刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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とじともの水着ガチャで舞衣が出ない……これが無課金の限界だというのか(絶望)


第14話 秘匿

規則正しい足音が左から右へと流れていく。物陰に隠れた明良の傍を建物内を巡回している警備員が通り抜けていったのだ。

 

「……」

 

――ここの区画もなし、と。

 

明良は左手に握っている建物の見取図の通路の一つにペンで×印を入れ、その通路に面した部屋にも同じように書いていく。見取図は金を握らせた職員から受け取ったものだ。

結芽と対峙した後、明良は舞衣と別れてある場所に潜入していた。

場所は刀剣類管理局内の研究施設。表向きは御刀の管理やノロの無害化など。しかし、施設の一部では決して公にはできない研究が行われている、と明良は確信していた。その実態を確認するために潜入したのだ。

 

――あと、警備が行き届いていないところは……

 

明良が考える、その隠匿された研究とは間違いなく『ノロの軍事利用』だ。御前試合や取り調べの際に、親衛隊がノロを投与された刀使だというのはわかっている。問題はどうやって投与したのか、だ。まさかコップに注がれたノロを飲んだなどということはあるまい。それでは危険すぎる。人体投与を前提とした処理を施していると考えた方が妥当だろう。

つまり、折神家の管轄下にある研究施設内でその実験が今も行われている。あるいは、実験データやサンプルが残されているはずだ。

 

――警備員の人数は十四人。ということは、これで完成しますね。

 

警備員の巡回ルートを確認しているのは、目的の場所を突き止めるためだ。秘匿されている研究が行われている部屋ならば、一般の警備員を近づけることなどありえない。一部屋ずつ点検するようなことがあれば研究内容が知られてしまう恐れがあるからだ。警備員に部屋の鍵を渡さずに、立ち入らないよう言っておくという手もあるが、それでは怪しまれる可能性もある。

それならば、そもそも警備員が立ち寄らないようにすればいい。『人体に有害な物質が充満していて、今は閉鎖中にしている。長い間使われていないから巡回する必要はない』とでも言って一つの区画を立ち入り禁止にすればいい。

 

――まあ、しかし、高津学長があんな性格でなければここまで簡単にはいかなかったでしょうが。

 

明良が『聞いてきた情報』によると高津学長だけでなく、綾小路武芸学舎の相楽学長もこの研究に関わっている。その上、研究施設の一部を巡回ルートから外すよう指示していることもわかった。しかし、その『一部』というのが具体的にどこの区画を指しているのかがわからなかったのだ。そのため、明良は聞くだけでは限界があると考え、自分の足で情報を集めに来たのだ。

 

――さて

 

最後の仕上げにかかろう、と明良は残りの警備員の元へと向かった。

巡回ルート部分を削り、残った一区画。研究施設の隅の方の空白があった。明良の推理が正しければ、ここが目的地となる。

 

数分後、地図に残った空白の場所に向かい、その通路が一つの扉で仕切られていることに気づいた。一見すると防火扉のようだ。重厚な金属製で、機関銃の弾丸程度は容易に防ぐだろう。念のため、明良は右手の手袋を外し、その扉に触れる。

 

――やはり、珠鋼製……当たりですね。

 

普通ならばただの鋼鉄かと思うところだが、明良は触れさえすれば珠鋼製のものかどうかは判別できる。どう考えても立ち入り禁止区域どころか、御刀の製造以外に珠鋼を使うことなどありえない。これは万が一誰かが破ろうとしても絶対に破壊できないようにするためだ。先程は機関銃を防ぐと推測したが、珠鋼製ならばミサイルでも防ぐだろう。

 

――鍵穴は一つ。それに恐らく、警報装置も……

 

鍵穴に鍵を差し込んで開錠しなければ警報か特定の場所への連絡がいくように細工されている可能性が高い。ピッキングはできない。とはいえ、鍵は高津学長と相楽学長、あとは直属の研究者が持っている程度だろう。

 

――ここまでわかれば上々ですね。引き上げるとしましょう。

 

 

※※※※※

 

 

「さて」

 

研究所を出た明良は自分にあてがわれた宿舎の部屋で、ある人物に電話を掛けていた。何度かコールし、通話状態に入る。部屋に盗聴機や監視カメラがないことは確認済みだ。明良は部屋の外の気配に注意しながら話し始めた。

 

「こんばんは、十条さん」

 

『ああ、こんな時間に電話するとは珍しいな』

 

これで電話するのはこの数日で何度目だろうか。相変わらず姫和は警戒心を含んだ声色で話してくる。

 

「夜分遅くに申し訳ありません。今は近くにどなたかいらっしゃいますか?」

 

『ああ、実は――』

 

姫和が答えようとした瞬間、彼女とは違う声が耳に届いた。

 

『お、何だ? 彼氏から電話か?』

 

『お、おい! 勝手に話すな馬鹿者!』

 

「?」

 

聞き覚えのある声だった。しかもつい最近。舞衣や可奈美の友人のものではない。誰だったか。

 

『あっ、駄目だよ薫ちゃん。今姫和ちゃんが秘密の電話の最中だから』

 

『秘密? それって誰とデスか、カナミン』

 

『え、えーと……それは……』

 

――いや、誰ですか?

 

新たに二つの声が混じってきた。一つは可奈美のものだ。これはわかる。だが、もう一つの声は正直わからない。聞き覚えがあることは違いないが。

 

「……十条さん、その」

 

『ああ、言いたいことはわかる……可奈美と、あと二人いるんだ。二人は紹介しておいた方がいいな』

 

可奈美と姫和の二人と行動を共にしているということは、敵ではない。二人に協力者がいたとは初耳だが、一体誰だろうか。

 

「でしたら、テレビモードにしてもらっても構いませんか? 画面の左上にアイコンがあります」

 

『ああ、わかった』

 

「あと、出来ればその場にいらっしゃる方々がフレーム内に映るようにしていただけますか? 此方としても正確に状況を把握しておきたいので」

 

『わかった。それもやってみる』

 

十数秒ほどして、明良の通話画面にテレビモードへの変更を許可するかどうかのメッセージが表示される。『許可する』を押すと、画面の九割以上が相手の携帯端末のカメラからの映像に切り替わる。

 

『切り替えたぞ、見えているか?』

 

「ええ、ちゃんと見えています」

 

画面右側の姫和がカメラに顔を覗かせながら聞いてくる。その左隣には右足に包帯を巻いた可奈美が座っている。そして、さらにその左隣。

 

「貴女方でしたか、古波蔵さん、益子さん」

 

『ハァーイ』

 

『おう』

 

映像で見てようやく思い出した。長船女学園の代表、古波蔵エレンと益子薫だ。エレンは上着を脱いでシャツのボタンを外し、胸元の怪我の上に包帯を巻いている。

彼女たちとは刀剣類管理局の駐車場で会って以来だ。何故二人と一緒にいるのだろう。

 

「また会いましたね、お二人とも」

 

『あ? 何でオレらのこと知ってんだ?』

 

『薫、忘れたんデスか? アキラリンデスよ、前に一回会いマシタよ?』

 

『あー、あんときの』

 

エレンは大体覚えていたようだが、薫の方は忘れていたらしい。まあ普通はそこまで覚えていることは少ないか。

 

『お前らどういう関係なんだ? そこのエターナルホライズンの知り合いとかか?』

 

『……!』

 

ピクッ、と姫和が反応する。その顔は怒気と羞恥で真っ赤に染まっていた。明良は直感的に悟る。これは女子のデリケートな部分に触れた、と。

 

『貴様、今私のことを指差して何と言った? 何だ、エターナルホライズンとは?』

 

凄む姫和だが、薫はあっけらかんとした表情で返した。

 

『今のお前の胸は地平線のごとくペッタンコ、そしてねねが懐かないということは将来の可能性もない。つまりはエターナルなんだ』

 

『ゆ、許さんぞ貴様!』

 

激昂し、薫を睨む姫和。

 

「……?」

 

何のことを言っているのだろうか。だが、よく見ると画面上のエレンに抱き抱えられているねねが姫和の胸元を凝視しながら憐れむような視線を向けているのがわかった。

 

『ああ、アキラリンは知ってると思いますケド、ねねはビッグなバストが大好きなんデスよ』

 

「……そうでしたね」

 

『あと、将来的にバストが成長する子にも懐くんデス!』

 

「……はあ、なるほど」

 

思い返せば、ねねは初対面で舞衣の胸元に飛び込もうとしていた。巨乳好きの色情魔的な荒魂かと思ったが、もっと根元的な――母性本能のようなものに飢えているのだろうか。まあ、こんなことを真面目に考察する意味などないに決まっているが。

 

『ま、まあ落ち着いてよ姫和ちゃん』

 

『そうデスよ、ヒヨヨン』

 

可奈美とエレンが二人の争いの火種を消そうと宥め始める。姫和と薫は、まず可奈美の胸元を見る。

 

『『………』』

 

そこには年相応に膨らんだ胸が制服のシャツを押し上げている光景がある。大きすぎず、小さすぎず、手のひらに収まるサイズだろう。二人は僅かに顔を曇らせ、そして次にエレンの胸元に視線を移動させる。

 

『『………っ!?』』

 

胸元を覆い隠しているものがぐるぐる巻きにされた包帯だけということもあって、エレンの巨大な胸の存在感が一層強く現れている。舞衣も年齢にそぐわないほど大きいが、エレンは二つ年上という点を考慮してもさらに大きい。包帯が千切れてしまうのではないだろうかと心配になるほどに。深い谷間を形成し、少し身じろぎするだけで揺れ、その質量を感じさせる。少なくとも、姫和や薫には縁のない現象だろう。

ささやかな物の持ち主たち(貧乳の二人)は、恨めしそうにエレンの胸元に眼光を飛ばす。

 

「………」

 

このままでは話が進まない。しかも、明良としてもかなりいたたまれない状況だ。フォローを入れて場を納めよう。

 

「気を落とさないでください、十条さん」

 

『……なに?』

 

姫和がバッと明良の方を向く。明良は穏やかな笑みと一緒に言葉を続けていく。

 

「女性の価値は胸の大きさによって決まるわけではありません。たとえ胸が慎ましやかであっても、十条さんは十分すぎるほどの魅力を持っていらっしゃいますから。自信を持ってください」

 

『……! そうか、そうだな!』

 

姫和の表情が綻び、暗雲に希望の光条が差し込む。よかった、ようやく本題に入ることができる、と明良も安堵した。

 

『でも、お前の主人って巨乳じゃなかったか?』

 

だが、しかし。差し込んだ光は刹那の間に積み重なる黒い雲に塗り潰され、遮られてしまう。薫の一言によって事態がよりややこしいことに。

 

『なん……だと……?』

 

謀反を働かれた武士のような形相で姫和に目を向けられる。舞衣が巨乳であること、その舞衣に明良が献身的に仕えていることが姫和と薫の脳内で一つの解を導きださせたのだろう。

 

『え……明良さん、そういう目で舞衣ちゃんのこと見てたの?』

 

可奈美からは引かれ、

 

『アキラリンも男の子なんデスね~』

 

エレンからはニヤニヤとからかわれ、

 

『なんだ……ムネか、ムネなのか……やっぱお前も巨乳派か?』

 

薫からは悔しそうに睨まれ、

 

『私は諦めんぞ。運命に抗ってやるからな……!』

 

姫和は何故かワナワナと拳を握りしめて、決意を胸に仕舞っていた。

 

「一応、誤解がないようにしておきたいのですが……」

 

これから明良は『巨乳にこだわっているわけではない』という主張を三十分ほどかけて四人に言い聞かせていくのだった。

 

 

※※※※※

 

 

とりあえず、明良と可奈美、姫和との関係性を説明した。流石に協力している理由の辺りは一部伏せて話したが。

 

「と、いうわけでして。私は可奈美さんと十条さん、引いては舞草(もくさ)の方々とも協力していきたいと考えています」

 

『なるほど、わかった』

 

『薫、本当にわかったんデスか?』

 

『ああ、大体なんとなく』

 

――そこまでわかってないことはわかりました。

 

口にしそうになったが、伏せておいた。

話題に上がった『舞草』というのは、ファインマンという人物を端に発した反折神家の組織である。エレンと薫はそのメンバーであり、目的を同じとする可奈美と姫和を勧誘し、行動を共にしているとのことだ。

 

「獅童さんと此花さん、あとは皐月さんと交戦されたと思いますが……その様子ですと上手く退けたようですね」

 

『うん、明良さんが知らせてくれたお陰!』

 

可奈美が答える。昨晩は結芽を除く親衛隊三人が可奈美たちの元へ向かい、そこで戦いになった。ノロを投与された刀使との戦闘は生半可なものではないと思われたが、何とかなったらしい。

 

『それに関しては感謝しているがな』

 

姫和が口を開く。その表情はどこか複雑そうに見えた。

 

『いつまでも情報提供を続ける訳じゃないだろう。いつになったら私たちと合流するつもりだ?』

 

「………ああ、なるほど。そのことですか」

 

丁度よかった。その話をしようと考えていたところだったのだ。

 

『言っただろう。まだ口にできない、と。それはつまりいずれ話すつもりがあるということだろう?』

 

「……ええ、そうですね」

 

エレンと薫は静観しているが、可奈美は我慢できずに口を挟んできた。

 

『明良さん、私も』

 

「……可奈美さん」

 

『話してほしいんだ、私も……気になるから』

 

無理もない。姫和が表に出していたというだけで、可奈美も明良の言葉には疑念を抱いていたのだ。

 

「明後日の朝、舞衣様が美濃関学院にお帰りになります。その後、私は貴女方と合流したいと考えています」

 

『……そっか、舞衣ちゃん、帰っちゃうんだ』

 

可奈美が寂しそうに呟く。自分の意思で姫和についていくことを選んだとはいえ、親友である舞衣に対して申し訳なく思う気持ちがあるのだ。

姫和は冷静に明良に理由を聞いてきた。

 

『お前が刀剣類管理局に残り続けていたのはそれが理由か?』

 

「元々、貴女方とは合流するつもりでしたよ。ただ、舞衣様を敵の本拠地に一人残して、ということはできませんから。あの方を危険に晒すことになります」

 

『明良さん、舞衣ちゃんは大丈夫なの?』

 

「大丈夫です。美濃関学院で羽島学長が匿ってくださる手筈になっています。折神家も、ほぼ無関係の刀使一人に人員を割くこともないでしょう」

 

折神紫でなくとも、目の前の百万円の札束を無視してまで遠くの百円玉を拾いに行くような馬鹿はいない。

舞衣の安全は保障されていると言っていい。

 

『でも、どうやって合流する気デスか?』

 

「明日の夕方までに舞草の拠点へのルートのデータをこの携帯に送っていただけますか? 勿論、人目につかないルートをお願いします」

 

『わかりマシタ、グランパに頼んでおきマスね!』

 

舞草の場所についてはエレンに頼んでおく。普通ならば教えてくれないのだろうが、可奈美と姫和の口添えがあれば問題ないだろう。

 

「では、失礼しますね」

 

『待て』

 

明良が電話を切ろうとすると、姫和は怪訝そうな顔つきで尋ねてきた。

 

「何でしょうか? 例の質問のことでしたら――」

 

『そうじゃない。いや、気にはなっているが……別の話だ』

 

別の話とは何だろうか。姫和と明良との間に何か別の話題があったとは思えないが。

 

『お前は私たちの味方か?』

 

「……失礼ながら、今更聞かれるとは思いませんでした。私は舞衣様とそのご友人の味方をすると申し上げましたよ?」

 

『そういう答えじゃない』

 

「……では、どういう類の答えをお望みなのですか?」

 

要領を得ない。彼女の表情から察するに大体の意味はわかるが、わざわざそれを伝える必要はないと考え、気づかないふりをしておいた。

 

『お前個人としてはどうなんだ? 場合によっては私たちとの関係性が変わることはないのか?』

 

「………」

 

答えない。姫和はこう言いたいのだろう。『舞衣に仕える執事として一時的に仕方なく協力しているだけで、本当は敵に近い位置にいる者ではないのか』と。

実際に明良と戦ってあの力(、、、)を受けた姫和だからこそ疑っているのだ。理屈はわかる、というか明良も同じ立場ならここまでの正面攻撃ではないものの探りくらい入れる。

 

『それに、あのときのお前の力は恐らく――』

 

「味方ですよ」

 

姫和が余計なことを口走る前に大きめの声で遮る。ここで余計な疑念を残りの三人に抱かせるわけにはいかない。

 

「それに、私は折神家の敵ですから」

 

『は?』

 

四人とも呆気に取られる。いきなりの新情報に頭が追い付いていないのだろう。

 

「ですから、別行動はあっても、敵対はありえません。私にはメリットがないどころか、デメリットしかありません」

 

何か言う前に強引に通話を終えた。今の明良には合流する前にしなければならないことが多い。

明日は忙しくなる、と明良は椅子に腰掛けて眠りについた。




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