刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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今回で、明良の正体や力の秘密が明らかに……

でも、まだ過去回続きます。早く終わらせないと……


第24話 復讐

十五歳になった。修は部屋の蔵書を調べ、その中から必要な文献を引っ張り出していた。

 

「……ありました」

 

ろくに整理もされておらず、バラバラに本棚に突っ込まれていたが、中身を読んで数日前に分野ごとの仕分けが完了したところだ。

修の手に取った本は御刀や荒魂に関する論文の掲載されたものだ。

 

「………」

 

パラパラとページをめくり、重要そうな部分や疑問を感じた部分は印をつけておき、後で他の資料と照らし合わせて噛み砕いていく。

大半は刀使の素質や今後の可能性、隠世に干渉する技術などオーソドックスなものばかりだが、その中に一つ、修の感情を揺さぶる論文があった。

 

「『ノロを利用した人体強化実験』……!?」

 

これは面白い。これがあれば、修の目的のための大きな躍進に繋がるかもしれない。今日はこれの解読に全ての時間を費やすことにしよう。そう決意し、読み進めていった。

 

 

※※※※※

 

 

「ノロを利用……だと? それではまるで――」

 

「親衛隊と同じ……かい?」

 

姫和が話の途中で口を挟む。フリードマンが彼女の言葉を続きを予測して割って入った。

 

「でも、二十年以上前からそんな実験があったんですか?」

 

舞衣がフリードマンに尋ねる。

 

「なかったとは言い難いね。さっき話したように、ノロは御刀と同等の神性を帯びている。御刀を使う刀使という存在がいるのなら、同様にノロを使った何らかの技術を確立させることも可能だという仮説を立てている学者も多い。実際に人間の被験者を使った実験は少なかったが、二十年以上前ならそこまで強くは規制されなかっただろうからね」

 

「皆さんもご覧になったでしょう? 燕さんはともかく、獅堂さんや此花さんは戦いの際に並外れた身体能力を見せていたはずです。皐月さんに至っては荒魂を放出し、操るほどになっていました」

 

「じゃあ、それって明良くんも親衛隊の人たちみたいに……荒魂を取り込んだってこと?」

 

不安げな舞衣の顔。ほぼ確信に辿り着いているのだろうが、一歩足りない。明良は首を左右に振った。

 

「いえ、親衛隊の方々とは違います。あれは、研究の副産物のようなものです」

 

「え……」

 

舞衣が言葉を失う。肩透かしというか、空振りになってしまった。

 

「そもそも、前提としてこの実験は刀使に適用する類のものではありません。刀使の持つ御刀と荒魂は対極の存在。つまり、刀使は荒魂に耐性を持っています。彼女たちに使用したところで、御刀の神性によって荒魂の力が弱められてしまい、十分な効果が得られません」

 

刀使は御刀に込められている正の神性を用いる。そのため、負の神性を持つノロと、それによって構成される荒魂からの肉体への侵食を防いでいるのだ。

 

「親衛隊の方々のあれは、別々の薬品を混ぜたようなものです。爆発こそしないものの、そこまで大きな化学的効果の向上がない」

 

「話はわかった」

 

姫和が目を細めて明良を睨みながら言う。

 

「お前が読んだその論文には……何が書いてあったんだ?」

 

「皆さんは『(あやかし)封じの儀』という伝承をご存じですか?」

 

明良が口にした聞き慣れない単語に一同が戸惑う、朱音を除いて。明良は視線を朱音の方へと移し、説明するように促した。

 

「遥か昔、まだ刀使という職業が広く普及していなかった頃に行われていたとされている儀式です。当時は日本に頻発する荒魂の出現に対応できなかったことから、これが生まれたと聞いています」

 

「どんな儀式なんですか?」

 

可奈美の問いに今度は明良が答える。

 

「ノロを罪人に飲ませるんです」

 

「なっ……!」

 

「………!?」

 

姫和、可奈美、と次々に六人の顔が驚愕に染まっていく。その凄惨な内容に。

 

「ノロは現代の科学技術を駆使してさえ、無力化することができない物質です。数百年前の人々なら尚更に手を焼いたはずです。刀使の対応が行き届いておらず、復活する荒魂を処理するための方法としてこの儀式は考えられました」

 

具体的な説明に入っていく。

 

「人々は罪人にノロを飲ませてから死刑に処し、その肉体を厳重に保管することで封じ込めることができると考えたのです。当然、悉く罪人は死刑を待たずして亡くなり、全く解決にならなかったことからすぐに廃止されました」

 

ここまで説明したところで明良の目つきが変わる。怜悧で真剣な雰囲気を纏っている。

 

「ですが当時の記録によると、一人だけノロを飲んでも死に至らなかった罪人がいたそうです。その罪人は人智を超えた怪物へと成り果て、殺されたと記されています。私が読んだ論文はその伝承の罪人を例として書かれていました」

 

「……お前があのとき使っていた左腕」

 

姫和が明良の説明と自身の記憶を結びつけ、口にする。

 

「あれは、荒魂の力か……」

 

「はい」

 

「教えろ。その伝承の男は? お前は何なんだ!?」

 

明良は待ち構えていたような、どこか諦めたような清々しい表情で告白する。

自分の正体を。誰にも明かしたことのない秘密を、ようやく言った。

 

 

 

「私は大荒魂――タギツヒメの半身と融合した人間、荒金人(あらがねびと)です」

 

 

 

荒金人。

ノロを細胞に取り込み、荒魂の力を操る人間の名称。刀使が御刀の力を操る者ならば、荒金人は荒魂の力を操る。

 

「古来より、人々は荒魂を戦闘に利用する研究を続けていました。しかし、あらゆる研究者が一つの壁に衝突しています」

 

訪れていた静寂を破り、明良はなおも説明を続ける。

 

「人体への、影響……?」

 

「そうです」

 

一度高津学長に実験台にされかけたことから、直感的に知っていたのだろう。明良が提示した問題に今度は沙耶香が答えた。

 

「御刀は適性のない人物には何の効果もありませんが、ノロはあらゆる生物に対して極めて有害な物質です。ノロを武器に加工しようとすればスペクトラム化が進行して荒魂となり、かといって人体に投与すれば被験者が発狂と侵食によって死に至る。人類にはノロを有益に使う手段がなかったんです」

 

「でも、明良くんは……」

 

「ええ、私は命を保ち、融合の安定化に成功しています」

 

明良は胸の真ん中、心臓のある位置に左手を置く。

 

「……私が荒金人となったのは二十年前、相模湾岸大災厄の直前でした」

 

 

※※※※※

 

 

「復讐……復讐……ふくしゅう……ふくしゅう……フクシュウ……フクシュウ……フクシュウ……フクシュウ……フクシュウフクシュウフクシュウフクシュウ……」

 

ひたすら言葉を反芻する。言い聞かせているのだ。

 

『己が身に受けた理不尽を忘れるな』

『奪われた不条理を忘れるな』

『奪い返し、苦しませて、後悔を残させたまま殺せ』

 

折神修は狂ったように繰り返す。荒金人の製造法について記された論文、その技術を利用すれば修の目的は達成できる。それだけの自信と覚悟があった。

 

――論文を見つけた当時、十五歳だった私はひたすらその改良と実用化の方法を模索した。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

十六歳になった。修は年に一度の儀式のために折神家の剣術道場にいた。儀式とは当然、秋穂と健吾による暴力のことだ。

 

「……まだ残っていますかね」

 

既に儀式が終わり、道場には修の姿しかない。道場の床には修の血液や皮膚片、頭髪などが飛散している。その片付けを毎回任されるのだ。十四歳のときから数えて今回で三度目なのでもう慣れた。箒と塵取りで皮膚片と頭髪を回収し終えたので、今は雑巾で床の血痕を拭いている最中だ。中々落ちない自分の血に嫌気が差していたところで、道場に続く床の軋む音を拾う。

 

「………?」

 

一度目も二度目も、儀式の後の後片付け中に誰かが来ることはなかった。また秋穂たちが腹いせに暴力を振るいに来たのだろうか。

 

「あれ? 紫いないじゃん」

 

「……え?」

 

姿を見せたのは若い女性だ。藍色の髪を頭の後ろで無造作に縛っている。制服を着ていることから、まだ女学生。しかも、その制服は紫と朱音のものと同じだ。彼女たちの学友か何かだろう。

 

「ねえ。あなた、紫見なかった? ここにいるって聞いたんだけど」

 

「あっ、美奈都先輩、ここにいたんですね」

 

美奈都と呼ばれた少女の後ろから別の少女が顔を出した。またもや同じ制服の、黒髪の少女だ。美奈都を先輩と呼んでいたことから、後輩なのだろう。

 

「あの……貴女方は?」

 

修は片付けの手を止め、立ち上がって二人に尋ねる。

 

「申し遅れました。私は柊篝、折神紫様の後輩です」

 

「あたしは藤原美奈都。篝の先輩で、紫とは同学年の友達だよ」

 

「柊さんに、藤原さん、ですね。私は……」

 

自分の名前を言おうとして、躊躇った。折神修という人間は世間どころか折神家内部ですらごく一部しか知らない。言わば、『存在しない人間』だ。余計な失敗をしたことがバレると自分の計画に支障を来すかもしれない。

そう判断した修は微笑んで嘘をついた(、、、、、)

 

「私は当家の使用人でして、黒木と申します」

 

咄嗟に数日前に読んだ小説の登場人物の名前を騙った。

 

「黒木さんね、よろしく。ところで、ここに紫来てない? 守衛さんに聞いたら今日はここに来てると思うって聞いたんだけど」

 

「ああ……」

 

恐らく、その守衛は儀式のことを少し知っているのだろう。折神家本家の人間がこの道場で何かをしている、とだけ。

だが、二年前に一度目の当たりにして以来紫と朱音はここに顔を出していない。自分たちではどうにもできないと理解しているからだ。

 

「紫様はきっと離れの方の道場にいらっしゃると思います。本日はこの場所が使えないので」

 

「そうなんですか、ありがとうございます」

 

篝は軽く頭を下げて感謝の言葉を述べる。美奈都も笑顔で「ありがと」と言ってくれた。そうしてその場から篝が立ち去り、それに美奈都も続く。が、修は美奈都を引き止めた。

 

「藤原さん」

 

「ん? 何?」

 

修は迷ったが、言わねばならないことだと決心し、美奈都に告げることにした。

 

「柊さんは、刀使の家系の柊家の方ですか?」

 

「……そーだけど、うん」

 

「では、鎮めの儀についてはご存じですか?」

 

「え?」

 

修は鎮めの儀について美奈都に大まかな内容を伝えた。それを聞いていくうちに美奈都の顔が険しくなっていくのがわかった。

 

「ですから、もし柊さんがその事態に直面した際には藤原さんが御力になっていただけませんか?」

 

「それは当然するけどさ……でも、何であたしに? それに、今言うの?」

 

以前のこの儀式の日に偶然耳にした別の使用人たちの話と、今こうして彼女の立ち姿や足運び、周囲への視線の配り方。彼女は紫より強い。ほんの噂話程度にしか聞いていなかったが、実際に会えばわかる。修は自分の観察眼が間違っていないと信じて、答えた。

 

「これから、荒魂による未曾有の大災害が起こるかもしれません。その悲劇から人々と柊さんを救うことのできる力が貴女にはある、そう感じたからです」

 

「………そう、わかった」

 

美奈都も直感的に察したのだ。修が冗談や悪ふざけでこんなことを言っているのではないと。美奈都は軽く別れの言葉を言ってから篝の後を追うように去っていった。

 

「さて……」

 

これは保険だ。もしも修が失敗すれば大災厄が起こり、大勢の人々が命を落とすかもしれない。修に直接的な被害が及ぶかはわからないが、関係のない人々を巻き込むわけにはいかない。紫よりも強い刀使ならば大丈夫だろう。

 

――思わぬところでの進展を得た私は、残りの日数以内に計画を達成させるための下準備に入ることにした。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

十七歳になった。ようやく計画を最終段階に移すことができる。

 

「出入口は即座に固められる……ならば、こうして」

 

修は書斎に紙面を広げてその隅々に目を通していく。折神家の屋敷の図面だ。儀式の日に道場に連れ出された際、三年前から今朝の分を含めて四度の来訪によって既に屋敷の全体像は把握している。当然、防犯システムや警備員、お抱えの刀使の数や位置、戦略に至るまであらゆる状況を想定している。

 

「あと、二週間……」

 

二週間後、修はまた屋敷の地上に連れ出される。儀式ではない。これは、秋穂や健吾が今まで修を殺さずにいた目的のためでもある。

そして、修の目的のために利用できる絶好のチャンスだ。

 

「本当に……本当に、騙しやすい」

 

修は思わず上がってしまった口角を左手で覆う。きっと醜悪で気味の悪い笑みを浮かべていたことだろう。

だが仕方がない。全力を尽くして力を身につけてきた修にとってはあまりにも呆気なかったのだ。

 

 

『そう、ようやく自分の存在意義に気づいたのね。出来損ないの粗悪品のくせに物分かりがいいじゃない』

 

『お前は散々俺たちに迷惑をかけてきたんだ。その償いだと思って全力で臨め。お前は俺たちに尽くすためにいるんだからな』

 

 

「はは……」

 

自分でもわかるくらい下卑た笑いが口から漏れた。秋穂と健吾が自信満々に口にした言葉と、彼らの正義感に満ちた表情を思い出すだけで嘲笑を禁じ得ないのだ。

 

「何故信じられるんでしょうね……」

 

修の提案、そして秋穂たちの目的は――

 

「分家との結婚……ですか」

 

――折神家から脱出するために私は、自分の血筋を利用することにした。




改めてアニメで篝を見た私→あれ? エターナル胸ペッタンじゃない……だと!?→なら、姫和もあと数年経てばエターナルでなくなる可能性が微レ存……あ、いや、やっぱないですね確実に。エターナルAカップですね確実に。


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