○ ○ ○
境也とシルヴィがデートして丁度1週間がたった。
央路は毎日ずっと理亜の傍に。
境也は理亜のお見舞いにシルヴィの話し相手。
特に何もなく時間が過ぎていた。
が。
「坂巻殿!!」
エルさんが呼びに来た瞬間、事態が動き始めた。
○ ○ ○
理亜の陣痛が始まった。
央路と境也とシルヴィの三人は急いで理亜の元へ向かった。
「ひとまずは自然分娩の用意、ただ子宮口全開大が難しければ、すぐ手術に移行します」
理亜の元に行く移動中、エルさんから説明を聞く。
「一緒にいてあげて下さい」
その声音はとても優しかった。
「ソーマくんっ!」
いの一番に声を掛けたのはシルヴィ。
理亜のもとに行くと理亜はドラマとかでよく見る患者服を着て横になっていた。
「んー?、ああ、ようシルヴィ。ようやく会ってくれるようになったのに、ごめんなこの状況で」
「ううん、そんなことはないわ!!」
負い目からか最近、理亜と会っていなかったシルヴィ、境也とのデート後、何回か見舞に来ていた。
「痛いか?」
央路が理亜の肩を掴む。
「すげー痛い、でも、この痛みが味わえるんだ、幸せだよ」
理亜は痛みに耐えながらも笑顔を作る。
「頭撫でてイチ。少しでも紛れるから」
「ああ」
央路は理亜の頭を撫でる。
境也は右の手でソーマの手を取った。
「俺もいる、気合入れろ」
「サキ…」
理亜は苦し気に息を吐く。
「ソーマくん…」
今、三人に出来るのは祈ることのみ。
お産には10時間を超える事も多い。
理亜は痛みのさなか、時おり意識を失って、また時おり思い出したように目を開ける。
部屋に入った時は夜中だったのだが、かなりの時間が過ぎ、太陽が昇ってきた。
「…太陽、出てきた?」
「見えるか?」
理亜はもう殆ど目が見えない、だが、外が明るくなってきたのには気付いた。
「うん、朝焼け…? きれいだね、夕焼けと同じ金色で」
「…ああ」
「ソーマくん…」
「…イチ、シルヴィ、サキ、4人で夕日見たね。オレさようやく分かった。多分金色がさ見たかったんじゃなくて」
理亜が絞り出すように言う。
「3人と一緒のものが見たかったんだ、一緒に見たものが、全部金色だったんだ」
「理亜…」
思わず境也はその言葉にイラっときた。
「…んだよ」
「…境也?」
「何、悟ってんだよ諦めんなよ、まだ終わってないぞ、また4人で一緒のものを見るんだよ」
「サキ…」
「ああ、終わってない、出来る出来るかじゃない、やるか、やらないかだ」
その言葉は自分に言い聞かせているようだった。
その言葉の意味に気付いた理亜とシルヴィ。
「…だめだ」
「待って境也!!」
二人は境也のしていることを止めようとする。
だが、境也は。
「大丈夫」
ああ、そうだ今回は大丈夫だ。
「娩出が始まっています。しかし子宮口に変化なし、このままでは…」
医師が焦るように言う。
タイムリミットが迫っていた。
もう迷ってはいられない。
出来るか分からない、ぶっつけ本番。
だが、横にはシルヴィが居る。
だから、大丈夫。
境也はシルヴィに理亜の手を握っている手とは逆の左手を差し出す。
「握っててくれ、迷わないように」
「…うん」
シルヴィは境也の左手を両手で強く握る。
境也はそのまま右手に、己の中に意識を集中した。
○ ○ ○
光る右手、力が抜ける体。
「(コイツは…思った以上にキツイ!!)」
医師とエルさんは今、何が起こっているのか全く分からないだろう。
ただ、もう少し待ってくれと願う。
今やろうとしているのは全てを理亜に渡すのではなく半分を理亜に渡すこと。
椅子は譲るだけじゃない、相席って方法もあるぐらいなんだ。
なら、やってみるしかない。
恐怖もあった、でもシルヴィが居る、だから、頑張れる。
「(でも、それでも、ヤバイ!! どんどん吸われている!!)」
右手の光が大きくなる度、体に力が入らなくなってくる。
「…だめ、離してサキっ!!」
理亜が言う。
自分だって苦しいのに、そんな時に他人の心配か。
「…だい、じょうぶっ!! 4人で、また笑い、合うんだよっ!! だから、大丈夫!!」
焦る理亜をなだめるように言う。
「(って言っても今、どれぐらいだっ、どれぐらいで良いんだっ!? 駄目だ頭が纏まらない!!)」
一瞬、意識が飛びそうになった。
「境也!!」
シルヴィが呼ぶ。
「っああ、大丈夫、まだ、諦めない、諦めないからっ」
右手の光がより一層強くなった。
「一体、何が…っ!?」
医師とエルさんは今のこの超常的現象に驚き、見る事しか出来ていない。
だが、動くものもいた。
境也の右肩に手が置かれた。
「今、境也が何をしているのか分からない、でも、理亜を助けるためんだろっ!? ならお前だけに任せれないってのっ!!」
その手は央路の手だった。
唯一無二の親友の手。
元気づけられるのには十分だった。
「っしゃおらあッ!!」
更に光が強くなった。
どんどん光が強くなる。
もっと明るく、もっと強く。
でも、何かが抜け落ちる感覚が止まらない。
「(ちょっと、マジでやばいけど、止めるわけには…っ!!)」
ここまで来たら十分だ、後は俺がやる。
そして、部屋を光で満たした。
○ ○ ○
「ここは…」
光に覆い尽くされた後、境也はある場所に立っていた。
「…屋上」
境也が立っていたのは理亜の部屋ではなくノーブル学園の屋上。
境也はあるところに目が釘付けになった。
屋上の給水塔の上、そこにシルヴィがいた。
涙を流しながら。
その膝の上には。
「…俺?」
その膝の上には境也がいた。
ただ、目を閉じている。
まるで眠っているかのように。
央路と理亜もシルヴィの近くにいた。
でも、二人とも涙を流していた。
「…そうか、ここは」
納得した。
なんで、理亜が日本を発つとき特典を拒否したのか。
この光景を見たからだ。
ここは。
「俺が、理亜を救った世界か」
「そうだ」
境也の後ろから声が掛かった。
振り返るとそこにいたのは。
境也だった。
「お前が、この世界の俺か」
「ああ、そこで寝てるやつだ」
そう言うと、この世界の境也は苦笑する。
「まあ、救ったって言ってもいいのか分からないけどな、結局3人とも泣かしたんだ、救ったとは言えない」
「…いつからいたんだ」
「お前が正月に4人でグリーンフラッシュを見た日だな、あの日から突然お前の背後霊っぽいものになったんだ」
「あの日か」
正月、物事が大きく動き始めた日。
「俺は死んで、見ちまったんだ、シルヴィと理亜と央路の涙を」
境也は涙を流し続けるシルヴィを悲しい目で見た。
「あの時の俺は結局、自分しか見えてなかったんだ、俺が死んで理亜が生きればもうこれでハッピーエンドだろう最高のゴールデンタイムだろう、って。でも違った。あいつらは俺が死んで涙を流したんだ」
境也は悔しそうに言う。
「あいつらは俺が死ぬなんて全く望んでいなかったんだ、あいつらが望んでたのは
「後悔してるのか?」
「ああ、だからこの場所に縛られ続けている」
境也は改めて屋上の光景を見る。
ここに、ずっと。
「…でも、挽回できるチャンスが来た」
「どうするつもりなんだ」
「お前の特典を俺が肩代わりする」
想像出来ていたことだった。
「はいそうですか、って納得できないの分かってる?」
それもそうだ、二回も犠牲になるというのか、目の前の境也は。
友のために、そんなこと誰も望んじゃいないって分かってるのに。
「ああ、分かってる」
「だったら!!」
「分かってる、でもさこれを達成できたらさ、本当の本当に最高の4人笑顔のハッピーエンドなんだぜ? そんなのさ、力を貸したいに決まってるじゃん」
その境也の顔は笑顔だった。
「ふざけんなよ!! 結局、お前が犠牲になっているんだろ、その事を知ってる俺はどうすればいいんだよ!! そんなこと知って、俺が笑顔になれるわけないじゃないか!!」
境也の言葉に思わずポカンとする境也。
「まさか、自分に心配されるとは」
「冗談言ってるんじゃねえぞ!!」
「分かってる分かってる、それにさ、これ別に犠牲じゃないしさ」
「…え?」
今度は境也がポカンとした。
「いいか、俺はお前、お前は俺なんだ。だから、俺が笑顔ならお前も笑顔、お前が笑顔なら、俺も笑顔になるんだよ、だからこれは犠牲じゃなくて、託すんだ」
「……託すってんなこと言われたって」
「頼むよ、お前にしか託せない」
境也の真剣な表情を受ける。
「……分かった」
根負けする境也。
「ありがとう、さて、そろそろ時間もないさっさとやるか」
そう言うとこの世界の境也は境也に手を差し出した。
「握手」
その言葉通り、境也はその手を右手で取る。
「俺、絶対にシルヴィを幸せにする」
「ああ」
「4人で笑顔なハッピーエンド、目指すよ」
「ああ」
「だから…」
「ああ」
「だから…さ」
その声は震えていた。
「だから、ありがとう。今まで見守ってくれて、ありがとう」
「…ああ」
返事も声が震えていた。
右手から光が境也に移動する。
「あそこから帰れる」
そう境也は屋上に入る扉を指さす。
「分かった」
境也は扉に向かって歩き出した。
「境也!!」
この世界の境也が呼びかける。
「シルヴィ、絶対に泣かすなよ!!」
思わず笑みがこぼれた。
「お前に言われるまでもねえよ!!」
そう言い、境也は扉を開けた。
○ ○ ○
「行ったか」
既にこの屋上にいるのは俺のみ。
「さて、やりますか」
俺は目を閉じ思い出すように力を使う。
ふと、手に温もりを感じた。
目を開けると手を握られていた。
「…シル、ヴィ」
俺の妄想かも、しれない、けど、確かにシルヴィに手を包み込まれていた。
「はは、ありがとうな」
そういうとシルヴィは微笑む。
屋上に光があふれだす、強く、明るく。
そして、屋上を覆い隠し。
屋上は消滅した。
○ ○ ○
「…也、境也ッ!!」
揺さぶれていることい気付いた境也。
一番最初に目に映ったのはシルヴィの黄色。
「シルヴィ…」
「良かった、気が付いたのね、光が溢れてから少しだけど全く境也反応がなかったのよ」
手はしっかりとシルヴィに握られていた。
と、医師が焦るように言葉を発した。
「バイタル安定!! って、おいおいマジかよ、子宮口徐々に開いています!! 今まで全く変化が無かったというのに奇跡だ!!」
「な、何!? と、言うことは」
エルさんが焦るように急かす。
「ええ、このままいけば自然分娩可能です!!」
境也はその言葉を聞いて、一気に肩の力が抜けた。
「でも、それだと理亜の体力が…」
理亜の体力のことを心配した央路だったがそれは理亜自身の言葉で打ち消された。
「イチ、多分大丈夫。今、今までにないぐらい元気が出てきている、頭痛もしなくなったし、大丈夫」
「本当か!?」
「うん」
よく見ると理亜は息切れしていない、顔は少し痛そうな顔をしているが先ほどと比べると雲泥の差。
全てが上手くいってる、まるで何かに祝福されたかのように。
境也の頬を涙が伝った。
「…ありがとうっ」
それはもう一人の自分に向けての感謝の言葉。
もう、届かない感謝の言葉。
それでも口に出さずにはいられなかった。
シルヴィはそっと境也に寄り添い、境也の頬に伝う涙を拭いた。
そしてシルヴィは微笑んだ。
境也も泣き顔から、ぎこちないが笑顔になった。
「もう、大丈夫なのね」
「ああ、もう、大丈夫だ」
そして、理亜は10時間を超えるお産の上、元気な女の子を出産した。
母子ともに健康であった。
○ ○ ○