刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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久々のバトル! タギツヒメvs明良!


第37話 支配

明良は左右両方の『腕』を形成する。左手に鉤爪、右手に刀。

タギツヒメも紫の身体を介して二振りの御刀――童子切安綱に大包平を抜く。同時に体表が薄く光輝く。刀使の基本戦術、写シだ。

 

「タギツヒメさん、私と貴女は同じノロによって力を手に入れた。それ以外は違うと思っていたのですが、一つだけ新しい共通点を見つけましたよ」

 

「面白いな。聞かせろ」

 

「それは――」

 

明良は言葉の途中で急加速する。高速の足運びで十メートルはあった互いの距離を瞬時に潰す。

そして、『右腕』の刃でタギツヒメの首を狙う。ただの人間ならこれで勝負ありだっただろうが、彼女にそんな仮定は砂粒ほども当てはまらない。タギツヒメは左手に握った御刀を『右腕』と交叉させ、刃同士を打ち合わせる。

火花と殺気が周囲に飛散した。

 

「貴女も私も世界にとって有害だ、ということですよ」

 

「くだらんな」

 

タギツヒメは左手に力を込め、明良の刃を押し返す。負けじとこちらからも押すが、腕力が拮抗していて状況は変化しない。だがそれも二、三秒のこと。タギツヒメは右手の御刀で明良の顔面目掛けて刺突を繰り出す。

 

「!」

 

即座に後退する明良、追従するように直進してくる御刀の鋒。鋒が明良の鼻先にまで迫ったところで、明良は上体を大きく背後に向けて反らす。

 

「!?」

 

御刀が空を裂き、タギツヒメに一瞬の隙が生まれる。時間にして見れば一秒にも満たないが、それだけあれば十分だ。

明良は上体を反らした体勢のまま『左腕』を地面につき、身体を支える。その動作を行うと同時に右足による横合いからの蹴足をタギツヒメの左脇腹に見舞う。

 

――ここでっ!!

 

明良は意識を集中させ、ノロを右足の膝下に集める。集められたノロは狼牙棒のように棘付きの円柱の形を成して右足に纏わりついた。

そうして形作られた『右足』の棘は正確にタギツヒメの左脇腹の服の布地を貫き、肉に突き刺さる。それだけでは止まらない。振り抜かれた『右足』によってタギツヒメの身体は明良から見て右側に弾き飛ばされた。

 

「くだらない、とはご無体なことを。私の意見がそこまで不満ですか?」

 

弾き飛ばされ、木製の格子を破壊した上にゆらゆらと粉塵が舞った。タギツヒメの姿がその中へと迷いこんでしまう。

明良は薄ら笑いを浮かべてその粉塵の奥の彼女に話しかける。

 

「違うな」

 

「……何がですが?」

 

もうもうと立ち込める粉塵が突然晴れ、その中から何かが突進してくる。その何かが神速で放ってくる刃を明良は『右腕』で受け止める。

何か――タギツヒメは放った刃とは別のもう片方、右手の御刀を横凪ぎに振るい、明良の胴体を狙う。だが、予測できていた。明良は『左腕』で御刀の刀身を掴み、横凪ぎを封じる。

 

「……っ、何がですが、と聞いているのですが」

 

「世界とは何だ? お前の言う世界とは、人間の傲慢の蔓延る空間のことか?」

 

「飛躍しすぎですよ。多くの人を無闇矢鱈に傷つけることを『有害』と言っているんです」

 

力の均衡が保たれている。タギツヒメは先程の明良の『右足』の蹴りのダメージをものともしていない。やはり手傷がいいところなのか。互いに押し切ろうとする方法はあるのだろうが、それを中々実行には移さない。

お互いに簡単に手の内を晒せば後々不利になる。下手に本気を出せないような状態ができてしまった。

 

「ならば世界は人間の所有物か? それが傲慢だと言うのだ」

 

「人間に限らず、他者を攻撃すれば淘汰される。淘汰されるような存在は世界にいるべきではありません」

 

「我を奪うのは世界のためとはな。荒魂混じりが笑わせてくれる」

 

「……世界のためではありませんよ。そんなものは二の次です」

 

膠着状態のまま続けられる会話。明良もタギツヒメも口元には笑みが貼り付いているが、眼に宿っているのは明確な殺意だ。

 

「柳瀬舞衣か」

 

「そうですよ。可笑しいですか?」

 

タギツヒメからの挑発。乗ってやる義理などない。二言で一蹴した。

 

「ああ、可笑しいな。そんなもののせいで、お前は負けるのだから」

 

「……!? ぐぁっ……」

 

突然、全身が弛緩した。何が起きたのか即座には理解できなかった。だが、原因は火を見るより明らかだ。

明良の腹部から二本の刀が生えている。

無論、これは明良の身体の一部などではない。明良の身体を貫通した刀、それも背後から(、、、、)だ。

 

「……どう、いう……こと」

 

痛みは感じない。戦闘意識を集中させていることで痛覚が鈍化しているのだ。

代わりに全身に泥を塗りたくられたような不快感と、重力が数倍に跳ね上がったかのような重圧感が襲ってきている。

 

――これは一体……何をされたんですか?

 

「こうなることは見えていた。いや、見ておいたのだ」

 

「……? それは……」

 

タギツヒメの、彼女の憑依した紫の瞳が普段の赤い色とは違う。金色に染まっている。

明良は悟った。彼女の眼、それが見通しているものが何なのかを。

 

「これは『龍眼』だ」

 

「……未来視の能力……見通す眼ですか」

 

あらゆる未来、可能性を見通し、そこから最良の一手を導く能力。彼女には相手の手の内を読む必要などない。戦いが始まった時点で相手の手の内が全て明かされてしまっているからだ。

 

「そうだ。ゆえに、お前が我の刀を受けることは知っていた。当然の帰結というものだ」

 

「随分と……悪趣味な『刀』じゃ……ない、ですか……」

 

明良の身体を刺し貫いたのは、タギツヒメの憑依した紫の両手の御刀ではない。彼女の頭髪から現出した赤黒い塊――そこから生えた両手の御刀によるものだ。大木のように太く、血管が走っている様は気味が悪く思えた。

 

「ごっ……がはっ……」

 

血が喉からせり上がって口から吐き出される。タギツヒメは自分の服に明良の吐血がかかるのも気にせずに突き刺していた刀を抜き取る。

 

「ぐっ……」

 

明良は『右腕』を真一文字に払い、タギツヒメを退かせる。刀が抜けたことで血管から血液が軽く吹き出る。だが、すぐに血管も筋肉も再生し、傷は消える。その後には戦闘服の繊維も元通りに繋がり、復元される。

 

「未来視……厄介な能力ですが、全能ではないようですね」

 

「どういう意味だ」

 

「貴女は未来を知ることができる。しかし、できるのはそれだけです」

 

『右腕』の鋒をタギツヒメに向ける。正確には彼女の髪から伸びる腕に。

 

「貴女は相手の未来を見て、それから最善の行動をとっています。それはあくまでも、可能性の範囲(、、、、、、)でしかない。自分が好きに思い描いた未来を選んでいるわけではないでしょう?」

 

「………」

 

一度に百個の可能性を見ることができても、その中に自分に都合の良いものがあるとは限らない。自分に有利な百一個目の可能性を作ることはできないのだ。見ることはできても、干渉はできない。

 

「未来を掌握できるのなら即座に私を始末すればいいだけのこと。無駄な戦いをしているのは、それができないからではないですか?」

 

「……ふむ」

 

タギツヒメは押し黙ったまま、数秒――二秒ほどではあったが確かに思考を巡らせる素振りを見せ、それから口角を上げて笑った。

 

「面白い仮説だが、一つ誤りがあるな」

 

「何でしょうか?」

 

「先程の刀はお前を屈服させるためのものではない」

 

「?」

 

タギツヒメは左手の御刀を地面に突き刺し、空いた左手の掌を明良に向ける。

 

「お前を――」

 

タギツヒメの左手の五指が曲げられ、握り拳が作られる。

 

「操るためだ」

 

ドクン――!!

 

「………!?」

 

息が止まった。比喩でも何でもない。本当に呼吸が停止した。全身の筋肉や血液が右往左往に流動し、視界が揺らぐ。立っていられずに膝を地面についた。

数秒で呼吸は戻るが、全身をミキサーにかけられて成形されていくような激痛は消えない。

 

「我がお前を支配できないとでも思ったか?」

 

タギツヒメの言葉が耳に届く。脳に直接刷り込まれるような感覚だ。

なおも身体の異常は消えず、両方の『腕』と『右足』も解除される。

 

「元々お前の中の力は我の半分。支配できない道理はない。流石に無条件で、とはまではいかないが体内の深部まで触れれば(、、、、、、、、、、、)それで十分だ」

 

「……! はっ……はぁっ……!」

 

「ただでさえお前は体内に大量のノロを取り込んでいる。普段は制御できていようと、均衡を崩してしまえば容易に自壊する」

 

脳がバラバラに砕かれているみたいだ。思考がまとまらず粗い息が漏れる。

 

「まだ声が出るとは大したものだな。いつまで続くか見物だ」

 

先程の刀は明良への攻撃ではなく、明良の肉体への干渉を可能にするための下準備だったのだ。

これは想定していなかった。干渉するにしても、ここまで強力なものだとは正しく理解できていなかった。

 

「だれ……がっ……!」

 

「?」

 

「あなた、の……いう……ことなど……っ!!」

 

まともに動かすこともままならない喉と舌で言葉を必死に紡ぐ。意思で負ければ終わりだ。何があろうと最後まで抗ってやる。簡単に好きにできると思わせてたまるか。

 

「ふっ……」

 

だが、タギツヒメはそれも余興だと言わんばかりに笑う。うまく働かない視界の中でさえ、その笑みははっきりと嫌悪感を感じさせた。

 

「柳瀬舞衣はお前に感謝などしないぞ」

 

「!?」

 

――聞くな。

 

耳を塞ぐ余裕はない。明良は心に壁を隔てるようにタギツヒメの言葉を無視する。

 

「お前の努力も忠誠も行動も全て報われることなどない。お前がどれだけのことをしようともな」

 

――それが何だ……何だと言うのですか?

 

「やがては己の人生を歩むことになる。その傍らに立つのはお前ではない」

 

――そんなことは知ってます。知った上でこうして……

 

「哀れなものだ。復讐を胸に誓い、人ならざる力を手にしたにも関わらず……その復讐すら為し遂げられず、最後は人間のために死ぬ。無知蒙昧で傲慢な者共のためにな」

 

――違う。

 

「人間を恨み、憎む心があるはずだ。計り知れない不条理に苛まれたお前は人を嫌い、疑い、憤る。決して癒えることのない己の復讐心から目を背けるな。お前を苦しめたのは人間の悪意だ」

 

――そんなこと……

 

「一片の価値もない人間に思い知らせろ。己の受けた屈辱と苦痛を。暴虐の限りを尽くし、人間を駆逐しろ」

 

――私は……私は、

 

「心を解放しろ。憎悪に染め上げろ。お前にはその力がある」

 

――………………………………………

 

「……………!!」

 

雄叫びが上がった。空を割り、人の頭を外から押し潰さんばかりの叫び声。人とも獣とも似つかない異形の外物が雷鳴のごとく叫びを空に轟かせた。

 

――クルシイ




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