仮面ライダーブレス   作:ぴな子

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4.

 会社や学校が休みのため、客が減る土曜日の朝。

 部活の学生や曜日関係のない仕事の社会人が弁当屋ふるぁっとで弁当を購入し、口々に尋ねる。

「今日は美波ちゃんじゃないんだ」

 それに少しだけ苦笑いする夏来は、そっと耳打ちする。

「……でも今日の弁当のおかず、美波が何個か作ったんですよ」

 レアですよ、まるで秘密事の様に夏来が小声で話すと、客は嬉しそうに出勤していく。そんな客の背にいってらっしゃいと声を掛け、夏来は洪城が来るのを待った。

 

 

 散らばった商品を整理していると、来客を知らせるチャイムがなる。

「おはようございます……?」

 いつもの挨拶の語尾に疑問符をつける洪城に、夏来は挨拶を返す。

「おはようございます」

「美波ちゃんじゃないなんて珍しいね」

 少し残念そうな声色でから揚げ弁当を選ぶ。夏来は自分が予想していた通りの反応にひっそりと笑った。

 

「490円です。はい、ぴったりお預かりします」

 会計を済ませ、夏来は洪城に話しかける。

「洪城さんって、警察官でしたよね」

「そうだよ。……もしかして何かあった?」

 警察官という立場上何かと頼られることがある洪城は、夏来が相談事をしてくると感じ、身を乗り出す。

「ちょっと訊きたいことがあるんですけど、別に今すぐじゃなくて……空いてる日とか……」

 洪城の食いつきの良さに若干引き気味で返す。

「それじゃお言葉に甘えて、後で連絡していいかい?」

「大丈夫です、はい」

 洪城は夏来と互いの連絡先を交換し、店を後にした。

 

 

 珍しく店の奥の厨房にいた美波が顔を出す。

「夏来、今誰としゃべってたの」

「洪城さんだよ。美波も知ってるだろ」

 夏来が名前を出すと面白くなさそうに顔を曇らす。

 そんな様子に慣れている夏来は構わず続ける。

「いつも来てくれてるだろ、客の顔とか名前ぐらい覚えろよ」

「……知らない。興味ないし」

 美波は客の来店と共に、もういいと奥に引っ込んでしまった。

 

 

 壁にかかった時計の針が9時を過ぎたころ、そろそろご飯にしようと彰悟が声を掛ける。

 テーブルには既に朝食が並び、中央に置かれた大皿には煮物がよそってあり、ご飯、大根とじゃがいもの味噌汁からは湯気が立っている。いただきます、と言った後、夏来と美波は無言でそれらを口に運んだ。

 そんな様子に彰悟が気まずそうに2人に目を彷徨わせた。

「ちょ、ちょっと、どうした? 美波になんか言われたか?」

「何も言ってない」

 彰悟の言葉を即座に否定する。

「私は夏来がおしゃべりしてたから注意しただけでーす」

「はぁ!? ちょっとじゃん。他のお客さんだっていなかったし」

 2人の言い合いに彰悟は頭を掻いた。事態を落ち着かせるようにまあまあと宥める動きをする。

「わかった、わかった。お客さんとコミュニケーション取るのも大事なのはわかるし、美波が注意したのもわかる。はい、おしまい」

 無理矢理話をまとめた彰悟は、正面に座っている美波に笑いかける。彰悟の顔に美波の不機嫌そうな雰囲気が和らいでいく。その様子に腹を立てていたのが馬鹿らしくなった夏来は、肺に入っていた空気を全て吐き出すように呼吸をした。

 

 

 流し台でさっきまで使っていた食器を洗う夏来に彰悟は声を掛ける。夏来は来るのが分かっていた様子で視線だけを寄こす。

「お前なんか言ったんだろ」

「俺はただ客の顔とか名前ぐらい覚えろって……」

 夏来の言葉に彰悟は困ったように眉を下げる。

「人には向き不向きがあるもんだ。……十数年一緒にいるんだ、美波のこと知ってるだろ」

「そうやって甘やかすから、他人に目がいかないんだ」

 よくないと主張する夏来に相変わらず困った表情で夏来の頭をかき回す。ぼさぼさになる髪の毛に構うことなく、目線は常に流し場に向いていた。

 

 美波は実親に捨てられ、現在の家の主、いとこの高汐彰悟の父、義信(よしのぶ)に引き取られた過去を持つ。そのことがトラウマなのか引き取られた当時から居た夏来と彰悟以外との交友を極端に嫌う。外面がいい分何とか孤立せずにいられたが、どんどん家族に依存していく美波に夏来は複雑な気持ちだった。

 

「お前の気持ちもわかるけど、こればっかりは時間の問題だと思うぞ」

 言い聞かせるように呟いた彰悟は終始困り顔だった。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 警察署内の対策室で洪城は鼻歌を歌いだしそうなほど上機嫌で仕事に取り組んでいた。

 同じ室内にいた塚地と柿原は何事かと顔を見合わせる。柿原は塚地に何かあったか訊いてこいと尻を叩いた。塚地は洪城の様子にピンとくるものがあったのか、あれは……と囁く。

「多分誰かに褒められたか、頼られるとああなるんですよ」

 警視庁にいたときは市民と直接関わるような業務ではなかった洪城にとって、そういうことで舞い上がってしまうことを大学時代からの付き合いだった塚地は察することが出来た。

「あいつ、大丈夫か……」

 いちいち感情が出る洪城に柿原は呆れたように見やる。洪城は視線に気づくことなく業務をこなしていた。

 

 

 2人分のコーヒーを入れた洪城は自分以外のデスクにそれを置いていく。自身の分のコーヒーを用意しない洪城に塚地は飲まないのかと声を掛ける。それに洪城はそろそろ上がるからいいと返した。

「そういや、なんか機嫌良いけどどうした」

 わかりきった答えだが、一応訊いてみる。

「いつも弁当買ってるとこの子に相談したいっていわれちゃって~」

 朝からずっと上機嫌のままでいる洪城は嬉しそうに話す。

「ああ、お前が言ってた可愛い子がいるとこ?」

「まあ美波ちゃんじゃないけどね」

 お先に失礼します、と柿原に言うと部屋を出ていった。

 

 

「あいつ、意外とちゃっかりしてんじゃないか?」

 黙って聞いていた柿原がニヤリと笑い、誰でもない塚地へと話しかける。

「え?」

「洪城あいつ外堀から埋めていこうって魂胆だろ? 見かけによらず頭使えるじゃねぇか」

 柿原の言葉に呆気に取られるが、ブッと吹き出す。笑いをこらえようとするがなかなかできず肩を震わせる。ようやく落ち着いたのか、塚地が声を震わせ柿原に言葉を返す。

「あいつそこまで考えてませんよ。まじで頼られて浮かれてるだけですって」

 長い付き合いの塚地にこう言われている洪城に、柿原は洪城の印象の1つに阿保を付け加えた。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 スーパーからの帰り、買い物袋を持った男性は最近できた共通の趣味を持つ友人と駄弁りながら、決して遠くはない帰路を歩く。夏が近づいているのだろう、まだ沈まない太陽は確実に男性らを暑さに導いていた。

 

 歩道に佇んでいる街路樹の影で日を避けながら、次の影、また次の影へと渡っていく。

 ふと、隣で同じように歩いていた友人が足を止める。男性は怪訝な表情で友人を見ると、友人の眼が自分ではなく、まっすぐ前を見据えていた。つられるように前を向く。

 

 数本先の街路樹からナニカが出て来ようとしている。

 

 先程まで嫌というほど聞こえていた車が走る音が消え、男性の耳には異物は街路樹から出て来ようとする、メキメキ、バリ、ガリ、と不快な雑音しか届いてこない。さっきまでの暑さは嘘のように消え失せ、身体の芯まで冷え切っていた。

 

 目の前で起こっている非現実な光景に呆然と立ち尽くす。

 

 街路樹から出てきた灰色と卵色が混じった物体は10代の青少年へと変貌する。自分の体を確かめる様に首を回し、手を握り、感触を楽しんでいた。

 

 バチリと目が合う。

 

 青少年はニコッと男性に笑いかけるが、その笑みは不気味な異様さが滲み出ていた。

 青少年は男性にゆっくりと近づく。目をうばわれていた男性はやっとの思いで後ずさる。

 

 男性に近づく青少年は後ろにもう一人いることに気づき、そちらにも目をやると動きを止めた。

 

「まじかよ。先客いるなんてきいてねぇよ」

 

 何か呟くが男性の耳には入らない。それどころか、ゆっくりだった歩みが速くなっていくことに怖気づく。

 

「ま、関係ないけど。……早い者勝ちって言葉、知ってる?!』

 

 近づいていた青少年は怪物へと変わり、男性に向かって腕を振り上げる。

 

「逃げるぞ」

 今まで黙っていた友人が襟を引っ張り、引き寄せる。それを合図に男性は足を動かし、友人に腕を引かれる形でジャンクズから逃げ出した。

 

 男性は目の前で自分の腕を引き走っている友人に違和感どころか頼もしさを感じていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「ジャンクズの正確な位置、特定できました」

「台良君に詳しい位置情報を伝送してくれ」

 モニタールームでは研究員達が忙しなく動いていた。

 

 日々精度が上がる装置達を前に博雪はただ祈るしかできない。

 

 自分たちが造りだしたシステムがジャンクズに対抗することを。

 

 樹環市で起こるジャンクズによる失踪事件が無くなることを。

 

 

 

 

 

 

 台良はプロフォンに送られてきたジャンクズの情報に目を通すと、停車していたバイクに再びまたがり発進させた。男性がいた大通りからの小道、住宅がぽつりぽつりと立ち並ぶ場所に向かって。

 

 

 

 

 

 先程より少し移動した場所でジャンクズに襲われている男性2人を見つけた台良は、迷わずジャンクズにバイクを衝突させる。よろめいた隙に男性2人に大通りに逃げるよう指示すると、自分にヘイトを向けるようもう一度ぶち当てた。

 

『て、てめぇ……‼』

 ジャンクズはよろめき、台良を睨みつける。バイクによる外傷は卵色のナニカが湧き出し塞いでいく。見る見る内に最初の姿へと戻っていく。

 

 その様子に台良は、あれがカラーエナジーかと納得する。

 

 台良はREシステムベルトを腰に巻くとプロフォンのアイコンをタッチし、画面をベルトへとかざす。

 

《 SANCTION 》

 

 無機質な音声が発せられる。

 

「俺の相手をしてもらうぞ。」

 

「変身!」

 

 同時にシルバーを下げると台良の体に青いラインが伸び、銀の鎧につつまれた。

 

 台良を包んだ鎧、仮面ライダーレックは、ジャンクズと初めて対面した。

 

 台良はもう一度プロフォンを操作し、ベルトへとかざす。

 

《 INPUT 》

 

 音声とともにビートガンが転送され、台良はそれを受け取る。

 バイクを2度もぶつけられ頭にきているだろうジャンクズは、台良の狙い通りこちらに向かって走ってくる。もう先程まで追いかけ回していた人間のことなど頭から抜けたのだろう、怒りで目の前にいる自分を不快にさせた者しか見えていない。

 

 台良は向かってくるジャンクズに向けて銃を撃つ。しかし、右腕の鋭い針に全て弾かれる。

「……チッ。それじゃ」

 空いた片手でプロフォンを操作すると音声が流れ、2つ目のビートガンが転送される。

 片方の照準は右肩へ、もう片方の照準は右脚へと定める。

『何度撃っても同じだ!』

 ジャンクズは次の攻撃に構え右腕を突き出すと同時に台良は銃を放つ。

 それぞれ違う箇所を狙う弾丸に咄嗟に右脚の方を弾く。そのため右肩に命中し、反動で少し吹き飛んだ。

 

 銃による傷口を塞ごうと溢れるカラーエナジーは傷に着くや否や蒸発した様に煙を上げる。

『う゛あ゛あ ぁ……』

 ジャンクズはうめき声を上げるが、すぐさま台良へと右腕を振り上げ、針を突き刺す。

 それを避けると、ジャンクズへ弾丸を撃ちこむ。

 

『 《 はえろ 》 !!』

 叫ぶと左腕の何かを挟むような出来た空洞だった場所に銃のようなものが生えてゆく。

 台良に避けられた地面に針が突き刺さる。

「もらった!」

 ほぼ固定された相手に台良は叫び、銃を撃つ。

 しかし、ジャンクズは突き刺した針を軸に右足で台良の手に蹴りを入れ、銃を1つ弾くと、腕が反動で上がりがら空きになった個所を思い切り蹴り飛ばす。

「っぐ!!」

 咄嗟にもう1つの腕で受け身を取るが、蹴られた個所と右腕に鈍い痛みが広がる。

『っい゛、くそがっ!』

 ジャンクズも直前に撃たれた所と体重のかかった右肩の痛みで立っているのがやっとだった。

 

 あまりの痛みにふと気が付く。

『……こいつと殺り合ってどうする。そうだ、あの人間はっ!?』

 ジャンクズは思い出したように辺りを見渡すが、既に避難を終えた男性の姿はいるはずもない。

『あ゛あ゛あ゛!! くそがっ!』

 このままでは意味のなくカラーエナジーを消費してしまうと考えたジャンクズは、台良に向かい左腕の銃を発砲する。台良はそれが当たらないように避け、発砲し返すが、ジャンクズも同じく針で弾き、台良に向かって叫ぶ。

『てめぇに構っている暇なんてねぇ! 命拾いしたなガキ!』

「おい! まて!」

 ジャンクズは銃を台良が近づけないよう撃ち続ける。

 

 銃声が止んだころにはそこにジャンクズの姿はなく、台良ただ1人がいるだけだった。

 

 

 変身を解くと、台良は自分の不甲斐なさに座り込んだ。

 油断して相手の攻撃にまんまと引っかかったこと、絶命させることなく逃がしてしまった自分自身に怒りを感じた。

 

「報告しないと……」

 REシステムベルトに付いているカメラで見ていたであろう豪山に一応報告を入れる。

 申し訳ない気持ちで電話を掛けた。

「すみませ」

「台良君!! 大丈夫かい!!」

 謝罪を遮った豪山の大声にプロフォンを耳から離す。

「俺は大丈夫ですけど、ジャンクズ取り逃しました……」

 台良は自分の声が想像以上に沈んでいることに気が付く。電話口の豪山も気づき、台良に言い聞かせる。

「初戦闘であそこまで追い詰めたのはすごいことだ、恐怖に打ち勝ったのだからね。それに次はしっかり討てるようにすればいい」

「はい……!」

 そうだ、こんなところでいじけていられない! 台良は気持ちを切り替えるように頬を叩いた。

「次の為に今することは今日の傷を癒すことだ。早く帰っておいで、那賀野(ながの)先生が医務室で君を待ってる」

「わかりました。ありがとうございます」

 通話を切るとバイクを途中まで押していく。

 

「よし!」

 気合を入れる様に声を出し、何やってるんだ俺と笑った。

 角を曲がると自販機前でバイクにまたがった黒髪の青年と目が合う。気まずそうに視線を自身が買ったであろう缶コーヒーに逸らされた。

 聞かれた。

 台良は自身の顔、耳まで赤くなっていくのを感じた。通り過ぎるとき会釈すると返してくれる律義さに何とも言えない気持ちになる。大通りに出るまでの短い間に台良は背中に視線を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 台良の後ろ姿を見つめていた青年、夏来は考えを巡らせていた。

 また、知らない人が登場してきた。しかも自分とは全く違うがジャンクズと戦える何かに身を包んでいた。洪城と同じ武器を持っていたから、仲間なのだろう。

 夏来は現状を整理しているなか、あることに気づく。

 自分は彼らにとってどのような認識をされているのだろう。

「もし、一緒に戦うことがあるなら、全力で味方アピールするべき?」

 夏来の呟きは台良と違い、誰にも聞こえることなく薄れていった。

 

 

 

 

 

 




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