刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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急いで書いたんで普段より拙いかもしれないです。まあ、繋ぎの話なのでそこまで重要じゃないです。大事なのは次から!


第42話 罰として

明良と六人の刀使が合流し、お互いの蟠りもすっかり解けた頃。

 

「皆様、急ぎましょう。警備員や折神家の刀使の残党が今の騒ぎを聞きつけて接近しているかもしれません」

 

明良の言葉に六人は周囲の状況を確認する。

 

「確かに、何だか騒がしいかも」

 

「ああ、長居は無用だな」

 

可奈美、姫和は警戒を強めつつ祭殿の方へ目を向ける。折神紫――タギツヒメの待つ方向だ。

彼女もこちらが来ていることは百も承知。その上で決着をつけるために堂々と待ち構えているはずだ。相手に余計な時間を与える前にこちらから速攻を仕掛けることが最善のはずだ。

 

――! この匂い……

 

方針を定めたところで、明良の感知能力が敵を捕まえる。それも一つや二つではない。

その様子に気づいた舞衣が尋ねてきた。

 

「どうしたの、明良くん?」

 

「荒魂です」

 

明良の返答に対して薫、エレンは怪訝そうに眉をひそめる。

 

「荒魂だぁ? んなもんどこに……」

 

「スペクトラムファインダーには何も……タギツヒメのことではナイのデスか?」

 

「……! 見てください」

 

空を見上げる明良。六人も続いて首を頭上へと向ける。そこには奇妙な光景があった。

どす黒い血のような赤。そういう印象を先行させる色の雪が空から降り注いでいる。まだ五月で季節外れもいいところだが、その場の全員がこの雪の正体を察した。これは明らかに降水の一種などではない。

 

「荒魂かっ……! まさかこんなことが……」

 

姫和が歯噛みしながら空を睨む。降り注いできたノロは空中で結合し、荒魂としての肉体を形成していく。地面につく頃には数メートルは優に越える大きさへと成っていた。そんな現象がそこら周で同時多発的に発生する。

 

「タギツヒメが操っているのか、それとも大量のノロに引き寄せられてきたのか……原因は定かではありませんが、これは不味いですね」

 

「こんな数……キリがない」

 

「だけど、こんな数の荒魂を放っておくわけにもいかない」

 

沙耶香と舞衣は御刀を抜き、祭殿に背を向ける形で構えをとる。だが、その前に立つ二つの影があった。

 

「ったく、仕方ねぇな」

 

「ねーっ! ねねねー!」

 

「ここはお任せ、デスよ」

 

二人の前に立った薫は大太刀型の御刀を両手で構え、前方の荒魂に狙いをつける。そして、突進し、大きく跳躍。続けてエレンも薫の下に潜り込むように走る。

 

「きえー!」

 

上段からの切り下ろしが見事に決まり、目の前の荒魂の頭が真っ二つに割れる。直後にエレンの横凪ぎが胴体に入り、荒魂の肉体は崩れ、ノロへと還っていく。

 

「ここはオレに任せて先に行け」

 

薫は顔だけを後ろに向けて、左手の親指を立てながら言う。やたらと格好つけたポーズで、表情もかなり嬉しそうだ。

 

「ワタシたち、デスよ、薫」

 

「わかってるって。一回さっきの台詞言ってみたかったんだよ」

 

口調や雰囲気こそ冗談めかしているが、さっきの連携は本気そのものだ。任せても大した問題はないだろう。

 

「……わかった。でも二人とも、厳しくなったら退避に徹して。深追いはしないようにね」

 

荒魂を牽制する薫とエレンに舞衣は忠告する。二人は深く頷いた後、再び荒魂の群れへと走っていく。

 

「行きましょう。お二人の気持ちを無駄にはできません」

 

明良の呼び掛けに応じ、可奈美、姫和、舞衣、沙耶香は祭殿に向かって走る。タギツヒメの元へ向かう道中、姫和は明良に話しかけていた。

 

「ところで、親衛隊はどうしたんだ? 皐月夜見は以前倒したと聞いたが」

 

「燕さんと獅童さんは先日の里での戦いで戦闘不能にしました。まずこの二人は戦いに参加できないでしょう。皐月さんも貴女の仰るようにまだしばらく意識不明のはずです。ですが、此花さんはほぼ無傷です。彼女には警戒してください」

 

「わかった」

 

一行は途中の何畳も続く座敷の廊下を走り抜け、目的地を目指す。道中で敵に遭遇すると思いきや、人の気配はまるでしない。白州に現れた荒魂の討伐に向かったのだろう。

 

「……!」

 

――この匂い……

 

明良の感知能力が別の反応を示す。大きなノロの塊のものだ。

 

「皆様、もうすぐです。警戒を――」

 

「待って、明良くん!」

 

舞衣が明良の声を遮って大きく叫び、足を止める。三人は一瞬戸惑い、同じく足を止めるものの、明良は『舞衣が察知したもの』に対して一早く対処に移った。

 

「下がってください!」

 

明良は左の掌からノロを捻出し、肘から指先まで纏う。ノロが肥大化し、巨大な鉤爪状の指と成る。咄嗟に形成した『左腕』を廊下の左側の襖と四人の間に盾のように滑り込ませる。

次の瞬間、襖を突き破って雪崩のごとく無数の小型の荒魂が流れ込んでくる。

 

「ぐっ……このっ!」

 

『左腕』を叩く衝撃に耐えつつ、払い除けるように荒魂を受け流した。

 

「………」

 

解せない。そう思わざるを得なかった。この攻撃をしてくる相手は一人しかいない。だが、その相手はこの場に現れないはずなのだ。

こんな矛盾が起こったのは、見当違いのせいなのか。いや、彼女の忠誠心(、、、、、、)を見誤っていたからだ。

 

「皐月さん……」

 

「はい」

 

毛先だけ黒い白髪。感情の死滅した顔。左袖が捲られ、露出した左前腕には深い切り傷。

 

「驚きました。簡単には起きられないようにしたはずなのですが」

 

以前、刀剣類管理局の研究施設に潜入した際に明良は彼女と交戦した。彼女を驚異に感じた明良は脳に直接力を注いでノロを暴走させた。結果、彼女は昏倒し、暫くは意識不明の重体に追い込まれたはず……なのだが。

 

「何をしたのかは知りませんが、任務ですから。任務の際は出動します。それが私の存在意義です」

 

平気な顔――感情は読み取れないが、彼女の肉体は精神を凌駕している。どう考えても体に無理を強いているはずだ。

 

「相変わらず仕事熱心ですね……こんなときくらいは欠席すればいいものを」

 

「あなたも相変わらず、口の減らない方ですわね」

 

夜見の陰から、別の人物が姿を現す。ウェーブのかかったワインレッドの長髪に上品な言葉遣いの少女。此花寿々花だ。

 

「ですが、先程の様子からするとかなり消耗しているようですわね。普段なら、もっと早く防いでいるはずですもの」

 

「………」

 

寿々花の指摘した通り、明良は夜見の奇襲に全く反応できていなかった。舞衣の明眼と透覚がなければこの場の全員がまともに攻撃を受けていたに違いない。

タギツヒメにノロを暴走させられたのは明良も同じだ。そして、急激な変身と回復のせいで体力も気力も普段の半分以下だ。

 

「明良くん、下がってて」

 

明良を庇うように舞衣が立ち、御刀を夜見と寿々花に向ける。

 

「舞衣ちゃん!」

 

「行って、みんな! 明良くんをお願い!」

 

可奈美が反対するものの、舞衣は彼女に背を向けたまま言い放つ。有無を言わせぬその雰囲気に可奈美だけでなく、姫和も素直にそれを聞き入れた。

 

「わかった。無茶はしないでね」

 

「私たちも行くぞ、明良」

 

姫和は明良の肩に手を置き、ついて来るように促すが、明良は姫和に向かって首を左右に振る。

 

「いえ、姫和さん。私も残ります。舞衣様では、この二人の相手は少々分が悪いかと」

 

「明良くん……」

 

舞衣は不安そうな目で明良を見つめる。彼女としては今の明良を戦わせることに不安と心配を抱いているのだろう。しかし、

 

「舞衣様、一緒に戦うと誓ったばかりでしょう? たとえ半端な力でも、貴女の戦いに加わります。そして、貴女と貴女の大切な方々を傷つけさせはしません」

 

「もう、しょうがないなあ……」

 

舞衣は少し嬉しそうに溜め息を吐く。

 

「大丈夫、私が守るから」

 

「沙耶香ちゃん……!」

 

沙耶香は二人の横に立ち、可奈美と姫和を振り向き様に見る。

 

「行くぞ、可奈美」

 

「うん。行こう、姫和ちゃん!」

 

可奈美と姫和は明良たちに背を向け、タギツヒメの元へと駆ける。もうこれ以上の刺客はいないはずだ。可奈美たちの進行を妨げるものはないだろう。これで安心してこちらの戦いに専念できる。

 

「舞衣……」

 

敵と向かい合ったまま、沙耶香が舞衣に呼び掛ける。

 

「何?」

 

「怒ってる?」

 

「うん、沙耶香ちゃんも明良くんも、私の言うこと聞いてくれないから」

 

「……」

 

「……申し訳ありません」

 

沙耶香も明良も、バツが悪そうに顔を曇らせてしまう。

 

「罰として新作のクッキー、嫌って言うほど食べてもらうから」

 

「任せて!」

 

「全力を尽くします」

 

舞衣の笑顔と新作のクッキーという言葉に沙耶香と明良の士気が大幅に引き上げられる。

罰の当日はお腹を空かせておこうと決意し、明良は目の前の敵と正面から向かい合った。




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