刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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今までで一番長いような気がします…
まあ、前回が短かったのでこれでいいでしょう( ^∀^)




第43話 黙ってろ

対峙する寿々花、夜見の親衛隊勢と明良、舞衣、沙耶香の反逆者勢。しばらく膠着が続くかと思われたが、対峙して早々、戦局は変化した。

夜見の隣に立っていた寿々花は写シを肉体に貼り、迅移を用いて加速。一気に明良の懐に飛び込んできた。

 

「はあっ!」

 

「……っ!」

 

水平に真っ二つにされんばかりの左薙。容赦なく明良の腕を切り落とそうとするが、攻撃を察知していた明良は『左腕』で斬撃を受け止める。

 

「夜見さん、この方は私がお相手しますわ」

 

「ええ。では――」

 

一瞬のやり取り。その酌み交わしだけで夜見は左腕の傷口から小型の荒魂を解き放つ。その荒魂は舞衣、沙耶香の周囲を取り囲み、明良は簡単に手出しができなくなってしまう。夜見は舞衣と沙耶香、寿々花は明良、という対決の構図が出来上がった。

 

「よろしいのですか? 今の皐月さんでは舞衣様と沙耶香さんの二人は荷が重いでしょうに」

 

「あら、あなたにしては見誤りですの? それともお得意の口車に乗せようとでも?」

 

「……さあ、それはどうでしょうね」

 

正直なところ、寿々花の採った策は正しい。今の構図が逆の場合――夜見が明良、寿々花が舞衣と沙耶香を相手取っていた場合、親衛隊勢は不利だ。

いくら寿々花と言えど、舞衣と沙耶香の二人の剣をたった一人で全て捌くことはほぼ不可能のはず。長期戦に持ち込まれたら寿々花の負けは見えている。

夜見と明良にしてもそうだ。夜見の小型の荒魂による圧殺や全方位攻撃は、荒魂の力を操作できる明良には通じない。攻撃手段を封じることができれば、後は明良一人で十分に倒せる。

 

「今のあなたでは、私一人も倒せませんわよ? その腕も、形を保っているだけでやっとではなくて?」

 

「よくご存じで……」

 

そうだ。今の明良は『左腕』しか使えない。使えるノロの量は極めて微量で、左の掌に集中させて纏うだけで精一杯なのだ。

寿々花の瞳が赤く光り、全身の気迫が増す。荒魂の力を発動させたのだ。

 

「私があなたを倒せば、後は柳瀬さんと糸見さんだけ。勝負は見えていますわ」

 

「ええ。確かに見えているかもしれませんね」

 

ここで、今まで余裕もなく苦笑いしていた明良の表情が嘲笑へと変わる。

 

「貴女が勝てば、ですがね」

 

「……まだそんな世迷い言を」

 

「世迷い言かどうかは、これからわかりますよ」

 

明良のこの言葉を皮切りに寿々花は御刀を振り、明良の身体を狙う。寿々花の猛攻が続くが、明良は彼女の剣の軌道に反応し、紙一重で回避し続ける。

 

「なかなか……やりますわね!」

 

「いえ、これでも、少々、無理はしてますが――」

 

何とか回避を続けていたが、やがて寿々花の御刀が明良の肩や横腹にその刃を沈め、裂傷が生まれ始める。

 

「ぎっ……ぐっ……」

 

『左腕』で防御に徹するが、それでも彼女の太刀筋を捉えきれない。そのせいでどんどん明良の身体には傷が増えていく。

 

――この人……厄介ですね。たとえ万全の状態でもあまり相手取りたくはない……

 

真希の激烈な豪剣は強力ではあるが、彼女の性格上動きは読みやすい。夜見の荒魂を使った強襲は、荒金人である明良には全くの無駄。結芽の天賦の才による剣は比類なき強さを誇るが、己の剣に自信を持つ彼女は搦め手や騙し討ちに弱い。

明良は今までこの三人と戦い、辛くも全員撃退してきた。

 

「このままでは……」

 

勝つことは難しい。此花寿々花は他の親衛隊の三人のように抜きん出た才能や戦績は見られないが、決定的な弱点も少ない。

剣術も、性格も、頭脳も兼ね備えている。相手の弱点を狙う明良にとっては戦いづらいタイプと言える。

 

「はっ!」

 

「ぐ……あっ……!」

 

寿々花が上段から切り下ろした刀が返され、逆風を明良の左肘に見舞う。肘から先が切り飛ばされ、左腕が床に転がる。

明良の身体を離れて肉の塊と化した左腕を一瞥し、寿々花は言う。

 

「勝負あり、ですわね」

 

「そういう台詞は、相手を戦闘不能にしてから言うものですよ?」

 

「その腕が使えなければあなたの戦力はゼロになったも同然。それとも、もう片方の腕も失わないとわかりませんの?」

 

「その心配は必要ありませんよ」

 

明良は左肘の切り口を床に落ちた左前腕に向ける。左前腕は微細な粉末状に変化し、立ち昇り、左肘の切り口に集まって元の腕へと再生する。肉体だけでなく、着ていた服の袖も修復する。ノロを使用した戦闘服の機能だ。

 

「私に情けをかけてくださることは感謝しますが、そういうことは本当に勝ってからで結構ですので」

 

「無駄なことを。また切り落とされるだけですわよ?」

 

「でしたら、私はまた元通りにするだけです」

 

寿々花の御刀を構える手が再び動き出そうとした瞬間、この場に酷く不釣り合いな声が二人の動きを妨げる。

 

「さぁやかぁ~……」

 

高揚した薄気味悪い声色。女性のものだ。声の向かう先は現在夜見と交戦中の沙耶香に向けられている。

明良だけではない。舞衣も、寿々花も、夜見も、声を向けられた沙耶香もこの声の主に心当たりがあった。そして予想通り、声の主は夜見の背後の襖の陰から姿を現す。

 

「何やら騒がしいと思って、夜見を無理矢理向かわせて正解だったわね。沙耶香、あなたがいたんだから」

 

「………学長」

 

沙耶香は怯えか、驚きか、あるいは嫌気か、複雑そうに顔を歪めて呟く。

赤いスーツに結った黒髪、尊大な口調と態度。鎌府女学院学長、高津雪那だ。

 

「………」

 

沙耶香の隣に立つ舞衣は、沙耶香を庇うように彼女と高津学長の間に入る。

 

「ここに来た、ということはようやく私の元に帰ってくる準備ができたということね。早くこっちにいらっしゃい、そうすれば先日の戯言(たわごと)は水に流してあげるから」

 

すっかり沙耶香を自分の側に引き入れるつもりになっている高津学長に、舞衣は睨みを効かせながら警告する。

 

「沙耶香ちゃんはあなたに渡しはしません。大人しく――」

 

だが、高津学長はまるで舞衣の存在などありもしないかのごとく、ますます上機嫌になりながら沙耶香に捲し立てる。

 

「どうしたの沙耶香? そんな顔をして。何も恐いことなどないでしょう? あなたは私が見込んだ刀使だもの。あなたなら――」

 

高津学長は一旦言葉を区切り、夜見の背後に立つ。夜見の背中側から彼女の髪の毛を掴み、力任せに持ち上げて言った。

 

「こんな失敗作にはならない。だから安心して、私に全てを委ねるといいわ」

 

高津学長は沙耶香に見せつけるように夜見を掴んだ手を正面に掲げる。夜見は苦痛どころか嫌悪の感情すら顔に出さずに無表情のままだ。それとも、そもそもそんな感覚や感情を感じていないのか。

 

――高津学長……

 

明良は彼女の蛮行に少なからず苛立ちを覚える。夜見は敵だが、高津学長の行動そのものには嫌悪感がどうしても付き纏ってしまうからだ。

 

「夜見さん……」

 

明良が横目に寿々花を見ると、彼女の表情には明確な怒りと敵意が見えた。歯軋りをしながら高津学長を遠目に睨んでいる。わかっていたことだが、親衛隊から見ても高津学長の行動からは好印象など抱かれないようだ。

そんな周囲からの心象や視線を知ってか知らずか、高津学長の態度は尊大さを増していく。

 

「私に従っていれば、あなたは紫様に仕える最強の刀使――いえ、最高の御刀になれるわ。それがあなたにとっての使命であり、幸せなのよ、沙耶香」

 

夜見を掴んでいる手とは別の手で、沙耶香を招き入れるよう下から手を伸ばす高津学長。それに応える沙耶香の表情は変わらず複雑そうなままだ。

しかし、その複雑そうな表情でも沙耶香は自身の学長に自分の意思を告げる。

 

「もうやめて」

 

「あ?」

 

馬鹿にするような、呆けたような態度で高津学長は反応する。

 

「もうひどいことしないで。じゃないと、私は……」

 

「斬るのかぁ!? 私を、お前が?」

 

今度こそ、明確に悪意と挑発の込められた答え方をする高津学長。

 

「ひひ、はははは、あははははっ!!」

 

汚ならしい、下卑た笑いが高津学長の口から放たれる。数秒続いたその笑い声と笑顔は瞬間的に罵声と剣幕へと変貌する。

 

「出過ぎた口を聞くな!! 道具の分際であるお前に、私を斬ることなど許されないだろうが!!」

 

沙耶香も、舞衣も、高津学長に怯えはしない。だが、彼女の異常性の理解と彼女に対する敵意は固まった。

 

「御刀も、刀使も、荒魂も、刀剣類管理局も、全ては紫様に力を捧げるためにあるのよ。沙耶香、お前はそれを理解していないようね」

 

高津学長は夜見を掴む手を緩め、彼女を地面に放り出す。うつ伏せに倒れた夜見だが、普段と遜色のない無表情で地面から顔を上げる。

 

「おい、早く立て。お前の任務だろう」

 

高津学長はうつ伏せの体勢の夜見の右腕を履いているヒールで思い切り踏みつける。ヒールの踵部分の突起が右腕の肉に食い込むが、夜見は表情の変化どころかうめき声一つ上げない。

 

「全く、以前戯れに実験台として選んでやったときから変わりゃあしない。本当に不気味な奴……」

 

高津学長は顔をしかめながら夜見を踏んでいる足を退け、立つように促す。

 

「………」

 

立ち上がった夜見は何事もなかったかのように御刀を握り、眼前の舞衣と沙耶香を見据える。

 

「沙耶香以外は殺せ」

 

「了解しました」

 

冷たく言い放たれた高津学長の命令に無感情に答える夜見。再び左前腕に御刀で傷をつけ、その傷口から荒魂を放出する。

 

「沙耶香、少し頭を冷やすことね。お前にとって不要な、余計な淀みができているようだもの」

 

夜見の後ろに隠れ、偉そうに諭す口調で高津学長は沙耶香に言う。沙耶香は黙ってそれを聞いていた。

 

「………」

 

「お前は紫様の道具なのよ? あの方のために生き、あの方のために死ぬ。これ以上の幸せはないわ。お前からは感謝こそされ、恨まれる筋合いはないはずだけれど」

 

「……ちがう」

 

「いいえ、違わないわ。お前も望んでいるはずよ。そんなふざけた連中に何を吹き込まれたか知らないけど、お前の心の奥底には紫様に全てを捧げたいという思いが必ず――」

 

ヒュンッ

 

高津学長の声が不自然なところで止まった。彼女が意図的に止めたのではない。止めさせられたのだ。高津学長の右の首筋の近くを何かが通過し、切傷をつけたのだ。

 

「なっ………」

 

高津学長は思わず自分の首元の切傷に触れ、青ざめる。傷自体は大したものではないが、もしもあと数センチ深く切れていれば、頸動脈が離断して致命傷となる位置だ。しかも、高津学長本人はこの事態に全く反応も対処もできていなかった。

一体何故、誰がやったのかと高津学長は辺りを見渡すが、件の攻撃の実行者――明良は堂々と左腕を高津学長の方へと向け、攻撃体勢のまま彼女を睨みつけている。

 

「黙ってろ………黙っていてください」

 

「ひっ……」

 

恐怖で後ずさる高津学長を睨み続けながら、明良は静かに怒りをぶつける。

 

「次は頭を吹き飛ばしますよ、ヒステリック野郎」

 

明良の胸中はもう、怒りで張り裂けそうになっていた。高津学長の理不尽で自分勝手な物言いも、舞衣や舞衣の大切の人々を侮辱したことも。怒りでいっぱいだったのだ。

高津学長は怯んだ姿を誤魔化そうと寿々花を指差して大声で叫ぶ。

 

「く……お、おい、此花寿々花! 早くそいつを黙らせろ!」

 

「言われずともやりますわよ。あなたに命令されるまでもありませんわ」

 

寿々花はうざったそうに高津学長に返事をする。少し様子を取り戻したかのように彼女だったが、今度は沙耶香を庇うように立つ舞衣の声に意識を引っ張られる。

 

「高津学長こそ、もう何も喋らないで」

 

「……なんだと?」

 

「私は、沙耶香ちゃんも明良くんもあなたに傷つけさせたりしない」

 

「ふざけたことを……!」

 

高津学長はやりきれないと言わんばかりに舌打ちを吐いて後ろに下がる。少々邪魔が入ったが、これで元の体勢に戻った。

 

「高津学長はああ言っていましたが、どうですの? 個人的にはあなたを殺したくはないのですけれど」

 

「……はい?」

 

御刀を構えたまま寿々花が問い掛けてくる。その意外な内容に明良は首をかしげざるを得なかった。

 

「あなたには結芽を救っていただいた恩がありますもの。私なら適当に理由をつけて罰を軽くすることくらいはできますわ。そうすれば少なくとも死ぬことはないでしょう」

 

「それは私に言っているのですか? それとも私たちに?」

 

「勿論、あなた個人にですわ」

 

「論外です」

 

明良は右足を床に強く踏み込み、一気に加速。『左腕』を下手に構え、寿々花に接近。刈り取るように上に振り上げた。

 

「遅いっ!」

 

先手を打ち、隙を突いたと思ったが、寿々花には見切られていたようだ。後方に足を運ばれ、明良の『左腕』は空を切る。

その後も攻防は続き、寿々花の御刀と明良の『左腕』は何度も交差し、打ち合いが続いた。一見互角のように思えたが、その実は違った。

 

「はぁ……はぁ……ごほっ……」

 

「満身創痍、ですわね」

 

攻防を続けている内に明良の身体には何度も御刀が傷をつけ、血が流れていた。頬、肩、足、腕、全身に満遍なく。再生も始まってはいるが、極めて遅い。間違っても先程のような超速の再生は起こらない。

 

「速度も明らかに落ちていますし、攻撃の精度も粗い。もうまともに戦えはしませんわね」

 

寿々花の言う通りだ。足は痙攣して速度を発揮できないし、『左腕』に纏っているノロも今にも分解しそうだ。

 

「……簡単には勝てない相手であることは最初から承知の上です」

 

――ですが、

 

「貴女を倒す算段はもうついています」

 

 

※※※※※

 

 

「倒す算段……」

 

寿々花は明良が自信満々に告げた台詞を無意識に反芻していた。

 

――ハッタリ……? いえ、そう軽んじるのは早計ですわね

 

殺すまではいかなくとも、本気で斬り伏せるために御刀を振るっているのだ。自分の予想では明良はとうに地面に仰臥していなければおかしい。

つまり、既に彼は寿々花の予想を上回る動きを見せているということだ。

 

「相変わらず、あなたの考えはよくわかりませんけれど……」

 

寿々花は御刀を肩より後方に引き絞り、刺突の構えをとる。

 

「動けない身体ではその算段とやらも無意味ですわよね?」

 

突進し、刺突を明良に向けて繰り出す。苦しくも、この一撃は右によけられて不発に終わる。一点のみを狙った攻撃なら、横にずれれば回避は可能なのだ。

だが、寿々花の狙いはここから。右に避けた明良に向けて刺突から横薙ぎに御刀を振るう。

 

「………っ!」

 

「!?」

 

捉えた。と思ったが、明良の身のこなしは寿々花の斬撃の速度を上回った。彼は寿々花の間合いの外まで後退し、横薙ぎを回避。

寿々花は今度こそ驚きを隠せなかった。またもや、彼に自分の動きをいなされたのだから。

 

「これなら、どうですの?」

 

寿々花の視界から明良の姿が高速で流れていく。明良が動いたのではない。寿々花が超高速で移動しているためだ。

 

「……迅移」

 

「ええ。今のあなたに対処できまして?」

 

迅移で明良の懐に入り、一太刀浴びせて離脱。また懐に入って一太刀。ヒットアンドアウェイの戦法だ。一撃必殺は狙えないが、確実に相手の戦闘力を削いでいく。

もはや妥当というべきか、明良は寿々花の速度に反応し、斬撃を何度も防ぐ。

 

「先程より速度は増しているようですわね。ですが――」

 

刀使でもない者が迅移の速度に反応できるとは大したものだが、それにも限界はある。ましてや、彼のような負傷者ならなおのこと。

寿々花は防御の行き届いていない明良の右肩に御刀を突き刺す。

 

「がっ……」

 

まともに入った。再生が遅れている今の彼にとっては重傷だ。御刀を引き抜くと、明良は右肩を押さえながら床に膝をつく。寿々花は彼を見下ろす形で上段に御刀を振りかぶる。

 

「終わりですわね」

 

明良は顔を上げ、寿々花を見上げる。口から血を流し、息を荒げている。もう立つこともままならない。肝心の算段とやらもハッタリだったのか、あるいは失敗したのか。どちらにせよ、彼はもう反撃などできない。これで寿々花の勝ちだ。

 

「ええ、終わりですね」

 

明良は諦めたような暗い笑顔で答える。寿々花は己の確信の下、御刀を振り下ろした。

狙うは明良の左肩。両腕を封じればもう戦うことはできない。彼の挑発的な嘲笑の顔も、余裕綽々な顔もこれで消える。その思いを込めて体重を乗せた斬撃を見舞う。

 

 

 

「貴女の負けです」

 

 

 

寿々花が御刀を振り下ろすと同時に耳に届いたのは、この言葉。

決定的な一撃がただの空振り(、、、)に終わったと理解したと同時に目に飛び込んできたのは、彼の平気そうな顔だった。

明良が立ち上がり、寿々花はようやく我に返って再び御刀を振りかぶる。

 

「!? このっ!」

 

何故こんな距離で外したのかはわからない。しかし、今すぐ彼を倒さねば不味いことになるのは直感で理解できた。寿々花はやや乱雑ではあったものの、二度、三度と明良を斬り、刺し、払う。だが、当の明良本人の身体には何の外傷も生まれず、寿々花の手にも空中を切る手応えしか伝わってこない。

 

「言ったはずですよ」

 

何処からか明良の声が聞こえる。正面からではない。音量も方向もデタラメな奇怪な音で。

音の発生源を探ろうと必死に辺りを見渡すが、横手から伸びてきた赤黒い手が寿々花の胴体を掴み、壁に押しつけた。寿々花の写シは剥がれ落ち、肺の中の空気が大量に排出される。

 

「か……はっ……」

 

「倒す算段はもうついている、と」

 

寿々花を拘束したのは明良の『左腕』だ。どういうわけか、先程よりも大きくなっている。

『左腕』は寿々花を掴んだまま明良の身体を離れる。それによって左肘から先が欠損した明良の腕も再生した。

 

「一体……何をしたんですの?」

 

「それですよ」

 

明良は寿々花に近寄り、目元を指差す。一瞬何のことかわからなかったが、すぐに合点がいった。彼が操ることができるのは――

 

「荒魂……ですの?」

 

彼は荒魂の力で強化されただけの人間とは決定的に違う。荒魂の特性の支配権や操作能力は寿々花たちよりも遥かに上だ。

 

「荒魂の力による強化は筋肉だけでなく神経にも作用します。当然、脳内処理速度の加速や視覚、聴覚の鋭敏化も可能。しかしこれは、荒魂の力によって神経系に干渉できるということでもある」

 

つまり、とどめの一撃での空振りは寿々花の技量云々の問題ではない。明良によって方向感覚や距離感を狂わされていたのだ。

 

「ですが、そんな……干渉する力などどこに……」

 

明良はここに来た時点で疲労困憊だったはずだ。仮に今の芸当が可能だったとしても、そんな余力が彼に残されていたとは考えにくい。

 

「その分は貴女の身体から頂戴いたしました」

 

明良は左の掌を寿々花に見せながら種明かしを続ける。

 

「貴女との攻防を意図的に長引かせ、御刀を通じてノロを少しずつ吸収していたんです。貴女がはっきりと気づかない程度に、ほんの少しずつ」

 

「でしたら、貴女の速さが増していたのは……」

 

「ええ。私が速くなったのではありません。貴女が遅くなっていたのですよ」

 

気づいていないわけではなかった。だが、目の前の敵に対する警戒心と集中力のために無視をせざるを得なかったのだ。

それでも、無視してもよいと思わせるほど微量なノロをあの戦いの最中に奪っていたと考えると、彼の知略と技術は底知れない。

 

「貴女は私の作戦を常に警戒していた。ですから、あえて私の方から(ほの)めかすことで貴女の警戒心を煽り、焦りを生じさせたんです。貴女が私との戦いだけに集中するように」

 

「そんな、ことまで……考えるものなんですの?」

 

「そんなことまで考えるものなんですよ」

 

荒魂の力を使っていなければ負けなかったかもしれない。だが、もしそうだとしても彼には別の手段があったように思えてならない。彼に――黒木明良に戦略で勝負を挑んだこと自体が無謀だったのだ、と寿々花は思い知らされた。

 

「貴女は私を殺さない、と仰いましたね。私も貴女を殺しはしませんよ」

 

「……意外ですわね。情けのつもりですの?」

 

「……いえ、ただ」

 

明良は寿々花の頭にそっと右手を乗せ、慈しむような手つきと表情で呟く。

 

「貴女を大切に思う方々に免じて、というだけです」

 

視界が暗闇に閉ざされ、意識を失う直前の彼のその表情と声色。それは自嘲気味で、どこか微笑んでいたようにも見えた。

そのせいか、寿々花は己の敗北にも関わらず、不思議と安心していた。




とじとものレヴュースタァライトのコラボガチャ第二段で★4の舞衣が登場したときの私
→「私を本気にさせたようだな……(一万円をポケットから取り出す)」
→舞衣と姫和をゲット! 今までと比べると安い代償だぜ……財布スカスカだけど。

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