刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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第49話 これだけは言っといてやる

時を少し戻して、明良への電話の数時間前。薫は真庭本部長にとある一室へと呼び出されていた。

部屋にはいくつもの椅子と机。それぞれの席にコンピュータが据え付けられており、部屋の一面の大型モニターに映し出されている。

 

「んで、何だよ本部長。わざわざオレに休暇くれるって話ならちゃんと聞くぞー」

 

「わざわざそんなことで呼ぶわけないだろ。それと、お前の休暇はしばらくナシだ」

 

前置きの時点で三行半を付けられ、一気に意気消沈してしまう薫。真庭本部長はそんなことはお構い無しに話を始める。

 

「実はここ最近、ノロの強奪が起こっている」

 

「は?」

 

薫は突然切り出された本題に目を丸くした。今何と言った? 刀使がノロを奪うなど、鼻で笑ってしまいそうな冗談だとさえ思えた。

 

「ここ一週間で四件、ノロの輸送車両が一人の刀使に襲撃され、全てのノロが奪われた。犯人も、その動機も不明だがな」

 

「おいおい、だったら護衛くらいつけたらどうなんだ?」

 

薫は呆れてやれやれと手を振る。そんなもの、管理局の不手際ではないかと言わんばかりに。

真庭本部長は間髪入れずにそれを返した。

 

「つけた。二件目以降はこちらが用意した腕利きの刀使を五名派遣し、護衛に付かせた。だが、まるで歯が立たなかったらしい」

 

「相手は一人なんだろ?」

 

「それでも、だ。相手はそれ以上の手練れらしい」

 

「……大体、ノロを奪ってどうするんだよ。旧折神紫派じゃああるまいし」

 

旧折神紫派とは、タギツヒメに憑依されていた折神紫とその親衛隊、そしてノロの人体実験を行っていた者達の呼称だ。

タギツヒメが隠世に追いやられ、旧親衛隊は解散。人体実験を行っていた研究者も更迭されたため、もはや壊滅状態のはずだ。

 

「まさか、そうだって言いたいのか?」

 

真庭本部長が否定しないことから、薫は聞き返す。しかし、真庭本部長はゆっくりと首を左右に振った。

 

「まだ断定はできない。とにかく、この映像を見てくれ。護衛の一人が撮影したものだ」

 

大型モニターに映像が表示される。そこには、横転したノロの輸送車両と倒れ伏す回収班の面々。そして、襲撃犯と思われる刀使によって護衛の刀使が斬り伏せられている光景が映っている。薫は犯人の外見を確認しようとするが、その姿は黒いフード付きのコートに覆われており、手元と口元くらいしか肌が見えない。

 

「このように、襲撃犯はフードを被っていて顔は見えない」

 

「御刀の銘は?」

 

「調べたが、未登録だ」

 

「剣術の流派は?」

 

「当てはまるものが多すぎる」

 

「つっかえねー」

 

薫は心底つまらなさそうに頭をグルグルと回す。

 

「てゆうか、可奈美に見せればいいだろ? あの剣術オタなら簡単に流派がわかりそうなもんだ」

 

「ああ、当然衛藤にも協力は依頼する。だが、お前には別でやってもらうことがある」

 

「何だよ?」

 

「黒木明良に、今回の犯人特定に協力するよう連絡を頼む」

 

「明良に……?」

 

ここで意外な名前が出た。明良は確かに大きな戦力ではあるが、御刀や剣術のことにそこまで精通している人物ではないはずだ。

 

「今回のノロの強奪の動機……まだ私たちにもわかりかねている。そこで黒木からは、ノロを利用した兵器や人体実験などについての情報を得たい。それがわかれば、捜査を進展させられるかもしれん」

 

「別に構わないが、何でオレなんだ? あんたが連絡したっていいだろ?」

 

「私よりお前の方が信頼されているからだ」

 

真庭本部長は心なしか哀しそうな表情で理由を話す。

 

「私の推測だが、黒木はまだ刀剣類管理局や伍箇伝を信用し切れていない。折神紫に憑依していたタギツヒメ、そいつに乗っ取られていた組織というのもあるだろう。だが、刀使が襲撃犯であることは少なからずあいつに疑念を抱かせるはずだ」

 

「刀剣類管理局の中にまだ裏切り者が混じっているかもしれないからか?」

 

「……そういうことだ」

 

無理もない話だ、薄ら笑いを浮かべながらもそう思った。事実、折神朱音が偶然折神紫の実情を目撃しなければタギツヒメにこの国を席巻されていたことは想像に難くない。

内部の大まかな敵勢力は潰したが、それも完全ではないと理解しているのだ。

 

「私の権限で黒木には移動の許可を与える。お前は黒木に連絡した後、美濃関学院に向かって彼と合流してここに戻ってこい」

 

「へいへーい」

 

「バックレんなよ、発信機付けてあるからな」

 

「嘘だろオイ!?」

 

真庭本部長の一言に一抹の不安を覚えながらも、薫は携帯端末の電話帳から明良の番号に電話を掛けた。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

折神家での決戦を共にした間柄の六人と明良は交流が深い。舞衣は当然として、他の五人とも結構連絡を取り合う仲にはなっていた。

そんな中でも、今回の薫からの電話の内容はかなり奇妙な部類に入るものだった。

明良は美濃関学院にやって来た薫と共に迎えの車に乗っていた。後部座席で隣同士に座った二人は管理局での話の説明に入る。

 

「ノロを奪う刀使、ですか」

 

「ああ。何でも、刀使が荒魂を討伐して、その後にやって来る回収班が襲われてるらしい。回収班の輸送車両を襲撃して、ノロを根こそぎ盗っていくそうなんだ」

 

「………」

 

話の内容は理解できる。だが、整合性がまるで取れない。刀使は荒魂を討伐する存在だ。わざわざ強奪する意味がわからない。

 

「それは何処からの情報ですか?薫さんの独自捜査などでしょうか?」

 

「いんや、オレはあの極悪パワハラ上司から聞いたのをお前に話してるだけだ」

 

「真庭本部長ですか?」

 

「そう、そうだ」

 

何だか、真庭本部長に対して不穏な形容がなされていたのは追求しないようにするべきだろうか。

そう思ったものの、薫の怒りの炎は少しずつ燃え広がっていく。

 

「あのオバサン、オレが北海道に遠征に行って、その帰りに九州に向かわせて、そしてその帰りに東北に向かわせたりするんだぞ……しかも、挙げ句の果てには『往復で九時間もあるんだからその分休めていいな』だぞ……! クッソー!! 今度こそ有休申請してやる!!」

 

「……受理されると良いですね」

 

間違いなくされない。

 

「まあ、その話は置いておいてだな。とにかく、本部長とその件について話したんだが、襲撃犯が誰なのかわからないんだと」

 

「刀使の方でしたら、御刀や所属の流派で特定ができるのでは?」

 

刀使には御刀に対する適正というものがある。彼女たちは御刀から神力を得て様々な超自然現象を引き起こすが、逆に言えば御刀との適正が低く、神力を得られなければ力を発揮できない。ゆえに刀使にはそれぞれ自分専用の御刀が存在し、基本的にはその一振りを使っているのだ。

 

「そう思ったんだがな、御刀はデータベースに存在せず、流派も数が多すぎて不明なんだ」

 

「それで、私に犯人の動機の特定をしてほしい、ということですか」

 

「あわよくば、犯人が誰なのかも知りたいみたいだけどな」

 

ニッと笑いながら薫が横から言う。真庭本部長がらみとなると、彼女は結構感情に拍車がかかるようだ。

 

「………」

 

「………なあ」

 

数分の間が空いたところで、薫がバツが悪そうに切り出してきた。

 

「お前みたいな奴って他にいんのか?」

 

「?」

 

一瞬質問の意味がわからなかった。だが、明良は少し考えて辿り着いた答えをあえて無視してみた。

 

「確かに、舞衣様に夢中になる方は非常に多いです。しかし、私はいかなる方にも負けないよう、日々あの方のお側で愛を深めておりますので。そういった意味では私のような方はいないでしょうね」

 

「いや、そうじゃねーよ。つか、お前以上に舞衣にベッタリな奴なんざこの世にいないだろ」

 

「違うのですか?」

 

「……お前、わかってて言ってんだろ?」

 

まったく、と肩をすくめる薫。

 

「お前以外にも荒金人はいるのかって話だ」

 

「……そう、ですか」

 

薫もデリケートな話題に踏み入っていることは自覚しているのだろう。言いにくそうにしているのは横顔からも感じ取れた。

ノロの強奪と荒金人の存在の関係性は十分高いため、本件の解明のために必要なのだろう。

 

「いない、とは言い切れません」

 

「じゃあ会ったことはないんだな」

 

「ええ」

 

明良が外の世界で過ごしたのは二年と少し。その間はあまり積極的に交遊関係を広げようとしていたわけではないが、それを踏まえても知人に荒金人がいたとは思えない。

 

「そもそも、荒金人ってのはどういう理屈でできるんだ? 前に説明されたのはかなりザックリしてたろ」

 

「わかりました。ご説明いたしましょう。幸い、まだ到着までは時間がありますし」

 

明良は車窓から流れていく景色を一瞥し、話を始めた。

 

「薫さんは、ノロを投与された刀使と荒金人の違いはわかりますか?」

 

「どう違うんだ?」

 

「両方とも肉体とノロが結びついているのは同じです。しかし、刀使の肉体とノロはいわば水と油のような関係です」

 

「一緒の器に入れても混ざらないってことか?」

 

「そうです。そのため、ノロによる肉体の侵食は抑えられるものの、引き出せる力はそこまで多くはありません」

 

現に親衛隊のメンバーは身体能力や感覚神経が強化されていただけで、肉体の変形や再生の能力はなかった。

 

「私の場合はその逆です。荒魂との適正が高い純粋な人間に対してはノロは強く結びつき、肉体だけでなく心を蝕んでいく。それこそ、毎日のように飢えと乾きに喘ぎ、満たされない欲求に振り回されてしまう。その代償として、生物の常識を越えた能力を行使できる」

 

「刀使じゃあ荒金人にはなれねーってことか?」

 

「恐らくは。しかし、私見にはなりますが荒魂への適正が私以上に高い方ならば不可能ではないと思っています」

 

そもそも、荒金人に関しての研究が記された論文は極めて数少ない。それゆえに荒金人に成るための詳細な条件も不明なままなのだ。

 

「荒魂への適正の高さとは、荒魂に対する関わりの深さによります。私が知る限りでは折神家と柊家がそれにあたります」

 

「荒魂を鎮めるのが折神家……だったっけか?」

 

「ええ。荒魂を鎮める折神、荒魂を祓う柊。この二つの家系は荒魂の討伐の要であると同時に、荒魂に近い存在であるとも言われています」

 

明良と似た事例として、紫がタギツヒメの器足り得たのは彼女が折神家の人間だというのも要因の一つだろう。

 

「荒金人になるためにはそういった条件をクリアする必要があります。折神家の直系であり、限界まで肉体を鍛えていた私ですら死に瀕していたほどですから、常人がなろうとすれば確実に死にます」

 

「お前ですら半分くらい偶然だったってわけか」

 

「ですから、たとえ私以外に実在していても数人が関の山でしょうね」

 

「なるほどなー」

 

薫は両手を頭の後ろに回して座席にもたれ掛かる。

 

「今更かもしれませんが、何故このようなことを聞いたのですか?」

 

「……本部長はお前のことを危険だと見てる。いや、むしろお前の力の方をな」

 

薫の質問の意図について改めて尋ねてみた。薫は言い淀む様子こそ見せたが、ちゃんと話してくれた。

 

「大抵の荒魂を撫でるみたいにぶっ倒す力があって、どんなに怪我をしてもすぐに治っちまう、ついでに何年も飲まず食わずで生きていられる。お前はそんな性格だからそこまで危なくはねーが、もしお前くらい強い荒金人が現れて、しかも俺たちと敵対してたらどうなる?」

 

「………」

 

明良は当然自覚がないわけではない。春の折神家襲撃の際、明良の暴走は明良自身と周囲の人々に彼の危険性を大なり小なり認識させることになった。

明良はあくまで、タギツヒメの討伐に協力していたこと、舞衣と彼女の大切な人々に危害を加えない限り敵対しないという事実が知られていることで、こういう待遇に収まっているだけなのだ。

実質的に放置されているだけでなく、研究材料扱いされていないのも奇跡だ。それだけ、荒金人という存在は単体で強大な力を有している。そんな者が複数存在しているとなると……

 

「恐らく二十人、いえ十人もいれば一夜で一国を混乱に陥れることも可能でしょう」

 

荒金人としての能力云々の話だけではない。荒金人に成ることができる(、、、、、、、、)というだけで、その資格を持っているだけで十分危険な人物なのだ。

類稀なる身体能力と常人を超越した悪意の持ち主でなければ、荒金人になることなど不可能だからだ。

 

「てか、改めて考えるととんでもねー力だよな。年もとらないし、病気にもならないって」

 

「羨ましいと思いますか?」

 

「ま、そこだけ見ればな」

 

端から見れば不躾な問いだが、むしろ彼女らしいと明良には思えた。

 

「確かに、この力に助けられたことは多いです。そもそも荒金人になれなければ、私は二十年前に海の藻屑と化していたでしょうから」

 

「ほう」

 

「ですが、私には常に暴走という危険がついて回っています。あの春のときのように」

 

あの感覚は今でも忘れられない。自分という存在が世界から消え、現世を小さな窓から覗き見ることしかできない。その上、自分の肉体と意識が乖離され、好き勝手に動き回る様を見ることしかできない無力感。

正直、あんなものは二度と御免だ。

 

「お前な、あれはタギツヒメのせいだって言ったろ?」

 

「ですが、あれは私の力です。可能性がゼロではない限り、危険であることは変わりません」

 

「あーくっそー!」

 

薫は不機嫌そうに顔をしかめ、明良に詰め寄る。

 

「いいか、これだけは言っといてやる」

 

「……はい」

 

薫の様子に萎縮しながら明良は了承する。

 

「お前がこれから何度暴走したってな、オレたちが何度だって止めてやる」

 

「ですが……」

 

「オレたちは仲間だ。オレは、いざってときに身体張れない間柄の奴を仲間だなんて思わねー」

 

――仲間……仲間、ですか。

 

心の中で何度も反芻する。

 

「こんなこと二度と言わねーからな。ちゃんと覚えとけよ」

 

「はい……ありがとうございます」

 

お互いに多少気恥ずかしくなったものの、この後の二人は管理局到着までの道すがら他愛もない話に花を咲かせることができた。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

数時間後、刀剣類管理局に到着した二人は真庭本部長と共に施設に併設されている医療施設に足を運んでいた。

 

「結局はわからずじまいか……」

 

「お役に立てず、申し訳ありません」

 

先程作戦会議室で件の映像を見せてもらったが、あのフードの刀使が誰なのか明良にはわからなかった。

 

「しかし、犯人の動機はおおよそ推測できます」

 

「何?」

 

廊下を歩きながら、真庭本部長が隣の明良の言葉に耳を傾ける。薫も興味深そうに耳を寄せた。

 

「高津学長と相楽学長、この両名が本件に関わっているのではないかと私は考えます」

 

「……何故、その二人を」

 

「ノロの強奪となれば、荒魂化するリスクを考えなければならない。そのリスクを犯してでも強奪する理由ならば、戦闘目的の利用が濃厚です」

 

実際、親衛隊のようにノロを取り込むことで戦闘に転用する技術が存在している以上、この可能性は決して低くはない。

 

「高津学長と相楽学長は春の一件以来、矢面に立たなくなったと聞いています。そして、彼女たち二人はノロを利用した人体改造の研究を指揮していた」

 

「待て、高津学長はともかく、綾小路の相楽学長まで……」

 

「確かです。後ほど私の方から捜査資料を提出しますので」

 

可奈美と姫和が逃亡中に管理局内を調査していた際、研究には相楽学長も加担していることが明らかになった。相楽学長の人となりを知っているわけでないが、高津学長と二人でそんな危険な橋を渡っていたのだから、今更離れているとは考えにくい。

 

「ノロの強奪に、両学長の行動。それだけではありません。元親衛隊の皐月夜見さんも行方不明になっています」

 

「まさか、高津学長のところに?」

 

「そうでしょうね。彼女が高津学長の側を離れるとは到底思えません。以上のことを踏まえると……主犯は高津学長、フードの刀使は皐月さんでしょうか」

 

夜見ならば多少腕が立とうと、可奈美たちと同等程度の刀使以外には負けることはないだろう。蝶型の荒魂を使わなかったのは正体を悟られないようにするためか。

 

「いや、オレは違うと思うがな」

 

真庭本部長は納得しているが、薫は首を振って否定した。

 

「薫さん、どういうことです?」

 

「それは今から会う奴に聞いてみようぜ、ほらここだ」

 

三人はとある一室で足を止める。部屋のプレートには『此花寿々花』の文字が。

 

「……此花さんはここにいらっしゃるのですね」

 

「ああ、お前は彼女と会うのは春以来だな」

 

入室すると、部屋の奥に備え付けられたベッドに一人の少女が眠っていた。髪を下ろし、病衣に身を包んだ此花寿々花だ。

 

「……ん」

 

三人の入室した音で目を覚ました寿々花は重たげな瞼を開いた。

 

「……今日はどういったご用?」

 

「ちょっと聞きたいことがあってな」

 

真庭本部長が本題に入る前に、薫は一歩前に出て寿々花に話しかけた。

 

「よう、親衛隊。いや、元か」

 

「あら、珍しいご来客ですわね。益子さんに黒木さんまで」

 

薫からの挑発を意に介すこともなく、寿々花は上体を起こして丁寧に挨拶をする。

 

「ねーっ!!」

 

突然、今まで静かだったねねが薫の頭に乗り、寿々花を睨み付けながら吠える。

 

「かなり抜けた(、、、)って聞いたんだが、まだまだみたいだな。ねねが言ってる。『まだ荒魂の匂いがする』ってな」

 

寿々花は戦いの後、舞草との取引に応じた。刀剣類管理局の新体制に協力する代わりに自分たちの側につけ、と。そのためには彼女の肉体にノロが残っていては駄目だ。

一応、数ヶ月かけて治療を行い、現在はほとんど元の状態に回復したらしいが、それでもまだ荒魂の残滓は消し切れていないらしい。

 

「荒魂とお話ができるだなんて、あなたも黒木さんと同様にこちら側ではなくて?」

 

意趣返しなのか、寿々花は挑発するように言うが、薫と明良は強気でそれを突き放した。

 

「オレは人だ。このねねも荒魂だが穢れじゃない」

 

「私も、元より貴女と意思を共にした覚えはありませんよ」

 

「そういうこった。残念だったな、お前のお仲間じゃなくて」

 

「………」

 

やや悔しそうに歯噛みする寿々花。

 

「いちいち挑発するな。今回は聞き取りに来たんだよ。これを見てくれ」

 

真庭本部長は持ってきたタブレット端末の画面を寿々花に見せる。そこには例のフードの刀使が映っていた。

 

「こいつに見覚えはあるか?」

 

「さあ、存じ上げませんわ。そもそもお顔を意図的に隠していますし」

 

「思い当たる人物は?」

 

「……特にはいませんわね」

 

別段おかしな答えではない。というか、明良もこう答えるであろうことは予測できた。

だが、薫はそんな寿々花の態度に苛立ったのか、語気を荒げて問い詰める。

 

「はっきり言ってやる、こいつは獅童真希じゃないのか?」

 

「真希さん……ですって?」

 

寿々花の顔が驚きに染まる。寿々花だけではない、明良も真庭本部長も彼女ほどではないにしても驚いている。

 

「何を根拠にそんな……」

 

「根拠ならある。こいつを見ろ」

 

薫は携帯端末を操作し、とある写真を見せる。そこには例の映像と酷似したフードの刀使が映っていた。

 

「これはさっきの……」

 

特に違う部分があるとすれば、こちらの写真の人物はフードの下の顔が半分ほど見えていることだ。しかも、その顔は真希のものでほぼ間違いないほどの精度だ。

 

「ですが薫さん、この写真は」

 

「ああ、今回の映像の一場面じゃない。こいつは別の日のもんだ」

 

薫の先程の言葉はこの写真に関することからくるものだったらしい。薫は確信めいた口調で説明を始める。

 

「ノロの強奪の三件目のとき、近くを通りかかった民間人が怪しげな人物を目撃し、撮影したらしい。最初はフードの刀使の写真の一枚として紛れちゃいたが、こいつは確かな特定材料になる。顔は勿論、こいつもな」

 

「……御刀が」

 

映像からは上手く認証できなかったようだが、この写真からは何の御刀なのかは容易にわかる。

この御刀は真希の薄緑だ。顔と御刀、これだけが揃えば確定的だ。

 

「それに、獅童は春の一件から行方不明なんだろ?」

 

「ですが、動機は? 真希さんにこんなことをする動機なんて……」

 

「そんなもん簡単だろ。ノロをもっと取り込んで、もっと強くなるために決まってる。あいつならあり得る話だ」

 

この場の誰も否定できなかった。真希の行動原理からすれば、その考えは自然だからだ。

 

「私には……信じられませんわ」

 

「ま、お前のその反応を見ればお前が無関係だってのはわかるけどな。それでも、獅童が関わってるのは確かだ」

 

「……そんなこと」

 

寿々花の先程までの強気な姿勢は見る影もなくなり、すっかり意気消沈している。無理もない。真希が悪事に加担しているなど、嬉しいはずもない。ましてや、そんなことはないと心から言いきれない自分がいることも。

 

「………」

 

――今回の件、何か匂いますね

 

明良は直感的に辿り着いていた。あの春の事件から残り続けていた不安感の行く先を。

今回の件はそれに関わっている。それならば、手を尽くさなければ。

 

「真庭本部長、薫さん、申し訳ありませんが、少し外していただけませんか」

 

「どういうことだ、黒木?」

 

「此花さんと話したいことがあります、私でなければ少々話しにくいことでして」

 

嘘ではない。これから話すのは二人の中でしか共有できないからだ。

 

「わかった。だが、後で何の話をしていたのかは聞かせてもらうからな」

 

「ありがとうございます」

 

「おーい、明良。言っとくけど、舞衣を泣かせるようなことすんなよ」

 

「ご心配には及びませんよ、天変地異が起ころうとありえません」

 

「まあ、お前に限って言えばそうだな」

 

「はい」

 

真庭本部長と薫はそそくさと退室する。明良は寿々花のベッドの隣に置かれた椅子に腰掛け、会話を切り出した。




気のせいかもしれませんが、今回舞衣以外の女の子とイチャつき(私視点では)すぎではなかろうか……
まあでも、恋愛感情がからんではないのでセーフ! です!

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