刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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お久し振りです。本当にごめんなさい。遅れました。いくらか更新をお待ちしてくださっている方々がいらっしゃって本当に嬉しいです。( ≧∀≦)ノ

拙いかもしれませんが、どうかお気に召した方はしっかり楽しんでくれれば幸いです。

では、どうぞ!


第27話 狂気

勢いよく玄関の戸を開け、中庭から縁側に駆ける。そうやって移動した明良の姿に居間に留まっていた皆の視線が集中する。

 

「あ……きら……くん?」

 

真っ先に気づいた舞衣が明良の名を呼ぶ。その声色から感じ取れた感情に対して何か言いたくはあったが、今はそんな時間はない。

 

「……皆様、先程の音は聞こえましたよね? 恐らく、いえ、ほぼ間違いなく刀剣類管理局から襲撃を受けています」

 

やはり、と全員が立ち上がる。

 

「私は現場に向かって敵の足止めをしますので、皆様は緊急時に備えて避難の準備をなさってください」

 

「明良くん……」

 

舞衣が哀しげにこちらを見つめ、言う。だが今の明良は何も返せなかった。今更、弁明のしようなどない。

 

「だが、敵は大勢いるだろう。君一人でどうにかできるとは……」

 

フリードマンが苦言を呈するが、明良は首を左右に振る。

 

「軍勢のほとんどは恐らく機動隊です。それならば、私の敵ではありません」

 

「なぜわかるんだ?」

 

「この里には舞草の構成員以外の人々もいます。刀剣類管理局も、彼らを全て粛清はできない。それならば、刀使よりも機動隊を向かわせた方が後々の言い訳がしやすくなりますから」

 

荒魂退治を生業としている刀使が人々を捕らえれば問題だが、機動隊ならば後でどうとでも理由をつけられる。

だが、明良にとっては好都合だ。

 

「ですから、皆様は早く」

 

「わかった。我々は潜水艦で脱出する。目的地までの経路のデータを君の携帯端末に送るから、後で合流しよう」

 

「はい」

 

明良はそこで、未だに自分から目をそらしていない舞衣を一瞥。そして、一礼してからその場から走り去っていった。

 

 

※※※※※

 

 

「こちらは特別機動隊です。この一帯は特別災害予想区域に指定されました。我々の指示に従い、速やかに行動してください。繰り返します――」

 

舞草の里の出入口、その全てに脱出を阻むように機動隊の隊員が陣取っている。隊長と思われる男性がスピーカー越しに祭りに集まっていた市民たちに指示を出している。

 

「な、なんだぁ……」

 

「なんだって機動隊がこんなことに……」

 

「荒魂でも出たってのか?」

 

「馬鹿言え、だったらもっと騒ぎになってるだろ」

 

里の市民たちも突然の武装した来訪者たちに戸惑っている。明良は人の間をすり抜けながら、スピーカーを持っている隊員の近くまで移動する。

 

「ん、何だ君は」

 

指示を止め、その機動隊員が明良に質問してくる。

 

「初めまして、実はこの近くの神社に務めている者でして。皆様、一体どういった御用でいらっしゃったのでしょうか? よろしければお話ししていただけませんか?」

 

「この付近に荒魂が出現したという情報が入った。そのため、市民の方々には避難していただかねばならないんだ」

 

彼の言葉に引っ掛かるものがあった。

 

――荒魂が出現した……?

 

「荒魂……? そのようなものは見ておりませんが」

 

「普通の荒魂ではない、本部からは変異種だと聞いている。スペクトラムファインダーにも反応があった」

 

そう言って、携帯端末の画面を見せられた。そこには数十個の荒魂の反応があった。

 

「……これは、どういう」

 

一瞬思考が固まったが、すぐに合点がいった。そもそも、刀剣類管理局は折神紫や親衛隊の面々がスペクトラムファインダーに反応しないように細工をしているのだ。ならば、特定の人物以外の御刀を荒魂と誤認させることも難しくないだろう。

あとは、御刀や荒魂に対してそこまで明るくない隊員たちに『刀使が荒魂に変異した』とでも言えばいい。

 

――隠蔽工作ではなく、こういう小細工をしている。ということは、彼らは騙されているだけ……ならば。

 

「そうですか、わかりました」

 

「ようやくわかってくれたか。君も早く避難を……」

 

隊員が説明を終え、油断したその瞬間――

 

「失礼しますね」

 

明良の左手が隊員の頭に乗せられた。

 

「かっ……」

 

それと同時に隊員は糸が切れたように膝から崩れて地面に倒れ伏した。

 

「おやすみなさい」

 

周囲の人々――里の市民の方は気味悪がってその光景を見ていたが、機動隊員は違う。どういう方法かはわからないが、突然現れた男に触れられた途端に隊長が昏倒したのだ。平静でいるわけがない。

 

「そこのお前、今何をした!」

 

「両手を頭の後ろに回せ!」

 

銃をこちらに向けてはこない。明良の周囲にはまばらに人がいるため、流れ弾に当たる危険があるからだ。

だが、明良とて無関係の人々を巻き込みたくはない。相手を刺激させる前に終わらせよう。

 

「申し訳ありません。こちらの方、過労か貧血でしょうか? 突然倒れてしまって……今すぐ病院まで付き添った方がよろしいのではないですか? 私も、貴方たちを傷つけたくないので」

 

両手を上げ、半笑いで隊員を挑発する。眼前の十人の隊員の一人が明確に怒りを露わにした。その怒気を感じ取ったのか、明良の周囲にいた市民は散り散りに距離をとり、遮蔽物の向こう側へと隠れる。

明良はそれを確認してから隊員たちと距離を詰める。一番近くの隊員が明良と向き合って睨みをきかせてきた。

 

「……少し、事情を聞こうか」

 

「何の事情です?」

 

「とぼけないてもらえるか? とにかく、一緒に来てもらうぞ」

 

そう言って背後に回ろうとしてくるが、明良はそれよりも早く目の前の隊員の左足を右足で踏む。

 

「貴方にできるのでしたら、どうぞご自由に」

 

またもや隊員の体勢が崩れ、地面に倒れ伏す。

一度ならず二度。もはや確実に敵だという認識に至った残りの隊員たちは次々に小銃を構え、明良に狙いを定める。

 

「抵抗するな! さもなくば撃つ!」

 

改めて周囲を確認する。眼前には小銃の弾幕を張った機動隊員。背後には先程まで市民がいたが、もう姿はない。これなら被害はさほど考えなくていいだろう。

明良は両手を上げた体勢のまま、摺り足で近くの隊員に寄ろうとする。その足の一歩前の地面に放たれた数発の弾丸が地面を穿つ。

 

「奴を近寄らせるな! 触れさせなければさっきの技は使えない!」

 

まあ、敵も馬鹿ではない。実際、明良の技は接近戦のものばかりだ。遠距離からの一方的な攻撃に持ち込むのは得策と言えるだろう。

 

――まあ、だから何だ、という話なのですが。

 

「……操られているわけでも、我々の素性を知った上で忙殺しようとしてるわけでもない。純粋に職務を全うしている……見上げた正義感ですね」

 

「何が言いたい……」

 

照準を外さないまま隊員がにじり寄ってくるが、明良の顔にあるのは警戒でも不安でもない。

 

「その正義感に免じて……」

 

余裕の笑み、だ。

 

「この程度で済ませておきます」

 

明良の銀色の頭髪の毛先が赤黒く染まり、細胞分裂のように伸びていく。伸びた髪は根元から先端にかけて針の如く硬化し、隊員たちの脇腹や肩をかすめる。髪の針を受けた隊員は漏れなく意識を奪われ、無力化されてしまう。その一連の動作は時間にして1秒、いや、その半分以下だった。

相手が反応してから引き金を引くよりも早い。元より、銃口を向けている相手に反撃されることなどほぼないのだ。咄嗟に発砲できなくてもおかしくはない。仮に発砲できたとしても、明良は止められはしないが。

 

「先端恐怖症にならないことを祈っておきます」

 

 

※※※※※

 

 

機動隊を無力化した後、追っ手の足止めをするために残っていた刀使たちにいくらか報告を済ませ、明良は朱音たちの待っている潜水艦の停泊場所まで走っていった。

受け取ったデータの通り進むと、地下の洞窟を抜ける直前――つまり、停泊場所の手前辺りで皆が固まって立っているのが見えた。

 

「皆様、どうされましたか」

 

明良の声に刀使たちは口ごもったまま返事するのを戸惑っているが、こちらに気づいたフリードマンが声をかけてきた。

 

「! 来たのか、ちょっとまずいことになっていてね」

 

フリードマンが指差す方には先程見たのと同じ機動隊の面々の姿があった。無論、偶然であるはずがない。逃走経路を読まれ、先回りされていたのだ。

 

「撃ってきますね、確実に」

 

「やはりそう思うかね」

 

明良とフリードマンの意見が一致しているのを見て、近くにいた舞草の刀使が質問してきた。

 

「何故です? 拘束するならまだしも、いきなりそんなことは……」

 

「それは、彼らがまともな判断ができるなら、ですよ」

 

明良は懐から携帯端末を取り出す。先程の機動隊員から奪ったものだ。スペクトラムファインダーを表示し、皆に荒魂の反応を見せる。

 

「彼らのスペクトラムファインダーには細工がされています。御刀を荒魂だと誤認するように、ですね」

 

「伊豆でも同じことがありマシタね……大量の荒魂がいたのに反応してませんデシタ」

 

エレンが記憶の中にある経験談を思い出して伝えてくれた。察するに、夜見と交戦したときのことだ。

 

「この方法でしたら、刀使の拘束ではなく、突然変異した荒魂の駆除で済みます。全く、汚い真似を……」

 

明良はため息混じりに呟く。そして、両の手袋を外し、物陰から表に出ようとした。

 

「待ってください、彼らは――」

 

その後ろ姿を引き止める声。朱音が懇願するような表情で何かを訴えようとしているが、それが何なのかはわかった。

 

「………わかっています、殺しはしません」

 

冷たく言い放ち、今度こそ向かおうとするが、僅かな抵抗感を感じて背後を振り返る。明良の上着の裾を弱々しく掴む最愛の主――舞衣の姿があった。

 

「明良くん……何だか、怖いよ」

 

「……ご安心ください。私が道を切り開きます。ですから、舞衣様は速やかに避難することに専念してください」

 

「そうじゃなくて……そうじゃ、なくて……」

 

舞衣は俯いたまま消え入るような声で繰り返した。

わかっている。わかってはいても、応えてはいけないのだ。たとえどれだけ甘美な提案であっても、明良が最優先しなければならないのは――

 

「舞衣様、決して攻撃の当たらない位置にいてください」

 

明良は再び歩き出した。少しだけ強引に舞衣の手を振りほどくような形で。ズキッと胸に痛みが走るのがわかった。気のせいではない。が、この感覚もなかったことにしなければ。

 

「舞衣様に掠り傷でも負わせる輩がいたら、私はその相手を殺すだけでは済ませられないので」

 

傍で歩くただの人であれないならば、そうあるべきではないと自分で決めたのならば、それを貫き通さなければならない。

 

――もう……私は貴女を守れるならば、怪物でも、狂人でも、亡霊でも構いません。

 

「出てきたぞ!」

 

「いや、待て。刀使ではない! 撃つな!」

 

明良の出現を認めた隊員たちが口々に何か言っているが、明良にとっては相手にするだけ時間の無駄だ。先程のように騙し討ちをする必要もない。

正面から堂々と撃退すればいいだけのこと。

 

「撃ちたいのでしたら……」

 

両の掌からノロが流出し、前腕を覆っていく。剣の『右腕』と鉤爪の『左腕』。

 

「これで理由ができましたか?」

 

その外見や雰囲気から察したのだろう。隊員たちの表情が警戒から敵意のものへと塗り替えられる。

 

「あ、荒魂だ……!」

 

「総員構え! 絶対に近づけるな、撃て!」

 

生命の危機、根元的な恐怖に駆られた人間の行動は決して侮れない。敵意を持って放たれた三発の弾丸は明良の腹部、右肩、右目を射抜く。骨が砕け、血と肉が弾け飛ぶ。

 

「……っ!」

 

荒魂かどうかも定かではない相手に銃撃を浴びせるとは。いや、彼らは刀使の姿をした荒魂の退治に来たのだからそのくらいの覚悟は承知の上か。

明良は歯牙にもかけていないという風に平然とした顔で彼らに問いかけた。銃創は当然塞がっている。

 

「まだ、やりますか?」

 

「……つ、続けろ! 攻撃を緩めるな!」

 

今度は容赦ない。何十何百という銃弾の雨が明良を襲う。人間相手なら間違いなくバラバラの肉片になるであろうほどの弾幕だが、それは当然、人間ならばの話だ。

明良の思考は肉体の損傷によって阻害されているが、もはや痛みはない。

 

――昔と同じ、痛みがなくなっている。これで、いい。これで私は……戦える。

 

黒木明良となってから感じていた痛み。覚えていた鈍い痛覚が、もはやなくなっている。明良にはすぐに合点がいった。自分に不要な感覚を切り捨てたのだ、と。戦いのための道具には無駄な感覚なのだ。

 

――私には、苦痛も恐怖もない。最高だ……!

 

「……ん?」

 

気がつくと耳障りだった銃弾の音が止んでいた。相手の武器に不具合があったのではない。

 

「む、無理だ……いくら撃っても」

 

「ば、化け物だ……こんなの……どうやって……」

 

理解してしまったのだ。銃弾では明良(亡霊)は殺せない。わかりきっていることだ。

 

「それで……?」

 

明良はすっかり戦意の抜けた隊員たちに高速で接近する。

彼らの銃器、刃物、通信機、携帯端末に至るまで全てを『右腕』と『左腕』で破壊する。隊員も抵抗しようと思えば少しはできたのだろうが、それすらも無意味だと思ったのだろう。実際に無意味だ。

 

「まだ戦うのでしたら、お相手しますが……どうなさいます?」

 

恍惚か、歓喜か、はたまた達成感か。明良は清々しい顔で尋ねる。

 

「命の保証はありませんよ?」

 

いや、狂気か。




明良がどんどん壊れている気がする。元からですが、さらに壊れてる……ちゃんと治してあげて、舞衣。

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