刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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今回の真希の話のくだりは私なりの推測です。偏見やら勝手な想像も含まれてるのでご注意を。

真希ファンの方はちょい注意かもです。


第29話 それでも私は

「何処だ……一体……」

 

獅童真希は並び立つ木々の間を走り抜けながら周囲に目を巡らせていた。何とか網を破って脱出したはいいが、肝心の明良の姿は森の中へと消えていた。今は結芽と別れて森の中をしらみ潰しに探している。

以前ならば別の部隊と協力して人海戦術で捜索に当たっていたが、今回からはそうはいかない。彼は単身で夜見だけでなく結芽すらも退けるほどの相手だ。数に任せての作戦はいたずらに人的被害を拡大させるだけだろう。しかも、今回の任務は紫からの直々の命令。何としても親衛隊を取り仕切る立場の自分が成し遂げなければならないことだ。

 

「そうだ、失敗は許されない。あの男を逃がすわけには……」

 

「それは、此方の台詞です」

 

「……!?」

 

突然浴びせられた声に真希の足が止められる。間違いない。今のは明良の声だった。

しかし、姿は……ない。

 

「……いいか。警告しておく。今なら、大人しく出向さえすれば手荒な真似はしないでおくよ。さあ、姿を見せろ」

 

やや怒気を強めて周囲に響くように言う。声が木々の、その枝の間を潜り抜けていく。相手にも届いているはずだ。

だが、一向に現れる気配はない。

 

「……」

 

彼のことだ。また不意打ちや罠を仕掛けてくるに違いない。

真希は近くの木に寄りかかり、背中側からの攻撃を防ぎつつ、左右と正面、頭上を見渡す。

 

「……っ! おい、いい加減にしろ。早くしないと――」

 

挑発のつもりで放った言葉。それが最後まで続くことはなかった。

 

「がっ……」

 

視線の外。前後でも左右でも、そして上でもない。真希の足元――地面の中から突如として突き出てきた一本の槍が写シを貼っている真希の腹部を貫通した。

槍が引き抜かれ、写シが剥がれる。その場に膝をつきそうになるが、気合いで抑え込んだ。

 

「大したものですね」

 

声と共に槍が液状に変化する。そして、姿を現した男の右の掌の中へと吸い込まれていった。

言わずもがな、明良のことだ。

 

「普通ならば、今の一撃で戦闘不能になっていてもおかしくないんですが……少し驚きました」

 

「……黒木」

 

胸元を押さえる。写シを貼っていても痛みを感じないわけではない。痛痒が身体には残っている。

真希は敵意を込めた視線で明良を見つめるが、明良は気にする素振りすら見せずに話を続けた。

 

「まだ続けますか? 貴女では私には勝てませんよ」

 

「今のは油断しただけだ。それに、勝てる勝てないはわからないだろう? キミに恨みはないが、斬られることは覚悟しておいた方がいい」

 

「その刀――荒魂まみれの棒切れで、ですか?」

 

聞き捨てならなかった。今この男は何を言った? 真希の御刀を、数々の危難を潜り抜けてきた相棒、薄緑を荒魂まみれだと?

 

「貴様、今何と言った?」

 

「聞こえていたでしょう? 荒魂まみれ……ノロを体内に取り込み、荒魂の力を利用した影響が御刀に出ています。今の貴女のそれは魔を祓う神聖な武器ではありませんよ」

 

「何故そんなことがわかる?」

 

「わかりますよ。少なくとも、私は貴女方よりもノロや荒魂について理解しています。その力に……肩まで浸かっていますから」

 

真希は御刀を握る手、そしてその先の御刀の柄頭から鋒までを流れるように見る。見た目には全くわからないが、今の明良の言葉のせいなのか、心なしか自分の御刀にぼやけたような、くすんだような雰囲気が感じられた。

だが、そんな感覚は首を激しく左右に振って消し去った。

 

「貴女方は使いこなせもしない荒魂の力を使っておいて、その上で自分は清廉潔白な刀使であると(のたま)う。それだけでなく、刀使としての責務や使命を全うしようと戦う可奈美さんたちを逆賊として葬ろうとしている。貴女はそれがおかしいとは思いませんか?」

 

「……黙れ、そんなことはわかっている。キミが言っているのは綺麗事だろう」

 

真希は抑え切れない怒りを露にしながら一蹴する。だが、明良は気にせず捲し立てた。

 

「わかっていながら悪事に荷担しているのですか? 貴女は話の通じる方と思っていたのですが……失望しましたよ」

 

「仕方ないだろう!」

 

真希は叫んだ。目の前の男――正面からはっきりと自分の気に入らないこと、どうしようもないことに突け込んでくる男に。言い聞かせるように叫んだ。

 

「如何に大義を掲げても出来ないことがある、力が無ければ負けるんだ!」

 

「………」

 

「荒魂は今も昔も人々を苦しめている! 対抗するには、手を汚してでも力を手に入れ、世の中を変えなければならない! 違うか!?」

 

元々のダメージと叫んだ反動で息切れがしてきた。真希が息を整えている間、明良の出方を伺っていたが、意外な形となっていた。

 

「それが……」

 

明良は興味をまるで示さない、関心を失った表情で真希を見つめ、告げた。

 

「荒魂を受け入れた理由ですか?」

 

「……ああ」

 

何が言いたい? 憤りや不満をぶつけてくるつもりか?

 

「くだらないですね」

 

「……何だと?」

 

一度ならず二度までも。明良の言葉に明確な怒りを覚えた。

自分の決意を、信念を否定するのか。何故そうまでして。何が彼をそうまでさせている。

 

「力で人々を屈伏させ、自分達が正義だと主張すればそれが正義。貴女はそんな一銭の価値もない正義のために己の凶剣を振るい、罪なき人々を苦しめようとしている」

 

「だから、それが綺麗事だというのが何故わからない!? 荒魂による被害を防ぐためにはこうするしかない! ここで犠牲になる僅かな人間と、これから助けることのできる大勢の人間、どちらが大切かなんて火を見るより明らかじゃないか!」

 

人類が何度も為してきたことだ。時代が移り変わり、平和な世になるまでには世俗の影で夥しい量の血が流れている。その悲劇を潜り抜け、生き抜くことで平和が生まれるのだ。

これはその一歩。変革のために必要な対価だ。

 

「……たとえ何百という人を手にかけようと、後にそれより多くの人を助けられればそれでいいと?」

 

「……そうだ」

 

「それならば、私は貴女方の行いを絶対に看過することはできません」

 

「数の問題じゃない、全員救うとでも言うのかい?」

 

子供の言い分だ。二つを選ぶよう言われても両方欲しい。平坦で短い道を歩きたい。楽して大金を得たい。

思ったよりもこの男は理想主義なのか。

 

「言いませんよ」

 

しかし、あっさりと言い放たれた言葉は真希の推察を簡単に打ち崩した。

 

「私は神様でも、英雄でも、主人公でもありません」

 

自らを嘲るように笑いながら明良は言う。

 

「それでも私は、舞衣様に仕える執事です。執事にとって、命を賭して主をお守りすることは絶対の使命」

 

単純で、一瞬疑問符を浮かべざるを得ないような答え。だが、今の真希には自然と胸に落ちていた。

 

「貴女方を見過ごせば、舞衣様だけでなく、そのご友人やご家族、周囲の方々にも命の危険が及びます。そんな愚行を見過ごす理由など、世界中の頭脳をかき集めても思い当たりませんよ」

 

「そこまで……キミは、柳瀬舞衣が大事なのか」

 

当然浮かんだ素朴な疑問について聞いてみた。明良は「はい、当然でしょう」と間髪入れずに答える。

 

「それから、貴女は根本的な間違いを犯しています」

 

「なに……?」

 

「手を汚してでも力を手に入れ、世界を変えなければならない、と仰っていましたね?」

 

「……それがどうした」

 

「自分なら世界を変えられると、本気で思っているのですか?」

 

何のつもりだ。今度は何が言いたい。

 

「変えられませんよ」

 

「……は?」

 

「誰であろうと、どう足掻いても、どんなに策を弄しても、世界は自分の思い描いた形には変えられない」

 

哀しげに明良は告げる。

まるで、知っているかのように。

 

「世界は、個人がどうこうできるようにはなっていませんし、そうあってはならないものです」

 

惑わされるな。口車に乗せて此方の同様を誘っているだけだ。

そう頭では意識しても、身体は明良の言葉に集中してしまう。

 

「仮に貴女が我々を始末して、一人の犠牲者も出さずに荒魂を駆除できる世界を作ったとします。そうすれば、次は別の敵に刃を向けることになるでしょうね。戦争、圧政、貧困、疫病、天災。その気になれば世界を変えられると知った方々です、いくらでも周囲に被害を撒き散らし、同じことを繰り返すことでしょう。そうなっては、世界には平和や秩序など永遠に訪れない」

 

「何を……言って……」

 

「強大な力を振るって、他者を支配する。それが誰からも咎められなければ、その味を占めることになります。二回目に走らない方が不思議だとは思いませんか?」

 

「……そんなものは、キミの憶測だ」

 

弱々しく反論するが、明良に切り捨てられる。

 

「憶測ではありませんよ。十分に考えられる可能性です。現に貴女は今、道を踏み外しかけています。単純な解決方法があることに気付かず、間違った道に半身を潜らせてしまっている。そんな方の言い分を信用できるとでもお思いですか?」

 

「単純な解決方法……だと? そんなものがあるわけが――」

 

ない、と言うよりも早く明良は遮るように言葉を紡ぐ。

 

「貴女にはいないのですか?」

 

「……誰がだ」

 

「大切な人……心の拠り所と呼べる人はいないのですか?」

 

胸が痛んだ。明確な理由はわからない。が、この痛みが偶然や錯覚ではないことだけはわかった。

 

「それは……」

 

「いない、とは言いませんよね?」

 

初めて、明良は真希に微笑んだ。普段の作り物めいたものではない。恐らく、本気で笑っているのだ。

 

「貴女は荒魂を斬り、人を助けるために刀使になった。しかし今は、人を助けるために人を斬り、人類の抹殺を目論む荒魂に助力をしている」

 

「人類の抹殺……だと……」

 

わけがわからなくなった。人類の抹殺を目論む荒魂? 一体誰の話だ?

 

「貴女が今の方法でしか『刀使』で居続けられないのならば、貴女はノロを受け入れるべきではなかった。そうすれば……誰かと一緒に(、、、、、、)考えることもできたはずです」

 

明良は一度目を閉じ、軽く息を吸った後、『左腕』を形成する。

 

「獅童さん……正直、貴女と――親衛隊の方々と戦うのは精神的に疲れるんです。ですから、いい加減に終わりにしましょう」

 

「黒木……僕は……」

 

「おやすみなさい」




明良、ブーメランが刺さってるよ……書いてる途中で実感が増した。明良は自分のやってることも自覚した上で……ですからね。マシなんだか余計に悪いんだが……
次回もバトルの続きやります。とりあえずバトルはそろそろ一区切りつけたいですね。それではまた。

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