刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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タグの「腹黒」の意味が違って聞こえそう……聞こえないよね?


第3話 熱と記憶

「ふぅ……」

 

宿での食事と入浴を済ませた明良は、客間で一息ついていた。舞衣と可奈美は同じ部屋で寝泊まりすることになるが、明良は新幹線のときと同じ理由で別室で待機していた。

流石に風呂上がりでスーツにネクタイというのは苦しかったので、ジャージに着替えている。

 

――それにしても、あれは一体……

 

新幹線での移動中に見た夢と、昼間に会った平城の少女と可奈美の御刀が共鳴のような反応をしたこと。

この二つが偶然だと片付けるのはあまりにも愚かだ。必然性を考えるとすると――

 

「千鳥と、小烏丸(こがらすまる)……」

 

可奈美の御刀が千鳥だというのは確かだ。だが、あの平城の少女の御刀はわからない。だが、あの御刀が『小烏丸』だとすればあの現象にも説明がつく。

 

「……いけませんね」

 

軽く頭痛がする。あの共鳴を至近距離で感じたからか。

御刀に触れなくともこんなことになるのか(、、、、、、、、、、、、、、、、、、、)

いや、それとも御刀の種類の問題だろうか。

 

「何事もなく終われば幸いですが……」

 

他の人はともかく、舞衣に知られては不味い。隠し通すことにも力を入れなければ。

考えを巡らせていると、無機質な振動音が耳に入った。明良の携帯端末に電話がかかっているのだ。

 

「?」

 

画面に表示されている名前を見て、明良は一瞬止まった。発信者が舞衣だからである。

電話をしてくることに関しては問題ないが、現在の時刻は二十三時近くだ。明日の試合のことを考えるともう就寝しておくべき時間だというのに。

だが、大切な主からの電話だ。出ない理由はない。明良は通話のアイコンを押して携帯端末を耳に当てた。

 

「はい、黒木です。舞衣様、如何なさいましたか?」

 

『よかった、起きてたんだね明良くん。夜遅くにごめんね。ちょっと話があって。今、明良くんの部屋に行ってもいい?』

 

「私の部屋ですか? はい、構いませんが……」

 

『わかった。じゃあ、今から行くね』

 

それだけ言って通話を終える。明良は携帯端末をテーブルに置くと、慌ててハンガーに掛けておいたスーツに着替え、ネクタイを締める。さっきまで着ていたジャージは鞄に詰め、舞衣の目の届かないようにしておいた。これで招く準備はできた。それに合わせるように丁度部屋の戸がノックされた。

 

「し、失礼します。入る……よ?」

 

「ええ、どうぞ」

 

明良はいつも通りの服装、表情で舞衣を出迎えた。だが、舞衣からは意外そうな顔をされた。

 

「明良くん、お風呂入ったんじゃないの? まだ、スーツ着てるけど」

 

「入浴は済ませています。舞衣様をお出迎えするとなれば身なりを整えるのは当然ですよ」

 

「そこまで気を使わなくていいから。お風呂上がりにその格好だと暑いでしょ?」

 

「……舞衣様こそ、そのような格好で男性の部屋にいらっしゃるのは不適切かと」

 

「え? そんな格好って……」

 

舞衣は視線を下に向け、今の自分の服装を確認する。舞衣が今身に付けているのはこの旅館の浴衣だ。浴衣自体はおかしくはないが、中学二年生にそくわぬ舞衣の成熟した身体の曲線をこの薄布では隠しきれない。大和撫子然とした彼女と相まって非常に蠱惑(こわく)的な魅力を感じさせている。

 

「そ、そんな変な格好じゃないよ! これは……ただの浴衣だし」

 

「変ではないから、ですよ。私だからよかったものの、他の男性でしたら問答無用で襲われているはずです。ご自身の安全のためにも、お気をつけください」

 

「あ、ありがとう……」

 

舞衣は恥ずかしがりながら礼の言葉を述べる。そして、咳払いをしてから「ところで」と切り出した。

 

「聞かせてもらえないかな? 今日のことで気になることがあって」

 

「どうぞ。座ってお話ししましょうか」

 

舞衣と向かい合う形で座り、二人分の緑茶を用意する。少し流し込み、口の滑りをよくする。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして。ところで、話というのは?」

 

「昼間の、平城学館の人のこと」

 

――勘づかれていましたか。

 

いや、そう考えるのは早計だろう。まずは話の続きを聞くべきだと明良は黙って頷く。

 

「あのとき、可奈美ちゃんと明良くんと、あとあの平城の人も突然様子がおかしくなったでしょ? 何かあったのかなって思って」

 

「ああ、そのことですか」

 

明良は舞衣の口振りに少し安堵した。何てことはないと、いつもの笑顔で返事をした。

 

「明日の試合のことを意識するあまり、彼女たちも気を張り詰めすぎていたのでしょうね。

私も、あのような剣呑な雰囲気に驚いてしまいまして。お恥ずかしいです」

 

「そ、そう? うーん……」

 

完全に納得させるのは難しい。が、筋は通っている。これ以上の追求はないだろう。

 

「あ、でも何だか明良くん、顔色が悪いみたいだけど……」

 

別の問題があったようだ。舞衣は少し淀んでいる明良の顔に違和感を覚えたらしい。これは誤魔化せそうにない。

 

「そうですね。正直に申し上げますと、久々の大移動と慣れない土地での行動に少々疲れているようでして。ですが、問題ありません。少し休めば完治します」

 

『疲れている』という単語に反応し、舞衣が心配そうな表情で正面から隣に移動してきた。

 

「大丈夫? どこか痛い? 頭、それとも胸?」

 

「ま、舞衣様!?」

 

これは予想外だ。舞衣は慌てながら明良の両肩に手を置き、聞いてくる。

 

「え、えっと……頭、ですね。少々頭痛が……本当に少々なのですが」

 

「頭……うん、わかった」

 

「舞衣様……何がわかって――」

 

何かの決心を固めた舞衣は、膝立ちになって、正座で座っている明良の頭をそっと両手で包む。この体勢だと、舞衣の方が頭の位置が高くなり、自然な形で明良の頭に手が届いた。

そして舞衣は左手を添えたまま、右手で明良の頭を優しく撫で始めた。

 

「……………!?」

 

声にならない声。何かを叫びそうになるが、語彙力が焼失したせいで何も口から音が出ないのだ。

今何をされているのだろうか。仕えるべき主の手で、癒しを施されている。

 

「な、にを……」

 

ようやく口から捻り出した言葉はひどく平凡で、ありきたりなものだった。動揺が全く抜けていないのだ。だが、舞衣はむしろ穏やかな声で答えた。

 

「疲れてるんでしょ? だからこうしてるんだよ。どう? 安心する?」

 

「は、はい。それは……勿論」

 

「よかった。嫌じゃないみたいで」

 

嫌なわけがない。風呂上がりの心地よい香り、慈しむような力加減、包み込まれてしまうほど温かく、やわらかい手の平の感触。酔いしれて、溺れてしまいそうだ。

 

「明良くんはいつも頑張ってるから、たまには休んで、こうやって甘えていいからね? ほら……」

 

少し力が増した。だが、嫌な圧迫感はない。

 

「申し訳ありません、ですが、そんなにご心配をなさらなくても……」

 

「するよ。心配する。だって――」

 

舞衣は上から明良の顔を覗き込み、慈愛に満ちた笑顔で言う。

 

「大切だから」

 

くすぐったかった。

 

生まれて初めての気分だった。自分より六つも年下の少女にこんなことをされて、まるで子供のように喜んでいるだなんて。

 

――今なら、たとえ死んでも後悔はありません。

 

頭を撫でられながら、薄く笑みを浮かべていた。

 

 

※※※※※

 

 

「うわぁ~……すっごい!」

 

昨日の折神邸の前のときのように可奈美は感嘆の声を上げる。尤も、昨日ほどこの場は静かではない。多くの人々が集まり、歓声や応援の声が飛び交っているからだ。

場所は御前試合会場。中央は正八角形の吹き抜けのようになっており、二階の観客席には各校の応援団、下の階の大きな壇上は試合のスペースになっている。

 

「あれが試合する人たちかぁ……うん、やっぱり強そう」

 

舞衣、可奈美、明良は試合のスペースの周りの五つの休憩席に陣取っている他の四校の生徒たちに一人ずつ視線を移していく。

 

京都府の綾小路武芸学舎(あやのこうじぶげいがくしゃ)。全体的に灰色で、スカートの丈の長い制服だ。代表は茶髪、黒髪の生徒の二人組。見たところ仲が良さそうだ。

 

神奈川県の鎌府女学院(れんぷじょがくいん)。白のブレザーに青色の襟、同じく青色のスカートという制服だ。代表は長い黒髪を纏めた生徒と色素の薄い、白髪に近い生徒。どういうわけか、黒髪の生徒は一方的に白髪の生徒を睨んでいる。

 

岡山県の長船女学園(おさふねじょがくえん)。胴の部分には山吹色、袖と胸元には白い布地が使われている制服だ。代表は桃色のツインテールの小柄な生徒と金髪ロングの生徒だ。桃色の髪の生徒は気だるそうに、金髪の生徒は対称的に陽気な素振りを披露している。

 

そして……

 

「あの平城の方、やはり試合の出場者だったようですね」

 

明良は二人の後ろに立ち、昨日の昼間に出くわした平城学館の黒髪の少女を見つめる。その隣には同じ平城学館の生徒がいる。黒髪の少女とは違い、人懐っこい雰囲気の人だ。

一方、黒髪の少女の方は無関心と言わんばかりに目を伏せて動かない。あるいは、試合前に精神統一でもしているのか。

 

「さて、ではお二人とも頑張ってください。私は上の階でご学友の方と一緒に応援いたします」

 

「うん、じゃあね明良くん」

 

「応援よろしくねー!」

 

下の階は試合の出場者か審判くらいしか出入りできない。入口で別れる必要がある。

明良は軽く手を振り、出入口からUターンして二階へと向かう。

 

「あ、そういえば……」

 

明良は二階へと向かう途中で足を止めた。手に持っている荷物の中に救急キットがない。受付に預けたもうひとつの鞄の中に入れてしまったのだろう。

少し遅れるが、試合開始までには十分間に合う。受付に戻ることにした。

 

そうしていくらか角を曲がったところで、奥の廊下から明良の方に向かって誰かが歩いてきていることに気づく。

 

「!」

 

ただならぬ雰囲気を纏った女性だった。まず目についたのは服装だ。白い上下の軍服、上の前止めは黒く染められている。身長は明良より10センチほど低いが、それでも女性にしては背が高い。170センチ近くある。

目元を覆い隠す前髪、腰を通り越して膝にまで届きそうなほど長い後髪。何より、腰に差した二振りの刀――御刀だ。となれば、刀使。この特徴、そして漂わせている雰囲気。

 

この人物は――折神家当主、折神(おりがみ)(ゆかり)

 

「………」

 

一瞬驚いたが、よく考えればここは折神家の所有する場所だ。いたとしてもおかしくはない。偶然このようにすれ違うこともあるにはあるのだろう。

それに、折神紫がいるからといって特に何か用があるわけでもない。気にするほどのことではない。

 

「……待て」

 

凛とした声に呼び止められる。素通りさせてはくれなかったようだ。

明良は不思議そうな顔で「何でしょう?」と尋ねる。

 

「……ええと」

 

紫はツカツカと靴音を鳴らしながら明良に詰め寄る。明良は困ったように苦笑いしながら改めて尋ねることに。

 

「その格好……確か折神家の御当主の方とお見受けしますが、一体何のご用でしょうか。生憎私急いでおりまして、なるべく手短に済ませたいのですが……」

 

「……? お前は……」

 

紫は怪訝そうに明良をジロジロ見る。数秒眺めた後、ゆっくりと口を開いた。

 

「以前、私と何処かで会った覚えはないか?」

 

「会った覚え……ですか」

 

――ない。

 

「いえ。申し訳ありませんが、今回が初対面かと。貴女のように格式の高い方でしたら忘れるとは思えません」

 

「……そうか」

 

紫はそれだけ言い残すと元々向かっていた方向へと歩いていく。その背中を明良は無言で見つめていた。目を細めながら。

 

――気に入りませんね。




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