、あの冷静沈着な男がその程度でこんな行動に出るというのは違和感が拭えない。
『信じていますよ。なぜなら、折神紫が荒魂であることは私も確認しましたから』
「なっ……!?」
「え……」
可奈美も姫和も激しく狼狽した。何と言ったんだ彼は。
まるで冷蔵庫の残り物を確認する程度の声色で言ったのだ。ハッタリや冗談か何かかと思ったが、続けられた説明はそんな懸念を払い去った。
『ご存知とは思いますが、私は少々人並外れた力を使えます。その力の一つとして、私は荒魂の匂いを察知することができます』
「荒魂の……匂いだと?」
聞いたこともない。ノロの引き合う性質を利用したスペクトラム計や、それをデジダル化させたスペクトラムファインダーとも違う。人間が荒魂を自力で察知することなど出来ないはずだ。
『尤も、ノロの分子が空気中に漂っているわけではありません。実際の現象で言えば共振のようなものですね。折神紫からは非常に強力な匂いを感じました。それこそ、ただの荒魂の比ではありません』
「やっぱり、荒魂……なんだよね? 御当主様は」
『でしょうね。付け加えておくならば、親衛隊の面々もクロです。彼女たちからも荒魂の匂いがしました』
「親衛隊も……!?」
それは初耳だった。倒すべき敵は折神紫だけかと思っていたが、親衛隊は彼女の駒というよりも協力者に近い位置にいるのか。
『とは言っても、荒魂の匂いは折神紫よりも弱い……ノロを人体に混入させているのでしょうね。彼女たちは折神紫の正体を知っている上で戦いを挑んでくるはずです。説得はしない方がいいでしょう』
「そうか……わかった」
一先ず、彼なりの根拠は理解できた。だが、肝心の疑問が解消できていない。
「それで、一体どういう理由だ。お前がそうまでする理由は?」
『理由……ですか』
軽いため息の音。彼が少々言い淀んだのが感じ取れる。
『理由は三つです。まず一つは、貴女方が今捕まると大変なことになる可能性が高いからです』
「大変って……そりゃあ捕まったら大変なのはわかるけど……」
可奈美がよくわからないと唸っている。明良は『順番に言います』と挟んでから説明を始める。
『今回の件、刀剣類管理局は警察はおろか政府からの介入も全て拒否しています。おかしいとは思いませんか?』
「確かに妙だな。私たちをすぐにでも捕まえるつもりなら協力を要請するのが自然のはずだ」
『そうです。今回十条さんが起こした一件は第三者から見れば殺人未遂。それも刀剣類管理局局長となれば警察機構や政府要人にも顔が利く立場です。協力を要請する理由としては十分のはず。それをしないのは何故か……』
「刀使が大きな問題を起こしたらイメージが悪いから、とかかな?」
可奈美が言っているのも間違いではないだろうが、二の次の理由だろう。もっと重要な理由がある。
『もしも協力を要請すれば、警察としては犯行の動機――怨恨などの線も視野に入れて捜査するはずです。ましてや、あの衆人環視の中で殺害に走る動機となれば並大抵のものではないと普通は考えます。
仮に、折神紫や親衛隊に関する調査が警察によって行われれば彼女らの正体が露見する恐れがある。それを警戒しているのでしょう』
思えばおかしかった。テレビや新聞などのメディアを確認しても二人の顔も名前も発表されない。どころか、世間的には折神紫の暗殺未遂そのものがなかったかのように扱われている。
「それが私たちの危険とどう繋がってくる?」
『これが確かならば、折神紫は貴女方を捕らえた後、何としてでもその口を塞ぎにかかるでしょうね』
「その、明良さん……塞ぎにかかるって……どういう風に?」
恐る恐る可奈美が聞いてくる。答えは大体出ているのだろうが確認せずにはいられないようだ。
『最低でも記憶を失わせる程度のことはしてくるでしょうね。悪ければ拷問や終身刑、最悪の場合は殺処分されるかと。そうなれば真相は闇の中となり、荒魂に世界が支配されることになる』
「そんな……」
『一昨日、十条さんが親衛隊の獅堂さんに斬り伏せられて写シを剥がされた際、彼女は続けて生身の十条さんを斬り殺そうとしていました。写シの有無に関わらず彼女たちは攻撃してくるでしょうね』
二人には何となく理解できていた。あんな事件を起こし、逃避行をしている時点で相手が手加減などしてくるわけがない。斬られることを覚悟はしていたが、言葉にされることは別の恐怖を産み出すことになる。
「……わかった。それで、次は?」
『二つ目の理由は単純に、舞衣様のためということです』
確かに、今度はあまりにも簡潔でなおかつ彼らしい理由だった。
『貴女方にもしものことがあれば、あの方は酷く悲しみます。あの方の身を守ることができても、気持ちを蔑ろにするのは本意ではありません』
「そうだよね……舞衣ちゃん、心配してる……よね」
可奈美が離ればなれになった親友に申し訳なさそうに呟く。覚悟を決めて姫和と同行していても、舞衣のことを見捨てたわけでは決してない。明良はもちろん、可奈美にとっても舞衣は大切な人だ。
「貴女方、とは何だ。私は柳瀬舞衣とは別段親密なわけじゃないだろう」
『あの方は優しい』
姫和の何処か突っぱねるような感じの言葉を明良は一蹴する。
『表に出していないだけで、人に弱い面を見せないようにしているだけで、内側に押し込んで気持ちの整理がつくのを待っている――あの方はそういう性格なのです。御姉妹の長女として、柳瀬グループの重役候補として生きている弊害か、あの方は表立って人に助けを求めない』
妄想や願望ではない。彼にとって舞衣を守ることが最大にして最重要の目的なのだ。その性格を熟知している。
『貴女に可奈美さんを任せている以上、多かれ少なかれあの方は貴女の心配もしています。間違っても、敵とは認識していません』
「そうか……」
姫和にとっては実感はないに等しいが、理屈はわからなくもない。それに、事実がどうであれ明良が動く理由としては十分だろう。
「それで、三つ目は?」
『……』
黙られた。実際には数秒ほどだったのだろうが、彼が悩み、苦しんでいるような雰囲気が微かな呻き声から感じられた。
『本来なら、私個人の感情など含むべきではないのですが……貴女方には言っておかなければなりませんね』
決心がついたのか、滔々と理由を述べる。
『私は貴女方に対して償わなければならないのです』
「償う……? それって何を……」
『私は……貴女方の大切な人を手にかけた……罪人です』
「手にかけた……だと!?」
最後の最後で聞き捨てならない台詞を口にした明良。
――大切な人を……一体誰が……
そこで合点がいった。結論に辿り着いた。
「お前……知っているのか……二十年前のことを。詳しく話せ」
『……申し訳ありません。今はまだ私の口から話すことはできません。その権限を持っていませんから』
「おい……!」
低い声で威圧しようとするが、すぐに『ですが』という声に遮られる。
『知っているかどうか、という点では答えられます――知っていますよ』
「……!」
電話で話していることをこんなにも悔しく思ったことはない。実際に会って、面と向かって話をしていたら胸ぐらを掴んででも聞き出すところだ。
「今は口にできないとはどういうことだ!? あの時の話を知っているのなら――」
『それも、まだ口にできません。ただ、一つ言えることは……』
一拍置いて、心中を吐露する。本来話すべきではない――可奈美と姫和にだけ話すべきだと判断した彼の気持ちを。
『……私が貴女方のお母様にしたことは、悪かったと思っています』
静寂が場を支配した。彼の罪が何なのか、どういう類いのものなのか、正確にはわかりかねた。明良はそのまま無言で通話を切った。
一方、姫和の胸にはいつまでも疑念しか残らなかった。あの冷静沈着で、悲壮さを併せ持つ青年が何者で、何を知っているのか、次に会ったときには根掘り葉掘り問い詰めてやると。そう心に決めた。
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