刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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今回はギャグ回です。ずっとやりたかったんです(切実)

もうちょいギャグが続くかもしれないのでお付き合いください、お願いします(土下座 m(_ _)m)


第20話 侵入

深夜。辺りは闇夜に包まれ、建物の明かりも全て消えている。丑三つ時、健全な人間ならば眠りについている時間だ。舞草も例外ではない。明日の早朝の鍛練のため、多くの者たちは就寝済みだ。

明良は一人、ある部屋を目指して忍び足で移動していた。目的の部屋の前の廊下まで来たところで一旦足を止めた。件の廊下は(うぐいす)張りとなっており、歩けば音で察知される可能性がある。

だが、そんなことは既に下調べ済み。明良は両手から赤黒い粘液を出し、鞭のようにしなやかで柔軟な形状の腕に変える。粘液で作った右腕を頭上に伸ばし、先端をペタリと天井に貼り付けた。続けて、左腕を右腕の接着面の前方の天井の面に貼り付ける。右腕の先端の接着面を剥がし、左腕の前方に接着。これを繰り返し、さながら木の間を移動する猿のごとき動きで目的の部屋まで床に足をつけることなく移動した。

 

――確か、ここの鍵は……ありました。

 

明良は左腕のみを天井に貼り付け、右手の粘液を解く。右手でポケットを漁ると、キーストッカーに束ねられた幾つもの鍵があった。識別番号を読み、該当する鍵を手に取る。鍵をドアの鍵穴に差し込むと難なく開き、明良を迎え入れてくれた。

明良は天井にぶら下がりながら器用に右手でドアを開ける。身体を揺すって反動をつけ、振り子運動の状態にする。振り子がドア側に振り切ったところで左腕を解いた。支えを失ったことで明良の身体は部屋の中に放り投げられた。無論、余計な音を立てないよう着地の衝撃は最小限に抑えておいた。これで侵入成功だ。

 

――合鍵を作っておいたかいがありましたね。

 

ここに着いてすぐに全ての部屋の合鍵の型をとっておいたのだ。こんなこともあろうかと。いや、こういうことを最初からするつもりだったからだ。

 

――深夜の最も警戒の薄くなる時間帯に舞衣様の寝室へと安全の確認をしに行くために……!

 

そう、明良が忍び込んだのは舞衣が眠っている部屋だ。とはいっても、部屋にいるのは舞衣だけではない。可奈美、姫和、沙耶香、薫、エレン、彼女ら五人を含む計六人が広間に布団を敷いて眠っている。

年端も行かない女子中高生たちの寝室に忍び込むことには良心が痛んだが、舞衣の安全のためだと自分を叱咤する。そもそも、写真を撮ったり物を盗んだり、あまつさえ身体的接触を図ろうとしているわけではないのだ。敵が侵入したり、監視カメラや盗聴器の類いがないかを調べる必要がある。むしろ、彼女たちの安全を守っていることにもなるのだ、そういうことだ。

 

――眠っていますね、皆様。

 

仕事柄、明良は夜目がきく。六人とも寝相に良し悪しはあれど、深く眠っている。明良の侵入に気づいていたり、物音で目を覚ましたりしている者はいない。それが確認できたならよし。やるべきことに取り掛かろう。

 

――まずは、これですね。

 

ボイスレコーダー。これを横向きで眠っている舞衣の口元に近づけた。規則正しい可愛らしい寝息の音がボイスレコーダーに録音されていく。十分後、録音を切り、ボイスレコーダーを離した。

これは舞衣が安眠できているかどうかの確認である。睡眠時に良好な呼吸ができているか、疲労回復に繋がっているかどうかを後で何度も聞いて確かめるのだ。決してもう少し聞いていたかったとか、音から寝顔を思い出そうなどとは少ししか考えていない。

 

――次は、これですね。

 

髪留め。包装してポケットに入れていたこれを、舞衣が使っていたであろう髪留めと取り替えた。当然、色やデザインが同じものを用意しておいた。

これは舞衣が少々傷んだ髪留めを使っていたから、新しいものと交換しているのだ。回収した髪留めは保存用のビニールに入れて保管しておこうとポケットに入れた。決して後でじっくり眺めようなどとは考えていない。今はそう思っている。

 

――これも、回収しておきましょう。

 

舞衣の髪の毛。部屋にはいくらか髪の毛が落ちている。六人が布団を敷いたり着替えたりした際に落ちたのだろう。明良は舞衣の髪だけを選別し、髪留めと同じように保存用のビニールに入れていく。

これは舞衣の髪の状態を知るためだ。本人に合った洗髪用トリートメントを使わなければ頭皮や髪が傷んでしまう。しっかり綺麗な状態を保っているかの確認をするためだ。決してこれでウィッグを作ろうなどとは思っていない。かもしれない。

 

――最後に……ああ、ありました。

 

集気瓶。明良はボイスレコーダーのときのように舞衣の口元に瓶の口を近づけ、呼吸によって排出される舞衣の吐息で瓶の中身を満たしていく。十分に満たされたところで瓶を離し、素早く蓋を閉める。これで舞衣の吐息を保存できた。

これは舞衣の吐息に危険な物質が含まれていないかの確認である。どこに敵が潜んでいるかわからない。致死性の毒物や細菌を使ってくる可能性もゼロとは言えない。念のため確認しておく必要があるのだ。決して瓶の中の気体をじんわりと吸い込みたいなどとは考えていない。いや、実は考えているが。

 

六人は未だに起きていない。どこぞの変態か狂人が忍び込んでいるかもしれないと心配していたが、少なくとも今夜は杞憂に終わったようだ。よかった。

部屋に入ったときとは逆に、部屋の中から赤黒い腕を伸ばして天井にぶら下がりながらドアを閉め、鍵をかけた。これで完璧だ。ミッションコンプリート。

 

――では……帰りましょう。

 

明良はやり遂げたという達成感と明日の仕事への期待を胸に抱きながら去っていった。

 

 

※※※※※

 

 

「あー、さっぱりした」

 

「うんうん、ここの温泉すっごくおっきかったもんね」

 

薫と可奈美はだらしなく緩んだ顔で風呂場から本館の方へと歩いていた。

舞草の先輩刀使が可奈美たち六人に剣術指南してくれることになり、今朝もそれを受けてきたのだ。そして、風呂場で汗を洗い流し、朝食の待つ本館へ向かう、という流れで今に至っている。

 

「そういえば、今朝は黒木の姿を見なかったな」

 

姫和が思い出したようにぼやく。それを聞いていた一同も姫和と同じく疑問を感じた。

 

「アキラリンのことデスか? そういえば今日はまだ会ってマセンね」

 

「部屋にも……いなかった」

 

「ていうか、あいつ基本的に舞衣にベッタリだろ。いなくなったりすんのか?」

 

「舞衣ちゃんは? 知らない?」

 

明良は常に磁石のごとく舞衣の傍に存在している。今朝、部屋を出るときも廊下で待ち構えていないかと警戒したが、空振り。稽古を見に来るかと思いきや、ここでも空振り。妙だ。

この場で最も明良に詳しい人物、つまり舞衣に五人の視線が向けられた。

 

「多分なんだけど、今から会うことになる……かな?」

 

「舞衣ちゃん、それってどういう……」

 

可奈美は首をかしげながら本館の食事処の入口の戸を開ける。

そして悟った。たった今舞衣が言った言葉の意味を。

 

「おはようございます、皆様。準備万端ですよ」

 

「「「「「………え?」」」」」

 

舞衣を除く五人は口を半開きにしたまま棒立ちしている。舞衣は苦笑いしているだけだが、かける言葉が見つからない。

部屋にあるのは六人分の椅子とテーブル、その上に整然と並べられた食器、湯気を立てている完成したての料理。朝食の準備がされている。ついでに言えば、満面の笑みの明良がお辞儀をして迎え入れてくれたことか。

 

「もしかしたら、と思ったけど……明良くんがしてくれたの? これ」

 

「はい。とは言いましても、舞草の給仕係の方が『お手伝いは必要ない』と仰られましたので……せめて舞衣様たちの分の家事は私がするということで許可をいただきました」

 

「そ、そうなんだ」

 

明良は「ああ、そうでした」と厨房の横のテーブルに行き、何かを取ってくる。

 

「皆様の分のタオルです。お風呂上がりで身体も火照っているでしょうから、お使いください」

 

確かに、風呂上がりに制服は少し暑い。しばらくすれば慣れるが、それまでは乾いたタオルが欲しいところだ。

皆、タオルを受け取っていく。だが、姫和だけが受けとるかどうか躊躇しながら明良を見ていた。

 

「十条さん? お使いになられますか?」

 

「……いや、私は」

 

明良を警戒しているせいなのだが、当の彼は得心いったという風に納得した表情になる。

 

「ご安心ください。昨日の内に洗濯して、その後で十分に乾かしてありますから。私が使用済みのタオルを人に渡すような人間に見えますか?」

 

「いや、そういう心配ではなくてだな………まあいい」

 

渋々、姫和も受け取った。

 

「使い終わりましたら私が回収しておきますので、お申し付けください」

 

ビッ、と六人の視線が明良に向く。沙耶香とエレン以外の四人の目には明らかな警戒の色が見えた。

 

「え……それって」

 

「回収するだけですよ。後で洗濯の方に回します」

 

可奈美が何か言いかけたが、明良は笑顔で説明して押し切った。

 

「さ、朝食の準備は済ませておりますので、皆様はお席にどうぞ」

 

レストランの店員のような所作で六人を食卓に誘導し、座らせる。

 

―数十分後―

 

食事を終えた六人は席に座ったまま一息ついていた。明良は備え付けられた流し台で全員分の食器を洗っている。

 

「やっぱり、久しぶりに食べたけど明良さんって料理上手なんだねー」

 

「……まあ、確かに」

 

可奈美と姫和に称賛の言葉をもらって、明良は『ありがとうございます』と返す。

 

「しかも、家事全般やってくれるなんて、至れり尽くせりじゃねーか」

 

「そうデスね、アキラリンがラヴァーだったら幸せだと思いマス!」

 

薫、エレンも椅子に寄りかかりながら言う。

 

ラヴァー、恋人という意味か。明良は手慣れた対応、愛想笑いで『恐れ入ります』と返そうとしたが、予期せぬ横槍が入ってきた。

 

「だ、ダメ!!」

 

舞衣がいつになく狼狽した様子で叫ぶ。普段の彼女からは想像しにくいその行動にその場の人間の意識が集中する。

 

「マイマイ? そんなに慌ててどうしたんデスか?」

 

「あ……その、えっと今の……は……」

 

自分自身でも驚いたのか、舞衣は顔を真っ赤に染めて口を引き結んでしまう。隣に座っている沙耶香は舞衣の顔を覗き、様子をうかがう。

 

「舞衣……どうしたの?」

 

「ち、違うの。その……明良くんの気持ちとかも大事っていう意味で……全然、変な意味じゃないから!」

 

必死に弁解し、舞衣は明良の方をチラッと視線を送る。

当の明良は呆けた顔で固まっており、数秒ほどかけて我に返る。

 

「そ、そう……ですね。ありがとうございます、舞衣様」

 

どこかぎこちない、当たり障りのない言葉を選んで言っているように見えた。

 

「そ、それよりも舞衣様。タオルをお預かりいたしますね」

 

明良は戸惑いを有耶無耶にしようとするかのように舞衣から使い終わったタオルを受け取る。

そして、それをビニールに入れて厳重に密閉した。

 

「いや、待ってちょっと待って」

 

「はい?」

 

「はい? じゃなくて!」

 

舞衣は明良に渡したタオルをビニールごと奪い取る。明良は不思議そうな顔で尋ねる。

 

「まだお使いになられるのですか?」

 

「いやそうじゃなくて! 私のタオルどうする気なの?」

 

「大切に保存しておこうかと」

 

保存してどうする気だ、と誰もが思ったが質問できるほどの勇者はいなかった。

 

「とにかく、これは没収するから! もう……他の子にこんなことしたらダメなんだから……」

 

舞衣にだったらいいの? という考えも浮かんだがそれを聞く者もいなかった。

 

「他の方に、ですか? そのようなつもりはございませんよ。舞衣様は……特別ですから」

 

「何でそんな恥ずかしそうに言ってるの……」

 

「恥ずかしいことですから……」

 

「明良くんの羞恥心の基準、間違えてる気がするよ……」

 

頭を抱える舞衣と僅かに頬を染めて笑う明良。これに対して周囲の反応は……

 

「ねえ、明良さんってもしかして……」

 

「いや、もしかしなくてもだろ」

 

「ああ、変態の類だな。それも上級の」

 

「変態? 明良が? ……そうなの?」

 

「ナルホド、マイマイオンリーの変態デスね」

 

すっかり変態扱いされている明良だった。それに対して明良、いや変態の答えは

 

「ふふ、皆様ご冗談がお上手ですね」

 

六人は思った。

 

こいつは早く何とかしないといけない、と。




最近の話題
・ダンまちコラボのpvを見たとき、姫和がアイズの格好をしているのを見た私。→姫和にこんな胸があるわけないだろいい加減にしろ!

そう叫んでからの記憶がありません。私はどこのエターナルさんにやられたのだろう。

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