刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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長かったなぁ。ここまで来るのが。前回同様繋ぎの回みたいなもんです。下ごしらえができたところで、次回はようやくバトル!


第36話 それが何ですか

『東門が破壊されました!』

 

破壊音から十秒ほど経過したころ、作戦指令本部にはこのような連絡が届いた。電話の発信者である警備員の男性が慌てているのが声から感じ取れた。

 

「それで、敵は? 黒木明良が現れましたか?」

 

寿々花はその警備員に聞き返す。

 

『いえ……何も。ただ……』

 

「何ですの?」

 

『突然、門全体が地面から出てきた赤い何かに打ち上げられて……誰の姿も見えなかったんです』

 

姿が見えなかったということは、明良は正面から大手を振って迫ってきたわけではない。遠距離から何らかの兵器を用いたのか。

いや、それよりも警備員の言っている『赤い何か』とは何だ。もしかしたら……

寿々花は適当に言葉を並べて警備員との電話を切る。そして、指令本部室内の人間に向かって指示を出す。

 

「東門に部隊を二つ、西、南、北にも一つずつ向かわせてください」

 

「了解。至急向かいます!」

 

寿々花の指示で、待機していた警護の刀使の部隊がぞろぞろと退室する。

 

「貴方の思惑通りにはいきませんわよ……」

 

寿々花の読みはこうだ。東門の破壊はただの陽動。警備員の隙を狙って行ったに違いない。普通ならば、このまま防御の薄くなった東門から攻めてくるところだが、こちらが早急に東門の守りを固めるのは当然。下手に門を破壊して襲撃を察知させるメリットはない。むしろ、自分の突入経路を明かしているようなものだ。

つまり、東門に人員を割かせ、その間に警備が手薄になった別の場所から潜入するというのが彼の作戦だろう。

 

「お手並み拝見、ですわね」

 

四方の門以外の壁の上部には赤外線の探知機がある。仮に門以外の塀をよじ登ろうが、居場所を特定されてしまう。彼が来るならば東西南北のどれかだ。

 

「指令、第二部隊から連絡が!」

 

二分後、通信員が声を張り上げる。第二部隊は南門に付いている隊だ。連絡ということは、まさか。

 

「今度こそ来ましたの?」

 

「いえ、それが……『南門が突然破壊された』と」

 

「――!?」

 

自分の耳を疑った。別の場所から攻めてくるとは思っていたが、これはおかしい。

東門と南門の距離だ。二つの門の間は軽く数キロメートルは離れている。二分間で人間が移動できる距離ではない。車やヘリコプターでも使えば可能かもしれないが、そんなものの存在に警備員や刀使たちが気づかないはずがない。

一体どうやってそんな距離を……

 

「こ、今度は……西門が!」

 

「また連絡です! 今度は中庭の倉庫が!」

 

「本堂の南側もやられました!」

 

……何が何だかわからない。

寿々花は悪い夢でも見ているのかと頭を抱えたくなった。ほぼ同時に遠く離れた場所を破壊する兵器など遠隔操作型の爆発物くらいだ。

 

――ですが、そんなものは……

 

今回の場合はそれは当てはまらない。柳瀬舞衣や糸見沙耶香が折神家から失踪した際、そして今回の舞草襲撃に備えて屋敷内部の安全確認は綿密に行った。敷地内から爆発物や生物兵器などの危険物は一切発見されていない。

明良が何かを仕掛けたところでこちらに割れているはずなのだ。だが、実際にこうして起こっている以上、それは無視できない。一体どんなカラクリを使ったのか。

 

「私が現場に向かいますわ。皆さんはここで待機していてください。くれぐれも、刀使以外は現場に近づかないように」

 

寿々花は拭えない疑念と混乱を抱えたまま、指令室から駆けていった。

 

 

※※※※※

 

 

「一、二、三、四」

 

明良は左手を親指から人差し指、中指と指折り数えながら折神邸を眺める。壊した場所、これから壊せる場所はもうわかっている。

 

「五、六……」

 

暗闇に点々と広がる夜景のごとき明り――敷地内の警備の人間が持っているライトだ。それらが明良が指を鳴らすだけで、石を投げられた小魚のように慌ただしく乱れていく。

恐怖と混乱が絶え間なく続き、広がり、消えない。

 

「さて、そろそろ……」

 

明良は草むらに掛けていた重い腰を上げる。

 

「っ!!」

 

「……貴方のお相手をしましょうか」

 

後方からの斬撃を瞬時に形成した『右腕』で防ぐ。防いだ『右腕』越しに相手の顔色を窺う。完全な不意討ちを軽口ついでに阻んだ明良に苛立ちを隠そうともしない、此花寿々花の顔色を。

 

「よくここがわかりましたね」

 

「状況から推測しただけですわ」

 

遅かれ早かれ露呈するとは思っていたが、ここまで早いとは。やはり、彼女は結芽や真希よりも騙しにくい。

 

「ほぼ同時に複数の場所を誰からも目撃されずに攻撃するのでしたら、何処か見晴らしの良い場所で監視しているはず。その条件さえわかれば、自ずと場所は絞られますわ」

 

そうして彼女は見つけ出したのだろう。明良が折神邸の敷地内ではなく、近くの森林の木々の隙間から内部の様子を覗いていたことに。

 

「なるほど。どうやら貴女は間抜けではないようですね」

 

明良は薄ら笑いを浮かべるが、内心は少し驚いていた。

だが、この程度で計画を変更する必要はない。むしろ、計画が軌道に乗ったとさえ言える。

 

「しかし、愚策ではないですか? 貴女の技量では私には敵いませんよ」

 

「そうですわね。ですが――」

 

寿々花の顔は苛立ちから一転、得意気なものへと変貌する。彼女が自分と相手の力量差を見誤っているのではない。そんな間抜けではないことは今し方わかったことだ。

だったら、何だ。

 

――一体どんな策を……

 

明良が思考を巡らせていると、途端に無数の足音が辺りに響き、同数の気配が漂ってくる。

 

「……なるほど」

 

「状況が理解できまして? 敵わないのは貴方の方ですわ」

 

彼女も理解できている。力の差は簡単に覆せないこと。そして、戦いは決して一対一とは限らないことも。

現れたのは折神家お抱えの刀使たち、優に二十人は越えている数だ。彼女たちは明良を円形に取り囲み、御刀の鋒をこちらに向けている。

 

「少し、読みが外れましたよ。貴女の性格を少々履き違えていました」

 

「それは楽観的ですこと。そもそも、貴方相手に正々堂々と真剣勝負を挑んでも無駄なことくらい知っていますわ」

 

「……よくご存じで」

 

てっきり、寿々花は敵に直接手を下すタイプだと思っていた。いや、それ自体は間違いではないのだろう。

ただ、彼女はそのために多少汚い手も使うというだけのことだ。だからこうして、大勢部下を引き連れてこちらの動きを封じてきたのだ。

 

「観念しなさい。どういう訳か知りませんが、紫様からは生きたまま連れてくるように命令されていますの」

 

「可能な限りは、でしょう? 言葉が抜けていますよ」

 

「ええ、勿論」

 

生きたまま、と条件付けている理由には見当がついている。

 

――ならば、これも計画通りですよ。

 

「……貴女は」

 

「?」

 

「貴女は間抜けではありません。が、どうやら注意力に欠けているようですね」

 

「何を今更……ハッタリが通じる状況ではないこと、理解していまして?」

 

「理解していますよ。なぜなら……ハッタリではありませんから」

 

明良は左手の親指と中指でパチンと軽快な音を鳴らす。寿々花も、周りの刀使たちも身構えるが、そんなものは無駄だ。

この音は彼女たちに向けて鳴らしたものではない。

 

「これで、七」

 

明良の立っている地面が激しく隆起し、彼の全身を包んでなお余りあるほどの大きさの円柱状の火柱が立つ。いや、火柱ではない。赤黒く、蠢くような表面の色、変幻自在の形状変化。これはノロだ。

 

「なっ……!」

 

寿々花が気づいてもそれでは既に遅い。ノロの柱は明良の身体を乗せたまま、五十メートルほどの高さまで到達した。柱の発生に寿々花や折神家の刀使たちは巻き込まれなかったが、別に構わない。いくら彼女たちが優れた刀使でも、こんな場所に一瞬で到達できるような力を持っているわけではあるまい。

 

「計画、第二段階と行きましょうか」

 

寿々花に自分の居場所を特定され、彼女たちと戦いを繰り広げる。とまでは行かなくとも、戦いの起こり得る状況になる。

そこまでが計画の内。だが、ここからは比較的確証が薄い。

 

「……まあ、気づかないわけがありませんよね」

 

柱の上面に乗った位置から見える建物、折神家の敷地内の高地に構えられた本殿。ノロの貯蔵庫だ。

明良は物憂げにその場所を眺めていたが、すぐにそれは悲しげな笑みへと変わる。

本殿から何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えたのだ。

 

空をたゆたう煙、ではない。

群れをなして羽ばたく鳩の群れ、ではない。

 

赤黒く、巨大な、不気味な何かの塊だ。

 

「そうでなくては我々はここまで苦労はしません」

 

――紫さん、いえ、タギツヒメ。

 

「早く私が奪ってさしあげますよ」

 

明良は笑顔のままその塊に呑み込まれ、その場から消えていった。

 

 

※※※※※

 

 

ものの数秒で明良は赤黒い塊から解放された。解放された直後に視界に飛び込んできたのは薄暗い建物の中だった。

左右に続く木製の格子。そこに吊り下げられた篝火がこの空間を照らしている。そして、床に無数に転がっているのは小さな木製の箱。見覚えがある。舞草の里に祀られていたノロの保管用の御神体だ。

中身は既に空だろう。行方は間違いなく、目の前の相手の身体の中だ。

 

「こうなることを読んでいたのか」

 

右眼を覆い隠す前髪。後ろ髪は膝にまで届いている。烏の羽と同じ黒い色だ。上下に纏った軍服のような白い制服。そして、腰に差した二振りの御刀。

 

「読んでいたのは貴女でしょう? タギツヒメ」

 

折神紫。いや、今となっては大荒魂、タギツヒメと称するべきか。彼女は冷淡な雰囲気を纏った無表情でこちらを見ている。

 

「元々、貴女の目的は私を殺すことではない。それが重要な点です」

 

明良は一息ついて説明を始めた。

 

「貴女の半分を持っている私が死ねば、貴女の力は半減するも同然。ならば、私を生きたままこの場所に連行し、私の肉体もろとも吸収するしかない」

 

結芽や真希、寿々花が『明良を殺さずに捕まえて連れてこい』と命令されていたのはそのためだ。明良は敵だが、まかり間違って殺してしまえばタギツヒメにとっては不利益になる。

 

「私が此花さんや折神家の刀使の方々と争えば、少なくとも誰かが負傷することは目に見えています。私が優勢になれば彼女たちという戦力を失うことになり、逆に彼女たちが優勢になれば誰かが私を殺すかもしれない」

 

「そんな確証はないだろう」

 

「確証は、ですよ。可能性は十分にあった。実際、私もあれだけの数の刀使の方々を倒せる自信はありませんしね。どれだけ上手く立ち回っても、数の暴力に圧殺されるのは必至でした」

 

タギツヒメの作戦は言ってしまえば都合が良すぎる。確かに親衛隊や折神家の刀使が総力を尽くせば明良を倒すことは可能だ。しかし、『倒す』という言葉の中身は一意に定まらない。

 

「彼女たちは、たとえ人殺しになろうと『荒魂を殺しただけだ』と言えばいい。彼女たちは折神家と刀剣類管理局という後ろ盾に守られていますからね」

 

彼女たちが殺しに対して罪悪感や恐怖を抱いているのならばいいが、それは期待できない。

舞草の里での行動がその片鱗を物語っている。

 

「国家に仇なした罪人であり、荒魂の疑いをかけられている人物に強く情を抱くほど彼女たちは馬鹿ではない。それに――」

 

それに何より、明良には確固たる自信があった。明良はタギツヒメ――彼女を宿している紫の眼を真っ直ぐ見据えて言う。

 

「貴女はそこまで人間を信じていないでしょう?」

 

人を憎み、嫌い、滅ぼすことを目的とするタギツヒメ。自分の嫌いな相手を信じることなどできようか。たとえ信じられる状況であっても、信じたくはない。

嫌いであり続けなければならないという心が、信じることを拒んでしまうからだ。

 

「信じていない……確かにそうだな」

 

タギツヒメは明良の言葉を反芻し、ゆっくり眼を閉じる。やがて、微かな嘲笑とともに眼を開き、話し始める。

 

「それはお前も同じだろう」

 

「……何のことですか?」

 

「とぼけるな。我はお前だ」

 

――は?

 

「私と貴女は違いますよ。少なくとも、同一人物であるつもりはありません」

 

「我の力を奪い、荒魂の術技を体得した。それも復讐のためにな。何が違う?」

 

違わないとは言わない。だが、同じと言うつもりもない。明良はそんな台詞に決して納得するつもりなどない。

 

「確かに、私は復讐のために荒金人になった。そして今も、私の心には復讐の火が灯っている」

 

「そうだろう。ならば、刃を向ける相手を間違えないことだ。そうすれば我も――」

 

「それが何ですか」

 

叫んだ。これ以上彼女に好き勝手に言わせてたまるか。明良は復讐心や正義感でここに来たわけではない。この手で全て終わらせる、己の責務を全うするために来たんだ。

 

「貴女は舞衣様たちの敵です。私は復讐の亡霊としてではなく、あの方の執事として貴女を倒します」

 

タギツヒメは一瞬呆気に取られるが、直ぐ様口元に笑みが生まれる。それと同時に二振りの御刀が抜かれた。

 

「やってみるがいい。お前の肉体も魂も全て我が奪ってくれる」




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