刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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>私の心の中

私「ふう、こんなもんかな(グテー)」
相棒「もう一人の私、あなた疲れてるのよ」
私「これでええねん」

こんな感じです。何を言っているのかわからねー、とお思いの方、それで正解です。気持ちや感覚が伝わっていればいいんです。
それでは、本編をどうぞ


第51話 お前たちがそうさせる

結芽と病室で話をした後、明良はロビーで待つ薫と真庭本部長の元へと向かうべく、階段へと続く廊下を歩いていた。

 

「もうこんな時間……舞衣様に明日にでも事情を話さないと……」

 

時刻は深夜に迫ろうかという頃。

自分の監視役であり、何より主兼恋人でもある彼女には、まだこの件は話していない。美濃関に帰ったら、いなくなっていたことも含めて詳しく話しておかなければ。

 

「後は夕食の買い出しに、舞衣様のお部屋の掃除も……ふふっ……」

 

思わず頬が緩む。舞衣のために奉仕ができると思うと、これもまた仕方のないことだ。自分の作った料理を舞衣が食べ、自分の掃除した部屋で舞衣が過ごす。己の時間と労力が彼女の生きる糧となることを考えると、夢が広がるのだ。

 

「そんな風に笑うんだな、お前は」

 

「!?」

 

――誰だっ!?

 

寒気。気配でも音でもない。背後から呼び掛けてきたその存在を察知した瞬間に全身に鳥肌が立つ。

明良は咄嗟に振り返りつつ、床を蹴ってその相手と距離を取る。

 

「驚くな。挨拶をしに来ただけだ」

 

異様な格好の男だった。夕焼けのような緋色の装束を身に纏い、目深に被っている同色のフードのせいで顔は見えない。

声や大まかな体格から若い男性であることはほぼ間違いない。

 

「誰ですか、貴方は」

 

「……やはり、知らないんだな」

 

「?」

 

がっかりしたような態度で肩をすくめる彼。顔は見えないというのに、刺すような感情は伝わってきた。

 

「美濃関だと、あの娘が付きまとっていて面倒だったからな。ようやくこうして会いに来たんだ」

 

「あの娘……舞衣様のことですか」

 

「ああ、とは言っても実際に付きまとっているのはお前の方か」

 

嘲るように肩を震わせる彼。笑っているはずなのに、朗らかな雰囲気は全くない。不気味、異常だと本能が告げている。

 

「見ていて不愉快だな。あんなに媚びへつらっていて楽しいのか?」

 

「勿論、楽しいですよ。それとも、貴方に不都合でもあるのですか?」

 

「あるんだよ」

 

語気が荒くなる。静かだが、確かな怒りだ。

 

「まさか、いつまでもあんな日々が続くと思っているのか? おめでたい奴だ」

 

「どういうことですか?」

 

「それを話したら意味がないだろう? いずれわかることだ」

 

彼は左手の指を鳴らす。すると、彼の背後に黒い渦のような円形の空間の歪みが生まれる。

 

「明良、せいぜい足掻き続けろ。お前と俺にとっての願いは、お前の働きにもかかっている」

 

「勝手に願いを作らないでもらえますか?」

 

「そうだ、勝手だな。今のお前にとってはな」

 

彼は明良を正面から指差し、毅然とした態度で言う。

 

「だが、俺にとってはそうじゃない」

 

彼は踵を返し、空間の歪みへと歩いていく。

 

――まずい!

 

「逃がしません」

 

ゆるりとした動作で歩く彼の腕を掴んで引き留めようと、明良は正面へ疾駆する。

念のためにと、『右腕』を発動させ、刈り取るように振りかぶる。殺すつもりはない。だが、この男は何か危険だ。振りかぶった『右腕』を彼の無防備な身体へと届かせた。

 

「はぁ……」

 

面倒そうなため息。一瞬の交錯の中でもそれは確かに明良の耳に届いた。

嫌な予感が胸に響いた時点でもう遅かった。彼は明良の『右腕』の刀身を振り向き様に左手で受け止めた。それも、素手で。

 

「なっ……!?」

 

「物忘れの酷い奴だな。今日は挨拶しに来ただけと言ったはずだ」

 

――馬鹿な、私の攻撃を素手で受け止められる者など……

 

折神紫の身体に憑依していたとはいえ、あのタギツヒメさえ明良の攻撃には御刀で対応していたのだ。目の前のこの男は一体、どういう生物だ。

 

「貴方、人間なんですか?」

 

「当然だ。ただ、少々別のものが混ざってるだけのな」

 

「まさか……貴方も……」

 

「お前が今知る必要はない」

 

「――っ!!」

 

咄嗟に『左腕』を出し、振り払おうとする。が、

 

「遅い」

 

明良の反撃よりも速く、視界の下方から迫った蹴足が腹部にめり込み、明良の身体を後方へと弾き飛ばした。

腹部に鈍い痛みと刺すような痺れが残り、踞ってしまう。肺の空気がほとんどなくなり、数十秒は立ち上がれそうにない。

 

「意外と血の気が多いな。もう少し冷静だと思っていたんだがな」

 

「……冷静ですよ、だからこうして貴方を止めようとしている」

 

「なら、止められない場合についても考えておけばよかったな。その部分は短絡的だ」

 

踞る明良を見下ろしながら彼は笑う。苛立ちの視線を彼に向けていた明良だったが、不意に彼の立ち姿が視界から消える。

 

「だから、こうやって簡単にちょっかいも出せる」

 

気づいた瞬間に彼の姿が眼前に現れ、次には額に火花のような痛みが走った。

身体が仰け反り、仰向けに倒れる。何とか顔を彼の方へと向けると、右手の人差し指を前方へピンと張った状態で立っていた。額を弾かれたのだと、そのときにようやく理解できた。

 

――速い……全く反応できなかった。

 

速度も腕力も明良より遥かに上。正面から戦っても絶対に勝てない。

 

「もうしばらく遊んでいるのもやぶさかじゃないが、そろそろ野次馬が群がってくる頃だな」

 

「ま、待って……ください……」

 

明良の言葉を無視して、彼は再び空間の歪みに向かう。そのまま消える、と思いきや去り際に一言残していった。

 

「お前は俺の願いから逃れられない。いや、お前たちがそうさせる」

 

意味がわからない。そう言いたかったが、言えなかった。今の人物はどう考えても普通ではない。

タギツヒメではない、何か別の存在だ。力ずくでどうこうできない相手である以上、明良はただひたすらに警戒するしかなかった。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

「………」

 

車を走らせながら明良は先日の戦いを思い返していた。本気で殺すつもりではなかったとはいえ、手も足も出ずに弄ばれたのは初めてだった。

 

「……くん」

 

あの男の発していた雰囲気。人間や荒魂のものではなかった。強さやどうとかそういう問題ではない。異質なのだ。

姿形は人間に近いが、漂う悪意や圧力はタギツヒメと同等かそれ以上。

 

「……くん、聞いてる?」

 

少なくとも味方ではないことは確定している。敵とするなら、これから衝突することもあるはずだ。そのとき、明良は彼に勝てるのか? 可能な限り卑怯な手段を使って、制圧するまではいかなくとも、相互不干渉の状態に持っていかなくては。

 

「明良くん!」

 

「……! は、はい。なんでしょうか」

 

「どうしたの? 考え事してた?」

 

「ええ、少し。申し訳ありません。運転中でしたね」

 

横から飛んできた舞衣の心配した声。普段なら後部座席に座っている彼女だが、今回は助手席に座っている。彼女いわく、後ろ姿じゃなく横顔を見ていたいからだとか。

現在二人は美濃関の近辺に出現した荒魂の討伐に向かっている。実際に任務に当たるのは舞衣で、明良はそのサポートを買って出たのだ。

 

「いいよ、そんなに気にしなくても。でも、一体何を考えてたの?」

 

「今晩の夕食を何にしようかと……」

 

「……嘘」

 

「え?」

 

舞衣は明良が咄嗟に付いた虚偽の報告を即座に見破った。動揺して横目で彼女の方を見ると、目を細めて此方を睨んでいた。

 

「何でわかったんですか、って顔してるよね?」

 

「……はい」

 

「わかるよ。恋人、なんだから……」

 

少々むくれながらも、頬を赤らめて言う舞衣。

今までは見破られたことなどなかったのだが、彼女との心理的な距離が縮まったことで無意識に隙ができていたのだろう。

もう彼女に生半可な嘘は通じない。困ったことになった、と一瞬思ってしまったが、彼女と本心で向き合えることの喜びの方が勝っていた。

 

「もしかして浮気? それともいかがわしいお店にでも行ってたの?」

 

「え? あ、いや……」

 

何かに勘づいたように目を見開いた舞衣は、突然瞳の色が暗く染まり口元に微笑を浮かぶ。笑っているように見えて笑っていない。

 

「まあ、明良くんはそんなことしちゃいけないことくらい知ってるよね、うん。そんなはずないよね。ありえないよね」

 

「……は、はい」

 

怖い、この人。この瞬間、明良の感情を埋め尽くしていたのは間違いなく畏怖だ。

 

「もし明良くんが浮気なんかしたら……どうしよう。しばらく浮気できない身体にしちゃおうかな……」

 

多分、今の舞衣はタギツヒメや緋装束の男より強い威圧感を放っている。恋をする女性は強いと聞くが、舞衣のそれは常人を超越している。

 

「浮気ではありませんよ。当然、今までもこれからもありえません」

 

「そう、よかった」

 

ようやく舞衣の瞳に光が戻った。

 

――もとにもどった、よかった。

 

何だか、安心しすぎて頭の中の知能が退行してしまった。危ない。

 

「私が考えていたのは、先日の管理局での一件についてです」

 

「確か、真庭本部長に呼ばれたときのこと?」

 

「はい、正直にお話しします」

 

明良はそれから十分ほど時間をかけて、黒フードの刀使の犯行、寿々花や結芽と会って話したこと、そして緋装束の男について説明した。

 

「そんなことがあったんだ……」

 

「フードの刀使に、緋装束の男。この二人には注意してください。特に後者は私一人では対処できない可能性が高いです」

 

「もしかして、だから嘘ついたの? 私のことを巻き込まないようにって」

 

「……はい、その通りです」

 

「まだそんなこと思ってたんだ……」

 

否定はできない。以前と同じ感情ではないものの、今回のことはもう少し時間をおいて話すべきだと判断してしまったのは事実。

 

「言ったよね。明良くんだけで抱え込もうとしないでって」

 

「……ええ、確かにそう仰られました」

 

「だったら、今度からはちゃんと話して。私が絶対に力になるから」

 

真摯にこちらを見詰める舞衣。こういうときの彼女は何者であろうと動かせない。実際、明良も彼女の言葉は正しいと思っている。素直に認めよう、自分が軽率だったと。

 

「申し訳ありません。まだ推測の段階でしたので、貴女に不要な心配を抱かせるわけにはいかないと思ったので……」

 

「それでも、だよ。そのときは私も一緒に考えるから」

 

やはり彼女には敵わない。だが、好きな人に敵わないというのは決して嫌ではない。

 

「ですが、このままですと今度のご実家への帰省の件は考え直す必要があるかと思います」

 

「そうだよね……」

 

あの緋装束の男の強さと、何より含みのある台詞。近々、舞衣と二人で彼女の実家に帰る予定だったが、その道中や彼女の家族がいる最中に襲撃を受ければ無事では済まない。

彼の目的が明かされるまでは美濃関学院や刀剣類管理局にいた方が安全だろう。

 

「私にもっと力や知恵があれば……いえ、たとえそうだとしてもご家族の方々に危害が及ぶ可能性は捨てきれません」

 

「ううん、明良くんは気にしなくていいから。また安全になったら会いに行こうよ」

 

「はい。全力で問題解決に当たります」

 

「皆で、だよ?」

 

「心得ております」

 

念押しする舞衣に明良は笑みをこぼしながら答える。

 

「ところで、話はちょっと変わるけどいいかな?」

 

「? はい、何でしょう」

 

少々暗めの雰囲気から一転。明るい顔で舞衣が尋ねてきた。少なからず期待しながら聞き返した。

 

「薫ちゃんに、此花さん、燕さん、三人の女の子と会ってどんなことしてたのか事細かに教えてもらうから」

 

「え?」

 

「覚悟、しておいてね?」

 

訂正する。明るいのは顔だけで、身に纏う雰囲気は別物だ。おまけに、瞳の色がまた闇の色に染まっている。

そんな彼女に言えることはただ一つ。

 

「……承知いたしました」

 

その後、笑顔の舞衣に一晩中尋問されたのは言うまでもない。




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