仮面ライダーブレス   作:ぴな子

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5.

 

 

 一寸先も見えぬ闇。

 辺りは静寂に包まれ、風さえも感じることはできない。

 

 ただ暗闇が広がる空間に突如床に緑色の小さな灯りがともる。辺りが少しだけ照らされた。

 木の椅子が置いてあり、それが引かれる音が響いた。

 

 ぽつり、また一つ灯りが現れる。紫色の灯りに照らされ、1人の女性が椅子に座り足を組んでいることがわかる。まだ闇が居座り続け、顔は陰によって隠れている。

 

 赤色の灯りがともると同時に青年が灯りの方に向かって声を発する。3つ目の灯りで暗闇が薄れ、大小姿形が違う椅子が不規則に置いてある空間が露になる。アンティーク調の椅子に座っている50代程のスーツを着込んだ男性は、目を閉じ待ちの姿勢を取っている。20代に見える女性も脚の長いスツールに座っている。目線は青年の方を向いていた。

 

「相変わらず早いね、ギブアとフィロの代表は」

 返事に期待していない発言に女性は笑って男性の方をちらりと見る。

「だって、新しいギブアの代表にあうのですもの。ま、見知った顔ですけど」

 女性は眼を細める。ギブア代表と呼ばれた男性は微動だにせず、沈黙を守っている。その様子に変わらないものを感じ、表情を緩める。残りを待つため、シンプルなデザインの椅子に座った。

 

 黄色い灯りと椅子の軋む音と共にガラの悪い青年が現れる。

 文句が飛んでくると思ったのだろう青年は、自分に関心が向かず何も言われないことに、不機嫌な顔になった。

 

 一段と大きい青い灯り、最後の1人が現れる。5つの灯りが暗闇を隅へ追いやった。

 青い青年は特に悪びれず、ひと際大きい椅子に我が物顔で座った。

 

「さて、遅刻常習犯のバトリの代表も来たことだし」

 紫の女性、フィロ代表は沈着な態度で口を開く。

「集まってもらったのは外でもない、マリ=エゴィウ゛のことでよ」

 

 

 

 

 

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 その後洪城から連絡をもらった夏来は自然運動公園へと来ていた。陸上競技場や体育館、テニスコート等のスポーツ施設エリア、四季の花や木々に囲まれた広場、アスレチック等の自然エリア、他にも多くの施設が集まった自然運動公園には祝日もあってか、たくさんの利用者でにぎわっていた。

 比較的人が少なく、涼しい場所である、噴水前でダンスを踊るグループや演奏の練習をしている学生を夏来は自分と同じように日陰で休んでいる人々と眺めていた。

 

 近場の駐車場から洪城が缶コーヒーを持って、夏来の元へ駆け寄る。声を掛けられた夏来は洪城から缶コーヒーを受け取り、ありがとうございます、と礼を言った。

「ごめんね、こっちに合わせてもらって」

「こちらこそすみません。……今日も仕事だったんですね」

 洪城の服装はいつもと同じスーツを身に着けていた。洪城は申し訳なさそうに笑い、再度謝罪する。

「急に入っちゃって、この場所だったら多分大丈夫だから」

 独り言のように呟かれた言葉に夏来は何のことかわからず呆けた顔になるが、洪城の時間を無駄に消費しないように、質問を投げかける。

 

「洪城さんは知ってると思うんですけど、この地域って失踪が多いんです。昔から」

「! ゴッ、ゲホ、……う、うん」

 洪城はまさか夏来の口から失踪について話されるとは思いもよらず、口に含んだコーヒーが気管に入り、力強く咳込んだ。町の治安とかもっと身近な出来事の相談だと思っていたのだ。ぎょっとする夏来に洪城は続きを促す。

「それで2年前に俺の彼女、失踪してるんですよ」

 夏来の表情は店では見たことのない暗い表情をしていた。

「警察って、失踪について何か取り組んでいますよね? 戻ってきた人とかいるんですか」

 縋るような発言をするわりに諦めた表情の夏来に洪城は戸惑った。

「僕たちもこれ以上の被害が出ないように取り組んでいる。……残念なことだけどここ2年で失踪事件は増えている。そして、失踪者が戻ってきた事例は1つもないんだ」

 慰めの言葉もなく洪城は事実だけを口にする。噴水前の2人の空間だけ重い空気が流れる。近くで流れる音楽がやけに遠く感じた。

 

 夏来は慌てたように沈黙を破った。

「えっと、こんなこと訊くつもりじゃなかったんです。ほんとは変な怪物について訊きたかったんです」

「‼ もしかして襲われたのかい!」

「い、いや、み、目撃しただけです」

 形相を変え、肩をゆする洪城に怖気づく。よかったと呟く洪城に夏来は確信めいた疑問をぶつける。

「その怪物って、失踪者と何か関係あるんですよね」

 洪城はわかりやすく肩を揺らすと、少し悩んでから、その通りだと夏来の疑問を肯定する。

「僕たちは怪物のことをジャンクズって呼んでいて、失踪者はジャンクズに襲われた被害者の可能性が高い」

「つらい気持ちはわかるけど、被害者が戻ってくる可能性はほぼ無いんだ」

 夏来は唇を噛みしめる。そうですか、と呟く夏来の声は急速に乾いたように掠れていた。

 

 

 

 

 

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 男は悩んでいた。

 どうすれば誰にも邪魔されずに自分のものだけにできるか。

 

 強制集会は本当につまらなく、くだらない内容だった。男は自分には関係ないと思い聞き流していたが、何か悩んでいるのかと、集会後に話しかけられた。

 普段だったら無視をしているだろうが、相手が相手だけにそれはできなかった。

「別にあなたが気にすることじゃない」

「お前の意見は聞いてないよ。ねえ悩んでるんでしょ、聞かせてよ、退屈なんだ」

「相変わらず厚かましいな、代表様は」

 軽い口調だが男の口は忌々しげに歪んでいた。そんな男に代表と呼ばれた青年はげらげらと品もなく笑う。周りの数人は面白そうに2人のやり取りを観察している。思わず舌打ちが出た男は、仕方なく1人の人間について話しだす。話している間の男の様子は、苛立っていた事が嘘のように恍惚とした表情でどれだけ自分があの人間を想っているかという内容だったが突如憎悪に満ちた形相で最近その人間を襲った同族を批難した。

 話を聞いた青年はニヤァと口元を歪め、男に囁く。

「それじゃあ、取られる前に自分のものにすればいいんだよ。今は忌々しい同族に手を出しちゃいけないって決まっちゃったから、それしかないって」

 男は頷かず、睨みつけている。言いたいことを理解していない青年に対し男は苛立っていた。青年は更に笑みを深め、顔を近づける。

「お前がこうやってぐずぐずしている間に人間ってのは勝手に死んでいくんだよ? お前は与えられたんだよ、チャンスを」

 

「俺達の本質を忘れるな」

 

 青年に男は言い返せなかった。青年の言葉は紛れもなく真実だったからだ。意を決したように去っていく男の後ろ姿に声を掛ける。

「カラーエナジーの6割は回収するからー」

 忘れないで―、無邪気に笑ってそう叫ぶとおもしろかったーと消えていった。

 

 

 

 

 

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 自然運動公園の自然エリア、草原の広場の隅にあるベンチで男2人は雑談をしていた。1人は先日ジャンクズに襲われた男性、もう1人はその時居合わせた友人である。男性は家族と一緒に訪れており、少し離れた所で母親と娘がボール遊びをしている。友人と会ったのは偶然だった。

 友人は時折周りを警戒するように見渡し、男性はもう大丈夫と安心させるよう和める。娘が父親に向かって手を振ってくるのに返しながら、男性は過ぎ去った脅威に安堵し、平穏を噛みしめていた。

 

 

 

 ジャンクズに襲われた男性に再び接触があるはずと、塚地は洪城と交互で広場全体が見える、丘の喫茶店で男性の周辺を監視していた。先日確認されたジャンクズの人間態と一致する人物の撲滅の為に設置した監視カメラと肉眼で警戒していたが、一向に姿を現さない人間態、豪山からの干渉反応の連絡もなく、今日もかぁと塚地は体を伸ばす。アタッシュケース型のモニターから警報が鳴ることはなかった。

 

 

 

 男は青年から言われた言葉が耳から離れずにいた。人間ってのは勝手に死んでいく、隣で楽しそうに子供を見守っているこの人間も例外ではない。明日、いや今日の帰りにでも死んでしまうかもしれない、そう考えると、男はある筈もない血が引いていく感覚に陥った。隣で急に黙り込んだ男を男性は大丈夫かと見てくる。

 男の視界は納戸色に染まっていた。

 

 

 

 

 

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 夏来は鈍い痛みを感じ、洪城に適当な理由を告げ別れる。近くのどこかでジャンクズが出てきたはずと、夏来は自然エリアにあたりをつける。整備されておらず、人のいない場所から出現すると思い、人気のない場所を周っていた。

「きゃあああああああああ‼」

 広場から女性の甲高い悲鳴が聴こえ、それを下に悲鳴の波紋が広がる。弾かれるように逃げ出す人の流れに逆らい、夏来は広場へと向かう。

 

 広場には女の子とその母親だけが取り残されていた。母親は恐怖で腰を抜かしてしまい、子供を庇うように抱きしめている。目の前で自分の夫が消滅したことに只々涙を流していた。

「パパ! パパ!」

 母親の腕の中で女の子は青いジャンクズ、いやベンチに積もった木屑に向かって泣き喚く。

 ジャンクズはそんな光景を気に留めず、色を吸い込んだ箇所を愛おしそうに撫でていた。

 

 夏来は間に合わず犠牲者が出たことに唖然とするが、自分を奮い立たせ、身体の紋章をベルトへ変化させる。

「変身!」

 フィルターを押し込み、緑の鎧に身を包むと、ジャンクズへと殴り掛かった。

 

 

 

 

「うわあああああ‼」

 自然エリアの方から悲鳴を上げ逃げてくる人々に、辺りは騒然となる。同時に洪城に塚地から連絡が入る。電話口の塚地の声はかなり焦っており、息が上がっていた。

「塚地どうした」

「ジャンクズだ! それもこの前とは別個体、青いやつだ」

「対象は」

「っ、すまない」

「! わかった、そっちに向かう!」

 自然エリアから逃げてきた人に落ち着くように声を張り上げながら、銃を装備し、ジャンクズの所へ走った。

 

 

 

 

 塚地が駆けつけた時には親子の姿しかなく、ジャンクズはどこにもいなかった。しかし、地面がえぐれた跡、木が数本大破した無惨な現場には、確かに何かが起こったことが明白だった。塚地は残っていた母親にどんな状況だったのか、落ち着かせる為にも手帳を見せ、優しく問いかける。

「大丈夫ですか。落ち着いて、何があったのか聞かせてください」

「わ、わたし、私の夫がっ、かいぶ、っ襲われて、木になってっ」

 しゃっくりを上げ、単語を並べる母親に深呼吸するように奨めると少し落ち着きを取り戻し、塚地に怪物が夫を襲い木にしてしまったと説明した。

 

「それで、ジャン、いえ怪物はどこに」

「……緑色の怪物? に殴られて、あっちに」

 母親はそう言うと破壊の激しい場所のその先を指さす。タイミングよく洪城が駆けつける。

「ありがとうございます。……洪城、この親子を頼む」

「塚地お前はどうするんだ」

「俺はジャンクズを追う。緑の戦士もいるらしい。なにかわかるかもしれない」

「わかった。連れて行ったら、僕も後を追う」

 塚地は洪城達と別れ、ジャンクズが進んだ方向へ走った。

 

 

 

 

 

 塚地が向かっていった後、洪城は親子と比較的安全と思われる宿泊施設や飲食店のある方の道を進んでいた。騒動もあってか人がほぼいない道は、かんかんと照り付ける太陽は葉や枝で隠れ、木のさざめく音、鳥の鳴き声すらさっきの出来事もあって不気味に感じさせた。

 

 塚地から預かっていたアタッシュケースから突如警報がけたたましく鳴り響く。驚き怯える親子に洪城は落ち着いて自分から離れないように指示すると、ケースを開きモニターを確認する。

 モニターには本来自分たちが探していたジャンクズの人間態が映し出されていた。嫌な予感がし、冷たくなった指でジャンクズと自分たちの現在地を確認する。近くではないが確実に近づいてくる脅威に息をのむ。

 洪城のプロフォンに豪山から電話がかかってくる。親子を不安にさせないよう一呼吸入れ、自分を落ち着かせてから対応した。

「洪城君、気づいていると思うが先日のジャンクズがそっちに出現した」

「はい、モニターで位置確認できています」

「台良君にそっちを対応するよう伝えるがこのまま進めば確実に出くわすだろう。狙いは被害者の子供だ。なんとか回避してくれ」

「了解です」

 豪山との通話を終え、親子に今の状況を説明する。

 

 子供の手を握る母親の手に力が入っていく。痛いと漏らす子供を抱きしめる母親に、洪城は道ではない所を通ると伝え、ついてくるように指示すると舗装されていない草木が生い茂る方へと案内した。

 

 

 

 

 

 

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 夏来は怒りに身を任せ、ジャンクズに殴り掛かっていた。何発か避けられ、木に拳がのめり込む。煙を上げ熱の帯びた拳を引き、ジャンクズと再び向かい合う。横で殴られた木が叫びを上げ崩れていった。

 

 ジャンクズは一部を守るばかりで夏来との戦闘に集中していなかった。納戸色の箇所は揺れる様に色づき、ジャンクズはその度愛おしそうにさする。

 何度目かの攻防で冷静さを取り戻した夏来は、槍を生み出し構える。

 

『嫉妬とは醜いよ。君もこの男を狙っていたのなら、さっさと別れを決意するべきだったね!』

 ジャンクズは嘲笑い、勝ち誇った態度で正面に居座る。

「どういう意味だ」

 ジャンクズ目掛け槍を投げつけるが、丸い刃によって全て切断されてしまう。夏来の攻撃にいけないなぁと零すと夏来に向かって刃を立てる。首を狙った攻撃を避けると、再び槍を生み出し距離を取る。

『もう彼は俺の一部なんだ。俺だけの……‼』

 我慢できないと笑い声を上げるジャンクズに夏来は理解できないと絶句する。

 

 

『君も彼の色が欲しかったんだろ。……それじゃ彼の力で消えてもらおうか!』

 

 

 

 

 

 

 




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