話数:1、3、6、9
あんまり気にしなくていいです
弁当屋ふるぁっとは短いお盆休みに入り、夏来、美波、彰悟の3人はお墓参りに行っていた。線香の匂いが立ち籠める慣れた道のりの先、たどり着いたのは高汐と刻まれた墓石の前だ。この中に彰悟にとって父と母が、夏来と美波にとって自分を引き取ってくれた恩人が埋まっている。
誰かが先に訪れたのだろう、周りと同様に生き生きとした花が供えてあり、少し割り込む形で手持ちを差し込んだ。
供えているコーヒーの入ったマグカップと水が注いである湯呑み茶わんの中身を捨て、茶渋を取るために軽く水で濯ぐ。夏来はきれいにしたカップを美波へと渡すとビニール袋から線香を取り出し、ライターで火をつける。枯れかかった花を取り除いていた彰悟が着くか? となかなか火の着かないライターに苦戦する夏来に声を掛ける。大丈夫と風のふかない場所を懸命に作ろうとする夏来の前に、余った缶コーヒーを飲む美波が座り込むまでライターはなかなか夏来にはデレなかった。
やっと着いた線香を分け、供える番がくる間、夏来はこの下に埋まっている人物に思いを馳せていた。
夏来にとって、彰悟の父、義信はまさにヒーローだった。
きっと、これは美波も同じだろう。
ここに立つといつも思い出す。
突然亡くなった両親のお通夜、父の親友だと名乗った男に家に来るかと訊かれたとき迷わず頷いたのは良い選択だっただろう。既に高汐の母はいなかったが、両親が多忙だった為ほとんど独りだった7歳の夏来に、高汐家は家族を感じさせてくれたあたたかい存在だった。
その2年後に引き取られた美波は、現在とは程遠い全てに怯えた暗い少女だった。無理心中未遂の末母親に捨てられ、怯え閉ざしていた彼女の心を開いたのも、義信だった。義信の後ろが定位置だった美波とまともに話せるようになり、やっと彰悟や夏来の前で笑えるようになったのは義信が亡くなる数か月前だった。
憧れたのだ。当たり前の様に人を救っていくその姿に。
自分もそうありたいと思った。幼い子供がヒーローになりたいと願う、そんなものだ。
最後も人を救って亡くなった。
今、自分はこの人に近づけているのだろうか。
9年前義信が死んでから美波の依存体質がひどくなった。
こんなんじゃいけない。わかっているのに変われないことに焦っている自分がいることを夏来は自覚していた。
今度は自分が、そう思ったのに2年前恋人さえいなくなった、守れなかった自分にできるだろうか。
先日倒した少女の最期を思い出し、自分のしていることが本当に憧れていた姿なのかよく分からなくなった。
不思議な力を手に入れた今も大きい不安と虚無感が同席している。
いつの間にか手に力が籠っていた。
数本折れた線香が手から落ちるのを見守る。
「夏来、次いいよ」
美波に言われ、線香皿に置く。
短く手を合わせる。願いを込めて。
勇気をください
3人とも回ると彰悟はこの日だけ買うタバコを一本、供えた。
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日鏡大学は夏休みに入り大半の学生はキャンパスから居なくなるのだが、とある研究室、生亶山遺跡と地域信仰の研究室には数名の生徒が集まっていた。
節電運動などという自殺行為のせいでまだ使えないエアコンの代わりに開け放たれた窓からは、ミンミンゼミの特徴的な鳴き声とどこかのサークルがバーベキューで騒いでいる声が届くばかりで、肝心の風はまったく入ってこない。室内の片隅に置かれた唯一の希望、扇風機は蒸し暑い空気をかき回すだけだった。
暑さをうちわで紛らわし、采雨は6人の学生に次の遺跡探索の概要を説明していた。
「今年度3回目、9月3日から実施する生亶山遺跡の調査ですが、2回目に行けなかった入口左、2階、⑤壁画より右と3階層目の調査の予定です。生亶山の大きさ的にこれより上の階層は無いと思うけど、今までの階層を見るとこの先は比較的広い場所になり、それなりの期間掛かると思います。あとは始めに配ったプリント通り、今までと特に違いはないわ。」
そこまで言うと必要事項の記載されたプリントから顔を上げる。
「何か質問はありますか」
采雨の言葉に、采雨正面左中央に座っていた青いフレームの眼鏡の男子学生が小さく手を上げる。
「あの、1回目の調査で発見した2階層3階層に上がる階段に刻まれた象形文字らしきものはどうなったんですか?」
学生の質問に采雨は言いづらそうにあー、と意味のない声を出した。
「私だけじゃちょっとわからなかったから、いろんな先生にお願いしたんだけどね。これまで帰ってきた返答は、該当する文字体系は無い、の一言」
「じゃあ新発見の文字ってことっすか!?」
体育会系の語尾の女子学生は興奮した様にきょろきょろと周りの顔を見る。他の5人も釣られたように熱を持ち始め、古くから高度な文明が栄えていたやどうして滅んだのか、研究発表はどうしようなど騒ぎ始め、はやとちりするなと一喝される。
「まったく。まだ返答されてない先生だっているし、それにこの遺跡は祭祀遺跡だから本当に文明があったらそこら辺の土地から同じ象形文字が出てくるはずでしょ」
すみませーんと学生たちの気の緩い謝罪に、采雨からは呆れたような乾いた笑いしか出なかった。
気を取り直し、もう一つと采雨は口を開く。
「あと、やっぱり壁画の描かれた時期と象形文字の時期は違っていた、と私は一応結論付けました」
「そうなんですか?」
学生の問いに頷き、根拠は遺跡で話すと言うと今日の集会は終了となった。
ぞろぞろと退室していく学生たちと入れ替わり入室してきた台良は、すれ違う采雨の教え子達に会釈を返し、この部屋の主に声を掛ける。
「お疲れ様です、先生。一応借りられましたけど……」
台良は歯切れの悪い言い方で、バックの中から分厚いファイルを数冊取り出す。
かなり古いとわかる色あせたファイルは市民文化資料館から借りてきたのだが、目立つところに持ち出し禁止のラベルが張ってあり、本来この場にあってはならないことを指し示している。
「……これほんとに借りれたの? あのおじさん、歳とって情に脆くなったのかしら?」
采雨が思い浮かべたのは、何十年も資料館の職員をしている
采雨の心配とは別に、不安な様子で男性ではないと言った。
「許可してくださったのは女性の方でしたよ」
台良はついさっきのことを思い出しながら言う。
樹環市民文化資料館。
樹環市合併記念として建造された文化ホール敷地の少し離れた場所で基本年中無休で開放している、その名の通り4つの町の民族系の資料が展示されている施設である。勿論、生亶山遺跡関連の展示物もある。
台良が采雨に頼まれた過去の遺跡調査に関する記録は、見慣れない担当者の女性の手によってあっさりと貸し出された。持ち出し禁止のラベルを見てうろたえる台良に対し、シニヨンでグレーのスーツに身を包んだ担当職員に、大学の先生の役に立てられるのであれば光栄なことです、と嬉しそうに言われ、返す言葉も浮かばず借りてきてしまったと話した。
「いざ借りれるとなると、困惑するわよねー」
まあいいか、と資料を漁る采雨に台良は微妙な顔しかできなかった。
ファイルに目を通しながら采雨は台良と何気ない会話を始める。
「明後日、日鏡の夏祭りなのよねぇ」
采雨の気だるい声色に、勝手に備え付けの冷蔵庫から取り出した麦茶を2人分用意しながら台良は意外そうに見る。
「先生ってお祭り好きそうって勝手に思っていたんで意外ですね」
思っていることをそのまま口にする台良から麦茶を受け取り、采雨は違う違うと言う。
「お祭りは好きよ、大好き。その地域の風習が判るものは特にね。ただねえ、明後日はここで仕事しないといけないから交通規制がねぇ」
「始まる前に終わらせないとですね」
笑う台良に采雨は何となくほっとし、台良君はと聞き返す。
「夏祭り、友達と行くの?」
采雨は保護者の様な気分で訊ねる。
「いや今年は。ジャンクズと戦えるようになったので、何かあった時の為に。友達と途中で別れるのも申し訳ないんで」
真面目な返答に、采雨は少し考え口を開く。
「ジャンクズのことが最重要なのはわかるけど力を抜くのも大事よ」
諭すように話す采雨に、でもと言い返そうとする台良の声を遮り話を続ける。
「それにね。夏祭りってのは、農耕による疲れを癒す、死者の魂を弔い癒す、そして厄除けが由来なの。だからね台良君、その日ぐらいは気負わずにご家族の冥福を祈ることを大切にしなさい」
「……はい」
しぶしぶ頷く台良に采雨は生真面目だった表情を崩し、子供をあやすような普段通りの顔に戻る。
「もし何かあっても洪城君や塚地君がいるから、ね。彼らは仕事だから」
「……はい」
「あー、私の家に灯篭あるんだけど台良君どう? 町内会でお母さんが毎年買うんだけど結局流さないのよ。貰ってくれる?」
「……もらいます」
不貞腐れる手のかかる子供の機嫌を直させるために采雨は雑用を頼む。
誰かに必要とされることを望む台良にはぴったりの機嫌の取り方だった。
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カーテンで閉め切られたアパートの一室は昼間だというのに仄暗い。しかしこの部屋の住人はその小さな光すら拒み、掛布団を頭まで被っていた。
1kの布団を敷いてしまえば狭い室内の床とテーブルの上は、食べ終わった空のコンビニ弁当にお菓子の包装、鼻をかんだティッシュが散乱し、足の踏み場もないほど汚い。片付けられていない段ボールの上には封を切っていない郵便物が同じく散乱していた。
時計のないこの部屋にチャイムが鳴り響く。と同時にガチャリと誰かが入ってくる。部屋の主は特に気にすることなくもぞもぞと動き出した。
「うわっ。きたなっ」
ドアを開けた男は率直な感想を吐くと、いまだ布団から出ようとしない友人を無視しカーテンを開け放った。
布団を被っていても届く強烈な光にうめき声を出す。
「おら、文治出ろって。掃除するぞ」
数か月この部屋に引きこもっている
動こうとしない友人に慣れ切った葛彦は世間話を一方的にしながら、いそいそとゴミを片付けていく。その様子はまるで母親のようで文治を苛つかせた。
「しにたい……」
「まーたそんなこと言って」
実行できる勇気がないことを見透かされているようで、言い返そうと出かかった言葉はただの息に変わった。
数日ぶりに見ることのできた床に何も感じるものは無く、キッチンから聞こえる生活音もテレビから聞こえるアナウンサーの声も、ただ斉川文治に生きている事実を突き付け、大きな不安と羞恥を与える。取り込まれた布団を被る。いつもと違う匂いと触り心地が癪に障った。
葛彦がキッチンから戻ってくる頃には文治は再び布団に包まり眠っていた。きっと朝から何も食べていないであろう文治の為に作った軽食をテーブルの上に置く。ふと、積みあがった段ボールが目に留まった。散乱した郵便物を整理しようと手を付け、目を見開く。
唯一封の切られた郵便物。そこから散乱した写真に葛彦は湧いてくる優越感と幸福に叫びたくなるのをグッと我慢し、この喜びを噛みしめる。
写真は葛彦が撮ったものだ。外に興味を持ってもらおうといろんな景色が写された紙を送っていた。他のものと同様、捨て置かれているだろうと思っていたが、文治は目を通していた。
堪らず文治を叩き起こす。
相変わらず、この世に興味が無いと言いたげな目をする文治に葛彦は上機嫌で話しかける。
「明後日の夏祭り一緒に行こ‼」
死にたがりの彼に生きてほしいのだ。自分の見ている景色を見てほしい。いや、彼の見ている世界を見たい。
壊しかけた
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「先生。結局その資料から何が解ったんですか?」
手元の資料とパソコンの画面を見比べていた采雨に台良は我慢できず訊ねる。
「……おかしな点」
「おかしな点って何ですか?」
采雨のパソコンの画面をのぞき込もうとする台良の為に説明する。
「この記録資料を見ると昭和60年から平成11年まで記録されているけど、実際は4年以降は記録がない。それに壁画についての記録はあるのに、象形文字に関して一切触れていない。記録だって定期的なのは初期だけでその後は不定期。内容もそれ程重要なものじゃないし」
「文字について何かわかると思ったんだけどなぁ……」
采雨はため息を吐く。ぺらぺらと紙をめくる台良に丁寧に扱うように注意する。
「これ不定期っていうか、抜き取って差し込んだみたいな感じですね。答えを映したのがバレないようにたまに間違う感じ。小学生がしそうな」
なんてあるわけないですけど、と笑う台良の言葉に采雨は自然と記録日の不自然な点を探す。台良の言う通り、不定期の様に見えた記録日に共通点を見つける。
「……記入者、橘内邦健」
よく知った資料館職員の名前がその欄に記入されていた。
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公園からブランコ特有のキーコキーコと金具の軋む音が夜の街に紛れ込む。
「からちゃん、調子どお?」
ブランコを漕ぐ6歳ぐらいの少女に男が声を掛ける。20代の男に気が付いた少女は驚く様子もなく、足を動かす。
「ぜーんぜんだめ。あしたにまにあわないよ……」
「あらら。今からでも探すの?」
少女の声は暗く沈んでいるが、諦めてはいないらしい。男はそれを察し、これからどうするのかを興味本位で訊ねる。少女はブランコから飛び降り、自身の爪を見ていた男の正面に立つ。目の前に少女の姿はなく、韓紅色の怪物が足踏みをしながら立っていた。
『ままはできたの。あとはぱぱのあたまだけなの。てつだってくれるよね』
有無を言わせない態度に男は微動だにせず気の抜けた返事をする。
「いつも手伝わされてるんですけどー……。はぁ、朝までね」
「やったー!」
男の返事に少女は飛び跳ねて喜んだ。
しがないサラリーマンの男は冷房の効いた電車から降りる。蒸されるような熱気に無意識に暑いなと漏らしていた。駅には明日の夏祭りのポスターが貼ってあり、そんな季節かと思うが自分には関係ないイベントにそこまで興味を引かれなかった。途中のコンビニでアイスでも買おうと考えながら夜道を歩く。切れかかった街灯が不気味に感じ、マンションに着くまで森のくまさんを口ずさみ恐怖を紛らわそうと試みた。
何事もなくマンション前の公園まで来たとき、目の前に少女が飛び出した。
「こんばんわ」
「こっ!? こんばんわ? えっとどうしたのかな? お母さんは?」
突然現れ挨拶をしてきた幼女に驚倒するが、すぐにこんな遅くに外にいる幼女が心配になり、親の有無を確認する。
「ままはいるよ。それよりおじさんいいひとだね」
「え? それよりきみのお母さんはどこかな? もしかして近くにいないならすぐそこのマンションの管理人さんの所に行こうか? ここよりきっと涼しいよ」
男はとりあえず管理人にまかせようと少女の手を取り、すぐそこのマンションへ向かう。少女は素直に付いてくる。公園にいる男の視線に事案だと思われていないか変に緊張してしまう。
突然少女が立ち止まった。
「あのね、おねがいがあるの」
「ぱぱになってほしいの」
「は?」
男が少女の言葉を理解する前に、首が飛んだ。
切り離された頭にとととと少女が駆け寄る。持ち上げた顔は鳩が豆鉄砲を食ったような表情のままで、面白かったのかくすくす笑いだした。
『おーい。はやく、切り口焼くから』
頭を男に渡すと、切り離された体からカラーエナジーを抜き取る。カラーエナジーが抜けると、男の体は瞬く間に木屑へと変わった。大事そうにカラーエナジーをしまう少女に男は何しているのと問う。
「いままででいちばんりそうのぱぱだったの。だからなかみはこれにする」
嬉しそうに笑う少女に男は興味なさそうに、で? と続ける。
「結局このおにいさんの顔は合いそうなの?」
「あわせてみないとわかんないよ! もっといろんなのがほしいし」
いきなり怒る少女を適当にあしらう。男はそれよりと少女の声に被せる。
「からちゃんがこんな事やってんの代表知ってんのかな」
「うぐ。……しらない。しったらおこる、ぜったい」
少女の声が小さくなる。男はさらに続ける。
「俺、明日代表と会うんだよね。こういうのって報告した方が」
「だめだめだめ‼ だいひょうにはいわないで! あまったからーえなじーあげるからぁ!」
人間を襲うこと嫌う代表が知ったらと考えるだけで、恐ろしさに震える。きっと口もきいてくれなくなる。頭が落ちないように抱えながら、同じリース領域の仲間に必死でお願いした。
一台のバイクがマンションの前に留まる。ヘルメットを外し周りをきょろきょろと見渡す男に少女は挨拶をした。
「こんにちわ」
「……こんにちわ」
突然現れた少女に一瞬顔を歪めるが、笑顔で挨拶を返す。
「きみここの住人さんかな? お母さんとお父さんは近くにいるのかい」
目線を合わせるように屈み安心させようとするが、少女は俯き首を横に振る。そっか、と頭を撫で泣かないようにと心掛ける。
「……おにいさんやさしいね」
「ありがとう。さっ、きみの両親が心配してるよ。探しに行こうか」
褒められたことに照れながら立ち上がり手を差し出す。足はマンションへと向かっていた。
少女が突然立ち止まる。自然と後ろを振り返る。
「あのね、ままはいるけど、ぱぱはいないの。だから」
ぱぱになって。そう言い切る前に男は少女を自身の後ろに引っ張り、正面の暗闇に向かって放つ。
「こんな時間にひとり……という訳じゃないみたいだね」
男、五十嵐夏来は首を狙った一撃を避け、紋章をベルトへと変化させる。
「変身」
夏来は緑の鎧に身を包むと槍を生み出した。
『マジかよ。貧乏くじ引いたー』
愚痴を零しながら攻撃を続ける真朱色のジャンクズを適当にあしらいながら、夏来は少女に逃げるようさけぶ。その様子にジャンクズは攻撃を受けながら笑った。
瞬間、夏来の持っていた槍に糸が巻き付き、強い力で引っ張られる。
『おにいさんだいひょうににててすきだったけど、しかたないね!』
夏来の後ろにいた少女は韓紅のジャンクズと変容し、襲い掛かった。
武器を引っ張られたことでバランスを崩しそうになるが踏み止まり、糸を放ってきた韓紅の方に槍を投げる。隙と見たのか跳びかかってきた真朱色のジャンクズの腕を掴み、韓紅の方へと投げ飛ばした。
重い金属同士がぶつかり、衝撃音が鳴り響く。
『いったぁ。からちゃん、逃げていい?』
『おっもいよ! でもおんなじことおもってた』
ひそひそと話すジャンクズ達を無視し、いつの間にか生み出していた剣の鍔にフィルターを差し込む。ガシャ、押し込まれる音が鳴り、剣身はガラスの様に透明になっていく。
夏来は真朱色のジャンクズに狙いを定めるが突然スチームを放出され、辺り一面が真っ白になる。
不意の攻撃に動揺するが、見えたジャンクズの体に剣を突き刺そうとした時、真横からの糸に気づかず、動きを止められた。
『あっぶなー。もう少しでやられるトコだった』
『じゃーねー。やさしいおにいさん』
男と少女の声がそう言うと、絡まった糸と全体を覆っていたスチームが消えていった。ジャンクズの姿はどこにもなく、夏来は倒し損ねたことにやるせない気持ちになる。
「2人いたのか。……女の子と、男か?」
少女の容姿と発言を思い出す。
ままはいるけど、ぱぱはいない。
気味の悪さと嫌な予感が駆け巡った。
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