刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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お待たせして申し訳ありません。いや、お待ちしている方がいらっしゃるかどうかもわかりませんが……

プライベートが忙しくて中々書けませんでした。間空いたのにこれくらいしか書いていませんが。

胎動編はこれにて終了です。次回からは波瀾編になります。ちょいちょい箸休め回も入れますんで! よろしくお願いします!


第46話 忠誠

表情も、立ち振舞いも、声の抑揚も普段の可奈美とは違う。どこか大人びた、勝ち気な雰囲気。

そう、まるで別人になりきっているかのような――

 

「何故、お前がここにいる」

 

毅然とした態度は崩していないものの、タギツヒメは可奈美を見つめたまま固まっている。

 

「お前は……藤原美奈都は死んだ……」

 

「でも、ここにいるよ。どういうことかわからない?」

 

挑発するように可奈美は笑う。首をかしげながら尋ねる彼女は、その直後にはもう行動に移っていた。

迅移を用いての加速、そして神速の斬撃が彼女の腕から繰り出される。

 

「こんなことはありえない……!」

 

「ありえるよ」

 

一本。タギツヒメの腕が切り飛ばされ、宙を舞う。重力に従い地に落ちた腕は空気に溶けるように霧散する。

 

「こうして戦ってるのが、証拠じゃないかな?」

 

二連、三連と続けてタギツヒメの腕は減り、最後には写シの貼られた紫の身体の左腕も切り飛ばされる。

 

「はっ!」

 

だが、やられてばかりのタギツヒメではない。左腕が切られる瞬間に、すれ違い様に可奈美の胴体に一太刀浴びせ、写シを剥がす。

 

「可奈美っ!」

 

地面を転がる可奈美に姫和は慌てて駆け寄る。可奈美の身体に目立った外傷はないものの、意識を失っている。もう戦闘不能に陥ってしまっている。

 

「………」

 

タギツヒメもまた、動かない。残った紫の身体に写シを貼り直し、失っていた腕を復活させる。そうして、姫和の方へと向き直る。

 

「……明良」

 

「……何でしょう?」

 

姫和は地面に踞っている明良に横目で視線を向けながら話しかける。

 

「後のことは頼む」

 

「……何のことでしょうかね?」

 

しらばっくれる明良に姫和はこれ以上追及してこなかった。再びタギツヒメに向き直り、両手を背中側に下げた姿勢で御刀を握った。

 

「……これが」

 

姫和の姿が消える。走り出した瞬間を見逃したとかではない。文字通り、消えたとしか言えない速度で移動したのだ。御前試合の決勝でタギツヒメに奇襲をかけたときよりも速い。あの時が銃弾ほど速いとすれば、今回のものは天を翔る稲妻だ。

 

「……っ!」

 

神速を越えた速度の姫和の刺突。それはタギツヒメを刺し貫いてもなお止まらない。何もない中空に円形の穴が形作られ、二人の身体はそこに向かっていく。

 

「私の『真の一つの太刀』だ!!」

 

叫んだ姫和の身体はタギツヒメと共に空間を駆け抜ける。柊家に伝わる秘術、自らの肉体共々相手を隠世の彼方へと葬り去る奥義。

かつて彼女の母がそうしたように姫和はタギツヒメにそれを行使した。

 

「姫和さ……ぐあっ!」

 

姫和に手を伸ばすためにもがこうとした明良。彼の胸に鋭い痛みが走った。姫和とタギツヒメが突っ込んだ穴から何かが伸びて、明良の胸に突き刺さっている。赤黒い触手――タギツヒメの腕だ。

 

「往生際の……悪い……くっ」

 

現世に留まっている明良の身体に掴まって自分だけ生き延びようとしているのか。明良は触手を掴んで引き抜こうとするが、熔接されたかのように触手は明良の身体に同化したまま離れない。

 

「まずい……これでは……」

 

タギツヒメを葬れないか、あるいは自分も隠世に誘われる可能性すらある。こんなこところで自分の存在が邪魔になるとは。

力任せに引き抜こうとしてもビクともしない。少しずつ、明良の身体も穴の方へと引っ張られていく。

 

「……っ」

 

ジリジリと全身が暗闇へと追いやられていく感覚。残り数歩で自分も隠世へと呑まれてしまう。

 

「ダメっ!」

 

横合いから浴びせられる凛とした声。それと共に自分とタギツヒメを繋ぐ触手は何者かの御刀によって断ち切られる。確認するまでもなかった。息切れしながらも御刀を握り、明良を助けたのは彼の主である舞衣だ。

 

「舞衣様……!」

 

だが、なけなしの力を振り絞っての行動だったのだろう。舞衣は糸が切れたかのようにその場に崩れる。明良は何とかそれを受け止めた。

 

「ありがとうございます。本当に……」

 

腕の中で気絶している主に礼を述べつつ、姫和たちが消えた穴を見る。いずれこの空間の裂け目も消えるだろう。そうなれば、姫和と紫は永遠に――

 

「姫和ちゃん!」

 

だが、彼女は――可奈美はそんな結末を許さなかった。閉じかけていた裂け目に飛び込み、姫和の元へと走っていく。

 

「頼みましたよ、可奈美さん……」

 

――姫和さんには、貴女が必要なんですから。当然、貴女にも……

 

明良の望んだ最後の希望。全員を救うには可奈美の力が要る。可奈美なら、姫和を救える。

明良はそう確信していた。

 

「!?」

 

可奈美が飛び込んだ直後、強烈な発光と音圧により視界が真っ白に染まる。

何が起きたのか理解できなかった。ただ、意識が飛ぶ直前に見えたのは二つの人影が地面に投げ出された光景だった。

 

 

※※※※※

 

 

「ここにいましたか」

 

「……あなたは」

 

タギツヒメとの戦いの数十分後。戦いの場に倒れ伏していた七人の中で最も早く目を覚ました明良は、即座にフリードマンに連絡した。舞草の専属救護隊が直ぐ様向かうとのことだ。折神家の警備がまだ残っているが、彼らは今回の騒動の事後処理に奔走しているはずだ。救護隊はヘリコプターでこちらに向かい、七人を迅速に回収する手筈らしい。

気を失っている六人を回収ポイントまで運んだ後、屋敷内に残党が残っていないかを捜索していたところである人物に出くわした。

皐月夜見だ。

 

「此花さんと高津学長はいかがなさいましたか?」

 

「お二人は警備の方々が医務室に連れていきました。今頃は安静にされているでしょう」

 

確かに二人ともある程度疲労や負担はかかっていた。当然と言えば当然だが、明良には納得できない部分があった。

 

「貴女も治療を受けるべきではないですか? もう戦えないのでしょう?」

 

「それを判断するのはあなたではありません」

 

夜見は腰に差した御刀の柄を握る。だが、明良は左の掌を向けてそれを制する。

 

「勝てないことはわかるでしょう?」

 

「繰り返し言うようですが、それを判断するのはあなたではありません」

 

「高津学長に私を殺すように命じられたからですか?」

 

「……ええ」

 

「でしたら、引き際ぐらいは弁えるべきでは?」

 

夜見の身体はボロボロだ。明良に体機能を崩され、完治していないにも関わらず戦いに身を投じ、あまつさえ舞衣と沙耶香に敗北したことでさらに負傷している。こんな状態では余計不利なことは目に見えている。

 

「高津学長に恩があるから、だから貴女はそこまで骨身を削って戦うのですか?」

 

「あの方は私の全てです。あの方がいなければ今の私はいません。でしたら、命令は絶対のものです」

 

「彼女が間違った選択を踏んだとしても?」

 

「……奇妙なことを仰いますね。黒木さんは違うのですか?」

 

違うのですか? とはつまり、どんな命令であっても忠誠を誓う主に背かない、逆らってはならないのではないか、と言っているのだ。

明良とて、舞衣への忠誠は天地神明にかけて揺らぐことはない。彼女の言うことならば聞きたい。それは確かだ。

 

「私も、舞衣様からの命令は必ず成し遂げると心に決めています」

 

だから、あえて自分の思想を全て話すことにした。

 

「ですが、明らかに倫理や道徳から逸脱した命令には従えないと思っています」

 

「………」

 

夜見は無表情でその言葉を……いや、僅かに顔が曇ったのを明良は見逃さなかった。

 

「黒木さんは柳瀬さんに仕えているのでしょう? それでも、なのですか?」

 

「だからこそ、ですよ。お互いの信頼関係がなければ主従の関係は成り立ちません」

 

「不実だとは思わないのですか?」

 

「間違った道に進むのを助長する方が不実です」

 

ありえないことだが、舞衣が明良に対して『可奈美たちを殺せ』などと命令を下したとする。間違いなく、明良は舞衣を説得して命令を取り下げさせるはずだ。

明良にとって舞衣は唯一の主ではあるが、思考停止しながら仕えているわけではない。

 

「高津学長は今まで間違いを犯してきた。そして、恐らくこれからも間違えていく。その先駆けがこれです」

 

明良は左手の人差し指を空に向けて伸ばす。深夜の闇の色ではない。どす黒い血のような赤。この世の終わりのような色が広がり、段々と薄れていっているところだった。

 

「タギツヒメの残した災禍が世界に広がりつつあります。高津学長も間接的とはいえ、この惨状に至らしめた原因の一つです」

 

「……ええ、そうですね」

 

夜見は理解はしているのだろう。世界を混乱させてしまったことを。だが、彼女にとってはそれよりも優先すべきことがあるというだけだ。

 

「正直に言えば、黒木さんの考えも理解できなくはありません。ですが、私は私の考えを変えないつもりです」

 

「別に構いませんよ。忠誠を誓う、という言葉の定義は簡単に決まりはしません。私達はただ、自らの主に向けられた刃を看過できないだけです」

 

夜見が明良の考えに理解を示したように、明良も夜見の考えには理解できる部分があると思えた。自分の崇拝する相手とは一蓮托生、死なば諸共、というのもそこまで悪くはない。

ゆえに、これは主義主張の違いなどではない。片方が刃を向け、もう片方が向け返した。そういう単純な話なのだ。

 

「また、会うことになるのでしょうね」

 

夜見は明良の左脇を通って、その場から離れていく。明良は彼女の方を振り向くこともなく、言葉を投げ掛ける。

 

「今度は恐らく、いえ、間違いなく戦うことになるのでしょうね」

 

「ええ。あなたに私怨はありませんが、その際はお覚悟を」

 

「貴女では私に勝てませんよ」

 

「そうですね。今の私(、、、)では、確かに……」

 

「? 一体どういう……」

 

気になって振り返ったときには既に夜見の姿はなかった。

 

「……今の、私……?」

 

確かな根拠はない。だが、先程の夜見には酷く不安定で不気味な執念の雰囲気が漂っていた。

 

「きっと、まだ終わりではない……」

 

タギツヒメは隠世に追いやった。可奈美と姫和も無事に帰ってきた。舞衣たちにも大きな怪我はない。

だが、これで何もかも終わりだとは到底思えなかった。

 

「……っ!」

 

明良の胸がズキリと痛む。時間にしては一秒にも満たないものだったが、生々しく疼きが残り続ける。

 

――これからも私は、あの方々を守り続ける。そうでないと、私は……

 

一抹の不安を胸に抱えながら、明良は歩き出す。絶対に舞衣と彼女の大切な人々を守る。きっとそれが、亡霊ではなく、人として彼女と生きるということだ。そう、心から願って。




余談ですが、早速水着ガチャで舞衣を引きました。33連なので早い方ですよ( ´∀`)
着替えモードで水着にして、ヤバかったですね。素晴らしいの一言に尽きます。こんなにもガチャの結果に満足したことはないくらいに。揺れまくってましたから、何がとは言いませんがね。
あ、でもどこぞの平城学館の中等部三年生の黒髪ロングの小烏丸の使い手さんは揺れるものも揉むものもないからなー、プークスクs『ブシャアッ!』(血飛沫)

ごふっ、え、えーと……それでは、次回からもよろしくお願いします、ごはっ(満身創痍)

質問、感想はお気軽に!(*´∀`)つ

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