刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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2020年、あけましておめでとうございます。

今年も刀使ノ巫女をよろしくおねがいしますm(_ _)m


第54話 誕生日

可奈美、姫和、エレンの三人が例のフードの男から襲撃を受けたと聞いて、明良、舞衣、沙耶香、薫は管理局の医務室に大急ぎで集合していた。

本人たちはほとんど無傷に近かったため、治療自体は既に終了していた。

医師からも帰宅の許可は出ている。

強いて言えば、姫和の掌の浅い裂傷くらいだろうか。

その後、ロビーに移動した七人は今回の件について話し合いをしていた。

 

「キドウマル、と名乗っていたのですか? 彼は」

 

姫和から事情を聞いていた明良は、彼女の口にした名前に引っ掛かっていた。

 

「ああ……確かにそう言っていた。恐らく本名ではないだろうがな」

 

「そうでしょうね。タギツヒメと同じく、日本の伝承に倣って自ら称しているのでしょう。それに……」

 

キドウマル――間違いなく、日本妖怪の鬼童丸のことだ。それを名乗るということは……

 

「『鬼童丸』とは日本三大妖怪である酒呑童子が人間との間に成した半妖の子供」

 

「つまり……」

 

「ええ。彼は荒金人の可能性が高いです」

 

彼の強さや回復能力はそう考えれば説明がつく。偽名を名乗るのはを知られたくない理由があるからだろう。荒金人ならば理由などいくらでもある。

 

「けどよ。あいつは何もない場所から突然現れたりしてただろ? 荒金人ってのはそんなことまでできるのか?」

 

薫が横から明良を見上げながら尋ねてくる。薫が言っているのはキドウマルが空間の裂け目を通って場所を行き来していることについてだ。実際に明良もそれを目にしたからその異様さはわかる。

 

「いえ、少なくとも私にはできません。荒金人は自身の肉体に能力を付加するものであって、他人や外界に影響を及ぼすことはできないはずです」

 

しかし、そう考えると実際に起きた現象に説明がつかない。

 

「空間を自在に移動し、姫和さんとエレンさんに触れずにダメージを与えた……この二つは未だ謎のままですね」

 

姫和から聞いた話ではキドウマル曰く『練度次第で簡単に修得できる』らしいが、つまりそれ自体は荒金人の力ではないのか。

 

「タギツヒメがいなくなったのに、また別の敵が現れるなんて……」

 

舞衣が残念そうに俯く。舞衣だけではない。他の皆も内心では同じ思いを抱いている。

荒魂の出現率が激増し、世論が刀使の敵に回っている現在の情勢を考えると彼女たちのストレスは大きいに違いない。

 

「……雰囲気が暗くなってしまいましたね」

 

皆の様子を和ませようと、明良は穏やかに微笑んで語りかける。

 

「明良くん……」

 

「今日のイベントは、今日にしかできません。今からでも皆様でお部屋の準備をいたしませんか?」

 

 

 

※※※※※

 

 

 

「「「「「「ハッピーバースデー!」」」」」」

 

七人は沙耶香の部屋に移動し、部屋の飾りつけを行い、沙耶香をベッドという名の特等席に座らせていた。

六人が鳴らしたクラッカーの弾ける音と発射された色テープが沙耶香の頭に降り注いだ。彼女の肩には『本日の主役』と書かれた(たすき)が掛けられている。

可奈美が沙耶香の被った色テープを取り払いながら、今回の主旨を話す。

 

「今日、沙耶香ちゃんの誕生日だって聞いたから皆でパーティー開くことにしたんだ」

 

本日、11月17日は沙耶香の十三歳の誕生日。そのため、沙耶香以外の六人は少し前からサプライズのバースデーパーティーを計画していたのだ。

 

「はーい、ケーキの登場でーす」

 

舞衣がテーブル上の四角い箱を開くと、そこには『さやかちゃん おたんじょうび おめでとう』と可愛らしい字が書かれたチョコレートの板と、それを乗せているショートケーキタイプのホールケーキがあった。

 

「これ、姫和ちゃんのおすすめのお店で買ってきたんだよ」

 

「……うん」

 

微笑んで言う沙耶香に対し、当の姫和は僅かに不満げな顔だ。

 

「だが、やはり誕生日となればチョコミントケーキの方が良かったんじゃないか?」

 

「いや、これ沙耶香ちゃんの誕生日用だから……」

 

「チョコミント好きなの、お前だけだから」

 

「ねー……」

 

苦笑いする舞衣とは打って変わって、薫とねねは姫和のチョコミント案をバッサリと正面から切り捨てる。

 

「む……そんなことはないぞ」

 

「大体、誕生日に歯磨き粉食わされる身にもなれ」

 

「ねねぇ……」

 

「だから、歯磨き粉じゃないと何千回言わせる気だ!」

 

そんな姫和と薫&ねねのやりとりを尻目にエレンは沙耶香に話し掛ける。

 

「蝋燭、一気にフーッって消してクダサイ」

 

「うん、わかった」

 

沙耶香はケーキの前まで屈む。後は蝋燭の火を吹き消すだけだが……

 

「すぅー………んんっ……んー……」

 

深く息を吸うまでは良かったが、沙耶香は顔が赤くなってもなお息を吸い続ける。

見かねた薫がそれを止めに入る。

 

「待て待て! もっとかるーく吹け! ケーキ吹き飛ばす気か!?」

 

「え?」

 

気を取り直し、沙耶香は今度は撫でるように軽く息を吹き掛ける。蝋燭の火は全て消えて、それと同時に『誕生日おめでとう』という皆の声が部屋に響く。

 

「ありがとう」

 

気恥ずかしさか、嬉しさか沙耶香は頬を赤く染めながら感謝の言葉を述べた。

 

「では、早速ケーキを切り分けますね」

 

明良はナイフを取り出し、ケーキの上面に刃を立てる。だが、その切り方に違和感を覚えた可奈美が明良に尋ねる。

 

「あれ? これ六等分?」

 

「はい、そうです」

 

「明良さんの分は?」

 

「私までご相伴に預かるわけには参りませんよ。皆様でお召し上がりください」

 

「そんな遠慮しなくてもいいんだよ。そんなことしたら、明良くんだけ除け者にしてるみたいで嫌だよ」

 

舞衣が明良の手に自分の手を伸ばし、ナイフを取る。

 

「ですが、私は執事で……」

 

「今は、私たちの友達だよ? 明良くんは友達にケーキを食べさせなかったりするの?」

 

「……しません」

 

――本当は、それだけではなかったのですがね……

 

執事という立場上、遠慮していたというのは嘘ではない。だが、明良にはそれよりも致命的な問題があった。

 

「では、七等分に……」

 

頑なに断り続けるのも不自然なので、素直にケーキを七等分に切り分けた。そして、各々の皿にケーキを移して配ったところで全員がケーキを食べ始める。

 

「………」

 

明良以外の六人は既にケーキに手をつけ、美味しそうに食べている。それはいいのだが、明良は正直あまり食べる気にならない。しかし、食べないのも周りからすればおかしい。

渋々、明良はケーキにフォークを入れ、一口大に切って口に運ぶ。

 

――やはり、味がしない。

 

ケーキや生クリームの食感は感じられる。だが、甘味も塩気も無いと言っていい。

スポンジを噛んでいるような不快感しかない。

 

「………」

 

まあ、こんなことは子供の頃から飽きるほど経験済みだ。

明良は幼少期の過酷な経験のせいで常人とは感覚器官の機能が異なる。黴や泥にまみれた食事が毎日出されていたせいで、自己防衛のために味覚が消えているのだ。

柳瀬家で料理を作る際は味見はできずとも、レシピ通りに正確な調理をしているため、失敗することはない。それでも、自分で食事を楽しむなどということは生まれてこの方一度もないのだ。

 

「明良くん?」

 

落ち込み気味に黙っていた明良の横から舞衣が心配そうに話し掛けてくる。

 

「どうしたの? 甘いもの苦手だった?」

 

「そうではありませんが……申し訳ありません。最近の事件のせいか、気が滅入っているのかもしれません」

 

「大丈夫? あんまり一人で考えすぎたら駄目だよ。ほら……」

 

舞衣は自分の皿のケーキを一口大に切り、フォークで刺して隣の明良の口元へ持ってくる。

 

「私の分、一口あげるから。元気出して」

 

「…………………………え?」

 

凄まじい溜めからの困惑の声。自分でも驚くほど間抜けな声が出てしまったと思った。

これは所謂『あーん』なるものであらせられるのではなかろうか。

思わずモノローグまでおかしくなってしまったが、今は目の前の状況の方が優先だ。

 

「ま、舞衣様……これでは……」

 

「あーん、だよね。わかってるよ。それとも、間接キスかな?」

 

「私は決して嫌ではありません。ありません……が、舞衣様のフォークを汚してしまいますよ」

 

舞衣と恋人を続けていれば、いずれこんな状況が訪れることは予測していた。が、いざそれに直面するとこうも自分は動揺してしまうのか、と情けなさを痛感する。

 

「またそんなこと言って……私たち、本当のキスもしてるんだよ?」

 

「そのキスとは、少々違うのでは……」

 

「もう……早く食べてよ。思い出したら、私まで恥ずかしくなってきちゃうよ」

 

最初は悪戯っぽい笑みだった舞衣も、段々と羞恥に頬を赤く染めて目をそらす。

そして、二人ともお互いの唇に視線が吸い寄せられる。もう、ケーキがどうとか味覚がどうとかいう問題は明良の脳内から霧散していた。

 

「舞衣様……」

 

「明良くん……」

 

見つめ合う時間は十秒ほど続き、そろそろ舞衣から差し出されたケーキを食べてしまおうと明良が口を開けた、その時だった。

 

「「「「「じー………」」」」」

 

「ねー………」

 

見つめ合う二人を射貫かんばかりの五つの視線。可奈美、姫和、沙耶香、薫、エレンはケーキを食べる手を完全に止めて二人のやりとりに集中していた。ついでにねねも見ている。

 

「二人とも、ホントに熱々だよねー」

 

「それは別に構わないが、時と場所を考えた方がいいぞ……」

 

「舞衣は、明良といっぱいキスしてる……?」

 

「てか、明良がここまで慌ててるのはレアだぞ。今のうちに写真撮っとくか」

 

「マイマイもアキラリンも、ワタシたちのコトはノープロブレムデスよ?」

 

頬笑み、苛立ち、疑問、などなど傍観していた皆の反応は様々。そうだとしても、現実に引き戻された明良と舞衣は慌てて離れざるを得なかった。

 

「……はい」

 

唇を尖らせた舞衣が明良の口に無理矢理に近い形でケーキを入れてきた。

 

「むぐっ……」

 

明良は突然の口内への侵入に驚きつつも、ケーキを咀嚼する。

 

――よ、余計に味がわからなくなりました……

 

「やはり、恥ずかしいです……」

 

 

 

※※※※※

 

 

 

「真庭本部長、お話ししたいことがあります」

 

パーティーを終え、七人は管理局指令本部に足を運んでいた。指令席には朱音と真庭本部長の二人の姿が。

目的は例のフードの刀使とキドウマルについて、二人に情報をもらうためだ。

交渉事は得意だから、という理由で対応は明良が行うことになった。

 

「何だ、お前たち。騒々しいぞ」

 

「それについては申し訳ありません。ですが、早急に解決したい問題でして。お時間をいただけませんか」

 

「……わかった。話してみろ」

 

「二人のフードの刀使と、私たちの前に現れる緋装束の男、この二人について掴んでいる情報を教えていただきたいのです」

 

明良の質問に朱音たちがほんの少しだけ反応したのを明良は見逃さなかった。本人たちも気づかない程度のものだっただろうが、明良にとってはそれだけで十分だった。

 

「知っているのですね」

 

「いや、だがお前たちは……」

 

「いいでしょう」

 

真庭本部長は渋っているが、朱音は重々しく了承した。

 

「あなたたちにも伝えようと思っていたところです」

 

「最初から知っていたのですか? 局長代理(、、、、)

 

「……いえ」

 

明良はあえて朱音に対し、堅苦しい呼び方をした。これは明良なりの『怒っている』という意思表示だ。

明良からすれば『知っていた上で情報を秘匿し、自分たちを危険に晒したのか』と暗に問い詰めている。

 

「知ることができたのは昨日のことです。それは、信用してください」

 

「……そうですか」

 

父親が違うとはいえ、明良と朱音は血の繋がった兄妹であることに変わりはない。それはわかっている。

だからこそ、妹であるという先入観を考慮した上で、彼女が事実無根なことを宣っているわけではないと判断した。

 

「まず、フードの刀使については正体が判明しています。当然、二人とも」

 

「誰ですか?」

 

「一人は獅童真希。これはあなたたちの推理通り、間違いありません。しかし、犯人はもう一人の方です」

 

「獅童がオレたちの前に現れたのは偶然ってことか?」

 

薫が訝しげに朱音に問う。

 

「偶然ではありません。恐らく、彼女は独自に犯人を追っているのでしょう」

 

「その犯人というのは?」

 

「もう一人は……そもそも刀使ではありません」

 

――?

 

朱音の答えに明良だけでなく、六人も疑問符を浮かべる。犯人は刀使、という前提の元に考えていたため、この言葉は意外だった。

 

「刀使ではない……では一体誰なのですか?」

 

「タギツヒメです」

 

「……!?」

 

またもや七人の顔に動揺が走る。だが、先程の比ではない。

タギツヒメと、彼女はそう言ったのか。

 

「タギツヒメが復活したと言うのですか? こんな短期間で……」

 

「タギツヒメを隠世に追いやったのは五ヶ月前デスよ?」

 

真っ先に明良とエレンが朱音に詰め寄る。

姫和が放った『一つの太刀』は相手を隠世の彼方に葬り去る技。いずれ現世に復活してしまうものの、その時間は極めて長い。

少なくとも、数ヶ月程度で復活するなど絶対にあり得ない。

 

「原因については後日説明します。長い話になりますので」

 

「……一体、誰に憑依したんですか?」

 

姫和が青ざめた顔で朱音に尋ねる。無理もない。自分の命を賭して葬った相手があっさりと戻ってきたなど、彼女にとっては最大級の衝撃だ。

 

「誰かに憑依したわけではありません。今回のタギツヒメは荒魂自体が人の姿を成して現世に現れています」

 

「人の形を成す……ありえない、とは言い切れませんね」

 

そもそも、荒魂の外見がどのような形状になるのかなど、不明な点が多い。

大荒魂だからといって、天を衝くほどの巨体になるとは限らない。

 

「では、緋装束の男については?」

 

「残念ながら、彼についてはあなたたちが聞いた『キドウマル』という名前しか情報がありません。そもそも、彼はあなたたちの前にしか姿を見せていないようです」

 

「そうですか……ありがとうございました」

 

これで聞きたいことは聞けた。明良は踵を返して、部屋から出ようとした。

 

「待ってください、兄様!」

 

「………何、ですか?」

 

無視しようかと思ったが、明良は足を止めて返事をした。

 

「話があるんです」

 

「先程のことで、まだお話しすることが?」

 

「いえ、私からの……個人的な話です」

 

絶対にろくな話ではない。その確信があったが、聞かないというのも後々大変なことになりそうだ。

 

「申し訳ありません、真庭本部長も、衛藤さんたちも、外していただけませんか? 私たち二人で話したいのです」

 

「朱音様がそう言うのなら……」

 

「は、はい。わかりました」

 

可奈美たちだけでなく、真庭本部長にも知られたくない。つまり、折神家に関する話か。ますます嫌な予感がする。

朱音は明良以外が退出していくのを確認したところで、鞄の中から一冊の本を取り出す。明良は朱音と向かい合うように座り、話を切り出した。

 

「………何です、これは?」

 

明良は朱音に本について聞いた。何の本なのか、中身について知っているから(、、、、、、、)こそ聞いたのだ。

 

「見覚え、ありませんか?」

 

「あると思っているから呼び止めたのでしょう?」

 

傷や染みの付き具合から考えて、十年以上前のもの。大きさは懐に入れられるほどの大きさ。手帳と言った方がいい。

知っている。これは、黒木明良の所有物。いや、折神修の所有物だ。

 

「私の日記、何処で手に入れたのですか?」




明良と舞衣……イチャイチャしすぎ問題。

くそう、くそう、羨ましい(ハンカチ キーッ!)

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