つたない文章ですが、楽しんでもらえると幸いです。
「はやくっ!」
暗闇から逃れるように走る二人の男女の陰に、迫るもう一つの異様な形の陰。
女は震える男の手を取り、懸命に走る。
しかし、影は二人の人間を大きく飛び越え、その姿を現す。
黒い体に伸びる黄味がかったラインと腕にある銀色のはさみは、月の光を浴びて、鈍く光っている。
「こないで!」
女は男をかばいながら、後ずさる。
怪物は構わず鋭利な鋏を振り上げるが、動きが止まり、女の顔を見つめる。
『おまえ、じ』
何か言いかけたとき、女のカバンが怪物の顔面にぶち当たった。
唐突な反撃に怪物が面食らっている間に、男女は遠くへ逃げようとするが怪物はそれを許さない。
怪物の刃物が、男の背中を斬りつけ、血が飛散する。
男の意識が遠のく。
彼の耳に届いたのは、怪物の怯える声と女の謝罪だった。
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その中でも一段と輝きを放つ長い黒髪をまとめた女性、
ある程度の朝ラッシュを終えた後、美波は店の奥で作業していた二人に声をかける。
「おつかれー! 朝ラッシュ終了しました!」
「おう。おつかれ! いやーうちは美波のおかげで安泰だわー!」
ニシシと歯を見せて笑う高身長の男性、
「夏来。そっちはいいから、朝飯にするぞ」
高汐は奥で片付けをしていた青年に声をかける。
「はーい。今準備しますねー」
穏やかにそう返した青年、
「あ、私も手伝うよ」
そういうと、美波はそれぞれの茶碗にご飯をよそい、テーブルに運んでいく。
彰悟は、残った材料の端くれでおかずを作っており、大皿によそっていた。
三人が席に着くと「いただきます」と遅い朝食を取り始めた。
朝食後、身支度を整え始めた彰悟に美波は訝しげに尋ねる。
「どこか出かけるの?」
彰悟が店を出るのは、ほとんど配達か買い出しだけだ。しかし、まだ配達の時間ではないし、買い足す必要なものもない。何のためにという目に彰悟は苦笑いしながら答える。
「町内会の集会だよ。突然だけど、重要なことだから必ずって念の押しようだ。」
「ふーん」
「んじゃ、いってくっから。注文と配達よろしく。夏来にも伝えといて」
そう言い残して颯爽と店の裏口から出ていってしまった。
「……わかった。いってらっしゃい」
もうこの場にいない彰悟にそう返した。
突然の集会で出かけてしまった彰悟に代わり、夏来は隣町のオフィス街まで弁当を配達していた。残り一社となり、最後の目的地へ向かう。
「豪山研究所?ここのビルの隣にこんなのできてたのか」
久しぶりに来たお得意様の隣には、建てられてまだ新しそうな研究所が立っていた。白く清潔そうな外観だが、中の様子はほとんど見えず、怪しい雰囲気を醸し出していた。
近場に出来た新しい研究施設という響きは、夏来の好奇心をくすぐるには十分すぎた。正面からのぞき込むのは気が引けるのか、どうにかのぞけるポジションを見つけようと辺りをふらついていると、急に声を掛けられる。
「あれ、夏来君? こんな所でどうしたの? あ、配達かい?」
「へぁっ?! ぁ、は、はい、そうです。えっと、洪城さんは、そこの研究所にお勤めだったんですか?」
突然声を掛けられた夏来は奇声がでてしまい、恥ずかしさからかどんどん声が小さくなっていく。
声をかけてきた男、
「いやぁ、僕はここに、勤、めてる、のかな?」
うーん、と洪城が歯切れの悪そうに答える。
「あっ、もしかして詮索しちゃいけない、秘密結社的な……!?」
わかってしまった、という顔をした夏来に、ちょいちょいと洪城がつっこむ。
「そんなわけないでしょ。それに僕、一応警察官だよ」
美波ちゃんから聞いてなかったの、と頬を膨らまし怒る姿は夏来より年上とは思えないほど幼く見える。
「いっ! ……っぅ」
「え、ちょっ、大丈夫!?」
突然腹部を抑え、痛みをこらえるようする夏来に洪城は焦る。
「だ、大丈夫です。それより、洪城さん、すみません。まだ仕事があるので」
そう言い残し、駆け足で車の方に走っていった。
夏来がいなくなった後、洪城のスマートフォンがけたたましく鳴り響く。ディスプレイを見る洪城の顔が一瞬で険しいものになった。
「夏来君、大丈夫かな」
夏来が車で向かっていった方向を一瞥し、足早に研究所へと入っていった。
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場所は人気のない山の麓にある公園。管理がずさんなのか、雑草が地面を覆いつくし、公園唯一の遊具であろうカラフルなタイヤの遊具は色あせ、雑草にほとんど埋もれている。
そんな寂れた公園にそぐわない異物が一体。公園横に佇んでいた樹木から、メキメキと身体を出し終えた姿は、おぞましい形態をしていた。
全体的に浅紫色と灰色のボディに大小の歯車が噛み合っており、動くたびにぐるぐると回転している。
『、ヤク、アツメ、イト』
発し慣れていない言語なのだろう、途切れ途切れの片言で呟いた怪物の前に、立ちはだかる者がいた。
怪物の前に現れた男、五十嵐 夏来は、身体から黒い紋章を浮かび上がらせ、ベルトに変化させると一言呟く。
「変身」
掛け声と同時に手慣れた様子でフィルターを押し込むと、夏来の姿は黒のボディと緑の鎧へと変化した。顔部分は目から雄山羊のような角が後頭部まで伸びており、ベルトのバックル部分の五芒星は、緑に光を放っていた。
突然の夏来の登場に一瞬呆気にとられるが、怪物は躊躇うことなく腕部分の鋭いギアを夏来に向かって振り上げながら突進してくる。
怪物が繰り出した攻撃は、身体に当たる前に夏来が持っていた黒い枝に阻まれる。
ガンッ!
と鈍い音が響くと枝は屑となり、かわりに銀の剣に変様した。
『ナンナ、ダ! オマエハ!』
怪物はたじろきながら疑問を投げかけるが、夏来はそれに答えることなく、怪物の腕を払いのけ、剣を振りかざし続ける。
ぐぐもった悲鳴は響くことなく、怪物への攻撃で起きる衝撃音でかき消される。
怪物はダメージを受け続け、攻撃どころではなくなっている。
「そろそろ終わりにさせてもらう」
そういうと、バックルからフィルターを取り出し、徐に鍔部分に差し込む。
ガシャッ
押し込んだ音が無情に響く。
すると、剣身の中央、樋の部分がガラスの様に透明になっていく。
剣が変様したことを確認した夏来は、半身になり重心を低くする。
剣を持った右腕は垂直に引かれ、切先は怪物を捉えている。
『ァダ、キエタク、ナイ!!』
所々黒く変色し、崩れかかっている浅紫は、立つことがやっとのようで左右にふらついている。
夏来は狙いを定めながら力を溜め、ギアのない箇所に力強く、突き刺す。
『ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ ァ ァ』
怪物は断末魔を上げるが、剣に紫色が溜まっていくにつれ、声は無くなり、黒い木屑だけが辺りに散らばった。
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「ジャンクズによる干渉反応、収まりました」
モニターを見ていた研究員がすかさず報告する。
「場所特定できたー?」
酷い癖毛の男が、間髪いれず問い掛ける。
「まだですが、おそらく桜宮か日鏡の山麓かと思われます」
隣に座っていた研究員がモニターから視線を外さずに返答する。
「さすがだぞー」
部下の優秀さに満足げな顔で、正面にあるモニターを眺める。
「しかし、また驚異的な速さで消えたな」
「今回は30分も経たないうちにおさまりましたからね」
「……これってやっぱり」
研究員の一人がうっとりした顔で両手を組む。
周りの数人がおいおいという表情で見ているが、ギロリと睨まれ、すぐさま自身の作業に戻っていった。
「でも、その可能性が高いのは事実なんだよねぇ」
報告されたデータをまとめながら、先程の話にポツリと相槌を打つ。
「え! 豪山先生もですか」
これですか! と両手を組むポーズをしてみせる。
先生と呼ばれた癖毛の男、
「何者かがジャンクズと戦っているのは確かだ。どんな理由、原理なのかわからんが、被害者数も減っているし、何より、うちの台良君が証人だしな」
「まーた、それですか。」
この親ばか―、と周りから声が上がる。
先程までの張りつめた空気は、今はすっかり和んでいた。
バンッ!!
突然ドアを乱暴に開け入ってきた研究員に、驚きと緊張感が走り、部屋の空気が一瞬で変わる。
急いで来たのだろう、ある程度息を整え、口にする。
「REシステムベルト、完成しました!」
浅紫のジャンクズ(ねじ)
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