刀使ノ巫女 -ただの柳瀬家の執事-   作:ソード.

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ほぼ第一話の最後らへんです。


第4話 一つの太刀

紫との一悶着の後、荷物を無事に受け取った明良は先程の試合会場の二階に足を運んでいた。

今まさに試合が始まろうという瞬間だった。司会進行の担当者が第一試合の出場者の名前を呼ぶ。

 

「第一回戦を始めます。平城学館、十条(じゅうじょう)姫和(ひより)。綾小路武芸学舎――」

 

司会進行の声と共に例の平城学館の黒髪の生徒――十条姫和と呼ばれた少女が壇上に上がる。

 

「あの……ちょっとよろしいですか?」

 

「? はい」

 

壇上に立つ十条姫和に目を凝らしていると、背後から声をかけられた。そういえば、今明良が立っているのは二階の出入口。人の出入りがあるのだ。

 

「通していただけませんか? 私、試合を観戦しておく必要がありますから」

 

声の主は大人びた雰囲気の少女だった。ワインレッドの髪に緩くウェーブがかかっている。立ち振舞い、口調、声のトーンはやけに気品があり、貴族の令嬢と言った風だ。腰には試合の出場者と同じく御刀を帯びている。

そして、彼女の服。刀使の訓練施設である伍箇伝(ごかでん)のどの制服とも違う。全体が赤い、これは折神紫の部下――折神紫親衛隊の制服だ。

 

「申し訳ございません。通行の邪魔になっていたようで。どうぞ、お通りください」

 

「わかっていただければ構いませんわ。では、失礼」

 

親衛隊の少女は明良の隣を通り、応援席のある人物の隣まで移動する。

 

「あれは確か……」

 

移動した隣にいるのは、同じく親衛隊の者だ。ただ、先程の少女が貴族の令嬢のようであったのに対し、隣の少女は褐色の短髪に中性的な顔立ちと凛凛しい表情から、騎士とでも形容すべきか。

 

二人には見覚えがあった。折神紫ほどではないが、彼女に仕える親衛隊の第一席と第二席として多くの刀使の人気を集めている。

 

騎士風の少女が第一席の獅童(しどう)真希(まき)

令嬢風の少女が第二席の此花(このはな)寿々花(すずか)

 

「いえ、それよりも今はこちらですね」

 

視線を二人から姫和へと変える。腰に差した御刀を鞘から抜き、正眼に構えた。

 

「やはり……」

 

刀身の半ばあたりから峰側にも刃がある。あの形状は、鋒両刃造(きっさきもろはづくり)、または

 

「……小烏丸造(こがらすまるづくり)

 

ほぼ確信していたことだが、より強固なものになった。十条姫和が所持しているのは小烏丸だ。

 

(ウツ)シ」

 

審判の掛け声に応じて向かい合う姫和と綾小路の生徒の身体が淡い色の光を纏う。

刀使の戦闘における防御術『写シ』。御刀を媒介とし、自らの肉体を霊体へと変化させる術だ。写シを張った状態ならば受けた傷は現実の肉体には及ばず、少々の痛み程度で済む。

 

「……始め!」

 

試合開始の合図。最初の数秒はお互いの出方を探る。と思いきや、姫和が御刀を刺突の構えに変えた瞬間、彼女の身体が刹那の間に消え失せ、綾小路の生徒の懐へと移動した。

そのまま大きく一閃。綾小路の生徒の胴体を真っ二つに切り裂き、写シを剥がした。

 

「勝者――平城学館、十条姫和」

 

――確か、迅移(じんい)でしたか。

 

写シが防御術ならば、迅移は攻撃術。通常の時間から逸することで肉体を加速させ、高速戦闘を可能にする術だ。

勝利した姫和は御刀を納め、一礼してから降壇する。

 

圧倒的、華麗とも言える試合だった。それにも思うところがあったが、何より姫和の表情に違和感を感じた。御前試合出場者の集まりならば、あの綾小路の生徒も十分な実力者のはず。なのに、姫和は全く表情を崩すことなく試合を終えたのだ。元々彼女が冷静なタイプの人間だとは思っていたが、あれは感情が表に出にくいのとは違う。

あれは、そもそも対戦者を相手にしていない。試合に勝つことよりも、別の目的のために戦っていたような

 

「余裕……それとも無関心でしょうか」

 

何にせよ、長年適合者が不明だった小烏丸の使い手がこうして現れたのだ。ただの偶然だと思いたいが、直感的に感じ取っていた。このまま穏便に試合が終わるとは思えないと。

明良は一抹の不安を抱えながら美濃関の生徒たちの元に移動した。

 

――(ひいらぎ)の娘……一体何が目的ですか。

 

 

※※※※※

 

 

「おいしい~、これならいくらでも食べられるよ」

 

「もう、可奈美ちゃん。急いで食べると喉に詰まっちゃうよ」

 

「可奈美さん、お茶です」

 

御前試合準決勝終了後、昼休憩に入り、可奈美と舞衣は支給された弁当を休憩スペースのテーブルで食べていた。明良はそんな二人の近くに立ち、弁当にがっつく可奈美に水筒から注いだ麦茶を手渡した。

 

「はひはほー、んくっ、んくっ、ぷはっ」

 

これまたすごい勢いで飲み干した。

 

「けど、ほんと凄かったよね。準決勝の時の舞衣ちゃん」

 

「ええ、確かあれは『居合い』や『抜刀術』というものでしたか」

 

話題は先程の準決勝の話に移る。順調に試合を勝ち進んでいった可奈美と舞衣は結果、準決勝でかち合うことに。全員が固唾を飲む中、試合開始直後に舞衣は正座し、納刀してある刀を抜き放つという技を見せた。

剣術の奥義の一つ、居合いだ。鞘に納められた刀を抜刀し、斬撃に繋げる技であり、速度と威力は決して侮れない。

 

「私になりに考えたんだけどね……やっぱりすごいよ、可奈美ちゃんは」

 

そんな舞衣の一撃を可奈美は制したのだ。抜刀する舞衣の右手を可奈美は左手で受け止めて、無防備になった彼女に一太刀浴びせることで勝利した。

舞衣が敗北したことに落胆はしたが、二人の試合の流れと動作には感嘆した。

 

「でも、ここまで来て、しかも可奈美ちゃんと戦えたんだから私は満足だよ。決勝戦、がんばってね」

 

「ありがと、舞衣ちゃん! いっぱい楽しんでくるから!」

 

可奈美は午後の決勝戦に思いを馳せながら胸元で両の拳を握る。決勝戦の対戦相手はあの小烏丸の使い手、十条姫和だ。今までの試合を見ていた限りでは彼女の実力は現在の可奈美に匹敵するほど。可奈美が期待しているのも当然だろう。

 

「そうですね、我々も全力で応援いたします。ご健闘を祈っています」

 

なぜ、このときはここまで油断していたのだろうか。可奈美と舞衣の微笑ましいやりとりを見ていたからか、自分の考えをただの杞憂だと無意識に決めつけていたからか。

これはただの刀使たちの試合、各校の生徒同士の研鑽だと思っていた。馬鹿馬鹿しい。

 

――今の折神紫と、千鳥、小烏丸の使い手たちが巡り会えばただで済むはずがないと、それを私は知っているはずでしょうに(、、、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 

※※※※※

 

 

「これより、折神家御前試合、決勝戦を行います」

 

庭に描かれた大きな長方形の中に可奈美と姫和は相対する。場所は昨日三人で訪れた折神邸の中――昨日は門の外だけだったが、今はその庭に全員が集まっている。

最後の試合開始まで残り数分となっており、周囲には緊張感が漂っている。だがそれはある人物の登場によって一時的に破られた。

 

「見て、あれって確か……」

 

「御当主の紫様よ! 私初めて見た!」

 

観客席の刀使たちの視線が一気に試合会場横の寝殿造の建物の方へと注がれる。折神家当主、折神紫だ。今回は決勝戦の場にのみ立ち会うらしい。

四人の親衛隊と共に現れた彼女は、多くの刀使にとっての憧れの対象であるためか、観客席からは羨望や歓喜の声がひしめいている。

一方、明良は舞衣の隣に座り同じく紫を見つめていたが、その目は他の刀使とは違い、興味深そうにしている。

 

「あれが御当主の方ですか……」

 

「うん? 明良くんも気になるの?」

 

「ええ、まあ人並みには」

 

明良にとっては現時点で紫に対してどうこう思うことはない。ただ、本来は刀使は十代の少女と相場が決まっているのに対し、二十年前から未だに御刀を使い続けられている彼女を不思議に思ったのだ。

皆は名門折神家の天才だからということで納得しているが、明良にとってはあまり解せない。

しかし、やはり……特にどうこう思うことはない。今はもっと優先することがある。

 

「双方備え……写シ!」

 

可奈美と姫和が抜刀、正眼の構え、そして写シと流れるような動作で試合の準備をする。

 

「始め!」

 

試合開始。可奈美はいつものごとく相手の出方を探っている。姫和も可奈美の実力を知ってか、いきなり迅移を使うのではなく隙を狙っている

 

 

――ように見えますが、あれは……

 

 

違う。明良は一瞬で状況を察知し、目を見開く。可奈美は間違いなく姫和の姿を見据えているが、姫和は構えこそしているがその目は可奈美を捉えていない。彼女の瞳は彼女から見て右側に向けられ、固定されている。

 

「まさか……」

 

「? 明良くん、どうし――」

 

思わず漏れ出た明良の声に隣の舞衣が反応した、その瞬間だった。

 

 

――!?

 

 

稲妻が走ったかのような音圧と衝撃と同時に姫和の姿が消える。可奈美が呆気に取られるのも束の間、姫和の身体が視線の先にいる人物――折神紫の眼前に出現した。

 

「それが――」

 

姫和の鋭い眼差しと共に放たれた小烏丸の刺突。その刀身が紫の身体を刺し貫く――

 

「お前の、『一つの太刀』か?」

 

寸前に姫和を嘲笑うかのように、紫の両手に握られた二本の御刀が攻撃を弾く。

 

「……!? くっ……」

 

その場にいた紫以外の多くの者がその行動に言葉を失い、硬直する。中には動揺と恐怖で悲鳴を上げる者もいた。

当然、最も驚いたのは絶好の一撃を難なく弾かれた姫和だろう。彼女も困惑していたようだが、瞬く間に構えを直し、紫に切りかかろうとした。

 

「がっ……!」

 

しかし、今度は紫ではなく背後から御刀に胸元を貫かれ、攻撃を妨げられた。傍にいた親衛隊の真希が止めに入ったのだ。ほんの数秒でも相手に時間を与えれば親衛隊の介入によって二撃目はない。御刀に貫かれたことで姫和の写シが剥がれ、その場に膝をついてしまう。

真希は引き抜いた御刀で地面にへたりこむ姫和に、写シなしの生身の身体へと上段からの斬撃を浴びせようと振りかぶる。

 

「はあっ!」

 

真希の斬撃は、別の乱入者によって阻まれた。先程まで姫和の正面に立っていた可奈美だ。

 

「迅移!」

 

可奈美は真希の斬撃を受け止めたまま、背後の姫和に向かって叫ぶ。姫和は可奈美の乱入に困惑こそしたものの、一旦引くべきだと判断したのか、再び迅移を発動させ門の出口へと駆ける。可奈美もそれに続いて出口へと向かう。

 

「可奈美ちゃん!!」

 

舞衣は可奈美を呼び止めるが、一度走り出した彼女は姫和の手を握り、門を飛び越えて屋敷の外へと逃亡した。

 

「紫様にお怪我はないか!?」

 

「すぐにあの二人を手配しろ! 追跡の準備だ!」

 

会場の警備の刀使や刀剣類管理局の局員が大慌てで事態の収拾に取り掛かる。無論、会場にいた各校の生徒たちはただただ混乱している。尤も、舞衣と明良の胸中には不安と疑問が渦巻いている。

 

「何で、可奈美ちゃん……」

 

「舞衣様……」

 

明良は暗く沈んでいく舞衣に何も声をかけることができなかった。




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