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境也とシルヴィが付き合いだしてもう3ヶ月ほどたった。
あの後、境也は迷惑を掛けた友人に全員謝罪し、元の関係には戻った。
ミナちゃんからの目は厳しくなったが。
そして、当の二人だが、シルヴィは執務がありすぎて境也と直接会うなんてことはこの期間全くなかった。
それでも電話だけは最低でも3日に1回はしていた。
昔の話や今日の学校の話、エルさんたちの状況や、シルヴィの近況、とにかく色々話した、話題には事尽きなかった。
そして、理亜の話も。
昨日、1学期が終了したのだが境也と央路は学校に呼び出された、1週間ほどの着替えなど、生活用品を持って、誰に呼び出されたか。
「お久しぶりです」
「お元気でしたかな」
そこにいたのはエキスナさんとボラルコーチェさん、ソルティレージュに呼び出された。
「…これがファーストクラス」
「飲み物飲み放題、飯食い放題」
「頼むからやめてくれよ…」
自由気ままな境也に呆れる央路、数時間の空の旅であった。
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下された自家用飛行場で待っていたのはエルさんだった。
「市松殿、坂巻殿、お久しぶりです」
「エルさん」
「久しぶりです」
「お元気でしたか。 市松殿は背が少し伸びましたね」
「親戚のおばちゃんみたいなセリフを…」
「おば…っ、坂巻殿後で色々とお話が」
「え"」
「シルヴィ様の事についても」
「ヒェ…」
顔は笑顔だが目が全く持って笑っていないエルさん。
それもそうだ、大事に大事に守ってきた王女様がこんな平民と付き合うのだ、言いたいことも山ほどあるだろう。
正直仕方のないことなので甘んじて受け入れる境也。
「にしても、ここがソルティレージュ…」
央路が話題を変えようとする。
「はい。第三王宮、僧間殿は空を眺めるのお好きですから、最も景色のよいところをご用意しました」
そう言われて改めて景色を見渡す央路と境也。
確かに良い景色だ。
「理亜は」
央路が急かすように言う。
「こちらです」
その気持ちも分かっているようにエルさんは二人を案内してくれた。
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景色のいいバルコニーから近く、風通しの良い一角。
そこに理亜はいた。
「僧間殿」
エルさんが優しく問いかける。
「んっ、ああ」
恐らく目の視力が殆ど失われているのだろう、こちらから声を掛けないと反応が無かった。
が、それでも央路が近づくと。
「あ…、なんだよ。来ちゃったの?」
央路のことは一瞬で分かった。
「足音で聞き分けれるようにトレーニングしてさ、お前の足音は最初から記憶してたし」
「…そか」
「よ、ちなみに俺もいるぞ」
「サキも来たのか、つか、よかったわけ、来ちゃって」
「向こうは夏休み」
「そういうことだ」
境也が言い、央路が頷く。
「そう」
ほろ苦く笑う理亜。
央路は理亜のあるところに目線を向けた。
理亜に近づく央路。
「…あはは」
「もう動くのか?」
「うん、結構」
央路は理亜の大きく膨らんだ下腹部。
丁度赤ん坊が居るところに手を触れた。
「あんま驚かないのな」
「春頃からちょっと予想はしててな。お前、テレビ電話で顔しか映らないようにしてたし、その顔もむくんでること多かったし」
「サキもそんなに驚いてなさそうだな」
「俺は最初から知ってたから」
「そっか」
苦笑する理亜。
「そういえばサキ、シルヴィと付き合ったそうだな」
「ああ、おかげ様でな」
「オレからしたらようやくって感じだけどな」
「はは、そうか」
「まあ、おめでとう」
「ありがとう」
二人笑う。
「……~」
理亜が眠そうにし始めた。
「…先に出てるわ」
そう言うと境也はバルコニーに出た。
思わず右手を見る。
「…なんとか、出来ないものかね」
右手をグーパーと開いて閉じてを繰り返す。
少しあと、エルさんと央路が外に出てきた。
そして理亜の現在の状況を説明し始めた。
簡単にまとめると、覚悟だけは持っておいた方が良いということ。
そして、子供だけでも助かるなら奇跡だということ。
正直、予想は出来ていたこと、出来ていたことだが。
「…きっついな」
境也は誰にも聞かれない声で呟く。
「出産に関しては我々ソルティレージュが総力をあげて協力するとお約束します。…ですので市松殿、その日が来るまで僧間殿のおそばにいて差し上げてください」
央路は無言で頷く、だがその表情は険しかった。
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「エルさん、シルヴィは今…」
話が終わり、央路が学園の方に休学の連絡をしている間、境也はエルさんにシルヴィの所在を聞いた。
「シルヴィ様は今、外遊でアメリカです、明日の夕方ごろに帰ってくる予定です」
「そうですか…」
「…私たちが何故市松殿だけでなく坂巻殿もお呼びしたか分かりますか?」
「…え?」
本来、理亜のお見舞いということなら央路だけで良いのだが、なぜ境也もソルティレージュに呼ばれたのか。
「シルヴィ様は今、酷く疲弊しています」
エルさんは少し顔を俯き加減で話始めた。
「僧間殿のことで、本当にこの選択でよいのだろうか、と。私たちにはそのような顔を一切見せまいとはしているようですが、それでも我慢しているのは分かります」
薄々気付いてはいた、電話している時、あれ、少し疲れているのではと思うことも多々あった。
無論、そのことを境也は電話で問いただしたりもした、「疲れていないのか」等々、でもシルヴィは決まって「大丈夫よ」と返す。
「ですので、お呼びしたのですシルヴィ様の恋人である貴方を」
「エルさん…」
てっきりシルヴィと付き合うということに反対しているのではないかと思っていたのだが。
「いくら支えようとも、私たちには決して弱音を見せないのがあの人です、姫様を支えたくても、姫様自身がそれを許してくれない、それがあまりにも悔しくて悔しくてっ…」
その声は悔しさと涙に震えていた。
「恥を忍んでお願いしますっ!!」
エルさんは境也に深く頭を下げた。
「私たちにはシルヴィを支える力はありませんっ、どうかっ、どうかっ、シルヴィア様を元気付けて、支えてやってください…っ」
返答なんて決まっている。
「任せてください」
エルさんは顔を上げる。
「それに言われるまでもないですよ、俺はシルヴィの彼氏っすから」
「……ありがとうっ ございますっ!」
エルさんが再び頭を下げた。
「でもエルさん」
これだけは言っておきたかった。
「シルヴィのことを支えれてないって言いましたけどそれだけはないですよ」
エルさんが顔を上げる。
「貴方たちは十二分にシルヴィを支えていますよ、なんて、上から目線で偉そうなこと言ってますけど.…」
少し苦笑しながら言う。
「それだけは絶対に誰がなんと言おうと譲れません。1年は同じ学校、同じ教室で生活して見てきて言えることです」
だから、と続ける。
「誇りに思ってください。今まで貴方たちに支えられてきたから今のシルヴィがあるんです。それを忘れないでやってください。あまり自分を責めないでください、シルヴィが悲しみます」
「…… シルヴィ様が悲しむ。 はい、そうですね、確かに」
気分が持ち直したのか前を向けるようになったエルさん。
「こんな気分が落ちている状態だと、逆にシルヴィ様を悲しませてしまいます」
そういうエルさんの表情はまだ硬い。
「ほらエルさん、そんな悲しい顔しないで、もっと笑顔に」
「え、えっと、笑顔、こ、こうですか?」
少しぎこちないが先ほどよりは良い顔になったエルさん。
「はい、やっぱり悲しい顔より笑っている顔の方が可愛いですよ」
「か、かわっ… ええい坂巻殿!! 私をおちょくるのもいい加減になさい!!」
「え、ちょっと待ってどこにおちょくる要素があったのだ」
もうエルさんの顔には憂いは無かった。
「……シルヴィ様が貴方を慕う理由が少し分かった気がします」
「え、何か言いました?」
「いえ、特になにも、さて、坂巻殿。シルヴィ様を元気付けさせる為なら私どもも協力を惜しみません。何か手伝えることがあれば何でも仰ってください」
「……じゃあ、早速一ついいですか?」
「はい、何なりと」
初めて彼氏らしいことをしてやれると、境也は内心嬉しかった。
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