刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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伏線はとりあえず序盤に張りまくる。


第2話 二羽の鳥

「あ、舞衣ちゃーん! おっはよー!」

 

「おはよう、可奈美ちゃん」

 

二人のやりとりから数分後、舞衣と同じ美濃関学院の制服を着た少女たちが大勢やって来る。その先頭に立つ茶髪の活発そうな少女――衛藤(えとう)可奈美(かなみ)が舞衣に駆け寄ってくる。

彼女は舞衣のクラスメイトであり、親友。今回の御前試合出場者選抜大会の優勝者でもある。舞衣は準優勝で、決勝では大変な激闘を繰り広げたのだとか。

 

「明良さんも、ひさしぶり!」

 

「はい。お久し振りです、可奈美さん。以前よりもお綺麗になられましたね」

 

「そう? あはは、なんか照れちゃうね」

 

誉められたのが意外だったのか、はにかみながら頭を掻く可奈美。実際、美少女の部類に入るのだからその仕草も可愛らしい。

 

「ねぇ、可奈美。この人は?」

 

「二人の知り合い?」

 

後ろにいた美濃関の生徒が明良に視線を向けながら可奈美に尋ねる。明良も改めて自己紹介をするために姿勢を正してお辞儀をした。

 

「初めまして、ご学友の皆様。私は柳瀬家の執事をさせていただいております、黒木明良と申します。以後、お見知り置きを」

 

明良の丁寧な挨拶に友人たちは一斉に黄色い歓声を上げた。

 

「すっごい! 執事だよ執事!!」

 

「本物初めて見たよ!」

 

「しかもイケメンッ!!」

 

明良は少し照れ臭そうに頬を指でなぞり、「恐れ入ります」とだけ返した。

その様を端から見ている舞衣としては、身内がキャーキャー言われている姿が恥ずかしくなったのか、頬を赤く染めながら明良の手を引いた。

 

「ほ、ほらもう行くよ! 新幹線に乗り遅れちゃうから!」

 

「わかりました。では、参りましょうか」

 

舞衣と可奈美は駅員に生徒手帳を開いて見せ、確認をしてもらう。

これは、刀使である彼女たちが学院の公用で帯刀しているからだ。御刀は荒魂を祓うための道具だが、一般人から見れば日本刀との区別が難しい。そのため、彼女たちが刀使だと証明する必要があるのだ。

駅員は二人の生徒手帳の本人と御刀の情報の項目を数秒眺め、「どうぞ」と許可を出した。

 

「ところで、明良さん」

 

「何でしょう?」

 

可奈美が駅のホームで新幹線を待っている最中に手持無沙汰そうに聞いてきた。

 

「鞄、やけに多いけどどうしたの? 男の人ってそんなに必要になるものなの?」

 

「いえ。私に必要な分はこの一つだけです。他の二つは舞衣様のためのものでして」

 

「私の?」

 

自分の名前を引き合いに出され、舞衣が明良の方を向く。

 

「はい。こちらには替えの制服と肌着の方を。もう一方には安眠グッズや救急セットなどを」

 

「明良さん、相変わらず過保護~」

 

「旦那様と奥様から最大限の努力をするようにと仰せつかっておりますので」

 

「それ、努力の方向性を間違えてる気がする……」

 

可奈美には微笑ましそうに見られ、舞衣には呆れられた。正直、明良にとってはその反応でも十分すぎるほど嬉しい。

 

「このままだと私、ダメ人間になりかねないよ」

 

「大丈夫だよ。舞衣ちゃん、女子力高いし!」

 

「そうですね。そうなれば、私が献身的に介護させていただきます」

 

「それはそれで心配……」

 

 

※※※※※

 

 

どこだ?

 

こんな感覚は経験したことがない。上下左右も、地に足をつけている感覚もない。

それに、冷たい。体温が一気に奪われていくが、さっきから死に瀕していくような様子はない。人間ならこんな長時間低温の空間にいれば命を落とすはずなのに。

 

何をしていてこんなことになった? 輸送用の巨大なタンカーに乗船していて……そうだ。そこで初めて『海』という場所を目で見て、その匂いを鼻で嗅いだ。

となれば、今はその温度を肌で感じているのか。

 

冷たくて、寒いが、悪くない。百聞は一見にしかずというのはこういうことか。知識と経験は違う。

 

こういう貴重な経験を味わいながら、命に呑まれれば……

 

 

いや、待て。何で私はこの状況で死なない? 息もできず、体温も危険な域に入っているというのに。

 

ヒトなら、とっくに死んでいる……

 

 

※※※※※

 

 

「ん?」

 

左手側の窓の景色がどんどん流れていく。そういえば新幹線に乗って、鎌倉へと向かっているのだった。

明良は頭の中を整理しながら、眠気を振り払う。左手首に嵌めた腕時計は数分進んだ程度だ。どうやら、気が緩んでうたた寝をしていたらしい。

 

――舞衣様に見られていなくてよかった。

 

この新幹線は御前試合に向かう刀使専用の電車だ。隣の車両には舞衣と可奈美がいるはずだが、明良が今いる車両には彼一人しかいない。友人と一緒の席に随伴するのは野暮だと考え、車両を別にしてもらったのだ。

結果的に、数分とはいえうたた寝をしていた場面を見られずに済んだ。

 

「まさか、今頃になってあんな夢を見るだなんて――」

 

自分の中では夢と結論付けたが、あれはただの記憶だ。消し去りたいほど忌まわしい記憶だ。

柳瀬家の執事になってからは見たことがなかったのに、このタイミングであそこまで鮮明に思い出した。

 

――鎌倉に行くからと、知らないうちに気にしていたのでしょうか。

 

今はこんなことよりも舞衣の護衛という任がある。さっさと忘れてしまおう。

 

「そろそろ、迎えに上がりますか」

 

そろそろ鎌倉に到着する時間だ。二人を呼びに行くために明良は荷物を持って席を立ち、隣の車両へと向かった。

 

 

※※※※※

 

 

「ひゃあ、おっきぃ~!」

 

大きな門が構えられた屋敷の前に三人は立っていた。絢爛豪華ではないものの、由緒正しき日本の武家屋敷という造りのものだ。

 

「ここが折神家……御刀の管理を国から一任されてるお家だよね」

 

「舞衣様、折神家にいらっしゃるのは初めてなのですか?」

 

三人が横並びになった状態で、舞衣の左隣に立つ明良は首を少しだけ彼女の方に向け、尋ねる。

 

「うん、それどころか御当主の折神紫様を見るのも初めてで……」

 

「あ、私も初めて! 確かすっごく強いんでしょ?」

 

可奈美は星のように目をキラキラと輝かせながら言う。彼女の好戦的と言うか、剣術にご執心なところはいつものことだ。

 

「ええ。確か二十年前の大荒魂討伐の英雄で、未だその実力は健在。最強の刀使の座を守り続けているのだとか」

 

「最強……最強かぁ……」

 

可奈美は『最強』という言葉を何度も反芻し、考え込んでいる。舞衣と明良にはその考えが手に取れた。

 

「可奈美ちゃん、御当主様と戦いたがってる?」

 

「いやいやまさかー、今の私じゃあ敵わないって」

 

「戦いたいとは思っているのですね、可奈美さん……」

 

真っ直ぐというか、こういう話題になったときの彼女は本気でぶっ飛んだことを言う。それに、スタンスがぶれない。

舞衣と明良はそんな彼女に苦笑いしながらも、今日の泊まる宿へと向かうために歩き出そうとする。

 

「?」

 

三人が視線を屋敷から道の方へと向けた瞬間、一人の少女が少し離れた位置に立っていることに気づいた。

 

「あの制服は確か、平城学館の……」

 

舞衣が彼女の制服を見ながら呟く。

確かに、黒を基調とした丈がやや長い制服はその学校のものだ。

平城学館(へいじょうがっかん)。奈良県に所在する刀使の訓練学校で、今回の御前試合の出場校の一つだ。彼女も可奈美や舞衣と同様に御刀を帯刀している。ということは、明日の御前試合の出場者なのだろう。

 

「………」

 

腰まで下ろした烏の濡れ羽色とも呼ぶべき黒い髪に、端正な顔立ちと感情を現していない表情。冷静で理知的な雰囲気の少女だ。

少女は無言で三人の顔を順番に眺め、こちらに向かって歩いてきた。

 

「ね、ねぇ! あなたも明日の試合に出るの!?」

 

すれ違い様に可奈美が声をかける。

 

「………」

 

聞こえてはいるのだろうが、少女はペースを緩めることもなく去ろうとする。

この場面だけを切り取れば素っ気ない少女との一方的なやり取りにしか見えない。が、明良は一種の違和感、いや、妙な感覚を聴覚とも触覚とも呼べない部分で感じ取っていた。

 

 

キィィィィ――――

 

 

甲高い笛の音ような、耳障りでよく響く音が脳を反応させた。その場にいた舞衣を除く三人はそれを感じた。

 

「……!」

 

平城学館の少女は直ぐ様振り向き、御刀の柄を右手で握り、鍔に左手の親指をかける。抜刀の構えをとったのだ。それに一瞬遅れて可奈美も少女と同じように振り向き、抜刀しようとする。

明良はそんな二人を黙って見ていたが、一向に動く気配はない。

 

「「………」」

 

二人の行動は反射的なものだった上に、それ以上のおかしな出来事もなかったからだろう。平城学館の少女は軽く可奈美と明良を一瞥し、構えを解く。そして、何事もなかったかのように踵を返して去っていった。

 

「どうしたの? 可奈美ちゃんも明良くんも」

 

舞衣は何も感じなかったのか、疑問符を頭に浮かべたような顔をして聞いてくる。

 

「う、ううん。何でもない」

 

「ええ、どうやら気のせいだったようです」

 

適当に誤魔化し、三人は再び宿へと歩を進める。

何でもない風を装ってはいたが、可奈美は僅かな疑問を、明良は不安を抱えながら歩き始めた。

 

――確か、可奈美さんの御刀は千鳥。となれば、先程の方は……いや、まさか……




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