今回は短めですが、平成最後の投稿です。令和も投稿しますのでよろしくお願いします。
舞衣が明良の手に触れて数分。舞衣の両目は閉じられ、微動だにしない。明良も未だに沙耶香、薫、エレンの三人を触手で拘束してはいるものの、目立った動きは見せていない。
「舞衣ちゃんたち……どうしちゃったんだろ」
可奈美と姫和は御刀を構えたまま警戒を続けている。
「わからない。が、ここは舞衣に任せるしかない。あいつを救ってやれるのは舞衣しかいないからな」
「うん……そうだね」
そんな状態が続くこと、さらに数分。ついに変化が表れる。
「見て! 姫和ちゃん!」
可奈美が指さした先――舞衣の手と明良の手と離れていく。
「何だ……崩れて……!」
明良の手は指先から綻び、赤い微細な粒状に分解されていく。綻びは指先から腕、胴体、頭へと広がり、その下から明良の肌や服が覗ける。
明良の身体を覆っていたノロが全て分解された途端、彼は膝から崩れ落ちる。だが、地面に倒れ伏すことはなく、正面に立つ舞衣に抱き留められた。
「う……」
軽く呻き声を上げる明良。どうやら、命に別状はないらしい。
それを確かめた可奈美と姫和は急いで二人の元に駆け寄る。
「舞衣ちゃん、明良さん!」
「戻ってこれたんだな、二人とも」
「うん、私たちは大丈夫だよ。それより、皆は……」
舞衣は明良を支えたまま、五人の様子を確認する。可奈美と姫和に傷はないし、沙耶香、薫、エレンの三人を拘束していた触手も消滅したため、既に解放されている。
「こちらも問題ない。怪我人もなしだ」
「それより、明良さんはどうなったの!?」
可奈美が舞衣たちに迫ると、それまでぐったりと脱力していた明良がその瞼を重たそうに開く。
「ん……うう……ここは、折神家の……」
「明良くん! 目が覚めたんだね、よかったぁ……」
舞衣は彼を地面に座らせ、その顔を両手で挟んで自分の方へと向けさせる。
「どこか怪我とかしてない? 体調が悪いとか」
「えと……いえ、特には何も」
困った様子で答える明良。その元に沙耶香、薫、エレンの三人も合流する。
「明良……舞衣、よかった」
「ったく、世話焼かせやがって」
「これでオールセット、デスね!」
明良は全員が集まったところで、自分の顔を挟んでいる舞衣の手をペシペシと叩く。
「舞衣様、もう大丈夫です。自分で立てますから」
「ほんとに? 無理したら駄目だよ」
「わかっています。本当に大丈夫ですから」
舞衣の手が離れ、明良は右膝に両手を置いて力を入れて立ち上がる。顔色は青ざめ、動きは鈍いが、しっかりと両の足で立つことができている。
「さて、それじゃあ」
「デスね」
薫とエレンは目配せをして明良の前に立つ。エレンは明良と目を合わせてから、大きく左手を横に振りかぶる。嫌な予感がしたのも束の間、エレンの平手打ちが左頬に見舞われる。ビリビリと脳が揺さぶられる感覚と共に鈍い痛みが左頬に広がる。
「ぐっ……」
「薫、バトンタッチデス」
「おう。おらっ!」
今度は薫が明良の右頬に平手打ちをする。身長差のせいでまともには届かないため、ジャンプしてからだったが。
「お二人とも、何を……」
「何を、だと? お前が一人で突っ走ってたからだろーが!」
困惑する明良に薫は精一杯の睨みを効かせて叫ぶ。
「自分が荒魂だとか、過去に色々やってたとか、んなことにいちいちこだわって。そのせいで大事なもん見落としてたんじゃねーのか?」
「そうデスよ。むしろ、そんな理由でマイマイやワタシたちがアキラリンを見限ると思われる方が心外デス」
「それは……」
明良は反論できなかった。彼にとっては正しい行いだと確信していたが、今となっては間違いだとわかる。舞衣とのやりとりを経たことから、自分の胸に深くその感覚が刻まれている。
「ワタシたちからはこれだけデスよ」
「なら、次は私」
薫、エレンは下がり、沙耶香が明良の前に立つ。当然のように右頬に平手打ち。前の二人より衝撃自体は弱いが、明良の胸には鋭い痛みが走る。
沙耶香の表情には大きな変化はないが、心なしか悲しそうに見えた。
「明良は舞衣を泣かせたから……それは駄目」
「……はい、申し訳ありません」
「……うん、わかった」
沙耶香は下がり、最後は可奈美と姫和が立つ。可奈美が左頬、続けて姫和が右頬に平手打ちをしてきた。
「可奈美さん、十条さん……」
「明良さん、私たちって何のための仲間なの?」
「え……」
「明良さんを一人で戦わせて、死なせるために私たちがいるの?」
可奈美はいつにも増して悲痛な顔で明良を見上げる。怒り、哀しみ、それらの感情が混在した表情だ。
「何もかも抱え込んで苦しんでいる人がいて、その人を平気な顔で見捨てるような相手を私は仲間だなんて思わない」
そうだ。彼女たちは平気で人を見捨てるような人物ではない。そんな人達なら、明良がここまで命を捨ててまで守りたいと誓うことはなかったはずだ。
人を本当の意味で信じきれなかったのはタギツヒメだけではない。自分も人を嫌ってこそいなかっただけで、誰かに事を任せる気にはなれていなかった。
姫和は明良の胸ぐらを両手で強く掴み、言い聞かせるように言葉を連ねた。
「お前は自分一人が犠牲になって事を済ませればそれでいいと思っていたんだろうが、それは違うぞ」
姫和の普段の凛とした雰囲気とは少し違う。彼女の今の表情は不満と後悔に苛まれた人間のそれだ。
「舞衣がどれだけ自分を責めて、お前を助けたいと願ったと思う? お前は舞衣を失いたくなくて戦っていたんだろう? なら、何故舞衣も同じ思いだとわからなかった?」
「わからなかったわけではないんです。ただ、私が……」
「自分が一人で生きていると思うな。お前が死ねば、残された人たちの方がずっと辛い思いをするんだぞ。それがどれだけ耐え難いことなのか、私と可奈美は痛いほど味わったんだ」
「そうですね……貴女は、私が……」
彼女の母親、十条篝は二十年前の明良の過ちによって死んだも同然。何の罪もない自分の母の命が何者かの手によって奪われたのだ。それがどれだけ辛いかなど、言うまでもないことだ。
「言わなくていい。私はもうお前を斬らない。お前が死ねば、舞衣が悲しむ」
姫和は舞衣を一瞥した後、その場の人物を見渡してその表情を覗く。
「……私たちもそうだ」
「申しわけ……いえ、ありがとうございます、十条さん」
「姫和でいい、明良」
「姫和、さん」
「さん付けは……いや、もういい。舞衣、後はお前に任せる」
姫和と可奈美は言うべきことは終わったと、舞衣と交代する。
「舞衣様、私は……」
「明良くん、私に幸せになってって言ったけど、そんなの無理だよ。私にとっての幸せは皆と一緒にいることだから」
「皆様と一緒に……」
「その中には明良くんもいないと駄目なんだよ?」
「……私、私は……」
明良は涙が溢れそうになるのを必死に堪え、袖で目元を拭う。
「ごめんなさい、その……周囲の方々からこんなに心配されたのは生まれて初めてなので、つい……」
生まれてから十七年間、毎日罵声と暴力の日々。優しい言葉をかけてくれる、ましてや助けてくれる人物など一人もいなかった。
そのせいか、彼女たちの言葉は暖かく、明良の心には収まりきらないくらい大きすぎた。
「舞衣様、それから、皆様も……」
何度も逡巡を繰り返しながらだったが、明良は彼女たちに願いを言う。自分は一人ではない。
「私と一緒に戦ってください」
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