刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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お待たせしてすいません! もう毎回隔週になりそうです……もっと早く書こうとはしてるんですが(-_-;)

今日で本作も一周年ということで、二年目も気合い入れてもっと早く書いていこうと思います!


第45話 心

頭上の塊から生えている四本の腕、そして紫にある左右の腕。合わせて、合計六振り。おあつらえ向きに、こちらも刀使が六人。そして、もう一人。

 

「数ではこちらが上……ですが……」

 

そう簡単に勝てる相手ではないことは百も承知。だが、ここで勝たねばこの国の人々がタギツヒメの犠牲になる。

負けるわけにはいかない。

 

「せりゃあっ!」

 

誰よりも早く、可奈美がタギツヒメの元へと駆ける。タギツヒメは微動だにせず、頭から伸びる一本の御刀で可奈美の刃を防ぐ。

 

「まだだっ!!」

 

「無駄だ」

 

可奈美の背後から姫和、エレン、沙耶香が飛び出し、複数の方向からタギツヒメを狙う。だが、タギツヒメにはまだ手が残っている。三本の御刀がまた行く手を阻んだ。

 

「無駄だと言ったはずだ」

 

「いえ、まだです」

 

タギツヒメの正面に舞衣と薫、そして背後には明良。正面の舞衣と薫の剣は受け止めるものの、最後の明良に対してはもう御刀は残っていない。『右腕』の剣をタギツヒメの背中に突き立てる。

 

「戯れ言を」

 

タギツヒメに向けられた刃は直前で横合いから伸びてきた別の御刀に弾かれた。

 

「七本目……!」

 

タギツヒメの頭上の塊からもう一本の腕が伸びて、御刀を握っている。

 

「その程度か……それが全力か?」

 

見え透いた挑発。だが、こちらの動きが読まれて、対応されたのは事実。なりふり構ってはいられない。

 

「はぁっ!」

 

「そらっ!」

 

「きえー!」

 

全員が一旦距離をとり、明良以外の六人は迅移で攻撃と離脱を繰り返す。中距離では荒魂の腕、懐に潜り込めば紫の身体の腕が握る御刀が応戦してくる。一進一退の攻防。

 

「薫ちゃん、近づきすぎないで!」

 

指揮を行う舞衣が隣で戦っている薫に叫ぶ。そうしながら刀を受けていた舞衣だが、薫の方へと一瞬だけ注意がそれてしまう。

 

「うぐっ……」

 

その一瞬の隙を突かれ、タギツヒメの荒魂の腕の御刀が舞衣の腹部を貫く。写シが剥がされ、舞衣の身体が地面に転がる。

 

「舞衣! うっ……」

 

舞衣が倒れたことで、沙耶香は思わず彼女の身を案じてしまい、動きが止まる。またもやタギツヒメの御刀が迫り、沙耶香を貫いた。

 

「きえー!」

 

舞衣、沙耶香の戦闘不能に憤るように薫が上段の構えでタギツヒメに迫る。タギツヒメはそれを嘲笑うかのごとく薫を横凪ぎに斬り払った。

 

「がっ……」

 

続けて、薫の横に立っていたエレンの身体にも御刀が深々と刺さる。御刀が引き抜かれると同時に彼女の身体に貼られていた写シが消滅する。

 

「舞衣ちゃん、沙耶香ちゃん……薫ちゃんにエレンちゃんも……」

 

可奈美は悔しそうに倒れ伏す四人を見つめる。

 

「………」

 

明良は歯噛みしつつも倒れた四人の様子を観察する。呼吸は特に異常はないように見える。苦しそうな表情はしているが、命に別状はないはずだ。

残る可奈美、姫和、明良は三人で横並びになってタギツヒメと対峙する。相手は七本、こちらは三人。手数では逆転されてしまった。はっきり言って、こっちの勝ち目は薄い。

 

「あの秘術を」

 

「?」

 

タギツヒメが不意に口を開く。三人は弱冠の動揺を露にするが、続く言葉を待った。

 

「母と同じ秘術を使うつもりか、十条姫和」

 

「………」

 

明良は横目で姫和の表情を見る。焦りや緊張感で張り詰めた――いや、一抹の不安を抱いた顔だ。本当に成功させられるか、という不安を。

 

「我は二十年前、その秘術をこの身に受けた。お前の母、柊篝の手によって」

 

「……っ」

 

姫和の顔がわずかに曇る。

 

「隠世の彼方へと消え行く寸前、我は折神紫に取引を持ちかけた」

 

「それに紫さんが乗った……ということですか」

 

明良の確信を突いた言葉にタギツヒメはゆっくりと頷く。

 

「我という自我が生まれたのは、暗く冷たい貯蔵槽の中だった。自らの半身を奪われた喪失感、取り戻さねばならないという衝動に駆られた」

 

「半身……珠鋼のことですか?」

 

「ああ。我の進化してゆく知能、それを逸らせていたのは復讐心だ。そうして、我は禍神となった」

 

話をしている最中のタギツヒメは一見すると無防備だ。一か八かで攻撃を仕掛けようと思ったが、隣の可奈美と姫和は構えたまま動かない。タギツヒメの殺気は話をしながらも、一秒たりとも潰えていないからだ。

 

「禍神となり、悟った。我はいずれ人の手により滅ぼされるとな。ゆえに、策を講じた」

 

「策だと?」

 

姫和が眉をひそめてタギツヒメに聞き返す。

 

「人々に災厄を振り撒き、我を唯一滅ぼす能力を持つ者共を仕向けさせた。そうして奴等は現れた。企て通りにな」

 

「なるほど……」

 

得心いった明良とは裏腹に可奈美と姫和は疑問符を浮かべている。明良は二人に理解させる意味も含めて自分の推理を話し始めた。

 

「二十年前、特務隊のメンバーに紫さんと篝さんがいたのは偶然ではない、ということです」

 

柊篝が鎮めの儀を行ったのも、折神紫の肉体がタギツヒメに乗っ取られたのも、そして柊篝と藤原美奈都が生還できたのも。

 

「タギツヒメ、貴女はここまで読んでいたのでしょう? 二十年前から」

 

「……ああ」

 

タギツヒメは驚きも喜びでもなく、全くの無表情で肯定する。尤も、彼女は明良たちに期待をしていたわけではないのだろうが。

 

「当時、紫さんも篝さんも最強の刀使の一角に名を連ねていました。そして、篝さんの鎮めの儀があれば史上最大の大荒魂であっても撃退することができる。そうなれば、策は自ずと決まります。貴女は元々、紫さんの肉体を乗っ取るために行動していた」

 

今にして思えば大胆不敵な離れ業としか言えない。柊家の鎮めの儀の詳細な情報など、知らない者がほとんどだ。ましてや、世間からは最強の刀使である折神紫が何とかしてくれる、という期待があった。

『凶悪な荒魂を最強の刀使が見事斬り祓った』という新聞の見出しだけで人々は満足だろう。

そして極めつけは、そんな英雄である折神紫を誰も疑わないという点だ。

まさか、あの折神紫が荒魂に乗っ取られているわけがない。たとえ真実を言葉で訴えたとしても、こんな典型的な返事を浴びせられるだけだ。

 

「紫さんは折神家の直系、つまり荒魂との肉体の相性は高いはずです。貴女にとっては絶好の物件です」

 

「そうだ。『我と同化すれば柊篝と藤原美奈都の命は助けてやる』、そう言っただけで紫の心は瞬く間に傾いた。愚かな娘だ」

 

想像できる。簡単だ。

紫――タギツヒメと同化する前の彼女とはほんの数回目を合わせた程度だが、それでもわかることくらいはある。己が身を犠牲にしようとした篝と、篝を命懸けで取り返そうとした美奈都。その二人をどちらも救う方法があるのなら、紫は迷う間もなくタギツヒメの提案に応じただろう。

 

「愚か……? 紫さんがどんな思いで貴女との取り引きに応じたのか、私にはわかりますよ」

 

明良は自分の姉に対する侮蔑の言葉に声を低め、タギツヒメを睨む。

 

「そうか。我にはわからんがな」

 

タギツヒメは明良の言葉を一蹴し、彼女の頭上の腕がうねり始める。

 

「ちぃっ!」

 

予備動作に咄嗟に反応できた明良は回避できたものの、可奈美の身体には三本、姫和の身体には一本の御刀が突き刺さる。二人は写シを剥がされ、可奈美は地面に仰向けに倒れる。姫和はダメージが比較的少なかったのか、何とか立てているようだ。

 

「可奈美っ!」

 

姫和が叫ぶが、可奈美は軽く呻く程度でほとんど動けていない。倒れた可奈美を見下すようにタギツヒメは吐き捨てる。

 

「筋はいい。が、母親には遠く及ばぬ」

 

「可奈美さん……」

 

これでこちらの戦力は姫和と明良だけ。しかも、二人とも手負いで姫和はまだ戦闘に復帰できそうではない。大して、タギツヒメはほとんど無傷。

タギツヒメは明良の方を向き、右手に握った御刀を向けてきた。

 

「どうする? 今度はお前が己が身を差し出すか? 柊篝、藤原美奈都の娘たちを救うために」

 

「………」

 

タギツヒメが嘘を言っていない証拠はない。みっともなく許しを乞う人間の姿を見ることに享楽でも見出だしているのかもしれないが、彼女がそこまで人間に興味を持っているようには思えない。

これは単純に明良の能力が目当てなのだ。こちらに不利な状況を作り、拒否できないようにした上で持ちかけている取り引き。

受け入れれば生、拒めば死。ゆえに、明良の出した結論は一つ。

 

「お断りします」

 

首を左右に振ってタギツヒメからの提案を完全に拒否する。ここで初めて、タギツヒメの表情が曇った。

 

「意外だな。紫は脈々と受け継がれてきた刀使としての責務よりも二人の生還を選んだ。紫の弟であるお前なら、同じ道を選ぶと思ったのだがな」

 

「ええ。確かに以前の私ならそうしたかもしれませんね。ですが――」

 

「今は違う、か。まあいい。己以外の命は不要と切り捨てる――心とやらの有り様の一つだ。何らおかしくはない」

 

明良のこの言葉だけなら、非情にも仲間や恩人の命を捨てたと言える。だが、これを非情だと考えていたのは間違った考えに囚われていた頃の明良だ。

 

「心……貴女も復讐心や破壊衝動だけじゃない――人の優しい心を理解できるのではないですか?」

 

「馬鹿げたことを……何のために我がそのような――」

 

「紫さんと同化する取り引きを持ちかけた時、何故篝さんと美奈都さんの命を引き合いに出したんですか?」

 

明良にはわかる。紫にとって篝も美奈都も大切な存在だったからだ。二人を救うことができるなら、荒魂にこの身を奪われようとも、何とかして全員を救う道を見つけ出してみせる。そう強く思っていたから、紫は首を縦に振ったのだ。

問題は、この取り引きを持ちかけたのがタギツヒメであるということだ。

 

「お二人を救うためなら自分の肉体を差し出してもいい、そういう紫さんのお二人を大切に思う心を知っていたから、貴女は計画を実行に移したのではないですか?」

 

タギツヒメは人々に災厄をもたらした。今更善人だとか、小悪党などと擁護するつもりはない。

だが、彼女の行動と言動には違いがある。

 

「貴女は人の暖かい心を理解できている。そのはずなのに、人は脆弱だ、愚劣だと詰り、矛先を向け続けている」

 

人が完全に悪だと考えているのならそもそもこんな計画は思いつかない。タギツヒメは人の善悪を知った上で、人を悪だと考えている。

矛盾。繋ぎ合わせられない要素だ。

 

「何が言いたい? 我の半身を奪った者共に歩み寄れとでも? 我と並び立てているなどと思い上がるな。人間ごときが」

 

「その『人間ごとき』がいなければ、貴女は今日まで生き永らえることも、より強力な存在に成り上がることもなかった。貴女は人を利用していたのではなく、単純に助けられていたのですよ。まさか、気づかなかったのですか?」

 

タギツヒメの眉がピクッと動く。彼女とて挑発の類だとは見当がついている。だが、自分の言われたくないことを言われて激昂しない者などいない。荒魂であろうと例外ではない。

 

「一人では何もできないにも関わらず、自分を助けてくれる周囲の人々の力を己の力と勘違いしている。年端のいかない子供と同程度ですよ」

 

タギツヒメの注意は完全に姫和と可奈美からそれている。明良は言葉を絶やすことなく捲し立てた。

 

「貴女はただの、意地を張って暴れる子供だ。暴れるだけ暴れ回って周囲の迷惑など考えない――愚かなのはどっちでしょうかね?」

 

「……!」

 

タギツヒメの眼が見開かれ、荒魂の腕の御刀が五本とも明良の身体を貫く。

防御する間もないほどの神速の刺突。明良は倒れこそしなかったものの、口から血を吐き、だらりと脱力してしまう。

 

「明良!」

 

「がはっ……」

 

姫和が叫び、駆け寄ろうとしてくるが、明良の表情は苦悶には染まらない。

 

「ふっ……」

 

明良は口から血を流しながらも、口角を吊り上げ、笑みを浮かべる。

 

「やはり……愚かなのは貴女ですよ」

 

「何?」

 

「貴女と私は元々一つ。ならば、こんな芸当も可能だと思わなかったのですか?」

 

明良は左手で腹に突き刺さる御刀の刀身を握り締める。握り締めたことで掌が裂け、血が――いや、血ではない。

赤黒いノロが掌から滲み出て、御刀を覆う。覆い被さったノロは接着剤のように固まり、剥がれない。タギツヒメが接着面を紫の身体に握られている御刀で切断しようとするが、それも想定済だ。

 

「行け!」

 

明良の羽織っていたジャケットが変形し、一枚の布状になってタギツヒメの元へと飛ぶ。

明良の新装備であるノロを編み込んだこの服は、再生や防御の能力だけではない。攻撃にも転用できるのだ。

 

「なっ……」

 

ジャケットは紫の身体に巻き付き、拘束具のようにその動きを封じる。これで彼女の手は文字通り全て封じた。

 

「この程度で我を縛ったつもりか。こんなもの――」

 

タギツヒメは紫の身体を縛るジャケットを力任せに引き裂く。そして、左腕に接着させていた荒魂の腕も強引に引き剥がされた。

 

「……死ね」

 

タギツヒメの御刀が明良の全身を切り刻む。全身から血が溢れ、明良はとうとう立つことすらままならなくなり、うつ伏せに倒れる。

 

「お前では相手にならん。折神紫を超える者などこの世にはいない」

 

「ええ……そう、ですね」

 

明良は倒れたまま、かろうじて言葉を紡ぐ。肉体の再生は始まっているが、普段より遅い。

 

「まだ生きているか。だが無意味だ」

 

「私は……ただの時間稼ぎですよ。私では貴女には敵いません。ですが……彼女なら?」

 

明良はタギツヒメを、いや、彼女の背後を見ながらそう言う。

 

「何だと……」

 

タギツヒメは直感的に何かを感じ取ったのか、背後を――そこに立つ人物を見た。

そこにいたのは、写シを貼り、御刀を構える可奈美。いや、彼女は――

 

「紫、久しぶり!」




次回、胎動篇完結です。それからは波瀾篇をやっていきます。

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