次回は本編通りに数ヶ月後に飛ぶかどうかはまだ決めてないです。
第47話 これからずっと
折神家におけるタギツヒメとの戦いから数日後。明良たち七人は刀剣類管理局御用達の病院に入院していた。
とは言っても、肉体に直接的なダメージを受けたわけではないため、疲労回復や精密検査という目的で身を置いているだけだ。来週には全員退院できると聞いている……一人を除けば。
「………」
舞衣は午前中の検査を終え、ある病室に足を運んでいた。その部屋のベッドには安らかな顔で眠りについている青年の姿がある。
明良は舞衣たちを舞草の回収ポイントまで運び、病院へ移動途中のヘリ内部で突然糸が切れたように気を失ってしまったらしい。
極度の疲労、肉体の損傷と再生を幾度となく繰り返した回数のせいで肉体の恒常性を維持することが難しくなったのだと聞いている。
「あの……彼はすぐに目覚めるんですよね……?」
舞衣は不安げな声色を隠しきれないまま、部屋に居合わせている女性看護師に尋ねる。
「ええ。先生の話ですと、このまま安静にしていればすぐに意識を取り戻すそうです。不安になられるかもしれませんが、今は……」
「あ、大丈夫です。命に別状がないなら、それで……」
お互いに愛想笑いを浮かべつつのやりとり。看護師も舞衣と明良の関係性を何となく理解しているのか、励まそうとしているのがわかる。
「よろしければ、側にいらしてあげてください」
看護師が会釈しながら病室を後にすると、舞衣は明良の眠るベッドの脇に椅子を置き、それに腰掛ける。
「明良くん……」
白銀色の髪、細身で整った顔立ち。世の男性なら大抵はこういう容姿の同姓に嫉妬や羨望やらの感情を抱くのだろう。だが、彼の中身――彼の歴史を知れば羨ましいなどという考えには至らないと断言できる。
――普段の彼からは想像できなかった……ううん、想像させようとしなかったんだ……
一年と少しという期間、明良は少なからず舞衣との交流があった。にもかかわらず、心の内に潜む闇を一片たりとも気取らせなかった。
今にして思えば、彼にとって自分を偽る――仮面を被りながら日常を過ごすことなど呼吸も同然のことだったのだ。彼は十七年間、日常としてそれをこなしていたのだから。
「ずっと独りぼっち、だったんだよね……」
舞衣は左の掌を優しく明良の頭に乗せる。やや低くはあったが、じんわりと彼の体温が伝わってくる。彼がここにいる、ということをより強く感じられた。
彼は間違っても、悪魔や怪物の類いではない。一人の人間だ。感情を必死に制御して、自分よりも自分の大切な人たちのために行動しなければならないと考えてはいたが、それでも心は確実に磨り減っていた。
彼の痛みは、彼の苦しみは彼自身が心の奥底に追いやっていただけなのだ。
「もしも、世界がもう少しだけあなたに優しかったら……どうなってたのかな」
誰に問うわけでもなく、ポツリと呟く。明良に彼の過去の話を教えてもらってから、ずっと考えていたことだ。
もしも、彼が荒魂と混じり合ってしまうことがなければ。彼が地力で脱出する前に誰かに助けられていたら。そもそも、彼が家族から愛されて真っ当な人生を歩んでいたら。
きっと、彼の心にここまでの闇が生まれることはなかったはずだ。彼は折神家の長男としての生活を約束され、裕福な生活を送ることもできたはず。彼の失った十七年間を取り戻すことが……
――取り戻したら、私は……私たちは……
彼が人間としてまともな人生を送る。それはつまり、今の彼と舞衣の関係性が消えるということだ。
彼は折神家本家の長男で、舞衣の親と同世代。人間としての彼とであれば、舞衣と明良は恋人同士どころか、プライベートで交流を持つことすらほぼ不可能となってしまう。結婚など夢物語だ。
彼は幸せになれるかもしれない。だが、舞衣は幸せだとは思えない。舞衣と明良が結ばれるには、彼に苛烈かつ凄惨な十七年を過ごすことを強いることになる。
「最低だ、私……」
舞衣は右手で胸元を抑え、悲痛な面持ちで俯く。
彼が舞衣に恋い焦がれている想い、それは知っている。だが、それでも自分の幸せのために愛する人が苦しむ選択肢を選んでしまうことに、激しい自己嫌悪を覚えた。彼の不幸につけこんで、彼の可能性を奪ってしまったのではないか。
間違えたのは、自分の方ではないのか。
「起きてよ……明良くん」
※※※※※
「はぁ……」
薄暗い病室の天井が視界に飛び込んでくる。上体を起こそうとしたものの、全身が鉛のように重い。睡眠時間の削減、長時間の戦闘、荒魂との融合の不安定化。いくつもの要因によって明良の身体はボロボロだ。一介の刀使や荒魂に負けることはないだろうが、親衛隊クラスの使い手ならまず勝てないだろう。
気合いを入れて上体を起こし、寝ぼけ眼を左手で擦り、意識を覚醒させる。
「ええと……携帯は」
左手側のテーブルに置かれた携帯端末を手に取り、日付と時刻を確認する。タギツヒメとの戦いからは数日、時刻は夕方よりも少し前くらいだ。
「こんなに寝ていたなんて……初めてですね」
寝ていた、というより厳密には気を失っていたのだが。
ここまで長時間覚醒状態でなくなったのは、二十年前に荒金人となって海に投げ捨てられたから十八年間眠っていたことを除けば、一度もなかっただろう。
監禁されていた十七年間は睡眠時間は限界まで削って鍛練に費やしていたし、二年前から今までもその癖が抜け切れなかったせいか三十分眠れれば良い方だった。
「ん……?」
鼻腔をくすぐる魅惑的な香り、そして右足あたりに伝わる温もり。それらの元を視線で探ると、そこには美濃関学院の制服に身を包んだ少女――明良の主、舞衣が静かに寝息を立てながらベッドの端に突っ伏して寝ていた。
見舞いに来て、長い間待っていたせいで寝落ちしてしまったのだろうか。
「舞衣様……」
このまま眠らせておこうかとも思ったが、初夏とはいえ毛布もなしに眠らせておくのは健康上良くないかもしれないと判断して、彼女を揺すり起こすことにした。早速、舞衣の左肩に右手を乗せる。
――小さい。こんなにも……
舞衣は同年代の女子と比べてもそこまで小柄ではないが、明良には触れた彼女の肩も体も小さく感じられた。
復讐を己に誓い、荒魂混じりに成り変わってでも目的を成し遂げようとした。そんなどす黒い感情がこの少女と関わったことですっかり溶けてしまったのだ。生涯をかけて積み上げ、綿密に練った野望よりも一人の少女との生活を選んだのだ。
二年前までの自分に告げたとしても、間違いなく鼻で笑う類の話だ。
「舞衣様、起きてください。風邪を引いてしまいます」
少し強めに肩を揺する。
舞衣は跳び跳ねるように身体を起こし、自分を目覚めさせた相手を確認する。
「明良……くん……」
「? は、はい……いかがなさい――」
「――っ!!」
信じられないと言わんばかりに目を見開いた舞衣。困った様子でそんな彼女の姿を見ていると、不意に視界が真っ白に染まった。
何かの攻撃を受けたのかと思ったが、そうではない。
肌触りの良い滑らかな生地、そしてその生地に包まれているであろう物体の持つこの世のものとは思えないほどの弾力。それらが明良の顔面に襲い掛かってくる。
続いて、何者か――恐らく舞衣の両手がそれらの弾力のある物体に明良の顔を押し付けるように後頭部を押さえつけている。
先程までとは比べ物にならないほど豊潤な香り、頭全体を覆うほどの優しい温かさ。ここまでくれば結論は一つだけだ。明良は現在、舞衣自身の手によって、彼女の胸元に顔を押し付けられているのだ。
「むうぐっ……」
身体の倦怠感、不意打ちの動揺、そして何よりも女性にとってデリケートな部分にここまではっきりと接触していることの羞恥心。明良の脳内は生まれて初めてではないかと思うほど狼狽していた。
明良は慌てて舞衣の拘束を振りほどこうともがくが、舞衣から返ってきたのは抵抗ではなく穏やかな囁き声だった。
「動かないで」
「……!?」
まるで金縛りにあったような感覚だった。消耗しているとはいえ、明良の腕力なら舞衣の拘束を解くことはできる。
だが、舞衣の切なく希う声色は明良に抵抗の意思を完全に奪ってしまった。
「今、放したら……明良くん、何処かに行っちゃいそうだから。だから、このままでいて……このまま、離れないで」
「ふぁい……」
心臓が普段の比にならないほど早く脈動しているのがわかる。きっと今の自分の顔が乙女の如く紅潮しているのも、鏡を見ずともわかった。
「明良くんがいなくなったら、私……きっともう、心から笑えなくなっちゃうと思う。明良くんがあの日、私たちの前から消えたときにそうだって改めてわかったんだ」
あの日、明良が舞衣と決別した日のこと。舞衣の執事を辞任し、タギツヒメと相討つ覚悟で折神家に乗り込もうとしていたときだ。
「ねぇ、どうして……どうしてあなたは、そんなに自分が嫌いなの?」
「………」
自分が嫌い、確かにそうだ。明良は舞衣に対する好意を許すことはできるようになった。
だが、未だに自分自身への嫌悪は消えていない。自分なんかが、自分さえいなければ。そんな自己嫌悪はそう簡単には消えないのだ。
「嫌いなのが悪いわけじゃないよ。ただ、嫌いすぎだよ、明良くんは」
――ああ、そう、ですね。
荒魂の力を宿している自分が嫌い。
二十年前の大災厄を起こした自分が嫌い。
罪を犯しながらも生きている自分が嫌い。
愛する人と人生を歩んでいきたいと願っている自分が嫌い。
嫌い、嫌い、嫌い、嫌い、嫌いばかりだ。
「私が絶対にあなたを幸せにする。だから――」
舞衣はより一層強く、明良を抱き締める。息苦しさが増すが、そんなものは舞衣の柔らかさと温もりによって掻き消される。
もはや、舞衣の言葉は脳に直接作用するかのように明良の身体に染み込んでいく。
「もう少しだけでもいいから、自分を好きになってあげて」
――ああ、もう、ずるい……本当にずるいですよ、貴女は
この人には勝てない。多分これからもこの人の優しさにどんどんほだされていってしまうのだろう。
だが、それに期待している自分がいることが嬉しく思えた。
※※※※※
「そ、そろそろ離すね」
数分ほど舞衣に抱き締められ、今になって解放される。
先程まで温厚に明良を励ましていた舞衣も、我に返って自分の行動に羞恥心がこみ上げてきたのか、お互いに顔を真っ赤にした状態でそわそわと目を泳がせていた。
「その……ありがとうございます、舞衣様」
「う、うん」
「ですが、意外でした。私の想像以上に大胆なのですね」
「や、その、さっきのは……」
明良の一言で脳内に鮮明に浮かび上がったのだろう。舞衣は自分の胸元を掻き抱く。
「そういう雰囲気だったというか……明良くんにああいうことしてあげたいって思ったから……すごく」
舞衣は後悔しているわけではないようだ。ただ、本当に自分の大胆さに動揺と羞恥の念を抱いているだけ。
「嫌だった……?」
「そんなことはありませんよ。とても嬉しかったです。今度は私がいたしましょうか?」
「ええっ!? い、いいよ、私は……」
「ご遠慮なさならないでください。24時間365日受付中です。舞衣様がお望みとあらば、それ以外のご奉仕もいたしますよ?」
挑発、慈愛、どちらともとれる笑顔で舞衣に問いかける。舞衣は焦点の合わない目で自分の頬を両手で押さえた。
「で、でも……そういうことはもっと……もう少し段階を踏んでから……」
「そういうこと、とは?」
「えっと、それは……」
「これからのご奉仕のためにも、お教え願いたいのです。さあ、どうぞおっしゃってください。可能な限り具体的に」
「だから……私と、明良くんが……」
そこまで言って止まってしまう。明良には彼女が何を考えているのかは大体の察しがついたが、あえて彼女の口から言わせようとした。
仕えるべき主にこんなことをしている背徳感、普段から穏やかな雰囲気で周囲の人々に接している彼女を恥ずかしがらせているという支配感。ある意味、これも明良にとって幸せな時間の一つだ。
「――っ!」
だが、悪ふざけの時間は打ち止めのようだ。ドアの向こう側、病室の外に誰かいる。こちらに向かってくる音が二つだ。看護師や医師ではない。
何かの鍛練を積んだ人間の足音だ。敵か? たった二人とは意外だが、この二人が明良と舞衣の二人を凌ぐほどの精鋭である可能性もある。あるいは、二人は囮で後続の部隊が窓から奇襲をかけるということも……
――どちらにせよ、舞衣様を守らなければ
今の舞衣と明良は目立った外傷はないものの、病み上がりだ。万全の体調とは言い難い。それならば、怪我をしても回復できる自分が盾になるべきだ。
「……舞衣様」
今の舞衣と明良の位置は、舞衣、明良の順で出入口に近い。舞衣を庇うように自分が立つ必要がある。そのためにも、舞衣に指示を出そうと彼女の両肩に正面から両手を置く。
「少し、じっとしていてください」
「え? え? ちょっ……待って」
「いえ、時間がないんです。ですから……」
「で、でも、誰か来るかもしれないし……」
「はい、来てしまいますから。その前に早くこちらに」
「だめだよ、もっとゆっくり……」
? ゆっくりしていたら間に合わなくなることは舞衣も知っているはずだ。にもかかわらず、こんなに顔を赤くして硬直しているのは何故だろうか。
「お急ぎください。そこまで待つことはできませんので」
「そ、そんなに、なんだ……」
舞衣は明良の少々切羽詰まった雰囲気から状況を理解したのか、舞衣の身体から力が抜ける。
「ちょっと触れるだけだから……ね」
――………んん?
舞衣は目を閉じて小刻みに身体を震わせ始めた。何のために目を閉じた? とか、ちょっと触れるとは何? など聞きたいことはいくつかあるが、何よりも明良は今から何をすれば良いのだろう?
彼女は一体何を待っている?
「あの……舞衣さ――」
尋ねようとしたが、もうそんな余裕もないようだ。ドアの前で二つの足音が止まった。舞衣とのやりとりは止めだ。
ガラッ
「……!!」
明良は自分に被さっていたシーツを跳ね除け、一足跳びでドアまで移動。ノロを左の掌から分泌させ、『左腕』を形成させる。
ドアが開かれ、訪問者が姿を見せる。
「って、おいおい。起き抜けから物騒だな」
訪問者は二人の女性だ。片方は女性にしては大柄で、色黒に銀髪という男勝りな外見の女性。もう片方は、肩までに切り揃えた茶髪に柔和そうな印象の女性。どちらも二十代後半から三十代半ばほどの年齢だ。どちらも面識がある。
「真庭学長、羽島学長……」
「ええ、久しぶりね黒木さん」
「申し訳ありません。足音から察するに敵かと思ってしまって……」
「わかったならいい。今は警戒しておいて損はないからな」
薫とエレンの通う長船女学園の真庭学長、可奈美と舞衣の通う美濃関学院の羽島学長。伍箇伝の御偉方である二人が何故こんなところに、という疑問はあったが、この二人ならば敵ということはないだろう。
明良は警戒の必要はないと判断し、『左腕』を解除する。
「……あー、取り込み中、だったか?」
「え?」
真庭学長が気まずそうに明良と舞衣の二人を見つめる。明良は何のことかわかりかねたが、舞衣が未だに目を閉じたまま固まっていることは確かだ。
その状況から真庭学長が何かを感じ取ったのだろうか。
「舞衣様、もう大丈夫です。いらっしゃったのは真庭学長と羽島学長ですから」
「え……学長……え、明良くんは?」
「私は先程からここにおりますが」
「ど、どういうこと?」
「……申し訳ありません、私には理解できません。洞察力の欠如でしょうか」
ほぼ間違いなく、舞衣は何か勘違いをしている。追求しようかとも思ったが、直感的にそうするべきではないと本能が警鐘を鳴らしていた。
「真庭学長、羽島学長、ご用件は何でしょうか」
「そろそろお前が目覚める頃だと思ってな。ちょっと話をしに来たんだ」
「私に……ですか」
「病み上がりで立ち話も辛いだろう。まずは座ってくれ」
真庭学長にベッドに座るように明良に促す。明良がベッドの端に腰掛けると、真庭学長が話を始めた。
「さっきの力、話には聞いていたが、荒魂の力が使えるというのは本当のようだな」
「知っていたのですね。フリードマン博士にでも聞いたのですか?」
「ああ、大体はな」
別に驚くようなことではなかった。今回の事件で明良の能力を目にした人々は多い。一般人はともかく、刀剣類管理局や伍箇伝の関係者なら知らない者はほぼいないはずだ。
「お前は今の刀剣類管理局が世間からどう思われているのか知ってるか?」
「ここの看護師や医師の方々の世間話程度でしたら聞いています。先日の一件は折神家で管理していたノロが暴走し、日本各地に飛散したという形で落ち着いたらしいですね」
「ああ、真相は伏せておくことにしようと朱音様と決めた結果だ」
そう。世間にはタギツヒメの存在も、折神紫が荒魂に乗っ取られていたことも明かしていない。
そんなことが明るみに出れば、刀剣類管理局や伍箇伝の解体まで視野に入ってくるからだ。これから出現する荒魂に対処するにはこれらの組織を残しておかねばならない。
「つまり、今の刀剣類管理局はかなり叩かれてる。逆に言えば――」
「叩かれる程度で済んでいる、ということですか」
推察した舞衣が横から声を出す。
「そうだ。我々としても、これ以上疑いの種を芽吹かせるわけにはいかない。そこで、だ」
真庭学長は明良を指差す。
「お前はこれから、我々の監視下に置かせてもらう」
――やはり
真庭学長からの言葉に意外性はなかった。この判断は当然のことと言えるからだ。
刀剣類管理局への風当たりが強くなっている以上、荒魂の力を宿している明良は組織の抱える爆弾の一つだ。たとえ暴発せずとも、存在していると知られるだけで問題になる。
そういう危険な対象に監視をつけることなど当然の帰結としか言えない。
「無論、荒魂討伐の任務への参加は禁止、自衛以外で能力を行使することも禁止だ」
「ちょっと待ってください! そんなの納得できません」
舞衣は声を荒げて立ち上がる。痛切な表情で真庭学長に抗議をした。
「明良くんは私たちを助けるために命懸けで戦ってくれたんです! それなのにこんなこと……」
「待て、柳瀬。私達だって、何も黒木を悪人扱いしたいわけじゃない。監視と言ってもあくまで名目上でだ」
舞衣の剣幕に驚く真庭学長は慌てて弁明を始める。
「勿論、牢屋や密室に入れるわけじゃない。監視役の刀使と行動を共にしてもらい、定期的に経過報告をしてもらう。問題を起こさなければこちらからは何もしない」
「そこでね、柳瀬さん。あなたにその役目を任せたいと思ってここに来たのよ」
「え……?」
真庭学長、羽島学長からの提案に舞衣は面食らった。舞衣は危惧していたのだろう。
明良にとって監視という行為が何を連想させるのかを。彼にとって最大級のトラウマを再現しかねない、ということだ。
「これから黒木さんには美濃関学院に滞在してもらって、柳瀬さんと二人で行動してもらいます。当然、あなたがよければだけど」
「待ってください。私が言うのも何ですが、舞衣様と私で大丈夫なのですか? 親密な間柄の者同士では正確な監査が出来ないのでは?」
明良とて舞衣に監視をされることは全く問題ない。合法的に二人で行動できることが嬉しいくらいだ。
だが、私情を挟む可能性があれば話は別だ。周囲から『ロクな監視をしていないのではないか』と難癖をつけられるかもしれない。
「だからこそ、だよ。お前の最も危険視されてる部分は戦闘力だ。何でも、親衛隊二人を撃退したとか」
「……騙し討ちですがね」
「お前を監視する、ということは仮にお前が暴走した際には最小限の被害に留めたまま制圧できる奴じゃなきゃならない。とすれば、適任なのは柳瀬だけだ」
確かに、明良はタギツヒメに暴走させられたときでさえ可奈美たちに大きな怪我はさせなかった。舞衣に至ってはかすり傷すらつけなかった。
恐らく、無意識下で自分の至上命題を厳守しようとしているのだろう。
「それとも、あなたは柳瀬さんだと不満かしら?」
「そんなことはありません。私にとっては、舞衣様以上の方など世界中探してもいないでしょうから」
「私も、彼の監視役を他の人に任せたくありません。私にやらせてください」
羽島学長は安心した様子で両手をパンと合わせる。
「なら決まりね。退院するまでにこっちで宿泊用の施設を用意しておくから、それまでは病院で療養していて」
「はい……よろしくお願いします」
話を終えると、真庭学長と羽島学長は退室していった。
少々明良の予想とは相違があったが、むしろこちらの方がよかったと言える。刀剣類管理局と折り合いをつけ、舞衣との関係性を保つという二つの目的を両立させることができた。
「何というか、大変なことになりましたね」
「明良くんはよかったの?」
「大好きな人と一緒にいられることが不幸だと思いますか?」
「ううん、私はうれしいよ。これからも一緒なんだよね?」
考えるまでもない。もう、彼女も自分もちゃんと惹かれ合っていることはわかっている。
なら、これ以上二人の間柄を揺らがせるような真似をしたくはない。
「はい。これからずっと監視していてくださいね」
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